テラヘルツ波発生素子、テラヘルツ波検出素子、及びテラヘルツ時間領域分光装置
【課題】光励起により効率良く比較的高強度のテラヘルツ波を発生したり、パルス幅の比較的狭いテラヘルツ波を発生したりすることができる発生素子などを提供する。
【解決手段】テラヘルツ波発生素子は、電気光学結晶のコア部4を含む光導波路と、導波路を光が伝搬することで導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材7と、テラヘルツ波を反射する反射層6または反射面を有する。反射層6や反射面は、コア部4を挟んで光結合部材7の設けられた側とは反対側の位置に設けられる。反射面は、光導波路を伝搬する光の振幅が充分低下するだけの距離をコア部4から隔てた位置に設けられる。光結合部材7の出射面に対するテラヘルツ波の入射角がブリュースター条件を満たす様に設定されてもよい。同じ構成で逆過程によりテラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出素子として用いられる。
【解決手段】テラヘルツ波発生素子は、電気光学結晶のコア部4を含む光導波路と、導波路を光が伝搬することで導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材7と、テラヘルツ波を反射する反射層6または反射面を有する。反射層6や反射面は、コア部4を挟んで光結合部材7の設けられた側とは反対側の位置に設けられる。反射面は、光導波路を伝搬する光の振幅が充分低下するだけの距離をコア部4から隔てた位置に設けられる。光結合部材7の出射面に対するテラヘルツ波の入射角がブリュースター条件を満たす様に設定されてもよい。同じ構成で逆過程によりテラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出素子として用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯からテラヘルツ波帯(30GHz〜30THz)までの周波数領域の電磁波成分を含むテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生素子、テラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出素子、及び、それらのうち少なくとも一方を用いたテラヘルツ時間領域分光装置に関する。特には、レーザ光照射により前記周波数帯のフーリエ成分を含む電磁波の発生または検出を行う電気光学素子を含む発生または検出素子、及びそれを用いたテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)によるトモグラフィ装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ波を用いた非破壊なセンシング技術が開発されている。この周波数帯の電磁波の応用分野として、X線装置に代わる安全な透視検査装置を構成してイメージングを行う技術がある。また、物質内部の吸収スペクトルや複素誘電率を求めて分子の結合状態などの物性を調べる分光技術、キャリア濃度や移動度、導電率などの物性を調べる計測技術、生体分子の解析技術などが開発されている。テラヘルツ波の発生方法としては、非線形光学結晶を用いる方法が広く用いられる。非線形光学結晶の代表的なものとしては、LiNbOx(以後、LNとも言う)、LiTaOx、NbTaOx、KTP、DAST、ZnTe、GaSe、GaP、CdTeなどがある。テラヘルツ波の発生には2次の非線形現象を用いる。方式としては、周波数差を持つ2レーザ光の入射による差周波発生(Difference-Frequency Generation: DFG)が知られる。ここでは、周波数の異なる2レーザ光を入射した場合、その2レーザ光の差周波数に応じた周期を有する非線形分極が生じる。また、非線形光学結晶では、レーザ光の入射によりエネルギー状態が励起し、元のエネルギー状態に戻る際にエネルギー波が放射される。非線形光学結晶が非線形分極している場合、その分極の周波数に対応するエネルギー波が放射され、テラヘルツ波の周波数を有して分極しているとき、非線形光学結晶からテラヘルツ波が放射される。また、光パラメトリック過程による単色テラヘルツ波発生、フェムト秒パルスレーザ光の照射で光整流によりテラヘルツパルスを発生する方式なども知られる。
【0003】
この様な非線形光学結晶からテラヘルツ波を発生する過程として、電気光学的チェレンコフ放射が最近注目されている。これは、図9に示す様に、励起源であるレーザ光100の伝搬群速度が、発生するテラヘルツ波の伝播位相速度よりも速い場合に、衝撃波の様にテラヘルツ波101が円錐状に放出される現象である。光とテラヘルツ波の媒質(非線形光学結晶)中の屈折率の比により、テラヘルツ波の放射角θcは次式で決まる。
cosθc=vTHz/vg=ng/nTHz
ここで、vg、ngは夫々レーザ光の群速度、群屈折率、vTHz、nTHzは夫々テラヘルツ波の位相速度、屈折率を表す。これまでに、このチェレンコフ放射現象を用いて、波面を傾斜させたフェムト秒レーザ光をLNに入射させ光整流により高強度のテラヘルツパルスを発生させるという報告がある(非特許文献1参照)。また、波面傾斜の必要をなくすために、発生するテラヘルツ波の波長よりも十分小さい厚さを持つスラブ導波路を用いて、DFG方式により単色テラヘルツ波を発生させるという報告がある(特許文献1、非特許文献2参照)。
【0004】
この様な特許文献、非特許文献の例は、進行波励起によるテラヘルツ波発生であるため、異なる波源から発生したテラヘルツ波が放射方向で位相整合して強め合うことで取り出し効率を向上させるという提案に係る。この放射方式の特徴としては、非線形光学結晶を用いたものでは比較的高効率にできて高強度のテラヘルツ波を発生できる事、結晶特有のフォノン共鳴によるテラヘルツ領域の吸収を高周波側に選ぶことでテラヘルツ波の帯域を広くできる事などが挙げられる。これらの技術は、光伝導素子によるテラヘルツ発生に比べて発生帯域を広くでき、光整流を用いるテラヘルツパルス発生の場合にはパルス幅を狭くでき、例えばテラヘルツ時間領域分光装置に利用する場合に装置性能を向上できることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-204488号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Opt.Soc.Am.B,vol.25,pp.B6−B19,2008.
【非特許文献2】Opt.Express,vol.17,pp.6676−6681,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1、2に記載された方式では、結晶内に発生するテラヘルツ波のうち、一部の方向に発生するものだけを空気中に取り出している。チェレンコフ放射は、結晶を伝搬するレーザ光の周囲の全ての方向に発生している。従って、上記方式では、取り出し面から得られるテラヘルツ波は高々全体の半分程度しかなく、取り出せない成分は非線形結晶内の吸収により消失していた。そのため、テラヘルツ波の取り出し効率が制限されている。この様に、発生するテラヘルツ波の振幅増大を含む波形整形の制御について、充分と言い得る技術が得られていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明の一側面としての電気光学結晶を含むテラヘルツ波発生素子は、光を伝搬させる電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材と、反射層とを有する。前記反射層は、光導波路のコア部を挟んで光結合部材の設けられた側とは反対側の位置に設けられて前記発生するテラヘルツ波を反射する。また、上記課題に鑑み、本発明の電気光学結晶を含むテラヘルツ波発生素子は、光を伝搬させる電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材と、反射面とを有する。前記反射面は、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波を位相反転して反射するためのものである。そして、光導波路のコア部を挟んで光結合部材の設けられた側とは反対側において、光導波路を伝搬する光の振幅が光導波路のコア部における光の振幅の1/e2以下になるだけの距離をコア部から隔てた位置に設けられている。ここで、eは自然対数の底である。また、上記課題に鑑み、本発明の電気光学結晶を含むテラヘルツ波発生素子は、光を伝搬させる電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波を出射面を介して空間に取り出す光結合部材とを有する。そして、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波の電界の偏光方向が光結合部材の出射面に対してP偏光であり、前記出射面に対するテラヘルツ波の入射角がブリュースター条件を満たす様に設定されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、光励起により効率良く比較的高強度のテラヘルツ波を発生したり、パルス幅の比較的狭いテラヘルツ波を発生したりして、発生するテラヘルツ波の波形整形を柔軟に制御することができる発生素子を提供できる。本発明のその他の側面については、以下で説明する実施の形態で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態1及び実施例1の構造図。
【図2】本発明のトモグラフィ装置に係る実施形態の構成図。
【図3】本発明のトモグラフィ装置によりイメージングした断層像の例などを示す図。
【図4】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施例2の構造図
【図5】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態2の構造図。
【図6】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態3の構造図。
【図7】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態4の構造図。
【図8】本発明のトモグラフィ装置に係る実施形態5の構成図。
【図9】電気光学的チェレンコフ放射の概念図。
【図10】本発明による実施形態6となるテラヘルツ波検出素子の実施形態の構造図。
