ダンピングを備えるアイソレータ
ハブと、瞬間的な回転運動に対してブッシュを介してハブに摩擦係合するプーリとを備え、ブッシュとハブが摩擦係数を有し、更にトルクを伝達するためにプーリとハブの間に係合される弾性部材と、ハブにプーリを固定するための固定部材とを備えるアイソレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブとプーリの間の振動を減衰させるための摩擦減衰機構を備えるアイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン補機ベルト伝動装置におけるアイソレータは、オルタネータのロータに取り付けられたハブとプーリの間に弾性部材を適用することで振動絶縁機能を提供する。プーリとハブが連結されていることから、これら2つの部材間の相対運動は制限される。弾性部材の剛性は、ベルト伝動システムの1次モードの振動がアイドリングにおけるエンジンの点火周波数よりも低くなるように選択される。したがって、アイドリングにおいてアイソレータは、プーリの振動を弱め、ロータに対するプーリの影響を低減する。ロータの振動が抑えられることから、プーリから要求される伝達トルクはより低くなり、それによって最大ベルト張力が低減される。その結果、テンショナスパンが強く引張されてテンショナアームを動かし、ベルト移動方向においてオルタネータよりも前にあるベルトスパンを緩ませる可能性は低くなる。これにより、ベルトのかん高いノイズが発生する可能性を低減する。アイソレータは、エンジンの通常の運転では効果的であるが、始動時および停止時には限定された機能しか持たない。これは始動時および停止時に、システムが共振点を通過することによる。
【0003】
この問題に対処するために、一方向クラッチの特性をデカプラが提供している。エンジン始動時および運転時におけるクランクシャフトプーリの加速において、プーリとハブは相互にロックされ、装置は一体的な(ソリッド)プーリとして動作する。しかし、減速時には、ハブはプーリを追い越して、すなわち「オーバーラン」状態で回転することができる。これは、ロータの慣性がテンショナスパンに高い張力を発生することを防止し、それによりベルトのスリップ音の発生を回避することから有用である。デカプラは、装置が実際にオーバーランするまでに僅かなトルクを発生し得る。オーバーランモードにおいてプーリとハブの間は連結されていないので、プーリは制限されることなく回転できる。デカプラはエンジン始動時および停止時には上手く機能するが、エンジン運転中はそれ程でもない。
【0004】
この技術の代表は、米国特許第5,139,463号明細書であり、これは駆動されるアセンブリ列に、オルタネータアセンブリが含まれる自動車用多軸掛けベルト伝動システムを開示し、オルタネータアセンブリは、ハウジングと電機子軸周りに回転するようにハウジング内に搭載された電機子組立体を備えている。ハブ構造は、電機子軸の周りに電機子組立体とともに回転するように電機子組立体によってハウジングの外側へ向けて保持される。コイルバネは、多軸掛けベルトによって駆動されるオルタネータプーリの回転運動をハブ構造に伝達するためにオルタネータプーリとハブ構造の間に協働的な関係で配置され、それによって電機子組立体をオルタネータプーリと同じ方向に回転するとともに、オルタネータプーリが従動されて回転運動する間、オルタネータプーリとは逆向きの瞬間的な相対弾性回転運動を可能にする。
【0005】
必要とされているのは、ハブとプーリの間の振動を減衰させる摩擦減衰機構を有するアイソレータである。本発明はこの要求に合致する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、第1の目的は、ハブとプーリの間の振動を減衰させる摩擦減衰機構を有するアイソレータを提供することである。
【0007】
本発明のその他の目的は、本発明の以下の説明と添付された図面により指摘され明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ハブと、瞬間的な回転運動に対してブッシュを介してハブに摩擦係合するとともに、ブッシュとハブが摩擦係数を有するプーリと、トルクを伝達するためにプーリとハブの間に係合される弾性部材と、ハブにプーリを保持するための固定部材とを備えるアイソレータを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
この明細書に組み込まれその一部を構成する添付図面は、本発明の好ましい実施形態を示し、説明とともに本発明の原理を説明するために用いられる。
【図1】エンジン加速時におけるベルト伝動システムの動作を示す図である。
【図2】エンジン減速時におけるベルト伝動システムの動作を示す図である。
【図3】本発明のアイソレータの分解図である。
【図4】図3におけるアイソレータの断面図である。
