説明

デジタル位相比較器およびこれを備えたデジタルPLL回路

【課題】デジタル位相比較器におけるスタートアップ時のキャリブレーションを不要とする。
【解決手段】基準信号を遅延させて遅延基準信号として出力し、遅延量に相当する時間差を有する遅延量信号を出力する手段と、遅延基準信号と発振器出力信号との時間差をデジタル値に変換し第1のデジタル値として出力する手段と、第1の時間量子化器で発生した時間残差を検出し、時間残差に応じた時間差を有する時間残差信号を出力する手段と、基準信号の状態に応じて時間残差信号を出力するか遅延量信号を出力するかを切り替える手段と、時間残差信号の時間差をデジタル値に変換して第2のデジタル値として出力し、遅延量信号の時間差をデジタル値に変換して第3のデジタル値として出力する手段と、第2のデジタル値および前記第3のデジタル値を用いて第1のデジタル値を補正することで小数位相を算出する手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル位相比較器およびデジタルPLL回路に関し、特に位相差を検出してデジタル信号に変換するデジタル位相比較器、および、かかるデジタル位相比較器を備え、デジタルドメインで発振器を制御するデジタルPLL回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PLL(Phase Locked Loop)回路をデジタル構成としたデジタルPLL回路の研究開発が進められている。デジタルPLL回路においては、位相差情報がデジタル値で出力され、検出された位相差情報を元にした制御信号がデジタルループフィルタを介して発振器に入力されることで、周波数の制御が行われる。
【0003】
デジタルPLLにおける位相比較動作においては、カウンタにより発振器の位相を直接カウントすると同時に、時間デジタル変換器(TDC:Time−to−Digital Converter)を用いて発振器の1周期未満の位相を検出する。カウンタの出力は発振器の位相の整数部に相当するため、1LSB(Least Significant Bit)が発振器の1周期分の位相を表す。また、TDCの出力は、カウンタの1LSB未満である発振器の位相の小数部を表す。発振器の位相は、これらの2つの出力を用いてデジタル値化される。
【0004】
周波数設定信号として、従来のアナログ方式PLL回路と同様に、所望の発振器周波数に対する基準信号の周波数の比である分周比が入力される。分周比を基準信号サイクル毎に積算することで所望の発振器位相に変換され、この値とカウンタおよびTDCにより得られた発振器位相との差分をとることにより、位相差情報が得られる。
【0005】
図14は、デジタル位相比較器の一例として、時間デジタル変換器(TDC)の構成を示す図である。図14を参照すると、TDCは、縦列接続されたインバータ等で構成された遅延セル列101とサンプリングラッチ群102とを備えている。遅延セル列101は複数の遅延セル103〜103を含み、サンプリングラッチ群102は複数のラッチ回路105〜105を含む。
【0006】
TDCは、インバータの遅延時間により決定される時間分解能で、発振器の小数位相をデジタル数値化する。このとき、PLLのループ帯域内(インバンド)の位相ノイズは、TDCの時間分解能によって決定される。図14のような構成のTDCにおいて時間分解能を向上させてインバンド位相ノイズを改善するには、より遅延の大きい遅延セル列が必要とされるが、消費電力の増大を招くという問題がある。
【0007】
かかる問題に対し、非特許文献1において、2段階の時間デジタル変換を行うことで消費電力の増加を抑えつつ時間分解能を向上させる構成が記載されている。
【0008】
また、非特許文献2において、インバータの遅延時間のばらつきに起因した時間分解能のばらつきが発生するとTDCの線形性が劣化し、非線形性により位相差出力に周期的なずれが発生し、PLL出力にスプリアスが生じることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Takashi Tokairin, Mitsuji Okada, Masaki Kitsunezuka, Tadashi Maeda, Muneo Fukaishi, “A 2.1−to−2.8GHz All−Digital Frequency Synthesizer with a Time−Windowed TDC,” IEEE ISSCC Dig. Tech. Papers, pp. 470−471, Feb. 2010.
