説明

デカップリング容量決定方法、デカップリング容量決定装置およびプログラム

【課題】簡易に行える、配線のインダクタンスを考慮した高精度のデカップリング容量決定処理方法および装置の実現。
【解決手段】半導体集積回路装置のデカップリング容量決定方法であって、動作周波数f、消費電力P、電源電圧V、許容電源電圧変動量ΔV、パッケージインダクタンス量L、および固有容量Cpを含む設計データを導入しS201、基準ダイ容量Cv1を演算しS203、CpがCv1より小さい時にはCv1とCpの差をデカップリング容量CdとしS205、CpがCv1より大きい時にはCdをゼロとしS206、CpとCdの和である実ダイ容量CvとLから共振周波数Trを演算しS208、比Tr/kTが1より大きいか判定しS209、比が1以下の時にはCdを維持しS212、比が1より大きい時には、さらにCvがCv1Tr/kTより大きい時にはCdを維持し、CvがCv1Tr/kTより小さい時には、CvがCv1Tr/kT以上になるようにCdを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路装置に配置するデカップリング容量を決定するデカップリング容量決定方法および装置、およびコンピュータに決定処理を行わせるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路装置の微細化および高集積化が進んでおり、これに伴って動作電圧の低電圧化および動作周波数の高速化などが進んでいる。例えば、半導体集積回路装置を製造するプロセスルールは0.1μm以下になり、これに伴って動作電圧は1.2V以下に、動作周波数は数百MHz以上になっている。高速化により半導体集積回路装置では電源雑音(ノイズ)が増加し、低電圧化によりノイズに対する耐性が悪化するため、ノイズによる回路の誤動作が発生しやすくなる。誤動作は、論理値のエラーによる論理誤動作と、タイミングエラーによるタイミング誤動作などを含む。
【0003】
ノイズによる回路の誤動作を防止するには、素子の動作タイミングをずらすようにタイミング設計して、同時動作する素子の個数を低減することが考えられるが、現状では技術的に未成熟である。そこで、回路の電源間にデカップリング容量を設け、ノイズによる回路の誤動作を防止することが行われている。従来、CADを利用した設計段階におけるデカップリング容量の配置設計は、まず各種の機能セルを適宜の規則に従ってダイ(半導体集積回路装置のチップ)内に配置し、その後に機能セルが配置されていない空き領域にデカップリング容量セルを配置していた。
【0004】
このデカップリング容量素子の配置処理は、配置するデカップリング容量の容量値を決定するデカップリング容量決定装置を利用して行われる。デカップリング容量決定装置は、CAD装置の一部として実現される。デカップリング容量決定には、電源ノイズ(DvD)解析が可能なEDA(Electronic Design Automation)ツールを用いて、各種条件での動的な電源電圧の変動を求め、その解析結果に基づいてデカップリング容量を決定する。しかし、このような解析処理には長時間を要する。そこで、所定の演算式に従ってデカップリング容量を決定するデカップリング容量決定装置が提案されている。
【0005】
配置するデカップリング容量の容量値は、半導体集積回路装置の電源網の抵抗成分と消費電流により、キルヒホフ電圧則(KVL)にしたがって発生する電源ノイズ成分を考慮して決定される。
【0006】
図1は、一般的なデカップリング容量決定装置におけるデカップリング容量決定処理を示すフローチャートである。
【0007】
ステップ101では、配置するデカップリング容量を決定するのに必要な、動作周波数f、消費電力P、電源電圧Vdd、許容電源電圧変動量ΔV、半導体集積回路の固有容量Cpなどを含む設計データを装置に導入する。これらの設計データは、半導体集積回路装置の設計時に、設計対象の半導体集積回路装置に応じてCAD装置に入力、または内部で生成されるデータである。
【0008】