【図5】(a)(b)(c)はアイソレータのハブとプーリの相対運動を示す連続図である。
【図6】種々のブッシュ材料を用いたアイソレータの動的なダンピングの測定結果を示すグラフである。
【図7】他の実施形態の分解図である。
【図8】図7における他の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1はエンジン加速時におけるベルト伝動システムの動作を示す図である。始動時、ベルト伝動装置は各シリンダの周期的な点火により引き起こされるトルクの衝撃を受ける。周期的な衝撃はベルトの瞬間的な加速を発生させ、駆動される補機の瞬間的な加速を発生させる。この衝撃は更にベルトの好ましくない振動を発生させる可能性がある。
【0011】
図1には、クランクシャフトプーリ(CRK)とエアコン用コンプレッサ(CRK)やオルタネータ(ALT)等の補機を備えるエンジンベルト伝動システムが示される。ベルト(B)はこれらに掛け回される。テンショナ(TEN)は適正なベルト動作張力を維持する。
【0012】
図1に示されるようにエンジンが加速する始動時の一局面においては、オルタネータの慣性を増大するために正のトルクが必要であるため、オルタネータ(ALT)に続くベルトスパン(T1)には高い張力が掛かる。この高い張力はベルトの伸びを引き起こし、ベルト長さの増大はテンショナスパン(T2)に蓄積される。これはテンショナアーム(TEN)をフリー状態におけるアーム停止位置(無負荷状態)の方向へ動かす。テンショナは制御されたベルト張力をオルタネータの前方スパン(T2)において維持する。この状況においてシステムはベルトノイズをほとんど発生しない。
【0013】
図2はエンジン減速時におけるベルト伝動システムの動作を示す図である。図2に示すようにエンジンが減速する局面において、オルタネータの慣性は現在の速度で回転しようとし(ニュートンの運動の第1法則)、それによりオルタネータはベルトの主要な動力となる。これはテンショナに掛け回されるベルト(B)における通常の緩み側スパン(T2)を緊張させる。ベルト張力がテンショナTENのバネ荷重およびテンショナにおけるダンピングに打ち勝つのに十分なほど高いとき、テンショナアームは最大負荷が掛かった停止位置に向けて移動する(ベルトから離れる)。これは、結果として走行長さを減少させ、ベルトスパン(T1)を弛緩させ緩い張力にする。張力がある臨界値よりも低くなると、ベルト伝動装置ではベルトのかん高いノイズの発生が問題となる。この事態に対処するため、従来技術の一体的なオルタネータプーリに代わる、オルタネータデカプラやアイソレータ等の装置が開発された。従来技術のデカプラは、オルタネータプーリがオルタネータのロータに取り付けられたハブに対して回転することを許容する。相対移動の量は個別の装置に依存する。従来技術のオルタネータデカプラは、一般的に一方向クラッチの特徴を備え、始動および走行時におけるクランクシャフトプーリの加速の間、プーリとハブは互いにロックされ、デカプラは一体的なプーリとして作動する。しかし、減速時には、ハブはプーリを追い越して、すなわちオーバーラン状態で回転することができる。これは、オルタネータのロータの慣性がテンショナスパン(T2)において高い張力を生じることを防止して、ベルトスリップノイズの発生を防止するので有用である。この装置は、オーバーランする前に僅かなトルクの発生を必要とするかもしれない。オーバーランモードにおいてプーリとハブの間にはトルクを伝達する連結がないので、ハブはほんの暫くの間、自由に回転することができる。
【0014】
図3は本発明のアイソレータの分解図である。本発明に係るアイソレータ10は、プーリ3、内部ブッシュ2、外部ブッシュ6、ハブ5、捩じりバネ4、ハブカバー8、およびアセンブリを維持するための固定リング1を備える。バネ4は、プーリのフランジ31とハブのフランジ51の間で圧縮される。
【0015】
プーリがハブに対して回転移動するので、ベアリング表面はハブ荷重を支持する必要がある。この配置において、内部ブッシュ2および外部ブッシュ6はベアリング機能を発揮する。更に、ブッシュ2および6はプーリとハブの間において減衰作用を発揮する。減衰量は係合面の摩擦係数に関連する。
【0016】
一例として、スチールに対するオイレステクメットBのブッシュは0.18の摩擦係数を有する。バネ4のバネ定数は約0.27Nm/度である。プーリ直径は約56.5mmである。数値は一例であり本発明の幅あるいは範囲を限定するものではない。
【0017】
図4は、図3におけるアイソレータの断面図である。ボア52は、オルタネータシャフト(図示せず)を受け入れる。ベルトベアリング面32は、マルチリブドベルト(図示せず)に係合する形状を有する。固定リング1はハブ5に圧入される。
【0018】
