説明

トラクタ

【課題】排気ガスの排気経路に設けているディーゼルパティキュレートフィルタの再生の効率化。
【解決手段】排気ガス中の粒状化物質PMを捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ46bを備えたディーゼルエンジンEを搭載したトラクタにおいて、ディーゼルパティキュレートフィルタ46bの再生時にトラクタに装着する作業機を駆動する作業機用油圧システム68を駆動ように構成したことを特徴とするトラクタの構成とする。そして、作業機用油圧システム68を駆動してディーゼルパティキュレートフィルタ46bを再生するときにおいては、作業機用油圧システム68のオイルをオイルクーラ69で冷却するように構成したことを特徴とするトラクタの構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)備えたディーゼルエンジンを搭載したトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)を再生させるにあたり、DPFの上流側に排気ガス温度昇温手段(ヒータ)を設けている構成である(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−132306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述のような技術、即ちDPFの上流側にヒータを設けるのみの構成では、排気ガス温度の上昇が速やかに実行されないという欠点がある。さらに、低温時での昇温に時間がかかってしまう。
【0005】
本発明の課題は、前述のような不具合を解消するディーゼルエンジンを搭載したトラクタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は次の構成によって達成される。
すなわち、請求項1記載の発明では、排気ガス中の粒状化物質(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)を備えたディーゼルエンジン(E)を搭載したトラクタにおいて、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の再生時にトラクタに装着する作業機を駆動する作業機用油圧システム(68)を駆動ように構成したことを特徴とするトラクタとしたものである。
【0007】
請求項1では、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の再生時には、作業機用油圧システム(68)を駆動することでエンジンに負荷をかけ、この負荷により排気温度が速やかに上昇する。
【0008】
請求項2記載の発明では、前記作業機用油圧システム(68)を駆動してディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)を再生するときにおいては、作業機用油圧システム(68)のオイルをオイルクーラ(69)で冷却するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のトラクタとしたものである。
【0009】
請求項2では、作業機用油圧システム(68)のオイルをオイルクーラ(69)で冷却することで、オイルを保護できる。
請求項3記載の発明では、ディーゼルエンジンエンジン(E)のシリンダ室(5)への吸気系にヒータ(72)を設け、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の再生時には前記ヒータ(72)に通電して吸気温度を上昇するように構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトラクタとしたものである。
【0010】
請求項3では、吸気系のヒータ(72)に通電して吸気温度を上げることで、排気ガス温度が上昇する。
請求項4記載の発明では、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の上流側の排気系にヒータ(73)を設け、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の再生時には前記ヒータ(73)に通電して排気温度を上昇するように構成したことを特徴とする請求項1から請求項3に記載のトラクタとしたものである。
【0011】
請求項4では、排気系のヒータ(73)に通電することで排気温度が上昇する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述のごとく構成したので、請求項1記載の発明においては、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)再生時に排気ガス温度が速やかに上昇することで、短い時間で効率よく再生できる。
