説明

ディスクブレーキ

【課題】左右のディスクブレーキに関して部品を共通化してコスト低減を図りつつライニング10aの偏摩耗を抑えられ、又、インナパッドとアウタパッドの共用化を図れ、しかも各パッド6aのライニング10aとロータ1との位置関係を常に適正にできる構造を実現する。
【解決手段】パッド保持部材であるボディ部21に設ける、パッド保持部14cのロータ1の円周方向に関する位置を、このロータ1の回転方向に関して所定角度だけ回転移動させる。この為に、上記パッド保持部14cを構成する1対の保持面16a、16bを、鎖線で示す基準位置から、上記ロータ1の回転方向に関して回転移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の制動に使用するディスクブレーキの改良に関する。具体的には、パッドのライニングの偏摩耗を抑えられる構造を、低コストで実現可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行なう為に、ディスクブレーキが広く使用されている。ディスクブレーキによる制動時には、車輪と共に回転するロータを挟む状態で設けた1対のパッドを、ピストンによりこのロータの両側面に押し付ける。この様なディスクブレーキとして従来から、図15に示す様な対向ピストン型の、或いは図16に示す様なフローティングキャリパ型のディスクブレーキが、広く使用されている。このうち、図15に示した対向ピストン型のディスクブレーキは、ロータ1を挟む位置にアウタ側ボディ2及びインナ側ボディ3から成るキャリパ4を設け、これら各ボディ2、3内にアウタシリンダ及びインナシリンダを、それぞれの開口部を上記ロータ1を介して互いに対向させた状態で設けている。そして、これらアウタシリンダ及びインナシリンダ内にアウタピストン及びインナピストンを、油密に、且つ上記ロータ1の軸方向に関する変位を可能に嵌装している。又、上記アウタ側ボディ2にはアウタパッドを、上記インナ側ボディ3にはインナパッドを、それぞれ上記ロータ1の軸方向の変位を可能に保持している。制動時には、上記アウタシリンダ及びインナシリンダ内に圧油を送り込み、上記アウタピストン及びインナピストンにより、上記アウタパッド及びインナパッドを、上記ロータ2の内外両側面に押し付ける。
【0003】
一方、図16に示したフローティングキャリパ型のディスクブレーキは、ロータ1の一側に隣接させる状態で設けたサポート5にキャリパ4aを、このロータ1の軸方向に変位可能に支持している。又、上記サポート5に、このロータ1の軸方向両側に配置した1対のパッド6、6を、このロータ1の軸方向の変位を可能に保持している。上記キャリパ4aには、シリンダ部7とキャリパ爪8とを、上記両パッド6、6を上記ロータ1の軸方向両側から挟む状態で設けている。そして、このうちのシリンダ部7に、インナ側(車両への組み付け状態に於いて幅方向中央寄りとなる側で、図16の下側)のパッド6を上記ロータ1に対して押圧するピストン9を内蔵している。
【0004】
制動を行なう場合には、上記シリンダ部7内に圧油を送り込み、上記ピストン9により上記インナ側のパッド6を、上記ロータ1の内側面に、図16の下から上に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として上記キャリパ4aが、図16の下方に変位し、上記キャリパ爪8がアウタ側(車両への組み付け状態に於いて幅方向外寄りとなる側で、図16の上側)のパッド6を、上記ロータ1の外側面に押し付ける。この結果、このロータ1が内外両側面側から強く挟持されて、制動が行なわれる。
【0005】
図15に示した対向ピストン型にしても、図16に示したフローティングキャリパ型にしても、従来から一般的に使用されているディスクブレーキは、パッド6、6を構成するライニング10(図16参照)が偏摩耗する事が多い。又、この偏摩耗は、一般的には、ロータ1の回入側(反アンカ側)の摩耗が回出側(アンカ側)の摩耗よりも多くなる態様で進む。この様な偏摩耗が生じる理由は、ロータ1の軸方向両側に配置した1対のパッド6、6を押圧する部分が、このロータ1の回転方向に関して対称に存在する為である。言い換えれば、従来から一般的に使用されていたディスクブレーキは、上記ロータ1の回転方向に関して、車輪の停止状態でピストンにより上記両パッド6、6を構成するプレッシャプレート11(図16参照)の裏面を押圧した場合のこの押圧部分の中心と、これら各パッド6、6の上記ロータ1との摺動面の中心とが一致していた。従って、制動時に1対のパッド6、6を上記ロータ1の軸方向両側面に押し付ける力は、走行状態から減速する場合の制動開始時点(これら各パッド6、6のライニング10と上記ロータ1の軸方向両側面との間に作用する摩擦力が無視できる程小さい場合)で、次述するモーメント(サーボ作用)を考慮しなければ、このロータ1の回入側も回出側もほぼ同じとなる。そして、上記押し付ける力が同じであれば、上記各パッド6、6のライニング10が偏摩耗する事はない。
【0006】
但し、上記各パッド6、6のライニング10と上記ロータ1の軸方向両側面とが強く擦れ合った状態では、これら各パッド6、6が、これらライニング10とロータ1の軸方向両側面との摩擦面を入力側とするモーメントを受ける。即ち、走行状態から減速する場合、制動の為の摩擦により上記両パッド6、6に、上記ロータ1の回入側をこのロータ1の側面に押し付ける方向のモーメント(サーボ作用)が加わる。このモーメントにより、上記各パッド6、6と上記ロータ1の両側面との当接圧が、回入側で高く、回出側で低くなる。この為、図15に示した対向ピストン型のディスクブレーキの場合には、インナ側、アウタ側両パッドのライニングの摩耗が、上記ロータ1の回入側で回出側よりも著しくなる。
【0007】
又、図16に示したフローティングキャリパ型のディスクブレーキの場合、一般的には、インナ側のパッド6のライニング10の摩耗が、上記ロータ1の回入側で回出側よりも著しくなる。更に、ライニング10の摩耗があまり進行していない状態では、対向ピストン型のディスクブレーキと同様に、インナ側、アウタ側両パッド6、6のライニング10の摩耗が、回入側で進行する。但し、上記インナ側のパッド6のライニング10の偏摩耗が或る程度迄進行すると、アウタ側のパッド6の摩耗は、回出側で回入側よりも著しくなる事がある。この理由は、フローティングキャリパ型のディスクブレーキの場合には、上記インナ側のパッド6のライニング10が回入側で偏摩耗すると、前記キャリパ4aが、このインナ側のパッド6のライニング10の偏摩耗に倣って、(ガイドピンのクリアランスの範囲内で)前記サポート2に対し傾斜する傾向になり、前記キャリパ爪8が上記アウタ側のパッド6を押圧する力が、回出側で回入側よりも大きくなる為と考えられる。
【0008】
何れにしても、上述の様な偏摩耗を生じると、パッド6、6の交換時期が早くなって、自動車の使用者に掛けるコスト負担が増すだけでなく、制動時に鳴きと呼ばれる騒音や振動が発生し易くなる。この様な問題の原因となる、上記偏摩耗を抑える為には、ピストンによりロータ1の側面に押し付けられるパッド6に関して、ライニング10とこのロータ1の側面との当接圧を、このロータ1の回転方向に関して均一にする事が、効果がある。即ち、前述の様な理由で制動時に各パッド6、6に加わる、回入側をロータ1の側面に巻き込む様に加わるモーメント(サーボ作用)に拘らず、上記当接圧を均一にすれば、上記ライニング10の摩耗は、回入側から回出側迄均一に進行する事になる。
【0009】
