説明

チップ状部品のピックアップ方法

【課題】熱変形性のダイシングテープを用いて、ダイシングし、これをピックアップする際に、ダイシングテープの変形時における周辺チップの飛散等(飛散や傾き)を防止する。
【解決手段】チップ状部品のピックアップ方法は、加熱により変形する層を有するダイシングテープDTに貼着した板状部品を切断分離し、周辺チップ6とチップ状部品5とを含む複数のチップを得るダイシング工程と、ダイシングテープを吸引可能な吸引部材11に、ダイシングテープDTの背面を対面させて、周辺チップ6を保持する部分に対応する背面を吸引する吸引工程と、テープDTを変形させるための加熱を行う加熱工程と、チップ状部品5の上面より、吸引コレットでチップ状部品5を吸引把持して、ダイシングテープDTから取り上げるピックアップ工程とを備え、加熱工程の際に、吸引工程の吸引を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体チップなどのチップ状部品のピックアップ方法に関する。より詳細には、例えば、半導体チップ等の小型電子部品の製造工程において、加熱により変形する層を有するダイシングテープ上の保持されたチップ状部品を、ダイシングテープを加熱変形させることで接着力を低減し、チップ状部品をピックアップする方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
従来より、半導体ウエハなどの多数の部品が形成された板状部品を部品毎のチップ体に分割する際には、ダイシングテープにより板状部材を固定して、部品毎に切断分離(ダイシング)するダイシング工程を行なっている。そして、このダイシング工程によって分割された個々のチップ状部品を、ダイシングテープからピックアップして(取り上げて)、例えば、別途用意したTABテープなどの電子部品実装用フィルムキャリアテープなどにダイボンディングして、半導体装置などの所望の装置を得ている。
【0003】
チップ状部品をダイシングテープからピックアップする際には、ダイシングテープの背面から突き上げ針を突き上げて、チップ状物品をダイシングテープから剥離して、チップ状部品の上面より吸引コレットで吸引把持する方法が採用されている。近年、半導体ウエハは、実装効率を向上させるため、その厚さを極めて薄くするようになっている。このため、突き上げ時の衝撃で、チップ状部品が破損するおそれが高くなってきている。
【0004】
特に近年では、チップの薄化傾向とともに貫通電極の設けられた、いわゆるTSV(Through Silicon Via)チップが用いられることが増えてきたが、このようなTSVチップ用のウエハには貫通電極が設けられており、隣接する貫通電極の間がわずかな衝撃でも破壊されやすいので、突き上げ針による突き上げを行わないピックアップ方法が求められている。
【0005】
このような状況に鑑みて、本出願人は、特許文献1(特開平10−233373号公報)、特許文献2(特開平10−284446号公報)、特許文献3(特開平11−3875号公報)、特許文献4(特開2004−119992号公報)に開示されるように、ピックアップの際に、突き上げ針による突き上げを行なうことなく、吸引コレットによる吸引のみで、チップ状部品をダイシングテープからピックアップできるダイシングテープおよび装置を提案した。
【0006】
これら特許文献1〜4に開示されたダイシングテープを用いたピックアップ方法の概略的な機構を示せば、以下のとおりである。すなわち、図1に示すように、ダイシングテープDTは、非収縮性フィルム1と、収縮性フィルム2と、粘着剤層3とからなり、非収縮性フィルム1と、収縮性フィルム2とは直接積層されていてもよく、図示したように接着剤層4を介して積層されていてもよい。
【0007】
上記のようなダイシングテープDTの粘着剤層3を、半導体ウエハSWに貼着し、複数のチップにダイシングする。ダイシングの結果、半導体ウエハの周縁部も切断され、製品となるチップ状部品5のほか、後述する「周辺チップ6」も生成する。ダイシング時には、図2に示すように、半導体ウエハとともに収縮性フィルム2を完全に切断しておく。また、ダイシングテープDTの外周部はリングフレーム7により固定しておく。ダイシング直後には、各チップは、ダイシングブレードの幅の間隔で整列している。続いて、加熱により収縮性フィルム2を収縮させる。チップ直下の収縮性フィルム2の収縮に伴い、粘着剤層3も変形し、図3に示すように、チップ状部品5と粘着剤層3との接触面積が激減し、またこの際にチップ状部品5と粘着剤層3との間にずれ応力が生じるため、チップ状部品5と粘着剤層3との接着力が低下し、ピックアップが容易となる。
