説明

トラクタの耕深自動制御装置

【課題】既耕地と未耕地との間に生じた凹部に片側の車輪が落ち込み機体が傾斜した場合に、耕深が一時的に深くなり耕耘跡に盛土が形成される不都合を解消する。
【解決手段】トラクタの制御装置8は、走行機体1に連結した耕耘装置3を、その深さセンサ15の検出値が深さ設定器17によって設定される耕深目標値となるように所定の不感帯をもって昇降制御する耕深自動制御と、走行機体1の傾斜に伴って耕耘装置3が左右に傾いたとき、耕耘装置3が所定の左右傾斜角に保たれるように耕耘装置3を傾斜制御する傾斜自動制御とを行うにあたり、走行機体1の傾斜に伴って耕耘装置3が左右に傾いて傾斜自動制御が行われる際には、走行機体1の傾斜が発生する前の深さセンサ15の検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタの耕深自動制御装置に関し、特に、耕深自動制御と傾斜自動制御を複合的に実行するトラクタの耕深自動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のトラクタは、機体に連結した耕耘装置を、その耕深センサの検出値が耕深設定器によって設定される耕深目標値となるように所定の不感帯をもって昇降制御する耕深自動制御装置を備えている。また、機体の傾斜に伴って耕耘装置が左右に傾いたとき、耕耘装置が所定の左右傾斜角(例えば、水平)に保たれるように耕耘装置を傾斜制御する傾斜自動制御装置をさらに備え、耕深自動制御と傾斜自動制御を複合的に実行するトラクタも広く普及している(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
ところで、トラクタで圃場の枕地などを耕耘する場合、既耕地と未耕地との間に生じた凹部に片側の車輪が落ち込み機体が傾斜すると、耕耘装置もそれに伴って傾斜することとなり、これによって耕深が一時的に深くなり耕耘跡に盛土が形成されてしまい、仕上がりが悪くなるという問題がある。
【0004】
この場合、耕深自動制御が実行されていても、耕深自動制御においては、ハンチングを防止するために設けられた不感帯によって機体の傾斜に伴う耕深変化が精度良く伝達されないため、実質的な制御が行われないか又は応答遅れを生じてしまい、上記と同様の結果となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5−55081号公報
【特許文献2】特開2007−97493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、機体が傾斜した場合に耕深を深くするものや(例えば、特許文献1参照)、傾斜偏差に応じて耕深制御量を補正するもの(例えば、特許文献2参照)が知られているが、これらのものでは、凹部に片側の車輪が落ち込んだ場合における耕深自動制御の実態や、耕深自動制御における不感帯の影響については考慮されていないため、依然として仕上がりが改善されない惧れがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、機体に連結した耕耘装置を、その耕深センサの検出値が耕深設定器によって設定される耕深目標値となるように所定の不感帯をもって昇降制御するトラクタの耕深自動制御装置において、前記トラクタは、機体の傾斜に伴って耕耘装置が左右に傾いたとき、耕耘装置が所定の左右傾斜角に保たれるように耕耘装置を傾斜制御する傾斜自動制御装置をさらに備え、前記耕深自動制御装置は、機体の傾斜に伴って耕耘装置が左右に傾いて傾斜自動制御が行われる際には、機体の傾斜が発生する前の耕深センサの検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行うことを特徴とする。
また、請求項2の発明は、前記耕深センサの検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯を、耕深設定器の設定値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯に比して狭くすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明とすることにより、機体の傾斜に伴って耕耘装置が左右に傾いて傾斜自動制御が行われる際には、機体の傾斜が発生する前の耕深センサの検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行うものであるから、既耕地と未耕地との間に生じた凹部に片側の車輪が落ち込み、耕深が深くなったことを耕深センサが検出すると、遅れなく耕深を浅くするように制御することができる。このため機体傾斜発生の前後における耕深の変化量を少なくすることができ、盛土を生じず耕耘仕上がりを向上させることができる。
また、請求項2の発明とすることにより、耕深センサの検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯を、耕深設定器の設定値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯に比して狭くすることによって、機体傾斜時における耕深自動制御を敏感にして耕耘仕上がりをさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図3】(X)は、従来例に係る耕深自動制御の作用説明図、(Y)は、本発明の実施形態に係る耕深自動制御の作用説明図である。
