説明

ダンプトラックの走行駆動装置

【課題】 車輪取付筒内の減速歯車機構等を湿式ブレーキ側の異物から保護することができるようにする。
【解決手段】 スピンドル14の外周側に軸受20の内輪側を位置決めするリテーナ54を設ける。このリテーナ54には、軸受20とフローティングシール55との間となる位置に異物捕捉部58を設ける。フローティングシール55の構成部品が損傷したときに湿式ブレーキ45側から軸受20側に向けて異物が流動するのを、異物捕捉部58によって防ぐ構成とする。異物捕捉部58は、リテーナ54の筒状突部54Cと対向面部54Dとを含んで構成される。この対向面部54Dは、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bに対する径方向の離間寸法が可能な限り小さくなるように形成する構成としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば露天の採掘場、石切り場、鉱山等で採掘した砕石物を運搬するのに好適に用いられるダンプトラックの走行駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ダンプトラックと呼ばれる大型の運搬車両は、車体のフレーム上に起伏可能となったベッセル(荷台)を備え、このベッセルに砕石物等の重い荷物を多量に積載した状態で運搬するものである。
【0003】
このため、ダンプトラックの駆動輪を走行駆動する走行駆動装置は、車体に非回転状態で取付けられる筒状のアクスルハウジングと、該アクスルハウジング内を軸方向に伸長して設けられ電動モータ等の駆動源により回転駆動される回転軸と、前記アクスルハウジングの先端側外周に軸受を介して回転可能に設けられ車輪が取付けられる車輪取付筒と、該車輪取付筒とアクスルハウジングとの間に設けられ該車輪取付筒に対し前記回転軸の回転を減速して伝える減速歯車機構とを備えている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0004】
前記アクスルハウジングと前記車輪取付筒との間には、前記車輪取付筒の回転に制動力を与える湿式多板型の油圧ブレーキからなる湿式ブレーキと、該湿式ブレーキと前記軸受との間に配置され該湿式ブレーキの冷却液を前記車輪取付筒内に対して封止状態に保持するフローティングシールとが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−204016号公報
【特許文献2】特開2010−116963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した従来技術によるダンプトラックの走行駆動装置は、大トルクの回転負荷が作用するため、前記アクスルハウジングと車輪取付筒との間に設ける軸受および減速歯車機構には潤滑油を供給し、この潤滑油を前記湿式ブレーキ側の冷却液から隔離するため、両者の間には前記フローティングシールを配設する構成としている。
【0007】
しかし、例えば長い下り坂を降坂走行している途中で前記湿式ブレーキを作動させてダンプトラックに制動力を与えたり、制動力を解除したりするブレーキ操作を繰返していると、湿式ブレーキの発熱量が増加し前記冷却液の能力を越えてオーバヒートを起こすことがある。最悪の場合には、前記湿式ブレーキの構成部品が破損、損傷されることもある。また、このような高温条件下では、前記フローティングシールの金属製のシールリングは摺動面でカジリ、摩耗等が発生し、破損、損傷を起こす虞れがある。前記フローティングシールのOリングについても、前記湿式ブレーキからの高温、圧力の影響を受けて焼損、破損する可能性がある。
【0008】
このような場合は、フローティングシールのシール機能が喪失されるばかりでなく、前記湿式ブレーキおよびフローティングシールからの構成部品の破損、損傷に伴う破片は、異物となって車輪取付筒の内部へと侵入し、前記アクスルハウジングと車輪取付筒との間に設けた軸受および減速歯車機構の位置まで達する可能性もある。減速歯車機構の構成部品が前記異物により損傷されると、最悪の場合にはダンプトラックの自力による走行駆動が難しくなる。特に、大型の運搬車両であるダンプトラックは、一般の乗用車のように他車で牽引することができないため、取り敢えず、安全な場所まで自力で走行できるようにすることが望まれている。
【0009】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、車輪取付筒内の減速歯車機構等を湿式ブレーキ側の異物から保護することができ、装置全体の耐久性や信頼性を高めることができるようにしたダンプトラックの走行駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、本発明は、ダンプトラックの車体に非回転状態で取付けられる筒状のアクスルハウジングと、該アクスルハウジング内を軸方向に伸長して設けられ駆動源により回転駆動される回転軸と、前記アクスルハウジングの外周側に軸受を介して回転可能に設けられ車輪が取付けられる車輪取付筒と、前記アクスルハウジングと該車輪取付筒との間に設けられ該車輪取付筒に対し前記回転軸の回転を減速して伝える減速歯車機構と、前記アクスルハウジングと前記車輪取付筒との間に設けられ前記車輪取付筒の回転に制動力を与える湿式ブレーキと、該湿式ブレーキと前記軸受との間に位置して前記アクスルハウジングと前記車輪取付筒との間に設けられ前記湿式ブレーキの冷却液を前記車輪取付筒内に対して封止状態に保持するシール機構とを備えてなるダンプトラックの走行駆動装置に適用される。
【0011】
そして、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記軸受と前記シール機構との間には、前記シール機構側から前記軸受側に向けて流動する異物を捕捉する異物捕捉部を設ける構成としたことにある。
【0012】
また、請求項2の発明は、前記車輪取付筒に設けられ前記湿式ブレーキの一部をなして前記湿式ブレーキの制動力を前記車輪取付筒に伝えるブレーキハブと、前記アクスルハウジングと前記軸受の内輪側との間に設けられ前記ブレーキハブと軸方向隙間を介して対向するリテーナとを備え、前記シール機構は、一対のシールリングと一対のOリングとを含んで形成され前記ブレーキハブとリテーナとの間の前記軸方向隙間をシールするフローティングシールにより構成し、前記ブレーキハブには、前記リテーナ側に向けて軸方向に突出し前記フローティングシールの一方のOリングを受けるハブ側Oリング受部を設け、前記リテーナには、該ハブ側Oリング受部に前記軸方向隙間を介して軸方向で対向し前記フローティングの他方のOリングを受けるリテーナ側Oリング受部と、該リテーナ側Oリング受部よりも径方向外側の位置に形成され前記ハブ側Oリング受部と径方向で対向するように軸方向に突出した筒状突部とを設け、前記異物捕捉部は、前記ハブ側Oリング受部と、該ハブ側Oリング受部と径方向隙間を介して対向する前記筒状突部とにより構成している。
