説明

チタノシリケート触媒の再生方法

【課題】チタノシリケート触媒を再生する方法を提供すること。
【解決手段】触媒能が低下したチタノシリケート触媒をニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物と、25℃から200℃の温度で接触させることを特徴とするチタノシリケート触媒の再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒能の低下したチタノシリケート触媒の再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタノシリケートは、従来からプロピレン、酸素および水素からのプロピレンオキサイド合成反応において触媒として使用できることが知られており、使用したチタノシリケート触媒の再生方法として、プロピレン、酸素および水素からのプロピレンオキサイド合成反応に使用したパラジウム担持TS-1触媒(Pd/TS-1)を水或いはアルコール或いは水/アルコール混合溶媒に接触させて再生する方法が提案されており、水/アルコール混合溶媒を用いて60-150℃で賦活する方法が例示されている(特許文献1参照)。
アルコール単独或いは水/アルコール混合溶媒で再生する方法を、例えばアセトニトリル溶媒中、Ti-MWW触媒を用いるプロピレンオキサイド合成反応において適用する場合のように、反応においてメタノール以外の溶媒を用いる反応系へ適用すると、反応系へのメタノール添加により活性が低下することが知られている(例えば非特許文献1)。
アルコールとしてメタノールを使用した場合、メタノールはプロピレンオキサイドと容易に反応してメトキシプロパノールを生成することから、アルコールの使用はアルコキシプロパノールの副生の恐れもあり、工業的には必ずしも望ましくない。
プロピレンのエポキシ化反応に使用したチタノシリケート触媒の再生方法として、例えば、過酸化水素によるプロピレンのエポキシ化反応に使用したTS-1を窒素ガス存在下385℃で処理する方法が報告されている(特許文献2参照)。しかし高温で焼成を行う方法は、特殊な装置が必要であり、触媒を取り出し乾燥する工程等が必要であることから、工業的には望ましくない。さらに、実際にこの方法で処理したチタノシリケート触媒を用いて、過酸化水素の代わりに酸素および水素を用いてプロピレンのエポキシ化反応を行うと、プロピレングリコールが多く副生するという新たな問題が発生することが分かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のチタノシリケート触媒の再生方法は、典型的には、貴金属触媒の存在下、アセトニトリルもしくはアセトニトリルと水の混合溶媒からなる液相中、プロピレン、酸素および水素を反応させることを特徴とするプロピレンオキサイドの製造方法において触媒として使用され触媒能の低下したチタノシリケートの再生に好適であり、通常、触媒能が低下したものを反応系から分離して再生方法により処理される。
【0009】
まずプロピレンオキサイドの製造方法において触媒として使用されるチタノシリケートについて説明する。多孔質シリケート(SiO2)のSiの一部がTiに置き換わったものの総称である。チタノシリケートのTiはSiO2骨格内に入っており、TiがSiO2骨格内に入っていることは、紫外可視吸収スペクトルで210 nm〜230 nmにピークを持つことにより容易に確認できる。また、TiO2のTiは通常6配位であるが、チタノシリケートのTiは4配位であるため、チタンK殻XAFS分析等で配位数を測定することにより容易に確認できる。
【0010】
チタノシリケートとしては、具体的には、IZA(国際ゼオライト学会)の構造コードで、MFI構造を有するTS-1、MEL構造を有するTS-2、MTW構造を有するTi-ZSM-12 (例えば、Zeolites 15, 236-242, (1995)に記載されたもの)、BEA構造を有するTi-Beta (例えば、Journal of Catalysis 199, 41-47, (2001)に記載されたもの)、MWW構造を有するTi-MWW (例えば、Chemistry Letters 774-775,(2000)に記載されたもの)、DON構造を有するTi-UTD-1 (例えば、Zeolites 15, 519-525, (1995)に記載されたもの)等の結晶性チタノシリケートが例示される。またこの他に、層状チタノシリケートとしては、Ti-MWW前駆体(例えば、公開特許公報2003-32745号に記載されたもの)やTi-YNU-1(例えば、Angewandte Chemie International Edition 43, 236-240, (2004)に記載されたもの)等が例示される。
【0011】
これらのチタノシリケートのうち、プロピレンオキサイドの生産性からみると酸素12員環以上の細孔を有する結晶性チタノシリケートあるいは層状チタノシリケートが、好ましい。酸素12員環以上の細孔を有する結晶性チタノシリケートとしては、Ti-ZSM-12、Ti-Beta、Ti-MWW、Ti-UTD-1があげられる。酸素12員環以上の細孔を有する層状チタノシリケートとしては、Ti-MWW前駆体、Ti-YNU-1があげられる。より好ましいチタノシリケートとしては、Ti-MWW、Ti-MWW前駆体があげられる。
【0012】
Ti-MWW前駆体は、ホウ素化合物、チタン化合物、ケイ素化合物と構造規定剤から直接水熱合成した層状化合物(as-synthesizedサンプルとも称される)を還流条件下、強酸水溶液と接触させ、構造規定剤を除き、ケイ素と窒素のモル比(Si/N比)を21以上に調整して合成される方法が一般的である(例えば、特開2005-262164号公報を参照)。一方、キャタリシスツデー(Catalysis Today) 117 (2006) 199-205 には、Ti-MWW、ピペリジンおよび水を混合して得られる化合物を水熱処理後、水洗して、13.5%−14.2Wt%の窒素を含むTi-MWW前駆体が得られることが開示されている。このTi-MWW前駆体は、同文献記載のCHN元素分析結果、Si/Ti比、Si/B比から、そのSi/N比は、8.5−8.6と計算され、従来知られているTi-MWW前駆体に比べて窒素含量が高いものであるが、好ましいチタノシリケート(Ti-MWW前駆体)として使用できる。またTi-MWWは、上記の通り得られたTi-MWW前駆体を、焼成により結晶化して得ることが出来る。チタノシリケートとしては、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン等のシリル化剤を用いてシリル化したものも含む。シリル化することで、さらに活性あるいは選択性を高くすることができるため、シリル化したチタノシリケートも好ましいチタノシリケート(例えば、シリル化したTi-MWW等)である。
【0013】
本発明の方法は、かかるチタノシリケートを反応に使用して生ずる触媒能の低下したチタノシリケート(以下、劣化チタノシリケートとも記す)の活性の回復に有効である。また、従来知られている、適当なガスの存在下に高温で処理する劣化チタノシリケートの再生方法に比べて、プロピレングリコールの副生が少ないという優れた特徴を有する。
【0014】