図5(a)、5(b)、5(c)は、アイソレータのハブとプーリの相対運動を示す連続的な概略図である。図5(a)に関し、エンジンが止まっている時、プーリとハブは隣接したマークAおよびBで示されるように、相互に変位しない。模式的に示されるように、バネ4は変形されない。
【0019】
エンジンが始動するとプーリ3は瞬間的に高い加速度を受け、これにより、図5(b)に示されるように、そして時計回りにAよりも角度方向前方にある新しい相対位置Bで示されるように、プーリはハブの角度方向の前方へ直ちに移動する。プーリからハブに伝達されるトルクは、バネ4を介したトルクとブッシュ6の摩擦面を介したトルクの和である。摩擦面を介したトルクの大きさはハブ荷重と摩擦係数に依存する。「ハブ荷重」はハブに作用するベルト張力のベクトルである。
【0020】
エンジン/ベルト加速時において、ハブ荷重は比較的大きくなる可能性があり(約1200N)、減衰トルクは
1200N×0.18×0.045/2=4.9Nm
となり得る(摩擦係数を0.18、ブッシュ直径を約45mmと仮定する)。
【0021】
ハブに対するプーリの角度変位にともなってバネを介して伝達されるトルクは、バネの位置エネルギーを増加させる。ダンピングを経たトルクエネルギーは熱として消費される。減衰がないとき、全てのトルクはバネを介して伝達され、バネにはより多くの位置エネルギーが蓄積される。
【0022】
バネにおける位置エネルギーの蓄積は、直ちにハブを時計回りに加速する。始動における減速時には、図5(c)にBよりも角度方向前方にある新しい相対位置Aで示されるように、ハブは時計回りにプーリを越えて回転する。ハブからプーリに伝達されるトルクはバネトルク引く減衰トルクである。この減速段階において、ハブ荷重は低く(約400N)、そして減衰トルクは
400N×0.18×0.045/2=1.6Nm
となり得る(摩擦係数を0.18、ブッシュ直径を約45mmと仮定する)。
【0023】
バネトルクが減衰トルクにより低下するので、テンショナスパンT2の張りが小さく、テンショナアームが負荷側停止位置へ向かって移動するためのポテンシャルも少なくなり、他のスパンにおけるベルトの緩みを引起し、これによりベルトスリップノイズが発生する。
【0024】
図6は種々のブッシュ材料を用いたアイソレータの動的なダンピングの測定結果を示すグラフである。各ブッシュ2および6は、個別のアプリケーションに対して望ましい摩擦係数になるように、同じ材料あるいは異なる材料で構成されてもよい。ダンピングのヒステリシス特性が種々のブッシュ材料に対する動的なダンピングの測定結果により示される。材料にはアーレン4200(A)、ルブリロイRL(B)、オイレス(C)が含まれる。グラフでは、ニュートンで表される力が相対移動と対比される。
【0025】
図7は別の実施形態の分解図である。この別の実施形態1000において、弾性要素400は合成ゴムあるいは天然ゴムのようなポリマーであってもよい。
【0026】
それは、ハブに対するプーリの回転運動を回転軸A−Aに平行なカムによる直線運動に変換するのに用いられる協働する複数のカムを備える減衰機構であるかもしれない。直線運動はベルビルワッシャ(すなわち皿バネ)に作用し、弾性減衰機構を構成する。
【0027】
より詳細には、カム部材301は、プーリ300に圧入される。カム部材301は、カム面302を有する。カム面302は、正弦曲線に近い面形状を有する。シール101、シール802およびダストキャップ800は、粉塵がアイソレータに浸入するのを防ぐ。
【0028】
カム部材501は、カム面502を備える。カム面502は、正弦曲線に近い面形状を有する。
【0029】
ローラベアリング601は、カム部材301とカム部材501の間に配置される。ローラベアリング601は、カム部材301と501の間の相対変位を容易にする。
【0030】
バネ400には、ベルビルワッシャが含まれる。ワッシャ400は、ハブ500のフランジ503とカム部材501の間で圧縮される。ワッシャ400は、並列にあるいは直列に取り付けられてもよい。ワッシャ400は、図8では直列に示されている。ベルビルワッシャの代用として皿バネを用いてもよい。平らなスチールワッシャ504が、バネ400とフランジ503の間に設けられ、バネ400がフランジ503を摩耗するのを防止する。
【0031】
要素900は、ブッシュあるいはベアリングであり、カム部材301とハブ500の間に配設される。要素900は、カム部材301にハブ500に対する回転変位の自由を与えるとともに、この2つの部材間に摩擦ダンピングを提供する。ブッシュ900は、例えば図6に示したものを含む任意の適切な材料からなり、またボールベアリングを備えていてもよい。
【0032】
ボア505は、補機シャフト(図示せず)に係合する。ロールベアリング200は、プーリ300の内周面に係合される。ローラベアリング200は、カム部材301と固定リング100の間に配置される。ローラベアリング200は、カム部材301と固定リング100の間の相対変位を容易にする。ブッシュ900は、固定リング100との摩擦係合によりカム部材301の(これによりプーリ300の)振動を減衰させる。
