説明

ディスクブレーキカバー構造

【課題】フロントフォークへの取付箇所を低減でき、軽量化及び脱着作業の容易化を図ることができるディスクブレーキカバー構造を提供する。
【解決手段】ディスクブレーキカバー110を構成する保護カバー120が、前輪の位置決めを行うホイールカラー92と一体とされ、ホイールカラー92を前輪のハブ81とアクスルホルダ51との間に挟持して前輪と共にアクスルシャフト52に支持するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けたディスクブレーキを保護するディスクブレーキカバー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントクッションを兼ねる左右一対のフロントフォーク先端に車輪を支持し、この車輪のハブにディスクブレーキのロータ(ブレーキディスクとも称する)を取り付け、このロータにブレーキパッドを押し付けるキャリパをフロントフォーク側に取り付けた自動二輪車が知られている。この種の車両では、ディスクブレーキ保護用のディスクブレーキカバーを設けたものがあり、例えば、ディスクブレーキカバーのカバー本体を弓状に形成し、このカバー本体をロータ制動面とキャリパの上方を覆うようにフロントフォークに取り付けている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭60−67245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の構成では、ディスクブレーキカバーを複数箇所でフロントフォークに取り付けるので、ディスクブレーキカバーの組み付けや取り外しの作業が繁雑になってしまう。また、従来の構成は、ロータの縁部とキャリパ上方しか覆っておらず、ディスクブレーキ周りの保護が十分でない場合がある。
このディスクブレーキ周りの保護を十分に図るために、ロータの全周、フロントフォーク先端及びキャリパを覆うようにディスクブレーキカバーを構成すると、ディスクブレーキカバーの大型化及び重量の増加が生じ、このカバーを支持する取り付けボルトの大径化や取付箇所の増大を招いてしまう。
【0004】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、フロントフォークへの取付箇所を低減でき、軽量化及び脱着作業の容易化を図ることができるディスクブレーキカバー構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述課題を解決するため、本発明は、左右一対のフロントフォークに設けられたアクスルホルダ間に支軸を介して前輪を軸支し、前輪にディスクブレーキのロータを取り付け、フロントフォークにディスクブレーキのキャリパを取り付けた車両のディスクブレーキを保護するディスクブレーキカバー構造において、前記ロータを保護する保護カバーを備え、この保護カバーは、前記前輪の位置決めを行うホイールカラーと一体とされ、前記ホイールカラーを前記前輪のハブと前記アクスルホルダとの間に挟持して前記前輪と共に前記支軸に支持したことを特徴とする。
この発明によれば、保護カバーは、前輪の位置決めを行うホイールカラーと一体とされ、ホイールカラーを前輪のハブとアクスルホルダとの間に挟持して前輪と共に支軸に支持したので、ホイールカラーの支持力でディスクブレーキカバーを構成する保護カバーを支持することができ、ディスクブレーキカバーのフロントフォークへの取付箇所を低減でき、軽量化及び脱着作業の容易化を図ることができる。
【0006】
また、前記保護カバーは、前記ロータを覆うロータカバー部と、前記アクスルホルダ下方で車体幅方向に延びる延出部とを備え、この延出部を、前記支軸から離れた位置で前記フロントフォークに支持してもよい。この構成によれば、ロータを覆うロータカバー部と、アクスルホルダ下方で車体幅方向に延びる延出部とを備えるので、ロータとアクスルホルダとを保護できる。また、この延出部を支軸から離れた位置でフロントフォークに保持するので、保護カバー(ディスクブレーキカバー)を、支軸と支軸から離れた位置との二点支持で十分な支持剛性を確保できる。
【0007】
