説明

デジタルアンプ搭載装置

【課題】 クリップの発生を確実に防止することができる「デジタルアンプ搭載装置」を提供すること。
【解決手段】 入力信号をデジタル波形により増幅させることによって電力増幅を行うデジタルアンプ2を備えたデジタルアンプ搭載装置1において、前記デジタルアンプ2に入力される前記入力信号の振幅が、前記デジタルアンプ2による増幅後に電源電圧を超えないような振幅になるように制御する制御手段7を備えたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルアンプ搭載装置に係り、特に、入力信号をデジタル波形により増幅させることによって電力増幅を行うのに好適なデジタルアンプ搭載装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、オーディオ機器には、入力された音声信号を増幅させることによって電力増幅を行うオーディオアンプが用いられていた。
【0003】
このようなオーディオアンプは、最終出力段における電圧の振幅が、電源電圧より大きくならないように構成されていた。
【0004】
したがって、オーディオアンプを搭載したアンプ回路への入力信号が大きく、オーディオアンプによる増幅後の電圧の振幅値が電源電圧よりも大きくなってしまうような場合には、図3に示すように、クリップと称される電源電圧近辺で出力がはりついてしまう現象が発生してしまっていた。
【0005】
そして、このクリップは、聴感上、不快なノイズを発生させてしまう原因となっていた。
【0006】
一方、電源電圧は、特に車載用のオーディオ機器においては、自車の走行状態やエアコンのかかり具合などによって時間的に変動してしまうので、アンプ回路への入力信号の振幅値を固定的に制限すること等によっては適切に対応することができなかった。
【0007】
このようなクリップの発生を防止する手段としては、これまでにも、アナログアンプをIC化したPower ICにおいて、クリップ検出端子を備えた構成が採用されていた。
【0008】
このようなクリップ検出端子を備えたPower IC は、クリップ検出端子を介してクリップが検出された際に、アナログアンプに入力される入力信号の振幅値を下げる処理を行うことによって、クリップを防止することが可能であった。
【0009】
【特許文献1】特開2002−158549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、近年、デジタルアンプと称されるデジタル波形としてのPWM(Pulse Width Modulation)波形によって電力増幅を行うアンプが急速に普及してきている。
【0011】
このデジタルアンプは、小型・軽量・高効率と数多くの利点を有しているが、中でも、電力を消費する部分がアナログアンプと比べて非常に少ないことによって、高い電力増幅効率を実現することができることを最大の特徴としている。
【0012】
しかしながら、デジタルアンプは、PWM波形によって電力増幅を行う構成上、電源電圧とGND電位のみをとる方形波しか出力することができない。
【0013】
そのため、デジタルアンプを搭載したデジタルアンプICにはクリップ検出端子がなく、Power IC で行ってきたようなクリップを防止するための対策を講じることができないといった問題が生じていた。
【0014】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、クリップの発生を確実に防止することができるデジタルアンプ搭載装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するため、本発明に係るデジタルアンプ搭載装置の特徴は、入力信号をデジタル波形によって増幅させることによって電力増幅を行うデジタルアンプを備えたデジタルアンプ搭載装置において、前記デジタルアンプに入力される前記入力信号の振幅が、前記デジタルアンプによる増幅後に電源電圧を超えないような振幅になるように制御する制御手段を備えた点にある。
【0016】
そして、このような構成によれば、電源電圧に時間的な変動が生じたとしても、制御手段により、デジタルアンプに入力される入力信号の振幅が、デジタルアンプによる増幅後に電源電圧を超えないような振幅になるように制御することが可能となる。
【0017】
また、本発明に係るデジタルアンプ搭載装置の特徴は、制御手段が、電源電圧を監視する電源電圧監視手段と、この電源電圧監視手段の監視結果に基づいて、デジタルアンプに入力される入力信号の入力最大振幅を規定する入力最大振幅規定手段と、この入力最大振幅規定手段によって規定された入力最大振幅よりも前記入力信号の振幅が大きいか否かを判定し、前記入力信号の振幅が前記入力最大振幅よりも大きい場合には、前記入力信号の振幅を、前記入力最大振幅よりも低い振幅に減衰させる処理を行うリミッタ手段とを備えた点にある。
【0018】
