説明

ディスクブレーキ装置

【課題】アジャスタのピストンへの良好な組み付け性を確保しながら、ピストン先端部に形成していたエア抜き孔を省略することができるディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】アジャストボルト13の小径ピストン13aは、シリンダ孔先端側大径部13cと、シリンダ孔底部側中径部13dと、カップシール15を嵌着する小径軸部13eとを有する。カップシール15は、小径軸部13eに嵌着される内周リップ部15aと、嵌合孔9aの内周面に弾接する外周リップ部15bと、外周リップ部15bと内周リップ部15aとを繋ぐベース部15cとを備え、真空保持圧以下の緊迫力に設定される。アジャストボルト13の小径ピストン13aをピストン9の嵌合孔9a内に挿入する際に、小径ピストン13aよりもピストン底壁側の嵌合孔内に形成される空間部E1のエアを、カップシール15の外周リップ部15bの外周側からシリンダ孔底部側に通過可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置に関し、詳しくは、液圧によって摩擦パッドを押圧するピストンと、摩擦パッドとディスクロータとの間隙を自動調整するためのアジャスタと、推力変換機構により前記アジャスタを介してピストンを押圧するパーキングブレーキとを備えたディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪自動車等に用いられるディスクブレーキ装置として、ブレーキペダルによる液圧式作動機構と、ハンドレバーやフットペダルによって牽引操作される機械式作動機構とを備えたパーキングブレーキ付きのディスクブレーキ装置がある。このパーキングブレーキ付きのディスクブレーキ装置は、一般に、キャリパボディに設けたシリンダ孔の先端開口側に液圧式作動機構を構成するピストンを配置し、このピストンの後面側にアジャストナット及びアジャストボルトを有するアジャスタを配置すると共に、シリンダ孔の底部側に機械式作動機構を構成する推力変換機構を配置している。また、前記アジャスタは、シリンダ孔の先端開口側に配置されるアジャストナットとアジャストボルトの何れか一方の先端部に、シール材を装着した小径ピストンが形成されると共に、前記ピストンの底壁内面には、前記小径ピストンを前記シール材を介して嵌合する嵌合孔を備えていた。
【0003】
このような、パーキングブレーキ付きのディスクブレーキ装置では、前記アジャスタの小径ピストンを前記ピストンの嵌合孔内に挿入する際に、小径ピストンよりもピストン底壁側の嵌合孔内に形成される空間部の圧力を抜いて、小径ピストンを嵌合孔内に良好に挿入できるように、前記シール材が配置される位置よりもシリンダ孔開口側となるピストン先端部にエア抜き孔が穿設され、該エア抜き孔の開口部にはダストブーツが嵌着されているものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−281045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のディスクブレーキ装置では、ピストンにエア抜き孔を加工する必要がありコストが嵩んでいた。また、作動液の充填時に油圧経路を真空引きし、前記シール材のシリンダ孔開口側とシリンダ孔底部側とに圧力差が生じた際に、エア抜き孔からピストン内に外気が入り込むことを防止するため、前記小径ピストンに装着する前記シール材は、例えば、大気圧以上の圧力差を生じても気密性を保持する緊迫力を備えていなければならなかった。さらに、エア抜き孔の開口部にダストブーツが嵌着され、エア抜き孔から水や塵芥がピストン内部に浸入しないようにしているが、ダストブーツのシール力が低い場合、エア抜き孔から水や塵芥がピストン内部に浸入する虞があった。
【0006】