【0008】
また、特許文献5(特開2002−280330号公報)には、上記のようなダイシングテープを用いて板状部材をダイシングし、ダイシングテープを加熱変形して、チップとダイシングテープとの間の接着力を低下した後に、ダイシングテープの背面側から吸引することで、さらにチップとダイシングテープとの間の接着力が低下し、ピックアップを容易にする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−233373号公報
【特許文献2】特開平10−284446号公報
【特許文献3】特開平11−3875号公報
【特許文献4】特開2004−119992号公報
【特許文献5】特開2002−280330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
半導体チップに代表されるように、チップ状部品には、小型化、薄化、軽量化が求められ続けている。チップ状部品の小型化、薄化、軽量化が進められた結果、上記のようなダイシングテープを用いた際に、特に加熱工程において、いわゆる「周辺チップ」が飛散するなどの現象が多発するようになった。
【0011】
図4に示すように、半導体ウエハSWを、回路8毎に区画するダイシングラインDLに沿って切断分離すると、内周部においては製品となるチップ状部品5が生成し、外周部にいわゆる「周辺チップ6」が生成する(以下、チップ状部品と周辺チップを総称して単に「チップ」と記載することがある)。周辺チップ6には通常回路が形成されておらず、また形状もいびつであり、製品とはならない。周辺チップの多くは三辺または二辺のみが切断された状態にある。
【0012】
製品となるチップ状部品5に隣接する周辺チップ6の側部では、収縮性フィルム2が完全に切断されているが、リングフレーム7側の収縮性フィルム2は切断されていない。すなわち、チップ状部品5がリングフレームとは断絶した収縮性フィルム2上に粘着剤層3を介して保持されているのに対し、周辺チップ6は、一端がリングフレームに固定された収縮性フィルム2上に粘着剤層3を介して保持されている。
【0013】
このような状態で収縮性フィルムの変形(収縮)を行うと、周辺チップ6が粘着剤層3から剥離し、飛散してしまうことがある。特に、チップの近年の小型化、薄化、軽量化により、周辺チップも同様に小型化、薄化、軽量化したため、このような飛散が起こりやすくなってきた。飛散した周辺チップ6は、チップ状部品5上にも落下し、チップ状部品5の回路を破損したり、またチップ状部品5のピックアップを妨害したりする。また、周辺チップ6が飛散しないまでも、加熱変形により傾き、ダイシングテープに対する水平を保たずにダイシングテープ上に残存し、搬送時の不具合の原因となる場合がある。
【0014】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであって、熱変形性のダイシングテープを用いて、半導体ウエハ等の板状部材をダイシングし、チップ状部品を製造し、これをピックアップする際に、ダイシングテープの変形時における周辺チップの飛散等(飛散や傾き)を防止するとともに、突き上げ針による突き上げを行なうことなく、チップ状部品をピックアップすることができるチップ状部品のピックアップ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明は、下記の要旨を含む。
[1]加熱により変形する層を有するダイシングテープに貼着した板状部品を切断分離し、周辺チップとチップ状部品とを含む複数のチップを得るダイシング工程(1)と、
前記ダイシングテープを吸引可能な吸引部材に、前記周辺チップおよびチップ状部品を保持しているダイシングテープの背面を対面させて、
前記ダイシングテープの周辺チップを保持する部分に対応する背面を吸引する吸引工程(2)と、
該テープを変形させるための加熱を行う加熱工程(3)と、
前記チップ状部品の上面より、吸引コレットでチップ状部品を吸引把持して、ダイシングテープから取り上げるピックアップ工程(4)とを備え、
加熱工程(3)の際に、吸引工程(2)の吸引を行うチップ状部品のピックアップ方法。
【0016】
[2]吸引工程(2)と、加熱工程(3)とを同時に開始する、[1]に記載のピックアップ方法。
【0017】
[3]さらに、ダイシングテープのチップ状部品を保持する部分に対応する背面を、加熱工程(3)の際に吸引部材によって吸引する吸引工程(5−1)を備える[1]または[2]のチップ状部品のピックアップ方法。