【非特許文献2】Colin Weltin−Wu, Enrico Temporiti, Daniele Baldi, Marco Cusmai, Francesco Svelto, “A 3.5GHz Wideband ADPLL with Fractional Spur Suppression Through TDC Dithering and Feedforward Compensation,” IEEE ISSCC Dig. Tech. Papers, pp. 468−469, Feb. 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以下の分析は、本発明者によってなされたものである。
【0011】
非特許文献2に記載された構成によると、基準信号入力の遅延量をランダムに制御することにより、非線形性に起因した周期性をランダム化してスプリアスを低減する。しかし、基準信号の遅延量をランダム化すると、位相差算出時の誤差が増加し、位相ノイズのフロアレベルの増加を招く。そこで、非特許文献2では、PLLのスタートアップ時に、あらかじめ各遅延量に対するTDCで算出される位相差算出時の誤差をルックアップテーブルに格納し、遅延量の制御信号に応じて位相差算出時の誤差を補正することで、位相ノイズのフロアレベルの劣化を防いでいる。
【0012】
しかしながら、非特許文献2に記載された構成によると、スタートアップ時にルックアップテーブルへ遅延量を格納している。かかる構成によると、長時間のキャリブレーションを要するという問題がある。
【0013】
そこで、スタートアップ時のキャリブレーションが不要なデジタル位相比較器を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一視点に係るデジタル位相比較器は、
遅延制御信号に基づいて遅延量をランダムに調整しつつ基準信号を遅延させて遅延基準信号として出力するとともに、該遅延量に相当する時間差を有する第1および第2の遅延量信号を出力する遅延調整部と、
前記遅延基準信号と発振器出力信号との時間差をデジタル値に変換し、第1のデジタル値として出力する第1の時間量子化器と、
前記第1の時間量子化器で発生した時間残差を検出し、該時間残差に応じた時間差を有する第1および第2の時間残差信号を出力する時間残差検出部と、
前記基準信号の状態に応じて、前記第1および第2の時間残差信号を出力するか、または、前記第1および第2の遅延量信号を出力するかを切り替える選択部と、
前記第1および第2の時間残差信号の時間差をデジタル値に変換して第2のデジタル値として出力するとともに、前記第1および第2の遅延量信号の時間差をデジタル値に変換して第3のデジタル値として出力する第2の時間量子化器と、
前記第3のデジタル値を保持するとともに、前記遅延制御信号に応じて出力する遅延量格納部と、
前記第2のデジタル値および前記第3のデジタル値を用いて、前記第1のデジタル値を補正することにより小数位相を算出する小数位相計算部と、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るデジタル位相比較器によると、スタートアップ時のキャリブレーションが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態に係るデジタル位相比較器の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係るデジタル位相比較器における遅延調整部の構成を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係るデジタル位相比較器における第1時間量子化器の構成を示す図である。
【図4】第1の実施形態に係るデジタル位相比較器における時間残差検出部の構成を示す図である。
【図5】第1の実施形態に係るデジタル位相比較器における選択部の構成を示す図である。
【図6】第1の実施形態に係るデジタル位相比較器における第2時間量子化器の構成を示す図である。
【図7】第1の実施形態に係るデジタル位相比較器の動作を示すタイミングチャートである。
【図8】非線形性があった場合のデジタル位相比較器出力および位相差出力を示す図である。
【図9】第1の実施形態に係るデジタル位相比較器出力および位相差出力を示す図である。
【図10】第2の実施形態に係るデジタル位相比較器における選択部の構成を示す図である。
【図11】第2の実施形態に係るデジタル位相比較器の動作を示すタイミングチャートである。
【図12】第3の実施形態の遅延調整部の構成を示す図である。
【図13】第4の実施形態に係るデジタルPLLの構成を示すブロック図である。