【0013】
請求項2では、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)再生時に駆動する作業機用油圧システム(68)のオイルを保護できる。
請求項3及び請求項4では、排気ガス温度が速やかに上昇し、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)を効率よく再生できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】蓄圧式燃料噴射装置の全体構成図
【図2】制御モードによるエンジン回転数と出力トルクの関係を示す線図
【図3】トラクタの左側面図
【図4】トラクタの平面図
【図5】吸気系と排気系の模式図
【図6】吸気系と排気系の模式図
【図7】吸気系と排気系の模式図
【図8】吸気系と排気系の模式図
【図9】排気ガス温度上昇のタイムチャート図
【図10】ミッションオイル系統図
【図11】排気系の一部の模式図
【図12】DPF出口の断面図
【図13】DPFの組付プレートの側面と正面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1は、蓄圧式燃料噴射装置の全体構成図である。蓄圧式燃料噴射装置は、例えば、多気筒ディーゼル機関に適用されるものであるが、ガソリン機関でもよい。そして、蓄圧式燃料噴射装置は、噴射圧力に相当する高圧燃料を蓄圧するコモンレール1と、このコモンレール1に取り付けられる圧力センサ2と、燃料タンク3より汲み上げた燃料を加圧してコモンレール1に圧送する高圧ポンプ4と、コモンレール1に蓄圧された高圧燃料をエンジンEのシリンダー5内に噴射する燃料噴射ノズル6と、前記高圧ポンプ4と燃料噴射ノズル6等の動作を制御する制御装置(ECU)等から構成される。ECUとは、エンジンコントロールユニットの略称である。
【0016】
このように、コモンレール1は、エンジンEの各シリンダー5へ燃料を噴射するものであり、燃料供給を要求された圧力とするものである。
前記燃料タンク3内の燃料は吸入通路により燃料フィルタ7を介してエンジンEで駆動される高圧ポンプ4に吸入され、この高圧ポンプ4によって加圧された高圧燃料は吐出通路8によりコモンレール1に導かれて蓄えられる。
【0017】
コモンレール1内の高圧燃料は各高圧燃料供給通路9により気筒数分の燃料噴射ノズル6に供給され、ECU100からの指令に基づき、各シリンダーに燃料噴射ノズル6が作動して、高圧燃料がエンジンEの各シルンダー5室内に噴射供給され、各燃料噴射ノズル6での余剰燃料(リターン燃料)は各リターン通路10により共通のリターン通路10へ導かれ、このリターン通路10によって燃料タンク3へ戻される。
【0018】
また、コモンレール1内の燃料圧力(コモンレール圧)を制御するため高圧ポンプ4に圧力制御弁11が設けられており、この圧力制御弁11はECU100からのデューティ信号によって、高圧ポンプ4から燃料タンク3への余剰燃料のリターン通路10の流路面積を調整するものであり、これによりコモンレール1側への燃料吐出量を調整してコモンレール圧を制御することができる。
【0019】
具体的には、エンジン運転条件に応じて目標コモンレール圧を設定し、レール圧力センサ2により検出されるコモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するよう、圧力制御弁11を介してコモンレール圧をフィードバック制御する構成としている。
【0020】
作業車(農作業機)におけるコモンレール1を有するディーゼルエンジンEのECU100は、図2に示すように、回転数と出力トルクの関係において走行モードAと通常作業モードB及び重作業モードCの三種類の制御モードを有する構成としている。
【0021】
走行モードAは、エンジン回転数の変動で出力も変動するドループ制御である。農作業を行わず移動走行する場合に使用するものである。例えば、ブレーキを掛けて走行速度を減速したり停止したりすると、この走行負荷の増大に伴ってエンジン回転数が低下するため走行速度の減速や停止を安全に行うことができるものである。
【0022】
通常作業モードBは、負荷が変動してもエンジン回転数が一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御である。通常の農作業を行う場合に使用するものである。例えば、トラクターであれば耕耘作業時に耕地が固く耕耘刃に抵抗が掛かるときであり、コンバインであれば収穫作業時に収穫物が多く負荷が増大したときでも、出力が変動して回転数を維持するときである。
【0023】