【0018】
[4]さらに、ダイシングテープのチップ状部品を保持する部分に対応する背面を、加熱工程(3)の後に吸引部材によって吸引する吸引工程(5−2)を備える[1]または[2]のチップ状部品のピックアップ方法。
【0019】
[5]板状部品が、回路を有する半導体ウエハであり、チップ状部品が半導体チップである[1]〜[4]の何れかに記載のピックアップ方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、熱変形性のダイシングテープ上に整列保持されたチップ状部品を、該ダイシングテープを加熱変形させてピックアップする際に、前記ダイシングテープの周辺チップを保持する部分に対応する背面が吸引された状態で該テープを加熱変形している。ダイシングテープの周辺チップを保持する部分に対応する背面を吸引により加熱工程の際に固定しているため、周辺チップが保持されたダイシングテープ周縁部の加熱工程における急激かつ過度な変形を抑制できる。このため、周辺チップの飛散等が抑制され、チップ状部品の破損が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明で使用可能なダイシングテープの一実施形態の概略断面図である。
【図2】ダイシング工程を示す概略断面図である。
【図3】加熱工程を示す概略断面図である。
【図4】回路が形成された半導体ウエハの平面図である。
【図5】本発明の実施態様に係る真空吸引加熱装置の使用態様を示す断面図である。
【図6】本発明の実施態様に係る真空吸引加熱装置の使用態様を示す断面図である。
【発明の実施の形態】
【0022】
以下、本発明に係るチップ状部品のピックアップ方法の実施の形態について、添付図面に基づいて説明する。
【0023】
本発明に係るピックアップ方法は、ダイシング工程(1)と、吸引工程(2)と、ダイシングテープの背面が吸引された状態で該テープを変形させるための加熱を行う加熱工程(3)と、ピックアップ工程(4)とを備えることを特徴としている。以下、工程毎に説明する。
【0024】
<ダイシング工程(1)>
ダイシング工程(1)では、加熱により変形する層を有するダイシングテープDTに貼着した板状部品を、複数のチップに切断分離する。これにより、板状部材の内側から、通常製品となるチップ状部品5と、チップ状部品5の外周に位置する、廃棄またはリサイクルされる周辺チップ6が得られる。
【0025】
本発明に適用可能な板状部品としては、その素材に限定はなく、TSVチップ用ウエハ等の半導体ウエハ、ガラス基板、セラミック基板、FPC、発光素子材料、半導体チップが載置され樹脂封止された基板などの有機材料基板、精密部品などの金属材料、またはこれらの複合材料など種々の物品に適用できる。
【0026】
本明細書では、図4に示したように、表面に回路8が形成された半導体ウエハSWを板状部材の代表例にとり説明するが、本発明における板状部材は半導体ウエハに限定されることはない。
【0027】
本発明に使用可能な加熱変形可能なダイシングテープDTは、たとえば、図1に示したように、非収縮性フィルム1と、収縮性フィルム2と、粘着剤層3とがこの順に積層されてなるものを採用できるが、加熱により変形する層を有していれば特に限定されない。非収縮性フィルム1と、収縮性フィルム2とは直接積層されていてもよく、図示したように接着剤層4を介して積層されていてもよい。収縮性フィルムは加熱により収縮する熱収縮性フィルムであることが好ましい。加熱変形した後に、粘着剤層3からチップ状部品5が剥離しやすくなるように、粘着剤層3は紫外線硬化型のものが好ましい。このようなダイシングテープは、特許文献1〜4にその詳細が記載されている。また、ダイシングテープDTはこれに限らず加熱に変形する層を有していればよく、例えば、テープの任意の層に加熱発泡剤が添加され、加熱発泡により該層が変形する粘着テープを使用してもよい。
【0028】
上記のようなダイシングテープDT上に板状部材を貼着し、ダイシングブレードなどを用いたダイシングなど公知の方法により、板状部材を切断し、チップ状部品5を得る(図2参照)。板状部材が、表面に回路8が形成された半導体ウエハSWの場合には、回路毎に区画するダイシングラインDLに沿って半導体ウエハを切断分離することで、半導体チップ5が得られる。半導体ウエハの外周部には通常回路は形成されていない。半導体ウエハをダイシングラインDLに沿って切断分離すると、外周部も異形のチップに切断され、周辺チップ6が生成する。
【0029】