プロピレンオキサイドを製造する反応を例にあげ以下説明する。この反応工程では、水素および酸素から反応系内で過酸化水素を生成させて、プロピレンを酸化する方法が採用される場合、貴金属触媒が用いられる。かかる貴金属触媒の構成元素としては、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、金、またはそれらの合金もしくは混合物があげられる。好ましい貴金属としては、パラジウム、白金、金があげられる。さらにより好ましい貴金属はパラジウムである。パラジウムには、白金、金、ロジウム、イリジウム、オスミウム等の金属を添加混合して用いることができる。好ましい添加金属としては、白金があげられる。また、これらの貴金属は、酸化物や水酸化物等の化合物の状態であっても良い。すなわち、貴金属化合物の状態で反応器に充填し、反応条件下、反応原料中の水素により部分的あるいは全てを還元して使用してもよい。
【0015】
貴金属は、通常、担体に担持して使用される。貴金属は、チタノシリケートに担持して使用してもよいし、チタノシリケート以外の担体であるシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、ニオビア等の酸化物、ニオブ酸、ジルコニウム酸、タングステン酸、チタン酸等の水化物または炭素およびそれらの混合物に担持して使用してもよい。チタノシリケート以外の担体に貴金属を担持させた場合、貴金属を担持した担体をチタノシリケートと混合し、当該混合物を触媒として使用してもよい。チタノシリケート以外の担体の中では、炭素が好ましい担体として挙げられる。炭素担体としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が例示される。
【0016】
貴金属担持触媒の調製方法としては、例えばPdテトラアンミンクロリド等のアンミン錯体等、を担体上に含浸法等によって担持した後、還元する方法が知られている。還元方法としては、水素等の還元剤を用いて還元しても良いし、不活性ガス下、熱分解時に発生するアンモニアガスで還元しても良い。還元温度は、貴金属アンミン錯体によって異なるがPdテトラアンミンクロリドを用いた場合は100℃から500℃が一般的であり、200℃から350℃が好ましい。かくして、得られる貴金属担持物は、貴金属を、通常、0.01〜20重量%の範囲、好ましくは0.1〜5重量%含むものである。反応に用いる場合の貴金属のチタノシリケートに対する重量比(貴金属の重量/チタノシリケートの重量)は、好ましくは、0.01〜100重量%、より好ましくは0.1〜20重量%である。プロピレンオキサイドを製造する反応は、通常、ニトリル化合物と水の混合溶媒からなる液相中で行われる。好適なニトリル化合物として、直鎖または分岐鎖飽和脂肪族ニトリルまたは芳香族ニトリルがあげられる。これらのニトリル化合物としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、イソブチロニトリル、ブチロニトリル等のC2〜C4のアルキルニトリルおよびベンゾニトリルが例示され、アセトニトリルが好ましい。
【0017】
通常、水とニトリル化合物の比率は、重量比で90:10〜0.01:99.99であり、好ましくは、50:50〜0.01:99.99である。水の比率が大きくなりすぎると、プロピレンオキサイドが水と反応して開環劣化しやすくなる場合があり、プロピレンオキサイドの選択率が低くなる場合もある。逆にニトリル化合物の比率が大きくなりすぎると、溶媒の回収コストが高くなる。
【0018】
プロピレンオキサイドを製造する反応においては、緩衝塩を反応溶媒に加える方法も、触媒活性の減少を防止したり、触媒活性をさらに増大させ、水素の利用効率を高めることができるため有効である。緩衝塩は、貴金属と一緒に使用しても良いし、それぞれ独立に使用しても良い。緩衝塩の添加量は通常、単位溶媒重量(水および有機溶媒の合計重量)あたり、通常、0.001 mmol /kg〜100 mmol/kgである。緩衝塩としては、1)硫酸イオン、硫酸水素イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸2水素イオン、ピロリン酸水素イオン、ピロリン酸イオン、ハロゲンイオン、硝酸イオン、水酸化物イオンもしくはC1-C10カルボン酸イオンから選ばれるアニオンと、2)アンモニウム、アルキルアンモニウム、アルキルアリールアンモニウム、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩から選ばれるカチオンとからなる緩衝塩が例示される。C1-C10カルボン酸イオンとしては、酢酸イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、吉草酸イオン、カプロン酸イオン、カプリル酸イオン、カプリン酸イオン、安息香酸イオンが例示される。アルキルアンモニウムの例としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラ-n-プロピルアンモニウム、テトラ-n-ブチルアンモニウム、セチルトリメチルアンモニウムが挙げられ、アルカリ金属またはアルカリ土類金属カチオンの例は、リチウムカチオン、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン、ルビジウムカチオン、セシウムカチオン、マグネシウムカチオン、カルシウムカチオン、ストロンチウムカチオン、バリウムカチオンが例示される。好ましい緩衝塩としては、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、ピロリン酸水素アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等の無機酸のアンモニウム塩または酢酸アンモニウム等のC1-C10のカルボン酸のアンモニウム塩が例示され、好ましいアンモニウム塩としては、リン酸2水素アンモニウムがあげられる。
【0019】
プロピレンオキサイドの製造反応としては、流通式固定床反応、流通式スラリー完全混合反応等があげられる。反応器に供給する酸素と水素の分圧比は、通常、1:50〜50:1の範囲で実施される。好ましい酸素と水素の分圧比は、1:2〜10:1である。酸素と水素の分圧比(酸素/水素)が高すぎるとプロピレンオキサイドの生成速度が低下する場合がある。また、酸素と水素の分圧比(酸素/水素)が低すぎると、プロパン副生の増大によりプロピレンオキサイドの選択率が低下する場合がある。本反応で用いられる酸素および水素ガスは希釈用のガスで希釈して反応を行うことができる。希釈用のガスとしては、窒素,アルゴン,二酸化炭素、メタン,エタン,プロパンがあげられる。希釈用ガスの濃度に特に制限は無いが、必要により、酸素あるいは水素を希釈して反応は行われる。酸素としては、酸素ガス、あるいは空気等の分子状酸素があげられる。酸素ガスは安価な圧力スウィング法で製造した酸素ガスも使用できるし、必要に応じて深冷分離等で製造した高純度酸素ガスを用いることもできる。プロピレンオキサイドの製造反応における反応温度は、通常0℃〜150℃、好ましくは40℃〜90℃である。反応圧力は、特に制限は無いが、通常、ゲージ圧力で0.1 MPa〜20 MPa、好ましくは、1MPa〜10MPaである。反応の生成物であるプロピレンオキサイドの回収は、通常の蒸留分離等により行うことができる。
【0020】
かかるプロピレンオキサイドの製造反応に使用され、触媒能の低下した劣化チタノシリケートは、反応系から分離して、反応に使用されていた形状のままで、再生処理を施してもよいし、必要に応じて取り出した触媒を破砕してから再生工程に供してもよい。また、劣化チタノシリケートは反応に使用した劣化チタノシリケート以外の触媒や、アルミナ等の反応充填物と混合された状態でも、再生工程に供するのに問題はない。
【0021】