【0033】
ブッシュ250は、プーリ300の内周面に係合される。ブッシュ250は、カム部材501に摺動自在に係合する。
【0034】
作動状態において、ワッシャ400はフランジ503とカム部材501の間で圧縮される。面302および502の協働する表面形状は、アイソレータをバネ力が最小となる位置に配置させる。トルクがプーリに作用すると、面302および503は、それぞれに対して回転して正弦曲面による軸A−Aに沿った直線運動を引き起こす。これにより、バネ400は、フランジ503とカム部材501の間で圧縮される。ワッシャ400の圧縮により、プーリとハブの間のバネ力が増大する。
【0035】
図8は、図7の別の実施形態の断面図である。摩擦係数とハブ荷重に起因して生成されるダンピングの大きさは、始動時あるいは停止時に、ベルトスリップが10%以下に制限されるような大きさである。ダンピングはエンジン始動時および停止時に有用であり、バネは、エンジンアイドリング時にプーリの振動を減衰してロータの動揺を低減する場合に有用である。
【0036】
ここでは、本発明の1つの形態について説明されたが、当業者にとっては、ここで説明された本発明の趣旨と範囲を逸脱することなく、その構成や構成部の関係を様々に変形することは容易である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブとプーリの間の振動を減衰させるための摩擦減衰機構を備えるアイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン補機ベルト伝動装置におけるアイソレータは、オルタネータのロータに取り付けられたハブとプーリの間に弾性部材を適用することで振動絶縁機能を提供する。プーリとハブが連結されていることから、これら2つの部材間の相対運動は制限される。弾性部材の剛性は、ベルト伝動システムの1次モードの振動がアイドリングにおけるエンジンの点火周波数よりも低くなるように選択される。したがって、アイドリングにおいてアイソレータは、プーリの振動を弱め、ロータに対するプーリの影響を低減する。ロータの振動が抑えられることから、プーリから要求される伝達トルクはより低くなり、それによって最大ベルト張力が低減される。その結果、テンショナスパンが強く引張されてテンショナアームを動かし、ベルト移動方向においてオルタネータよりも前にあるベルトスパンを緩ませる可能性は低くなる。これにより、ベルトのかん高いノイズが発生する可能性を低減する。アイソレータは、エンジンの通常の運転では効果的であるが、始動時および停止時には限定された機能しか持たない。これは始動時および停止時に、システムが共振点を通過することによる。
【0003】
この問題に対処するために、一方向クラッチの特性をデカプラが提供している。エンジン始動時および運転時におけるクランクシャフトプーリの加速において、プーリとハブは相互にロックされ、装置は一体的な(ソリッド)プーリとして動作する。しかし、減速時には、ハブはプーリを追い越して、すなわち「オーバーラン」状態で回転することができる。これは、ロータの慣性がテンショナスパンに高い張力を発生することを防止し、それによりベルトのスリップ音の発生を回避することから有用である。デカプラは、装置が実際にオーバーランするまでに僅かなトルクを発生し得る。オーバーランモードにおいてプーリとハブの間は連結されていないので、プーリは制限されることなく回転できる。デカプラはエンジン始動時および停止時には上手く機能するが、エンジン運転中はそれ程でもない。
【0004】
この技術の代表は、米国特許第5,139,463号明細書であり、これは駆動されるアセンブリ列に、オルタネータアセンブリが含まれる自動車用多軸掛けベルト伝動システムを開示し、オルタネータアセンブリは、ハウジングと電機子軸周りに回転するようにハウジング内に搭載された電機子組立体を備えている。ハブ構造は、電機子軸の周りに電機子組立体とともに回転するように電機子組立体によってハウジングの外側へ向けて保持される。コイルバネは、多軸掛けベルトによって駆動されるオルタネータプーリの回転運動をハブ構造に伝達するためにオルタネータプーリとハブ構造の間に協働的な関係で配置され、それによって電機子組立体をオルタネータプーリと同じ方向に回転するとともに、オルタネータプーリが従動されて回転運動する間、オルタネータプーリとは逆向きの瞬間的な相対弾性回転運動を可能にする。
【0005】
必要とされているのは、ハブとプーリの間の振動を減衰させる摩擦減衰機構を有するアイソレータである。本発明はこの要求に合致する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、第1の目的は、ハブとプーリの間の振動を減衰させる摩擦減衰機構を有するアイソレータを提供することである。