【図11】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態の構造図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電気光学結晶を含むテラヘルツ波発生素子は、上記の如き反射層または反射面を設けたり、若しくはブリュースター条件を満たす構成にしたりすることで、発生するテラヘルツ波の波形整形を制御する。この考え方に基づき、本発明のテラヘルツ波発生素子の基本的な構成は、上述した様な構成を有する。また、同じ構成で逆過程によりテラヘルツ波を検出することができる。なお、ここで用いる1次電気光学効果のための電気光学結晶は、2次の非線形性を持つものであり、一般に実用的な電気光学結晶と2次の非線形性を持つ非線形光学結晶はほぼ等価である。こうした構成の発生または検出素子を、テラヘルツ時間領域分光装置や、サンプルからの反射光を分析することでサンプルの内部構造をイメージングするトモグラフィ装置に用いることで、内部浸透厚さの向上や奥行き分解能などを向上させることができる。
【0012】
以下、図を用いて実施形態及び実施例を説明する。
(実施形態1)
本発明による実施形態1であるLN結晶より成るテラヘルツ発生素子について、図1を用いて説明する。図1において、(a)は斜視図、(b)は導波路部におけるA-A’断面図である。LN基板1はYカットニオブ酸リチウム基板であり、レーザ光の伝搬方向をLN結晶のX軸とし、Y軸及び伝搬方向(X軸)と直交する方向をZ軸としている(図1(a)に示した座標軸参照)。この様な構成にすることによって、2次非線形現象である電気光学的チェレンコフ放射によるテラヘルツ波発生を効率良く起こすことができる。すなわち、結晶軸は、2次非線形過程により発生するテラヘルツ波と伝搬光との位相整合が取れる様に設定され、2次非線形過程に関与する光波(テラヘルツ波と伝搬光)の波数ベクトルの間に位相整合条件が成り立っている。
【0013】
LN基板1上には、上下のクラッド部2,5とMgOドープLN結晶層から成るコア部4とによって、入射するレーザ光を全反射で伝搬させる導波路が形成されている。つまり、上下のクラッド部2,5の屈折率はコア部4の屈折率よりも低くしている。下部クラッド部2は、コア部4を張り合わせるための接着剤を兼ねていてもよい。なお、接着剤2は、張り合わせ法で作製した場合に必要であって、拡散などでドープ層を形成する場合には必ずしも必要でない。この場合でも、LN基板よりはMgOドープLN層の屈折率が高いため、基板1が下部クラッド部2となって導波路として機能する。すなわち、下記の光結合部材7のある側と反対側の基板1が下部クラッド部を兼ねる形態、言い換えれば下部クラッド部2のみを有する形態でもよい。一方、上部クラッド部5は、LNよりも屈折率が小さい樹脂や無機酸化物などが好適に用いられる。上部クラッド部5は、光結合部材7を固定するための接着剤を兼ねていてもよい。導波路の横方向の構造は、Ti拡散により高屈折率化して周囲の領域3と屈折率差を設ける方法や、エッチングによりリッジ形状に導波路コア部4を形成して樹脂等で周囲の領域3を埋め込む方法などにより形成することができる。ここでは、光の閉じ込めを強くするために導波路コア部4の横方向(Z軸方向)にも導波路構造を形成したが、コア部4が横に均一に広がり、閉じ込め領域のないスラブ導波路としてもよい。導波路の上には、発生したテラヘルツ波を外部に取り出すプリズム、回折格子、フォトニック結晶等の光結合部材7が設けられている(ここではプリズムを図示)。プリズムは、広帯域に亘るテラヘルツ波を取り出せるので、好ましい光結合部材7である。
【0014】
更に、発生するテラヘルツ波を反射するための反射層6が導波路コア部4と下部クラッド部2との間に形成されている。この反射層6は、入射するレーザ光の光伝搬が正常に行なわれるために、光透過性導電膜が好適に用いられる。この様な膜には、ITO(InSnO)、InO、SnO、ZnOなどがある。反射層6は、MgOドープLN結晶層を張り合わせる前に表面に蒸着しておくことで容易に形成できる。或いは、金属細線によるメッシュまたはワイヤグリッド構造と樹脂により反射層6を構成してもよく、これにより、同様に、光は透過して且つテラヘルツ波を効果的に反射することができる。その他、ドーピングした半導体層、樹脂、ポーラス化した構造でもよい。更には、中空にくり抜いたエアスペーサ層をコア部4と下部クラッド部2との間に形成してコア部底部にフレネル反射による反射層を設けてもよい。要するに、一般的に反射層として使用できるものであれば、反射層6として用いることができる。キャリアドープした半導体層を用いる場合、その電子密度などで決まるプラズマ周波数をテラヘルツ波の最大周波数より高く設定するのが好ましい。反射層の厚さは、好適な反射が達成できる様に、テラヘルツ波の反射層内への侵入長を考慮して設計すればよい。
【0015】
図1の導波路にZ軸に平行な偏波すなわち水平偏波でレーザ光を入射させてX軸に沿って伝搬させると、背景技術で示した非特許文献2に記載の原理或いは超短パルス光源を用いた光整流により、結晶表面からテラヘルツ波が発生する。発生したテラヘルツ波は、光結合部材7を介して空間に取り出すことができる。LNでの光/テラヘルツ波の屈折率差で決まるチェレンコフ放射角は凡そ65度であり、プリズム7の場合、導波路でテラヘルツ波が全反射せずに空気中に取り出せるプリズム材料としては、例えばテラヘルツ波の損失が少ない高抵抗Siが好適である。この場合、テラヘルツ波が基板表面となす角θclad(図1(b)参照)は凡そ49度である。このとき、反射層6があるために、基板1側に放射されるテラヘルツ波も図1(b)に描かれている様に反射して外部に取り出せることになり、取り出し効率を向上させられる。
【0016】
コア部4として必要な厚さは、取り出したいテラヘルツ波の最大周波数に対する発生素子内での等価波長の半分(すなわちコア部4の厚さに相当する位相ずれが、発生したテラヘルツ波の等位相面において反転して打ち消し合いが生じない程度の厚さ)以下である。一方、上部クラッド層5の厚さは、導波層4をレーザ光が伝搬する際のクラッド層として機能するのに十分厚く、且つ光結合部材7でテラヘルツ波を外部に放射する際に多重反射や損失の影響が無視できる程度に薄いことが望ましい。前者に関しては、導波層4をコアとし低屈折率層2,5をクラッドとした導波路において、光結合部材7との界面での光強度がコア領域の光強度の1/e2(eは自然対数の底)以下になる様な厚さ以上であることが望ましい。また後者については、外部に放射させる最大周波数におけるテラヘルツ波の低屈折率バッファ層5における等価波長λeq(THz)に対して、1/10程度の厚さ以下に上部クラッド層5がなっていることが望ましい。波長の1/10のサイズの構造体は、一般的にその波長の電磁波に対して反射、散乱、屈折などの影響が無視できると看做されるからである。ただし、前記望ましい厚さの範囲外でも、本発明のテラヘルツ波発生素子からのテラヘルツ波発生は可能である。
【0017】
以上の様に、導波路の構成、電気光学結晶の軸方向、反射層の構成などを設定することで、光励起及びチェレンコフ放射によるテラヘルツ波を効率良く高強度で発生させることができる。
【0018】
上記素子をテラヘルツ波発生素子として用いて構成したテラヘルツ時間領域分光システム(THz-TDS)によるトモグラフィ装置の例を図2(a)に示す。ここでは、励起光源として光ファイバを含むフェムト秒レーザ20を用い、分岐器21を介してファイバ22及びファイバ23から出力を取り出す。典型的には、中心波長1.55μmでパルス幅20fs、繰り返し周波数50MHzのものを用いたが、波長は1.06μm帯などでもよく、パルス幅、繰り返し周波数はこれらの値に限らない。また、出力段のファイバ22、23は、最終段の高次ソリトン圧縮のための高非線形ファイバや、テラヘルツ発生器及び検出器までに至る光学素子等による分散を補償するためのプリチャープを行う分散ファイバを含んでいてもよい。これらは偏波保持ファイバであることが望ましい。
【0019】
テラヘルツ波発生側のファイバ22からの出力は、前述した本発明によるチェレンコフ放射型素子24(チェレンコフ型の位相整合方式の素子24)の導波路に結合させる。その際、ファイバ先端にセルフォックレンズを集積化させたり、先端を加工したピッグテール型としたりして、出力が素子24の導波路の開口数以下になる様に構成して結合効率を上げることが望ましい。レンズ(不図示)を用いて空間結合にしてもよい。これらの場合に、それぞれの端部に無反射コーティングを施せば、フレネルロスの低減、不要な干渉ノイズの低減につながる。若しくは、ファイバ22と素子24の導波路のNA及びモードフィールド径が近くなる様に設計すれば、突き当てによる直接結合(バットカップリング)として接着してもよい。この場合は、接着剤を適切に選ぶことで、反射による悪影響を低減することができる。なお、前段のファイバ22やファイバレーザ20で、偏波保持でないファイバ部分が含まれる場合、インライン型の偏波コントローラによりチェレンコフ放射型素子24への入射光の偏波を安定化させることが望ましい。ただし、励起光源はファイバレーザに限るものではなく、ファイバレーザでない場合には偏波の安定化などのための対策は軽減される。
【0020】
発生したテラヘルツ波は、図2(a)に示した周知のTHz-TDS法による構成によって検出される。すなわち、放物面鏡26aによって平行ビームにしてビームスプリッタ25で分岐し、一方は、放物面鏡26bを介してサンプル30に照射する。サンプル30から反射されたテラヘルツ波は放物面鏡26cで集光され、光伝導素子による検出器29に到達し受信される。光伝導素子は、典型的には低温成長GaAsにダイポールアンテナを形成したものを用い、光源20が1.55μmであれば、不図示のSHG結晶を用いて倍波を生成して検出器29のプローブ光とする。このとき、パルス形状を維持するために、0.1mm程度の厚さのPPLN(周期的極性反転リチウムナイオベイト)を用いることが望ましい。光源20が1μm帯の場合には、InGaAs単層或いはMQWで構成した光伝導素子の検出器29において、倍波を生成することなく、基本波をプローブ光に利用することが可能である。本装置では、プローブ光側には例えばオプティカルチョッパー35を入れて変調し、チョッパーを駆動する変調部31と検出器29から増幅器34を介して検出信号を取得する信号取得部32とを用いて同期検波できる様に組まれている。そして、データ処理・出力部33では、PCなどを用いて遅延部である光学遅延器27を移動させながらテラヘルツ信号波形を取得する様になっている。遅延部は、発生手段(発生部)である素子24におけるテラヘルツ波発生時と検出手段(検出部)である検出器29におけるテラヘルツ波検出時との間の遅延時間を調整できれば、どの様なものでもよい。以上に述べた様に、本装置は、テラヘルツ波を発生するための本発明のテラヘルツ波発生素子を含む発生手段と、発生手段から放射されたテラヘルツ波を検出するための検出手段と、遅延部を備える。そして、この装置は、検出手段が、発生手段から放射されサンプルで反射されて来たテラヘルツ波を検出し、サンプルからの反射光を分析することでサンプルの内部構造をイメージングするトモグラフィ装置として構成されている。
【0021】
図2(a)に図示の系では、測定対象であるサンプル30からの反射波と照射テラヘルツ波は同軸であり、ビームスプリッタ25の存在でテラヘルツ波のパワーは半減する。よって、図2(b)の様にミラー26の数を増やして非同軸の構成にし、サンプル30への入射角が90度でなくなるものの、テラヘルツ波のパワーを増やす様にしてもよい。