重作業モードCは、通常作業モードBと同様に負荷が変動してもエンジン回転数一定で出力を負荷に応じて変更するアイソクロナス制御に加え、負荷限界近くになると回転数を上昇させて出力を上げる重負荷制御を加えた制御である。特に、負荷限界近くで農作業を行う場合に使用するものである。例えば、トラクターで耕耘作業を行っている際に、特に、固い耕地に遭遇してもエンジン出力が通常の限界を越えて増大するので作業を中断することがなく、効率の良い作業が可能となる。
【0024】
これらの作業モードA,B,Cは、各作業モードA,B,Cを切り替え可能な作業モード切替スイッチの操作、又は農作業車(トラクター、コンバイン、田植機等)の走行変速レバーの変速操作、又は作業クラッチ(トラクターであればロータリであり、コンバインであれば刈取部、脱穀部である)の入り切り操作等によって切り替わるように構成する。
【0025】
ディーゼルエンジンEでは、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、着火遅れを短縮してディーゼルエンジンE特有のノック音を低減し、騒音を低減することが可能な構成としている。
【0026】
このパイロット噴射は、メイン噴射の前に1回又は2回に限定して行われるものであったが、前記コモンレール1の蓄圧式燃料噴射装置を用いることで、エンジンEの状況に応じてパイロット噴射の状態を変化させ、騒音の低減や不完全燃焼による白煙又は黒煙の発生を抑制できるようになる。また、メイン噴射に先立って少量の燃料をパルス的に噴射するパイロット噴射を行うことにより、排ガス中の窒素酸化物の量が減少するようになる。
【0027】
図3は、前述のようなコモンレール1を有するディーゼルエンジンを搭載したトラクターの側面図を示し、図4はその平面図を示している。平面図においては、図3に示すキャビン14を省いた状態を示している。
【0028】
トラクターは、機体の前後部に前輪12、12と後輪13、13を備え、機体の前部に搭載したエンジンEの回転動力をトランスミッションケースT内の変速装置によって適宜減速して、これら前輪12、12と後輪13、13に伝えるように構成している。
【0029】
機体中央であってキャビン14内のハンドルポスト15にはステアリングハンドル16が支持され、その後方にはシート17が設けられている。ステアリングハンドル16の下方には、機体の進行方向を前後方向に切り換える前後進レバー18が設けられている。この前後進レバー18を前側に移動させると機体は前進し、後方へ移動させると後進する構成である。
【0030】
また、ハンドルポスト15を挟んで前後進レバー18の反対側にはエンジン回転数を調節するアクセルレバー25が設けられ、またステップフロア19の右コーナー部には、同様にエンジン回転数を調節するアクセルペダル23と、左右の後輪13、13にブレーキを作動させる左右のブレーキペダル24L、24Rが設けられている。ステップフロア19の左コーナー部にはクラッチペダル20が設けられている構成である。
【0031】
また、主変速レバー26はシート17の左前方部にあり、低速、中速、高速及び中立のいずれかの位置を選択できる副変速レバー27はその後方にあり、さらにその右側にPTO変速レバー28を設けている。さらに、シート17の右側には作業機21(ロータリ等)の高さを設定するポジションレバー29と圃場の耕耘深さを自動的に設定する自動耕深レバー30、これらのレバーの後に作業機21の右上げスイッチ31と右下げスイッチ32が配置され、さらにその後に作業機21の自動水平スイッチ33とバックアップスイッチ34が配置されている。バックアップスイッチ34は、機体が後進時において、作業機21を自動的に上昇させるものである。作業機21は、機体の後方にリンク22で連結されている構成である。トラクターは作業機21を駆動させて機体を走行させることで、圃場内の耕耘等の作業を行なうものである。21aは作業機21を昇降する油圧シリンダーである。
【0032】
図5はエンジンのシリンダー5内への吸気と排気の模式図であり、4サイクルのディーゼルエンジンの実施例である。過給器TBの吸気タービン36により過給された空気は、エアクリーナー35から吸気タービン36、インタークーラー37を通過して吸気マニホールド38からシリンダー5内へ送られる構成である。39は吸気バルブであり、40はピストンである。48はカムでありロッカーアーム49を介して吸排気バルブ39、41を開閉させるものである。
【0033】
シリンダー5内で燃焼した排ガスは、排気バルブ41から排気マニホールド42を通過した後、過給器TBの排気タービン45で過給器TBを駆動して排出される構成である。