なお、板状部材のダイシングに際しては、板状部材とともに収縮性フィルム2を完全に切断しておく。また、ダイシングテープDTの外周部はリングフレーム7により固定しておく。ダイシング直後には、各チップは、ダイシングブレードの幅の間隔で整列している。
【0030】
本発明の吸引工程(2)、加熱工程(3)、ならびに吸引工程(5−1)および(5−2)の説明に先立って、図5を用いて本発明のチップ状部品のピックアップ方法を実施するための真空吸引加熱装置の実施の形態を説明する。図5に示したように、真空吸引加熱装置10は、例えば、ポーラスなセラミック材料により形成された吸引テーブル11を備えており、バキュームライン12を介して、図示しない真空ポンプなどの真空源の作用によって負圧により、チップ状部品5および周辺チップ6が保持されている部分に対応するダイシングテープDTの背面を吸引固定するように構成されている。ポーラスなセラミック材料11には、チップ状部品が保持されている部分と、周辺チップ6が保持されている部分とに対応するダイシングテープDTの背面を別々に吸引できるように、隔壁14が設けられており、また、バキュームライン12は隔壁14で区画された領域を別々に吸引できるように分岐し、分岐部には分岐弁15が設けられている。なお、この吸引テーブル11は、上記のようなセラミック材料に限定されず、チップ保持部に対応するテープ背面を吸引できるように、多数の吸引孔が配置穿設された金属製の円盤を使用してもよい。また、チップ状部品5および周辺チップ6が保持されている部分に対応するダイシングテープDTの背面を同時に吸引する場合は、図6に示すように、隔壁14は設けられていなくてもよく、バキュームライン12は分岐していなくてもよく、分岐弁15は設けられていなくてもよい。また、テーブルの上面は平滑な面の他、チップの大きさよりも小さい凹凸が形成されているテーブルを使用するなど、種々の公知の吸引テーブルの構成を採用することができる。
【0031】
また、この真空吸引加熱装置10は、ダイシングテープDTを熱収縮するために、ポーラスなセラミック材料の下方に位置し、バキュームライン12の位置を避けて配置された加熱手段13を備える。この加熱手段13として、シーズヒータがテーブル内に配設された構造、ラバーヒータとするなど周知の加熱手段が採用可能であり、特に限定されるものではない。さらに、真空吸引加熱装置10の上方には、ダイシングテープDTからチップを吸引剥離するために、図示しないが、吸引テーブル11の上方の空間を上下左右に位置移動自在な吸引コレットが配置されており、バキュームポンプ(図示せず)の作用によって、ダイシングテープDT上のチップをチップ毎に吸引固定するようになっている。
【0032】
この実施形態の真空吸引加熱装置10では、テープ裏面からの真空吸引を、チップ保持部に対応するテープ背面に対して行う。また加熱装置13を備えるため、テープDTを吸引しつつ加熱を行うことができる。
【0033】
<吸引工程(2)>
本発明のピックアップ方法では、ダイシング工程後、後記の加熱工程(3)の際にチップ状部品5および周辺チップ6を保持しているダイシングテープDTの背面を吸引部材に対面させて、少なくともダイシングテープの周辺チップ6を保持する部分に対応する背面を吸引する。加熱工程(3)の実施をする際には、ダイシングテープDTの周辺チップ6を保持する部分に対応する背面が吸引部材により吸引され、加熱によるダイシングテープDTの変形が抑制される。
【0034】
上記のような吸引加熱装置に接続された真空ポンプなどの吸引源の作動させることで、ダイシングテープ背面を吸引し、テープを一時的に固定することができる。真空吸引加熱装置の吸引時における負圧圧力としては、チップを破損しないように、20KPa以上、好ましくは70KPa以上とするのが望ましい。なお、本発明におけるダイシングテープ背面の吸引は、吸引源の作動によって発生させる負圧によるものであってもよいし、吸引源を作動させ、停止した後に残存する負圧によるものであってもよい。
【0035】
<加熱工程(3)>
本発明では、上記のような吸引部材を用いて、ダイシングテープDTの周辺チップ6を保持する部分に対応する背面が吸引部材により吸引され、気密的に固定された状態において、加熱工程(3)を行う。
【0036】
具体的には、少なくとも加熱工程(3)によりダイシングテープDTの周辺チップ6が保持されている部分が変形を起こす寸前に吸引されている状態である必要がある。
【0037】