ステップ102では、ダイ容量Cvを、次の式(1)に従って演算する。
【0009】
Cv1=P/(f・Vdd・ΔV) (1)
ダイ容量Cv1は、電源電圧の変動、すなわち電源ノイズを許容電源電圧変動量ΔV以下に抑制するのに必要な、高電位側電源と低電位側電源の間の容量である。
【0010】
ステップ103では、デカップリング容量Cdを、Cd=Cv1−Cpの式に従って演算する。
【0011】
半導体集積回路装置は、高電位側電源と低電位側電源の間に固有容量Cpを有しているので、Cv1−Cpが不足している容量であり、デカップリング容量Cdを設けてこの不足分Cv1−Cpを補う。なお、CpがCv1より大きい場合には、Cdはゼロであり、デカップリング容量を設ける必要はない。
【0012】
図1の処理は、簡易的には半導体集積回路装置全体に対して行う場合もあるが、高集積で大規模な半導体集積回路装置では、ノイズの発生源の近傍にデカップリング容量を設けてノイズを低減する必要がある。そこで、半導体集積回路装置の機能領域ごとに図1の処理を行って機能領域ごとのデカップリング容量を決定し、各機能領域に付随して決定したデカップリング容量を設けることが提案されている。例えば、レイアウト単位を機能領域とし、レイアウト単位ごとに必要なデカップリング容量を決定し、レイアウト単位ごとに決定したデカップリング容量を配置する。この場合、デカップリング容量の容量値は、各レイアウト単位内のクロックバッファ、フリップフロップなどの同期セルの個数に応じて決定されることになる。デカップリング容量は、デカップリングセルの形で実現され、デカップリングセルが同期セルの近傍に配置される。
【0013】
デカップリング容量は、大きいほど電源ノイズを低減できるが、デカップリング容量を大きくするとその分半導体集積回路装置が大きくなり、コスト増加という問題を発生する。そのため、デカップリング容量は、必要な量を確保するが、必要以上に大きくならないように決定することが要求される。
【0014】
また、図1のデカップリング容量決定処理で、機能領域ごとに決定したデカップリング容量が不足していることが判明した場合、半導体集積回路装置の全部または一部を再設計することになる。このような事態が生じると、設計時間が大幅に延長され、半導体集積回路装置のリードタイムに影響する。そのため、デカップリング容量の決定は、高い精度で行うことが要求される。
【0015】
図1のデカップリング容量決定処理では、キルヒホフ電圧則(KVL)にしたがって発生する電源ノイズ成分を考慮してデカップリング容量を決定した。しかし、電源ノイズには、配線のインダクタンスと消費電流の変化により発生するノイズ成分も影響する。そのため、図1のデカップリング容量決定処理では十分な精度でデカップリング容量を決定することができない。そこで、配線のインダクタンスと消費電流の変化により発生するノイズ成分も考慮してデカップリング容量を決定することが提案されている。
【0016】
提案されている処理は、半導体集積回路装置内の配線およびパッケージのインダクタンスを考慮してシミュレーションを行っており、デカップリング容量の精度は向上するが、処理時間が非常に長くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2006−40962号公報
【特許文献2】特開2005−196406号公報
【特許文献3】特開2002−222230号公報
【特許文献4】特開2005−157801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
実施形態は、簡易に行える、配線のインダクタンスを考慮した高精度のデカップリング容量決定処理を記載する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