このディーゼルエンジンは、排気ガスの一部を吸気側に混入させるためのEGR(排気再循環装置)回路44を有している。EGR回路で排気ガスの一部を吸気側に混入させることで酸素量(O2)を減らして、窒素酸化物Noxの発生を低減させるように構成している。ただし、EGR率が上昇しすぎると、逆に酸素量が少なくなって不完全燃焼になるので、燃焼状態によりEGR率を調節する必要がある。この調節は、EGRバルブ43にて行う。EGR回路44は、後述する後処理装置46下流側の排気管55と過給器TBの吸気タービン36上流側の吸入管56との間を接続している。また、EGR回路44の途中にはEGRクーラ57を設ける構成としている。このEGRバルブ43の開閉具合でシリンダー5内への排気ガスの還元量が変化する。
【0034】
排気タービン45を通過後の排気ガスは、後処理装置46を通過してマフラー50から大気中に排出される。後処理装置46は、酸化触媒(DOC)46aとディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)46bとから構成されている。
【0035】
酸化触媒(DOC)は不燃物室を燃焼させるものであり、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)は粒状化物質(PM)を捕集するためのものである。前記EGRバルブ43と絞り弁47については、ECU100により制御される構成である。後処理装置46はディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)46bのみで構成してもよい、酸化触媒(DOC)を設けると不燃物質が燃焼するので、よりクリーンな排気ガスとなる。
【0036】
DPF46bは、排気ガスの温度が低い状態(低負荷)が長時間続くと、PMが溜まってきて能力の低下が懸念される。そこで、後処理装置46の下手側に絞り弁47を設け、この絞り弁47を絞るとDPF46b内の圧力が高く保持されるので温度も高くなる。これにより、高い温度の影響により、DPF46bの再生が可能となる。即ち、高い温度の排気ガスがDPF46bを通過すると、DPF46b内に存在しているPMが焼き飛ばされることでDPF46bが再生される。
【0037】
DPF46bを再生させるためのDPF再生運転としては、EGRバルブ43と絞り弁47の両方を絞る。そして、燃料噴射タイミングのリタード(遅角)と合わせてDPF46b内のガス温度を上昇させ、DPF46bが再生に入るようにする。これにより、燃料のアフター噴射(排気ガス温度を上昇させるため)が不要となったり、アフター噴射の回数を減らすことができるようになるので、燃料消費量を抑制できて環境にもよい。
【0038】
このようなDPF再生運転を行うための条件としては、後処理装置46の上手側に圧力センサ52を設け、後処理装置46の下手側にも圧力センサ53を設け、この圧力差が所定値以上になるとDPF46b内にPMが蓄積して抵抗となっている状態なので、DPF再生運転を行うようにする。また、圧力センサ52の替わりにDOC46aとDPF46bとの間に圧力センサ58を設ける構成としてもよい。
【0039】
また、DPF再生運転に入った状態が長時間続くと、過熱状態となってしまいDPF46bが損傷してしまう。そこで、後処理装置46の下手側に温度センサ59を設け、この温度センサ59の値が所定値を超えるとDPF再生運転を止めて通常運転に戻るようにする。
【0040】
通常の運転は、EGRバルブ43と絞り弁47を同時に制御してEGR量を適宜コントロールするようにする。特に、絞り弁47を有することで、DPF46b内のガス温度を高く保持することができるようになる。
【0041】
前述のような構成としたことで、吸気スロットルが不要となる。即ち、過給器付き機関では吸気側圧力が高いので、EGRガス量を確保するために排気絞り弁または吸気スロットルを設け、EGRバルブと連動した制御が必要となるが、このようなシステムが不要となる。
【0042】
また、DPF46b下流の排気ガスを取り出すために、過給器TBの汚れに伴う性能劣化を生じることを防止できるようになる。そして、EGRガスはEGRクーラ57で冷却されるため、NOx低減に対して効果が大きくなる。
【0043】
前述したように、DPFの再生運転を行なうDPF強制再生モードにおいては、排気絞り弁47を絞り、ON−OFF制御によってEGRバルブ43を全閉とするように構成する。したがって、排気ガスの還元が行なわれないのでNOが増加し、このNOが酸化触媒(DOC)46aによってNO2に転換され、DPF46bの再生が促進されるようになる。
【0044】
また、DPF46bの強制再生中において、エンジン回転がローアイドルに移行した場合は、前記EGRバルブ43を全開とする。DPF46bの下流側には温度センサ59を設けているので、この温度センサ59による検出値が所定値以上に上昇したことも条件に加えるようにしてもよい。
【0045】
