説明

ディーゼルエンジンにおける窒素酸化物吸蔵触媒を運転するための方法

120〜250℃の間の範囲の低い排ガス温度において、より長い時間運転される窒素酸化物吸蔵触媒は、これらの温度での不完全な再生によって吸蔵能力が減少することを示す。そのように運転される触媒の本来の吸蔵能力を回復させるために2段階の再生が提案され、その際、まず吸蔵触媒は、低い排ガス温度でリーン運転からリッチ運転への切り替えによって部分的に再生され、引き続き、なおリッチ排ガスにてエンジンの排ガス温度が完全な再生のために300〜400℃の間の範囲に上げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ティーゼルエンジンの排ガス装置中に配置されている窒素酸化物吸蔵触媒を運転するための方法に関する。
【0002】
ディーゼルエンジンは、幅広い過化学量論的量の空気/燃料混合物により運転される。それらの排ガスは、相応して約3〜15体積%の高い割合の酸素を含有する。有害物質として、それらは窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO)および炭化水素(HC)およびススを排出する。ガソリンエンジンと比較してそれらの窒素酸化物の排出量は少ないが、しかしながら法定排出限界値を満たすために、これらの少ない濃度もなお排ガス後処理によってさらに低下させる必要がある。
【0003】
ディーゼル排ガスの酸素含有率が高いために、その中に含まれる窒素酸化物は、化学量論的に運転されるオットーエンジンの場合のように、三元触媒を用いて窒素を形成するために炭化水素および一酸化炭素の同時の酸化下で連続的に還元されえない。それゆえこれらのエンジンのリーン排ガスから窒素酸化物を除去するために、リーン排ガス中に含まれる窒素酸化物を硝酸塩の形で吸蔵するいわゆる窒素酸化物吸蔵触媒が開発された。
【0004】
窒素酸化物吸蔵触媒の運転の仕方は、SAE文献SAE950809に詳細に記載される。それによると窒素酸化物吸蔵触媒は、たいてい被覆の形でセラミックまたは金属、いわゆる担体からの不活性のハニカム体上に施与されている触媒材料からなる。触媒材料は、窒素酸化物吸蔵材料および触媒活性成分を含有する。また窒素酸化物吸蔵材料は、担体材料上に高分散形で析出されている本来の窒素酸化物吸蔵成分からなる。吸蔵成分として、主にアルカリ金属、アルカリ土類金属および希土類金属の塩基性酸化物、殊に、しかし酸化バリウムが使用され、それらは二酸化窒素と反応して相応する硝酸塩を形成する。
【0005】
通常、触媒活性成分として白金族の貴金属が使用され、それらは一般に吸蔵成分と一緒に担体材料上に析出される。担体材料として、大部分が活性の、高表面積の酸化アルミニウムが使用される。しかしながら触媒活性成分は、分離された担体材料上、例えば活性酸化アルミニウム上に施与されていてもよい。
【0006】
触媒活性成分の課題は、リーン排ガス中で一酸化炭素および炭化水素を二酸化炭素および水へと変換させることである。その他に、それらは一酸化窒素から二酸化窒素への酸化を触媒し、それは塩基性吸蔵材料と反応して硝酸塩を形成する(吸蔵段階または同様にリーン運転)。一酸化窒素は、吸蔵材料と硝酸塩を形成しない。それはディーゼルエンジンの排ガス中にエンジンの運転条件に応じて65〜95%で含まれている。
【0007】
吸蔵材料中への窒素酸化物の蓄積が増大するにつれて、その残りの吸蔵能力は減少し、かつそれゆえ時々再生されなければならない。このためにモーターは短時間のあいだリッチ空気/燃料混合物により運転される(いわゆる再生段階またはリッチ運転)。リッチ排ガス中での還元条件下で、形成された硝酸塩は窒素酸化物NOxへと分解され、かつ還元剤としての一酸化炭素、水素および炭化水素の使用下で水および二酸化炭素を形成しながら窒素に還元される。
【0008】