【図14】従来のデジタル位相比較器(TDC)の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
はじめに、本発明の概要について説明する。なお、この概要に付記した図面参照符号は、専ら理解を助けるための例示であり、本発明を図示の態様に限定することを意図するものではない。
【0018】
図1を参照すると、デジタル位相比較器は、遅延制御信号に基づいて遅延量をランダムに調整しつつ基準信号を遅延させて遅延基準信号として出力するとともに、該遅延量に相当する時間差を有する第1および第2の遅延量信号を出力する遅延調整部(11)と、遅延基準信号と発振器出力信号との時間差をデジタル値に変換し、第1のデジタル値として出力する第1の時間量子化器(12)と、第1の時間量子化器(12)で発生した時間残差を検出し、該時間残差に応じた時間差を有する第1および第2の時間残差信号を出力する時間残差検出部(13)と、基準信号の状態に応じて、第1および第2の時間残差信号を出力するか、または、第1および第2の遅延量信号を出力するかを切り替える選択部(15)と、第1および第2の時間残差信号の時間差をデジタル値に変換して第2のデジタル値として出力するとともに、第1および第2の遅延量信号の時間差をデジタル値に変換して第3のデジタル値として出力する第2の時間量子化器(16)と、第3のデジタル値を保持するとともに、遅延制御信号に応じて出力する遅延量格納部(17)と、第2のデジタル値および第3のデジタル値を用いて、第1のデジタル値を補正することにより小数位相を算出する小数位相計算部(18)と、を備えている。
【0019】
図2を参照すると、遅延調整部(11)は、基準信号を順次遅延させる遅延セル列(41)と、遅延制御信号に基づいて、基準信号を順次遅延させた信号のうちの1つを遅延基準信号として選択するセレクタ(42)と、を備えていてもよい。
【0020】
図3を参照すると、第1時間量子化器(12)は、遅延基準信号を順次遅延させるインバータ列(47)と、遅延基準信号を順次遅延させた信号を用いて、発信器出力信号をサンプリングするサンプリングラッチ群(48)と、を備えていてもよい。
【0021】
図4を参照すると、時間残差検出部(13)は、発信器出力信号で遅延基準信号をサンプリングすることにより、第1の時間残差信号を求める発信器エッジ抽出部(53)と、第1のデジタル値に対して所定の論理演算を施すことにより第2の時間残差信号を求めるサンプリングクロックエッジ抽出部(55)と、を備えていてもよい。
【0022】
図5を参照すると、選択部(15)は、基準信号の状態に応じて、第1の時間残差信号または第1の遅延量信号を出力する第1のセレクタ(67)と、基準信号の状態に応じて、第2の時間残差信号または第2の遅延量信号を出力する第2のセレクタ(68)と、を備えていてもよい。
【0023】
図6を参照すると、第2の時間量子化器(16)は、第1のセレクタ(67)から出力された信号を順次遅延させる第1のインバータ列(71)と、第2のセレクタ(68)から出力された信号を順次遅延させる第2のインバータ列(72)と、第2のインバータ列(72)で遅延された信号で第1のインバータ列(71)で遅延された信号をサンプリングする第1および第2のサンプリングラッチ群(73、75)と、を備えていてもよい。
【0024】
図10を参照すると、選択部(31)は、第1の時間量子化器の時間分解能に相当する時間差を有する第1および第2の分解能信号を求め、基準信号の状態に応じて、第1および第2の時間残差信号を出力するか、または、第1の分解能信号と第1の遅延量信号との間の排他的論理和、および、第2の分解能信号と第2の遅延量信号との間の排他的論理和を出力するかを切り替えるようにしてもよい。
【0025】
図12を参照すると、第1および第2の遅延量信号の間の遅延量は、遅延調整部(32)における遅延セル1段分の遅延量であってもよい。
【0026】
図13を参照すると、デジタルPLL(Phase Locked Loop)回路は、上記のデジタル位相比較器を備えていることが好ましい。
【0027】
(実施形態1)
第1の実施形態に係るデジタル位相比較器について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態のデジタル位相比較器の構成を示すブロック図である。図1を参照すると、デジタル位相比較器は、遅延調整部11、第1時間量子化器12、時間残差検出部13、選択部15、第2時間量子化器16、遅延量格納部17、および、小数位相計算部18を備えている。
【0028】
遅延調整部11は、基準信号を受信し、基準信号を遅延させるとともに、遅延量に応じた時間差を有する2つの信号を出力する。遅延調整部11は、基準信号の遅延量を遅延制御信号に基づいて切り替える。