この様な事情に鑑みて考えられたディスクブレーキとして従来から、例えば特許文献1に記載された構造が知られている。この特許文献1に記載されたディスクブレーキは、図17に記載した様に、ロータ1の側面に対しパッド6を押し付ける位置を、このロータ1の回転方向(図17の反時計方向)に関して、このパッド6の中心よりもこのロータ1の回出側(アンカ側、図17の左側)にずらせている。この様に押圧中心を回出側にずらせると、前述した様な制動に伴うモーメントが発生しないと仮定した状態で、ライニング10とロータ1側面との当接圧が、回出側で大きく、回入側で小さくなる傾向になる。但し、実際の制動時には、上記モーメントが発生し、このモーメントに基づいて、上記当接圧が回入側で大きく、回出側で小さくなる傾向になる。これら両方の傾向は互いに逆であるので、両方の傾向が相殺し合って、上記当接圧が回入側から回出側に迄均一になる。要するに、上記回入側をロータ1の側面に巻き込む様に加わるモーメント(サーボ作用)が減少すると同時に上記回出側の押圧力が増大して、上記ライニング10と上記ロータ1の側面との当接圧が、このロータ1の回転方向に関して均一に近くなる。この結果、上記ライニング10の摩耗が、回入側から回出側迄均一に進行する。
【0010】
但し、図17に示した構造の第1例の場合、左右のディスクブレーキの構造を鏡面対称にする必要があり、左右のディスクブレーキ同士の間で、一部の部品、特に、キャリパやサポート等の主要部品の共通化を図れず、ディスクブレーキの製造コストが嵩む原因となる。これに対して、各パッドを構成するプレッシャプレートの前面にライニングを、回出側に偏らせて添着すれば、比較的製造が容易なパッドを変えるのみで、上記偏摩耗を抑えられる。但し、この場合でも部品種類の増大により、部品製造、部品管理、組立作業が面倒になる。
【0011】
この様な事情に鑑みて特許文献2には、左右のディスクブレーキ同士の間で部品の共通化を図りつつライニングの偏摩耗を抑える事を目的とした、図18に示す様な構造が記載されている。この図18に示した構造では、サポート5aのパッド保持部12に、パッド6と、矩形のスペーサ13とを、ロータ1の回転方向に関して、互いに直列に配置している。上記特許文献2に記載された従来構造の第2例の場合には、上記スペーサ13を、上記ロータ1の回出側(アンカ側、図18の左側)に配置する事で、このロータ1の側面に対し上記パッド6を押し付ける位置を、このロータ1の回転方向(図18の反時計方向)に関して、このパッド6の中心よりもこのロータ1の回出側にずらせている。この為、上述した従来構造の第1例の場合と同様の理由で、上記パッド6のライニング10の偏摩耗を抑えられる。又、上記従来構造の第2例の場合には、上記スペーサ13を装着する位置を変えるのみで、左右のディスクブレーキに関してライニングの偏摩耗を抑えられるので、部品の共通化によるコスト低減を図れる。
【0012】
但し、上記従来構造の第2例の場合には、上記スペーサ13として、上記ロータ1の回転方向に関して両端縁同士が互いに平行な、矩形のものを使用している為、このロータ1の側面と上記パッド6のライニング10との擦れ合い状態を最適にできない。この理由は、上記スペーサ13により上記パッド6を、上記ロータ1の回転方向ではなく、径方向に対し直角方向に平行移動させる為である。この為、このロータ1の外周縁と上記ライニング10の外周縁とを、常に平行に維持する事はできない。例えば、図18に示した状態では、ライニング10の右端部外周縁がロータ1の外周縁よりも径方向外方に位置している。これに対して、上記スペーサ13を図18の右側に移動させ、上記パッド6を同じく左側に移動させると、上記ライニング10の左端部外周縁がロータ1の外周縁よりも径方向外方に位置する状態になる。本来、これらライニング10の外周縁とロータ1の外周縁とは、同心円上に位置する事が好ましい為、上述の様に、スペーサ13の設置位置により、上記ライニング10の外周縁と上記ロータ1の外周縁との位置関係が変わる事は、安定した制動力を得、しかも制動時に発生する騒音や振動を抑える面からは好ましくない。
【0013】
【特許文献1】実開平2−93532号公報
【特許文献2】特開平9−25963号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、左右のディスクブレーキに関して部品を共通化してコスト低減を図りつつライニングの偏摩耗を抑えられ、しかも各パッドのライニングとロータとの位置関係を常に適正にできる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のディスクブレーキは、従来から知られているディスクブレーキと同様に、パッド保持部材と、1対のパッド保持部と、ピストンとを備える。
このうちのパッド保持部材は、車輪と共に回転するロータを跨ぐ状態で設けられている。
又、上記両パッド保持部は、上記パッド保持部材の一部で上記ロータを軸方向両側から挟む位置に設けられ、それぞれがパッドを上記ロータの軸方向の変位を可能に保持するもので、上記両パッドを保持する為に、それぞれが、上記ロータの回転方向両端に位置する1対ずつの保持面を備える。
又、上記ピストンは、シリンダ部内への油圧の導入に基づいてこのシリンダ部内から押し出され、上記両パッドを上記ロータの軸方向両側面に押し付ける。
【0016】
上述の様な、本発明の対象となるディスクブレーキとしては、請求項2に記載した様な対向ピストン型のディスクブレーキ、或いは請求項3に記載した様なフローティングキャリパ型のディスクブレーキがある。
対向ピストン型のディスクブレーキの場合には、上記パッド保持部材が、互いに一体に結合されたアウタボディ部及びインナボディ部を有するキャリパである。又、上記ピストンが、これらアウタボディ部及びインナボディ部に互いに対向する状態で設けられた各シリンダ部にそれぞれ嵌装されている。
これに対して、フローティングキャリパ型のディスクブレーキの場合には、上記パッド保持部材がサポートである。又、上記ピストンが、このサポートに対し上記ロータの軸方向の変位を可能に支持されたキャリパのうちでこのロータの軸方向片側部分にのみ設けられたシリンダ部に嵌装されている。
【0017】
対向ピストン型、フローティングキャリパ型、何れの場合でも、本発明のディスクブレーキに於いては、上記両パッド保持部のうちの少なくとも一方のパッド保持部を構成する1対の保持面のうちの少なくとも一方の保持面を、当該位置にパッドを位置させたと仮定した場合に、このパッドの上記ロータとの摺動面の中心と、上記車輪の停止状態で上記ピストンによりこのパッドを押圧した場合のこの押圧力の中心とが一致する基準位置から、上記ロータの中心軸を中心として所定角度だけ回転移動させた位置に設ける事により、当該パッド保持部の上記ロータの円周方向に関する位置を調節している。尚、車輪の停止状態としたのは、走行状態で制動を行なった場合、サーボ作用により、ピストンによりパッドを押圧する力の中心が、停止状態に比べて回入側にずれる為である。
上記少なくとも一方の保持面は、例えば請求項4に記載した様に、反アンカ側の保持面とする。
又、上記少なくとも一方の保持面を、例えば請求項5に記載した様に、上記基準位置から上記ロータの回入側に回転移動させた位置に設ける。そして、このロータの回転方向に関して、当該パッド保持部に保持されたパッドが、上記車輪の停止状態で上記ピストンにより上記ロータに向け押圧される位置の中心を、当該パッドの中心よりもこのロータの回出側にずらせる。
【0018】
上記少なくとも一方の保持面を、上記ロータの回転方向にずらせる為の具体的構造としては、請求項6或は請求項7に記載した構造を採用する。