窒素酸化物吸蔵触媒の運転時に、吸蔵段階および再生段階が規則的に交互に現れる。再生段階がすでに20秒未満で終わる一方で、吸蔵段階は、排ガス中の窒素酸化物濃度が比較的少ないことに基づき通常1〜10分の間続く。吸蔵段階から再生段階への最適な切り替え時機を調べるために、例えば吸蔵触媒の下流に窒素酸化物センサーが配置されうる。このセンサーにより測定された排ガス中の窒素酸化物濃度が、あらかじめ規定された閾値を超えると、触媒の再生が開始される。閾値は、一般に30〜100体積ppmの間の、有利には30〜60体積ppmの間の間隔から選択される。
【0009】
今日の窒素酸化物吸蔵触媒は、約150〜500℃の間の運転領域を持つ。150℃を下回ると、温度が下がるにつれて一酸化窒素から二酸化窒素への酸化の速度が減少することに基づき、および触媒中での固相反応が遅延することに基づき、窒素酸化物の効果的な吸蔵はもはや生じない。500℃を上回ると、硝酸塩として吸蔵された窒素酸化物は、もはや安定せず、かつ窒素酸化物として排ガス中に送り出される。窒素酸化物吸蔵触媒の最適な運転領域は、約300〜400℃の間にある。これはリーン排ガス中で窒素酸化物を吸蔵するためにもリッチ排ガス中で吸蔵触媒を再生するためにも適用される。
【0010】
ディーゼル排ガスの特徴は、その低い温度である。エンジンの部分負荷運転において、排ガス温度は通常120〜250℃の間にある。全負荷の場合にのみ、それは時に500℃まで上昇しうる。それゆえ頻繁に、ディーゼルエンジンの排ガスは、市街地運転でのより長い運転段階中に120〜250℃の間にある。この場合、吸蔵触媒の来る再生が完全には行われずに、ある特定の割合の窒素酸化物が吸蔵触媒に残ることが観察される。窒素酸化物のためのその吸蔵能力はつまり減少していることになる。
【0011】
吸蔵能力が減少したことにより、当然のことながら吸蔵段階は短くなる。再生およびリーン運転への切り替えが行われた後に、次の再生を開始するための触媒の下流の窒素酸化物濃度の閾値は、完全に再生される吸蔵触媒の時より速く上回る。
【0012】
高められた排ガス温度にて吸蔵触媒を可能な限り完全に再生するために排ガス温度が再生の開始前に高められる場合、温度が高められる間に、変換されえない窒素酸化物の予定より早い排出が起こる。その他に、吸蔵段階中に、不所望の窒素酸化物排出が、短時間で温度が高められる場合に窒素酸化物の熱脱着によって観察される。これらの不所望の排出は、達成可能な窒素酸化物変換率を減少させる。
【0013】
それゆえ本発明の課題は、これらの不所望の排出を大幅に減少させることができる窒素酸化物吸蔵触媒をディーゼルエンジンにおいて運転するための方法を示すことであった。
【0014】
この課題は、請求項に記載の方法によって解決される。この方法の場合、窒素酸化物吸蔵触媒はディーゼルエンジンの排ガス浄化装置中で、交互に起こる吸蔵段階および再生段階により運転され、その際、触媒はリーン空気/燃料混合物によるエンジンの運転中に、排ガス中に含まれた窒素酸化物を吸蔵し、かつ窒素酸化物濃度が触媒の下流で限界値を超えると、触媒はリッチ空気/燃料混合物によるエンジンの運転によって再生される。該方法は、120〜250℃の間の排ガス温度での運転段階中に、吸蔵触媒を通常の方式で、同じ排ガス温度で排ガスをエンリッチ(Anfetten)することによって周期的に再生することを、および時々、そのような再生に引き続いてすぐに第2の再生段階において、付加的に排ガス温度を吸蔵触媒の完全な再生のために300〜400℃の間の範囲に上げ、かつそれにより強固に結合された硝酸塩も脱着されかつ変換されることを特徴とする。
【0015】
つまり本発明に従って、予定より早く窒素酸化物が排出されることなく低い排ガス温度で運転される吸蔵触媒の完全な再生の問題は、時々、2段階の再生を実施することによって解決される。この再生の第1の段階は通常の再生に相当し、すなわちエンジンは同じ排ガス温度でリーン運転からリッチ運転へと切り替えられる。この再生段階中に、柔軟に結合された窒素酸化物は脱着されかつ変換される。強固に結合された窒素酸化物も変換するために、この慣例の再生段階に引き続いて、排ガス温度は、同じリッチ排ガスでの相応するエンジン処理によって300〜400℃の間の範囲に上げられる。この排ガス温度の場合、強固に結合された窒素酸化物は脱着され、かつ触媒により変換される。その後、エンジンは再びリーン運転に切り替え戻される。