そこで本発明は、ピストンへのアジャスタの良好な組み付け性を確保しながら、ピストン先端部に形成していたエア抜き孔を省略することができるディスクブレーキ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のディスクブレーキ装置は、キャリパボディに形成されるシリンダ孔の先端開口側に、底壁をディスクロータ側に向けて収納されたピストンと、シリンダ孔の底部側に配設された推力変換機構と、該推力変換機構と前記ピストンとの間に設けられたアジャストナット及びアジャストボルトを有するアジャスタと、前記推力変換機構からアジャスタを介して前記ピストンを押動するパーキングブレーキとを備え、前記アジャスタは、前記シリンダ孔の先端開口側に配置される先端部に、シール材を装着した小径ピストンを備え、前記ピストンは、底壁内面に前記小径ピストンを前記シール材を介して嵌合する嵌合孔を備えた車両用ディスクブレーキ装置において、前記小径ピストンは、シリンダ孔先端側大径部とシリンダ孔底部側中径部と、該シリンダ孔底部側中径部と前記シリンダ孔先端側大径部との間に形成され、前記シール材を嵌着する小径軸部とを備え、前記シール材は、前記小径軸部に嵌着される内周リップ部と、前記嵌合孔の内周面に弾接する外周リップ部と、該外周リップ部と前記内周リップ部とを繋ぎ前記先端側大径部のシリンダ孔底部側面に当接するベース部とを備えた環状のカップシールで形成されると共に、前記外周リップ部は、前記カップシールのシリンダ孔開口側とシリンダ孔底部側とに圧力差が生じた際に、前記外周リップ部の外周面と前記嵌合孔の内周面との間が通気可能となる緊迫力に設定されていることを特徴とし、また、前記カップシールの外周面は、前記ベース部のシリンダ孔底部側から前記外周リップ部のシリンダ孔底部側端部に向けて漸次大径に形成される円錐部を備え、該円錐部のシリンダ軸方向の長さ寸法を、前記円錐部よりもシリンダ孔先端側に設けられる円筒部のシリンダ軸方向の長さ寸法よりも長く形成すると共に、前記外周リップ部は前記内周リップ部よりも薄肉に形成することもできる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のディスクブレーキ装置によれば、アジャスタの小径ピストンをピストンの嵌合孔内に挿入する際に、ピストンシールが撓んで、小径ピストンよりもピストン底壁側の嵌合孔内に形成される空間部のエアを、ピストンシールの外周リップ部の外周側からシリンダ孔底部側に通過可能となることから、空間部の圧力を開放し、小径ピストンを嵌合孔内に良好に組み付けることができる。これにより、従来設けていたエア抜き孔を省略することができ、コストの削減化を図ることができ、さらに、従来のように、エア抜き孔から水や塵芥がピストン内部に浸入することがない。また、各部品を組み付けた後に、液圧系統を真空引きして作動液を充填する際にも、カップシールは、小径ピストンをピストンの嵌合孔に挿入する際と同様に撓み、空間部の圧力を開放することができる。
【0009】
さらに、カップシールの外周面に円錐部を備え、該円錐部のシリンダ軸方向の長さ寸法を、前記円錐部よりもシリンダ孔先端側に設けられる円筒部のシリンダ軸方向の長さ寸法よりも長く形成すると共に、外周リップ部を内周リップ部よりも薄肉に形成したことにより、小径ピストンを嵌合孔内に挿入する際に、前記ピストンシールが良好に撓み、前記空間部の圧力を容易に開放することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一形態例を示すディスクブレーキ装置の要部拡大断面図である。
【図2】同じく小径ピストンとカップシールと嵌合孔とを示す要部拡大断面図である。
【図3】同じく小径ピストンとカップシールと嵌合孔とを示す要部拡大断面図である。
【図4】同じくディスクブレーキ装置の正面図である。
【図5】図4のV-V断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1乃至図5に示すディスクブレーキ装置1は、キャリパボディ2にブレーキペダル(図示せず)にて操作させる液圧式作動機構3と、ハンドレバーやフットペダル(いずれも図示せず)にて操作されるパーキングブレーキ用の機械式作動機構4とを併設したパーキングブレーキ付きのディスクブレーキ装置であって、キャリパボディ2は、ディスクロータ5の一側部で車体に固設されるキャリパブラケット6に、図示しない一対の摺動ピンを介してディスク軸方向に移動可能に支持される。
【0012】
前記キャリパボディ2は、ディスクロータ5の両側に対向配置される作用部2a及び反作用部2bと、ディスクロータ5の外側を跨いでこれらを連結するブリッジ部2cとを有しており、作用部2aと反作用部2bとの間には、一対の摩擦パッド7,7がディスクロータ5を挟んで配置されている。
【0013】