【図4】(X)及び(Y)は、本発明の実施形態に係る耕深自動制御の作用説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る耕深自動制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はトラクタの走行機体であって、該走行機体1の後部には、3点式の昇降リンク機構2を介して、ロータリ耕耘式の耕耘装置3が装着されている。そして、耕耘装置3は、左右一対のリフトロッド4を介して昇降リンク機構2を吊持するリフトアーム5(リフトシリンダ6)の油圧作動に基づいて昇降する一方、左右何れかのリフトロッド4に介設されるリフトロッドシリンダ7の油圧作動に基づいて左右傾斜するが、これらの基本構成は何れも従来通りである。
【0011】
図2に示すように、走行機体1には、耕深自動制御装置及び傾斜自動制御装置に兼用される制御装置8が設けられている。制御装置8は、例えば、マイクロコンピュータ(CPU、ROM、RAM、I/Oなどを含む)を用いて構成されており、その入力側には、ポジションレバー(作業機昇降操作レバー)9の操作角を検出するポジションセンサ10、リフトロッドシリンダ7の作動位置を検出するリフトロッドセンサ11、走行機体1の左右傾斜及び/又は前後傾斜の角速度を検出する角速度センサ12、走行機体1の左右傾斜を検出する傾きセンサ13、リフトアーム5の作動位置を検出するリフトアームセンサ14、耕耘装置3に設けられるリヤカバー3aの角度変化に基づいて耕耘装置3の耕深を検出する深さセンサ(耕深センサ)15、図示しないスロットルレバーの操作位置を検出するスロットルセンサ16、耕深自動制御の目標耕深値を設定する深さ設定器(耕深設定器)17、耕深自動制御をON/OFF操作する深さ自動スイッチ18、傾斜自動制御をON/OFF操作する傾き自動スイッチ19、耕耘装置3を手動で右上げ傾斜させる傾き右上スイッチ20、耕耘装置3を手動で右下げ傾斜させる傾き右下げスイッチ21、走行機体1の旋回操作を検出する回動スイッチ22、エンジン回転数を検出するピックアップセンサ23などが接続される一方、出力側には、リフトロッドシリンダ用電磁弁の伸長側ソレノイドバルブ24及び縮小側ソレノイドバルブ25、リフトシリンダ用電磁バルブの上昇側比例制御バルブ26及び下降側比例制御バルブ27などが接続されている。尚、図2には、制御装置8に接続されるランプ類、液晶画面ユニット、液晶画面用操作スイッチなどが示されているが、これらのものは、本発明に直接関係するものではないので、説明を省略する。
【0012】
上記のように構成される制御装置8は、少なくとも耕深自動制御と、傾斜自動制御を実行する。耕深自動制御は、走行機体1に連結した耕耘装置3を、その深さセンサ15の検出値が深さ設定器17によって設定される耕深目標値となるように所定の不感帯をもって昇降制御する自動制御機能であり、傾斜自動制御は、走行機体1の傾斜に伴って耕耘装置3が左右に傾いたとき、耕耘装置3が所定の左右傾斜角(本実施形態では水平)に保たれるように耕耘装置3を傾斜制御する自動制御機能である。
【0013】
ところで、トラクタで圃場の枕地などを耕耘する場合、既耕地と未耕地との間に生じた凹部に片側の車輪Tが落ち込み走行機体1が傾斜すると、耕耘装置3もそれに伴って傾斜することとなり、これによって耕深が一時的に深くなり耕耘跡に盛土が形成されてしまい、仕上がりが悪くなるという問題がある。
【0014】
この場合、耕深自動制御が実行されていても、耕深自動制御においては、ハンチングを防止するために設けられた不感帯によって走行機体1の傾斜に伴う耕深変化が精度良く伝達されないため、図3の(X)の(b)に示すように、実質的な制御が行われないか又は応答遅れを生じてしまい、上記と同様の結果となってしまう。
【0015】
また、リフトロッドシリンダ7による耕耘装置3の傾斜作動は、左右いずれかのリフトロッド4を支点Sとして行われるので、この支点S側の車輪Tが凹部に落ち込んだ場合は、図3の(X)の(b)に示すように、耕耘装置3が傾斜自動制御によって深耕側に傾斜作動されることになるので、耕耘跡に盛土が形成され易い状況になってしまうという問題がある。
【0016】
そこで、本発明の実施形態に係る制御装置8は、走行機体1の傾斜に伴って耕耘装置3が左右に傾いて傾斜自動制御が行われる際には、走行機体1の傾斜が発生する前の深さセンサ15の検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行うように構成されている。このようにすると、既耕地と未耕地との間に生じた凹部に片側の車輪Tが落ち込み、耕深が深くなったことを深さセンサ15が検出すると、遅れなく耕深を浅くするように制御することができる。このため機体傾斜発生の前後における耕深の変化量を少なくすることができ、盛土を生じず耕耘仕上がりを向上させることができる。
【0017】
また、深さセンサ15の検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯βは、深さ設定器17の設定値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯αに比して狭くすることが好ましい(図4の(X)、(Y)参照)。このようにすると、機体傾斜時における耕深自動制御を敏感にして耕耘仕上がりをさらに向上させることができる。
【0018】