【0013】
さらに、請求項3の発明によると、前記筒状突部と前記ハブ側Oリング受部との間の前記径方向隙間は、前記ハブ側Oリング受部とリテーナ側Oリング受部との間の前記軸方向隙間よりも小さい寸法に形成する構成としている。
【発明の効果】
【0014】
上述の如く、請求項1の発明によれば、湿式ブレーキまたはシール機構側で発生した異物が湿式ブレーキ側から軸受側に向けて流動しようとしても、アクスルハウジングの外周側に設けた異物捕捉部により異物を捕捉することができ、前記アクスルハウジングと車輪取付筒との間に設けられる軸受および減速歯車機構の位置まで異物が達するのを防ぐことができる。これにより、減速歯車機構の構成部品を前記異物から保護することができ、大型の運搬車両であるダンプトラックを取り敢えず、安全な場所まで自力で走行駆動することができる。
【0015】
また、請求項2の発明によると、シール機構を、一対のシールリングとOリングとからなり、ブレーキハブとリテーナとの間の軸方向隙間をシールするフローティングシールにより構成でき、異物捕捉部は、ブレーキハブに設けたハブ側Oリング受部と、該ハブ側Oリング受部と径方向隙間を介して対向するリテーナの筒状突部とにより構成することができる。この場合、異物捕捉部は、前記径方向隙間が前記フローティングシールの前記軸方向隙間に対して径方向へとL字状に屈曲した構成となる。これにより、ブレーキハブとリテーナとの間の軸方向隙間を異物が通過した場合でも、L字状に屈曲して形成される異物捕捉部によって異物を捕捉することができ、これらの異物が下流側に流動するのを防ぐことができる。
【0016】
さらに、請求項3の発明によると、ハブ側Oリング受部と径方向隙間を介して対向するリテーナの筒状突部は、リテーナ側Oリング受部とハブ側Oリング受部との間の軸方向隙間よりも前記径方向隙間を小さい寸法に設定することにより、この径方向隙間内で異物を捕捉することができ、これらの異物が下流側に流動するのを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態による走行駆動装置が適用されたダンプトラックを示す正面図である。
【図2】図1のダンプトラックを後方からみた右側面図である。
【図3】後輪側の走行駆動装置を図1中の矢示 III−III 方向から拡大してみた断面図である。
【図4】図3中の湿式ブレーキ、ブレーキハブ、リテーナおよびフローティングシール等を拡大して示す断面図である。
【図5】図4中のブレーキハブ、リテーナおよびフローティングシール等をさらに拡大して示す断面図である。
【図6】第2の実施の形態によるブレーキハブ、リテーナおよびフローティングシール等を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態によるダンプトラックの走行駆動装置を、後輪駆動式のダンプトラックを例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0019】
ここで、図1ないし図5は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は本実施の形態で採用したダンプトラックで、このダンプトラック1は、図1に示すように頑丈なフレーム構造をなす車体2と、該車体2上に起伏可能に搭載された荷台としてのベッセル3とにより大略構成されている。
【0020】
そして、ベッセル3は、例えば砕石物等の重い荷物を多量に積載するため全長が10〜13m(メートル)にも及ぶ大型の容器として形成されている。ベッセル3の後側底部は、車体2の後端側に連結ピン4等を介して起伏(傾転)可能に連結されている。ベッセル3の前側上部には、後述のキャブ5を上側から覆う庇部3Aが一体に設けられている。
【0021】
5は庇部3Aの下側に位置して車体2の前部に設けられたキャブで、該キャブ5は、ダンプトラック1の運転者が乗降する運転室を形成し、その内部には運転席、起動スイッチ、アクセルペダル、ブレーキペダル、操舵用のハンドルおよび複数の操作レバー(いずれも図示せず)等が設けられている。ベッセル3の庇部3Aは、キャブ5を上側からほぼ完全に覆うことにより、例えば岩石等の飛び石からキャブ5を保護すると共に、車両(ダンプトラック1)の転倒時等にもキャブ5内の運転者を保護する機能を有している。
【0022】
6は車体2の前部側に回転可能に設けられた左,右の前輪で、該各前輪6は、ダンプトラック1の運転者によって操舵(ステアリング操作)される操舵輪を構成するものである。前輪6は後述の後輪7と同様に、例えば2〜4mに及ぶタイヤ径(外径寸法)をもって形成されている。車体2の前部と前輪6との間には、油圧緩衝器等からなる前輪側サスペンション6SPが設けられている。
【0023】
7は車体2の後部側に回転可能に設けられた左,右の後輪で、該各後輪7は、ダンプトラック1の駆動輪を構成し、図3に示す後述の走行駆動装置11により車輪取付筒18と一体に回転駆動される。後輪7は、複輪式タイヤからなる軸方向内側と外側のタイヤ7Aと、該各タイヤ7Aの径方向内側に配設されるリム7Bとを含んで構成されている。車体2の後部と後輪7との間には、油圧緩衝器等からなる後輪側サスペンション7SPが設けられている。
【0024】
8はキャブ5の下側に位置して車体2内に設けられる原動機としてのエンジンで、該エンジン8は、例えば大型のディーゼルエンジン等により構成され、車載の発電機、油圧源となる油圧ポンプ(いずれも図示せず)等を回転駆動する。油圧ポンプから吐出される圧油は、後述のホイストシリンダ9、パワーステアリング用の操舵シリンダ(図示せず)等に供給される。
【0025】
9はベッセル3を起伏させるためのホイストシリンダで、該ホイストシリンダ9は、図1に示す如く前輪6と後輪7との間に位置して車体2の左,右両側に配設され、車体2とベッセル3との間に上,下方向で伸縮可能に取付けられている。ホイストシリンダ9は、前記油圧ポンプからの圧油が給排されることにより上,下方向に伸縮し、後部側の連結ピン4を中心にしてベッセル3を起伏(傾転)させるものである。
【0026】
10は作動油タンクで、該作動油タンク10は、図1に示すようにベッセル3の下方に位置して車体2の側面等に取付けられている。作動油タンク10内に収容した作動油は、前記油圧ポンプにより吸込まれつつ吐出され、圧油となってホイストシリンダ9および前記パワーステアリング用の操舵シリンダ等に給排されるものである。
【0027】
11はダンプトラック1の後輪7側に設けられた走行駆動装置で、該走行駆動装置11は、後述のアクスルハウジング12、走行用モータ16、車輪取付筒18および減速歯車機構24等により構成されている。走行駆動装置11は、走行用モータ16の回転を減速歯車機構24により減速し、車両の駆動輪となる後輪7を車輪取付筒18と一緒に大なる回転トルクで走行駆動するものである。