加熱工程(3)の開始後、周辺チップの飛散等が発生するまでの時間は条件によって異なり、また個体差があるので、吸引工程(2)と加熱工程(3)とは、同時に開始するか、吸引工程(2)をはじめに開始し、吸引状態を維持しつつ、加熱工程(3)を開始することが好ましい。吸引工程(2)と加熱工程(3)とを同時に開始する場合には、たとえば吸引加熱装置の、ダイシングテープの周辺チップ6を保持する部分に対応する背面との接触部を加熱しておき、その後、ダイシングテープ背面側を吸引加熱装置の吸引部に載置すると同時に、ダイシングテープの周辺チップ6を保持する部分に対応する背面への吸引を開始すればよい。
【0038】
また、吸引工程(2)の後に、加熱工程(3)を開始する場合には、ダイシングテープ背面側を吸引加熱装置の吸引部に載置し、吸引源を作動し、ダイシングテープの周辺チップ6を保持する部分に対応する背面への吸引を開始した後に、吸引源の作動を継続しながら、加熱装置を作動し、ダイシングテープの周辺チップ6を保持する部分に対応する背面との接触部を加熱すればよい。吸引加熱装置は、稼動している間は高温を保っていることが多いため、吸引工程(2)と、加熱工程(3)は同時に開始することがより好ましい。
【0039】
吸引は、周辺チップの飛散等が生じない程度にダイシングテープの変形が進行すれば、終了してもよいが、加熱工程(3)の完了までの間は、吸引を行っていることが好ましい。
【0040】
加熱工程(3)における加熱温度および加熱時間は、特に限定はされず、収縮性フィルム2が変形しうる温度、時間であればよく、収縮性フィルムの材質、性質に応じて適宜に設定される。何ら限定されるものではないが、一般的に、ダイシングテープDTを80〜150℃、30〜120秒間程度に加熱すればよい。
【0041】
上記のようにダイシングテープDTを加熱することで、収縮性フィルム2が変形する。チップ直下の収縮性フィルム2の収縮に伴い、粘着剤層3も変形し、図3に示すように、チップ状部品5と粘着剤層3との接触面積が激減し、またこの際にチップ状部品5と粘着剤層3との間にずれ応力が生じるため、チップ状部品5と粘着剤層3との間の接着力が低下する。なお、ダイシングテープDTの粘着剤層3を紫外線硬化型粘着剤により形成した場合は、ダイシングテープDTの背面側から紫外線を照射し、粘着剤層3を硬化して粘着力を低減させる。紫外線照射は、加熱工程、ならびに場合によって行われる後記の吸引工程(5−1)および(5−2)での剥離を効率的に行わせるために、加熱工程(3)ならびに吸引工程(5−1)および(5−2)の前に行うことが好ましいが、その後であってもよい。
【0042】
本発明では、ダイシングテープの周辺チップを保持する部分に対応する背面を吸引により加熱工程の際に固定しているため、周辺チップが保持されたダイシングテープ周縁部の加熱工程における急激かつ過度な変形を抑制できる。このため、周辺チップの飛散等が抑制され、チップ状部品の破損が防止される。
【0043】
周辺チップが飛散する理由は、チップ状部品5の下の収縮性フィルムの場合では、収縮性フィルムがダイシングにより分離され孤立された状態となっており、収縮が収縮性フィルムの面の中央方向に向かって均一に起こるのに比べて、周辺チップ6が粘着剤層3を介して保持されている収縮性フィルムは、一端がリングフレームに固定されているので、収縮が外周方向にのみ向かう偏ったものとなりやすいことや、周辺チップ6は面積が小さいいので、小さな力でも飛散等が起こりやすいことであると推測される。
【0044】
しかし、吸引工程(2)でダイシングテープの周辺チップ6を保持する部分に対応する背面を吸引することによりダイシングテープが一時的に固定され、収縮により生じる周辺チップ6への力が規制され、加熱工程(3)における周辺チップ6の飛散等を抑制することができると考えられる。
【0045】
<ピックアップ工程(4)>
上記のような吸引工程(2)加熱工程(3)、ならびに場合によって行われる後記の吸引工程(5−1)および(5−2)を経た後、ダイシングテープDTの粘着剤層表面には、チップ状部品5が一定の間隔で整列し、粘着剤層とチップ状部品5との間の接着力は低下している。したがって、チップ状部品のピックアップを容易に行うことができる。
【0046】
チップ状部品のピックアップ方法は特に限定はされず、従来の突き上げ針を用いたピックアップ方法であってもよいが、本発明では、チップ状部品5と粘着剤層3との間の接着力が低いため、突き上げ針を使用せずに、吸引コレットのみによってチップ状部品のピックアップが可能になる。
【0047】