実施形態の第1の態様は、半導体集積回路装置に配置するデカップリング容量を決定するデカップリング容量決定方法であって、動作周波数、消費電力、電源電圧、許容電源電圧変動量、パッケージインダクタンス量、および集積回路の固有容量を少なくとも含む集積回路の設計データを導入し、動作周波数、消費電力、電源電圧および許容電源電圧変動量から所定の演算式に従って基準ダイ容量を演算し、固有容量と基準ダイ容量を比較し、固有容量が基準ダイ容量より小さい時には、基準ダイ容量と固有容量の差をデカップリング容量とし、固有容量が基準ダイ容量より大きい時には、デカップリング容量をゼロとし、固有容量とデカップリング容量の和である実ダイ容量とパッケージインダクタンス量から共振周波数を演算し、共振周波数と動作周波数に所定の定数を乗じた値との比が1より大きいか判定し、比が1以下の時にはデカップリング容量を維持し、比が1より大きい時には、さらに実ダイ容量と基準ダイ容量に前記比を乗じた閾値容量とを比較し、実ダイ容量が閾値容量より大きい時にはデカップリング容量を維持し、実ダイ容量が閾値容量より小さい時には実ダイ容量が前記閾値容量以上になるようにデカップリング容量を決定する。
【0020】
また、実施形態の第2の態様は、半導体集積回路装置に配置するデカップリング容量を決定するデカップリング容量決定装置であって、動作周波数、消費電力、電源電圧、許容電源電圧変動量、パッケージインダクタンス量、および集積回路の固有容量を少なくとも含む集積回路の設計データを導入して記憶する設計データ導入部と、動作周波数、消費電力、電源電圧および許容電源電圧変動量から所定の演算式に従って基準ダイ容量を演算するダイ容量演算部と、固有容量とデカップリング容量の和である実ダイ容量とパッケージインダクタンス量から共振周波数を演算する共振周波数演算部と、共振周波数と動作周波数に所定の定数を乗じた値との比が1より大きいかを判定する適用条件判定部と、固有容量が基準ダイ容量より小さい時には、基準ダイ容量と固有容量の差をデカップリング容量とし、固有容量が基準ダイ容量より大きい時には、デカップリング容量をゼロとし、さらに比が1以下の時および比が1より大きく且つ実ダイ容量が基準ダイ容量に前記比を乗じた閾値容量より大きい時には、デカップリング容量を維持し、前記比が1より大きく且つ実ダイ容量が閾値容量より小さい時には、実ダイ容量が閾値容量以上になるように、デカップリング容量を決定するデカップリング容量演算部と、を備える。
【発明の効果】
【0021】
実施形態によれば、短い処理時間で行える簡易な処理で、実用上十分な精度でデカップリング容量を決定できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、一般的な半導体集積回路装置のデカップリング容量決定処理を示すフローチャートである。
【図2】図2は、実施形態の半導体集積回路装置のデカップリング容量決定装置が実現されるハードウエア構成を示す図である。
【図3】図3は、実施形態のデカップリング容量決定装置の機能ブロック構成を示す図である。
【図4】図4は、実施形態のデカップリング容量決定装置におけるデカップリング容量決定処理を示すフローチャートである。
【図5】図5は、実施形態のデカップリング容量決定処理における演算式を求めたシミュレーションモデルを説明する図である。
【図6】図6は、実施形態のデカップリング容量決定処理における演算式を求めたシミュレーションにおける消費電流モデルを説明する図である。
【図7】図7は、実施形態のデカップリング容量決定処理における演算式を求めたシミュレーション結果を示す図である。
【図8】図8は、実施形態のデカップリング容量決定処理における演算式を求めたシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図2は、実施形態の半導体集積回路装置のデカップリング容量決定装置が実現されるコンピュータのハードウエア10の概略構成を示す図である。
【0024】
デカップリング容量決定装置は、独立したコンピュータにより実現されることも、一般的なCAD(Computer aided Design)装置の一部として、共通のハードウエアを利用して実現することも可能である。
【0025】