【0007】
本発明のその他の目的は、本発明の以下の説明と添付された図面により指摘され明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ハブと、瞬間的な回転運動に対してブッシュを介してハブに摩擦係合するとともに、ブッシュとハブが摩擦係数を有するプーリと、トルクを伝達するためにプーリとハブの間に係合される弾性部材と、ハブにプーリを保持するための固定部材とを備えるアイソレータを含む。
【図面の簡単な説明】
【0009】
この明細書に組み込まれその一部を構成する添付図面は、本発明の好ましい実施形態を示し、説明とともに本発明の原理を説明するために用いられる。
【図1】エンジン加速時におけるベルト伝動システムの動作を示す図である。
【図2】エンジン減速時におけるベルト伝動システムの動作を示す図である。
【図3】本発明のアイソレータの分解図である。
【図4】図3におけるアイソレータの断面図である。
【図5】(a)(b)(c)はアイソレータのハブとプーリの相対運動を示す連続図である。
【図6】種々のブッシュ材料を用いたアイソレータの動的なダンピングの測定結果を示すグラフである。
【図7】他の実施形態の分解図である。
【図8】図7における他の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1はエンジン加速時におけるベルト伝動システムの動作を示す図である。始動時、ベルト伝動装置は各シリンダの周期的な点火により引き起こされるトルクの衝撃を受ける。周期的な衝撃はベルトの瞬間的な加速を発生させ、駆動される補機の瞬間的な加速を発生させる。この衝撃は更にベルトの好ましくない振動を発生させる可能性がある。
【0011】
図1には、クランクシャフトプーリ(CRK)とエアコン用コンプレッサ(CRK)やオルタネータ(ALT)等の補機を備えるエンジンベルト伝動システムが示される。ベルト(B)はこれらに掛け回される。テンショナ(TEN)は適正なベルト動作張力を維持する。
【0012】
図1に示されるようにエンジンが加速する始動時の一局面においては、オルタネータの慣性を増大するために正のトルクが必要であるため、オルタネータ(ALT)に続くベルトスパン(T1)には高い張力が掛かる。この高い張力はベルトの伸びを引き起こし、ベルト長さの増大はテンショナスパン(T2)に蓄積される。これはテンショナアーム(TEN)をフリー状態におけるアーム停止位置(無負荷状態)の方向へ動かす。テンショナは制御されたベルト張力をオルタネータの前方スパン(T2)において維持する。この状況においてシステムはベルトノイズをほとんど発生しない。
【0013】
図2はエンジン減速時におけるベルト伝動システムの動作を示す図である。図2に示すようにエンジンが減速する局面において、オルタネータの慣性は現在の速度で回転しようとし(ニュートンの運動の第1法則)、それによりオルタネータはベルトの主要な動力となる。これはテンショナに掛け回されるベルト(B)における通常の緩み側スパン(T2)を緊張させる。ベルト張力がテンショナTENのバネ荷重およびテンショナにおけるダンピングに打ち勝つのに十分なほど高いとき、テンショナアームは最大負荷が掛かった停止位置に向けて移動する(ベルトから離れる)。これは、結果として走行長さを減少させ、ベルトスパン(T1)を弛緩させ緩い張力にする。張力がある臨界値よりも低くなると、ベルト伝動装置ではベルトのかん高いノイズの発生が問題となる。この事態に対処するため、従来技術の一体的なオルタネータプーリに代わる、オルタネータデカプラやアイソレータ等の装置が開発された。従来技術のデカプラは、オルタネータプーリがオルタネータのロータに取り付けられたハブに対して回転することを許容する。相対移動の量は個別の装置に依存する。従来技術のオルタネータデカプラは、一般的に一方向クラッチの特徴を備え、始動および走行時におけるクランクシャフトプーリの加速の間、プーリとハブは互いにロックされ、デカプラは一体的なプーリとして作動する。しかし、減速時には、ハブはプーリを追い越して、すなわちオーバーラン状態で回転することができる。これは、オルタネータのロータの慣性がテンショナスパン(T2)において高い張力を生じることを防止して、ベルトスリップノイズの発生を防止するので有用である。この装置は、オーバーランする前に僅かなトルクの発生を必要とするかもしれない。オーバーランモードにおいてプーリとハブの間にはトルクを伝達する連結がないので、ハブはほんの暫くの間、自由に回転することができる。
【0014】
図3は本発明のアイソレータの分解図である。本発明に係るアイソレータ10は、プーリ3、内部ブッシュ2、外部ブッシュ6、ハブ5、捩じりバネ4、ハブカバー8、およびアセンブリを維持するための固定リング1を備える。バネ4は、プーリのフランジ31とハブのフランジ51の間で圧縮される。