具体的には、チップ状部品5の位置をセンサーなどで検出して、図示しない吸引コレットを左右に移動して位置決めして下降させることによって、チップ状部品5が個々に吸引されてピックアップされ、別途用意したTABテープなどの電子部品実装用フィルムキャリアテープなどにダイボンディング(実装)される。この際、従来のように突き上げピンを使用しなくてすむので、チップ状部品の損傷や、チップ状部品下面への粘着剤の付着が防止できる。
【0048】
本発明のピックアップ方法は、突き上げ針による突き上げを行わないことができ、かつ周辺チップの飛散等が抑制されるため、特にTSVチップのピックアップに好適である。
【0049】
<吸引工程(5−1)>
本発明のピックアップ方法では、ダイシング工程後、加熱工程(3)の際にチップ状部品5および周辺チップ6を保持しているダイシングテープDTの背面を吸引部材に対面させて、ダイシングテープのチップ状部品5を保持する部分に対応する背面を吸引してもよい。
【0050】
本発明のピックアップ方法をこのようなプロセスとすることで、チップ状部品5がきわめて薄いチップや特殊な形状のTSVチップ等である場合に生じるチップ状部品5の飛散や傾きをも抑制することができる。また、ダイシングテープDTの加熱変形によるチップの剥離を進展させ、ピックアップを容易とすることができる。
【0051】
加熱工程(3)の際にチップ状部品5を保持する部分に対応するダイシングテープDTの背面を吸引固定した場合に、チップ状部品5が剥離して飛散することなどが抑制されることと、チップ状部品5の剥離が進展することという、一見相反する二つの現象が同時に起こることは驚くべきことである。ダイシングテープ背面の吸引の作用では、ダイシングテープの急激かつ過度の変形を抑制し、瞬間的に進行する速い剥離を抑制する効果と、加熱による変形とは異なる態様の変形を生じさせ、剥離を穏和に進展させる効果が並存していると考えられる。
【0052】
加熱工程(3)の際に吸引工程(5−1)を行う具体的な手法は、吸引工程(2)において、吸引および加熱を行うのを、チップ状部品5を保持する部分に対応する背面とする以外は、吸引工程(2)についてと同様の手順により行うことができる。
【0053】
吸引工程(5−1)を加熱工程(3)の際に行う場合には、吸引は加熱工程(3)の完了よりも前に終了してもよいし、加熱工程(3)の完了と同時に終了してもよいし、加熱工程(3)の完了後も継続していてもよい。チップ状部品5の飛散等を抑制する目的から、少なくとも加熱工程(3)の完了まで吸引を持続させることが好ましい。加熱工程(3)の完了後も吸引を継続する場合は、加熱工程(3)の際に吸引工程(5−1)を行うこと、および以下に述べる加熱工程(3)の後に行う吸引工程(5−2)の両方を行っていることになる。
【0054】
吸引工程(5−1)は、加熱工程(3)の際に行うことが吸引工程(2)と共通しているので、吸引工程(2)と同時に開始してもよいし、吸引工程(2)と同時に終了してもよい。
【0055】
<吸引工程(5−2)>
本発明のピックアップ方法では、ダイシング工程後、加熱工程(3)の完了後にチップ状部品5および周辺チップ6を保持しているダイシングテープDTの背面を吸引部材に対面させて、ダイシングテープのチップ状部品5を保持する部分に対応する背面を吸引してもよい。本発明のピックアップ方法をこのようなプロセスとすると、加熱工程(3)の際にチップ状部品5を保持する部分に対応するダイシングテープDTの背面が吸引固定されていない場合には、チップ状部品5の飛散等を抑制する効果はないものの、ダイシングテープDTの加熱変形によるチップの剥離を進展させ、ピックアップを容易とすることができる。本発明のピックアップ方法をこのようなプロセスとすることで、より大きなチップ状部品5であっても、突き上げ針による突き上げなしでピックアップを行うことが容易となる。
【0056】
加熱工程(3)の後に、吸引工程(5−2)を行う場合には、加熱工程(3)が完了した後に吸引工程(5−2)を開始することになる。その具体的な手法は、加熱工程(3)の際に、吸引工程(2)および吸引工程(5−1)を行った場合には、これらの吸引工程を引き続き行えばよい。また、ダイシングテープ背面側を吸引加熱装置の吸引部に載置した後、加熱手段を作動し、吸引工程(2)を行うとともに、吸引工程(5−1)を行わずに、ダイシングテープのチップ状部品5および周辺チップ6を保持する部分に対応する背面との接触部を加熱し、ダイシングテープが変形するのに十分な時間を経過した後に加熱装置を停止し、次いで吸引源を作動してダイシングテープのチップ状部品5を保持する部分に対応する背面への吸引を開始すればよい。吸引工程(5−2)を加熱工程の後に行う場合には、吸引工程(5−2)は剥離の進展が行われた後に終了すればよい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。ピックアップ方法を用いてチップをピックアップした際のピックアップ性を以下のように評価した。