広く知られているように、コンピュータのハードウエア10は、中央処理装置(以下、CPU)11と、メモリ12と、記憶装置13と、表示装置14と、入力装置15と、外部装置17が接続されるドライブ装置16と、を備え、これらはバス18を介して相互に接続されている。コンピュータのハードウエア10の構成については広く知られているので、詳しい説明は省略する。また、デカップリング容量決定装置が実現されるコンピュータは、図2に示した構成に限定されず、通信回線などを利用してホストコンピュータなどに接続される端末装置など必要な機能が実現できるものであればよい。
【0026】
図3は、実施形態のデカップリング容量決定装置20の機能構成を示すブロック図である。図3に示すように、実施形態のデカップリング容量決定装置20は、設計データ導入部21と、基準ダイ容量Cv1を演算するダイ容量(Cv1)演算部22と、共振周波数Trを演算する共振周波数(Tr)演算部23と、適用条件判定部24と、デカップリング容量Cdを演算するデカップリング容量(Cd)演算部25と、対象領域選択部26と、を備える。
【0027】
設計データ導入部21は、デカップリング容量の決定に必要な設計データを導入して保持する。これらの設計データは、メモリ12または記憶装置13に記憶される。上記のように、デカップリング容量決定装置が、CAD装置の一部として実現される場合には、CAD装置が使用および生成した設計データは、メモリ12または記憶装置13に記憶されており、そのまま利用可能である。デカップリング容量決定装置が、CAD装置とは異なるコンピュータで実現される場合には、デカップリング容量決定に必要な設計データは、CAD装置から入力装置15を介して記憶装置13に供給され、メモリ12または記憶装置13に転送されて記憶される。
【0028】
デカップリング容量の決定に必要な設計データは、回路構成を示す回路データ、動作周波数f、消費電力P、電源電圧Vdd、許容電源電圧変動量ΔV、回路がもともと備える固有容量Cp、パッケージインダクタンスL、および後述する定数kと、を少なくとも備える。
【0029】
回路データは、半導体集積回路装置に設けられる複数の機能セルの位置および範囲を示す。複数の機能セルで1つの機能領域、例えばレイアウト単位が形成される。
【0030】
動作周波数fは、半導体集積回路装置が動作する周波数であり、クロックに同期して動作する半導体集積回路装置の場合にはクロック周波数に対応する。動作周波数fの逆数が動作周期Tである。なお、半導体集積回路装置が複数の機能領域で構成され、一部の機能領域は、クロックを分周した分周クロックで動作する場合がある。このような場合には、動作周波数fは、機能領域により異なる。
【0031】
消費電力Pは、供給される電力であり、動作状態に応じて変動する。ここでは、消費電力Pは、最大時の電力を示す。なお、上記のように、半導体集積回路装置が複数の機能領域を備え、機能領域ごとにデカップリング容量を決定する場合には、消費電力Pは、機能領域に供給される電力を示す。
【0032】
電源電圧Vddは、高電位側電源と低電位側電源に供給される電圧である。一般的には、半導体集積回路装置が複数の機能領域を備える場合でも、電源電圧Vddは同じである。
【0033】
許容電源電圧変動量ΔVは、正常な動作が保証できる電源電圧Vddの変動範囲を示す。半導体集積回路装置が複数の機能領域を備え、機能領域ごとにデカップリング容量を決定する場合には、機能領域により許容できる電源電圧の変動範囲が異なるので、許容電源電圧変動量ΔVは、機能領域ごとに異なる。
【0034】
固有容量Cpは、半導体集積回路装置がもともと備えている容量である。半導体集積回路装置が複数の機能領域を備える場合には、機能領域ごとに固有容量Cpが存在する。したがって、機能領域ごとにデカップリング容量を決定する場合には、各機能領域の固有容量Cpを利用する。
【0035】