そして、このような構成によれば、電源電圧監視手段、入力最大振幅規定手段およびリミッタ手段を備えた簡易な構成からなる制御手段によって、デジタルアンプに入力される入力信号の振幅をさらに高精度に制御することが可能となる。
【0019】
さらに、本発明に係るデジタルアンプ搭載装置の特徴は、車載用のオーディオ機器に用いられる点にある。
【0020】
そして、このような構成によれば、車載用のオーディオ機器において、走行状態やエアコンのかかり具合などによって電源電圧に時間的な変動が生じたとしても、制御手段により、デジタルアンプに入力される信号の振幅が、デジタルアンプによる増幅後に電源電圧を超えないような振幅になるように制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るデジタルアンプ搭載装置によれば、電源電圧に時間的な変動が生じたとしても、制御手段により、デジタルアンプに入力される入力信号の振幅が、デジタルアンプによる増幅後に電源電圧を超えないような振幅になるように制御することができる結果、デジタルアンプを搭載する場合においても、クリップの発生を確実に防止することができる。
【0022】
また、本発明に係るデジタルアンプ搭載装置によれば、電源電圧監視手段、入力最大振幅規定手段およびリミッタ手段を備えた簡易な構成からなる制御手段によって、デジタルアンプに入力される入力信号の振幅をさらに高精度に制御することができる結果、クリップの発生をさらに確実に防止することができるとともに、製造コストおよび部品点数を削減することができる。
【0023】
さらに、本発明に係るデジタルアンプ搭載装置によれば、車載用のオーディオ機器において、走行状態やエアコンのかかり具合などによって電源電圧に時間的な変動が生じたとしても、制御手段により、デジタルアンプに入力される信号の振幅が、デジタルアンプによる増幅後に電源電圧を超えないような振幅になるように制御することができる結果、車載用のオーディオ機器におけるクリップの発生を確実に防止することができ、音質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明に係るデジタルアンプ搭載装置の実施形態について、図1および図2を参照して説明する。
【0025】
本実施形態におけるデジタルアンプ搭載装置は、車載用のオーディオ機器に用いられるデジタルアンプ搭載装置とされている。
【0026】
図1に示すように、本実施形態におけるデジタルアンプ搭載装置1は、入力信号をPWM波形によって増幅させることによって電力増幅を行うデジタルアンプ2を有しており、このデジタルアンプ2には、入力端子3の側から、入力信号としての音声信号が入力されるようになっている。
【0027】
デジタルアンプ2の出力側には、LCローパスフィルタ5が接続されており、このLCローパスフィルタ5には、デジタルアンプ2による電力増幅後のデジタル波形の音声信号が入力されるようになっている。
【0028】
そして、LCローパスフィルタ5は、入力された音声信号をアナログ波形の音声信号に変換して出力するようになっている。
【0029】
LCローパスフィルタ5の出力側には、スピーカ6が接続されており、このスピーカ6には、LCローパスフィルタ5から出力されたアナログ波形の音声信号が入力されるようになっている。
【0030】
そして、スピーカ6は、LCローパスフィルタ5の側から入力された音声信号を音声に変換して出力するようになっている。
【0031】
ここで、デジタルアンプ2においても、アナログアンプと同様に、電源電圧に対する入力信号が過大であることによってクリップが生じる虞があるが、デジタルアンプ2はPower ICのようなクリップ検出端子を備えてはいない。
【0032】
そこで、本実施形態においては、クリップ検出端子を備えないデジタルアンプ2においてもクリップを確実に防止するための手段が講ぜられている。
【0033】
すなわち、入力端子3とデジタルアンプ2との間には、デジタルアンプ2に入力される音声信号の振幅が、デジタルアンプ2による増幅後において電源電圧を超えないような振幅になるように制御する制御手段としての制御部7が接続されている。
【0034】
これにより、走行状態やエアコンのかかり具合などによって電源電圧に時間的な変動が生じたとしても、制御部7によって、デジタルアンプ2に入力される音声信号の振幅がデジタルアンプ2による増幅後において電源電圧を超えないような振幅になるように制御することができる。
【0035】
この結果、クリップ検出端子を備えないデジタルアンプ2においても、クリップの発生を確実に防止することができる。
【0036】
さらに、本実施形態において、制御部7は、電源電圧監視手段としての電源電圧モニタ部9と、この電源電圧モニタ部9の出力側に接続された入力最大振幅規定手段としての入力最大振幅規定部10と、この入力最大振幅規定部10の出力側であって入力端子3とデジタルアンプ2との間に接続されたリミッタ手段としてのリミッタ部11とによって簡易に構成されている。