【0028】
12は車体2の後部側に設けられた後輪7用のアクスルハウジングで、該アクスルハウジング12は、図2に示すように左,右の後輪7,7間を軸方向に延びる筒状体として形成されている。そして、アクスルハウジング12は、前記後輪側サスペンション7SPを介して車体2の後部側に取付けられる中間の懸架筒13と、該懸架筒13の左,右両側にそれぞれ設けられた後述のスピンドル14とにより構成されている。
【0029】
14はアクスルハウジング12の軸方向両端側にそれぞれ設けられた筒状のスピンドルで、該スピンドル14は、図3に示す如く軸方向一側に位置してテーパ形状をなし懸架筒13にボルト15等を介して着脱可能に固着された大径筒部14Aと、該大径筒部14Aの軸方向他側に一体形成された円形筒部14Bとにより構成されている。この円形筒部14Bは、後述の車輪取付筒18内を軸方向に延びるように配置され、円形筒部14Bの外周側は、後述の軸受20,21を介して後輪7側の車輪取付筒18を回転可能に支持するものである。
【0030】
ここで、スピンドル14の外周側には、大径筒部14Aの長さ方向(軸方向)中間部から径方向外向きに突出し後述の湿式ブレーキ45が取付けられる環状フランジ部14Cと、後述のリテーナ54を軸方向に位置決めするため円形筒部14Bの軸方向一側に設けられた環状の段差部14Dとが一体に形成されている。また、大径筒部14Aの軸方向一側には、径方向内向きに突出する複数のモータ取付座14Eが一体に形成され、このモータ取付座14Eには後述の走行用モータ16が取付けられている。
【0031】
一方、円形筒部14Bの軸方向他側(先端側)は開口端となり、その内側には後述するキャリア38の筒状突出部38Aがスプライン結合されている。円形筒部14Bの軸方向の中間部には、その内周側に環状の内側鍔部14Fが一体に形成され、該内側鍔部14Fには、後述の外側リテーナ43がボルト等を介して取付けられている。円形筒部14Bの下部側には、上,下方向(円形筒部14Bの径方向)に貫通して延びる径方向穴14Gが穿設され、この径方向穴14G内には、後述の吸込管40が挿通されている。
【0032】
16はアクスルハウジング12内に着脱可能に設けられた駆動源としての走行用モータで、該走行用モータ16は、車体2に搭載された発電機(図示せず)からの電力供給によって回転駆動される大型の電動モータにより構成されている。走行用モータ16は、図2に示す如く左,右の後輪7,7を互いに独立して回転駆動するため、懸架筒13の左,右両側に位置してスピンドル14内にそれぞれ取付けられている。走行用モータ16は、その外周側に複数の取付フランジ16Aを有し、これらの取付フランジ16Aがスピンドル14のモータ取付座14Eにボルト等を用いて着脱可能に取付けられている。走行用モータ16は、前記発電機から電力が供給されることにより、後述の回転軸17を回転駆動するものである。
【0033】
17は走行用モータ16の出力軸を構成する回転軸を示し、該回転軸17は、走行用モータ16によって正方向または逆方向に回転駆動されるものである。回転軸17は、スピンドル14の内周側を軸方向(左,右方向)に延びる1本の長尺な棒状体により構成され、回転軸17の一端側は走行用モータ16の出力側に連結されている。一方、回転軸17の他端側は、スピンドル14を構成する円形筒部14Bの開口端側から突出し、その突出端側には後述の太陽歯車26が取付けられている。また、回転軸17は、後述の軸受20,21の間に位置する軸方向の中間部が後述のシャフトベアリング44等を用いて回転可能に支持されている。
【0034】
18は車輪としての後輪7と一体に回転する車輪取付筒で、該車輪取付筒18は、所謂ホイールハブを構成し、その外周側には、後輪7の各リム7Bが圧入等の手段を用いて着脱可能に取付けられている。車輪取付筒18は、後述の軸受20,21間にわたって軸方向に延び中空構造をなした中空筒部18Aと、該中空筒部18Aの外周側端部から後述の内歯車35に向けて軸方向に一体に延びた延設筒部18Bとにより段付筒状体として形成されている。
【0035】
また、車輪取付筒18の延設筒部18Bには、後述の内歯車35と外側ドラム22とが長尺ボルト23等を用いて一体的に固着され、これにより車輪取付筒18は、内歯車35と一体に回転される。即ち、車輪取付筒18には、走行用モータ16の回転を減速歯車機構24で減速することにより大トルクとなった回転が内歯車35を介して伝えられる。これにより、車輪取付筒18は、車両の駆動輪となる後輪7を大なる回転トルクで回転させるものである。
【0036】
19は筒状のリングからなるリムスペーサで、該リムスペーサ19は、後輪7の軸方向内側と外側のタイヤ7A間に予め決められた軸方向隙間を確保するため、車輪取付筒18の外周側に配置されている。即ち、リムスペーサ19は、後輪7の軸方向内側,外側のリム7B間に図3に示す如く挟持され、両者の間を軸方向で一定の間隔に保持するものである。
【0037】
20,21はスピンドル14の外周側で車輪取付筒18を回転可能に支持する軸受で、該軸受20,21は、例えば同一の円錐ころ軸受等を用いて構成されている。軸受20,21は、スピンドル14の円形筒部14Bと車輪取付筒18の中空筒部18Aとの間に軸方向に離間して配設されている。即ち、一方の軸受20は、スピンドル14の段差部14Dに後述のリテーナ54を介して位置決めされ、他方の軸受21は、円形筒部14Bの開口端側外周に他のリテーナ56を介して位置決めされている。
【0038】
軸受20,21は、その内輪側がスピンドル14の円形筒部14Bに対しリテーナ54,56間で軸方向に位置決めされ、外輪側が車輪取付筒18の中空筒部18Aに対して軸方向に位置決めされている。これにより、車輪取付筒18は、軸受20,21とリテーナ54,56とを用いて、スピンドル14に対し軸方向に位置決めされると共に、周方向に回転可能に支持されるものである。
【0039】
22は車輪取付筒18の一部を内歯車35と共に構成する外側ドラムで、該外側ドラム22は、図3に示すように車輪取付筒18の軸方向外側となる位置に後述の内歯車35を挟んで取付けられ、複数の長尺ボルト23を用いて車輪取付筒18に着脱可能に固着されている。
【0040】
24はスピンドル14と車輪取付筒18との間に設けられた減速歯車機構で、該減速歯車機構24は、後述する1段目の遊星歯車減速機構25と2段目の遊星歯車減速機構33とにより構成され、後輪7側の車輪取付筒18に対し走行用モータ16(即ち、回転軸17)の回転を減速して伝える。これにより、後輪7側の車輪取付筒18は、減速して得られた大きな回転力(トルク)をもって後輪7と一緒に回転駆動されるものである。
【0041】
