説明

トラニオンシャフトの潤滑構造

【課題】トラニオンシャフトの焼き付きを回避する上で最も重要な潤滑部の下側領域に対し、その車幅方向の一端から他端にかけて偏りなく確実にグリスを注入し得るようにする。
【解決手段】前後にタンデム配置された一対の車軸の間でトラニオンブラケット4により軸支され且つ前後の車軸を支えるリーフスプリングを回動ベース7を介し回動自在に支持するようにしたトラニオンシャフトの潤滑構造に関し、トラニオンブラケット4から車幅方向外側に突き出たトラニオンシャフト3の突出部分と、該突出部分に外嵌装着される回動ベース7との間を潤滑部11とし、該潤滑部11にグリスを注入するためのグリス注入口12を前記回動ベース7の下側部分における車幅方向の外側端に設け、前記潤滑部11から溢れたグリスを抜き出すためのグリス排出口13を前記回動ベース7の下側部分における車幅方向の内側端に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラニオンシャフトの潤滑構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2はトラニオン式サスペンションと称されるタンデムアクスル専用のサスペンションを示すもので、前後にタンデム配置された一対の車軸1,2の間でトラニオンシャフト3をトラニオンブラケット4によりフレーム5に固定し、このトラニオンシャフト3にリーフスプリング6の中央部を回動ベース7(スプリングシート)を介し回動自在に取り付け、このリーフスプリング6の両端部により前記前後の車軸1,2を支えると共に、これら各車軸1,2の前後方向位置を保持するためのアッパロッド8(Vロッド)及びロアロッド9(平行リンクロッド)を備えた構造となっている。
【0003】
ここで、トラニオンブラケット4がフレーム5に固定されている位置には、クロスメンバ10が左右のフレーム5の相互間に渡されて補強されるようにしてあり、このクロスメンバ10と前記各車軸1,2上側との間がアッパロッド8により夫々連結され、前記トラニオンブラケット4の下端部と前記各車軸1,2下側との間がロアロッド9により連結されている。
【0004】
而して、このような構成によれば、前後の車軸1,2の上下動がリーフスプリング6により吸収され、前後方向の力はアッパロッド8及びロアロッド9を介してフレーム5に伝えられ、しかも、リーフスプリング6がトラニオンシャフト3を中心に回動することで良好な段差乗り越しが実現されることになる。
【0005】
斯かるトラニオン式サスペンションにおいては、図3に示す如く、トラニオンシャフト3のトラニオンブラケット4から車幅方向外側へ突き出た突出部分に回動ベース7が回動自在に外嵌装着されるようになっているので、前記トラニオンシャフト3の突出部分と回動ベース7との間を潤滑部11とし、ここにグリスを注入してトラニオンシャフト3の適切な潤滑を図る必要がある。
【0006】
このため、前記回動ベース7の上側部分における車幅方向の中間位置に、前記潤滑部11にグリスを注入するためのグリス注入口12を設けると共に、前記潤滑部11から溢れ出たグリスを抜き出すためのグリス排出口13を前記回動ベース7の上側部分における車幅方向の両端に設け、このグリス排出口13から空気抜きを行いながら前記グリス注入口12に対し圧力をかけてグリスを注入し、各グリス排出口13からグリスが溢れ出るまで該グリスの注入を継続して前記潤滑部11にグリスを行き渡らせるようにしている。
【0007】
より具体的に述べると、トラニオンシャフト3の突出部分と回動ベース7との間の潤滑部11には、グリスを誘導する溝を縦横に備えたオイルメタル14が内装されており、該オイルメタル14の溝に溜められたグリスによりトラニオンシャフト3の突出部分と回動ベース7との間が潤滑されるようになっている。
【0008】
尚、この種のトラニオンシャフト3の潤滑構造に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【特許文献1】実開昭62−178204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図3の如き従来構造では、前記潤滑部11の車幅方向中間位置にグリスを注入するようにしているが、そこから車幅方向の両端へ向かうグリスの浸透性は必ずしも均等にならないため、グリスが車幅方向の一方の側に偏って注入されてしまい易く、他方の側にグリスがなかなか入り込まない事態が起こることがあった。
【0010】
また、従来のグリス注入口12やグリス排出口13は、その点検性を良好に確保する観点から回動ベース7の上側部分に設けられていたため、グリスが前記潤滑部11の上側領域にだけ充填されて、前記潤滑部11の下側領域にグリスが十分に回り込まない事態が懸念された。
【0011】
即ち、トラニオン式サスペンションにより支えられる車体側の荷重は、トラニオンシャフト3を回動ベース7に対し下方へ押し下げるように作用し、前記潤滑部11の下側領域が、トラニオンシャフト3による面圧の最も高く作用する部分となるため、ここに十分な量のグリスを充填しておかないと、トラニオンシャフト3の焼き付きを確実に回避することができない虞れがあった。
【0012】