パッケージインダクタンスLは、パッケージの端子とダイのパッドを接続するボンディングワイヤのインダクタンスを含む。前述のように、電源ノイズを正確に解析するためには、パッケージインダクタンスLに加えて半導体集積回路装置の電源網の配線のインダクタンスも考慮することが望ましい。しかし、シミュレーションの結果、半導体集積回路装置の電源網の配線のインダクタンスと消費電流の変化による影響は小さく、パッケージインダクタンスLと消費電流の変化による影響のみを考慮すれば、実用上問題のない精度で電源ノイズを解析できることが判明した。従って、ここではパッケージインダクタンスLと消費電流の変化による影響のみを考慮する。半導体集積回路装置が複数の機能領域を備える場合、パッケージの端子に直接接続される機能領域についてのみ、パッケージインダクタンスLを考慮すればよい。
【0036】
定数kは、所定の値であり、後述するようにここではk=4である。
【0037】
ダイ容量(Cv1)演算部22は、設計データ導入部21から動作周波数f、消費電力P、電源電圧Vddおよび許容電源電圧変動量ΔVを読み出して、前述と同様に、式(1)に従ってダイ容量Cv1を演算する。
【0038】
Cv=P/(f・Vdd・ΔV) (1)
実施形態では、公知の式(1)に従って演算されるダイ容量Cv1を基準ダイ容量と称し、パッケージインダクタンスLを考慮した条件を満たす場合に、基準ダイ容量Cv1を変更する。
【0039】
また、固有容量Cpとデカップリング容量Cdの和を実ダイ容量Cvと称する。
【0040】
共振周波数(Tr)演算部23は、設計データ導入部21から読み出したパッケージインダクタンスLおよび実ダイ容量Cvを使用して、式(2)に従って共振周波数Trを演算する。
【0041】
Tr=2π(LCv)1/2 (2)
適用条件判定部24は、共振周波数Trと動作周波数Tに所定の定数kを乗じた値との比Tr/(kT)が1より大きいか(Tr>kT)を判定する。この判定内容については後述する。
【0042】
デカップリング容量演算部25は、固有容量Cpが基準ダイ容量Cv1より小さい時には、基準ダイ容量Cv1と固有容量Cpの差をデカップリング容量Cdとし、固有容量Cpが基準ダイ容量Cv1より大きい時には、デカップリング容量Cdをゼロとし、さらに比Tr/(kT)が1以下の時およびこの比が1より大きく且つ実ダイ容量Cvが基準ダイ容量Cv1に比Tr/(kT)を乗じた閾値容量Cv1・Tr/(kT)より大きい時には、デカップリング容量Cdを維持し、この比Tr/(kT)が1より大きく且つ実ダイ容量Cvが閾値容量Cv1・Tr/(kT)より小さい時には、実ダイ容量Cvが閾値容量Cv1・Tr/(kT)以上になるように、デカップリング容量Cdを決定する。この演算内容については後述する。
【0043】
対象領域選択部26は、半導体集積回路装置が複数の機能領域を備え、機能領域ごとにデカップリング容量を決定する場合に、演算対象の機能領域を選択する。対象領域選択部26は、回路データに基づいて、半導体集積回路装置を複数の機能領域に分け、すべての機能領域のデカップリング容量を決定するように、演算対象の機能領域を順次選択する。
【0044】
図4は、実施形態のデカップリング容量決定装置20を使用して、半導体集積回路装置の複数の機能領域のデカップリング容量Cdを決定する処理を示すフローチャートである。
【0045】
ステップ201では、設計データ導入部21が、デカップリング容量の決定に必要な設計データである回路データ、動作周波数f、消費電力P、電源電圧Vdd、許容電源電圧変動量ΔV、固有容量Cp、パッケージインダクタンスL、および定数kを導入する。
【0046】
ステップ202では、対象領域選択部26が対象とする機能領域を選択する。
【0047】
ステップ203では、基準ダイ容量Cv1=P/(f・Vdd・ΔV)を演算する。
【0048】
ステップ204では、固有容量Cpが基準ダイ容量Cv1以上であるか判定し、Cp<Cv1であればステップ205に進み、Cp≧Cv1であればステップ206に進む。
【0049】
ステップ205では、基準ダイ容量Cv1と固有容量Cpの差Cv1−Cpを、デカップリング容量Cdとする。
【0050】
ステップ206では、デカップリング容量Cdをゼロとする。
【0051】
ステップ207では、実ダイ容量Cvを固有容量Cpとデカップリング容量Cdの和である(Cv=Cp+Cd)と定義する。