本発明の方法において、触媒能が低下したチタノシリケート触媒は、反応系から分離して、再生工程に供され、反応系からの分離は、使用する触媒や反応方式、反応器の形状を考慮して、例えば、触媒反応が進行している反応器内から物理的に取り出す方法、あるいは、反応系における反応試剤である水素、酸素およびプロピレン(以下、反応ガスと記す。)のうち何れかの反応ガスのチタノシリケート触媒が含まれる反応器もしくは充填塔における流通を制御するか、あるいは一部の反応器もしくは充填塔におけるガスの流通を、反応装置から反応ガスの流通経路の切り替え等により分離させて当該の一部の反応器もしくは充填塔におけるガスの流通を制御して行なわれる。この際、プロピレンオキサイドの生成反応は、好ましくは停止させることにより行なわれる。流通を制御する操作には反応ガスのうち少なくとも一種の反応ガスの供給を停止するかあるいは反応ガスの一部もしくは全体を不活性ガスに代えて流通させて行ってもよい。
【0022】
反応系から分離した劣化チタノシリケートの再生に使用されるニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物は、プロピレンオキサイドの製造工程で用いた溶媒を回収して使用してもよいし、本発明の効果を損ねない範囲でさらにプロピレンオキサイドの製造工程の反応系内に存在する原料プロピレン、生成した過酸化水素やプロピレンオキサイド等を残存させてもよい。ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を用いて劣化チタノシリケート触媒の再生を行なう場合に通常使用する水とニトリル化合物の比率は、重量比で90:10〜0:100であり、好ましくは、80:20〜0:100、より好ましくは、50:50〜0:100である。
【0023】
劣化チタノシリケート触媒とニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物との接触は、25℃から200℃の温度範囲で行われるが、65℃から130℃の温度範囲で行うのがより好ましく、さらに65℃から80℃が特に好ましい温度範囲である。接触時の圧力については、特に制限は無いが、通常ゲージ圧力で0〜10MPaで処理される。
【0024】
反応系から分離した劣化チタノシリケート触媒をニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物と接触させる工程は、通常、流通方式あるいは回分方式で実施される。また、液中での触媒の分散を良くする等の目的で液中にガスを供給することも可能である。このときの雰囲気のガス成分は特に制限されず、反応に用いられる水素、酸素を残存させてもよいし、窒素等の不活性ガス雰囲気であっても良い。劣化チタノシリケートから再生されたチタノシリケート(以下、再生チタノシリケートと記す。)を得ることができる。再生チタノシリケートは、貴金属触媒と共に、プロピレン、酸素および水素を反応させることによりプロピレンオキサイドを製造する反応において使用することができる。
以下、プロピレン、水素、酸素を液相中で反応させ、プロピレンを反応させプロピレンオキサイドを製造する反応において触媒能が低下したチタノシリケート触媒を反応系から分離する方法および再生の工程について、反応方式や反応器の形状を例に挙げ、具体的に説明する。
【0025】
触媒を塔型容器に充填したり、あるいは多管式熱交換器の管内または管外に充填してあり、反応器下部からニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物、プロピレン、水素、酸素、窒素ガスを供給し、充填された触媒の一部あるいは全部を塔型容器に残した状態で反応させることを特徴とする固定床型反応器の場合や、気体、液体、およびまたは固体に、回転する攪拌翼やポンプなどによって運動エネルギーを与えて、ガス、液、触媒を流動、混合することを特徴とする懸濁槽型反応器である場合には、反応を停止させた後に、チタノシリケート触媒は反応器の中に留めた状態に維持しておき、触媒層の温度を例えば、25〜200℃の好適な温度範囲に保った状態でニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物と接触させることで、チタノシリケート触媒を再生させることができる。
【0026】
プロピレンオキサイド製造反応を停止するには、好ましくは酸素および水素の供給を停止した後にプロピレンの供給をやめ、次いでニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物および窒素の順に供給を停止することが、保安防災の面から望ましい。反応を停止させた後で反応器内に残留している反応液を抜き出し、触媒粒子間の空隙を不活性ガスで置換することが、後に述べるニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物による洗浄効果を高めるため好ましいが、反応器内に反応液を残留させた状態でニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物による再生処理を行ってもよい。
【0027】
劣化チタノシリケート触媒の再生は、例えば、チタノシリケート触媒を反応器の中に留め、反応器中の固定床もしくは流動層の触媒層の温度を25〜200℃の範囲内の適した温度に維持した状態で、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物と接触させることによって行なうことができる。さらに詳しくは、触媒層とニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の接触は、連続的にニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給して排出する方法と、触媒層の空隙の一部あるいは全部、または触媒層の空隙より多くのニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給し、所定の時間浸漬させた後に抜き出すことを一回以上行う方法、ならびにこれらを組み合わせて行う方法が挙げられるが、使用するニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の量を削減する観点からは、後者が好適である。再生を行うときの圧力は大気圧あるいは再生を行う温度におけるニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の飽和蒸気圧か、あるいはそれ以上の圧力である。再生に使用するニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の量は触媒重量に対して1倍以上、好ましくは10倍以上、さらに好ましくは100倍以上である。
【0028】
反応を停止させた後に抜き出した反応液は、ろ過、蒸留などの精製処理を行った後に、プロピレンオキサイド、プロピレン、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を回収して取り出してもよいし、反応工程にリサイクルしてもよいし、精製処理を行わずに廃棄してもよい。劣化チタノシリケート触媒と接触させたニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物はそのまま廃棄してもよいし、無処理のまま再生処理に付してもよいが、蒸留、吸着、ろ過に付して不純物を除去した後、反応のための溶媒として使用することが望ましい。