【0029】
第1時間量子化器12は、遅延された基準信号(遅延基準信号)と発振器出力信号との時間差をデジタル値に変換する。
【0030】
時間残差検出部13は、第1時間量子化器12における時間残差を検出し、時間残差に応じた時間差を持つ2つの信号を出力する。
【0031】
選択部15は、基準信号の状態に基づき、時間残差検出部13で得られた第1時間量子化器12における時間残差を表す信号を出力するか、遅延調整部11から得られた遅延量に応じた時間差を持つ信号を出力するかを切り替える。
【0032】
第2時間量子化器16は、選択部15から出力された2つの信号の時間差をデジタル値に変換する。
【0033】
遅延量格納部17は、第2時間量子化器16により得られた遅延制御信号に対応した基準信号の遅延量を格納するとともに、遅延制御信号に対応した遅延量を出力する。
【0034】
小数位相計算部18は、第1時間量子化器12および第2時間量子化器16ならびに遅延量格納部17の出力を用いて発振器の小数位相を計算する。より具体的には、小数位相計算部18は、第1時間量子化器12により得られた発振器出力信号と遅延基準信号との時間差を、第2時間量子化器16により得られた時間残差と、遅延量格納部17により得られた遅延制御信号に対応した基準信号の遅延量を用いて補正し、小数位相を算出する。
【0035】
図2は、遅延調整部11の構成を一例として示す図である。図2を参照すると、遅延調整部11は、遅延セル列41、セレクタ42、および、インバータ45、46を備えている。遅延セル列41は、複数の遅延セル43〜43を含む。
【0036】
遅延セル列41は、基準信号を順次遅延させる。セレクタ42は、遅延制御信号に基づいて信号を選択し、選択した信号を遅延基準信号として出力する。また、遅延調整部11は、インバータ45を介して基準信号から得られた第1遅延量信号と、インバータ46を介して遅延基準信号から得られた第2遅延量信号とを、これらの時間差が遅延量信号に相当する2つの信号として出力する。
【0037】
図3は、第1時間量子化器12の構成の一例を示す図である。図3を参照すると、第1時間量子化器12は、インバータ列47およびサンプリングラッチ群48を備えている。インバータ列47は、複数のインバータ51〜51を含み、サンプリングラッチ群48は、複数のラッチ回路52〜52を含む。
【0038】
サンプリングラッチ群48は、遅延調整部11から出力された遅延基準信号をインバータ列47により順次遅延した信号で、発振器出力信号をサンプルする。第1時間量子化器12によると、インバータ列47の時間分解能で時間デジタル変換が行われる。
【0039】
図4は、時間残差検出部13の構成の一例を示す図である。図4を参照すると、時間残差検出部13は、発振器エッジ抽出部53、サンプリングクロックエッジ抽出部55、および、XOR回路56、57を備えている。発振器エッジ抽出部53は、ラッチ回路58、61を備えている。サンプリングクロックエッジ抽出部55は、AND回路62〜62、63〜63、および、OR回路65、66を備えている。
【0040】
発振器エッジ抽出部53は、発振器出力信号で遅延基準信号をサンプリングすることにより、第1時間残差信号を求める。サンプリングクロックエッジ抽出部55は、第1時間量子化器12の出力に対して所定の論理演算を行うことにより第2時間残差信号を求める。時間残差検出部13によると、第1時間残差信号および第2時間残差信号の時間差が、第1時間量子化器12における時間残差を持つ2つの信号として出力される。
【0041】
図5は、選択部15の構成の一例を示す図である。図5を参照すると、選択部15は、セレクタ67、68を備えている。
【0042】
基準信号がハイレベルの場合には、セレクタ67、68は、それぞれ、時間残差検出部13から出力された第1時間残差信号および第2時間残差信号を、第1選択部出力信号および第2選択部出力信号として出力する。一方、基準信号がローレベルの場合には、セレクタ67、68は、それぞれ、遅延調整部11から出力された第1遅延量信号および第2遅延量信号を、第1選択部出力信号および第2選択部出力信号として出力する。
【0043】
図6は、第2時間量子化器16の構成の一例を示す図である。図6を参照すると、第2時間量子化器16は、第1インバータ列71、第2インバータ列72、第1サンプリングラッチ群73、および、第2サンプリングラッチ群75を備えている。第1インバータ列71は複数のインバータ76〜76を含み、第2インバータ列72は複数のインバータ77〜77を含む。第1サンプリングラッチ群73は複数のラッチ回路78〜78を含み、第2サンプリングラッチ群75は複数のラッチ回路81〜81を含む。
【0044】