前記絞り弁47を絞ってDPF46bの強制再生を行なう場合において、エンジン回転数を低い回転数にして供給酸素量を増加させるとともに、排気ガス流速が減少することで温度を上昇しやすくしていた。ところが、再生中にエンジン回転数がローアイドルまたはその近傍に変更された場合、供給酸素量の増加と流速の減少により、煤が急速に燃焼してしまう。その結果、温度が急速に上昇してDPF46bが損傷してしまう可能性がある。そこで、最高温度が許容温度を超えないようにする煤を管理する必要がある。
【0046】
このために、温度センサ59が所定値を超えると、エンジン回転数を中速域まで上昇させるように構成する。これにより、排気ガスの流速が速くなるので最高温度が下がり、DPF46bの損傷を防止できるようになる。また、前記温度センサ59の所定値の値を限界値近傍で制御すると、DPF46bの再生を効率よく行なうことができるようになる。
【0047】
前記エンジン回転数を中速域まで上昇させるにあたり、一旦最高回転数まで上昇させ、その後中速域まで減速させるように構成してもよい、これにより、一旦排気ガスが最高速度で流れるので、予熱などでDPF46bが加熱されてしまって閾値の温度を超えてしまうことを防止できるようになる。
【0048】
また、DPF46bの強制再生中において、前述のようにエンジン回転数をローアイドルに移行するときにおいて、ポスト噴射を中断し、その後エンジン回転数を最高回転数まで上昇させ、中速域に移行する段階でポスト噴射を再開する構成とする。これにより、排気ガス温度の急激な上昇が抑制できるので、DPF46bの損傷を防止できるようになる。
【0049】
DPF46b前後の差圧が所定値以上になった場合、作業後に運転者がDPF46bの再生モードを選択スイッチ67で選択することで、自動でDPF46bの再生を行い、DPF46b再生後は自動でエンジンを停止するように構成する。DPF46b前後の差圧を圧力センサ58、53で監視する。エンジン停止直前のDPF46b前後差圧が所定値以上であると、警告ランプやアラームで報知し、運転者は自らDPF46bの再生を行なうスイッチ(図示せず)を操作する。
【0050】
そして、エンジンキーが切りの位置になっても、前記再生モードを選択していることで、エンジンはアイドリング状態で回転を維持し、DPF46bの再生を実行する。DPF46b前後の差圧が所定値以下になると、エンジンを自動で停止する。
【0051】
これにより、作業終了後であっても自動でDPF46bの再生、エンジン停止が可能となるために、運転者は本機から離れて他の作業ができるようになる。
DPF46bの再生を行なうときには、図5に示すように、吸気側の空気を管路61からDPF46bの上流側に送るように構成してもよい。即ち、DPF46bの再生を行なうときには、バルブ60を開いて酸素量の多い過給器TB上流側の吸気側の空気をDPF46bの上流側に送るように構成してもよい。これにより、再生効率が向上するようになる。
【0052】
また、DPF46bの温度を温度センサ62、59で監視し、3段階のステップで再生時の昇温を確認するようにしてもよい。まず、吸気の絞り(図示せず)を行い、この吸気の絞り状態での昇温確認を行う。次に、第一ポスト噴射を行って昇温を確認する。この時点で、DPF46bの前後温度が250度に達していなければ第二ポスト噴射を行っても更なる温度上昇は見込めないので、一旦再生を中断するようにする。もちろん、250度以上であれば第二ポスト噴射を行ってDPF46bの再生を行なうようにする。
【0053】
図5に示しているように、DPF46bの下流側には空燃比センサ63を設けている。ポスト噴射を行なってDPF46bの再生を行なう場合、燃料噴射量が多くなりすぎると燃費が悪化し、少ないと温度が上昇しなくて再生ができなくなる。そこで、空燃比センサ63の値をECU100にフィードバックして噴射量を決める構成とする。これにより、適切な燃費となるとともに、DPF46bの再生の可能となる。また、前記空燃比センサ63の替わりに吸気マニホールド内の圧力値をフィードバックするように構成してもよい。
【0054】
前述のようなDPF46bの再生を行なうにあたり、複数気筒の場合、一部の気筒の燃焼を停止するように構成してもよい。このように、一部気筒の燃焼を停止することで、エンジンのフリクションは同一でもシリンダーあたりの負荷を増やして排気温度を上昇させるようにしてもよい。
【0055】
トラクタに装着する作業機を駆動する作業機用油圧システム68を図5に加えた構成を図6に示している。
走行中にDPF46bの再生を行う自動再生に対して、車体を停車した状態で行う再生を強制再生(手動再生)というが、強制再生はDPF46b内に堆積しているPMの量が自動再生に比べて多い状態であり、これ以上の堆積を許容できない場合である。このような強制再生時には、排気ガス温度を速やかに上昇させる必要がある。そこで、トラクタの作業機を駆動する作業機用油圧システム68を利用する。