また、前記キャリパは、前記フロントフォークの後方で該フロントフォークの外側面よりも内側に位置しており、前記延出部は、前記アクスルホルダの下面に沿って車体後方へ延びて前記キャリパの下方を覆う後方延出部を備えるようにしてもよい。この構成によれば、キャリパがフロントフォークの後方で該フロントフォークの外側面よりも内側に位置するので、フロントフォークにフォークカバーを取り付けた場合に、このフォークカバーをキャリパを保護する保護部材に兼用することができる。また、アクスルホルダの下面に沿って車体後方へ延びてキャリパの下方を覆う後方延出部を備えるので、キャリパを保護することができる。
【0008】
また、前記キャリパは、前記フロントフォークに設けられたキャリパ支持部に支持され、前記保護カバーは、前記キャリパを着脱自在に露出させるカバー形状に形成されるようにしてもよい。この構成によれば、保護カバーはキャリパを着脱自在にキャリパを露出させるので、キャリパを容易に着脱できると共に保護カバー(ディスクブレーキカバー)の大型化による重量の増加を回避できる。
【0009】
また、前記キャリパの前方で前記フロントフォークの下部を覆うフォークカバーを備え、前記保護カバーは、前記フロントフォークから前記キャリパに対応する領域を開口させる開口部を有すると共に、前記フロントフォークの前側で前記ロータを覆うロータカバー部が前記フォークカバー近傍まで延出するようにしてもよい。この構成によれば、上記開口部によって保護カバー(ディスクブレーキカバー)の大型化による重量の増加を回避できると共に、ディスクブレーキカバーとフォークカバーとの間の隙間を略閉塞でき、ロータの保護をより十分に図ることができる。
また、前記ホイールカラーの外周に凹部を設け、この凹部に前記保護カバーを係止させるようにしてもよい。この構成によれば、保護カバーとホイールカラーとの連結位置を位置決めできると共に連結強度を向上できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、ロータを保護する保護カバーは、前輪の位置決めを行うホイールカラーと一体とされ、ホイールカラーを前輪のハブとアクスルホルダとの間に挟持して前輪と共に支軸に支持したので、ディスクブレーキカバーのフロントフォークへの取付箇所を低減でき、軽量化及び脱着作業の容易化を図ることができる。
また、保護カバーは、ロータを覆うロータカバー部と、アクスルホルダ下方で車体幅方向に延びる延出部とを備え、この延出部を、支軸から離れた位置でフロントフォークに支持したので、ロータとアクスルホルダとを保護でき、かつ、ディスクブレーキカバーを二点支持で十分に支持することができる。
また、キャリパは、フロントフォークの後方で該フロントフォークの外側面よりも内側に位置しており、延出部は、アクスルホルダの下面に沿って車体後方へ延びてキャリパの下方を覆う後方延出部を備えるので、キャリパを保護することができる。
また、保護カバーはキャリパを着脱自在に露出させるカバー形状に形成されるので、キャリパを容易に着脱できると共にディスクブレーキカバーの大型化による重量の増加を回避できる。
また、キャリパの前方でフロントフォークの下部を覆うフォークカバーを備え、保護カバーは、フロントフォークからキャリパに対応する領域を開口させる開口部を有すると共に、フロントフォークの前側でロータを覆うカバー部がフォークカバー近傍まで延出するので、ディスクブレーキカバーの大型化による重量の増加を回避できると共に、ディスクブレーキカバーとフォークカバーとの間の隙間を略閉塞でき、ロータの保護をより十分に図ることができる。
また、ホイールカラーの外周に凹部を設け、この凹部に保護カバーを係止させたので、保護カバーとホイールカラーとの連結位置を位置決めできると共に連結強度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面を参照しながら説明する。以下の説明における前後上下左右等の向きは、特に記載がなければ車両を基準とした向きと同一とする。また、図中矢印FRは車両前方を、矢印LHは車両左方を、矢印UPは車両上方をそれぞれ示す。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係るディスクブレーキカバー構造を備えたオフロード系自動二輪車の側面図である。
この自動二輪車100の車体フレーム1は、ヘッドパイプ2、メインフレーム3、センターフレーム4、ダウンフレーム5及びロアフレーム6を備え、これらをループ状に連結し、その内側にエンジン7を支持している。メインフレーム3、センターフレーム4及びロアフレーム6は、それぞれ左右一対で設けられ、さらに、車体の左右方向の中心線に沿って1本のヘッドパイプ2及び1本のダウンフレーム5が設けられた構成となっている。