【0022】
本装置を用いて、サンプル30の内部に材料の不連続部があれば、取得する信号において、不連続部に相当する時間位置に反射エコーパルスが現れ、サンプル30を1次元でスキャンすれば断層像が得られ、2次元スキャンすれば3次元像を得ることができる。本実施形態の構成により強いテラヘルツ波が発生できるので、例えばトモグラフィではサンプル30の深さ方向の浸透厚さを増大することができる。また、モノパルスで300fs以下の比較的細いテラヘルツパルスを得ることができるので、奥行き分解能を向上させられる。更に、ファイバを用いた励起レーザを照射手段とできるので、装置の小型、低コスト化が可能となる。ここでは、材料としてLN結晶を用いたが、その他の電気光学結晶として、背景技術のところで述べたLiTaOx、NbTaOx、KTP、DAST、ZnTe、GaSe、GaP、CdTeなどを用いることもできる。このとき、LNではテラヘルツ波と励起光に対して背景技術で説明した屈折率差がありノンコリニアで発生するテラヘルツ波が取り出せるが、他の結晶では必ずしも差が大きくないので、取り出しが難しい場合がある。しかし、導波路型にしてテラヘルツ発生部とプリズムが近接している場合、電気光学結晶よりも大きい屈折率を持つプリズム(例えばSi)を用いればチェレンコフ放射の条件(vTHz<vg)を満たし、テラヘルツ波を外部に取り出すことができる。
【0023】
(実施例1)
実施形態1のタイプである実施例1を説明する。本実施例では、図1に示した素子構造において、屈折率nが凡そ1.5の下部クラッド部2が厚さ2μmの光学接着剤で形成され、MgOドープのコア部4が厚さ3.8μm、幅5μmで形成されている。また、上部クラッド部5が、2μm厚の下部クラッド部2と同様の光学接着剤で形成されている。本実施例では、例えば7THzまで対応するとして、自由空間での波長は凡そ43μmになる。ここで、コア部4で屈折率2.2(LN:MgO)、上部クラッド部5で屈折率1.5であると仮定すると、実施形態1で説明した様に、コア部4の厚さは等価波長λeq_core(凡そ43/2.2=19.5)の1/2以下となる様に設計している。すなわち、ほぼ9.8μm以下に設計している。また、クラッド部の厚さはλeq_clad(凡そ43/1.5=28.7)の1/10以下、すなわち2.9μm以下となる様に設計している。更に、高抵抗Siによる図1(b)のθが41度のプリズム7が接着されている。この場合、θの角度とテラヘルツ波の放射角はほぼ余角の関係となり、テラヘルツ波は、プリズム7の傾斜面(出射面)からほぼ垂直に出射し透過率が最大になる。ただし、θについては必ずしも90−θcladと等しい必要は無く、またテラヘルツ波の出射も垂直でなくてもよい。
【0024】
本実施例では、反射層6としてITO(厚さ100nm)を用いる。このときITOの光に対する屈折率は2.2程度であり、伝搬する光に対して損失、屈折等の影響をあまり与えない。一方で、テラヘルツ波に対する反射率は90%以上が可能となる。この様にコア部4に近接して反射層6を備える場合には、その光に対する屈折率がコア部或いはクラッド部の屈折率とほぼ等しい、若しくはその間の屈折率であることが望ましい。図2のシステムでサンプル30に照射したテラヘルツパルス波形の例と取得した断層像の例を図3に示す。図3(a)より、パルス幅270fs程度のモノパルスが得られていることが分かる。また、図3(b)は、厚さ凡そ90μmの紙を3枚重ねたサンプルで1方向のスキャンを行なって得た断層像である。6つの層(白線)が見えるのは、紙間には空気を挟んで隙間があり、各紙の表裏が界面として捉えられるためである。
【0025】
(実施例2)
同じく実施形態1のタイプである実施例2を説明する。本実施例では、図4の様に反射層に金属グリッドを含む層を用いる。図4では反射層41が分かり易くなる様にコア部45まで描いてあり、上部クラッド層より上側は省いてある。また、本実施例では、リッジ状の導波路でなく、横方向はレーザ光照射領域43よりも広がったスラブ導波路となっている。図4において、40はLN基板、42は下部クラッド層となる低屈折率の樹脂接着剤、41はグリッド状の金属パターン44を持つ反射層、45は、実施形態1で述べたMgOドープLN層のコア部である。
【0026】
ここで、金属パターン44は、例えば厚さ100nm、幅10μm、間隔10μmのAuである。この様なグリッドが樹脂層に埋め込まれて反射層41を構成している。この場合、グリッドに平行な成分の電界を持つテラヘルツ波が反射される一方で、導波路を伝搬するレーザ光に対する相互作用は小さい。グリッドの代わりに金属メッシュを使用することもできる。一般に、金属グリッドやメッシュ構造は、ミリ波からテラヘルツ波帯においてフィルタ特性を持つ。上記の金属の幅や間隔は、ここで取り扱う10THzの信号成分までは反射率が90%以上である様に設計している。また、グリッドの場合は強い偏波依存性を持つ。そのため、金属パターンによる反射層41を用いる場合には、発生するテラヘルツ波の周波数スペクトルや偏光を調整することが可能となる。
【0027】
(実施形態2)
実施形態2を説明する。本実施形態では、図5に示す様にMgOドープLN結晶によるコア部4の結晶軸を変更している。その他の構造は実施形態1と同じであり、同じ部分には同一符号を付している。Z軸が垂直になったことで、入射レーザ光の偏波も垂直に合わせ、発生するテラヘルツ波も垂直方向の偏波となる。この場合、光結合部材7としてプリズムを用いていれば、テラヘルツ波の電界の偏光方向が光結合部材7の出射面に対してP偏光となりP偏光入射になる。よって、テラヘルツ波の放射方向に対してブリュースター角となる様な面をプリズム7の出射面が構成していれば、テラヘルツ波を外部へ取り出す際の内部反射を防ぐことができ、出射面に無反射コーティング等がなくても透過率を大きくできるという利点がある。
【0028】
光結合部材7としてSiを用いた場合、テラヘルツ波に対する屈折率を3.4とするとブリュースター角はarctan(1/3.4)≒16°となる。従って、この場合は、図1(b)で示したθの値としては、180−θclad−(90−16)=57°に調整することでブリュースター条件が満たされ、光結合部材7の出射面を介するテラヘルツ波の透過率が最大になる。
【0029】
なお、発生するテラヘルツ波の偏波方向が本実施形態の条件を満たす場合には、上述した様なブリュースター角の設定は、反射層6がない構成の発生素子の場合にも有効であり、内部反射を防いでテラヘルツ波を外部へ取り出すことができる。
【0030】
(実施形態3)
実施形態2を説明する。本実施形態では、図6に示した様にコア部4より離れた位置に反射層(反射面を形成する層)50を設けたものである。この反射面は、光導波路のコア部4を挟んで光結合部材7の設けられた側とは反対側において、光導波路を伝搬する光の振幅がコア部4における光の振幅の1/e2以下になるだけの距離をコア部4から隔てた位置に設けられる。その他の構成は、反射層6が無いほかは、実施形態1と同じであり、同じ部分には同一符号を付している。
【0031】
ここでは、クラッド層2と反射層50の界面で位相反転して反射する成分と、反射しないで直接放射される成分との間に時間差を設けている。これにより、その合成波は、図6にイメージ的に示した様に、合成されない場合に比べてパルス幅が狭くなる部分ができる様に調整できる。そのために、反射して遅延する時間としては、例えば元のパルス幅(ここでは250fsとする)の凡そ半分(例えば130fs)に設定する。この場合、下部クラッド層2の厚さdで反射面の位置がほぼ決まるとして、次の式が成り立つ。
2×d/sinθc=130×10-15×c/n2
ここで、n2は下部クラッド層2の屈折率、θcは屈折率差で決まるテラヘルツの取り出し角(背景技術のところで述べた)、cは光速である。θcはLNで65°であり、n2=1.5とすると、dは凡そ12μmとなる。
【0032】
反射層50としては、ドーピングした半導体、例えば1017cm-3以上にドープしたn型Si層などが用いられる。なお、この層には、光導波層を伝搬する光のエネルギーは殆ど到達しないため、光損失等を考慮する必要は無い。従って、TiOなどの高屈折率層や金属層などで反射層50を設けても良い。
【0033】
(実施形態4)
これまでは、主に、励起光にフェムト秒レーザ光を用いて光整流によりテラヘルツパルスを発生させる例を説明してきた。これに対して、実施形態4では、2つの異なる発振周波数ν1、ν2を持つレーザ光を入射させ、差周波に相当する単色のテラヘルツ波を出射する。レーザ光源としては、Nd:YAGレーザ励起のKTP-OPO(Optical-Parametric-Oscillator)光源(これは2波長の光を出力する)や、2台の波長可変レーザダイオードを用いることができる。
【0034】
図7は本実施形態の断面図である。LN基板60上に、接着剤層61、反射層65、MgOドープLN導波層62、低屈折率バッファ層63が積層されている。実施形態1と同様に、5μm幅の導波路が形成されている。本実施形態では、テラヘルツ波の出力を大きくするために、導波路長を40mmとして、複数の光結合部材64が備えられている。各光結合部材64は例えばほぼ1cmの長さで、図7の様に4つを配することができる。複数の光結合部材64で光結合部材を構成することでその全体の容積が小さくなり、テラヘルツ波が光結合部材を透過する距離を低減できて損失をより少なくできる。反射層65の材料は実施形態1と同様である。
【0035】
本実施形態において、入射する光の周波数差|ν1−ν2|を0.5THzから7THzとしたとき、その範囲で放射テラヘルツ波の周波数を可変にできる。本実施形態では、特定のテラヘルツ帯の周波数で検査やイメージングを行う応用、例えば、医薬品の特定物質の吸収スペクトルに周波数を合わせてその物質の含有量を調べるなどの検査が可能となる。
【0036】
(実施形態5)
これまでの実施形態や実施例では、図8に示す様なLNによるテラヘルツ波発生素子71の光導波路の終端部は、そこから出る光がノイズ源にならない様に、粗面にしたり、斜めカットして光を外部に取り出したり、ARコーティングしたりしている。これに対して、実施形態5では、終端部80に斜めカットやARコーティングなどの処理を施して、終端部80から出射される光をプローブ光として再利用する。すなわち、本実施形態では、テラヘルツ波発生素子71の光導波路終端部80からの光を検出手段へのプローブ光として利用し、遅延部は、テラヘルツ波発生素子71の導波路への光の到達時間と検出手段へのプローブ光の到達時間との間の遅延時間を調整する。
【0037】
図8は、図2と同様にTHz-TDS方式のトモグラフィ装置を示す図であって、電気システム部は省略してある。図2の実施形態と異なる点は、ファイバ分岐部を備えず、ファイバを含む励起レーザ70の出力を全てテラヘルツ波発生素子71に入射していることである。テラヘルツ波発生素子71から発生したテラヘルツ波は、図2の実施形態と同様に放物面鏡、ハーフミラー77を通してサンプル78に照射される。サンプル78からの反射光はテラヘルツ検出部74に入射し、信号取得が行われる。一方、テラヘルツ波発生素子71を伝搬したレーザ光の一部は、終端部80から再び出射し、ミラー72、遅延部73、レンズ75を通して検出部74のプローブ光として利用される。