【0058】
[ピックアップ性]
吸引コレットのみで剥離できるかを5回評価した。表中、「○」は、5回とも問題なくチップを剥離できたことを意味し、「△」は1回でも剥離できなかったことを意味する。
【0059】
(実施例1)
<ダイシングテープの製造>
(1)有機溶剤中でブチルアクリレート60重量部、メチルメタクリレート20重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート28重量部からなる共重合体100gに対して33.6gメタクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させて得られたポリマー100重量部、紫外線硬化型反応開始剤3重量部、架橋剤(イソシアナート系)1重量部との反応物を作成した。
【0060】
(2)上記(1)で得られた粘着剤組成物を、剥離処理された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム上に乾燥後の厚さが10μmとなるように塗布し、100℃で1分間加熱し、乾燥させた。次いで、熱収縮性ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ30μm、120℃における収縮率が50%)を、該剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム上の粘着剤層側に貼合し、収縮性粘着フィルムを作成した。
【0061】
(3)ブチルアクリレート80重量部、アクリル酸20重量部からなる共重合体100重量部と、架橋剤(イソシアナート系)0.1重量部、有機溶剤の混合物を作成した。
【0062】
(4)上記(3)で作成した粘着剤組成物を、非収縮性エチレン-メタクリル酸共重合体フィルム(厚さ80μm、120℃における収縮率が0.1%)上に乾燥後の厚さが10μmとなるように塗布し、100℃で1分間加熱して乾燥し、非収縮性粘着フィルムを作成した。次いで、(2)で作成した収縮性粘着フィルムの収縮性フィルム基材側に、非収縮性粘着フィルムの粘着剤層を貼合し、ダイシングテープを作成した。
【0063】
<チップの製造およびピックアップ>
直径8インチ、30μm厚みのシリコンウエハを、上記ダイシングテープから厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離除去して露出させた粘着剤面に貼着した。テープの外周部の粘着剤面を8インチウエハ用リングフレームに貼着して固定した。テープ上のウエハをダイシング装置(DFD651、ディスコ株式会社製)で、ダイシング(チップサイズ:12mm×8mm)し、チップ状部品および周辺チップを得た。ダイシング時には、ウエハとともにダイシングテープの粘着剤層表面から70μmの深さまで切り込むようにダイシングし、熱収縮性ポリエチレンテレフタレートフィルムを完全に切断した。
【0064】
ダイシング終了後、紫外線照射装置(Adwill RAD−2000m/8、リンテック株式会社製)を用いて、ダイシングテープに紫外線照射(230mW/cm、190mJ/cm)を行った。図6に示されるものと同様の吸引テーブルを110℃に加熱してチップ状部品を保持する部分および周辺チップを保持する部分、すなわち切断分離前のウエハ全体に対応するテープ背面を吸引し固定した(吸引圧85KPa(負圧)、60sec)。吸引を終了後、ダイシングテープを吸引テーブルから取り上げた。これにより、加熱工程(3)の際に吸引工程(2)および吸引工程(5−1)が同時に開始されて行われた。ウエハ外周部の小さいチップ状部分(周辺チップ)は飛散および傾きが起こらず、テープに固定されていた。その後、取り上げたダイシングテープから、吸引コレット(AG-I/50N-100kN、SHIMADZU製)で、ピンによる突き上げを行うことなくチップ状部品のピックアップを行った。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例2)