25は減速歯車機構24を構成する1段目の遊星歯車減速機構で、該遊星歯車減速機構25は、回転軸17の自由端となる先端側にスプライン結合された太陽歯車26と、該太陽歯車26とリング状の内歯車27とに噛合する複数(例えば、3〜4個)の遊星歯車28と、該各遊星歯車28を支持ピン29を介して回転可能に支持するキャリア30とにより構成されている。
【0042】
ここで、キャリア30の外周側は、車輪取付筒18に一体化された外側ドラム22の開口端(軸方向外側の端面)にボルト等を介して着脱可能に固定され、車輪取付筒18、外側ドラム22と一体に回転する。また、キャリア30の内周側には、例えば円板状の蓋板31が着脱可能に取付けられ、該蓋板31は、例えば太陽歯車26と遊星歯車28の噛合部を保守、点検する場合にキャリア30から取外されるものである。
【0043】
リング状の内歯車27は、太陽歯車26、各遊星歯車28を径方向外側から取囲むリングギヤを用いて形成されている。内歯車27は、外側ドラム22の内周面との間に小さな径方向隙間を介して相対回転可能に配置されている。内歯車27の回転(公転)は、後述のカップリング32を介して2段目の遊星歯車減速機構33に伝えられる。
【0044】
1段目の遊星歯車減速機構25は、走行用モータ16によって回転軸17と一体に太陽歯車26が回転すると、この太陽歯車26の回転を各遊星歯車28の自転運動と公転運動とに変換する。そして、各遊星歯車28の自転(回転)は、リング状の内歯車27に減速した回転として伝えられ、この内歯車27の回転が後述のカップリング32を介して2段目の遊星歯車減速機構33に伝達される。一方、各遊星歯車28の公転は、キャリア30の回転となって車輪取付筒18側の外側ドラム22に伝達される。しかし、車輪取付筒18は、後述する2段目の内歯車35と一体に回転するため、各遊星歯車28の公転は、内歯車35(車輪取付筒18)に同期した回転に抑えられる。
【0045】
32は1段目の内歯車27と一体に回転するカップリングで、該カップリング32は、1段目の遊星歯車減速機構25と2段目の遊星歯車減速機構33との間に位置する環状の回転伝達部材として形成されている。即ち、カップリング32の外周側は1段目の内歯車27にスプライン結合され、カップリング32の内周側は、後述する2段目の太陽歯車34にスプライン結合されている。これにより、カップリング32は、1段目の内歯車27の回転を2段目の太陽歯車34に伝達し、この太陽歯車34を1段目の内歯車27と一体に回転させる。なお、カップリング32には、後述の潤滑油100を前,後方向(軸方向)に流通させる複数の油流通穴等を形成してもよい。
【0046】
33は2段目の遊星歯車減速機構で、該遊星歯車減速機構33は、回転軸17と車輪取付筒18との間に1段目の遊星歯車減速機構25を介して配設され、1段目の遊星歯車減速機構25と共に回転軸17の回転を減速するものである。遊星歯車減速機構33は、回転軸17と同軸に配置されカップリング32と一体に回転する円筒状の太陽歯車34と、該太陽歯車34とリング状の内歯車35とに噛合する複数の遊星歯車36(1個のみ図示)と、該各遊星歯車36を支持ピン37を介して回転可能に支持するキャリア38とにより構成されている。
【0047】
ここで、2段目の内歯車35は、太陽歯車34、各遊星歯車36等を径方向外側から取囲むリングギヤを用いて形成され、車輪取付筒18の一部を構成する延設筒部18Bと外側ドラム22との間に長尺ボルト23を用いて一体的に固着されている。内歯車35の内周側に全周に亘って形成された内歯は、各遊星歯車36に対して噛合状態に保持されるものである。
【0048】
また、2段目のキャリア38の中心部には、スピンドル14の円形筒部14B内に開口端側から嵌合される筒状突出部38Aが一体形成され、該筒状突出部38Aは、円形筒部14Bの内周側に着脱可能にスプライン結合されている。筒状突出部38Aの内周側には、回転軸17が挿通されると共に後述の供給管41が挿入されている。
【0049】
ここで、2段目の遊星歯車減速機構33は、キャリア38の筒状突出部38Aがスピンドル14の円形筒部14Bにスプライン結合されることにより、各遊星歯車36の公転(キャリア38の回転)が拘束される。従って、2段目の遊星歯車減速機構33は、太陽歯車34がカップリング32と一体に回転すると、この太陽歯車34の回転を各遊星歯車36の自転に変換しつつ、該各遊星歯車36の自転を2段目の内歯車35に伝達し、この内歯車35を減速して回転させる。これにより、内歯車35が固定された車輪取付筒18に対しては、1段目の遊星歯車減速機構25と2段目の遊星歯車減速機構33との2段階で減速された大出力の回転トルクが伝達されるものである。
【0050】
ここで、車輪取付筒18の内部には潤滑油100が貯留され、各遊星歯車減速機構25,33は、常に潤滑油100が供給された状態で作動する。この場合、潤滑油100の液面は、例えばスピンドル14を構成する円形筒部14Bの最下部よりも低い位置にあり、かつ軸受20,21の下側部位が浸漬されるような位置に設定されている。これにより、走行駆動装置11の作動時に、潤滑油100が各遊星歯車減速機構25,33によって攪拌されて温度上昇するのを抑えることができ、かつ潤滑油100の攪拌による抵抗を小さく抑えることができる。
【0051】
39はスピンドル14内に設けられた隔壁を示し、該隔壁39は、環状の板体により形成され、その外周側がスピンドル14の大径筒部14Aの内周側にボルト等を用いて着脱可能に取付けられている。隔壁39は、スピンドル14内を、軸方向一側に位置し走行用モータ16が収容されるモータ収容空間部39Aと、軸方向他側に位置し車輪取付筒18の内部と常時連通する筒状空間部39Bとに画成している。
【0052】
40は車輪取付筒18内に貯溜された潤滑油100を回収する回収手段としての吸込管で、該吸込管40は、長さ方向の一側がアクスルハウジング12の懸架筒13内を軸方向に延び、潤滑ポンプ(図示せず)の吸込側に接続されている。吸込管40の長さ方向中間部は、車輪取付筒18側に向けてスピンドル14内を軸方向に延びている。吸込管40の先端側(長さ方向他側)は、回転軸17の下側から下向きにL字状に屈曲し、スピンドル14の径方向穴14G内に挿通されている。これにより、吸込管40は、その先端側が車輪取付筒18内の潤滑油100中に浸漬され、この潤滑油100を前記潤滑ポンプ側に回収させるものである。
【0053】
41は潤滑油100の供給手段を構成する供給管で、該供給管41は、図3に示すように、スピンドル14内で吸込管40、回転軸17よりも上方となる位置に配置され、その先端側が2段目のキャリア38の筒状突出部38A内に挿入されている。供給管41の長さ方向一側(基端側)は、前記潤滑ポンプの吐出側に接続され、この潤滑ポンプから吐出される潤滑油100は、供給管41の先端側(長さ方向他側)からキャリア38の筒状突出部38A内に向けて、即ち遊星歯車減速機構25,33に向けて供給される。