第1インバータ列71は第1選択部出力信号を順次遅延させ、第2インバータ列72は、第2選択部出力信号を順次遅延させる。第1サンプリングラッチ群73および第2サンプリングラッチ群75は、それぞれ、第1インバータ列71で遅延された第1選択部出力信号を、第2インバータ列72で遅延された第2選択部出力信号でサンプリングする。これにより、時間デジタル変換が行われる。第1サンプリングラッチ群73は立ち上がりエッジで動作し、第2サンプリングラッチ群75は立ち下がりエッジで動作する。また、第1インバータ列71の遅延時間よりも第2インバータ列72の遅延時間が小さくなるように設定する。このとき、第2時間量子化器16の時間分解能は、第1インバータ列71および第2インバータ列72の遅延時間差となる。
【0045】
図7は、本実施形態1のデジタル位相比較器のタイミングチャートを示す。図7を参照すると、第1時間量子化器12および第2時間量子化器16は、基準信号がハイレベルとなる期間に、それぞれ発振器と基準信号との時間差および時間残差を出力する。一方、基準信号がローレベルとなる期間に、第2時間量子化器16における第1サンプリングラッチ群73から遅延調整部11における遅延量が出力され、遅延量が遅延量格納部17に格納される。
【0046】
小数位相計算部18は、第1時間量子化器12により得られた発振器出力信号と遅延された基準信号との時間差を、第2時間量子化器16により得られた時間残差と、遅延量格納部17により得られた遅延制御信号に対応した基準信号の遅延量を用いて補正し、小数位相を算出する。
【0047】
図8は、非線形性がある場合における、TDC出力および算出される位相差を一例として示す。図8を参照すると、TDCの動作に対して、非線形性が周期的に現れることにより、出力される位相差に周期的な誤差が生じる。この周期的な誤差がPLL出力周波数の周期的な変動となるため、スプリアスが発生する。
【0048】
図9は、本実施形態のデジタル位相比較器における、TDC出力および算出される位相差を一例として示す。図9を参照すると、基準信号の遅延量をランダムに制御することにより、TDC出力および位相差出力に現れる周期性が低減される。一方、遅延量補正前の位相差出力はランダムな変動による位相差出力誤差が発生しており、これが位相ノイズのフロアレベル増加を招く。
【0049】
これに対し、遅延量補正を行うことで位相差の誤差が低減されるため、位相ノイズフロアレベルの劣化が抑制される。このとき、基準信号の状態に応じて、第2時間量子化器16で遅延量を検出することにより、小数位相を算出しながら、補正すべき遅延調整部11の遅延量も算出することができる。したがって、本実施形態のデジタル位相比較器によると、スタートアップ時のキャリブレーションが不要となる。
【0050】
すなわち、本実施形態のデジタル位相比較器によると、遅延調整部11は、第1時間量子化器12に入力される基準信号の遅延量をランダムに調整するとともに、遅延調整部11での遅延量に相当する時間差を持つ2つの信号を抽出する。また、選択部15は、基準信号の状態(ステート)により、第2時間量子化器16への入力信号を、第1時間量子化器12における時間残差とするか、または、遅延調整部11における遅延量とするかを切り替える。また、小数位相計算部18は、時間残差の補正を行うとともに遅延量格納部17に格納された遅延量分の補正も行う。
【0051】
このとき、デジタル位相比較器において小数位相を算出しながら、補正すべき遅延調整部11の遅延量も算出することが可能になり、スタートアップ時のキャリブレーションが不要となる。
【0052】
(実施形態2)
第2の実施形態に係るデジタル位相比較器について、図面を参照して説明する。本実施形態におけるデジタル位相比較器は、第1の実施形態における選択部15を選択部31に置き換えた構成となっている。図10は、本実施形態における選択部31の構成を示す。図10を参照すると、選択部31は、インバータ82〜84、ラッチ回路85、86、XOR回路87、88、および、セレクタ91、92を備えている。
【0053】
インバータ82、83、および、ラッチ回路85、86は、第1時間量子化器12の時間分解能に相当する時間差を持つ第1分解能信号および第2分解能信号を算出する。XOR回路87は遅延調整部11から出力された第1遅延量信号と第1分解能信号との間で排他的論理和演算を行い、XOR回路87は遅延調整部11から出力された第2遅延量信号と第2分解能信号との間で排他的論理和演算を行うことにより、シングルショットのパルスを発生させる。このとき、2つのシングルショットパルスの立ち上がりエッジの時間差が遅延量信号となり、立ち下がりエッジの時間差が分解能信号となる。
【0054】