【0056】
DPF46bの強制再生を行うときには、作業機用油圧システム68を駆動してエンジンに負荷をかける構成とする。エンジンに負荷が作用すると、排気ガス温度が速やかに上昇するので、強制再生の時間を短くできる。
【0057】
また、この作業機用油圧システム68のオイルを冷却するオイルクーラ69を設けているので、オイルを保護できる。エンジンのラジエータ75の冷却ファン70は電動モータ71で駆動する構成としており、DPF46bの強制再生時にエンジンがアイドリング回転数であっても、電動モータ71に高電流を流すことで高回転を得ることが可能となる。そして、高電流を得るためには発電機に負荷がかかるため、この負荷でも排気ガス温度が速やかに上昇するようになる。
【0058】
また、低温時でのエンジン始動性向上のために吸気系にヒータ72を設けているが、DPF46b強制再生時にも前記ヒータ72に通電して吸気温度を上昇させる構成とする。これにより、排気ガス温度が速やかに上昇するようになる。また、ヒータ72に通電するために発電機に負荷がかかるので、この負荷でも排気ガス温度が速やかに上昇するようになる。
【0059】
また、DPF46bの上流側にヒータ73を設け、このヒータ73で直接排気ガス温度を上昇させるようにしてもよい。このヒータ73を駆動するときにおいても、ヒータ73に通電するために発電機に負荷がかかるので、この負荷でも排気ガス温度が速やかに上昇するようになる。
【0060】
図6で説明したオイルクーラ69は、ラジエータファン70の風を利用しての空冷式であるが、図7では水冷式の構成を説明する。この場合のラジエータ75の冷却ファン76は、電動モータで駆動してもよいしエンジンの駆動力で駆動するように構成してもよい。
【0061】
ラジエータ75内にはエンジンを冷却する冷却水が流れており、エンジン内を流れた後の冷却水は温度が高いため、ラジエータ75へ送られて冷却ファン76で温度が下げられる。温度が下げられた冷却水は再びエンジンへと流れていくが、その一部の冷却水をオイルクーラ74へと送るように構成する。オイルクーラ74には作業機用油圧システム68からオイルが流れてくるので、ここで冷却水とオイルの熱交換が行われてオイルが冷却される。そして、DPF46b再生時には、前述のごとく作業機用油圧システム68が駆動されるが、冷却水を利用して効率良くオイルが冷却可能となる。
【0062】
図8は前述した図7の構成の別構成である。オイルクーラ74をエンジンのシリンダブロックに取り付ける構成としている。これにより、基本構成を変えることなく効率良くオイルを冷却可能となる。
【0063】
前記作業機用油圧システム68のオイルと共用又は別のオイルがトラクタのトランスミッションケースT内に入っている。トランスミッションケースT内の複数のギヤについては、エンジンがアイドリング状態でも回転するものと回転しないものがある。DPF46bを再生する場合、トランスミッションケースT内のオイル温度が高い(オイル粘性:小)と回転数するギヤに抵抗がかからない。即ち、エンジンにかかる負荷が小さくなるので、排気ガス温度の上昇が緩慢になってしまう。そこで、トランスミッションケースT内のオイル温度が高い場合は、DPF46b再生時のエンジンの回転数をアイドリング回転数よりも高くなるように構成(自動的に)する。これにより、排気ガス温度が速やかに上昇する。
【0064】
また、トランスミッションケースT内のオイル温度が所定値よりも低い(オイル粘性:大)場合は、回転数するギヤに充分抵抗がかかるので、DPF46b再生時のエンジンの回転数をアイドリング回転数よりも低くなるように構成(自動的に)する。これにより、燃料使用量を抑制可能となる。図9にはトランスミッションケースT内のオイル温度(高、中、低)により、DPF46b再生時のエンジン回転数の変化とエンジン負荷及び排気ガス温度の変化を具体的に示している。
【0065】
図10はトランスミッションオイルの系統図である。トランスミッションケースT内のオイルを一時的に保管するオイルタンク77を設けている。エンジン始動後にミッション温度センサ80でオイル温度を検出し、この値が所定値よりも低いときにはオイルポンプ78を駆動して、一部のオイルを一時的にオイルタンク77に保管する構成とする。このとき、ギヤ等に影響のない範囲で行う必要がある。
【0066】
トランスミッションケースT内のオイル量は少なくなっているので、オイル温度の上昇が早くなる。そして、オイルタンク77からトランスミッションケースT内への戻り回路の終端にサーモスタット79を設け、トランスミッションケースT内のオイル温度が上昇してくると、サーモスタット79が開いてオイルタンク77内のオイルがトランスミッションケースT内に戻る構成とする。
【0067】