【0037】
電源電圧モニタ部9には、デジタルアンプ搭載装置1の電源電圧が入力されるようになっている。
【0038】
そして、電源電圧モニタ部9は、入力された電源電圧を監視し、電源電圧に変動があった場合には、電源電圧を入力最大振幅規定部10に出力することによって、変動後における電源電圧の電圧値を入力最大振幅規定部10に通知するようになっている。
【0039】
入力最大振幅規定部10は、電源電圧モニタ部9から出力された電源電圧の電圧値に応じて、デジタルアンプ2に入力すべき音声信号の振幅の最大値としての入力最大振幅を規定し、規定した入力最大振幅をリミッタ部11に設定するようになっている
なお、入力最大振幅は、例えば、予め測定された電源電圧と入力最大振幅値との対応表に基づいて一義的に規定するようにしてもよい。そのようにすれば、電源電圧の変動に応じて入力最大振幅を即時に規定することができ、ひいては音声情報を迅速に再生することができる。
【0040】
リミッタ部11には、入力端子3からデジタルアンプ2への入力前における音声信号が入力されるようになっている。
【0041】
リミッタ部11は、この入力された音声信号の振幅が、入力最大振幅規定部10によって規定された入力最大振幅よりも大きいか否かを判定するようになっている。
【0042】
そして、リミッタ部11は、入力された音声信号の振幅が入力最大振幅よりも大きい場合には、デジタルアンプ2に入力される音声信号の振幅を、入力最大振幅よりも低い振幅に減衰させる処理を行うようになっている。
【0043】
より具体的には、リミッタ部11は、図2に示すように、ゲイン調整部12とゲイン設定部13から成り立っており、ゲイン設定部13において入力された音声信号の振幅xが、入力最大振幅よりも大きいか否かの判定を行った上で、入力された音声信号の振幅xが入力最大振幅よりも大きい場合には、ゲイン調整部12によって音声信号に加えられるゲインGnewの値を、処理前のゲインGoldの値よりも予め設定されたゲインダウンステップ値aだけ下げる処理を行うようになっている。
【0044】
一方、ゲイン設定部13は、入力された音声信号の振幅xが、入力最大振幅よりも小さい場合には、ゲインGが初期値0〔dB〕よりも下げられているか否かを判定するようになっている。
【0045】
そして、ゲインGが初期値0〔dB〕よりも下げられている場合には、Gnewの値を、処理前のゲインGoldの値よりも予め定められたゲインアップステップ値bだけ上げる処理を行うことによって、不必要な振幅制限をかけないようにするようになっている。この処理は、特に、リミッタ部11に入力された音声信号の振幅を減衰させ過ぎた場合に有効な処理となる。
【0046】
したがって、電源電圧モニタ部9によって電源電圧の変動を常時監視することができ、かつ、入力最大振幅規定部10によって電源電圧の変動に応じた好適な入力最大振幅を規定することができ、さらに、リミッタ部11によって、デジタルアンプ2に入力される音声信号の振幅が、入力最大振幅規定部10によって規定された入力最大振幅を超えない値に制御することができる。
【0047】
これにより、簡易な構成によってデジタルアンプ2に入力される音声信号の制御をさらに高精度に行うことができ、この結果、クリップの発生をさらに確実に防止することができる。
【0048】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0049】
本実施形態において、音楽等の音声情報の再生を開始すると、入力端子3を介してデジタルアンプ搭載装置1に音声信号が入力され、入力された音声信号は、さらに、制御部7のリミッタ部11に入力される。
【0050】
一方、電源電圧モニタ部9には、電源電圧が入力され、電源電圧モニタ部9は、入力された電源電圧を監視して、電源電圧に変動が生じた場合には、電源電圧を入力最大振幅規定部10に出力することによって変動後における電源電圧の電圧値を入力最大振幅規定部10に通知する。
【0051】
次いで、入力最大振幅規定部10は、電源電圧モニタ部9によって出力された電源電圧の電圧値に対応した入力最大振幅を規定し、規定した入力最大振幅をリミッタ部11に設定する。
【0052】
次いで、リミッタ部11は、図2に示すように、入力された音声信号の振幅xが入力最大振幅よりも大きいか否かを判定する。
【0053】
この判定において、入力された音声信号の振幅xが入力最大振幅よりも大きい場合には、リミッタ部11は、音声信号に加えられるゲインGnewの値を、処理前のゲインGoldの値よりも予め設定されたゲインダウンステップ値aだけ下げることによって、音声信号の振幅を入力最大振幅よりも低い振幅に減衰させる処理を行う。
【0054】
これにより、デジタルアンプ2に入力される音声信号の振幅が、デジタルアンプ2による増幅後において電源電圧を超えないような振幅になるように制御される。
【0055】