【0052】
ステップ208では、Tr=2π(L・Cv)1/2を演算する。
【0053】
ステップ209では、Tr/kt>1であるか判定し、Tr/kT≦1であればステップ212に進み、Tr/kt>1であればステップ210に進む。
【0054】
ステップ210では、Cv≧Cv1・Tr/(kT)であるか判定し、Cv≧Cv1・Tr/(kT)であればステップ212に進み、Cv<Cv1・Tr/(kT)であればステップ211に進む。
【0055】
ステップ211では、Cv、すなわちCdを増加させ、ステップ207に戻る。ステップ207から211を繰り返すことにより、ステップ210の条件を満たすCvになり、ステップ212に進む。Cdの増加は、単位量ずつ増加させ、ステップ210の条件を満たすまで、ステップ207から211を繰り返してもよいが、Cv1・Tr/(kT)からステップ207の時点のCvを減じた量より若干大きい量だけCdを増加させるようにしてもよい。これであれば、繰り返し回数を減らすことができる。
【0056】
ステップ212では、Cdをデカップリング容量として決定する。
【0057】
ステップ213では、デカップリング容量Cdが決定していない機能領域が残っているか判定し、残っていればステップ202に戻り、残っていなければ終了する。
【0058】
次に、実施形態のデカップリング容量決定処理により、実用上十分な精度でデカップリング容量が決定できることを、シミュレーション結果に基づいて説明する。
【0059】
図5は、シミュレーションモデルを説明する図である。電源ノイズ量を定量化するために、ここでは図5に示すモデルを使用してSpiceシミュレーションを実施した。
【0060】
図5に示すように、ダイ領域を矩形領域に等分割する。高電位側電源30および低電位側電源40は、この矩形領域に対応させて等分割し、それぞれ抵抗31および41を備える抵抗網で表す。電源供給端子32および42は、ダイ領域の各辺に均等に配置する。電源供給端子32および42は、パッケージインダクタンス(ボンディングワイヤ)33を介して対応する抵抗網の接続点に接続される。パッケージインダクタンス33のインダクタンスがLである。高電位側電源30の抵抗網と低電位側電源40の抵抗網の対応する接続点の間に、電流源51と固有容量52を備える機能要素がそれぞれ接続される。機能要素は、領域内の機能セルの機能を合わせて表現し、電流源51は領域内の機能セルが動作した時に生じる電流iを流す。固有容量52は、領域内の機能セルの容量を合わせたものである。抵抗31および41の抵抗値は、電源供給端子の個数、平均消費電力P、および設計制約となる静的電圧降下量に基づいて設定した。
【0061】
図6は、消費電流iのモデル化を説明する図である。図6に示すように、動作周波数fのクロックCKの周期Tは1/fである。サイクルごとの消費電流iは、二等辺三角形の形で変化するものとする。二等辺三角形の底辺は、クロック分配系の初段から最終段までの伝播時間(クロックスキューTskew)に設定した。この消費電流波形を複数サイクル印加し、降下量が最大となるサイクルでの値を電圧降下量とする。
【0062】
以上のようなシミュレーションモデルを使用して、動作周波数f、消費電力P、パッケージインダクタンスL、固有容量Cの各種の値の組合せで、最大電圧降下量を演算した。
【0063】
図7は、シミュレーション結果を示す図であり、動作周波数が500MHz(周期2ns)で、消費電力が1000mWで時の結果を示す。横軸は共振周波数Tr=2π(LCv)1/2である。縦軸は、前述の式(1)に従って算出した基準ダイ容量Cv1を付加した時に得られる電圧変動量に対する最大電圧降下量ΔVAの倍率を表す。従って、縦軸の値が「1」の時は、前述の式(1)に従って算出した基準ダイ容量Cv1が適切であることを示す。なお、接地側(低電位側)電源の降下量を考慮するために、高電位電源側の最大電圧降下量を2倍としている。
【0064】