【0013】
メインフレーム3は、ヘッドパイプ2からエンジン7の上方を直線状に斜め下がりに後方へ延び、エンジン7の後方において上下方向に延びるセンターフレーム4の上端部へ連結している。ダウンフレーム5は、ヘッドパイプ2からエンジン7の前方を斜めに下方へ延び、このエンジン7のクランクケース9から上方に延びるシリンダ8の前方でロアフレーム6の前端部へ連結される。ロアフレーム6は、クランクケース9の前方でクランクケース9の下方へ屈曲してクランクケース9の下側を略直線状に後方へ延び、その後端部でセンターフレーム4の下端部と連結される。センターフレーム4の上端には、左右一対のシートレール15の前端が連結され、これらシートレール15は後方へ延び、その後端にクロスフレーム部材17が連結される。センターフレーム4の中間部には、左右一対のリヤフレーム16の前端部が連結され、これらリヤフレーム16は斜め上がりに後方へ延びてクロスフレーム部材17に連結される。
【0014】
エンジン7は水冷4サイクルの単気筒エンジンであり、シリンダ8は、そのシリンダ軸線が僅かに前方へ傾いてクランクケース9の前部に設けられ、下から上へ順に、シリンダブロック10、シリンダヘッド11、ヘッドカバー12を備えている。このシリンダ8を略直立にすることにより、エンジン7の前後方向を短くして、エンジン7をオフロード車両に適した構成にしている。
シリンダ8の前部には、エンジン7の排気系を構成する排気管20が接続される。具体的には、排気管20は、シリンダヘッド11の前部からクランクケース9の前方へ延出し、ダウンフレーム5を迂回するように右側へ曲げられた後に車体右側を後方に向かって引き回される。排気管20の後端にはマフラー22が接続され、マフラー22は、リヤフレーム16に支持される。
【0015】
エンジン7の上方には、メインフレーム3に支持された燃料タンク13が位置する。この燃料タンク13の内部には、燃料ポンプが設けられており、この燃料ポンプにより燃料タンク13内の燃料が燃料供給管(図示略)を介してシリンダ8の後部(シリンダヘッド11の後部)に連結されたスロットルボディ18のインジェクタ(図示略)へ供給される。
乗員用のシート14は、燃料タンク13の後部上方からシートレール15の後端にかけて延び、左右一対のシートレール15に支持される。左右のシートレール15及びリヤフレーム16によって囲まれる間隙内には、エアクリーナケース19が支持される。このエアクリーナケース19とスロットルボディ18とはエンジン7の吸気系を構成し、エアクリーナケース60で清浄化された空気がスロットルボディ18へと供給されて燃料と混合され、この混合気がシリンダ8内へ吸気される。
【0016】
左右一対のフロントフォーク23は、車体前部のヘッドパイプ2にトップブリッジ41及びアンダーブラケット42を介して支持され、フロントフォーク23の下端部に支持された前輪24が、トップブリッジ41に取り付けられたハンドル25により操向される。このフロントフォーク23は、アウターチューブ23Aから延出するインナーチューブ23Bが前輪24側に位置する、いわゆる倒立式のフロントフォークが用いられる。左右のインナーチューブ23Bの前端には、アクスルホルダ51が設けられ、左右のアクスルホルダ51間にアクスルシャフト(支軸)52を介して前輪24が回転自在に支持される。
また、左右のアクスルホルダ51には、フロントフォーク23の下部を覆うフォークカバー53の下部がねじ54で固定されており、このフォークカバー53は、フロントフォーク23下部のインナーチューブ23Bの車体外方側周面を覆うようにフォーク23に沿って上方へ延び、インナーチューブ23Bを小石や泥等から保護する。
【0017】
センターフレーム4には、ピボット軸26を介してリヤアーム27の前端部が揺動自在に支持される。リヤアーム27の後端部には、後輪28が支持され、エンジン7側に設けられたドライブスプロケット7Aと後輪28側に設けられた従動スプロケット28Aとに駆動チェーン21が巻回され、このチェーン伝動機構を介してエンジン7の動力が後輪28に伝達される。また、リヤアーム27とセンターフレーム4との間には、リヤサスペンションのクッションユニット29が設けられる。