【0015】
プーリがハブに対して回転移動するので、ベアリング表面はハブ荷重を支持する必要がある。この配置において、内部ブッシュ2および外部ブッシュ6はベアリング機能を発揮する。更に、ブッシュ2および6はプーリとハブの間において減衰作用を発揮する。減衰量は係合面の摩擦係数に関連する。
【0016】
一例として、スチールに対するオイレステクメットBのブッシュは0.18の摩擦係数を有する。バネ4のバネ定数は約0.27Nm/度である。プーリ直径は約56.5mmである。数値は一例であり本発明の幅あるいは範囲を限定するものではない。
【0017】
図4は、図3におけるアイソレータの断面図である。ボア52は、オルタネータシャフト(図示せず)を受け入れる。ベルトベアリング面32は、マルチリブドベルト(図示せず)に係合する形状を有する。固定リング1はハブ5に圧入される。
【0018】
図5(a)、5(b)、5(c)は、アイソレータのハブとプーリの相対運動を示す連続的な概略図である。図5(a)に関し、エンジンが止まっている時、プーリとハブは隣接したマークAおよびBで示されるように、相互に変位しない。模式的に示されるように、バネ4は変形されない。
【0019】
エンジンが始動するとプーリ3は瞬間的に高い加速度を受け、これにより、図5(b)に示されるように、そして時計回りにAよりも角度方向前方にある新しい相対位置Bで示されるように、プーリはハブの角度方向の前方へ直ちに移動する。プーリからハブに伝達されるトルクは、バネ4を介したトルクとブッシュ6の摩擦面を介したトルクの和である。摩擦面を介したトルクの大きさはハブ荷重と摩擦係数に依存する。「ハブ荷重」はハブに作用するベルト張力のベクトルである。
【0020】
エンジン/ベルト加速時において、ハブ荷重は比較的大きくなる可能性があり(約1200N)、減衰トルクは
1200N×0.18×0.045/2=4.9Nm
となり得る(摩擦係数を0.18、ブッシュ直径を約45mmと仮定する)。
【0021】
ハブに対するプーリの角度変位にともなってバネを介して伝達されるトルクは、バネの位置エネルギーを増加させる。ダンピングを経たトルクエネルギーは熱として消費される。減衰がないとき、全てのトルクはバネを介して伝達され、バネにはより多くの位置エネルギーが蓄積される。
【0022】
バネにおける位置エネルギーの蓄積は、直ちにハブを時計回りに加速する。始動における減速時には、図5(c)にBよりも角度方向前方にある新しい相対位置Aで示されるように、ハブは時計回りにプーリを越えて回転する。ハブからプーリに伝達されるトルクはバネトルク引く減衰トルクである。この減速段階において、ハブ荷重は低く(約400N)、そして減衰トルクは
400N×0.18×0.045/2=1.6Nm
となり得る(摩擦係数を0.18、ブッシュ直径を約45mmと仮定する)。
【0023】
バネトルクが減衰トルクにより低下するので、テンショナスパンT2の張りが小さく、テンショナアームが負荷側停止位置へ向かって移動するためのポテンシャルも少なくなり、他のスパンにおけるベルトの緩みを引起し、これによりベルトスリップノイズが発生する。
【0024】
図6は種々のブッシュ材料を用いたアイソレータの動的なダンピングの測定結果を示すグラフである。各ブッシュ2および6は、個別のアプリケーションに対して望ましい摩擦係数になるように、同じ材料あるいは異なる材料で構成されてもよい。ダンピングのヒステリシス特性が種々のブッシュ材料に対する動的なダンピングの測定結果により示される。材料にはアーレン4200(A)、ルブリロイRL(B)、オイレス(C)が含まれる。グラフでは、ニュートンで表される力が相対移動と対比される。
【0025】
図7は別の実施形態の分解図である。この別の実施形態1000において、弾性要素400は合成ゴムあるいは天然ゴムのようなポリマーであってもよい。
【0026】
それは、ハブに対するプーリの回転運動を回転軸A−Aに平行なカムによる直線運動に変換するのに用いられる協働する複数のカムを備える減衰機構であるかもしれない。直線運動はベルビルワッシャ(すなわち皿バネ)に作用し、弾性減衰機構を構成する。
【0027】
より詳細には、カム部材301は、プーリ300に圧入される。カム部材301は、カム面302を有する。カム面302は、正弦曲線に近い面形状を有する。シール101、シール802およびダストキャップ800は、粉塵がアイソレータに浸入するのを防ぐ。
【0028】
カム部材501は、カム面502を備える。カム面502は、正弦曲線に近い面形状を有する。
【0029】
ローラベアリング601は、カム部材301とカム部材501の間に配置される。ローラベアリング601は、カム部材301と501の間の相対変位を容易にする。
【0030】