【0038】
この様な形態にした場合、励起レーザ光の分岐部を必要としないので構成点数を減らすことができると共に、効率良く励起レーザ70のパワーを利用することができる。
【0039】
(実施形態6)
本実施形態では、同構造の素子をテラヘルツ波検出素子として機能させるものである。すなわち図10に示すように、LN基板81上に接着剤層82、反射層86、MgOドープLN結晶層から成る導波層84、低屈折率バッファ層85によって、入射するレーザ光を全反射で伝播させる導波路が形成される。さらに光結合部材87を備えてテラヘルツ波が入射される構造になっている。ここでは、超短パルスレーザ光をこれまでの実施形態とは反対側の面から、偏波89を直線偏光で結晶のZ軸から傾けて(例えば45度)入射させる。その場合、出射されたレーザ光は、電気光学結晶の複屈折性によって電界のZ軸成分とY軸成分には位相差が生じて、出射された空間では楕円偏波となって伝播する。このような自然複屈折による位相差は結晶の種類や入射偏波方向、導波路長さによって異なり、位相差ゼロの構成にすることもできる。
【0040】
ここに、光結合部材、例えばSiプリズム87によって偏波の主軸がZ軸のテラヘルツパルが実施形態1などで出射していた面から入射する。すると、テラヘルツ波発生の逆過程で、導波路を伝播する超短パルスレーザ光とテラヘルツ波の相互作用を導波路全体に渡って行わせることが可能となる。相互作用としては、テラヘルツ電磁界が電気光学結晶に与える1次電気光学効果(ポッケルス効果、即ち2次非線形過程の一種の効果)により、導波路のZ軸の屈折率が変化して伝播光の偏波状態が変化することである。具体的にはレーザ光の電界のZ軸成分とY軸成分の位相差が誘導複屈折により変化し、楕円偏波の楕円率や主軸の方向が変化する。このレーザ光の伝播状態の変化を外部の偏光素子91及び光検出器92、93で検出すれば、テラヘルツ波の電界振幅の大きさを検出できることになる。本実施形態では、ウォラストンプリズム91で2つの偏光を分離して、2つの光検出器92、93の差動増幅によりS/N比を向上させている。差動増幅は必須のものではなく、91を偏光板として1つの光検出器のみで強度を検出してもよい(不図示)。
【0041】
前記自然複屈折の補償のために位相補償板(λ/4板など、不図示)を出射端と偏光素子91との間に追加してもよい。このように検出器として本発明の素子を用いることで、伝搬するレーザ光に影響を与えないテラヘルツ波の反射層により、結合するテラヘルツ波を増大させることができ、結果として感度を向上させることができる。本素子を用いてこれまでの実施形態で説明したようなテラヘルツ時間領域分光装置、及びトモグラフィ装置を構築することができる。その際の発生素子は、本発明のようなチェレンコフ型の位相整合方式を使用した素子でもよいし、従来の光伝導素子等を用いた発生素子など、何でもよい。
【0042】
本実施形態では、光入射を、発生とは逆側の端部より行ったが、発生と同じ側から入射してもよい。その場合は整合する長さが小さくなるため信号強度が小さくなる。光導波路の形態としては、実施例1のようなリッジ形状としたが、実施例2のようなスラブ導波路としてもよい。また、パルスレーザ光でテラヘルツパルスを検出する事例について説明したが、実施形態4のように2つの周波数のレーザ光を入射させてその差周波成分の単色のテラヘルツ波を検出することもできる。その場合は、差周波を変化させれば、所望の周波数のテラヘルツ波をフィルタのように切り出して電界振幅を検出することができる。
【0043】
テラヘルツ波の検出の仕方としては、結合したテラヘルツ波による1次電気光学効果で光の偏波状態が変化するのを検出する方式について述べた。しかし、光の伝播状態の変化として、導波路を伝播する光の位相変化や、導波路を伝播する光の周波数と、結合したテラヘルツ波の周波数の差周波の光信号を検出する、すなわち光のビート信号を検出する方式でもよい。
【0044】
(実施形態7)
本発明の第7の実施形態を図11を用いて説明する。本実施形態ではレーザ光を伝搬させる導波層96がサンドイッチ型のスラブ導波路になっているとともに、導波層を保持するLN基板がない構造になっている。導波路長は例えば5mmとなっている。なお、図11は図1とは異なり、プリズム側が下側になるような図を示している。これは、次の様にして製造して実現可能である。図11(b)のように、プリズム94の材料である基体の高抵抗Si基板94’に低屈折率バッファ層となる接着剤(実施形態1と同様)95’を用いて導波層となるMgOドープLN結晶基板96’を接着する。そして、LN結晶側を導波層の厚さまで研磨した貼り合わせウエハ99を準備する。研磨後には、実施形態1に示したような反射層となる光透過性導電膜97、及び保護も兼ねたSiO2などの酸化膜や樹脂などの低屈折率層98を表面に成膜することが望ましい。この低屈折率層98を備えない場合でも、空気の屈折率が低いために導波層への光閉じ込めは可能である。
【0045】
上記の第一の工程の後に、Siプリズムは研磨か化学エッチングにより傾斜部を作製すればよい。この第二の工程では、例えば表面が(100)面の(100)Si基板の場合に、周知のウエットエッチング(KOHなど)を行えば、55度の傾斜をもつ(111)面が出現する。理想面の41度から14度ずれているが、表面の反射ロス(フレネルロス)の増大は軽微である。もちろん41度の面を出すために傾斜基板を用いたりしてもよい。ここで、入射する光は、44のように楕円状であってもよい。その場合には、レーザ光源より結合させるためのレンズに棒状のロッドレンズやシリンドリカルレンズを用いて、導波路の層構造の垂直方向を絞る形にしてもよい。テラヘルツ波の発生、検出方法は実施形態1から6と同様である。
【0046】
本実施形態ではスラブ導波路にしたことで、プローブ光の結合が容易になったこと、テラヘルツ波の集光が十分でない場合でも相互作用領域を広く取れるなどのメリットがある。もちろん同様にSi基板に張り付けた形態から作製する場合にもリッジ導波路形状にすることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独で或いは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
2、5‥クラッド部、4‥コア部、6‥反射層、7‥光結合部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯からテラヘルツ波帯(30GHz〜30THz)までの周波数領域の電磁波成分を含むテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生素子、テラヘルツ波を検出するテラヘルツ波検出素子、及び、それらのうち少なくとも一方を用いたテラヘルツ時間領域分光装置に関する。特には、レーザ光照射により前記周波数帯のフーリエ成分を含む電磁波の発生または検出を行う電気光学素子を含む発生または検出素子、及びそれを用いたテラヘルツ時間領域分光法(THz-TDS)によるトモグラフィ装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テラヘルツ波を用いた非破壊なセンシング技術が開発されている。この周波数帯の電磁波の応用分野として、X線装置に代わる安全な透視検査装置を構成してイメージングを行う技術がある。また、物質内部の吸収スペクトルや複素誘電率を求めて分子の結合状態などの物性を調べる分光技術、キャリア濃度や移動度、導電率などの物性を調べる計測技術、生体分子の解析技術などが開発されている。テラヘルツ波の発生方法としては、非線形光学結晶を用いる方法が広く用いられる。非線形光学結晶の代表的なものとしては、LiNbOx(以後、LNとも言う)、LiTaOx、NbTaOx、KTP、DAST、ZnTe、GaSe、GaP、CdTeなどがある。テラヘルツ波の発生には2次の非線形現象を用いる。方式としては、周波数差を持つ2レーザ光の入射による差周波発生(Difference-Frequency Generation: DFG)が知られる。ここでは、周波数の異なる2レーザ光を入射した場合、その2レーザ光の差周波数に応じた周期を有する非線形分極が生じる。また、非線形光学結晶では、レーザ光の入射によりエネルギー状態が励起し、元のエネルギー状態に戻る際にエネルギー波が放射される。非線形光学結晶が非線形分極している場合、その分極の周波数に対応するエネルギー波が放射され、テラヘルツ波の周波数を有して分極しているとき、非線形光学結晶からテラヘルツ波が放射される。また、光パラメトリック過程による単色テラヘルツ波発生、フェムト秒パルスレーザ光の照射で光整流によりテラヘルツパルスを発生する方式なども知られる。
【0003】
この様な非線形光学結晶からテラヘルツ波を発生する過程として、電気光学的チェレンコフ放射が最近注目されている。これは、図9に示す様に、励起源であるレーザ光100の伝搬群速度が、発生するテラヘルツ波の伝播位相速度よりも速い場合に、衝撃波の様にテラヘルツ波101が円錐状に放出される現象である。光とテラヘルツ波の媒質(非線形光学結晶)中の屈折率の比により、テラヘルツ波の放射角θcは次式で決まる。
cosθc=vTHz/vg=ng/nTHz
ここで、vg、ngは夫々レーザ光の群速度、群屈折率、vTHz、nTHzは夫々テラヘルツ波の位相速度、屈折率を表す。これまでに、このチェレンコフ放射現象を用いて、波面を傾斜させたフェムト秒レーザ光をLNに入射させ光整流により高強度のテラヘルツパルスを発生させるという報告がある(非特許文献1参照)。また、波面傾斜の必要をなくすために、発生するテラヘルツ波の波長よりも十分小さい厚さを持つスラブ導波路を用いて、DFG方式により単色テラヘルツ波を発生させるという報告がある(特許文献1、非特許文献2参照)。
【0004】
この様な特許文献、非特許文献の例は、進行波励起によるテラヘルツ波発生であるため、異なる波源から発生したテラヘルツ波が放射方向で位相整合して強め合うことで取り出し効率を向上させるという提案に係る。この放射方式の特徴としては、非線形光学結晶を用いたものでは比較的高効率にできて高強度のテラヘルツ波を発生できる事、結晶特有のフォノン共鳴によるテラヘルツ領域の吸収を高周波側に選ぶことでテラヘルツ波の帯域を広くできる事などが挙げられる。これらの技術は、光伝導素子によるテラヘルツ発生に比べて発生帯域を広くでき、光整流を用いるテラヘルツパルス発生の場合にはパルス幅を狭くでき、例えばテラヘルツ時間領域分光装置に利用する場合に装置性能を向上できることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-204488号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Opt.Soc.Am.B,vol.25,pp.B6−B19,2008.