このうちの請求項6に記載した発明の場合、上記パッド保持部材を構成する為の中間素材のうちで完成後にパッド保持部となるべき部分に、完成後のパッド保持部を構成する1対の保持面の間隔よりも狭い間隔で、1対の素保持面を形成しておく。そして、上記少なくとも一方の保持面を、これら両素保持面のうちの少なくとも一方の素保持面を、上記ロータの回転方向に削り取る事で形成する。
【0019】
又、請求項7に記載した発明の場合、上記パッド保持部材を構成する為の中間素材のうちで完成後にパッド保持部となるべき部分に、完成後のパッド保持部を構成する1対の保持面の間隔よりも広い間隔で、ロータの回転方向に関して、片側に保持面を、他側に素保持面を、それぞれ形成しておく。そして、このうちの素保持面と、上記パッド保持部に保持されるパッドの側面との間にスペーサを配置し、このスペーサのこのパッド側の側面、或は、このスペーサを上記パッド保持部材に結合する為の部材の側面(例えば、後述する請求項8に記載した弾性部材の基板部の側面)を、上記パッド保持部を構成する他側の保持面とする。
【0020】
又、上述の請求項7に記載した発明を実施する場合に好ましくは、請求項8に記載した様に、上記パッド保持部材とパッドとのうちの何れか一方の部材と上記スペーサとを、不用意に分離しない様に結合する。
又、上述の請求項8に記載した発明の具体的な構造として、例えば、請求項9に記載した様に、上記一方の部材と上記スペーサとを、弾性を有する金属板を曲げ形成して成る弾性部材により結合した構造とする。
この弾性部材は、例えば、基板部と、この基板部の両端部から同一方向に折り曲げられた、一対の係止腕部とを有するものとする。
そして、上記基板部を、上記スペーサのうちで、上記ロータの円周方向に関する片側面に当接させた状態で、このスペーサのうちで、このロータの径方向に関する両端面を、上記両係止腕部の基端部乃至中間部により挟持すると共に、これら両係止腕部の先端部により、上記一方の部材の一部を弾性的に挟持する。
【0021】
更に、上述の各発明を実施する場合に好ましくは、請求項10に記載した様に、アウタ側とインナ側とにそれぞれ存在する上記パッド保持部の1対の保持面同士の間隔を、アウタ側とインナ側とで互いに等しくする。
【発明の効果】
【0022】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキによれば、左右のディスクブレーキに関して部品を共通化してコスト低減を図りつつライニングの偏摩耗を抑えられ、しかも各パッドのライニングとロータとの位置関係を常に適正にできる構造を実現できる。
即ち、ディスクブレーキの構成部品のうち、パッド保持部材であるキャリパ或いはサポートに、例えば、素保持面を回転方向に削り取る切削加工を施したり、或はスペーサを配置する事により、車輪の停止状態でピストンによりパッドを押圧した場合のこの押圧力の中心と、このパッドの上記ロータとの摺動面の中心とを、上記ロータの回転方向に関してずらせる事ができる。尚、上記素保持面は、左右対称である事が好ましい。そして、この素保持面を削り取る量を調節する等して、これら両中心同士をずらせる方向及びずらせる量を、ディスクブレーキの型式が対向ピストン型であるか、或いはフローティングキャリパ型であるか、更には、ディスクブレーキを搭載した自動車の使用状態、ディスクブレーキの性能や構成各部材の配置状態、ディスクブレーキを組み付ける自動車の各種性能や使用地域の環境、運転者の使用状況等に応じて適切に調節すれば、前述した従来構造の場合と同様に、パッドのライニングと上記ロータの側面との摩擦面の当接圧に差が生じる傾向を互いに逆にできる。この結果、ライニングが偏摩耗する傾向を、回入側と回出側とで互いに相殺して、このライニングの偏摩耗を抑えられる。
【0023】
この様にライニングの偏摩耗を抑えるのに、左右のディスクブレーキ同士の間で、上記パッド保持部材として、基本的に同種のものを使用できる。即ち、左右のディスクブレーキ同士の間で、例えば、上記素保持面を削り取る方向を互いに逆にする事で、同種の中間素材により、左右のディスクブレーキを構成できる。又、使用するパッドに関しても、左右のディスクブレーキ同士の間で同種のものを使用できる。この為、部品の製造、管理に要する手間を軽減して、コスト低減を図れる。又、インナ側とアウタ側とのパッドを共用化する事で、ライニングが摩耗したパッドを交換する際に、誤った方向のパッドを組み付けて、ライニングの偏摩耗が著しくなる事を防止できる。
【0024】
更に、上記ライニングの偏摩耗を抑える為に行なう、パッド保持部の移動の為の保持面の移動を、この保持面を上記ロータの回転方向に回転移動させる事で行なう為、上記パッド保持部の移動に拘らず、このロータの側面と上記ライニングとの位置関係を最適なままに維持できる。例えば、上記パッド保持部の移動の前後で、上記ロータの外周縁と上記ライニングの外周縁とを、同心円上に位置させたままにできる。この為、これらロータの側面とライニングとの摩擦状態を不均一にせずに最適にできて、制動時に発生する異音や振動を抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例に就いて、図1〜2により説明する。前述した様に、ロータの回転方向に関して、パッドのライニングの中心(パッドのロータとの摺動面の中心)と車輪の停止状態でピストンによりこのパッドを押圧した場合のこの押圧力の中心とが一致していると、このパッドのライニングが偏摩耗する傾向にあるが、このライニングが偏摩耗する方向は、ディスクブレーキの型式が対向ピストン型であるか、フローティングキャリパ型であるかにより異なる。又、ディスクブレーキの型式が同じであっても、偏摩耗の程度は、使用者の運転の仕方(急制動を行なう事が多いか否か)や車両重量、ブレーキのレイアウトによっても異なる。但し、インナ側のパッドのライニングの摩耗の進行が、回入側で回出側に比べて速くなる傾向は、サーボ作用により、上記型式の相違、運転者の運転の仕方に拘らず共通する。
【0026】
これに対して、アウタ側のパッドのライニングの摩耗に関しては、上記型式及び運転の仕方により、種々異なる事が知られている。即ち、ディスクブレーキのパッド保持部材は、対向ピストン型のキャリパにしろ、フローティングキャリパ型のサポートにしろ、ロータのインナ側で、車体(ナックル等の懸架装置の構成部材)に対し支持固定している。各パッドのライニングとロータの両側面との摩擦面は、この支持固定部よりも、軸方向に所定距離を開けた、アウタ寄り部分に存在する。従って制動時に上記パッド保持部材には、上記支持固定部を中心に、上記ロータの回出側に傾斜させる方向のモーメントが加わり、上記パッド保持部材が弾性変形(一次変形)する。そして、この様な一次変形に基づき、上述のインナ側のパッドの様なサーボ作用の影響が相対的に減少し、アウタ側のパッドを上記ロータに押圧する力が、回入側で小さくなる傾向になる。
【0027】
この為、頻繁に急制動を行なう様な使用条件下では、対向ピストン型のディスクブレーキの場合でも、アウタ側のパッドのライニングに関する限り、インナ側のパッドの場合と比べて、回入側の摩耗が少なくなる(偏摩耗の程度が低くなる)。これに対して、急制動をあまり行なわない条件下では、対向ピストン型のディスクブレーキの場合には、アウタ側のパッドもインナ側のパッドとほぼ同様に、回入側の摩耗が回出側の摩耗よりも速く進む。
【0028】