作用部2aには、ディスクロータ側に開口するシリンダ孔8が形成されている。シリンダ孔8は、先端開口側に大径部8a、シリンダ孔底部側に小径部8bがそれぞれ形成され、大径部8aには開口側にシール溝8cとブーツ溝8dが周設され、小径部8bにはシリンダ軸方向に複数の係合溝8eが小径部8bの周方向に等間隔に設けられると共に、これら係合溝8eの軸方向中間部を繋ぐ周方向溝8fが形成されている。また、作用部2aの上部側には、前記係合溝8eの1つと、周方向溝8fとに連通し、車体取り付け時に、車体上方に位置するブリーダ孔8gが穿設されている。
【0014】
シリンダ孔8の大径部8aには、液圧式作動機構3を構成する有底円筒状のピストン9が収容され、小径部8bには、機械式作動機構4を構成する推力変換機構10が収容されると共に、ピストン9と推力変換機構10との間には、ディスクロータ5と摩擦パッド7との制動間隙を自動的に調整するためのアジャスタ11が配設されている。また、シリンダ孔底壁8hには、固定側カム板12が配設されている。
【0015】
アジャスタ11は、アジャストボルト13とアジャストナット14とで構成され、アジャストボルト13の頭部には小径ピストン13aとクラッチ板13bとが設けられている。小径ピストン13aは、シリンダ孔先端側大径部13cと、シリンダ孔底部側中径部13dと、カップシール15を嵌着する小径軸部13eとを備え、該小径軸部13eは前記シリンダ孔先端側大径部13cと前記シリンダ孔底部側中径部13dとの間に形成されている。カップシール15は、環状に形成され、小径軸部13eに嵌着される内周リップ部15aと、ピストン9に形成した嵌合孔9aの内周面に弾接する外周リップ部15bと、外周リップ部15bと内周リップ部15aとを繋ぎ前記シリンダ孔先端側大径部13cのシリンダ孔底部側面13fに当接するベース部15cとを備えている。また、カップシール15の外周面は、ベース部15cのシリンダ孔底部側から外周リップ部15bのシリンダ孔底部側端部に向けて漸次大径に形成される円錐部15dを備え、該円錐部15dのシリンダ軸方向の長さ寸法L1を、円錐部15dよりもシリンダ孔先端側に設けられる円筒部15eのシリンダ軸方向の長さ寸法L2よりも長く形成すると共に、外周リップ部15bを内周リップ部15aよりも薄肉に形成し、外周リップ部15bは、カップシール15のシリンダ孔開口側とシリンダ孔底部側とに圧力差が生じた際に、円錐部15dの外周面と嵌合孔aの内周面との間が通気可能となる緊迫力に設定されている。なお、この外周リップ部15bの緊迫力は、大気圧の半分程度の圧力差を生じた際に、カップシール15のシリンダ孔開口側とシリンダ孔底部側とが通気可能となるように設定すると好適である。
【0016】
アジャストナット14は、内部にアジャストボルト13と螺合する多条ねじ14aが形成され、シリンダ孔底部側の端部に推力伝達板14bが設けられている。また、アジャストナット14の外周側には、カムスプリング16と前記推力伝達板14bとを収容する円筒状のハウジング17がシリンダ孔8内に配設されている。
【0017】
ピストン9は、底壁9bをディスクロータ側に向けてシリンダ孔8の大径部8aに収容されており、ピストン9の内部中心軸上に、前記アジャストナット14とアジャストボルト13とが設けられている。ピストン9の底壁内面には、前記嵌合孔9aが設けられ、嵌合孔9aに前記小径ピストン13aが前記カップシール15を介して嵌合し、クラッチ板13bは、嵌合孔9aの開口部から拡開する円錐面9cに、ばね部材18の作用で圧接している。また、ばね部材18は、一端がベアリング受け19に、他端がピストン9の内周壁に形成された止め輪装着溝9dに嵌着された止め輪20に当接し、ベアリング受け19及びベアリング21を介してアジャストボルト13を回動可能な状態で底壁9b側に付勢している。
【0018】
前記推力変換機構10は、固定側カム板12に対して回動可能、且つ、シリンダ軸方向に移動可能に貫通したカムシャフト22と、該カムシャフト22のシリンダ孔開口側端部に設けられた駆動側カム板22aと該駆動側カム板22a及び前記固定側カム板12の対向位置にそれぞれ形成される複数のランプ溝23及び該ランプ溝23に収容されるカムベアリング24とを備えている。
【0019】
駆動側カム板22aは、シリンダ孔開口側端部の中央に、円筒部22bが突設され、シリンダ孔開口側面に、スラストベアリング25とスペーサ26とを介して前記推力伝達板14bが当接する。
【0020】
推力伝達板14bは、シリンダ孔底部側端部の中央に、前記円筒部22bと、アジャストボルト13のねじ部先端を収容する収容孔14cが形成され、また、外周には複数の係合用突部14dが周方向に等間隔で設けられている。
【0021】