【非特許文献2】Opt.Express,vol.17,pp.6676−6681,2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1、2に記載された方式では、結晶内に発生するテラヘルツ波のうち、一部の方向に発生するものだけを空気中に取り出している。チェレンコフ放射は、結晶を伝搬するレーザ光の周囲の全ての方向に発生している。従って、上記方式では、取り出し面から得られるテラヘルツ波は高々全体の半分程度しかなく、取り出せない成分は非線形結晶内の吸収により消失していた。そのため、テラヘルツ波の取り出し効率が制限されている。この様に、発生するテラヘルツ波の振幅増大を含む波形整形の制御について、充分と言い得る技術が得られていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に鑑み、本発明の一側面としての電気光学結晶を含むテラヘルツ波発生素子は、光を伝搬させる電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材と、反射層とを有する。前記反射層は、光導波路のコア部を挟んで光結合部材の設けられた側とは反対側の位置に設けられて前記発生するテラヘルツ波を反射する。また、上記課題に鑑み、本発明の電気光学結晶を含むテラヘルツ波発生素子は、光を伝搬させる電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材と、反射面とを有する。前記反射面は、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波を位相反転して反射するためのものである。そして、光導波路のコア部を挟んで光結合部材の設けられた側とは反対側において、光導波路を伝搬する光の振幅が光導波路のコア部における光の振幅の1/e2以下になるだけの距離をコア部から隔てた位置に設けられている。ここで、eは自然対数の底である。また、上記課題に鑑み、本発明の電気光学結晶を含むテラヘルツ波発生素子は、光を伝搬させる電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波を出射面を介して空間に取り出す光結合部材とを有する。そして、光導波路を伝搬する光により光導波路から発生するテラヘルツ波の電界の偏光方向が光結合部材の出射面に対してP偏光であり、前記出射面に対するテラヘルツ波の入射角がブリュースター条件を満たす様に設定されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、光励起により効率良く比較的高強度のテラヘルツ波を発生したり、パルス幅の比較的狭いテラヘルツ波を発生したりして、発生するテラヘルツ波の波形整形を柔軟に制御することができる発生素子を提供できる。本発明のその他の側面については、以下で説明する実施の形態で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態1及び実施例1の構造図。
【図2】本発明のトモグラフィ装置に係る実施形態の構成図。
【図3】本発明のトモグラフィ装置によりイメージングした断層像の例などを示す図。
【図4】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施例2の構造図
【図5】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態2の構造図。
【図6】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態3の構造図。
【図7】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態4の構造図。
【図8】本発明のトモグラフィ装置に係る実施形態5の構成図。
【図9】電気光学的チェレンコフ放射の概念図。
【図10】本発明による実施形態6となるテラヘルツ波検出素子の実施形態の構造図。
【図11】本発明のテラヘルツ波発生素子に係る実施形態の構造図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電気光学結晶を含むテラヘルツ波発生素子は、上記の如き反射層または反射面を設けたり、若しくはブリュースター条件を満たす構成にしたりすることで、発生するテラヘルツ波の波形整形を制御する。この考え方に基づき、本発明のテラヘルツ波発生素子の基本的な構成は、上述した様な構成を有する。また、同じ構成で逆過程によりテラヘルツ波を検出することができる。なお、ここで用いる1次電気光学効果のための電気光学結晶は、2次の非線形性を持つものであり、一般に実用的な電気光学結晶と2次の非線形性を持つ非線形光学結晶はほぼ等価である。こうした構成の発生または検出素子を、テラヘルツ時間領域分光装置や、サンプルからの反射光を分析することでサンプルの内部構造をイメージングするトモグラフィ装置に用いることで、内部浸透厚さの向上や奥行き分解能などを向上させることができる。
【0012】
以下、図を用いて実施形態及び実施例を説明する。
(実施形態1)
本発明による実施形態1であるLN結晶より成るテラヘルツ発生素子について、図1を用いて説明する。図1において、(a)は斜視図、(b)は導波路部におけるA-A’断面図である。LN基板1はYカットニオブ酸リチウム基板であり、レーザ光の伝搬方向をLN結晶のX軸とし、Y軸及び伝搬方向(X軸)と直交する方向をZ軸としている(図1(a)に示した座標軸参照)。この様な構成にすることによって、2次非線形現象である電気光学的チェレンコフ放射によるテラヘルツ波発生を効率良く起こすことができる。すなわち、結晶軸は、2次非線形過程により発生するテラヘルツ波と伝搬光との位相整合が取れる様に設定され、2次非線形過程に関与する光波(テラヘルツ波と伝搬光)の波数ベクトルの間に位相整合条件が成り立っている。
【0013】
LN基板1上には、上下のクラッド部2,5とMgOドープLN結晶層から成るコア部4とによって、入射するレーザ光を全反射で伝搬させる導波路が形成されている。つまり、上下のクラッド部2,5の屈折率はコア部4の屈折率よりも低くしている。下部クラッド部2は、コア部4を張り合わせるための接着剤を兼ねていてもよい。なお、接着剤2は、張り合わせ法で作製した場合に必要であって、拡散などでドープ層を形成する場合には必ずしも必要でない。この場合でも、LN基板よりはMgOドープLN層の屈折率が高いため、基板1が下部クラッド部2となって導波路として機能する。すなわち、下記の光結合部材7のある側と反対側の基板1が下部クラッド部を兼ねる形態、言い換えれば下部クラッド部2のみを有する形態でもよい。一方、上部クラッド部5は、LNよりも屈折率が小さい樹脂や無機酸化物などが好適に用いられる。上部クラッド部5は、光結合部材7を固定するための接着剤を兼ねていてもよい。導波路の横方向の構造は、Ti拡散により高屈折率化して周囲の領域3と屈折率差を設ける方法や、エッチングによりリッジ形状に導波路コア部4を形成して樹脂等で周囲の領域3を埋め込む方法などにより形成することができる。ここでは、光の閉じ込めを強くするために導波路コア部4の横方向(Z軸方向)にも導波路構造を形成したが、コア部4が横に均一に広がり、閉じ込め領域のないスラブ導波路としてもよい。導波路の上には、発生したテラヘルツ波を外部に取り出すプリズム、回折格子、フォトニック結晶等の光結合部材7が設けられている(ここではプリズムを図示)。プリズムは、広帯域に亘るテラヘルツ波を取り出せるので、好ましい光結合部材7である。
【0014】
更に、発生するテラヘルツ波を反射するための反射層6が導波路コア部4と下部クラッド部2との間に形成されている。この反射層6は、入射するレーザ光の光伝搬が正常に行なわれるために、光透過性導電膜が好適に用いられる。この様な膜には、ITO(InSnO)、InO、SnO、ZnOなどがある。反射層6は、MgOドープLN結晶層を張り合わせる前に表面に蒸着しておくことで容易に形成できる。或いは、金属細線によるメッシュまたはワイヤグリッド構造と樹脂により反射層6を構成してもよく、これにより、同様に、光は透過して且つテラヘルツ波を効果的に反射することができる。その他、ドーピングした半導体層、樹脂、ポーラス化した構造でもよい。更には、中空にくり抜いたエアスペーサ層をコア部4と下部クラッド部2との間に形成してコア部底部にフレネル反射による反射層を設けてもよい。要するに、一般的に反射層として使用できるものであれば、反射層6として用いることができる。キャリアドープした半導体層を用いる場合、その電子密度などで決まるプラズマ周波数をテラヘルツ波の最大周波数より高く設定するのが好ましい。反射層の厚さは、好適な反射が達成できる様に、テラヘルツ波の反射層内への侵入長を考慮して設計すればよい。
【0015】
図1の導波路にZ軸に平行な偏波すなわち水平偏波でレーザ光を入射させてX軸に沿って伝搬させると、背景技術で示した非特許文献2に記載の原理或いは超短パルス光源を用いた光整流により、結晶表面からテラヘルツ波が発生する。発生したテラヘルツ波は、光結合部材7を介して空間に取り出すことができる。LNでの光/テラヘルツ波の屈折率差で決まるチェレンコフ放射角は凡そ65度であり、プリズム7の場合、導波路でテラヘルツ波が全反射せずに空気中に取り出せるプリズム材料としては、例えばテラヘルツ波の損失が少ない高抵抗Siが好適である。この場合、テラヘルツ波が基板表面となす角θclad(図1(b)参照)は凡そ49度である。このとき、反射層6があるために、基板1側に放射されるテラヘルツ波も図1(b)に描かれている様に反射して外部に取り出せることになり、取り出し効率を向上させられる。
【0016】
コア部4として必要な厚さは、取り出したいテラヘルツ波の最大周波数に対する発生素子内での等価波長の半分(すなわちコア部4の厚さに相当する位相ずれが、発生したテラヘルツ波の等位相面において反転して打ち消し合いが生じない程度の厚さ)以下である。一方、上部クラッド層5の厚さは、導波層4をレーザ光が伝搬する際のクラッド層として機能するのに十分厚く、且つ光結合部材7でテラヘルツ波を外部に放射する際に多重反射や損失の影響が無視できる程度に薄いことが望ましい。前者に関しては、導波層4をコアとし低屈折率層2,5をクラッドとした導波路において、光結合部材7との界面での光強度がコア領域の光強度の1/e2(eは自然対数の底)以下になる様な厚さ以上であることが望ましい。また後者については、外部に放射させる最大周波数におけるテラヘルツ波の低屈折率バッファ層5における等価波長λeq(THz)に対して、1/10程度の厚さ以下に上部クラッド層5がなっていることが望ましい。波長の1/10のサイズの構造体は、一般的にその波長の電磁波に対して反射、散乱、屈折などの影響が無視できると看做されるからである。ただし、前記望ましい厚さの範囲外でも、本発明のテラヘルツ波発生素子からのテラヘルツ波発生は可能である。
【0017】
以上の様に、導波路の構成、電気光学結晶の軸方向、反射層の構成などを設定することで、光励起及びチェレンコフ放射によるテラヘルツ波を効率良く高強度で発生させることができる。
【0018】
上記素子をテラヘルツ波発生素子として用いて構成したテラヘルツ時間領域分光システム(THz-TDS)によるトモグラフィ装置の例を図2(a)に示す。ここでは、励起光源として光ファイバを含むフェムト秒レーザ20を用い、分岐器21を介してファイバ22及びファイバ23から出力を取り出す。典型的には、中心波長1.55μmでパルス幅20fs、繰り返し周波数50MHzのものを用いたが、波長は1.06μm帯などでもよく、パルス幅、繰り返し周波数はこれらの値に限らない。また、出力段のファイバ22、23は、最終段の高次ソリトン圧縮のための高非線形ファイバや、テラヘルツ発生器及び検出器までに至る光学素子等による分散を補償するためのプリチャープを行う分散ファイバを含んでいてもよい。これらは偏波保持ファイバであることが望ましい。