対向ピストン型のディスクブレーキに於けるライニングの偏摩耗の傾向は上述の通りであるが、フローティングキャリパ型のディスクブレーキの場合には、前述した様に、アウタ側のパッドを押圧するキャリパが、インナ側のパッドのライニングの偏摩耗に倣って、(ガイドピンのクリアランスの範囲内で)サポートに対し傾く傾向になり、キャリパ爪が上記アウタ側のパッドを押圧する力が、回出側で回入側よりも大きくなる。又、この傾向は、インナ側のパッドの摩耗が、回入側で回出側よりも多くなる程、著しくなる。即ち、フローティングキャリパ型のディスクブレーキのアウタ側のパッドのライニングに関する限り、初期状態(両パッドが新品若しくは新品に近い状態)では、回入側の摩耗が回出側に比べて進行し、摩耗の進行に応じて、回出側の摩耗の進行が著しくなる。但し、急制動を多用する条件下では、初期状態から、上記キャリパが傾く影響を強く受けて、回出側の摩耗の進行が回入側よりも著しくなる傾向がある。
【0029】
これらの理由により、ディスクブレーキに組み込まれたインナ側、アウタ側両パッドのライニングの摩耗は、一般的には、ディスクブレーキの型式毎に、次の様な傾向になる事が、従来から、ディスクブレーキの技術分野で統計的に知られている。
「対向ピストン型」
インナ側パッドのライニングの摩耗 : 回入側−大
アウタ側パッドのライニングの摩耗 : 回入側−小〜中
「フローティングキャリパ型」
インナ側パッドのライニングの摩耗 : 回入側−大
アウタ側パッドのライニングの摩耗 : 回出側−小〜中、又は、回入側−小
【0030】
これらの事を考慮した場合、パッド保持部材に設けた、インナ側のパッドを保持する為のインナ側パッド保持部と、アウタ側パッドを保持する為のアウタ側パッド保持部との、ロータの回転方向に関する位置の調節パターンとしては、ディスクブレーキの型式に合わせて、例えば次の表1に記載した様な、16種類のパターンが考えられる。尚、この表1中、θ1 、θ2 、θ3 は、上記両パッド保持部を構成する、各パッド保持部毎に1対ずつの保持面を、基準位置に対して、上記ロータの回転方向に移動させる角度である。又、θ1 〜θ3 は、1〜5度程度の小さな値であるが、このうちのθ1 はθ2 の2倍の値(θ1 =2θ2 )である。尚、上記基準位置とは、当該位置に1対のパッドの保持面を位置させたと仮定した場合に、このパッドのロータとの摺動面の中心と、車輪の停止状態でピストンによりこのパッドのプレッシャプレートを押圧した場合のこの押圧力の中心とが一致する位置である。
【0031】
【表1】

【0032】
この表1中に記載した16種類のパターンのうちの何れを採用するかは、ダイナモ試験、実車試験による偏摩耗試験の結果を参考にしつつ、ディスクブレーキの型式の他、運転者の運転傾向により選択する。尚、運転者の運転傾向は、工場出荷時に把握する事は難しい為、実際には、搭載する車種に応じて選択する。例えば、スポーツカー、タクシーの如き営業車等は、急制動の頻度が多いとして、アウタ側のパッドに関して、回出側でのライニングの摩耗を抑えられるパターンを選択する。これに対して、一般乗用車等は、急制動の頻度が少ないとして、インナ側のパッドだけでなくアウタ側のパッドに関しても、回入側でのライニングの摩耗を抑えられるパターンを選択する。何れにしても、左右のディスクブレーキ同士の間で、同位置の(インナ側同士、アウタ側同士で)パッドとして同種のものを使用できる様にする事は勿論、好ましくは、インナ側のパッドとアウタ側のパッドとを同種のものを使用可能にすべく、各パッド保持部を構成する、それぞれ1対ずつの保持面同士の間隔を互いに等しくする。
【0033】
上述の様な、各保持面のθ1 〜θ3 分の位置調節は、上記パッド保持部材を構成すべき中間素材の削り取り位置並びに削り取り量を調節するか、或はスペーサを配置する事により行なう。この点に就いて、上記パッド保持部材がサポート5(フローティングキャリパ型)である、上記表1の実施例11の場合に就いて、図1〜2により説明する。尚、図示の例は、説明の為に、構造を簡略化している。このサポート5は、例えば鉄系合金、或いはアルミニウム系、マグネシウム系の軽合金を鋳造(ダイキャスト成形を含む)する事により、或いは厚肉金属板にプレス加工を施す事により造るが、鋳造或いはプレス加工直後の中間素材の一部で、完成後にパッド保持部14a、14bとなるべき部分に、1対の素保持面15a、15bを形成する。
【0034】
これら両素保持面15a、15b同士の間隔D15は、完成後のパッド保持部14a、14bを構成する1対の保持面16a、16bの間隔D16よりも十分に狭い(D15<D16)。従って、上記両素保持面15a、15bの一方又は双方を、ロータの回転方向に関して削り取らない限り、上記サポート5にパッドを保持する事はできない。尚、本例の場合には、上記ロータの回転方向に関する上記両保持面16a、16bの位置を、上記中間素材の一部で上記両素保持面15a、15b部分を削り取る事でのみ行なう事を考慮している。従って、これら両素保持面15a、15bの位置と、前記基準位置とは異なる。むしろ、この基準位置は、これら両素保持面15a、15bを所定量削り取った状態での位置となる。
【0035】
先ず、上記サポート5のうちでインナ側のパッドを保持する為のパッド保持部14aに関しては、図1に示す様に、反アンカ側の保持面16aを、基準位置での保持面に相当する面である基準面(鎖線)よりも、ロータの中心軸を中心として角度θ1 分だけ回入側に偏った部分に位置させている。この為に、上記中間素材の一部で上記素保持面15aに対応する部分を所定量だけ削り取って、上記保持面16aを得る。又、アンカ側の保持面16bに関しても、基準面(鎖線)よりもロータの中心軸を中心として角度θ1 分だけ回入側に偏った部分に位置させている。この為に、上記中間素材の一部で上記素保持面15bに対応する部分を削り取らないか、削り取った場合でもその量を僅かに抑えて、上記保持面16bを得る。何れにしても、この保持面16bを上記反アンカ側の保持面16aと平行になる様に形成する。即ち、素保持面15bの段階で予め直径方向に対し傾斜させた状態で形成するか、削り取りを行なう場合に傾斜させて、上記保持面16bを上記反アンカ側の保持面16aと平行となる様にする。一方、アウタ側のパッドを保持する為のパッド保持部14bに関しては、図2に示す様に、反アンカ側の保持面16a、アンカ側の保持面16bを、何れも基準面(鎖線)よりもロータの中心軸を中心として角度θ1 分だけ回出側に偏った部分に位置させている。これら両保持面16a、16bの位置調節を、上記中間素材の削り取りにより行なう事は、上記インナ側のパッド保持部14aの場合と同様である。
【0036】
[実施の形態の第2例]
図3は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合、本発明を対向ピストン型ディスクブレーキに適用している。この図3に示す構造は、前述の表1の実施例1に対応する。対向ピストン型のディスクブレーキは、前述した様に、インナ側とアウタ側との何れの場合も、パッド6aのライニング10aの摩耗が、回入側で回出側よりも著しくなる。この為、本例の場合、インナ側、アウタ側両ボディ部21のパッド保持部14cで、回入側、回出側両保持面16a、16bを、基準面(鎖線)よりもロータ1の中心軸を中心として角度θ1 分ずつ、回入側(図3の左側)に回転移動させた位置に設けて、ピストン9による押圧中心を回出側(図3の右側)に偏らせている。即ち、本例の場合、アウタ側及びインナ側両ボディ部21のそれぞれのパッド保持部14cを、上述の実施の形態の第1例のインナ側のパッドを保持する為のパッド保持部14aと同様に形成している。
【0037】