実施例1と同様に、テープの準備、ウエハの貼着、ダイシングおよび紫外線照射(230mW/cm、190mJ/cm)を行った。実施例1と同じ吸引テーブルにてチップ状部品を保持する部分および周辺チップを保持する部分、すなわち切断分離前のウエハ全体に対応するテープ背面を吸引し固定(吸引圧85KPa(負圧))した。吸引固定の後に、吸引状態を維持しつつ加熱(110℃、60sec)を行った以外は実施例1と同様の操作を行った。これにより、加熱工程(3)の際に吸引工程(2)および吸引工程(5−1)が行われた。ウエハ外周部の小さいチップ状部分(周辺チップ)は飛散および傾きが起こらず、テープに固定されていた。その後、取り上げたダイシングテープから、実施例1と同様にチップ状部品のピックアップを行った。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
実施例1と同様に、テープの準備、ウエハの貼着、ダイシングおよび紫外線照射(230mW/cm、190mJ/cm)を行った。紫外線照射の後に、テープを図5に示されるのと同様の構造の吸引テーブルにより加熱(110℃、60sec)した。その後、周辺チップを保持する部分に対応するダイシングテープの背面を吸引した(吸引圧85KPa(負圧)、60sec)。これにより、加熱工程(3)の後に吸引工程(2)が行われた。ウエハ外周部の小さいチップ状部分は加熱の最中に飛散した。その後、吸引テーブルから取り上げたダイシングテープから、実施例1と同様にチップ状部品のピックアップを行った。結果を表1に示す。
【0067】
(比較例2)
実施例1と同様に、テープの準備、ウエハの貼着、ダイシングおよび紫外線照射(230mW/cm、190mJ/cm)を行った。紫外線照射の後に、テープを図6に示されるのと同様の吸引テーブルにより加熱(110℃、60sec)を行った。次に、チップ状部品を保持する部分および周辺チップを保持する部分、すなわち切断分離前のウエハ全体に対応するテープ背面を吸引し剥離を進展させた(吸引圧85KPa(負圧)、60sec)。これにより、加熱工程(3)の後に吸引工程(2)および吸引工程(5−2)が行われた。ウエハ外周部の小さいチップ状部分は加熱の最中にテープから飛散した。その後、吸引テーブルから取り上げたダイシングテープから、実施例1と同様にチップ状部品のピックアップを行った。結果を表1に示す。
以上の結果を下表にまとめる
【表1】

【符号の説明】
【0068】
DT:ダイシングテープ
1:非収縮性フィルム
2:収縮性フィルム
3:粘着剤層
4:接着剤層
5:チップ状部品(半導体チップ)
6:周辺チップ
7:リングフレーム
SW:板状部材(半導体ウエハ)
8:回路
10:真空吸引加熱装置
11:吸引テーブル
12:バキュームライン
13,23,33:加熱装置
14:隔壁
15:分岐弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により変形する層を有するダイシングテープに貼着した板状部品を切断分離し、周辺チップとチップ状部品とを含む複数のチップを得るダイシング工程(1)と、
前記ダイシングテープを吸引可能な吸引部材に、前記周辺チップおよびチップ状部品を保持しているダイシングテープの背面を対面させて、
前記ダイシングテープの周辺チップを保持する部分に対応する背面を吸引する吸引工程(2)と、
該テープを変形させるための加熱を行う加熱工程(3)と、
前記チップ状部品の上面より、吸引コレットでチップ状部品を吸引把持して、ダイシングテープから取り上げるピックアップ工程(4)とを備え、
加熱工程(3)の際に、吸引工程(2)の吸引を行うチップ状部品のピックアップ方法。
【請求項2】
吸引工程(2)と、加熱工程(3)とを同時に開始する、請求項1に記載のピックアップ方法。
【請求項3】
さらに、ダイシングテープのチップ状部品を保持する部分に対応する背面を、加熱工程(3)の際に吸引部材によって吸引する吸引工程(5−1)を備える請求項1または2のチップ状部品のピックアップ方法。
【請求項4】
さらに、ダイシングテープのチップ状部品を保持する部分に対応する背面を、加熱工程(3)の後に吸引部材によって吸引する吸引工程(5−2)を備える請求項1または2のチップ状部品のピックアップ方法。
【請求項5】
板状部品が、回路を有する半導体ウエハであり、チップ状部品が半導体チップである請求項1〜4の何れかに記載のピックアップ方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−169548(P2012−169548A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31136(P2011−31136)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】