チタノシリケート触媒と接触せしめた後、反応器内に残存しているニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物はそのまま廃棄してもよいし、無処理のまま再生処理に付してもよいし、蒸留、吸着、ろ過に付して不純物を除去した後、反応のための溶媒として使用してもよいが、残存した状態で、反応原料である水素、酸素、プロピレンならびにニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物および窒素を供給することが望ましい。
【0029】
本発明の触媒再生方法は所定の温度条件下で行なわれ、かかる温度調整は、好ましくは、多管式熱交換器、プレート型熱交換器、スパイラル型熱交換器などの温度調整手段を用いて、水蒸気、熱媒油、溶融塩、水などの熱媒体によって行なわれる。温度を調整するために、あらかじめ温度を調整したニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給してもよいし、反応器内部で温度を調整してもよく、加熱または冷却できる機能を有していればよい。温度を調整する設備として、温調したニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の温度を測定できる計測機器を具し、測定温度が設定温度になるように熱媒体の流量、温度を調節できる設備を有することが望ましい。
【0030】
かかる反応器の入口にはニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の流量を測定するための流量計および流量を調整するための機構、好ましくはコントロールバルブならびに積算流量を計算できる計器が設置されていることが望ましい。
反応器は反応に適した滞留時間を得るための容量、温度および圧力に対応する能力を有していて、圧力を測定するための圧力計、温度を測定するための温度計を有しており、固定床型反応器の場合には触媒の流出を防ぐための金網、濾布、焼結金属などが触媒層の上下に装備されていて、かつ温度調節を行うことを目的とした熱交換機能を有していることが望ましく、水蒸気、熱媒油、溶融塩、水などの熱媒体によって熱交換できる機能を具備されていればよく、懸濁層型反応器の場合においては、ガス、液、固体にエネルギーを与えるための攪拌翼や反応器の内部あるいは外部にポンプを有していて、チタノシリケート触媒が外部に流出することを防止するための金網、濾布、焼結金属などが反応器内部または反応器に接続されている配管に設置されていればよい。固定床型反応器においては、反応器下部には原料を分散させるための分散板やガスを分散させることを目的としたスパージャーリングを有していることが望ましい。
【0031】
プロピレンオキサイドの製造に使用される反応装置が複数の反応器から構成される反応装置である場合には、一つ以上の反応器を直列または並列に連結した状態でニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給してもよいし、一つずつ再生作業を行ってもよい。一つ以上の反応器を再生している間は、他の反応器は原料の供給を停止することで反応を停止してもよいが、反応を継続していることが経済的観点から好ましい。
【0032】
反応器内に貴金属触媒とチタノシリケート触媒がそれぞれ独立に充填されている場合であって、個別に再生処理が行える場合には、それぞれを個別に再生処理してもよいし、直列または並列に連結した状態でニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給することで同時に再生してもよい。
反応器内に存在する、再生を行う前の触媒は、そのまま、あるいはその一部、あるいは全量を反応器から取り出してもよいし、取り出した分と同等の乾燥重量の新しい触媒あるいは別途再生処理された触媒を追加してから再生してもよい。反応器内で再生が完了した触媒は、全量をそのまま反応に用いてもよいし、その一部あるいは全量を反応器から取り出し、取り出した分と同等の乾燥重量の新しい触媒あるいは別途再生処理された触媒を追加してもよい。
【0033】
気体、液体、およびまたは固体に、回転する攪拌翼やポンプなどによって運動エネルギーを与えて、ガス、液、触媒を流動、混合することを特徴とする懸濁槽型反応器である場合には、反応を行っている状態あるいは原料供給を停止することによって反応を停止させた後に、触媒を反応器から再生装置に移動し、取り出したチタノシリケート触媒が25〜200℃になるように温度を調節した状態で、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物と接触させることによって触媒再生を行なうことができる。
【0034】
反応を停止させて触媒を再生する場合に、再生反応を停止するためには、原料の供給を停止すればよく、好ましくは酸素および水素の供給を停止した後にプロピレンの供給をやめ、次いでニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物および窒素の順に供給を停止することが、保安防災の面から望ましい。反応を停止させた後で反応器内に残留しているチタニシリケート触媒および反応液を抜き出し、あるいは反応器内で反応を継続させた状態で断続的あるいは連続的に反応液を抜き出して再生処理を行ってもよい。
【0035】
プロピレンオキサイドの製造反応を停止せずに、反応器に設置してあるノズルを経由し、重力、圧力差を利用して、反応器内の触媒および反応液の一部を断続的または連続的に抜き出し、これを触媒再生の工程に供して、触媒再生を行なってもよい。
抜き出されたチタノシリケート触媒および反応液を固液分離機能を有する再生装置に移し、遠心式ろ過器、リーフフィルター、フィルタープレス、スーパーデカンターなどの固液分離装置、好ましくはキャンドルフィルターを有する攪拌槽に代表されるような固液分離機能を有する攪拌槽で固液分離を行なってもよい。
【0036】
固液分離器によって再生を行う場合には、反応器から取り出した触媒および反応液を固液分離し、好ましくはろ過された湿潤触媒を加圧圧搾、遠心力などによって残存する母液をさらに除去した後に、湿潤触媒の乾燥重量に対して1倍以上、好ましくは10倍以上、さらに好ましくは100倍以上の20〜200℃に温度調整されたニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を湿潤触媒に断続的または連続的に供給することで、触媒とニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を接触させ、再生することができる。固液分離では金網、焼結金属、濾布のように、粒子の物理的な大きさによって分離する機能を有していればよい。再生した湿潤触媒はろ過器からその一部または全部を湿潤粉体として断続的または連続的に攪拌槽に取り出し、攪拌槽内でニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物と混合することによってスラリー化し、反応器にリサイクルされる。再生した湿潤触媒の一部または全部は直接反応器にリサイクルしたり、廃棄したり、別の方法によって再生される。リサイクルされなかった触媒を反応装置に補充するために、系外に取り出した分と同等の乾燥重量の新しい触媒あるいは別途再生処理された触媒を追加してもよい。スラリー化を行う攪拌槽は固体および液体に運動エネルギーを与えて混合する機能を有していればよく、完全混合状態にする必要はない。湿潤触媒に供給するニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の速度は、再生操作においては、湿潤粉体表面がニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物によって覆われている状態を維持できる速度で供給すればよい。