本実施形態によると、第1時間量子化器12の時間分解能を、第2時間量子化器16で算出し、時間分解能の比を用いて第1および第2のデジタル数値化結果を正規化することが可能になる。したがって、第1時間量子化器12および第2時間量子化器16におけるインバータ列の遅延時間の設計精度への要求が緩和される。
【0055】
図11は、本実施形態のデジタル位相比較器のタイミングチャートである。図11を参照すると、第1時間量子化器12および第2時間量子化器16は、基準信号がハイレベルとなる期間に、それぞれ発振器出力信号と基準信号との時間差および時間残差を出力する。一方、基準信号がローレベルとなる期間に、第2時間量子化器16における第1サンプリングラッチ群73から遅延調整部11における遅延量が出力され、遅延量が遅延量格納部17に格納される。第2サンプリングラッチ群75からは時間分解能比に対応したデジタル数値化結果が出力される。
【0056】
小数位相計算部18は、第1時間量子化器12により得られた発振器出力信号と遅延された基準信号との時間差を、第2時間量子化器16により得られた時間残差と、時間分解能比と、遅延量格納部17により得られた遅延制御信号に対応した基準信号の遅延量を用いて補正し、小数位相を算出する。
【0057】
(実施形態3)
第3の実施形態に係るデジタル位相比較器について、図面を参照して説明する。本実施形態におけるデジタル位相比較器は、第1または第2の実施形態における遅延調整部11を遅延調整部32に置き換えた構成となっている。図12は、本実施形態における遅延調整部32の構成を示す。図12を参照すると、遅延調整部32は、遅延セル列93、セレクタ94、95、および、インバータ96、97を備えている。遅延セル列93は、複数の遅延セル98〜98を含む。
【0058】
遅延量信号を持つ2つの信号として、基準信号と遅延基準信号の代わりに、遅延制御信号に応じて各遅延セル1段分の時間差を持つ2つの信号を出力する。これにより、第2時間量子化器16に入力される遅延量信号の時間差が小さくなるため、第2時間量子化器16のインバータ列71、72およびサンプリングラッチ群73、75の段数を削減することができ、回路面積および消費電力の低減が可能となる。このとき、遅延量格納部17から出力される遅延量としては、得られた遅延セル1段分の時間差に対応した遅延量に、遅延制御信号に対応した遅延セルの段数を掛け合わせた値が出力される。
【0059】
(実施形態4)
第4の実施形態に係るデジタルPLL(Phase Locked Loop)について、図面を参照して説明する。図13は、本実施形態のデジタルPLLの構成を示すブロック図である。図13を参照すると、デジタルPLLは、デジタル位相比較器21、位相差算出部22、発振器制御部23、発振器25、および、整数位相算出部26を備えている。
【0060】
ここで、デジタル位相比較器21として、上記第1ないし第3の実施形態に係るデジタル位相比較器を採用することができる。
【0061】
なお、上記の非特許文献の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素の多様な組み合わせないし選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0062】
11 遅延調整部
12 第1時間量子化器
13 時間残差検出部
15 選択部
16 第2時間量子化器
17 遅延量格納部
18 小数位相計算部
21 デジタル位相比較器
22 位相差算出部
23 発振器制御部
25 発振器
26 整数位相算出部
31 選択部
32 遅延量調整部
41 遅延セル列
42 セレクタ
43〜43 遅延セル
45、46 インバータ
47 インバータ列
48 サンプリングラッチ群
51〜51 インバータ
52〜52 ラッチ回路
53 発振器エッジ抽出部
55 サンプリングクロックエッジ抽出部
56、57 XOR(排他的論理和)回路
58、61 ラッチ回路
62〜62、63〜63 AND(論理積)回路
65、66 OR(論理和)回路
67、68 セレクタ
71 第1インバータ列
72 第2インバータ列
73 第1サンプリングラッチ群
75 第2サンプリングラッチ群
76〜76、77〜77 インバータ
78〜78、81〜81 ラッチ回路
82〜84 インバータ
85、86 ラッチ回路
87、88 XOR回路
91、92 セレクタ
93 遅延セル列
94、95 セレクタ
96、97 インバータ
98〜98 遅延セル
101 遅延セル列
102 サンプリングラッチ群
103〜103 遅延セル