なお、図1において、符号30は、ダウンフレーム5の左右に設けられたラジエタを示し、符号32及び33はエンジン7の前部及び下部を各々支持するエンジンマウント部を示し、符号34は、メインフレーム3から延出してエンジン7を支持するエンジンハンガを示している。また、符号35は電装品ケースを示し、符号43が前輪24の上方を覆うフロントフェンダを示し、符号44が後輪28の上方を覆うリヤフェンダを示している。なお、このエンジン7は、ピボット軸26を介してセンターフレーム4にも支持されている。
【0018】
図2は、この自動二輪車100の前輪用ディスクブレーキ61を周辺構成と共に示す図である。この前輪用ディスクブレーキ61は、前輪24を制動する前輪制動装置として機能するものであり、前輪24に固定されたロータ(ブレーキディスクとも言う)62と、フロントフォーク23に固定されたキャリパ63とを備え、ロータ62及びキャリパ63を保護するためのディスクブレーキカバー110が設けられている。このディスクブレーキ61では、運転者の前輪ブレーキ操作(不図示のブレーキレバーの操作)が、キャリパ63に接続されたブレーキホース64(図1及び図2参照)内のブレーキ液を介してキャリパ63に伝達され、この液圧でキャリパ63内のブレーキパッドをロータ62に押し付けて前輪24を制動させるブレーキ力を発揮させる。
【0019】
キャリパ63は、車体左側のフロントフォーク23のアクスルホルダ51に設けられたキャリパ支持部56に支持される。このキャリパ支持部56は、アクスルホルダ51の背面(車体後方側の面)から上下に間隔を空けて略V字状に延びる上下一対の上キャリパ支持部56Aと下キャリパ支持部56Bとを備え、上下キャリパ支持部56A、56Bの先端に挿通された計2本のボルト58、59でキャリパ63を支持する。この場合、キャリパ63は、上下キャリパ支持部56A、56B間の間隙内にキャリパ63のピストン部63Aが略位置するように支持される。ここで、ピストン部63Aは、キャリパ63に装着されたブレーキパッドをロータ62側に押下するピストンを収納する部分であるため、このピストン部63A近傍を支持することで、キャリパ63の支持力が十分に確保される。
【0020】
図3は、前輪用ディスクブレーキ61を周辺構成と共に後方から見た図である。この図に示すように、キャリパ63は、フロントフォーク23の外側面よりも内側に位置するように上記キャリパ支持部56に支持される。このため、フロントフォーク23及びフォークカバー53がキャリパ63の前方を覆う遮蔽部材として機能し、フロントフォーク23を保護するフォークカバー53を車体前側からの小石や泥等からキャリパ63を保護する保護部材としても兼用することができる。また、キャリパ63の前方にはアクスルホルダ51も位置するため、このアクスルホルダ51によってもキャリパ63への小石や泥等の接触を低減できる。
【0021】
図4は前輪24の支持構造を示す図であり、図5は前輪24のハブ81周辺をロータ62と共に示す側面図である。本実施形態の自動二輪車100では、前輪24及び後輪28にオフロード車両に適したスポークホイールを使用している。前輪24について説明すると、図4に示すように、前輪24は、アクスルシャフト52が挿通されるハブ81の左右にハブ81の外周方向に延在する円環部82、83を備え、図5に示すように、左右の円環部82、83には複数本のスポーク84の一端が連結され、これらスポーク84の他端が前輪24のリム(不図示)に連結される。これによって、ハブ81とリムとの間にスポーク84が架け渡され、ジャンプ着地時の衝撃力がスポーク84の撓みで低減される。
また、図4に示すように、ハブ81の一方(車体左側)の円環部82の外周部にはロータ支持部85が形成され、このロータ支持部85にロータ62が複数本のボルト86とナット87で固定される(図5参照)。
【0022】
図4に示すように、ハブ81は、アクスルシャフト52が貫通する貫通孔81Aと、この貫通孔81Aの左右に同軸で形成された大径の穴部(以下、大径穴部)81B、81Cとを有し、これら左右の大径穴部81B、81Cに挿入された左右一対の軸受(本例ではボールベアリング)88A、88Bを介してアクスルシャフト52が軸支される。左右一対の軸受88A、88B間には、アクスルシャフト52が挿通するディスタンスカラー89が介挿され、このディスタンスカラー89により左右一対の軸受88A、88Bの内輪間の距離が位置決めされる。
【0023】