【0037】
固液分離機能を有する攪拌槽によって再生を行う場合には、反応器から取り出した触媒および反応液を20〜200℃に温度調節された攪拌槽に抜き出し、攪拌槽には断続的または連続的に湿潤触媒の乾燥重量に対して1倍以上、有利には10倍以上、さらに有利には100倍以上であるように選択されたニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給し、断続的または連続的に固液分離装置を経由して抜き出すことによって触媒とニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を接触させ、再生することができる。固液分離装置は攪拌槽の内部にあってもよいし、外部に設置して循環によってろ過してもよい。固液分離では金網、焼結金属、濾布のように、粒子の物理的な大きさによって分離する機能を有していればよい。攪拌槽には液体の量を計測ための計器、圧力を測定するための圧力計、ならびに温度を測定するための温度計を具備されていて、かつ温度調節を行うことを目的とした熱交換機能を有していることが望ましく、水蒸気、熱媒油、溶融塩、水などの熱媒体によって熱交換できる機能を具備されていればよく、ガス、液、固体にエネルギーを与えるための攪拌翼や反応器の内部あるいは外部にポンプを有していることが望ましい。再生された触媒とニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物はその一部または全部が断続的または連続的に反応器にリサイクルされる。リサイクルされなかった触媒を反応装置に補充するために、系外に取り出した分と同等の乾燥重量の新しい触媒あるいは別途再生処理された触媒を追加してもよい。残りの一部または全部の触媒は廃棄したり、別の方法によって再生される。攪拌槽内の固体と液体の存在比率は自由に変更できる機構を有していることが望ましく、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の使用量を削減する観点からは、固体に対する液体の存在比率は低い方が望ましい。
【0038】
反応を停止させた後に抜き出した反応液は、ろ過、蒸留などの精製処理を行った後に、有価成分であるプロピレンオキサイド、プロピレン、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を回収して取り出してもよいし、反応工程にリサイクルしてもよいし、精製処理を行わずに廃棄してもよい。洗浄に用いたニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物はそのまま廃棄してもよいし、無処理のまま再生処理に付してもよいが、蒸留、吸着、ろ過に付して不純物を除去した後、反応のための溶媒として使用することが望ましい。
【0039】
温度を調整するための手段としては、多管式熱交換器、プレート型熱交換器、スパイラル型熱交換器などを用いて、水蒸気、熱媒油、溶融塩、水などの熱媒体によって温度調整することが好適である。温度を調整するために、あらかじめ温度を調整したニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給してもよいし、固液分離器または攪拌槽内部で温度を調整してもよく、加熱または冷却できる機能を有していればよい。温度を調整する設備として、温調したニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の温度を測定できる計測機器を具し、測定温度が設定温度になるように熱媒体の流量、温度を調節できる設備を有することが望ましい。
【0040】
固液分離器または攪拌槽へのニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の供給口には、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の流量を測定するための流量計および流量を調整するための機構、好ましくはコントロールバルブならびに積算流量を計算できる計器が設置されていることが望ましい。
【0041】
複数の反応器から構成される反応装置の場合には、一つ以上の反応器から断続的にまたは連続的に触媒ならびに反応液を抜き出して、一つ以上の再生装置を用いて再生処理を行うことができる。
【0042】
触媒を塔型容器に充填したり、あるいは多管式熱交換器の管内または管外に充填してあり、反応器下部からニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物、プロピレン、水素、酸素、窒素ガスを供給し、充填された触媒の一部あるいは全部を塔型容器に残した状態で反応させることを特徴とする固定床型反応器の場合には、原料供給を停止することによって反応を停止させた後に、触媒を反応器から再生装置に移動し、取り出した触媒が25〜200℃になるように温度を調節した状態で、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物と接触させることによって触媒活性を向上させることができる。
反応を停止させて触媒を再生する場合に、再生反応を停止するためには、原料の供給を停止すればよく、好ましくは酸素および水素の供給を停止した後にプロピレンの供給をやめ、次いでニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物および窒素の順に供給を停止することが、保安防災の面から望ましい。反応を停止させた後で反応器内に残留している反応液を抜き出し、触媒粒子間の空隙を不活性ガスで置換することが好ましいが、反応器内に反応液を残留させた状態でニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給し、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物に置換した後に残留液を抜き出すほうが残留する不揮発成分を除去する観点から好ましい。
【0043】
反応器を加熱しながら減圧したり、加熱した窒素のごとき不活性ガスを供給することによって、反応器内に残留していた揮発成分の一部または全部を除去することが、後に述べる触媒の取り出しの際に可燃物が燃焼する可能性が低くなるため、保安防災の観点から望ましい。
【0044】
反応器内の触媒を取り出す別の方法としては、反応を停止させた後に反応器にニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給しながら、固体と液体の混合物として反応器から取り出し、固液分離器によって固液分離を行い、固液分離器内、あるいは乾燥器によって残留していた揮発成分の一部または全部を除去する方法が挙げられる。
【0045】
反応を停止させた後に抜き出した反応液は、ろ過、蒸留などの精製処理を行った後に、有価成分であるプロピレンオキサイド、プロピレン、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を回収して取り出してもよいし、反応工程にリサイクルしてもよいし、精製処理を行わずに廃棄してもよい。反応液の置換に用いたニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物は蒸留、吸着、ろ過に付して不純物を除去した後、反応のための溶媒として使用することが望ましい。そのまま廃棄してもよいし、無処理のまま再生処理に付してもよい。