具体的には、反アンカ側の保持面16aを、基準面よりもロータ1の中心軸を中心として角度θ1 分だけ回入側に偏った部分に位置させている。この為に、中間素材の一部で素保持面15aに対応する部分を所定量だけ削り取って、上記保持面16aを得る。又、アンカ側の保持面16bに関しても、基準面よりもロータ1の中心軸を中心として角度θ1 分だけ回入側に偏った部分に位置させている。この為に、上記中間素材の一部で素保持面15bに対応する部分を削り取らないか、削り取った場合でもその量を僅かに抑えて、上記保持面16bを得る。何れにしても、この保持面16bを上記反アンカ側の保持面16aと平行にする。即ち、素保持面15bの段階で予め直径方向に対し傾斜させた状態で形成するか、削り取りを行なう場合に傾斜させて、上記保持面16bを上記反アンカ側の保持面16aと平行にする。
【0038】
尚、図示の例の場合、ボディ部21の一部で、パッド6aの内周縁部(図3の下縁部)に対向する部分に、支持部22a、22bを形成している。そして、これら両支持部22a、22bの外周面(図3の上面)を、上記パッド6aのプレッシャープレート11aの内周縁両端部分に当接させて、このパッド6aをロータ1の軸方向(図3の表裏方向)の変位自在に支持している。即ち、上記両支持部22a、22bと上記両保持面16a、16bとにより、パッド保持部14cを構成している。本例の場合、回入側の支持部22aの外周面である支持面23aを、中間素材の素支持面24a部分を削り取る事により、回出側の支持部22bの外周面である支持面23bを、中間素材の素支持面24b部分を削り取らないか、削り取った場合でもその量を僅かに抑える事により、基準位置での支持面に相当する面である第二の基準面(鎖線)に対し、前記角度θ1 分だけそれぞれ同方向に傾斜させている。そして、上記両支持面23a、23bを、上記パッド6aを上記両保持面16a、16b同士の間に配置した状態で、このパッド6aを構成する上記プレッシャープレート11aの内周縁両端部と平行にしている。この結果、上記両支持面23a、23bに上記パッド6aが、ロータ1の軸方向に変位自在に支持される。
【0039】
[実施の形態の第3例]
図4〜9は、本発明の実施の形態の第3例を示している。上述の実施の形態の第1例及び第2例の場合には、各保持面のθ1 、θ2 分の位置調節を、パッド保持部材を構成すべき中間素材の削り取り位置並びに削り取り量を調節する事によってのみ行なっていた。従って、上記第1例及び第2例の場合には、中間素材に1対の素保持面を、完成後のパッド保持部を構成する1対の保持面の間隔よりも狭い間隔で形成しておく必要があるし、完成後の保持面の位置を、上記素保持面の位置よりも、ロータの回転方向に関して、パッド保持部の中央寄りに調節する事はできない。これに対して本例の場合には、図5に示す様なくさび状のスペーサ17を使用する事により、完成後の保持面の位置を素保持面の位置よりも、パッド保持部の中央寄りに調節できる様にしている。
【0040】
上記スペーサ17は、上記ロータの回転方向に関する厚さが、このロータの径方向内側で小さく外側で大きいくさび状であり、ステンレスのばね鋼の如き、耐蝕性を有し、しかも摩耗しにくい、硬い金属材により造られている。又、上記ロータの回転方向に関して上記スペーサ17の両側面のうち、素保持面15cへの装着状態で保持面16cとなる面の中央部には凹部18を形成している。この様なスペーサ17は、この凹部18にその一端を開口した通孔を挿通したねじ19により、上記素保持面15cに固定する。固定した状態でこのねじ19の頭部は、上記保持面16cよりも上記ロータの回転方向に突出する事はない。従って、上記パッド保持部に保持されたパッドのプレッシャプレートの円周方向端面は、上記保持面16cにがたつきなく当接する。
【0041】
上述の様なスペーサ17を使用して、例えばインナ側のパッドに関するパッド保持部を、上記ロータの回入側にずらせる場合には、例えば図4に示す様に、反アンカ側の素保持面15a部分を削り取って、この回入側の保持面16aを基準面(鎖線)よりもロータの中心軸を中心として角度θA 分だけ回入側に偏った部分に位置させる。この状態では、この保持面16aと、上記スペーサ17を配置する前の回出側の素保持面15cとの間隔が、完成後のパッド保持部を構成する1対の保持面16a、16cの間隔よりも広い。そして、アンカ側の上記素保持面15cに上記スペーサ17を固定して、このアンカ側の保持面16cを、基準面(図示の例の場合、素支持面15c)よりもロータの中心軸を中心として角度θB 分だけ回入側に偏った部分に位置させる。この結果、上記インナ側のパッドの中心位置をこのパッドに関する押圧中心よりも回入側にずらせる量を、前述の図1に示した構造よりも大きくできる。
【0042】
尚、図6(A)〜(C)及び図7、8は、上述の様にスペーサを配置する事により保持面の調節を行なう構造の別の3例を、簡略化して示したものである。このうちの図6(A)及び図7は、対向ピストン型のディスクブレーキに本例を適用した場合で、前記表1の実施例8に対応する。この構造の場合、インナ側{図6(a)、図7の手前側}のパッド保持部14dに関しては、反アンカ側の素保持面15a部分を削り取って、回入側の保持面16aを、基準面(鎖線)よりもロータ1の中心軸を中心として角度θ3 分だけ回入側に偏った部分に位置させる。又、アンカ側の素保持面15d部分を削り取って、回出側の第二の素保持面25(請求項7に記載した他側の素保持面に相当)を、基準面(鎖線)よりもロータ1の中心軸を中心として角度θ3 分だけ回出側に偏った部分に位置させる。そして、この第二の素保持面25にこの角度θ3 の2倍分の厚さを有するスペーサ17aを固定して、アンカ側の保持面16dを、上記第二の素保持面25よりもロータ1の中心軸を中心として角度2θ3 分(基準面よりも角度θ3 分)だけ回入側に偏った部分に位置させる。アウタ側{図6(b)、図7の奥側}のパッド保持部14eに関しても、上述のインナ側のパッド保持部14dと同様である。この様な図6(A)及び図7に示した構造の場合、中間素材のうちで完成後にパッド保持部となる部分に形成する1対の素保持面15a、15dを基準面と同一にできる。従って、上述の図6(A)及び図7に示した構造の場合も、左右のディスクブレーキに関して、中間素材の段階で部品を共通化できる。この結果、ディスクブレーキの製造の効率化を図れ、コスト低減に貢献できる。尚、対向ピストン型のディスクブレーキの場合、上述の様に、インナ側とアウタ側との何れのスペーサもアンカ側に配置するが、これら両スペーサ部分にパッドクリップを設ける場合には、耐摩耗性の高いパッドクリップを使用する事が好ましい。
【0043】
又、図6(B)は、対向ピストン側のディスクブレーキで、アウタ側{図6(b)}の偏摩耗の程度が低い構造に本例を適用した場合を示している。この構造の場合には、インナ側{図6(a)}のパッド保持部14dに関しては、上述の図6(A)及び図7に示した構造と同様としている。これに対して、アウタ側のパッド保持部14fに関しては、両保持面16、16を基準面のまま(そのまま)としている。この様な図6(B)の構造に関しても、左右のディスクブレーキで、中間素材の段階で部品を共通化できる。
【0044】