バネ400には、ベルビルワッシャが含まれる。ワッシャ400は、ハブ500のフランジ503とカム部材501の間で圧縮される。ワッシャ400は、並列にあるいは直列に取り付けられてもよい。ワッシャ400は、図8では直列に示されている。ベルビルワッシャの代用として皿バネを用いてもよい。平らなスチールワッシャ504が、バネ400とフランジ503の間に設けられ、バネ400がフランジ503を摩耗するのを防止する。
【0031】
要素900は、ブッシュあるいはベアリングであり、カム部材301とハブ500の間に配設される。要素900は、カム部材301にハブ500に対する回転変位の自由を与えるとともに、この2つの部材間に摩擦ダンピングを提供する。ブッシュ900は、例えば図6に示したものを含む任意の適切な材料からなり、またボールベアリングを備えていてもよい。
【0032】
ボア505は、補機シャフト(図示せず)に係合する。ロールベアリング200は、プーリ300の内周面に係合される。ローラベアリング200は、カム部材301と固定リング100の間に配置される。ローラベアリング200は、カム部材301と固定リング100の間の相対変位を容易にする。ブッシュ900は、固定リング100との摩擦係合によりカム部材301の(これによりプーリ300の)振動を減衰させる。
【0033】
ブッシュ250は、プーリ300の内周面に係合される。ブッシュ250は、カム部材501に摺動自在に係合する。
【0034】
作動状態において、ワッシャ400はフランジ503とカム部材501の間で圧縮される。面302および502の協働する表面形状は、アイソレータをバネ力が最小となる位置に配置させる。トルクがプーリに作用すると、面302および503は、それぞれに対して回転して正弦曲面による軸A−Aに沿った直線運動を引き起こす。これにより、バネ400は、フランジ503とカム部材501の間で圧縮される。ワッシャ400の圧縮により、プーリとハブの間のバネ力が増大する。
【0035】
図8は、図7の別の実施形態の断面図である。摩擦係数とハブ荷重に起因して生成されるダンピングの大きさは、始動時あるいは停止時に、ベルトスリップが10%以下に制限されるような大きさである。ダンピングはエンジン始動時および停止時に有用であり、バネは、エンジンアイドリング時にプーリの振動を減衰してロータの動揺を低減する場合に有用である。
【0036】
ここでは、本発明の1つの形態について説明されたが、当業者にとっては、ここで説明された本発明の趣旨と範囲を逸脱することなく、その構成や構成部の関係を様々に変形することは容易である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、
瞬間的な回転運動に対してブッシュを介して前記ハブに摩擦係合するとともに、前記ブッシュとハブが摩擦係数を有するプーリと、
トルクを伝達するために前記プーリと前記ハブの間に係合される弾性部材と、
前記ハブに前記プーリを保持するための固定部材と
を備えることを特徴とするアイソレータ。
【請求項2】
前記弾性部材が、ベルビルワッシャを備えることを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項3】
前記弾性部材が、捩じりバネを備えることを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項4】
前記プーリに固定された第1カム部材と、
前記第1カム部材に摺動自在に係合される第2カム部材とを更に備え、
前記第1カム部材と前記第2カム部材が前記弾性部材と前記ハブの間に圧縮された状態で係合される
ことを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項5】
前記第1カム面と前記第2カム面の間に配置されるローラベアリングを更に備えることを特徴とする請求項4に記載のアイソレータ。
【請求項6】
プーリの振動を減衰させるために前記プーリと前記ハブの間に配置されるダンピング部材を更に備えることを特徴とする請求項4に記載のアイソレータ。
【請求項7】
エンジンクランクシャフトプーリと、
前記クランクシャフトプーリと補機プーリの間に掛け回されたベルトにより駆動される補機と、
前記補機プーリに係合されるアイソレータとを備え、
前記アイソレータが、
前記補機に係合されるハブと、
瞬間的な回転運動に対してブッシュを介して前記ハブに摩擦係合するとともに、前記ブッシュとハブが摩擦係数を有するプーリと、
トルクを伝達するために前記プーリとハブの間に係合される弾性部材と、
前記ハブに前記プーリを保持するための固定部材と
を備える
ことを特徴とするベルト伝動システム。
【請求項8】
前記弾性部材が、ベルビルワッシャを備えることを特徴とする請求項7に記載のアイソレータ。
【請求項9】
前記弾性部材が、捩じりバネを備えることを特徴とする請求項7に記載のアイソレータ。
【請求項10】
前記プーリに固定される第1カム部材と、
前記第1カム部材に摺動自在に係合される第2カム部材とを更に備え、