【0054】
車輪取付筒18の下部側に貯留された潤滑油100は、前記潤滑ポンプの駆動により吸込管40の先端側から吸込まれる。前記潤滑ポンプにより吸込まれた潤滑油100は、オイルクーラ(図示せず)によって冷却された後、供給管41を通じて遊星歯車減速機構25,33に供給され、これらの遊星歯車減速機構25,33を潤滑するものである。
【0055】
42は回転軸17の軸方向中間部に嵌合して設けられた内側リテーナ、43は該内側リテーナ42の外周側にシャフトベアリング44を介して配設された外側リテーナを示している。ここで、内側リテーナ42は、その内周側が回転軸17の中間部に圧入されることにより、回転軸17と一体に回転する。外側リテーナ43は、スピンドル14の内側鍔部14Fにボルト等を用いて固定されている。図3に示すように、吸込管40、供給管41の途中部位は、外側リテーナ43を軸方向に貫通して延び、これにより、スピンドル14内に外側リテーナ43を介して位置決めされている。
【0056】
シャフトベアリング44は、回転軸17側の内側リテーナ42とスピンドル14側の外側リテーナ43との間に配設され、回転軸17の軸方向中間部をスピンドル14の円形筒部14B内で内側リテーナ42、外側リテーナ43を介して回転可能に支持している。これにより、長尺な回転軸17は、軸方向中間部での芯振れが抑制され、1段目の太陽歯車26に対して回転軸17の安定した回転を伝えることができる。
【0057】
45は車輪取付筒18の回転に制動力を与える湿式ブレーキで、該湿式ブレーキ45は、湿式多板型の油圧ブレーキにより構成されている。湿式ブレーキ45は、アクスルハウジング12のスピンドル14と車輪取付筒18との間に後述のブレーキハブ51を介して設けられ、車輪取付筒18と一体に回転するブレーキハブ51に対して制動力を付与するものである。
【0058】
図4に示すように、湿式ブレーキ45は、スピンドル14の環状フランジ部14Cに固定して設けられたブレーキハウジング46と、該ブレーキハウジング46に摺動可能に設けられ外部から圧油が供給されることにより複数個のピストン47Aと一緒に駆動されるブレーキ可動体47と、該ブレーキ可動体47とブレーキハウジング46の端板46Aとの間に設けられ後述のブレーキハブ51と一体に回転する複数枚の回転側ディスク48と、端板46Aとブレーキ可動体47との間に位置してブレーキハウジング46内に設けられ各回転側ディスク48とに対して摩擦接触する複数枚の非回転側ディスク49と、ブレーキ可動体47をピストン47Aと一緒に制動力の解除方向に向けて常時付勢する付勢ばね(図示せず)とを含んで構成されている。
【0059】
ブレーキハウジング46は、前記各ディスク48,49をブレーキ可動体47との間で挟む位置に端板46Aを有し、該端板46Aの内周側には後述のフローティングシール53が設けられている。ブレーキハウジング46の端板46Aとブレーキ可動体47との間には、複数枚の回転側ディスク48と複数枚の非回転側ディスク49とが交互に組合わせて配置され、このうち各非回転側ディスク49は、その外周側がブレーキハウジング46に対して廻止めされた状態で、かつ軸方向に移動可能に取付けられている。複数枚の回転側ディスク48は、その内周側が後述のブレーキハブ51に対して廻止めされた状態で、かつ軸方向に移動可能に取付けられている。
【0060】
ここで、湿式ブレーキ45は、ダンプトラック1の運転者がブレーキペダル(図示せず)を踏込み操作したときに、これに伴ってブレーキハウジング46に供給される圧油によりブレーキ可動体47が前記付勢ばねに抗して駆動される。これにより、ブレーキ可動体47は、各回転側ディスク48を両側から挟むように各非回転側ディスク49を押圧し、車輪取付筒18と一体に回転するブレーキハブ51に対して制動力を付与する。一方、前記圧油の供給を停止すると、ブレーキ可動体47が付勢ばねによって押戻され、前記制動力は解除される。
【0061】
また、湿式ブレーキ45は、各回転側ディスク48と各非回転側ディスク49とを制動時の摩擦熱から冷却するために冷却液50中に浸漬して設けられている。この冷却液50は、前記潤滑油100とは異なる種類の油液により構成されている。後述のフローティングシール53は、冷却液50が湿式ブレーキ45の端板46Aとブレーキハブ51との間から外部に漏洩するのを防ぐ機能を有している。一方、後述のフローティングシール55は、後述のリテーナ54とブレーキハブ51との間に設けられ、前記潤滑油100と冷却液50とを互いに分離して封止状態に保つ機能を有している。
【0062】
51は湿式ブレーキ45の一部を構成し、車輪取付筒18と一体に回転するブレーキハブで、該ブレーキハブ51は、スピンドル14と湿式ブレーキ45との間を軸方向に延びる筒状体として形成され、ブレーキハブ51の軸方向一側には、湿式ブレーキ45の各回転側ディスク48が廻止め状態で、軸方向に移動可能に取付けられている。ブレーキハブ51の軸方向他側は、車輪取付筒18の中空筒部18Aに複数のボルト52を介して着脱可能に固定されている。
【0063】
ブレーキハブ51の軸方向中間部には、湿式ブレーキ45の端板46Aに向けて径方向外側へと斜めに延びるブレーキ側Oリング受部51Aと、後述のリテーナ54側に向けて径方向内側へと斜めに延びるハブ側Oリング受部51Bとが設けられている。ブレーキハブ51のブレーキ側Oリング受部51Aには、漏洩防止用のフローティングシール53が設けられ、ハブ側Oリング受部51Bには、液体分離用のフローティングシール55が設けられている。ハブ側Oリング受部51Bは、後述のリテーナ54側に向けて軸方向に突出し後述するフローティングシール55のOリング55Cを径方向外側から受けるものである。
【0064】
53は湿式ブレーキ45の冷却液50が外部に漏洩するのを防ぐ漏洩防止用のフローティングシールで、該フローティングシール53は、湿式ブレーキ45の端板46Aとブレーキハブ51のブレーキ側Oリング受部51Aとの間に設けられ、両者の間の隙間から冷却液50が外部に漏洩するのを封止している。また、フローティングシール53は、例えば土砂、雨水等の異物が湿式ブレーキ45内に侵入するのを阻止する機能も有している。
【0065】
フローティングシール53は、図5に示すように、前記端板46Aの内周面とブレーキ側Oリング受部51Aの内周面とに径方向に対向して配置され互いに摺接するシール面をもった一対のシールリング53A,53Bと、該シールリング53A,53Bと前記端板46Aの内周面,ブレーキ側Oリング受部51Aの内周面との間にそれぞれ挟持して設けられ両者の間をシールすると共にシールリング53A,53Bに対して軸方向の押圧力を付与する一対のOリング53C,53Dとにより構成されている。
【0066】