ハブ81と左右のアクスルホルダ51との間には、前輪24の車体幅方向の位置決めを行う金属製のホイールカラー(アジャストカラーとも言う)91、92が設けられる。詳述すると、車体右側のホイールカラー91は、アクスルシャフト52の中間軸部52Aとアクスルシャフト52先端側に設けられた大径部52Bとによって形成される段差部52Cと、ハブ81の右側に配置された軸受88Bとの間に介挿され、このホイールカラー91の左右に隙間が空かないようにアクスルシャフト52を締結することによってアクスルシャフト52に対するハブ81の位置決めを行う。すなわち、ホイールカラー91は、アクスルシャフト52の段差部52Cと軸受88Bとの間に挟持されて保持される。この場合、ホイールカラー91は、軸受88Bの内輪に当接し、走行時に回転するハブ81及び軸受88Bの外輪とは非接触に配置される。また、このホイールカラー91の外周面と、ハブ81の大径穴部81Cの内周面との間にはダストシール93Aが配置される。
【0024】
車体左側のホイールカラー92、つまり、前輪用ディスクブレーキ61側のホイールカラー92は、ハブ81の左側に設けられた軸受88Aと、左側のアクスルホルダ51との間に介挿され、このホイールカラー92の左右に隙間が空かないようにアクスルシャフト52を締結することによってアクスルホルダ51に対するハブ81の位置決めを行う。すなわち、このホイールカラー92は、ハブ81の軸受88Aとアクスルホルダ51との間に挟持されて保持される。
このホイールカラー92についても、上記ホイールカラー91と同じく剛性を有する金属製で形成され、軸受88Aの内輪に当接することにより、走行時に回転するハブ81及び軸受88Aの外輪とは非接触に支持される。また、このホイールカラー92の外周面と、ハブ81の大径穴部81Bの内周面との間にもダストシール93Bが配置される。このようにハブ81の左右にホイールカラー91、92を各々介挿することによって前輪24の左右位置が精度良く位置決めされる。なお、図4中符号94は、上下割りされたアクスルホルダ51を締結してアクスルシャフト52を適切保持力で保持させるためのボルトである。
【0025】
次にディスクブレーキカバー110について説明する。図6は図5の前輪24にディスクブレーキカバー110を装着した状態を示す側面図であり、図7はディスクブレーキカバー110の平面図を示している。
本構成のディスクブレーキカバー110は、前輪用ディスクブレーキ61を覆う保護カバー120を備え、この保護カバー120をホイールカラー92と一体にして構成される。この保護カバー120は、図6及び図7に示すように、ホイールカラー92の外周から延びてロータ62を覆うロータカバー部130と、アクスルホルダ51下方でロータカバー部130から車体幅方向に延びる延出部140とを備えて構成される。
この保護カバー120は、上記ロータカバー部130と延出部140とを一体に備えた樹脂成形品で形成され、金属製のホイールカラー92と一体に構成される。具体的には、ディスクブレーキカバー110を製作する場合に、金属製のホイールカラー92を予め製作しておき、保護カバー120の成形型の所定位置に上記ホイールカラー92を配置し、この状態で、ペレット状の樹脂材を充填する射出成形を行うことによってディスクブレーキカバー110が製作される。このため、保護カバー120の成型時に、金属製のホイールカラー92と樹脂製の保護カバー120とを簡易に接合することができる。なお、ホイールカラー92を保護カバー120成型後に圧入等の他の連結方法で一体部品に構成してもよい。また、ホイールカラー92の外周面に保護カバー120滑り止め用のローレットを設けてもよい。
【0026】
ロータカバー部130は、ホイールカラー92の外周からロータ62を覆うように延出すると共に、フロントフォーク23(アクスホルダ51及びキャリパ支持部56を含む)からキャリパ63に対応する領域を開口させる切り欠き部(開口部)131を有する略扇形のカバーに形成される。このロータカバー部130は、切り欠き部131の両側に相当する部位に、ホイールカラー92からフォークカバー53(図2参照)に沿って延びる上フレーム部132と、ホイールカラー92からアクスルホルダ51(図2参照)の下方をキャリパ63の下方に向かって後ろ下がり方向に延びる後フレーム部133とが形成されると共に、ホイールカラー92から前下がり方向に延びる前下フレーム部134と、ホイールカラーから前上がり方向に延びる前上フレーム部135とを有する。また、ロータカバー部130には、上述した4本のフレーム部132〜135の先端部を連結するように延在してロータ62の外周縁部を覆う縁部カバー部136が形成されると共に、ハブ81を覆うように切り欠き部131の内周側に延在するハブ覆い部131Aが形成される。