前記第1カム部材と前記第2カム部材が前記弾性部材と前記ハブの間に圧縮された状態で係合される
ことを特徴とする請求項7に記載のアイソレータ。
【請求項11】
前記第1カム面と前記第2カム面の間に配置されるローラベアリングを更に備えることを特徴とする請求項10に記載のアイソレータ。
【請求項12】
プーリの振動を減衰させるために前記プーリと前記ハブの間に配置されるダンピング部材を更に備えることを特徴とする請求項10に記載のアイソレータ。
【請求項1】
ハブと、
瞬間的な回転運動に対してブッシュを介して前記ハブに摩擦係合するとともに、前記ブッシュとハブが摩擦係数を有するプーリと、
トルクを伝達するために前記プーリと前記ハブの間に係合される弾性部材と、
前記ハブに前記プーリを保持するための固定部材と
を備えることを特徴とするアイソレータ。
【請求項2】
前記弾性部材が、ベルビルワッシャを備えることを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項3】
前記弾性部材が、捩じりバネを備えることを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項4】
前記プーリに固定された第1カム部材と、
前記第1カム部材に摺動自在に係合される第2カム部材とを更に備え、
前記第1カム部材と前記第2カム部材が前記弾性部材と前記ハブの間に圧縮された状態で係合される
ことを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ。
【請求項5】
前記第1カム面と前記第2カム面の間に配置されるローラベアリングを更に備えることを特徴とする請求項4に記載のアイソレータ。
【請求項6】
プーリの振動を減衰させるために前記プーリと前記ハブの間に配置されるダンピング部材を更に備えることを特徴とする請求項4に記載のアイソレータ。
【請求項7】
エンジンクランクシャフトプーリと、
前記クランクシャフトプーリと補機プーリの間に掛け回されたベルトにより駆動される補機と、
前記補機プーリに係合されるアイソレータとを備え、
前記アイソレータが、
前記補機に係合されるハブと、
瞬間的な回転運動に対してブッシュを介して前記ハブに摩擦係合するとともに、前記ブッシュとハブが摩擦係数を有するプーリと、
トルクを伝達するために前記プーリとハブの間に係合される弾性部材と、
前記ハブに前記プーリを保持するための固定部材と
を備える
ことを特徴とするベルト伝動システム。
【請求項8】
前記弾性部材が、ベルビルワッシャを備えることを特徴とする請求項7に記載のアイソレータ。
【請求項9】
前記弾性部材が、捩じりバネを備えることを特徴とする請求項7に記載のアイソレータ。
【請求項10】
前記プーリに固定される第1カム部材と、
前記第1カム部材に摺動自在に係合される第2カム部材とを更に備え、
前記第1カム部材と前記第2カム部材が前記弾性部材と前記ハブの間に圧縮された状態で係合される
ことを特徴とする請求項7に記載のアイソレータ。
【請求項11】
前記第1カム面と前記第2カム面の間に配置されるローラベアリングを更に備えることを特徴とする請求項10に記載のアイソレータ。
【請求項12】
プーリの振動を減衰させるために前記プーリと前記ハブの間に配置されるダンピング部材を更に備えることを特徴とする請求項10に記載のアイソレータ。
【図1】
【図1(A)】
【図2】
【図2(A)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7(A)】
【図8】
【図1(A)】
【図2】
【図2(A)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図7(A)】
【図8】
【公表番号】特表2011−511227(P2011−511227A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544989(P2010−544989)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/000099
【国際公開番号】WO2009/099504
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(504005091)ザ ゲイツ コーポレイション (103)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/000099
【国際公開番号】WO2009/099504
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(504005091)ザ ゲイツ コーポレイション (103)
【Fターム(参考)】
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