54はスピンドル14の円形筒部14Bに軸受20の内輪側を位置決めするリテーナで、該リテーナ54は、図3に示すように、円形筒部14Bの外周面に嵌合して設けられ、その軸方向一側は環状の段差部14Dに当接している。また、リテーナ54の軸方向他側は、軸受20の内輪側に軸方向で当接している。これにより、軸受20は、その外輪側が車輪取付筒18の中空筒部18Aにより軸方向に位置決めされ、内輪側がリテーナ54により軸方向に位置決めされている。
【0067】
リテーナ54には、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bに向けて径方向外側へと斜めに延びるシール用腕部54Aと、該シール用腕部54Aの先端側(外周側)に一体形成されハブ側Oリング受部51Bと軸方向隙間(図5中に示す寸法T)を介して対向するリテーナ側Oリング受部54Bと、該リテーナ側Oリング受部54Bの径方向外側となる位置にL字状に屈曲して形成され前記ハブ側Oリング受部51Bを径方向外側から取囲むように軸方向に突出した筒状突部54Cとが一体に設けられている。該筒状突部54Cの内周面は、ハブ側Oリング受部51Bと径方向で対向する対向面部54Dとなり、該対向面部54Dとハブ側Oリング受部51Bとの径方向隙間(図5中に示す寸法R)は、前記軸方向隙間の寸法Tよりも小さく(R<T)なっている。
【0068】
55はブレーキハブ51とリテーナ54との間に設けられた液体分離用のフローティングシールで、該フローティングシール55は、車輪取付筒18側の潤滑油100と湿式ブレーキ45側の冷却液50とを互いに分離し、両者を封止状態に保つシール機構を構成するものである。即ち、フローティングシール55は、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bとリテーナ54のリテーナ側Oリング受部54Bとの間に設けられ、両者の間の軸方向隙間(図5中の寸法Tであり、以下、軸方向隙間Tという)を液密にシールしている。
【0069】
ここで、フローティングシール55は、ハブ側Oリング受部51Bの内周面とリテーナ側Oリング受部54Bの内周面に対し径方向で対向して配置され互いに摺接するシール面をもった一対のシールリング55A,55Bと、該シールリング55A,55Bとハブ側Oリング受部51B,リテーナ側Oリング受部54Bとの間にそれぞれ挟持して設けられ両者の間をシールすると共にシールリング55A,55Bに対して軸方向の押圧力を付与する一対のOリング55C,55Dとにより構成されている。
【0070】
56はスピンドル14の先端開口側に複数のボルト57を介して取付けられた他のリテーナで、該リテーナ56は、図3に示すようにスピンドル14の円形筒部14Bに固定され、軸受21の内輪側を円形筒部14Bの外周側で軸方向に位置決めしている。即ち、軸受21は、その外輪側が車輪取付筒18の中空筒部18Aにより軸方向に位置決めされ、内輪側がリテーナ56により軸方向に位置決めされている。
【0071】
58は第1の実施の形態で採用した異物捕捉部で、該異物捕捉部58は、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bと、該ハブ側Oリング受部51Bと径方向隙間(図5中に示す寸法Rであり、以下、径方向隙間Rという)を介して対向したリテーナ54の筒状突部54Cとにより構成され、筒状突部54Cの対向面部54Dとハブ側Oリング受部51Bとの間で後述の異物を捕捉するものである。
【0072】
この場合、異物捕捉部58は、筒状突部54Cの内周側に形成されハブ側Oリング受部51Bに対する径方向隙間Rが軸方向隙間Tよりも小さい寸法(R<T)なった径方向の対向面部54Dを含んで構成されている。これにより、異物捕捉部58は、後述の如き異物をハブ側Oリング受部51Bとの間で捕捉し、これらの異物がスピンドル14と車輪取付筒18との間に設けた軸受20,21および減速歯車機構24の位置まで達するのを防ぐものである。
【0073】
本実施の形態によるダンプトラック1の走行駆動装置11は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
【0074】
まず、ダンプトラック1のキャブ5に乗り込んだ運転者が、エンジン8を起動すると、油圧源となる油圧ポンプが回転駆動されると共に、発電機(いずれも図示せず)により発電が行われる。ダンプトラック1の走行駆動時には、前記発電機から走行用モータ16に電力が供給されることにより、走行用モータ16が作動して回転軸17が回転する。
【0075】
この回転軸17の回転は、1段目の遊星歯車減速機構25の太陽歯車26から各遊星歯車28に減速されて伝達され、各遊星歯車28の回転は、内歯車27およびカップリング32を介して2段目の遊星歯車減速機構33の太陽歯車34に減速されて伝達される。2段目の遊星歯車減速機構33では、太陽歯車34の回転が各遊星歯車36に減速されて伝達される。このとき、各遊星歯車36を支持するキャリア38は、筒状突出部38Aがスピンドル14の円形筒部14Bにスプライン結合されているため、各遊星歯車36の公転(キャリア38の回転)は拘束される。
【0076】
これにより、各遊星歯車36は、太陽歯車34の周囲で自転のみを行い、車輪取付筒18に固定された内歯車35には、遊星歯車36の自転により減速された回転が伝達され、車輪取付筒18は、1段目の遊星歯車減速機構25と2段目の遊星歯車減速機構33とで2段階に減速された大出力の回転トルクをもって回転する。この結果、駆動輪となる左,右の後輪7は、車輪取付筒18と一体に回転し、ダンプトラック1を走行駆動することができる。
【0077】
スピンドル14から車輪取付筒18内に向けて軸方向に延びる回転軸17は、軸方向の中間部が内側リテーナ42、外側リテーナ43によりシャフトベアリング44を介して回転可能に支持されている。これにより、回転軸17が高速回転したときに、回転軸17の偏心によって軸方向中間部が径方向に撓んだり、芯振れしたりするのをシャフトベアリング44の位置で抑えることができ、回転軸17の耐久性を高めることができる。
【0078】
また、走行駆動装置11の作動時においては、車輪取付筒18内に貯溜された潤滑油100が、車輪取付筒18の回転と第1,第2の遊星歯車減速機構25,33の各遊星歯車28,36等によって順次上方へと掻き上げられ、各歯車の噛合部位、スピンドル14の円形筒部14Bと車輪取付筒18との間の軸受20,21等に供給される。そして、潤滑油100は順次下方へと滴下し、車輪取付筒18の下部側へと溜められる。
【0079】
車輪取付筒18の下部側に収容された潤滑油100は、前記潤滑ポンプにより吸込管40の下端側から吸い上げられ、オイルクーラ等で冷却された後に供給管41側に吐出される。そして、供給管41の先端側から車輪取付筒18内の減速歯車機構24(即ち、第1,第2の遊星歯車減速機構25,33)に向けて潤滑油100を連続的に供給することができる。