【0046】
反応器あるいは固液分離器または乾燥器内の触媒は、下部に設けた孔から触媒を重力によって抜き出すことができる。触媒が自重で流動せず、排出できない場合には、空気あるいは窒素のようなガスを用いて触媒の一部または全部を流動化させながら排出してもよい。あるいは、反応器内に筒を入れ、筒の内部を低い圧力にしながら反応器に空気あるいは窒素のようなガスを供給することで、気流によって触媒を抜き出し、移送することができる。反応器から抜き出した触媒はそのまま再生装置に移送してもよいし、一度他の容器に充填した後に再生装置に移送してもよい。抜き出した触媒の一部あるいは全部は廃棄してもよいし、別の方法によって再生処理してもよい。
【0047】
抜き出された触媒および反応液を固液分離機能を有する再生装置に移動させて固液分離を行なう。固液分離を行うための設備としては、遠心式ろ過器、リーフフィルター、フィルタープレス、スーパーデカンターなどの固液分離装置でもよいが、キャンドルフィルターを有する攪拌槽に代表されるような固液分離機能を有する攪拌槽でもよい。
【0048】
固液分離器によって再生を行う場合には、反応器から取り出した触媒および反応液を固液分離し、好ましくはろ過された湿潤触媒を加圧圧搾、遠心力などによって残存する母液をさらに除去した後に、湿潤触媒の乾燥重量に対して1倍以上、有利には10倍以上、さらに有利には100倍以上であるように選択された、20〜200℃に温度調整されたニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を湿潤触媒に断続的または連続的に供給することで、触媒とニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を接触させ、再生することができる。固液分離では金網、焼結金属、濾布のように、粒子の物理的な大きさによって分離する機能を有していればよい。再生した湿潤触媒はろ過器からその一部または全部を湿潤触媒として断続的または連続的に取り出す。再生した湿潤触媒の一部または全部は直接反応器にリサイクルしたり、廃棄したり、別の方法によって再生される。リサイクルされなかった触媒を反応装置に補充するために、系外に取り出した分と同等の乾燥重量の新しい触媒あるいは別途再生処理された触媒を追加してもよい。スラリー化を行う攪拌槽は固体および液体に運動エネルギーを与えて混合する機能を有していればよく、完全混合状態にする必要はない。
【0049】
固液分離機能を有する攪拌槽によって再生を行う場合には、反応器から取り出した触媒を20〜200℃に温度調節された攪拌槽に抜き出し、攪拌槽には断続的または連続的に湿潤触媒の乾燥重量に対して1倍以上、有利には10倍以上、さらに有利には100倍以上であるように選択されたニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給し、断続的または連続的に固液分離装置を経由して抜き出すことによって触媒とニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を接触させ、再生することができる。固液分離装置は攪拌槽の内部にあってもよいし、外部に設置して循環によってろ過してもよい。固液分離では金網、焼結金属、濾布のように、粒子の物理的な大きさによって分離する機能を有していればよい。攪拌槽には液体の量を計測ための計器、圧力を測定するための圧力計、ならびに温度を測定するための温度計を具備されていて、かつ温度調節を行うことを目的とした熱交換機能を有していることが望ましく、水蒸気、熱媒油、溶融塩、水などの熱媒体によって熱交換できる機能を具備されていればよく、ガス、液、固体にエネルギーを与えるための攪拌翼や反応器の内部あるいは外部にポンプを有していることが望ましい。攪拌槽内の固体と液体の存在比率は自由に変更できる機構を有していることが望ましく、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の使用量を削減する観点からは、固体に対する液体の存在比率は低い方が望ましい。再生した湿潤触媒は固液分離を行い、その一部または全部を湿潤触媒として断続的または連続的に取り出す。再生した湿潤触媒の一部または全部は直接反応器にリサイクルしたり、廃棄したり、別の方法によって再生される。リサイクルされなかった触媒の減少分を反応装置に補充するために、系外に取り出した分と同等の乾燥重量の新しい触媒あるいは別途再生処理された触媒を追加してもよい。
【0050】
湿潤触媒を反応器にリサイクルあるいは廃棄または別の方法による再生に供する場合、空気と触媒が接触した場合に、ニトリル蒸気によって引火する可能性があるため、乾燥を行って取り出すことが好ましい。乾燥は固液分離を加熱しながら減圧したり、加熱した窒素のごとき不活性ガスを供給することによって、固液分離器内に残留していた揮発成分の一部または全部を除去する。
【0051】
温度を調整するための手段としては、多管式熱交換器、プレート型熱交換器、スパイラル型熱交換器などを用いて、水蒸気、熱媒油、溶融塩、水などの熱媒体によって温度調整することが好適である。温度を調整するために、あらかじめ温度を調整したニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物を供給してもよいし、固液分離器または攪拌槽内部で温度を調整してもよく、加熱または冷却できる機能を有していればよい。温度を調整する設備として、温調したニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の温度を測定できる計測機器を具し、測定温度が設定温度になるように熱媒体の流量、温度を調節できる設備を有することが望ましい。
【0052】
固液分離器または攪拌槽へのニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の供給口には、ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物の流量を測定するための流量計および流量を調整するための機構、好ましくはコントロールバルブならびに積算流量を計算できる計器が設置されていることが望ましい。
複数の反応器から構成される反応装置の場合には、一つ以上の反応器から同時に触媒を抜き出して、一つ以上の再生装置を用いて再生処理を行うことができる。
【0053】
実施例
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1
Ti-MWWは以下のように調製した。すなわち、室温、Air雰囲気下、オートクレーブにピペリジン257g、純水686gに、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)32g、ホウ酸162g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)117gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら8時間かけて昇温した後、165℃で120時間保持することで、水熱合成を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH10付近になるまで水洗した。つぎにろ塊を50℃で乾燥し、未だ水を含んだ状態の白色粉末を得た。得られた粉末15gに2Nの硝酸750mLを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、50℃で十分乾燥して11gの白色粉末を得た。この白色粉末を銅K-アルファ放射線を使用したX線回折装置を用いてX線回折パターンを測定した結果、Ti-MWW前駆体であることが確認された。得られたTi-MWW前駆体を530℃で6時間焼成し、Ti-MWW触媒粉末を得た。得られた粉末がMWW構造を持つことは、X線回折パターンを測定することにより確認し、ICP発光分析によるチタン含量は1.57重量%であった。