更に、図6(C)及び図8は、フローティングキャリパ型のディスクブレーキに本例を適用した場合で、前述の表1の実施例16に対応する。この構造の場合にも、インナ側{図6(a)、図8の手前側}のパッド保持部14dに関しては、前述の図6(A)及び図7に示した構造と同様としている。これに対して、アウタ側{図6(b)、図8の奥側}のパッド保持部14gに関しては、アンカ側の素保持面15e部分を削り取って、回出側の保持面16eを、基準面(鎖線)よりもロータ1の中心軸を中心として角度θ3 分だけ回出側に偏った部分に位置させる。又、反アンカ側の素保持面15f部分を削り取って、回入側の第二の素保持面25aを、基準面(鎖線)よりもロータ1の中心軸を中心として角度θ3 分だけ回入側に偏った部分に位置させる。そして、この第二の素保持面25aにこの角度θ3 の2倍分の厚さを有するスペーサ17aを固定して、反アンカ側の保持面16fを、上記第二の素保持面25aよりもロータ1の中心軸を中心として角度2θ3 分(基準面よりも角度θ3 分)だけ回出側に偏った部分に位置させる。この様な図6(C)及び図8の構造に関しても、左右のディスクブレーキで、中間素材の段階で部品を共通化できる。更に、中間素材の段階では、ディスクブレーキの型式(対向ピストン型であるか、フローティングキャリパ型であるか)が共通する限り、図6(A)〜図6(C)の構造全ての部品を共通化する事もできる。
【0045】
尚、対向ピストン型のディスクブレーキに本例を適用する場合に、スペーサとして、図9に示す様なスペーサ17bを使用する事もできる。このスペーサ17bは、ロータの軸方向と平行に挿通したねじ19により、対向ピストン型のディスクブレーキを構成する、アウタ側或はインナ側のボディ部21aの一部に固定する。対向ピストン型のディスクブレーキの場合、このボディ部21aの肉厚が十分である為、上記ねじ19によりこのボディ部21aに固定可能である。制動時に上記スペーサ17bは、パッドを構成するプレッシャプレートの円周方向端縁と、キャリパの一端でアウタ側、インナ側両ボディ部同士を連結する連結部との間で挟持されるので、上記ねじ19に大きな力が作用する事はない。又、本例のスペーサは、例えば、パッドクリップを利用する等して、パッドに組み付けても良い。更に、上述した構造以外に、インナ側とアウタ側とに組み込むスペーサの厚さを互いに変えたり、素保持面を回出側と回入側とで非対称とする等して使用状況等に合わせた、種々のバリエーションが考えられる。
【0046】
[実施の形態の第4例]
図10、11は、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の場合、本発明を対向ピストン型のディスクブレーキに適用した構造で、上述した第3例と同様に、パッド保持部の位置調整をする為にスペーサ17cを使用している。但し、本例の場合、このスペーサ17cを、弾性部材26により、アウタ側及びインナ側両ボディ部21bに結合している。尚、このスペーサ17cのうちで、ロータ1(図3参照)の径方向(図10の上下方向)に関する長さは、上記両ボディ部21bの一部で、上記スペーサ17cを結合する部分の、上記ロータ1の径方向に関する幅とほぼ同じとしている。又、このスペーサ17cのこのロータ1の軸方向(図10の表裏方向)の厚さは、上記両ボディ部21bのうち、パッド6aを保持する部分の空間27の、上記ロータ1の軸方向に関する幅よりも若干小さくしている。即ち、上記スペーサ17cの厚さを、上記両ボディ部21bのうちのピストンを配置している部分の端面28と、上記ロータ1を配置する為に、上記両ボディ部21b同士の連結部29に形成した凹部30の側縁31との距離から、後述する爪片35の厚さを減じた値以下(好ましくは同じ)としている。尚、この様な爪片35を設けていない場合には、上記スペーサ17cの厚さを上記距離以下(好ましくは同じ)とする。更に、上記スペーサ17cを上記両ボディ部21bの所定位置に配置した状態で、このスペーサ17cと、シリンダとピストンとの間に異物が侵入する事を防止する為、これらシリンダの開口部とピストンの先端部とに掛け渡されたピストンブーツ42の外周面とが、干渉しない様にしている。
【0047】
又、上記弾性部材26は、ステンレス鋼等の弾性を有する金属板を曲げ形成して成るもので、基板部32と、この基板部32の両端部から、同一方向に折り曲げられた一対の係止腕部33a、33bとを有する。この様に構成される弾性部材26の上記ロータ1の軸方向に関する幅は、上記空間27のこのロータ1の軸方向に関する幅とほぼ同じとしている。又、上記両係止腕部33a、33bのうちの一方の(図10、11の上方に存在する)係止腕部33aは、平面状に形成しているのに対し、他方の(図10、11の下方に存在する)係止腕部33bは、先端部を上記係止腕部33aから離れる方向に折り曲げて、この先端部を案内部34としている。上記両係止腕部33a、33bの間隔は、上記スペーサ17cの上記ロータ1の径方向に関する長さと同じか、この長さよりも僅かに小さくしている。又、上記基板部32の中間部両側縁には、一対の爪片35を設けている。
【0048】
上記スペーサ17cは、例えば、上記両ボディ部21bに組み付ける前に、上記弾性部材26と組み合わせる。即ち、この弾性部材26の基板部32を、上記スペーサ17cの上記ロータ1の円周方向(図10の左右方向)片側面(図10の右側面)に当接させる。この状態で、上記スペーサ17cのうちで、上記ロータ1の径方向両端面を、上記弾性部材26の両係止腕部33a、33bの基端部乃至中間部により挟持する。又、上記両爪片35により、上記スペーサ17cのうちで、上記ロータ1の軸方向両側面を挟持する。これにより、このスペーサ17cが上記弾性部材26に対し、上記ロータ1の径方向及び軸方向に脱落する事がなくなる。
【0049】
そして、上述の様に互いに組み合わされたスペーサ17c及び弾性部材26を、上記両ボディ部21bの空間27(端面28と凹部30の側縁31との間)に配置する。この際、上記弾性部材26の両係止腕部33a、33bの先端部(スペーサ17cから突出した部分)により、上記両ボディ部21bの一部でスペーサ17cを結合すべき部分を弾性的に挟持しつつ、このスペーサ17cのうちで、上記ロータ1の円周方向に関する他側面(図10の左側面)を、上記両ボディ部21bの素保持面15gに当接させる。この作業は、上記両係止腕部33a、33bのうち、他方の係止腕部33bの先端部に形成した上記案内部34を上記両ボディ部21bの一部の端縁と当接させつつ、上記係止腕部33bを弾性変形させる事により、容易に行なえる。
【0050】
尚、本例の場合、上記他方の係止腕部33bの中間部先端寄りで上記案内部34よりも基端側部分を、上記一方の係止腕部33a側に折り曲げる事により、これら基端側部分と係止腕部33aとの、自由状態での間隔を、上記両ボディ部21bの一部で上記スペーサ17cを結合すべき部分の径方向に関する幅よりも小さくしている。この為、上記一方の係止腕部33aと上記部分との間で、上記両ボディ部21bの一部が弾性的に挟持される。又、本例の場合、これら両ボディ部21bの一部の上記ロータ1の径方向内側面に、径方向外方に凹んだ溝部36を形成し、この溝部36に上記他方の係止腕部33bの先端寄り部分を係止している。尚、スペーサ17cの両ボディ部21bに対する組み付け手順は、上述の手順以外に、例えば、スペーサ17cをこれら両ボディ部21bの所定位置に配置した状態で、弾性部材26によりこれら両部材17c、21b同士を結合する様にしても良い。
【0051】
更に、本例の場合、上記両ボディ部21bを構成する連結部29のうちで、上記ロータ1の径方向に関する外側面の一部に、径方向外方に突出する突出部37を形成している。この突出部37のうちで、上記ロータ1の軸方向に関する側面と、上記連結部29に形成した凹部30の側縁31とは、上記ロータ1の軸方向に直交する同一仮想平面上に存在する。従って、上記弾性部材26により、上記スペーサ17cを上記両ボディ部21bの所定位置に結合した状態で、この弾性部材26の一方の係止腕部33aの先端部側縁が、上記突出部37の上記側面に当接する。又、この弾性部材26の基板部32のうちで、この突出部37と反対側に存在する側縁が、上記両ボディ部21bの端面28と当接する。従って、上記弾性部材26及び上記スペーサ17cは、上記両ボディ部21bの所定位置に、上記ロータ1の軸方向の変位不能に結合される。