【0080】
また、ダンプトラック1の走行途中で走行速度を減速する場合には、走行用モータ16の回転を減速するだけでは十分な減速効果を発揮できないことがある。このような場合に、ダンプトラック1の運転者はブレーキペダルを踏込んで湿式多板型の湿式ブレーキ45にブレーキ圧(圧油)を供給し、ブレーキ可動体47を前記付勢ばねに抗して駆動する。これにより、ブレーキ可動体47は、各回転側ディスク48を両側から挟むように各非回転側ディスク49を押圧し、車輪取付筒18と一体に回転するブレーキハブ51に対して制動力を付与することができる。この結果、ダンプトラック1は、車輪取付筒18と一緒に後輪7の回転が減速され、所望の減速効果を得ることができる。
【0081】
また、湿式多板型の湿式ブレーキ45は、各回転側ディスク48と各非回転側ディスク49とを制動時の摩擦熱から冷却するために冷却液50中に浸漬された構造を採用している。この冷却液50は、車輪取付筒18側の潤滑油100とは異なる種類の油液であり、両者のコンタミネーションを防ぐ上で、両者を完全に分離した状態に保つために、スピンドル14側のリテーナ54と車輪取付筒18側のブレーキハブ51との間には、シール機構としてのフローティングシール55を設ける構成としている。
【0082】
ところで、ダンプトラック1のような大型の運搬車両は、例えば長い下り坂を降坂走行している途中で前記湿式ブレーキ45を作動させて車両に制動力を与えたり、制動力を解除したりするブレーキ操作を何度も繰返していると、湿式ブレーキ45の発熱量が増加し冷却液50の能力を越えてオーバヒートを起こすことがある。最悪の場合には、湿式ブレーキ45の構成部品が破損、損傷されることもある。また、このような高温条件下では、フローティングシール55のシールリング55A,55Bは、両者の摺動面でカジリ、摩耗等が発生し、破損、損傷を起こす虞れがある。フローティングシール55のOリング55C,55Dについても、湿式ブレーキ45からの高温、圧力の影響を受けて焼損、破損する可能性がある。
【0083】
そして、このような場合は、フローティングシール55のシール機能が喪失されるばかりでなく、湿式ブレーキ45およびフローティングシール55からの構成部品の破損、損傷に伴う破片が異物となって発生する。このような異物は、車輪取付筒18の内部へと侵入し、スピンドル14と車輪取付筒18との間に設けた軸受20,21および減速歯車機構24の位置まで達する可能性もある。減速歯車機構24の構成部品が前記異物により損傷されると、最悪の場合にはダンプトラック1の自力による走行駆動が難しくなる。特に、大型の運搬車両であるダンプトラック1は、一般の乗用車のように他車で牽引することができないため、取り敢えず、安全な場所まで自力で走行できるようにすることが望まれる。
【0084】
そこで、第1の実施の形態によれば、スピンドル14の外周側に軸受20の内輪側を位置決めするリテーナ54を設け、このリテーナ54には、軸受20とフローティングシール55との間となる位置に異物捕捉部58を設け、フローティングシール55の構成部品(例えば、シールリング55A,55B、Oリング55C,55D)が損傷したときに湿式ブレーキ45側から軸受20側に向けて異物が流動するのを、異物捕捉部58により防ぐ構成としている。
【0085】
この場合、前記リテーナ54は、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bに向けて径方向外側へと斜めに延びるシール用腕部54Aと、該シール用腕部54Aの先端側に一体形成されハブ側Oリング受部51Bと軸方向隙間Tを介して対向するリテーナ側Oリング受部54Bと、該リテーナ側Oリング受部54Bの径方向外側となる位置にL字状に屈曲して形成され前記ハブ側Oリング受部51Bを径方向外側から取囲むように軸方向に突出した筒状突部54Cと、該筒状突部54Cの内周側に形成された径方向の対向面部54Dとを備えている。
【0086】
そして、異物捕捉部58は、リテーナ54の筒状突部54Cと対向面部54Dとを含んで構成され、この対向面部54Dは、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bに対する径方向隙間Rが可能な限り小さくなるように形成する構成としている。即ち、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bと対向面部54Dとの径方向隙間Rを、ハブ側Oリング受部51Bとリテーナ側Oリング受部54Bとの間の軸方向隙間Tよりも小さく(R<T)する構成としている。
【0087】
このため、湿式ブレーキ45の構成部品が破損、損傷されるような高温条件下で、フローティングシール55が高温、圧力の影響を受けて焼損、破損され、これらの破片が異物となって湿式ブレーキ45側から軸受20側に向けて流動しようとしても、アクスルハウジング12の外周側に設けた異物捕捉部58により異物を捕捉することができ、スピンドル14と車輪取付筒18との間に設けられる軸受20,21および減速歯車機構24の位置まで異物が達するのを防ぐことができる。
【0088】
従って、第1の実施の形態によれば、軸受20とフローティングシール55との間となる位置に異物捕捉部58を設けることにより、湿式ブレーキ45、フローティングシール55等の損傷時にも減速歯車機構24の構成部品を前記異物から保護することができ、大型の運搬車両であるダンプトラック1を取り敢えず、安全な場所まで自力で走行駆動することができる。
【0089】
また、異物捕捉部58は、リテーナ54のうち軸方向の隙間(寸法T)に対して径方向へとL字状に屈曲しブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bと径方向で対向する部位(即ち、リテーナ54の筒状突部54Cと対向面部54D)に設けることにより、ブレーキハブ51とリテーナ54との間の軸方向隙間Tを異物が通過した場合でも、L字状に屈曲した部位に形成した異物捕捉部58によって異物を捕捉することができ、これらの異物が下流側に流動するのを防ぐことができる。
【0090】
次に、図6は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、リテーナの筒状突部の内周側に環状肉盛り部を設け、この環状肉盛り部により異物捕捉部を構成したことにある。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0091】
図中、61は第2の実施の形態で採用したリテーナで、該リテーナ61は、第1の実施の形態で述べたリテーナ54とほぼ同様に構成され、シール用腕部61A、リテーナ側Oリング受部61Bおよび筒状突部61Cを有している。しかし、この場合のリテーナ61は、筒状突部61Cの内周側に形成された径方向の対向面部が環状肉盛り部61Dとして構成されている点で、第1の実施の形態とは異なっている。