【0016】
2段階の再生は、再生が起こる全ての場合に実施される必要はない。ただ3〜10回毎の慣例の再生後に2段階の再生が実施されるだけで十分であることが判明した。この代わりにリーン段階の継続時間が、低い排ガス温度での不完全な再生による吸蔵能力の減少の基準として考慮されうる。上ですでに説明されたように、有利にはリーンエンジンは、排ガス中の窒素酸化物濃度が吸蔵触媒の下流で、あらかじめ規定された限界値を超えると、リーン運転からリッチ運転へと切り替えられる。これによりリーン段階の継続時間は、吸蔵能力の減少とともに短くなる。吸蔵段階の継続時間の値が、あらかじめ規定された値を下回ると、2段階の再生が開始される。有利には、2段階の再生を開始するための吸蔵段階の継続時間のあらかじめ規定された値は、完全に再生される吸蔵触媒における吸蔵段階の継続時間の40〜70%である。
【0017】
本発明に従う段階付けられた再生により、吸蔵触媒を低い排ガス温度による長い段階から出発して、窒素酸化物の突発的なかつ強い脱着なしに完全に再生することが可能となる。
【0018】
本発明は、以下の試験を手がかりにして詳細に説明される。各図が示すのは以下の通りである。
【0019】
図1: 吸蔵触媒を種々の温度にてNOの完全な破過点(Durchbruch)までNOで負荷した後の、吸蔵触媒からの熱脱着の測定。
【0020】
図2: 吸蔵触媒を種々の温度にてNOの50%の破過点までNOで負荷した後の、吸蔵触媒からの熱脱着の測定。
【0021】
図3: 175℃にてNOの完全な、もしくは50%の破過点まで負荷した後の、吸蔵触媒からの熱脱着の比較。
【0022】
図4: 200℃にてNOの完全な、もしくは50%の破過点まで負荷した後の、吸蔵触媒からの熱脱着の比較。
【0023】
図1〜4は、一酸化窒素350ppmの濃度を有するモデル排ガスを吹き込むことによって窒素酸化物で触媒を負荷した後の窒素酸化物吸蔵触媒の一連の熱脱着曲線を示す。窒素酸化物吸蔵触媒は、窒素酸化物を吸蔵するための酸化バリウムならびにリーン段階(吸蔵段階)中に一酸化窒素から二酸化窒素へ酸化するための、および再生段階中に放出された窒素酸化物を還元するための、白金およびロジウムで活性化された酸化アルミニウムを含有していた。
【0024】
触媒の負荷は、種々の排ガス温度(吸着温度)にて行った。排ガスとして、後出の表中に記載された排ガス成分を、エンジンのリーン運転およびリッチ運転のシミュレーションのために使用した。
【0025】
まず触媒を、リッチ排ガス中で50000h−1の空間速度(GHSV)にて、550℃で30分の間調整した。次いで、リーン排ガスに切り替え、かつ触媒を冷却した。所望された吸着温度に到達した後に、リーン排ガスにNO 350vol.ppm(体積ppm)を供給した。全ての負荷プロセスの開始時、触媒の下流で測定可能な一酸化窒素の濃度は、触媒の良好な吸蔵能力に基づき実際には0であった。負荷が増大するにつれて、触媒の下流の窒素酸化物濃度はゆっくりと上昇した。負荷を、触媒に供給されたNOの濃度の50%もしくは100%が触媒の下流で測定可能となるまで継続した。
【0026】
その後に、触媒をリーン条件下でそのつど100℃の脱着測定のための開始温度に冷却した。次いで、窒素酸化物の脱着量、すなわち触媒の下流の窒素酸化物濃度を、モデルガス温度に依存するリーン条件下で測定し、該温度はこの目的のために10℃/分の割合で上げた。
【0027】
【表1】

【0028】
第1の一連の試験においては、負荷を、触媒の下流の濃度が出発濃度(100%)と同じになるまで継続した。この状態は、窒素酸化物で飽和するまでの触媒の完全な負荷に相当していた。
【0029】
測定された脱着曲線を図1は示す。脱着量最大値の高さから、吸蔵能力が温度の増加とともに上昇し、およそ300℃の温度にてその最高点に達し(曲線d)かつその後に熱脱着によって再び減少する(曲線e、排ガス温度350℃)ことがわかる。