【0019】
テラヘルツ波発生側のファイバ22からの出力は、前述した本発明によるチェレンコフ放射型素子24(チェレンコフ型の位相整合方式の素子24)の導波路に結合させる。その際、ファイバ先端にセルフォックレンズを集積化させたり、先端を加工したピッグテール型としたりして、出力が素子24の導波路の開口数以下になる様に構成して結合効率を上げることが望ましい。レンズ(不図示)を用いて空間結合にしてもよい。これらの場合に、それぞれの端部に無反射コーティングを施せば、フレネルロスの低減、不要な干渉ノイズの低減につながる。若しくは、ファイバ22と素子24の導波路のNA及びモードフィールド径が近くなる様に設計すれば、突き当てによる直接結合(バットカップリング)として接着してもよい。この場合は、接着剤を適切に選ぶことで、反射による悪影響を低減することができる。なお、前段のファイバ22やファイバレーザ20で、偏波保持でないファイバ部分が含まれる場合、インライン型の偏波コントローラによりチェレンコフ放射型素子24への入射光の偏波を安定化させることが望ましい。ただし、励起光源はファイバレーザに限るものではなく、ファイバレーザでない場合には偏波の安定化などのための対策は軽減される。
【0020】
発生したテラヘルツ波は、図2(a)に示した周知のTHz-TDS法による構成によって検出される。すなわち、放物面鏡26aによって平行ビームにしてビームスプリッタ25で分岐し、一方は、放物面鏡26bを介してサンプル30に照射する。サンプル30から反射されたテラヘルツ波は放物面鏡26cで集光され、光伝導素子による検出器29に到達し受信される。光伝導素子は、典型的には低温成長GaAsにダイポールアンテナを形成したものを用い、光源20が1.55μmであれば、不図示のSHG結晶を用いて倍波を生成して検出器29のプローブ光とする。このとき、パルス形状を維持するために、0.1mm程度の厚さのPPLN(周期的極性反転リチウムナイオベイト)を用いることが望ましい。光源20が1μm帯の場合には、InGaAs単層或いはMQWで構成した光伝導素子の検出器29において、倍波を生成することなく、基本波をプローブ光に利用することが可能である。本装置では、プローブ光側には例えばオプティカルチョッパー35を入れて変調し、チョッパーを駆動する変調部31と検出器29から増幅器34を介して検出信号を取得する信号取得部32とを用いて同期検波できる様に組まれている。そして、データ処理・出力部33では、PCなどを用いて遅延部である光学遅延器27を移動させながらテラヘルツ信号波形を取得する様になっている。遅延部は、発生手段(発生部)である素子24におけるテラヘルツ波発生時と検出手段(検出部)である検出器29におけるテラヘルツ波検出時との間の遅延時間を調整できれば、どの様なものでもよい。以上に述べた様に、本装置は、テラヘルツ波を発生するための本発明のテラヘルツ波発生素子を含む発生手段と、発生手段から放射されたテラヘルツ波を検出するための検出手段と、遅延部を備える。そして、この装置は、検出手段が、発生手段から放射されサンプルで反射されて来たテラヘルツ波を検出し、サンプルからの反射光を分析することでサンプルの内部構造をイメージングするトモグラフィ装置として構成されている。
【0021】
図2(a)に図示の系では、測定対象であるサンプル30からの反射波と照射テラヘルツ波は同軸であり、ビームスプリッタ25の存在でテラヘルツ波のパワーは半減する。よって、図2(b)の様にミラー26の数を増やして非同軸の構成にし、サンプル30への入射角が90度でなくなるものの、テラヘルツ波のパワーを増やす様にしてもよい。
【0022】
本装置を用いて、サンプル30の内部に材料の不連続部があれば、取得する信号において、不連続部に相当する時間位置に反射エコーパルスが現れ、サンプル30を1次元でスキャンすれば断層像が得られ、2次元スキャンすれば3次元像を得ることができる。本実施形態の構成により強いテラヘルツ波が発生できるので、例えばトモグラフィではサンプル30の深さ方向の浸透厚さを増大することができる。また、モノパルスで300fs以下の比較的細いテラヘルツパルスを得ることができるので、奥行き分解能を向上させられる。更に、ファイバを用いた励起レーザを照射手段とできるので、装置の小型、低コスト化が可能となる。ここでは、材料としてLN結晶を用いたが、その他の電気光学結晶として、背景技術のところで述べたLiTaOx、NbTaOx、KTP、DAST、ZnTe、GaSe、GaP、CdTeなどを用いることもできる。このとき、LNではテラヘルツ波と励起光に対して背景技術で説明した屈折率差がありノンコリニアで発生するテラヘルツ波が取り出せるが、他の結晶では必ずしも差が大きくないので、取り出しが難しい場合がある。しかし、導波路型にしてテラヘルツ発生部とプリズムが近接している場合、電気光学結晶よりも大きい屈折率を持つプリズム(例えばSi)を用いればチェレンコフ放射の条件(vTHz<vg)を満たし、テラヘルツ波を外部に取り出すことができる。
【0023】
(実施例1)
実施形態1のタイプである実施例1を説明する。本実施例では、図1に示した素子構造において、屈折率nが凡そ1.5の下部クラッド部2が厚さ2μmの光学接着剤で形成され、MgOドープのコア部4が厚さ3.8μm、幅5μmで形成されている。また、上部クラッド部5が、2μm厚の下部クラッド部2と同様の光学接着剤で形成されている。本実施例では、例えば7THzまで対応するとして、自由空間での波長は凡そ43μmになる。ここで、コア部4で屈折率2.2(LN:MgO)、上部クラッド部5で屈折率1.5であると仮定すると、実施形態1で説明した様に、コア部4の厚さは等価波長λeq_core(凡そ43/2.2=19.5)の1/2以下となる様に設計している。すなわち、ほぼ9.8μm以下に設計している。また、クラッド部の厚さはλeq_clad(凡そ43/1.5=28.7)の1/10以下、すなわち2.9μm以下となる様に設計している。更に、高抵抗Siによる図1(b)のθが41度のプリズム7が接着されている。この場合、θの角度とテラヘルツ波の放射角はほぼ余角の関係となり、テラヘルツ波は、プリズム7の傾斜面(出射面)からほぼ垂直に出射し透過率が最大になる。ただし、θについては必ずしも90−θcladと等しい必要は無く、またテラヘルツ波の出射も垂直でなくてもよい。
【0024】
本実施例では、反射層6としてITO(厚さ100nm)を用いる。このときITOの光に対する屈折率は2.2程度であり、伝搬する光に対して損失、屈折等の影響をあまり与えない。一方で、テラヘルツ波に対する反射率は90%以上が可能となる。この様にコア部4に近接して反射層6を備える場合には、その光に対する屈折率がコア部或いはクラッド部の屈折率とほぼ等しい、若しくはその間の屈折率であることが望ましい。図2のシステムでサンプル30に照射したテラヘルツパルス波形の例と取得した断層像の例を図3に示す。図3(a)より、パルス幅270fs程度のモノパルスが得られていることが分かる。また、図3(b)は、厚さ凡そ90μmの紙を3枚重ねたサンプルで1方向のスキャンを行なって得た断層像である。6つの層(白線)が見えるのは、紙間には空気を挟んで隙間があり、各紙の表裏が界面として捉えられるためである。
【0025】
(実施例2)
同じく実施形態1のタイプである実施例2を説明する。本実施例では、図4の様に反射層に金属グリッドを含む層を用いる。図4では反射層41が分かり易くなる様にコア部45まで描いてあり、上部クラッド層より上側は省いてある。また、本実施例では、リッジ状の導波路でなく、横方向はレーザ光照射領域43よりも広がったスラブ導波路となっている。図4において、40はLN基板、42は下部クラッド層となる低屈折率の樹脂接着剤、41はグリッド状の金属パターン44を持つ反射層、45は、実施形態1で述べたMgOドープLN層のコア部である。
【0026】
ここで、金属パターン44は、例えば厚さ100nm、幅10μm、間隔10μmのAuである。この様なグリッドが樹脂層に埋め込まれて反射層41を構成している。この場合、グリッドに平行な成分の電界を持つテラヘルツ波が反射される一方で、導波路を伝搬するレーザ光に対する相互作用は小さい。グリッドの代わりに金属メッシュを使用することもできる。一般に、金属グリッドやメッシュ構造は、ミリ波からテラヘルツ波帯においてフィルタ特性を持つ。上記の金属の幅や間隔は、ここで取り扱う10THzの信号成分までは反射率が90%以上である様に設計している。また、グリッドの場合は強い偏波依存性を持つ。そのため、金属パターンによる反射層41を用いる場合には、発生するテラヘルツ波の周波数スペクトルや偏光を調整することが可能となる。
【0027】
(実施形態2)
実施形態2を説明する。本実施形態では、図5に示す様にMgOドープLN結晶によるコア部4の結晶軸を変更している。その他の構造は実施形態1と同じであり、同じ部分には同一符号を付している。Z軸が垂直になったことで、入射レーザ光の偏波も垂直に合わせ、発生するテラヘルツ波も垂直方向の偏波となる。この場合、光結合部材7としてプリズムを用いていれば、テラヘルツ波の電界の偏光方向が光結合部材7の出射面に対してP偏光となりP偏光入射になる。よって、テラヘルツ波の放射方向に対してブリュースター角となる様な面をプリズム7の出射面が構成していれば、テラヘルツ波を外部へ取り出す際の内部反射を防ぐことができ、出射面に無反射コーティング等がなくても透過率を大きくできるという利点がある。
【0028】
光結合部材7としてSiを用いた場合、テラヘルツ波に対する屈折率を3.4とするとブリュースター角はarctan(1/3.4)≒16°となる。従って、この場合は、図1(b)で示したθの値としては、180−θclad−(90−16)=57°に調整することでブリュースター条件が満たされ、光結合部材7の出射面を介するテラヘルツ波の透過率が最大になる。
【0029】
なお、発生するテラヘルツ波の偏波方向が本実施形態の条件を満たす場合には、上述した様なブリュースター角の設定は、反射層6がない構成の発生素子の場合にも有効であり、内部反射を防いでテラヘルツ波を外部へ取り出すことができる。
【0030】
(実施形態3)
実施形態2を説明する。本実施形態では、図6に示した様にコア部4より離れた位置に反射層(反射面を形成する層)50を設けたものである。この反射面は、光導波路のコア部4を挟んで光結合部材7の設けられた側とは反対側において、光導波路を伝搬する光の振幅がコア部4における光の振幅の1/e2以下になるだけの距離をコア部4から隔てた位置に設けられる。その他の構成は、反射層6が無いほかは、実施形態1と同じであり、同じ部分には同一符号を付している。
【0031】
ここでは、クラッド層2と反射層50の界面で位相反転して反射する成分と、反射しないで直接放射される成分との間に時間差を設けている。これにより、その合成波は、図6にイメージ的に示した様に、合成されない場合に比べてパルス幅が狭くなる部分ができる様に調整できる。そのために、反射して遅延する時間としては、例えば元のパルス幅(ここでは250fsとする)の凡そ半分(例えば130fs)に設定する。この場合、下部クラッド層2の厚さdで反射面の位置がほぼ決まるとして、次の式が成り立つ。