固定側カム板12は、円盤状に形成され、中央にはカムシャフト22を挿通させる挿通孔12aが設けられ、外周側にはシリンダ孔8の各係合溝8eにそれぞれ係合する複数の係合リブ12bが周方向に等間隔に突設されている。
【0022】
ハウジング17は、シリンダ孔8の小径部8bの径よりもやや小径に形成される大径筒部17aと、アジャストナット14に形成した推力伝達板14bの外径よりも大きな内径を有する小径筒部17bとを一体に備えたもので、小径筒部17bの周壁にはハウジング17の内外を貫通する通孔17cが穿設されると共に、小径筒部17bのシリンダ孔開口側から、大径筒部17aのシリンダ孔底部側に亘って、前記推力伝達板14bの各係合用突部14dが軸方向にのみ移動可能に係合する係合孔17dが穿設されている。さらに、小径筒部17bのシリンダ孔開口部側端部にはカムスプリング16の支持片17eが内周側に突設されている。大径筒部17aのシリンダ孔底部側には、シリンダ孔8の各係合溝8eにそれぞれ係合されると共に、周方向溝8fに嵌着する複数の係合リブ17fが周方向に等間隔で突設され、大径筒部17aの隣り合う係合リブ17f間の周壁は、シリンダ孔底部側に延設され、前記固定側カム板12の周壁に係合させる折曲げ片17gが形成されている。また、係合リブ17fのシリンダ孔底部側で、隣り合う折曲げ片17g間は、空隙部となっており、この空隙部が、ディスクブレーキ装置を組み立て後に、ハウジング17の内外を連通させる連通孔17hとなる。
【0023】
このように形成した本形態例のディスクブレーキ装置1の組み付けは、ハウジング17のシリンダ孔底部側の開口から、カムスプリング16を挿入し、その一端を支持片17eに当接させ、カムスプリング16の内周にアジャストナット14を挿通する。該アジャストナット14に設けた推力伝達板14bのシリンダ孔開口側面にカムスプリング16の他端を当接させ、アジャストナット14の係合用突部14dをハウジング17の係合孔17dに係合させて、推力伝達板14bをシリンダ軸方向に移動可能な状態で回り止めする。次に、推力伝達板14bの収容孔14cに、スペーサ26とスラストベアリング25とを挿通した駆動側カム板22aの円筒部22bを収容させ、推力伝達板14bのシリンダ孔底部側面と駆動側カム板22aのシリンダ孔開口側面とをスペーサ26とスラストベアリング25とを介して当接させる。次いで、各カムベアリング24を各ランプ溝23に収容するように固定側カム板12の挿通孔12aにカムシャフト22を挿通し、固定側カム板12の係合リブ12bとハウジング17の係合リブ17fの位置をシリンダ軸方向に合わせ、ハウジング17の折曲げ片17gを固定側カム板12の周壁に係合させる。これにより、固定側カム板12がハウジング17のシリンダ孔底部側に配設され、推力変換機構10と、推力伝達板14bと、カムスプリング16とをハウジング17内に組み付けてユニット化することができ、また、固定側カム板12の係合リブ12bとハウジング17の係合リブ17fとは、同一のシリンダ軸方向線状にそれぞれ1つずつ配設される。
【0024】
このように組み付けられたユニットは、固定側カム板12をシリンダ孔底壁8h側に向けてシリンダ孔8内に挿入され、固定側カム板12の係合リブ12bとハウジング17の係合リブ17fとを、シリンダ孔8の小径部8bに形成された係合溝8eにそれぞれ係合させると共に、ハウジング17の係合リブ17fを周方向溝8fに係合させ、固定側カム板12から突出したカムシャフト22をシリンダ孔底壁8hの挿通孔8iから外部に突出させる。このように、固定側カム板12の係合リブ12bとハウジング17の係合リブ17fとをシリンダ孔8の係合溝8eにそれぞれ係合させることによって、固定側カム板12とハウジング17の回動を規制する。また、ハウジング17に形成した連通孔17hが、ブリーダ孔8gに連通する前記係合溝8eの位置に配設され、ハウジング17の内部と前記ブリーダ孔8gとが、連通孔17hと係合溝8eとを介して連通する。
【0025】