次に、本発明の実施形態に係る耕深自動制御の具体的な制御手順について、図5を参照して説明する。
【0019】
図5に示すように、耕深自動制御では、まず、各種のデータ読み込みを行った後(S1)、耕深自動制御がONであるか否かを判断し(S2)、この判断結果がNOである場合は、耕深自動制御処理を行うことなく、上位ルーチンへ復帰する。耕深自動制御がONであると判断した場合は、続いて傾斜自動制御がONであるか否かを判断し(S3)、この判断結果がNOである場合は、耕深目標値に深さ設定器17の設定値をセットすると共に(S4)、不感帯に「α」をセットし(S5)、さらに、記憶検出値(傾斜前の深さセンサ値を記憶保持するための変数)に深さセンサ15の検出値(リヤカバー位置)をセットする(S6)。
【0020】
一方、傾斜自動制御がONであると判断した場合は、続いて傾斜出力中、つまり耕耘装置3が傾斜作動中であるか否かを判断し(S7)、この判断結果がNOの場合は、傾斜自動制御のOFF時と同様にステップS4〜S6を実行するが、判断結果がYESの場合は、耕深目標値に記憶検出値をセットすると共に(S8)、不感帯に「β」をセットする(S9)。これにより、傾斜自動制御が行われる際には、傾斜が発生する前の深さセンサ15の検出値を耕深目標値とし、かつ、通常時よりも狭い不感帯βで耕深自動制御を行うことが可能になる。
【0021】
そして、上記の処理ステップが終わると、深さセンサ15の検出値と耕深目標値の偏差を演算すると共に(S10)、偏差の絶対値が不感帯以下であるか否かを判断し(S11)、この判断結果がYESの場合は、耕耘装置3の昇降を停止させるが(S12)、偏差の絶対値が不感帯よりも大きい場合は、さらに偏差が不感帯よりも大きいか否かを判断し(S13)、この判断結果がYESの場合は、耕耘装置3を上昇させる一方(S14)、NOの場合は、耕耘装置3を下降させる(S15)。
【0022】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、制御装置8は、走行機体1に連結した耕耘装置3を、その深さセンサ15の検出値が深さ設定器17によって設定される耕深目標値となるように所定の不感帯をもって昇降制御する耕深自動制御と、走行機体1の傾斜に伴って耕耘装置3が左右に傾いたとき、耕耘装置3が所定の左右傾斜角に保たれるように耕耘装置3を傾斜制御する傾斜自動制御とを行うにあたり、走行機体1の傾斜に伴って耕耘装置3が左右に傾いて傾斜自動制御が行われる際には、走行機体1の傾斜が発生する前の深さセンサ15の検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行うので、既耕地と未耕地との間に生じた凹部に片側の車輪Tが落ち込み、耕深が深くなったことを深さセンサ15が検出すると、遅れなく耕深を浅くするように制御することができる。このため機体傾斜発生の前後における耕深の変化量を少なくすることができ、盛土を生じず耕耘仕上がりを向上させることができる。
【0023】
また、深さセンサ15の検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯βは、深さ設定器17の設定値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯αに比して狭くしたので、機体傾斜時における耕深自動制御を敏感にして耕耘仕上がりをさらに向上させることができる。
【0024】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されないことは勿論であって、特許請求の範囲を逸脱しない限り、任意の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 走行機体
3 耕耘装置
8 制御装置
15 深さセンサ
17 深さ設定器
α、β 不感帯
T 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体に連結した耕耘装置を、その耕深センサの検出値が耕深設定器によって設定される耕深目標値となるように所定の不感帯をもって昇降制御するトラクタの耕深自動制御装置において、
前記トラクタは、機体の傾斜に伴って耕耘装置が左右に傾いたとき、耕耘装置が所定の左右傾斜角に保たれるように耕耘装置を傾斜制御する傾斜自動制御装置をさらに備え、
前記耕深自動制御装置は、機体の傾斜に伴って耕耘装置が左右に傾いて傾斜自動制御が行われる際には、機体の傾斜が発生する前の耕深センサの検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行うことを特徴とするトラクタの耕深自動制御装置。
【請求項2】
前記耕深センサの検出値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯を、耕深設定器の設定値を耕深目標値として耕深自動制御を行う際の不感帯に比して狭くすることを特徴とする請求項1記載のトラクタの耕深自動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−161976(P2010−161976A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7434(P2009−7434)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】