2×d/sinθc=130×10-15×c/n2
ここで、n2は下部クラッド層2の屈折率、θcは屈折率差で決まるテラヘルツの取り出し角(背景技術のところで述べた)、cは光速である。θcはLNで65°であり、n2=1.5とすると、dは凡そ12μmとなる。
【0032】
反射層50としては、ドーピングした半導体、例えば1017cm-3以上にドープしたn型Si層などが用いられる。なお、この層には、光導波層を伝搬する光のエネルギーは殆ど到達しないため、光損失等を考慮する必要は無い。従って、TiOなどの高屈折率層や金属層などで反射層50を設けても良い。
【0033】
(実施形態4)
これまでは、主に、励起光にフェムト秒レーザ光を用いて光整流によりテラヘルツパルスを発生させる例を説明してきた。これに対して、実施形態4では、2つの異なる発振周波数ν1、ν2を持つレーザ光を入射させ、差周波に相当する単色のテラヘルツ波を出射する。レーザ光源としては、Nd:YAGレーザ励起のKTP-OPO(Optical-Parametric-Oscillator)光源(これは2波長の光を出力する)や、2台の波長可変レーザダイオードを用いることができる。
【0034】
図7は本実施形態の断面図である。LN基板60上に、接着剤層61、反射層65、MgOドープLN導波層62、低屈折率バッファ層63が積層されている。実施形態1と同様に、5μm幅の導波路が形成されている。本実施形態では、テラヘルツ波の出力を大きくするために、導波路長を40mmとして、複数の光結合部材64が備えられている。各光結合部材64は例えばほぼ1cmの長さで、図7の様に4つを配することができる。複数の光結合部材64で光結合部材を構成することでその全体の容積が小さくなり、テラヘルツ波が光結合部材を透過する距離を低減できて損失をより少なくできる。反射層65の材料は実施形態1と同様である。
【0035】
本実施形態において、入射する光の周波数差|ν1−ν2|を0.5THzから7THzとしたとき、その範囲で放射テラヘルツ波の周波数を可変にできる。本実施形態では、特定のテラヘルツ帯の周波数で検査やイメージングを行う応用、例えば、医薬品の特定物質の吸収スペクトルに周波数を合わせてその物質の含有量を調べるなどの検査が可能となる。
【0036】
(実施形態5)
これまでの実施形態や実施例では、図8に示す様なLNによるテラヘルツ波発生素子71の光導波路の終端部は、そこから出る光がノイズ源にならない様に、粗面にしたり、斜めカットして光を外部に取り出したり、ARコーティングしたりしている。これに対して、実施形態5では、終端部80に斜めカットやARコーティングなどの処理を施して、終端部80から出射される光をプローブ光として再利用する。すなわち、本実施形態では、テラヘルツ波発生素子71の光導波路終端部80からの光を検出手段へのプローブ光として利用し、遅延部は、テラヘルツ波発生素子71の導波路への光の到達時間と検出手段へのプローブ光の到達時間との間の遅延時間を調整する。
【0037】
図8は、図2と同様にTHz-TDS方式のトモグラフィ装置を示す図であって、電気システム部は省略してある。図2の実施形態と異なる点は、ファイバ分岐部を備えず、ファイバを含む励起レーザ70の出力を全てテラヘルツ波発生素子71に入射していることである。テラヘルツ波発生素子71から発生したテラヘルツ波は、図2の実施形態と同様に放物面鏡、ハーフミラー77を通してサンプル78に照射される。サンプル78からの反射光はテラヘルツ検出部74に入射し、信号取得が行われる。一方、テラヘルツ波発生素子71を伝搬したレーザ光の一部は、終端部80から再び出射し、ミラー72、遅延部73、レンズ75を通して検出部74のプローブ光として利用される。
【0038】
この様な形態にした場合、励起レーザ光の分岐部を必要としないので構成点数を減らすことができると共に、効率良く励起レーザ70のパワーを利用することができる。
【0039】
(実施形態6)
本実施形態では、同構造の素子をテラヘルツ波検出素子として機能させるものである。すなわち図10に示すように、LN基板81上に接着剤層82、反射層86、MgOドープLN結晶層から成る導波層84、低屈折率バッファ層85によって、入射するレーザ光を全反射で伝播させる導波路が形成される。さらに光結合部材87を備えてテラヘルツ波が入射される構造になっている。ここでは、超短パルスレーザ光をこれまでの実施形態とは反対側の面から、偏波89を直線偏光で結晶のZ軸から傾けて(例えば45度)入射させる。その場合、出射されたレーザ光は、電気光学結晶の複屈折性によって電界のZ軸成分とY軸成分には位相差が生じて、出射された空間では楕円偏波となって伝播する。このような自然複屈折による位相差は結晶の種類や入射偏波方向、導波路長さによって異なり、位相差ゼロの構成にすることもできる。
【0040】
ここに、光結合部材、例えばSiプリズム87によって偏波の主軸がZ軸のテラヘルツパルが実施形態1などで出射していた面から入射する。すると、テラヘルツ波発生の逆過程で、導波路を伝播する超短パルスレーザ光とテラヘルツ波の相互作用を導波路全体に渡って行わせることが可能となる。相互作用としては、テラヘルツ電磁界が電気光学結晶に与える1次電気光学効果(ポッケルス効果、即ち2次非線形過程の一種の効果)により、導波路のZ軸の屈折率が変化して伝播光の偏波状態が変化することである。具体的にはレーザ光の電界のZ軸成分とY軸成分の位相差が誘導複屈折により変化し、楕円偏波の楕円率や主軸の方向が変化する。このレーザ光の伝播状態の変化を外部の偏光素子91及び光検出器92、93で検出すれば、テラヘルツ波の電界振幅の大きさを検出できることになる。本実施形態では、ウォラストンプリズム91で2つの偏光を分離して、2つの光検出器92、93の差動増幅によりS/N比を向上させている。差動増幅は必須のものではなく、91を偏光板として1つの光検出器のみで強度を検出してもよい(不図示)。
【0041】
前記自然複屈折の補償のために位相補償板(λ/4板など、不図示)を出射端と偏光素子91との間に追加してもよい。このように検出器として本発明の素子を用いることで、伝搬するレーザ光に影響を与えないテラヘルツ波の反射層により、結合するテラヘルツ波を増大させることができ、結果として感度を向上させることができる。本素子を用いてこれまでの実施形態で説明したようなテラヘルツ時間領域分光装置、及びトモグラフィ装置を構築することができる。その際の発生素子は、本発明のようなチェレンコフ型の位相整合方式を使用した素子でもよいし、従来の光伝導素子等を用いた発生素子など、何でもよい。
【0042】
本実施形態では、光入射を、発生とは逆側の端部より行ったが、発生と同じ側から入射してもよい。その場合は整合する長さが小さくなるため信号強度が小さくなる。光導波路の形態としては、実施例1のようなリッジ形状としたが、実施例2のようなスラブ導波路としてもよい。また、パルスレーザ光でテラヘルツパルスを検出する事例について説明したが、実施形態4のように2つの周波数のレーザ光を入射させてその差周波成分の単色のテラヘルツ波を検出することもできる。その場合は、差周波を変化させれば、所望の周波数のテラヘルツ波をフィルタのように切り出して電界振幅を検出することができる。
【0043】
テラヘルツ波の検出の仕方としては、結合したテラヘルツ波による1次電気光学効果で光の偏波状態が変化するのを検出する方式について述べた。しかし、光の伝播状態の変化として、導波路を伝播する光の位相変化や、導波路を伝播する光の周波数と、結合したテラヘルツ波の周波数の差周波の光信号を検出する、すなわち光のビート信号を検出する方式でもよい。
【0044】
(実施形態7)
本発明の第7の実施形態を図11を用いて説明する。本実施形態ではレーザ光を伝搬させる導波層96がサンドイッチ型のスラブ導波路になっているとともに、導波層を保持するLN基板がない構造になっている。導波路長は例えば5mmとなっている。なお、図11は図1とは異なり、プリズム側が下側になるような図を示している。これは、次の様にして製造して実現可能である。図11(b)のように、プリズム94の材料である基体の高抵抗Si基板94’に低屈折率バッファ層となる接着剤(実施形態1と同様)95’を用いて導波層となるMgOドープLN結晶基板96’を接着する。そして、LN結晶側を導波層の厚さまで研磨した貼り合わせウエハ99を準備する。研磨後には、実施形態1に示したような反射層となる光透過性導電膜97、及び保護も兼ねたSiO2などの酸化膜や樹脂などの低屈折率層98を表面に成膜することが望ましい。この低屈折率層98を備えない場合でも、空気の屈折率が低いために導波層への光閉じ込めは可能である。
【0045】
上記の第一の工程の後に、Siプリズムは研磨か化学エッチングにより傾斜部を作製すればよい。この第二の工程では、例えば表面が(100)面の(100)Si基板の場合に、周知のウエットエッチング(KOHなど)を行えば、55度の傾斜をもつ(111)面が出現する。理想面の41度から14度ずれているが、表面の反射ロス(フレネルロス)の増大は軽微である。もちろん41度の面を出すために傾斜基板を用いたりしてもよい。ここで、入射する光は、44のように楕円状であってもよい。その場合には、レーザ光源より結合させるためのレンズに棒状のロッドレンズやシリンドリカルレンズを用いて、導波路の層構造の垂直方向を絞る形にしてもよい。テラヘルツ波の発生、検出方法は実施形態1から6と同様である。
【0046】
本実施形態ではスラブ導波路にしたことで、プローブ光の結合が容易になったこと、テラヘルツ波の集光が十分でない場合でも相互作用領域を広く取れるなどのメリットがある。もちろん同様にSi基板に張り付けた形態から作製する場合にもリッジ導波路形状にすることができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独で或いは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
2、5‥クラッド部、4‥コア部、6‥反射層、7‥光結合部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、
前記導波路を光が伝搬することで前記導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材と、
前記導波路のコア部を挟んで前記光結合部材の設けられた側とは反対側の位置に設けられて前記発生するテラヘルツ波を反射する反射層と、
を備えていることを特徴とするテラヘルツ波発生素子。
【請求項2】
前記反射層は、前記導波路のコア部に接していることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項3】
前記反射層は、前記光に対して透過性を有する光透過性導電膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項4】
前記反射層の前記光に対する屈折率は、前記導波路を構成するコア部またはクラッド部の屈折率と等しいか、コア部とクラッド部の屈折率の間の屈折率であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項5】
前記反射層は、ITO(InSnO)、InO、SnO、ZnOのうちのいずれか1つを少なくとも含むことを特徴とする請求項3または4に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項6】