【0052】
上述の様に、弾性部材26によりスペーサ17cを上記両ボディ部21bの所定位置に結合した状態で、パッド6aを図10の様に配置する。本例の場合、上記弾性部材26の基板部32の上記パッド6a側の側面が、請求項7に記載した他側の保持面に相当する、保持面16gを構成する。尚、例えば、弾性部材26の他方の係止腕部33bを二又に形成し、一方をこの係止腕部33bと反対側に折り曲げて、図10の右側のパッドクリップ38と同様に、パッド6aの径方向内側縁に弾性的に当接させても良い。この様に構成すれば、上記弾性部材26をパッドクリップと兼用できる。或は、この弾性部材26とは別に、上記パッド6aを上記両ボディ部21bに対し摺動可能に案内する為のガイドプレート、若しくは、上述の様なパッドクリップを上記パッド6a側に組み付けても良い。
【0053】
上述の様に構成される本例の場合、弾性部材26により、上記スペーサ17cを上記両ボディ部21bの所定位置に対し容易に結合できる。即ち、上述の実施の形態の第3例の様に、ねじ19により結合する構造の場合、狭い空間でこのねじ19を螺合する必要があり、結合作業が面倒である。これに対して本例の場合、上記弾性部材26の両係止腕部33a、33bに上記スペーサ17cを挟持した状態で、これら弾性部材26及びスペーサ17cを上記両ボディ部21bの所定位置に配置できる。この作業は、これら両係止腕部33a、33bの先端部を弾性変形させつつ行なえば良い。この弾性変形は、上記両ボディ部21aの一部の端縁と、上記他方の係止腕部33bの先端部に形成した案内部34との当接により円滑に行なわれる。従って、本例の場合、上記スペーサ17cを上記両ボディ部21aの所定位置に結合する作業を容易に行なえる。尚、図示の例では、対向ピストン型のディスクブレーキに本発明を適用した場合を示したが、本例は、フローティングキャリパ型のディスクブレーキにも適用可能である。その他の構造及び作用は、上述の実施の形態の第3例と同様である。
【0054】
[実施の形態の第5例]
図12は、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例は、本発明を前述の図7に示した様な対向ピストン型のディスクブレーキに関して実施する場合で、スペーサをロータ1(図3参照)の円周方向に関して同じ方向に配置した構造に適用するものである。本例の場合、アウタ側及びインナ側両ボディ部21b、21bの両方にそれぞれ配置するスペーサ17dを、一体型としている。即ち、このスペーサ17dは、一対のスペーサ素子39、39を連結部40により連結して成る。この様なスペーサ17dは、上記両ボディ部21a、21aに組み付けた状態で、上記両スペーサ素子39、39の外側面が、それぞれ上記両ボディ部21b、21bの端面28に当接する。又、上記スペーサ17dを一体型とした事に伴い、これら両スペーサ素子39、39をアウタ側、インナ側のそれぞれのボディ部21a、21aに結合する為の弾性部材26aも、一体型としている。即ち、この弾性部材26aは、一対の基板部32a、32aのうちで、上記ロータ1の径方向に関して一方(図12の上方)の端縁同士を、ブリッジ部41により連結している。そして、このブリッジ部41の中間部に、一方の係止腕部33aを設けている。他方の係止腕部33b、33bは、上記両基板部32a、32aの径方向他方(図12の下方)の端縁に、それぞれ設けている。
【0055】
又、本例の場合、上記両基板部32a、32aのそれぞれの外側縁を、上記両ボディ部21b、21bの端面28にそれぞれ当接させる事により、上記弾性部材26aがこれら両ボディ部21b、21bに対し、上記ロータ1の軸方向にがたつく事を防止している。尚、上記両基板部32a、32aの内側縁中間部に爪片35a、35aを形成して、これら両爪片35a、35aと上記両スペーサ素子39、39の内側面とを当接させる事により、上記弾性部材26aの上記両ボディ部21b、21bに対するがたつきを防止する事もできる。この場合に、上記両基板部32a、32aの外側縁中間部にも爪片を形成すれば、上記スペーサ17dを両ボディ部21b、21bに組み付ける以前に、このスペーサ17dを上記弾性部材26aに組み付ける事ができる。何れにしても本例の場合には、上述の実施の形態の第4例の構造の様に、連結部29に突出部37を設ける必要がない。その他の構造及び作用は、上述の実施の形態の第4例と同様である。
【0056】
[実施の形態の第6例]
図13は、本発明の実施の形態の第6例を示している。本例の場合、弾性部材26bにより、スペーサ17eを、パッド6aのプレッシャプレート11a側に結合している。この様な本例の場合、上記弾性部材26bの基板部32の両端部に形成した係止腕部33c、33dのうち、一方の係止腕部33cの先端部に案内部34を設けている。又、これら両係止腕部33c、33dの両側縁中間部に、爪片35b、35bを設けている。そして、上記スペーサ17e、及び、上記プレッシャプレート11aのうちでロータ1(図3参照)の円周方向(図13の左右方向)片側縁を、上記両係止腕部33c、33dにより、上記ロータ1の径方向(図13の上下方向)に関して両側から挟持すると共に、上記各爪片35b、35bにより上記スペーサ17e及び上記プレッシャプレート11aを、上記ロータ1の軸方向(図13の表裏方向)に関して両側から挟持している。これにより、上記スペーサ17e及び上記パッド6aとを、上記弾性部材26bにより、不用意に分離しない様に結合している。
【0057】
上述の様に構成される本例の場合、上記パッド6aと上記スペーサ17eとを単一の部材として管理(ユニット化)でき、アウタ側及びインナ側両ボディ部、或は、サポートに組み付ける作業を、より容易に行なえる。尚、スペーサとプレッシャプレートとの結合は、本例の様な弾性部材を使用する以外に、前述の実施の形態の第3例の様に、ねじにより結合する事もできる。又、本例の場合、ガイドプレート若しくはパッドクリップを、両ボディ部或はサポートに組み付けても良い。その他の構造及び作用は、前述の実施の形態の第3例或は第4例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
フローティングキャリパ型のディスクブレーキの場合には、インナ側、アウタ側両パッドはサポートに対し、特にピン等を使用せずに保持する場合が多い。この様なフローティングキャリパ型のディスクブレーキで本発明を実施する場合には、単にサポートに設けたパッド保持部を、ロータの回転方向に関して所定方向に所定角度回転させれば良い。これに対して、対向ピストン型ディスクブレーキの場合には、インナ側、アウタ側両パッドはキャリパに対し、ピンにより保持する場合がある。このピンは、各パッドのプレッシャプレートに設けた通孔に挿通する。この為、キャリパに設けるパッド保持部をロータの回転方向に関して所定方向に所定角度回転させた場合、上記ピン及び各パッドのプレッシャプレートに設けた通孔の位置がそのままであると、このピンをこの通孔に挿通できなくなり、パッドの共通化を図れなくなる。この様な不都合を解消する為に、図14に示す様に、上記各ピンを装着する為にキャリパ4に設ける支持孔20、20を複数組設けたり、或いは、上記各パッドのプレッシャプレートに、上記ピンを挿通する為の通孔を複数組設ける。何れにしても、キャリパに設けるパッド保持部の位置調節に応じて、上記ピンを挿通する支持孔20、20或いは通孔を変える事で、パッドを作製する為の型等の共通化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、サポートのインナ側のパッド保持部の模式図。