図7の結果から、Trが動作周波数Tの4倍未満では、倍率は1であることが分かる。すなわち、Trが動作周波数Tの4倍未満の範囲では、ダイ容量Cvを、前述の式(1)に従って算出した基準ダイ容量Cv1とすればよいことが分かる。Trが動作周波数Tの4倍以上の範囲では、倍率が直線的に増加する傾向があることが分かる。この結果、k=4として、Tr>kTの範囲では、最大電圧降下量ΔVAは以下の式で近似できる。
【0065】
ΔVA=ΔV0+ΔV0・β・(Tr−kT)/(kT) (3)
ただし、ΔV0は、前述の式(1)に従って算出した基準ダイ容量Cv1を付加した時に得られる電圧変動量である。
【0066】
この範囲の変化についてより詳しく検討する。
【0067】
図8は、図7におけるTrが動作周波数Tの4倍以上の範囲のデータを抽出して、最大電圧降下量ΔVAを、式(3)に基づいて変形したものである。
【0068】
ΔV0+ΔV0・β・(Tr−kT)/(kT)=
ΔV0(1−β)+ΔV0・β・Tr/(kT)
ΔV0・β・Tr/(kT)=
(2π・β/k)・(P/(f・Cv/V))・(LC)1/2/T=
(2π・β/k)・(P/V)・(L/Cv)1/2∝(2π/k)・(P/V)・(L/Cv)1/2 (4)
図8から、β=1で最大電圧降下量ΔVAの上限が与えられるので、以下のようになる。
【0069】
ΔVA≒ΔV0+ΔV0・β・(Tr−kT)/(kT)=ΔV0・Tr/(kT)
Tr>kTの範囲では、最大電圧降下量ΔVAは、前述の式(1)に従って算出した基準ダイ容量Cv1を付加した時に得られる電圧変動量に比べて、上記のように増加するので、それを考慮してダイ容量、すなわちデカップリング容量Cdを決定する。図4に示した実施形態の動作によれば、この条件を満たすようにデカップリング容量Cdが決定される。
【0070】
以上説明したように、実施形態によれば、パッケージインダクタンスが影響する高周波数で動作する半導体集積回路装置のデカップリング容量を、実用上十分な精度で決定する処理を、短時間で行えるようになる。
【0071】
以上、実施形態を説明したが、ここに記載したすべての例や条件は、発明および技術に適用する発明の概念の理解を助ける目的で記載されたものであり、特に記載された例や条件は発明の範囲を制限することを意図するものではなく、明細書のそのような例の構成は発明の利点および欠点を示すものではない。発明の実施形態を詳細に記載したが、各種の変更、置き換え、変形が発明の精神および範囲を逸脱することなく行えることが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0072】
10 コンピュータ
11 CPU
12 メモリ
13 記憶装置
20 デカップリング容量決定装置20
21 設計データ導入部
22 ダイ容量(Cv1)演算部
23 共振周波数(Tr)演算部
24 適用条件判定部
25 デカップリング容量(Cd)演算部
26 対象領域選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路装置に配置するデカップリング容量を決定するデカップリング容量決定方法であって、
動作周波数、消費電力、電源電圧、許容電源電圧変動量、パッケージインダクタンス量、および集積回路の固有容量を少なくとも含む集積回路の設計データを導入し、
前記動作周波数、前記消費電力、前記電源電圧および前記許容電源電圧変動量から所定の演算式に従って基準ダイ容量を演算し、
前記固有容量と前記基準ダイ容量を比較し、
前記固有容量が前記基準ダイ容量より小さい時には、前記基準ダイ容量と前記固有容量の差を前記デカップリング容量とし、前記固有容量が前記基準ダイ容量より大きい時には、前記デカップリング容量をゼロとし、
前記固有容量と前記デカップリング容量の和である実ダイ容量と前記パッケージインダクタンス量から共振周波数を演算し、
前記共振周波数と、前記動作周波数に所定の定数を乗じた値との比が1より大きいか判定し、
前記比が1以下の時には、前記デカップリング容量を維持し、
前記比が1より大きい時には、さらに実ダイ容量と、前記基準ダイ容量に前記比を乗じた閾値容量とを比較し、