そして、リミッタ部11は、振幅を減衰させた音声信号をデジタルアンプに入力する処理を行う。
【0056】
一方、前記判定において、入力された音声信号の振幅xが入力最大振幅よりも小さい場合には、リミッタ部11は、ゲインGが初期値0〔dB〕よりも下げられているか否かを判定する。
【0057】
そして、この判定において、ゲインGが初期値0〔dB〕よりも下げられている場合には、リミッタ部11は、Gnewの値を、処理前のゲインGoldの値よりも予め定められたゲインアップステップ値bだけ上げる処理を行うことによって、音声信号の振幅を増幅させるとともに、この振幅を増幅させた音声信号をデジタルアンプ2に入力する処理を行う。
【0058】
これにより、リミッタ部11による不必要な振幅制限をかけないようにすることができる。なお、この場合においても、デジタルアンプ2に入力される音声信号の振幅は、当然に、デジタルアンプ2による増幅後において電源電圧を超えないような振幅となっている。
【0059】
次いで、リミッタ部11からデジタルアンプ2に音声信号が入力されると、この音声信号は、デジタルアンプ2においてPWM波形によって増幅された後にLCローパスフィルタ5に出力される。
【0060】
次いで、LCローパスフィルタ5に出力された音声信号は、LCローパスフィルタ5においてアナログ波形の音声信号に変換されてスピーカ6に出力される。
【0061】
最後に、スピーカ6に出力された音声信号が、スピーカ6によって音声に変換されて出力されることによって、音声情報の再生が完了する。
【0062】
このとき、音声信号の振幅が制御部7による制御によって電源電圧を超えない値に制御されているため、クリップによる不快なノイズは発生せずに音質に優れた音声情報を再生することができる。
【0063】
したがって、本実施形態によれば、電源電圧に時間的な変動が生じたとしても、制御部7により、デジタルアンプ2に入力される音声信号の振幅が、デジタルアンプ2による増幅後において電源電圧を超えないような振幅になるように制御することができる。
【0064】
この結果、デジタルアンプ2を搭載する場合においても、クリップの発生を確実に防止することができ、音質を向上させることができる。
【0065】
なお、本発明は、前述した実施の形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々の変更が可能である。
【0066】
例えば、本発明は、車載用のオーディオ機器以外のオーディオ機器にも有効に適用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係るデジタルアンプ搭載装置の実施形態を示すブロック図
【図2】本発明に係るデジタルアンプ搭載装置の実施形態において、リミッタ部の構成を処理内容とともに示す説明図
【図3】従来から問題とされていたクリップの状態を模式的に示した図
【符号の説明】
【0068】
1 デジタルアンプ搭載装置
2 デジタルアンプ
7 制御部
9 電源電圧モニタ部
10 入力最大振幅規定部
11 リミッタ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号をデジタル波形により増幅させることによって電力増幅を行うデジタルアンプを備えたデジタルアンプ搭載装置において、
前記デジタルアンプに入力される前記入力信号の振幅が、前記デジタルアンプによる増幅後に電源電圧を超えないような振幅になるように制御する制御手段を備えたことを特徴とするデジタルアンプ搭載装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記電源電圧を監視する電源電圧監視手段と、
この電源電圧監視手段の監視結果に基づいて、前記デジタルアンプに入力される前記入力信号の入力最大振幅を規定する入力最大振幅規定手段と、
この入力最大振幅規定手段によって規定された入力最大振幅よりも前記入力信号の振幅が大きいか否かを判定し、前記入力信号の振幅が前記入力最大振幅よりも大きい場合には、前記入力信号の振幅を前記入力最大振幅よりも低い振幅に減衰させる処理を行うリミッタ手段と
を備えたことを特徴とする請求項1に記載のデジタルアンプ搭載装置。
【請求項3】
車載用のオーディオ機器に用いられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のデジタルアンプ搭載装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−180199(P2006−180199A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371128(P2004−371128)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000101732)アルパイン株式会社 (2,424)
【Fターム(参考)】