【0027】
図8はディスクブレーキカバー110の三面図であり、図8(A)が平面図、図8(B)が前面図、図8(C)が上面図を示している。縁部カバー部136は、図8に示すように、ロータの外周縁部の側面を覆う側面カバー部136Aと、この側面カバー部136Aから車体幅方向内側に屈曲してロータ62の端面を覆う端面カバー部136Bとを有し、これらカバー部136A及び136Bによってロータ62を保護する。この縁部カバー部136は、ロータ62の端面周囲を覆う一方で、ロータ62の車幅方向内側を開放させるので、ブレーキパッドとの摩擦力で加熱するロータ62を冷却し易くすることができる。
また、ロータカバー部130の上フレーム部132と前上フレーム部135との間、及び、前上フレーム部135と前下フレーム部134との間には、空気を流通自在なハニカム形状のネット部137A、137Bが形成され、ロータカバー部130の開口部の剛性を向上し、かつ、デザイン性を向上しつつロータ62の冷却性能を確保している。このネット部137A、137Bの開口は、小石や泥を遮断できる程度に小さい穴に形成されている。一方、ロータカバー部130の前下フレーム部134と後フレーム部133との間は閉塞部材138で閉塞され、ロータカバー部130の下半部の強度を向上させている。
【0028】
ロータカバー部130から車体幅方向に延びる延出部140は、アクスルホルダ51の下面に沿って車体後方へ延びてキャリパ63の下方を覆う後方延出部141を備えると共に、アクスルシャフト52よりも後方で延出部140の左端部(後方延出部141の左端部を含む)から屈曲して上方に立ち上がる立上部142を備えている。この立上部142は、キャリパ支持部56の下キャリパ支持部56Bにボルト145を介して固定される。
ここで、図9は図7のIX−IX断面を示す。この図9及び図3に示すように、下キャリパ支持部56Bには、立上部142のボルト孔146に向かって突出する突出部56Cが設けられており、立上部142の内面(ボルト孔146の周囲)が突出部56Cの端面に当接した状態で、ボルト145及び突出部56Cを介して立上部142がフロントフォーク23に支持された下キャリパ支持部56Bに支持される。
【0029】
このように延出部140がアクスルホルダ51下方を覆い、後方延出部141がキャリパ63の下方を覆うので、延出部140によりアクスルホルダ51への小石や泥等の接触を防ぐことができると共に、アクスルホルダ51後方のキャリパ63に対し、アクスルホルダ51下方からの小石や泥等が接触するのを防ぐことができ、更に、後方延出部141によりキャリパ63下方から小石や泥等がキャリパ63へ接触するのを防ぐことができる。すなわち、保護カバー120によりアクスルホルダ51及びキャリパ63を保護することができる。
また、この保護カバー120が、延出部140から立ち上がる立上部142によりアクスルシャフト52から離れた位置で支持されるので、この保護カバー120を備えたディスクブレーキカバー110が、前輪24のハブ81とアクスルホルダ51との間に挟持されて前輪24と共にアクスルシャフト52に支持されたホイールカラー92の支持力で支持されると共に、この支持部から車体前後方向及び車体幅方向に離れた位置の計二点支持でフロントフォーク23に支持される。
なお、図7中、符号140Aは、フロントフォーク23のダンパーアジャストへのアクセス孔であり、保護カバー120を取り付けたままアジャスト可能にする。また、このアクセス孔140Aは、フロントフォーク23やフォークカバー53を伝って下方へ流れた水を排出する水抜き孔としても機能する。
【0030】
図10は図7のX−X断面を示し、図11は図7のXI−XI断面を示し、図12は図7のXII−XII断面を示している。図10乃至図12に示すように、保護カバー120の基端部120Aは、保護カバー120の他の部分よりも車体前後方向に延在してホイールカラー92との接触面積が広く確保されると共に、ホイールカラー92の外周に予め形成された凹溝(凹部)92Aに基端部120Aの凸部120Bが係止して位置決めされ、これによって、保護カバー120(ロータカバー部130)とホイールカラー92との連結強度(接合強度)が向上される。