前記反射層は、金属メッシュまたはワイヤグリッドを含む層、若しくはキャリアドープした半導体を含む層であることを特徴とする請求項1または2に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項7】
電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、
前記導波路を光が伝搬することで前記導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材と、
前記導波路を光が伝搬することで前記導波路から発生するテラヘルツ波を位相反転して反射するための反射面と、
を備え、
前記反射面は、前記導波路のコア部を挟んで前記光結合部材の設けられた側とは反対側において、前記導波路を伝搬する光の振幅が前記導波路のコア部における光の振幅の1/e2(eは自然対数の底)以下になるだけの距離を前記コア部から隔てた位置に設けられていることを特徴とするテラヘルツ波発生素子。
【請求項8】
電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、
前記導波路を光が伝搬することで前記導波路から発生するテラヘルツ波を出射面を介して空間に取り出す光結合部材と、
を備え、
前記導波路を伝搬する光により前記導波路から発生するテラヘルツ波の電界の偏光方向が前記光結合部材の出射面に対してP偏光であり、前記出射面に対するテラヘルツ波の入射角がブリュースター条件を満たす様に設定されていることを特徴とするテラヘルツ波発生素子。
【請求項9】
前記導波路は、前記光に対してコア部となる高屈折率層とクラッド部となる低屈折率層とを含み、
前記低屈折率層の少なくとも1つの層は、前記高屈折率層及び前記光結合部材にそれぞれ接して挟まれており、
該少なくとも1つの層の厚さdは、前記光の前記コア部における光強度の1/e2(eは自然対数の底)になる厚みをa、空間に取り出すテラヘルツ波の最大周波数における前記低屈折率層での等価波長をλeqとしたとき、
a<d<λeq/10
を満たすことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項10】
電気光学結晶を含む導波路と、
前記導波路に空間からテラヘルツ波を入射させる光結合部材と、
前記導波路のコア部を挟んで前記光結合部材の設けられた側とは反対側の位置に設けられて前記入射するテラヘルツ波を反射する反射層と、を備え、
前記導波路の前記電気光学結晶の結晶軸は、該導波路に前記テラヘルツ波が入射することで、前記導波路を伝播する光の伝播状態が変化する様に設定されていることを特徴とするテラヘルツ波検出素子
。
【請求項11】
テラヘルツ波を発生するための発生手段と、
前記発生手段から放射されたテラヘルツ波を検出するための検出手段と、
前記発生手段におけるテラヘルツ波発生時と前記検出手段におけるテラヘルツ波検出時との間の遅延時間を調整するための遅延部と、
を備えたテラヘルツ時間領域分光装置であって、
前記発生手段が、請求項1乃至9の何れか1項に記載のテラヘルツ波発生素子を含むことを特徴とする装置。
【請求項12】
テラヘルツ波を発生するための発生手段と、
前記発生手段から放射されたテラヘルツ波を検出するための検出手段と、
前記発生手段におけるテラヘルツ波発生時と前記検出手段におけるテラヘルツ波検出時との間の遅延時間を調整するための遅延部と、
を備えたテラヘルツ時間領域分光装置であって、
前記検出手段が、請求項10に記載のテラヘルツ波検出素子を含むことを特徴とする装置。
【請求項13】
前記検出手段は、前記発生手段から放射されサンプルで反射されて来たテラヘルツ波を検出し、
前記サンプルからの反射光を分析することでサンプルの内部構造をイメージングするトモグラフィ装置として構成されていることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記テラヘルツ波発生素子の光導波路終端部からの光を前記検出手段へのプローブ光として利用し、
前記遅延部は、前記テラヘルツ波発生素子の光導波路への前記光の到達時間と前記検出手段への前記プローブ光の到達時間との間の遅延時間を調整することを特徴とする請求項11乃至13の何れか1項に記載の装置。
【請求項15】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の素子の製造方法であって、
低屈折率層となる接着剤を介して前記光結合部材となる基体と前記コア部となる電気光学結晶を張り合わせる第一の工程と、
前記光結合部材となる基体を、前記導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す構造、もしくは前記導波路に空間からテラヘルツ波を入射させる構造に加工する第二の工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする製造方法。
【請求項1】
電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、
前記導波路を光が伝搬することで前記導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材と、
前記導波路のコア部を挟んで前記光結合部材の設けられた側とは反対側の位置に設けられて前記発生するテラヘルツ波を反射する反射層と、
を備えていることを特徴とするテラヘルツ波発生素子。
【請求項2】
前記反射層は、前記導波路のコア部に接していることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項3】
前記反射層は、前記光に対して透過性を有する光透過性導電膜であることを特徴とする請求項1または2に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項4】
前記反射層の前記光に対する屈折率は、前記導波路を構成するコア部またはクラッド部の屈折率と等しいか、コア部とクラッド部の屈折率の間の屈折率であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項5】
前記反射層は、ITO(InSnO)、InO、SnO、ZnOのうちのいずれか1つを少なくとも含むことを特徴とする請求項3または4に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項6】
前記反射層は、金属メッシュまたはワイヤグリッドを含む層、若しくはキャリアドープした半導体を含む層であることを特徴とする請求項1または2に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項7】
電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、
前記導波路を光が伝搬することで前記導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す光結合部材と、
前記導波路を光が伝搬することで前記導波路から発生するテラヘルツ波を位相反転して反射するための反射面と、
を備え、
前記反射面は、前記導波路のコア部を挟んで前記光結合部材の設けられた側とは反対側において、前記導波路を伝搬する光の振幅が前記導波路のコア部における光の振幅の1/e2(eは自然対数の底)以下になるだけの距離を前記コア部から隔てた位置に設けられていることを特徴とするテラヘルツ波発生素子。
【請求項8】
電気光学結晶のコア部を含む光導波路と、
前記導波路を光が伝搬することで前記導波路から発生するテラヘルツ波を出射面を介して空間に取り出す光結合部材と、
を備え、
前記導波路を伝搬する光により前記導波路から発生するテラヘルツ波の電界の偏光方向が前記光結合部材の出射面に対してP偏光であり、前記出射面に対するテラヘルツ波の入射角がブリュースター条件を満たす様に設定されていることを特徴とするテラヘルツ波発生素子。
【請求項9】
前記導波路は、前記光に対してコア部となる高屈折率層とクラッド部となる低屈折率層とを含み、
前記低屈折率層の少なくとも1つの層は、前記高屈折率層及び前記光結合部材にそれぞれ接して挟まれており、
該少なくとも1つの層の厚さdは、前記光の前記コア部における光強度の1/e2(eは自然対数の底)になる厚みをa、空間に取り出すテラヘルツ波の最大周波数における前記低屈折率層での等価波長をλeqとしたとき、
a<d<λeq/10
を満たすことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のテラヘルツ波発生素子。
【請求項10】
電気光学結晶を含む導波路と、
前記導波路に空間からテラヘルツ波を入射させる光結合部材と、
前記導波路のコア部を挟んで前記光結合部材の設けられた側とは反対側の位置に設けられて前記入射するテラヘルツ波を反射する反射層と、を備え、
前記導波路の前記電気光学結晶の結晶軸は、該導波路に前記テラヘルツ波が入射することで、前記導波路を伝播する光の伝播状態が変化する様に設定されていることを特徴とするテラヘルツ波検出素子
。
【請求項11】
テラヘルツ波を発生するための発生手段と、
前記発生手段から放射されたテラヘルツ波を検出するための検出手段と、
前記発生手段におけるテラヘルツ波発生時と前記検出手段におけるテラヘルツ波検出時との間の遅延時間を調整するための遅延部と、
を備えたテラヘルツ時間領域分光装置であって、
前記発生手段が、請求項1乃至9の何れか1項に記載のテラヘルツ波発生素子を含むことを特徴とする装置。
【請求項12】
テラヘルツ波を発生するための発生手段と、
前記発生手段から放射されたテラヘルツ波を検出するための検出手段と、
前記発生手段におけるテラヘルツ波発生時と前記検出手段におけるテラヘルツ波検出時との間の遅延時間を調整するための遅延部と、
を備えたテラヘルツ時間領域分光装置であって、
前記検出手段が、請求項10に記載のテラヘルツ波検出素子を含むことを特徴とする装置。
【請求項13】
前記検出手段は、前記発生手段から放射されサンプルで反射されて来たテラヘルツ波を検出し、
前記サンプルからの反射光を分析することでサンプルの内部構造をイメージングするトモグラフィ装置として構成されていることを特徴とする請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記テラヘルツ波発生素子の光導波路終端部からの光を前記検出手段へのプローブ光として利用し、
前記遅延部は、前記テラヘルツ波発生素子の光導波路への前記光の到達時間と前記検出手段への前記プローブ光の到達時間との間の遅延時間を調整することを特徴とする請求項11乃至13の何れか1項に記載の装置。
【請求項15】
請求項1乃至10の何れか1項に記載の素子の製造方法であって、
低屈折率層となる接着剤を介して前記光結合部材となる基体と前記コア部となる電気光学結晶を張り合わせる第一の工程と、
前記光結合部材となる基体を、前記導波路から発生するテラヘルツ波を空間に取り出す構造、もしくは前記導波路に空間からテラヘルツ波を入射させる構造に加工する第二の工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−14155(P2012−14155A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104803(P2011−104803)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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