前記実ダイ容量が前記閾値容量より大きい時には、前記デカップリング容量を維持し、
前記実ダイ容量が前記閾値容量より小さい時には、前記実ダイ容量が前記閾値容量以上になるように、前記デカップリング容量を決定することを特徴とするデカップリング容量決定方法。
【請求項2】
前記半導体集積回路装置は、複数の機能領域を備え、
当該デカップリング容量決定方法は、各機能領域ごとに実行される請求項1に記載のデカップリング容量決定方法。
【請求項3】
前記所定の定数は4である請求項1または2に記載のデカップリング容量決定方法。
【請求項4】
半導体集積回路装置に配置するデカップリング容量を決定するデカップリング容量決定装置であって、
動作周波数、消費電力、電源電圧、許容電源電圧変動量、パッケージインダクタンス量、および集積回路の固有容量を少なくとも含む集積回路の設計データを導入して記憶する設計データ導入部と、
前記動作周波数、前記消費電力、前記電源電圧および前記許容電源電圧変動量から所定の演算式に従って基準ダイ容量を演算するダイ容量演算部と、
前記固有容量と前記デカップリング容量の和である実ダイ容量と前記パッケージインダクタンス量から共振周波数を演算する共振周波数演算部と、
前記共振周波数と前記動作周波数に所定の定数を乗じた値との比が1より大きいかを判定する適用条件判定部と、
前記固有容量が前記基準ダイ容量より小さい時には、前記基準ダイ容量と前記固有容量の差を前記デカップリング容量とし、前記固有容量が前記基準ダイ容量より大きい時には、前記デカップリング容量をゼロとし、さらに前記比が1以下の時および前記比が1より大きく且つ前記実ダイ容量が前記基準ダイ容量に前記比を乗じた閾値容量より大きい時には、前記デカップリング容量を維持し、前記比が1より大きく且つ前記実ダイ容量が前記閾値容量より小さい時には、前記実ダイ容量が前記閾値容量以上になるように、前記デカップリング容量を決定するデカップリング容量演算部と、を備えることを特徴とするデカップリング容量決定装置。
【請求項5】
半導体集積回路装置に配置するデカップリング容量を決定する処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムであって、
動作周波数、消費電力、電源電圧、許容電源電圧変動量、パッケージインダクタンス量、および集積回路の固有容量を少なくとも含む集積回路の設計データを導入し、
前記動作周波数、前記消費電力、前記電源電圧および前記許容電源電圧変動量から所定の演算式に従って基準ダイ容量を演算し、
前記固有容量と前記基準ダイ容量を比較し、
前記固有容量が前記基準ダイ容量より小さい時には、前記基準ダイ容量と前記固有容量の差を前記デカップリング容量とし、前記固有容量が前記基準ダイ容量より大きい時には、前記デカップリング容量をゼロとし、
前記固有容量と前記デカップリング容量の和である実ダイ容量と前記パッケージインダクタンス量から共振周波数を演算し、
前記共振周波数と、前記動作周波数に所定の定数を乗じた値との比が1より大きいか判定し、
前記比が1以下の時には、前記デカップリング容量を維持し、
前記比が1より大きい時には、さらに実ダイ容量と、前記基準ダイ容量に前記比を乗じた閾値容量とを比較し、
前記実ダイ容量が前記閾値容量より大きい時には、前記デカップリング容量を維持し、
前記実ダイ容量が前記閾値容量より小さい時には、前記実ダイ容量が前記閾値容量以上になるように、前記デカップリング容量を決定する、ように動作させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−14028(P2011−14028A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158972(P2009−158972)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(308014341)富士通セミコンダクター株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】