このような構成はDPFの手動再生とは関係なく、寒冷地などの暖気性能向上に適している。暖気性能が向上することで、作業性能が確保できる。また、オイルタンク77内のオイルは、サーモスタット79の開閉で徐々に戻るので、適正な油温となる。
【0068】
図11はDPF46b下流側の排気管55に排気バルブ81を設ける構成である。ECU100にはアクセル開度、車両速度、変速位置(ギヤポジション)の情報が入力され、これに基づいて排気バルブ81を制御する構成である。車両走行時のアクセル開度に応じて排気バルブ開度を変化させることで、DPF46bに流入する排気ガス温度を抑え、走行時にDPF再生を行っている場合の温度維持を行う。これにより、DPF46bに流入する排気ガス温度の変化を小さくし、DPF46bの再生可能温度の維持を行うことができる。また、圧力センサ53で急激な圧力変化の有無を監視している。
【0069】
図12はDPF46bの下流側にテールパイプ82を接続する構成であるが、テールパイプ82の入口部Pにおいては圧力変動のため共鳴音が発生してしまう。そこで、DPF46bの外側外周にケース83を構成して空間部84を構成し、この空間部84と前記入口部Pとの間を連結通路84aで接続する構成とする。これにより、入口部Pにおいて圧力変動が小さくなるので、共鳴音も小さくさる。
【0070】
図13は後処理装置46をエンジンに搭載するときの組付プレート85である。この図13(a)はエンジンを横から見た図であり、図13(b)はエンジンを背面から見た図である。組付プレート85はプレート85aとプレート85bとプレート85cから構成(溶接等)されており、プレート85aはエンジンEのリヤプレートにボルトで固定し、プレート85bはシリンダヘッドにボルトで固定する構成である。プレート85cにはボルト用の通し穴が開けられていて、DPF46bのフランジ部Fにボルトを通してDPF46b本体を固定する構成である。これにより、重量の重いDPFを強固に固定できる。
【0071】
なお、前記した各実施例は、理解を容易にするために、個別または混在させて図示、あるいは説明しているが、これらは夫々種々組合せ可能であり、これらの説明順序・表現等によって、構成・作用等が限定されるものではなく、また、相乗効果を奏する場合も勿論存在する。
【符号の説明】
【0072】
PM 粒状化物質
E ディーゼルエンジンエンジン
5 シリンダ室
46b ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
68 作業機用油圧システム
69 オイルクーラ
72 吸気系ヒータ
73 排気系ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス中の粒状化物質(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)を備えたディーゼルエンジン(E)を搭載したトラクタにおいて、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の再生時にトラクタに装着する作業機を駆動する作業機用油圧システム(68)を駆動ように構成したことを特徴とするトラクタ。
【請求項2】
前記作業機用油圧システム(68)を駆動してディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)を再生するときにおいては、作業機用油圧システム(68)のオイルをオイルクーラ(69)で冷却するように構成したことを特徴とする請求項1に記載のトラクタ。
【請求項3】
ディーゼルエンジンエンジン(E)のシリンダ室(5)への吸気系にヒータ(72)を設け、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の再生時には前記ヒータ(72)に通電して吸気温度を上昇するように構成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のトラクタ。
【請求項4】
ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の上流側の排気系にヒータ(73)を設け、ディーゼルパティキュレートフィルタ(46b)の再生時には前記ヒータ(73)に通電して排気温度を上昇するように構成したことを特徴とする請求項1から請求項3に記載のトラクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−11256(P2013−11256A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145978(P2011−145978)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】