【0030】
第2の一連の試験においては、負荷を、触媒の下流の窒素酸化物濃度が出発濃度の50%に達した後に終了した。関連する脱着曲線を図2が示す。これらの測定は、原則的に吸蔵能力が温度に同じく依存することを示す。
【0031】
図3および4には、図1および2からの曲線が175℃(図3、測定曲線aおよびf)もしくは200℃(図4、測定曲線bおよびg)の負荷温度において互いに比較されている。
【0032】
図3および4は、脱着曲線の興味深い特性を示す。それらの右側は、負荷中の排ガス温度に依存しない一方で、脱着の開始(脱着曲線の左側)は、触媒が部分的に負荷される場合に、より高い温度へと移動する。
【0033】
窒素酸化物吸蔵触媒のより高い負荷の場合、吸蔵された窒素酸化物の大部分は非常に柔軟に結合されており、かつすでに200〜300℃の間の比較的低い温度で熱脱着されることがわかる。本発明に従って、この脱着を回避するために、まずこれらの柔軟に結合された部分を、排ガスの温度を高めることなくリッチ運転へと切り替えることによって再生する。その後に初めて、排ガス温度を高め、かつ強固に結合された窒素酸化物の部分も再生する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】吸蔵触媒の熱脱着の測定を示す図
【図2】吸蔵触媒の熱脱着の測定を示す図
【図3】吸蔵触媒の熱脱着の比較を示す図
【図4】吸蔵触媒の熱脱着の比較を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に起こる吸蔵段階および再生段階によりディーゼルエンジンの排ガス浄化装置中で窒素酸化物吸蔵触媒を運転するための方法であって、その際、触媒はリーン空気/燃料混合物によるエンジンの運転中に、排ガス中に含まれた窒素酸化物を吸蔵し、かつ窒素酸化物濃度が触媒の下流で限界値を超えると、触媒はリッチ空気/燃料混合物によるエンジンの運転によって再生される、交互に起こる吸蔵段階および再生段階によりディーゼルエンジンの排ガス浄化装置中で窒素酸化物吸蔵触媒を運転するための方法において、120〜250℃の間の排ガス温度での運転段階中に、吸蔵触媒を通常の方式で、同じ排ガス温度にて排ガスをエンリッチすることによって周期的に再生することを、および時々、そのような再生に引き続いてすぐに第2の再生段階において、付加的に排ガス温度を吸蔵触媒の完全な再生のために300〜400℃の間の範囲に上げ、かつそれにより強固に結合された硝酸塩も脱着しかつ変換することを特徴とする、交互に起こる吸蔵段階および再生段階によりディーゼルエンジンの排ガス浄化装置中で窒素酸化物吸蔵触媒を運転するための方法。
【請求項2】
第2の再生段階を、3〜10回毎の再生後に開始することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第2の再生段階を、吸蔵段階の継続時間があらかじめ規定された値を下回った場合に開始することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
第2の再生段階を開始するための吸蔵段階の継続時間のあらかじめ規定された値が、完全に再生される吸蔵触媒における吸蔵段階の継続時間の40〜70%であることを特徴とする、請求項3記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−512805(P2009−512805A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−535973(P2008−535973)
【出願日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際出願番号】PCT/EP2006/010109
【国際公開番号】WO2007/045482
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】