また、ホイールカラー92には、図10に示すように、ダストシール93Bが嵌ってダストシール93Bを位置決めする凹溝(凹部)92Bも形成される。このため、ホイールカラー92の長手方向に間隔を空けて形成された凹溝92A、92Bによって保護カバー120(ロータカバー部130)とダストシール93Bとが位置決めされ、これらの接触を回避できる。
さらに、保護カバー120の各フレーム部132〜135は、基端部120Aの径方向へ延びた後、車体右側へ屈曲しつつ外径方向へ延在する屈曲断面形状に形成されており、すなわち、保護カバー120の断面係数が高く形成されており、これによっても保護カバー120の強度を向上することができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態によれば、ディスクブレーキカバー110を構成する保護カバー120が、前輪24の位置決めを行うホイールカラー92と一体とされ、ホイールカラー92を前輪24のハブ81とアクスルホルダ51との間に挟持して前輪24と共にアクスルシャフト52に支持するので、このホイールカラー92の支持力でディスクブレーキカバー110を支持することができ、支持剛性を確保できると共に、ディスクブレーキカバー110のフロントフォーク23への取付箇所を少なくすることができ、また、部品点数も低減できる。
また、この保護カバー120がロータカバー部130から車体幅方向に延びる延出部140を備え、この延出部140をアクスルシャフト52から離れた位置でフロントフォーク23に支持するので、ディスクブレーキカバー110を、アクスルシャフト52と、アクスルシャフト52から離れた位置との二点支持で十分な支持剛性を確保できる。
【0032】
すなわち、このディスクブレーキカバー110はフロントフォーク23への取付箇所(ボルト止め箇所)が1カ所で済むため、ディスクブレーキカバー110を軽量化できると共に、ディスクブレーキカバー110の取り付け、取り外しの脱着作業を容易にすることができる。例えば、前輪24の交換時に予めディスクブレーキカバー110(保護カバー120)をフロントフォーク23から取り外しておけば、前輪24を取り外した際に、ディスクブレーキカバー110を容易に取り外すことができる。特に競技車両では、競技の前後等に前輪24の脱着作業が行われるため、かかる作業時にディスクブレーキカバー110を容易に着脱でき、作業を迅速化できる。
【0033】
また、保護カバー120が、ホイールカラー92の外周から延びてロータ62を覆うロータカバー部130と、アクスルホルダ51及びキャリパ63の下方を覆う延出部140とを備えるので、ロータ62及びキャリパ63からなる前輪用ディスクブレーキ61及びアクスルホルダ51を保護できる。
しかも、ロータカバー部130がキャリパ63に対応する領域を開口させる切り欠き部(開口部)131を有するので、保護カバー120(ディスクブレーキカバー110)の大型化による重量の増加を抑えつつ、前輪用ディスクブレーキ61及びアクスルホルダ51を保護できると共に、ディスクブレーキカバー110を車両に取り付けた状態でも、キャリパ63を容易に着脱することができ、これによっても作業性(メンテナンス性)を向上できる。
【0034】
また、ロータカバー部130が、図2に示すように、フロントフォーク23の前側でフロントフォーク23の下部を覆うフォークカバー53近傍まで延出するので、ロータカバー部130とフォークカバー53との間の隙間を略閉塞でき、ロータ62の保護をより十分に図ることができる。
さらに、ディスクブレーキカバー110のロータカバー部130をホイールカラー92の外周に形成された凹溝92Aに係止させたので、ロータカバー部130とホイールカラー92との連結位置を位置決めできると共に、連結強度を向上することができる。
【0035】
以上、一実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、種々の設計変形を行うことができる。例えば、上述の実施形態では、オフロード系自動二輪車100のディスクブレーキカバー構造に本発明を適用する場合について説明したが、これに限らず、ディスクブレーキを備える車両のディスクブレーキカバー構造に広く適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態に係るディスクブレーキカバー構造を備えたオフロード系自動二輪車の側面図である。