【図2】同じくアウタ側のパッド保持部の模式図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、ロータの回転軸に直交する仮想平面に関する断面図。
【図4】同第3例を示す、パッド保持部の模式図。
【図5】第3例の構造に組み込むスペーサの斜視図。
【図6】第3例の別の構造に関する、パッド保持部の3例を示す模式図。
【図7】図6(A)の構造を実際に配置した状態で、ロータ、パッド及びスペーサのみを抜き出して示す斜視図。
【図8】図6(C)の構造に関して示す、図7と同様の図。
【図9】スペーサの別例を示す斜視図。
【図10】本発明の実施の形態の第4例を示す、ロータの回転軸に直交する仮想平面に関する断面図。
【図11】ボディ部へのスペーサの組み付け状態を示す、部分斜視図。
【図12】本発明の実施の形態の第5例を、ボディ部へのスペーサの組み付け状態を、弾性部材と分離した状態で示す、分解斜視図。
【図13】本発明の実施の形態の第6例を、パッド、スペーサ及び弾性部材のみを取り出して示す、(A)は図10と同方向から見た部分平面図、(B)は、部分斜視図。
【図14】本発明の実施の形態の第7例を示す、キャリパの模式図。
【図15】本発明の対象となるディスクブレーキの第1例を示す斜視図。
【図16】同第2例を、一部を切断して径方向外方から見た状態で示す図。
【図17】従来構造の第1例を示す、ロータの回転軸に直交する仮想平面に関する断面図。
【図18】同第2例を示す、図17と同様の断面図。
【符号の説明】
【0060】
1 ロータ
2 アウタ側ボディ
3 インナ側ボディ
4、4a キャリパ
5、5a サポート
6、6a パッド
7 シリンダ部
8 キャリパ爪
9 ピストン
10、10a ライニング
11、11a プレッシャプレート
12 パッド保持部
13 スペーサ
14a、14b、14c、14d、14e、14f、14g パッド保持部
15a、15b、15c、15d、15e、15f、15g 素保持面
16、16a、16b、16c、16d、16e、16f、16g 保持面
17、17a、17b、17c、17d、17e スペーサ
18 凹部
19 ねじ
20 支持孔
21、21a、21b ボディ部
22a、22b 支持部
23a、23b 支持面
24a、24b 素支持面
25、25a 第二の素支持面
26、26a 弾性部材
27 空間
28 端面
29 連結部
30 凹部
31 側縁
32、32a 基板部
33a、33b、33c、33d 係止腕部
34 案内部
35、35a、35b 爪片
36 溝部
37 突出部
38 パッドクリップ
39 スペーサ素子
40 連結部
41 ブリッジ部
42 ピストンブーツ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転するロータを跨ぐ状態で設けられたパッド保持部材と、このパッド保持部材の一部でこのロータを軸方向両側から挟む位置に設けられて、それぞれがパッドを上記ロータの軸方向の変位を可能に保持する、1対のパッド保持部と、シリンダ部内への油圧の導入に基づいてこのシリンダ部内から押し出され、上記両パッドを上記ロータの軸方向両側面に押し付けるピストンとを備え、上記両パッド保持部は、上記両パッドを保持する為に、それぞれが上記ロータの回転方向両端に位置する1対ずつの保持面を備えているディスクブレーキに於いて、上記両パッド保持部のうちの少なくとも一方のパッド保持部を構成する1対の保持面のうちの少なくとも一方の保持面を、当該位置にパッドを位置させたと仮定した場合に、このパッドの上記ロータとの摺動面の中心と、上記車輪の停止状態で上記ピストンによりこのパッドを押圧した場合のこの押圧力の中心とが一致する基準位置から、上記ロータの中心軸を中心として所定角度だけ回転移動させた位置に設ける事により、当該パッド保持部の上記ロータの円周方向に関する位置を調節した事を特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
上記パッド保持部材が、互いに一体に結合されたアウタボディ部及びインナボディ部を有するキャリパであり、上記ピストンが、これらアウタボディ部及びインナボディ部に互いに対向する状態で設けられた各シリンダ部にそれぞれ嵌装されている、請求項1に記載したディスクブレーキ。
【請求項3】
上記パッド保持部材がサポートであり、上記ピストンが、このサポートに対し上記ロータの軸方向の変位を可能に支持されたキャリパのうちでこのロータの軸方向片側部分にのみ設けられたシリンダ部に嵌装されている、請求項1に記載したディスクブレーキ。
【請求項4】
上記少なくとも一方の保持面が、反アンカ側の保持面である、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ。
【請求項5】
上記少なくとも一方の保持面を、上記基準位置から上記ロータの回入側に回転移動させた位置に設ける事により、このロータの回転方向に関して、当該パッド保持部に保持されたパッドが、上記車輪の停止状態で上記ピストンにより上記ロータに向け押圧される位置の中心を、当該パッドの中心よりもこのロータの回出側にずらせている、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ。
【請求項6】
上記パッド保持部材を構成する為の中間素材のうちで完成後にパッド保持部となるべき部分に、完成後のパッド保持部を構成する1対の保持面の間隔よりも狭い間隔で、1対の素保持面が形成されており、上記少なくとも一方の保持面が、これら両素保持面のうちの少なくとも一方の素保持面を、上記ロータの回転方向に削り取る事で形成されたものである、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ。
【請求項7】
上記パッド保持部材を構成する為の中間素材のうちで完成後にパッド保持部となるべき部分に、完成後のパッド保持部を構成する1対の保持面の間隔よりも広い間隔で、ロータの回転方向に関して、片側に保持面を、他側に素保持面を、それぞれ形成しており、このうちの素保持面と、上記パッド保持部に保持されるパッドの側面との間にスペーサを配置し、このスペーサのこのパッド側の側面、或は、このスペーサを上記パッド保持部材に結合する為の部材の側面を、上記パッド保持部を構成する他側の保持面とした、請求項1〜5のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ。
【請求項8】
上記パッド保持部材とパッドとのうちの何れか一方の部材と上記スペーサとを結合した、請求項7に記載したディスクブレーキ。
【請求項9】
上記一方の部材と上記スペーサとを、弾性を有する金属板を曲げ形成して成る弾性部材により結合している、請求項8に記載したディスクブレーキ。
【請求項10】
アウタ側とインナ側とにそれぞれ存在する上記パッド保持部の1対の保持面同士の間隔が、アウタ側とインナ側とで互いに等しい、請求項1〜9のうちの何れか1項に記載したディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−196683(P2008−196683A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142078(P2007−142078)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】