一方、アジャストボルト13は、小径軸部13eにカップシール15を嵌着し、クラッチ板13bのシリンダ孔底部側にベアリング21とベアリング受け19とばね部材18と止め輪20とを順に挿通した状態で、小径ピストン13aをピストン9の嵌合孔9aに挿入し、止め輪20をピストン9の内周壁に形成された止め輪装着溝9dに嵌着して、こちらも1つのユニットとする。小径ピストン13aを嵌合孔9aに挿入する際には、挿入に伴って小径ピストン13aのピストン底壁側に形成される嵌合孔9a内に形成される空間部E1の圧力が高くなると、カップシール15は、外周リップ部に設定されている緊迫力により、図3に示されるように、ベース部15c外周リップ部15bが内周リップ部側に撓み、カップシール15の外周面に形成した円錐部15dに沿って、空間部E1のエアが抜け、空間部E1内の圧力を開放することができる。これにより、小径ピストン13aを嵌合孔9a内に良好に挿入させることができる。さらに、円錐部15dのシリンダ軸方向の長さ寸法L1を、円錐部15dよりもシリンダ孔先端側に設けられた円筒部15eのシリンダ軸方向の長さ寸法L2よりも長く形成すると共に、外周リップ部15bを内周リップ部15aよりも薄肉に形成したことにより、カップシール15を、上述のように良好に撓ませることができる。また、カップシール15の外周側から抜けた空間部E1のエアは、嵌合孔9aとシリンダ孔底部側中径部13dとの隙間、クラッチ板13bと円錐面9cとの隙間、クラッチ板13bに形成された通孔13gを介してシリンダ孔底部側に抜ける。
【0026】
次に、アジャストボルト13をアジャストナット14に螺合させながら、ピストン9をシリンダ孔8に押し込み、カムシャフト22の突出端に操作レバー27を取り付ける。これにより、キャリパボディ2に液圧式作動機構3,機械式作動機構4及びアジャスタ11が組み付けられる。
【0027】
このように組み付けられたディスクブレーキ装置1の液圧系統を真空引きして、作動液が充填されるが、この真空引き作業の際に、カップシール15は、小径ピストン13aをピストン9の嵌合孔9aに挿入する際と同様に撓み、空間部E1がエア抜きされる。
【0028】
このディスクブレーキ装置1は、液圧式作動機構3を用いたブレーキ操作では、シリンダ孔8内に導入された作動液の圧力によってピストン9がディスクロータ方向に押動され、作用部2aの摩擦パッド7をディスクロータ5の一側面に押圧すると共に、その反力によってキャリパボディ2が作用部2a方向に移動し、反作用部2bが反作用部2b側の摩擦パッド7をディスクロータ5の他側面に押圧し、制動作用が行われる。
【0029】
この時、摩擦パッド7とディスクロータ5との制動間隙が所定範囲内にある場合は、ピストン9の移動量がアジャストボルト13とアジャストナット14とのバックラッシ分を移動するのみでアジャスト作用は行われない。摩擦パッド7の摩耗によってディスクロータ5との制動間隙が所定値を超えると、ピストン9が前記バックラッシ分を超えてディスクロータ側に大きく移動し、クラッチ板13bとピストン9の円錐面9cとが離れるが、アジャストボルト13が回って前進し、クラッチ板13bとピストン9の円錐面9cとは再び当接する。この状態でブレーキ操作を解除すると、ピストン9及びアジャストボルト13がバックラッシ分を後退することにより、摩擦パッド7とディスクロータ5との制動間隙が所定範囲に自動的に調節されることになる。
【0030】
また、機械式作動機構4によるパーキングブレーキ操作では、ハンドレバーやフットペダルによって操作レバー27が回動操作されると、カムシャフト22と共に駆動側カム板22aが回動し、駆動側カム板22aの各ランプ溝23と固定側カム板12の各ランプ溝23との位相がずれることにより、各カムベアリング24がランプ溝23の浅い部分にそれぞれ移動し、固定側カム板12から駆動側カム板22aが離反するようにしてディスクロータ側に移動する。この駆動側カム板22aの軸方向の移動は、アジャストナット14からアジャストボルト13を介してピストン9に伝達され、該ピストン9をディスクロータ側に押動する推力となり、前記液圧式作動機構3による制動作用と同じようにして制動作用が行われる。
【0031】
上述のディスクブレーキ装置1では、小径ピストン13aを嵌合孔9a内に挿入する際や液圧系統を真空引きする際に、カップシール15が撓んで、小径ピストン13aよりもピストン底壁側の嵌合孔9aに形成される空間部E1の圧力を開放することから、従来、ピストン9の底部側に形成していたエア抜き孔を省略することができ、コストの削減化を図ることができると共に、エア抜き孔から水や塵芥がピストン内部に浸入することがない。また、カップシール15の外周面に円錐部15dを備え、該円錐部15dのシリンダ軸方向の長さ寸法L1を、前記円錐部15dよりもシリンダ孔先端側に設けられた円筒部15eのシリンダ軸方向の長さ寸法L2よりも長く形成すると共に、外周リップ部15bを内周リップ部15aよりも薄肉に形成したことにより、小径ピストン13aを嵌合孔9a内に挿入する際や液圧系統を真空引きする際に、カップシール15が良好に撓み、前記空間部E1の圧力を容易に開放することができる。