Pd/活性炭(AC)触媒は、以下の方法により調製した。市販のAC(活性炭素,粉末、Lot:SDK3674、和光純薬工業株式会社製) 10 gをガラス製焼成管に充填し、水素ガスを100mL/分にて流通させた。1時間で300℃まで昇温し、さらに1時間300℃にて保持を行った。1時間後、室温まで放冷した後、水素活性化処理活性炭として取り出した。500 mLナスフラスコ中に、Pdテトラアンミンクロリド 0.30 mmolを含む水溶液300 mLを調整した。この水溶液に上記水素活性化した活性炭 3 gを加え、8時間攪拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、さらに80℃にて6時間真空乾燥を行った。得られた触媒前駆体粉末を窒素雰囲気下300℃で6時間焼成し、Pd/AC触媒を得た。
【0055】
触媒能の低下したTi-MWW(以下、劣化Ti-MWWと記す)は、以下の方法にて調製した。室温、Air雰囲気下、オートクレーブに前記の方法で調製したTi-MWW 20g、プロピレンオキサイド71g、プロピレングリコール25g、水46g、アセトニトリル183gからなるゲルを攪拌しながら調製し、密閉した。さらに攪拌しながら30分間かけて昇温した後、60℃で6時間保持することで劣化処理を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、20℃の水2L、20℃の水/アセトニトリル混合液(重量比1/4)2Lを用いて洗浄した。つぎにろ塊を150℃で真空乾燥し、22gの劣化Ti-MWW粉末を得た。ICP発光分析によるチタン含量は1.54重量%であった。
【0056】
上記のとおり調製された劣化Ti-MWWは、以下の方法にて再生した。室温、エアー雰囲気下、ガラス製フラスコに劣化Ti-MWW 2.5g、水40g、アセトニトリル160gを加え、24時間リフラックス(油浴温度:100℃、溶液温度:77℃)させた。次いでろ過し、水2L、水/アセトニトリル混合液(重量比1/4)2Lを用いて洗浄した。さらに150℃真空にて十分乾燥して2.3gの粉末を得た。ICP発光分析によるチタン含量は1.56重量%であった。
このようにして再生したチタノシリケート触媒を仕込んだ容量0.5 Lのオートクレーブを反応器として用い、この中に、プロピレン/酸素/水素/窒素の体積比が4/1/8/87となる原料ガスを16 L/時間、水/アセトニトリル=20/80(重量比)の溶液を108 mL/時間の速度で供給し、反応器からフィルターを介して反応混合物を抜き出すことにより、温度60℃、圧力0.8MPa (ゲージ圧)、滞留時間90分の条件でプロピレンオキサイドを連続式反応で製造した。この間の反応器内の反応混合物中には、反応溶媒161 g、再生したTi-MWW 0.266 g、1重量%Pd/活性炭 0.03 gが含まれていた。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、単位Ti-MWW重量あたりのプロピレンオキサイド生成活性は17.4 mmol-PO/g-Ti-MWW・h、プロピレングリコール選択率(プロピレングリコール生成活性/(プロピレングリコール生成活性+プロピレンオキサイド生成活性)は1.9%であった。
【0057】
実施例2
実施例1の実験において、劣化触媒を、リフラックス温度にて水/アセトニトリル混合液に接触させて再生させる代わりに、溶液温度60℃にて水/アセトニトリル混合液に接触させて再生させる以外は、同様の実験操作を行った。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、単位Ti-MWW重量あたりのプロピレンオキサイド生成活性14.6 mmol-PO/g-Ti-MWW・h、プロピレングリコール選択率は2.0%であった。
【0058】
参考例1
実施例1の実験において、再生したTi-MWWの代わりに、フレッシュなTi-MWWを用いた以外は、同様の実験操作を行った。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、単位Ti-MWW重量あたりのプロピレンオキサイド生成活性20.2 mmol-PO/g-Ti-MWW・h、プロピレングリコール選択率は3.8%であった。
【0059】
参考例2
実施例1の実験において、再生したTi-MWWの代わりに、劣化Ti-MWWを用いた以外は、同様の実験操作を行った。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、単位Ti-MWW重量あたりのプロピレンオキサイド生成活性11.1 mmol-PO/g-Ti-MWW・h、プロピレングリコール選択率は1.7%であった。
【0060】
比較例1
実施例1の実験において、劣化触媒を、リフラックス温度にて水/アセトニトリル混合液に接触させて再生させる代わりに、350℃にて6時間窒素ガスで処理再生させる以外は、同様の実験操作を行った。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、単位Ti-MWW重量あたりのプロピレンオキサイド生成活性17.9 mmol-PO/g-Ti-MWW・h、プロピレングリコール選択率は2.5%であった。
【0061】
比較例2
実施例1の実験において、劣化触媒を、リフラックス温度にて水/アセトニトリル混合液に接触させて再生させる代わりに、530℃にて6時間窒素ガスで処理再生させる以外は、同様の実験操作を行った。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、単位Ti-MWW重量あたりのプロピレンオキサイド生成活性19.3 mmol-PO/g-Ti-MWW・h、プロピレングリコール選択率は2.7%であった。
【0062】
実施例3
Ti-MWW前駆体は以下のように調製した。すなわち、室温、Air雰囲気下、オートクレーブにピペリジン899g、純水2402g、TBOT(テトラ−n−ブチルオルソチタネート)112g、ホウ酸565g、ヒュームドシリカ(cab-o-sil M7D)410gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら8時間かけて昇温した後、160℃で120時間保持することで、水熱合成を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH10.7になるまで水洗した。次にろ塊を50℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、515gの固体を得た。得られた固体 75gに2Mの硝酸3750mLを加え、20時間リフラックスさせた。次いで、ろ過し、中性付近まで水洗し、150℃で重量減少が見られなくなるまで真空乾燥して61gの白色粉末を得た。この白色粉末のX線回折パターン、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、Ti-MWW前駆体であることを確認した。得られた白色粉末 60gを530℃で6時間焼成し、54gの粉末(Ti-MWW)を得た。得られた粉末がTi-MWWであることはX線回折パターン、紫外可視吸収スペクトルを測定することにより確認した。さらに、上記と同様の操作を2回実施し、合わせて162gのTi-MWWを得た。