105〜105 ラッチ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遅延制御信号に基づいて遅延量をランダムに調整しつつ基準信号を遅延させて遅延基準信号として出力するとともに、該遅延量に相当する時間差を有する第1および第2の遅延量信号を出力する遅延調整部と、
前記遅延基準信号と発振器出力信号との時間差をデジタル値に変換し、第1のデジタル値として出力する第1の時間量子化器と、
前記第1の時間量子化器で発生した時間残差を検出し、該時間残差に応じた時間差を有する第1および第2の時間残差信号を出力する時間残差検出部と、
前記基準信号の状態に応じて、前記第1および第2の時間残差信号を出力するか、または、前記第1および第2の遅延量信号を出力するかを切り替える選択部と、
前記第1および第2の時間残差信号の時間差をデジタル値に変換して第2のデジタル値として出力するとともに、前記第1および第2の遅延量信号の時間差をデジタル値に変換して第3のデジタル値として出力する第2の時間量子化器と、
前記第3のデジタル値を保持するとともに、前記遅延制御信号に応じて出力する遅延量格納部と、
前記第2のデジタル値および前記第3のデジタル値を用いて、前記第1のデジタル値を補正することにより小数位相を算出する小数位相計算部と、を備えていることを特徴とするデジタル位相比較器。
【請求項2】
前記遅延調整部は、前記基準信号を順次遅延させる遅延セル列と、
前記遅延制御信号に基づいて、前記基準信号を順次遅延させた信号のうちの1つを前記遅延基準信号として選択するセレクタと、を備えていることを特徴とする、請求項1に記載のデジタル位相比較器。
【請求項3】
前記第1時間量子化器は、前記遅延基準信号を順次遅延させるインバータ列と、
前記遅延基準信号を順次遅延させた信号を用いて、前記発信器出力信号をサンプリングするサンプリングラッチ群と、を備えていることを特徴とする、請求項1または2に記載のデジタル位相比較器。
【請求項4】
前記時間残差検出部は、前記発信器出力信号で前記遅延基準信号をサンプリングすることにより、前記第1の時間残差信号を求める発信器エッジ抽出部と、
前記第1のデジタル値に対して所定の論理演算を施すことにより前記第2の時間残差信号を求めるサンプリングクロックエッジ抽出部と、を備えていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のデジタル位相比較器。
【請求項5】
前記選択部は、前記基準信号の状態に応じて、前記第1の時間残差信号または前記第1の遅延量信号を出力する第1のセレクタと、
前記基準信号の状態に応じて、前記第2の時間残差信号または前記第2の遅延量信号を出力する第2のセレクタと、を備えていることを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のデジタル位相比較器。
【請求項6】
前記第2の時間量子化器は、前記第1のセレクタから出力された信号を順次遅延させる第1のインバータ列と、
前記第2のセレクタから出力された信号を順次遅延させる第2のインバータ列と、
前記第2のインバータ列で遅延された信号で前記第1のインバータ列で遅延された信号をサンプリングする第1および第2のサンプリングラッチ群と、を備えていることを特徴とする、請求項5に記載のデジタル位相比較器。
【請求項7】
前記選択部は、前記第1の時間量子化器の時間分解能に相当する時間差を有する第1および第2の分解能信号を求め、前記基準信号の状態に応じて、前記第1および第2の時間残差信号を出力するか、または、該第1の分解能信号と前記第1の遅延量信号との間の排他的論理和、および、該第2の分解能信号と前記第2の遅延量信号との間の排他的論理和を出力するかを切り替えることを特徴とする、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のデジタル位相比較器。
【請求項8】
前記第1および第2の遅延量信号の間の遅延量は、前記遅延調整部における遅延セル1段分の遅延量であることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のデジタル位相比較器。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載のデジタル位相比較器を備えていることを特徴とするデジタルPLL(Phase Locked Loop)回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−109824(P2012−109824A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257454(P2010−257454)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】