【0032】
尚、本発明は上述の形態例のように、アジャストナットに推力伝達板を形成し、アジャストナットをハウジングに収容するようにするものに限らず、アジャストボルトに推力伝達板を形成し、アジャストボルトをハウジングに収容しても良い。
【符号の説明】
【0033】
1…ディスクブレーキ装置、2…キャリパボディ、2…作用部、2…反作用部、2…ブリッジ部、3…液圧式作動機構、4…機械式作動機構、5…ディスクロータ、6…キャリパブラケット、7…摩擦パッド、8…シリンダ孔、8a…大径部、8b…小径部、8c…シール溝、8d…ブーツ溝、8e…係合溝、8f…周方向溝、8g…ブリーダ孔、8h…シリンダ孔底壁、8i…挿通孔、9…ピストン、9a…嵌合孔、9b…底壁、9c…円錐面、9d…止め輪装着溝、10…推力変換機構、11…アジャスタ、12…固定側カム板、12a…挿通孔、12b…係合リブ、13…アジャストボルト、13a…小径ピストン、13b…クラッチ板、13c…シリンダ孔先端側大径部、13d…シリンダ孔底部側中径部、13e…小径軸部、13f…シリンダ孔底部側面、14…アジャストナット、14a…多条ねじ、14b…推力伝達板、14c…収容孔、14d…係合用突部、15…カップシール、15a…内周リップ部、15b…外周リップ部、15c…ベース部、15d…円錐部、15e…円筒部、16…カムスプリング、17…ハウジング、17a…大径筒部、17b…小径筒部、17c…通孔、17d…係合孔、17e…支持片、17f…係合リブ、17g…折曲げ片、17h…連通孔、18…ばね部材、19…ベアリング受け、20…止め輪、21…ベアリング、22…カムシャフト、22a…駆動側カム板、22b…円筒部、23…ランプ溝、24…カムベアリング、25…スラストベアリング、26…スペーサ、27…操作レバー、28…ブリーダスクリュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパボディに形成されるシリンダ孔の先端開口側に、底壁をディスクロータ側に向けて収納されたピストンと、シリンダ孔の底部側に配設された推力変換機構と、該推力変換機構と前記ピストンとの間に設けられたアジャストナット及びアジャストボルトを有するアジャスタと、前記推力変換機構からアジャスタを介して前記ピストンを押動するパーキングブレーキとを備え、前記アジャスタは、前記シリンダ孔の先端開口側に配置される先端部に、シール材を装着した小径ピストンを備え、前記ピストンは、底壁内面に前記小径ピストンを前記シール材を介して嵌合する嵌合孔を備えた車両用ディスクブレーキ装置において、前記小径ピストンは、シリンダ孔先端側大径部とシリンダ孔底部側中径部と、該シリンダ孔底部側中径部と前記シリンダ孔先端側大径部との間に形成され、前記シール材を嵌着する小径軸部とを備え、前記シール材は、前記小径軸部に嵌着される内周リップ部と、前記嵌合孔の内周面に弾接する外周リップ部と、該外周リップ部と前記内周リップ部とを繋ぎ前記先端側大径部のシリンダ孔底部側面に当接するベース部とを備えた環状のカップシールで形成されると共に、前記外周リップ部は、前記カップシールのシリンダ孔開口側とシリンダ孔底部側とに圧力差が生じた際に、前記外周リップ部の外周面と前記嵌合孔の内周面との間が通気可能となる緊迫力に設定されていることを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記カップシールの外周面は、前記ベース部のシリンダ孔底部側から前記外周リップ部のシリンダ孔底部側端部に向けて漸次大径に形成される円錐部を備え、該円錐部のシリンダ軸方向の長さ寸法を、前記円錐部よりもシリンダ孔先端側にも受けられる円筒部のシリンダ軸方向の長さ寸法よりも長く形成すると共に、前記外周リップ部は前記内周リップ部よりも薄肉に形成されることを特徴とする請求項1記載のディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−190876(P2011−190876A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57964(P2010−57964)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】