【図2】前輪用ディスクブレーキを周辺構成と共に示す側面図である。
【図3】前輪用ディスクブレーキを周辺構成と共に後方から見た図である。
【図4】前輪の支持構造を示す図である。
【図5】前輪のハブ周辺をロータと共に示す側面図である。
【図6】図5の前輪にディスクブレーキカバーを装着した状態を示す側面図である。
【図7】ディスクブレーキカバーの平面図である。
【図8】(A)はディスクブレーキカバーの平面図、(B)は前面図、(C)は背面図である。
【図9】図7のIX−IX断面図である。
【図10】図7のX−X断面図である。
【図11】図7のXI−XI断面図である。
【図12】図7のXII−XII断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 車体フレーム
7 エンジン
23 フロントフォーク
24 前輪
28 後輪
51 アクスルホルダ
52 アクスルシャフト
53 フォークカバー
56 キャリパ支持部
61 ディスクブレーキ
62 ロータ
63 キャリパ
64 ブレーキホース
81 ハブ
88A、88B 軸受
91、92 ホイールカラー
92A、92B 凹溝(凹部)
93A、93B ダストシール
100 自動二輪車
110 ディスクブレーキカバー
120 保護カバー
120B 凸部
130 ロータカバー部
131 切り欠き部(開口部)
140 延出部
141 後方延出部
142 立上部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のフロントフォークに設けられたアクスルホルダ間に支軸を介して前輪を軸支し、前輪にディスクブレーキのロータを取り付け、フロントフォークにディスクブレーキのキャリパを取り付けた車両のディスクブレーキを保護するディスクブレーキカバー構造において、
前記ロータを保護する保護カバーを備え、この保護カバーは、前記前輪の位置決めを行うホイールカラーと一体とされ、前記ホイールカラーを前記前輪のハブと前記アクスルホルダとの間に挟持して前記前輪と共に前記支軸に支持したことを特徴とするディスクブレーキカバー構造。
【請求項2】
前記保護カバーは、前記ロータを覆うロータカバー部と、前記アクスルホルダ下方で車体幅方向に延びる延出部とを備え、この延出部を、前記支軸から離れた位置で前記フロントフォークに支持したことを特徴とする請求項1に記載のディスクブレーキカバー構造。
【請求項3】
前記キャリパは、前記フロントフォークの後方で該フロントフォークの外側面よりも内側に位置しており、前記延出部は、前記アクスルホルダの下面に沿って車体後方へ延びて前記キャリパの下方を覆う後方延出部を備えることを特徴とする請求項2に記載のディスクブレーキカバー構造。
【請求項4】
前記キャリパは、前記フロントフォークに設けられたキャリパ支持部に支持され、前記保護カバーは、前記キャリパを着脱自在に露出させるカバー形状に形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のディスクブレーキカバー構造。
【請求項5】
前記キャリパの前方で前記フロントフォークの下部を覆うフォークカバーを備え、前記保護カバーは、前記フロントフォークから前記キャリパに対応する領域を開口させる開口部を有すると共に、前記フロントフォークの前側で前記ロータを覆うロータカバー部が前記フォークカバー近傍まで延出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のディスクブレーキカバー構造。
【請求項6】
前記ホイールカラーの外周に凹部を設け、この凹部に前記保護カバーを係止させたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のディスクブレーキカバー構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−264484(P2009−264484A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114427(P2008−114427)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】