室温、Air雰囲気下、オートクレーブにピペリジン300g、純水600g、上記の通り得られたTi-MWW 110gを撹拌しながら溶解させてゲルを調製し、1.5時間熟成させた後、密閉した。さらに撹拌しながら4時間かけて昇温した後、160℃で24時間保持することで、水熱処理を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、ろ液がpH9付近になるまで水洗した。次にろ塊を真空中150℃で重量減少が見られなくなるまで乾燥し、114gの白色粉末を得た。この白色粉末のX線回折パターンを測定した結果、MWW前駆体構造を有することを確認し、紫外可視吸収スペクトル測定結果からチタノシリケートであることが分かった。また、ICP発光分析からTi含量が1.66質量%であった。
Pd/活性炭(AC)触媒は、以下の方法により調製した。予め2Lの水にて洗浄した活性炭(和光純薬製)3 gと水300mLとを 1Lナスフラスコ中に加え空気下、室温にて撹拌した。この懸濁液に、Pdコロイド(日揮触媒化成製) 0.30 mmolを含む水溶液100 mLを空気下、室温にてゆっくり滴下した。滴下終了後、さらに懸濁液を空気下、室温にて8時間撹拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、80℃にて6時間真空乾燥、さらに窒素雰囲気下300℃で6時間焼成し、Pd/AC触媒を得た。
【0063】
劣化Ti-MWW前駆体とPd/ACの混合物は、以下の方法にて調製した。室温、Air雰囲気下、オートクレーブに前記の方法で調製したTi-MWW前駆体 4g、Pd/AC 0.3g、プロピレンオキサイド71g、プロピレングリコール25g、水46g、アセトニトリル183gからなるゲルを攪拌しながら調製し、密閉した。さらに攪拌しながら1時間かけて昇温した後、90℃で6時間保持することで劣化処理を行い、懸濁溶液を得た。得られた懸濁溶液をろ過した後、20℃の水2Lを用いて洗浄した。つぎにろ塊を150℃で真空乾燥し、劣化したTi-MWW前駆体とPd/ACの混合物の粉末 3.7gを得た。
【0064】
上記のとおり調製された劣化したTi-MWW前駆体とPd/ACの混合物は、以下の方法にて再生した。室温、エアー雰囲気下、ガラス製フラスコに劣化したTi-MWW前駆体とPd/ACの混合物 1.2g、水17g、アセトニトリル69gを加え、1時間リフラックス(油浴温度:100℃、溶液温度:77℃)させた。次いでろ過し、水2Lを用いて洗浄した。さらに150℃真空にて十分乾燥して1.1gの粉末を得た。
このようにして再生したTi-MWW前駆体とPd/ACの混合物 0.43gを仕込んだ容量0.5 Lのオートクレーブを反応器として用い、この中に、プロピレン/酸素/水素/窒素の体積比が6.5/4.5/11/78となる原料ガスを21.3 NL/hr、アントラキノン0.7mmol/kgを含有する水/アセトニトリル=20/80(重量比)の溶液を108mL/時間の速度で供給し、反応器からフィルターを介して反応混合物を抜き出すことにより、温度60℃、圧力0.8MPa (ゲージ圧)、滞留時間90分の条件でプロピレンオキサイドを連続式反応で製造した。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、単位Ti-MWW重量あたりのプロピレンオキサイド生成活性は14.5mmol-PO/g-Ti-MWW前駆体・h、プロピレングリコール選択率(プロピレングリコール生成活性/(プロピレングリコール生成活性+プロピレンオキサイド生成活性)は1.4%であった。
【0065】
参考例3
実施例3の実験において、再生したTi-MWW前駆体とPd/ACの混合物 0.43gの代わりに、フレッシュなTi-MWW前駆体 0.4g、フレッシュなPd/AC 0.03gを用いた以外は、同様の実験操作を行った。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、単位Ti-MWW重量あたりのプロピレンオキサイド生成活性13.0mmol-PO/g-Ti-MWW前駆体・h、プロピレングリコール選択率は2.6%であった。
【0066】
参考例4
実施例3の実験において、再生したTi-MWW前駆体とPd/ACの混合物の代わりに、劣化したTi-MWW前駆体とPd/ACの混合物を用いた以外は、同様の実験操作を行った。反応開始から5時間後に抜き出した液相および気相をガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、単位Ti-MWW前駆体重量あたりのプロピレンオキサイド生成活性10.8mmol-PO/g-Ti-MWW・h、プロピレングリコール選択率は1.5%であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の方法は、プロピレンオキサイドの製造において触媒の再生に利用することできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒能が低下したチタノシリケート触媒をニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物と、25℃から200℃の温度で接触させることを特徴とするチタノシリケート触媒の再生方法。
【請求項2】
チタノシリケートが酸素12員環以上の細孔を有する結晶性チタノシリケートである請求項1記載の方法。
【請求項3】
チタノシリケートがMWW構造を有する結晶性チタノシリケートまたは層状Ti-MWW前駆体である請求項1記載の方法。
【請求項4】
ニトリル化合物がアセトニトリルである請求項1記載の方法。
【請求項5】
温度が65℃から130℃である請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
温度が65℃から80℃である請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項7】
ニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物における、水とニトリル化合物の重量比が80:20〜0:100である請求項1〜6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
触媒能が低下したチタノシリケートとニトリル化合物あるいは水とニトリル化合物の混合物とを25℃から200℃の温度で接触させて得られる再生したチタノシリケート触媒および貴金属触媒の存在下、液相中、プロピレン、酸素および水素を反応させることを特徴とするプロピレンオキサイドの製造方法。
【請求項9】
貴金属がパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、金またはそれらの合金もしくは混合物である請求項8記載の方法。
【請求項10】
貴金属がパラジウムである請求項8記載の方法。

【公開番号】特開2009−233656(P2009−233656A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21275(P2009−21275)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】