【0092】
ここで、環状肉盛り部61Dは、筒状突部61Cの内周側に断面円弧状または三角形状の肉盛りを施すことにより形成され、これによって環状肉盛り部61Dは、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bに対する径方向隙間(図6中に示す寸法R1)を可能な限り小さくする構成としている。ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bと環状肉盛り部61Dとの径方向隙間R1は、ハブ側Oリング受部51Bとリテーナ側Oリング受部54Bとの間の軸方向隙間Tよりも小さい寸法(R1<T)に形成されている。
【0093】
62は第2の実施の形態で採用した異物捕捉部で、該異物捕捉部62は、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bと、リテーナ61の筒状突部61Cおよび環状肉盛り部61Dとを含んで構成され、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bと環状肉盛り部61Dとの間で、第1の実施の形態で述べた如き異物を捕捉するものである。
【0094】
かくして、このように構成される第2の実施の形態でも、リテーナ61の筒状突部61Cと環状肉盛り部61Dとにより、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bとの間で異物を捕捉する異物捕捉部62を構成することができ、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0095】
特に、第2の実施の形態では、異物捕捉部62の環状肉盛り部61Dを筒状突部61Cの内周側に断面円弧状または三角形状の肉盛りを施すことにより形成している。このため、ブレーキハブ51のハブ側Oリング受部51Bと環状肉盛り部61Dとの径方向隙間R1を、可能な限り小さくする加工を比較的容易に行うことができ、異物捕捉部62としての機能を簡単な加工によって向上することができる。
【0096】
なお、前記各実施の形態では、減速歯車機構24を1段目,2段目の遊星歯車減速機構25,33により構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば減速歯車機構を1段または3段以上の遊星歯車減速機構により構成してもよいものである。
【0097】
また、前記実施の形態では、後輪駆動式のダンプトラック1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前輪駆動式または前,後輪を共に駆動する4輪駆動式のダンプトラックに適用してもよいものである。
【符号の説明】
【0098】
1 ダンプトラック
2 車体
3 ベッセル
5 キャブ
6 前輪
7 後輪(車輪)
8 エンジン
9 ホイストシリンダ
10 作動油タンク
11 走行駆動装置
12 アクスルハウジング
13 懸架筒
14 スピンドル
16 走行用モータ(駆動源)
17 回転軸
18 車輪取付筒
20,21 軸受
22 外側ドラム
23 長尺ボルト
24 減速歯車機構
25,33 遊星歯車減速機構
40 吸込管
41 供給管
45 湿式ブレーキ
50 冷却液
51 ブレーキハブ
51B シール用のハブ側Oリング受部
53 漏洩防止用のフローティングシール
54,61 リテーナ
54B,61B リテーナ側Oリング受部
54C,61C 筒状突部
54D 径方向の対向面部
55 液体分離用のフローティングシール(シール機構)
56 他のリテーナ
58,62 異物捕捉部
61D 環状肉盛り部(径方向の対向面部)
100 潤滑油
R,R1 径方向隙間
T 軸方向隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダンプトラックの車体に非回転状態で取付けられる筒状のアクスルハウジングと、
該アクスルハウジング内を軸方向に伸長して設けられ駆動源により回転駆動される回転軸と、
前記アクスルハウジングの外周側に軸受を介して回転可能に設けられ車輪が取付けられる車輪取付筒と、
前記アクスルハウジングと該車輪取付筒との間に設けられ該車輪取付筒に対し前記回転軸の回転を減速して伝える減速歯車機構と、
前記アクスルハウジングと前記車輪取付筒との間に設けられ前記車輪取付筒の回転に制動力を与える湿式ブレーキと、
該湿式ブレーキと前記軸受との間に位置して前記アクスルハウジングと前記車輪取付筒との間に設けられ前記湿式ブレーキの冷却液を前記車輪取付筒内に対して封止状態に保持するシール機構とを備えてなるダンプトラックの走行駆動装置において、
前記軸受と前記シール機構との間には、前記シール機構側から前記軸受側に向けて流動する異物を捕捉する異物捕捉部を設ける構成としたことを特徴とするダンプトラックの走行駆動装置。
【請求項2】
前記車輪取付筒に設けられ前記湿式ブレーキの一部をなして前記湿式ブレーキの制動力を前記車輪取付筒に伝えるブレーキハブと、前記アクスルハウジングと前記軸受の内輪側との間に設けられ前記ブレーキハブと軸方向隙間を介して対向するリテーナとを備え、
前記シール機構は、一対のシールリングと一対のOリングとを含んで形成され前記ブレーキハブとリテーナとの間の前記軸方向隙間をシールするフローティングシールにより構成し、
前記ブレーキハブには、前記リテーナ側に向けて軸方向に突出し前記フローティングシールの一方のOリングを受けるハブ側Oリング受部を設け、
前記リテーナには、該ハブ側Oリング受部に前記軸方向隙間を介して軸方向で対向し前記フローティングの他方のOリングを受けるリテーナ側Oリング受部と、該リテーナ側Oリング受部よりも径方向外側の位置に形成され前記ハブ側Oリング受部と径方向で対向するように軸方向に突出した筒状突部とを設け、
前記異物捕捉部は、前記ハブ側Oリング受部と、該ハブ側Oリング受部と径方向隙間を介して対向する前記筒状突部とにより構成してなる請求項1に記載のダンプトラックの走行駆動装置。
【請求項3】
前記筒状突部と前記ハブ側Oリング受部との間の前記径方向隙間は、前記ハブ側Oリング受部とリテーナ側Oリング受部との間の前記軸方向隙間よりも小さい寸法に形成してなる請求項2に記載のダンプトラックの走行駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−53711(P2013−53711A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193696(P2011−193696)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】