尚、トラニオンシャフト3の潤滑に用いられるグリスは、非常に粘性の高いものであり、重力の作用で自然に低位に流下していくような性状のものではないため、注入装置を使用したグリスの注入時に確実に必要箇所に充填しておく必要がある。
【0013】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、トラニオンシャフトの焼き付きを回避する上で最も重要な潤滑部の下側領域に対し、その車幅方向の一端から他端にかけて偏りなく確実にグリスを注入し得るようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前後にタンデム配置された一対の車軸の間でトラニオンブラケットにより軸支され且つ前後の車軸を支えるリーフスプリングを回動ベースを介し回動自在に支持するようにしたトラニオンシャフトの潤滑構造であって、トラニオンブラケットから車幅方向外側に突き出たトラニオンシャフトの突出部分と、該突出部分に外嵌装着される回動ベースとの間を潤滑部とし、該潤滑部にグリスを注入するためのグリス注入口を前記回動ベースの下側部分における車幅方向の一端に設け、前記潤滑部から溢れたグリスを抜き出すためのグリス排出口を前記回動ベースの下側部分における車幅方向の他端に設けたことを特徴とするものである。
【0015】
而して、グリス排出口から空気抜きを行いながらグリス注入口から圧力をかけてグリスの注入を行い、グリス排出口からグリスが溢れ出てくるまで該グリスの注入を継続すれば、少なくともトラニオンシャフトの焼き付きを回避する上で最も重要な潤滑部の下側領域について、その車幅方向の一端から他端にかけて偏りなく確実にグリスが注入されることになる。
【0016】
即ち、回動ベースの下側部分における車幅方向の一端に設けられたグリス注入口から注入されたグリスが、回動ベースの下側部分における車幅方向の他端に設けられたグリス排出口から溢れ出たということは、少なくとも潤滑部の下側領域が車幅方向の一端から他端にかけてグリスにより満たされたものと想定できる。
【0017】
また、本発明においては、回動ベースの下側部分における車幅方向の外側端にグリス注入口を配置し且つ車幅方向の内側端にグリス排出口を配置することが好ましく、このようにすれば、アクセス性の良い車幅方向の外側にグリス注入口が配置されることでグリスの注入作業が行い易くなる。
【発明の効果】
【0018】
上記した本発明のトラニオンシャフトの潤滑構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0019】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、トラニオンブラケットから車幅方向外側に突き出たトラニオンシャフトの突出部分と、該突出部分に外嵌装着される回動ベースとの間に形成される潤滑部の下側領域に対し、その車幅方向の一端から他端にかけて偏りなく確実にグリスを注入することができるので、トラニオンシャフトによる面圧の最も高く作用する部分を良好に潤滑することができ、トラニオンシャフトに焼き付きが生じる虞れを未然に回避することができる。
【0020】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、アクセス性の良い車幅方向の外側にグリス注入口が配置されることでグリスの注入作業を行い易くすることができ、グリス注入口を回動ベースの下側部分に設けたことによる作業性の悪化を極力回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、図3と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。ただし、図1に記載のない構成要件については、図2を参照するものとする。
【0023】
図1に示す如く、本形態例のトラニオンシャフト3においては、先に図2で説明したトラニオンシャフト3の場合と略同様に、前後にタンデム配置された一対の車軸1,2(図2参照)の間でトラニオンブラケット4により軸支され、前後の車軸1,2を支えるリーフスプリング6(図2参照)を回動ベース7を介し回動自在に支持するようにしている。
【0024】
ここに図示している例では、車両重量の軽減化を図るためにトラニオンシャフト3の内部を中空構造とした場合を例示しているが、トラニオンブラケット4から車幅方向外側に突き出たトラニオンシャフト3の突出部分と、該突出部分に外嵌装着される回動ベース7との間を潤滑部11としているところは図3の従来例と同様である。
【0025】
ただし、前記潤滑部11にグリスを注入するためのグリス注入口12が、前記回動ベース7の下側部分における車幅方向の外側端に設けられ、前記潤滑部11から溢れたグリスを抜き出すためのグリス排出口13が前記回動ベース7の下側部分における車幅方向の内側端に設けられているところを図3の従来例と異なる特徴として備えている。
【0026】
尚、トラニオンシャフト3の突出部分と回動ベース7との間の潤滑部11には、図3の従来例と同様に、グリスを誘導する溝を縦横に備えたオイルメタル14が内装されており、該オイルメタル14の溝に溜められたグリスによりトラニオンシャフト3の突出部分と回動ベース7との間が潤滑されるようにしてある。
【0027】
而して、このように構成した場合に、グリス排出口13から空気抜きを行いながらグリス注入口12から圧力をかけてグリスの注入を行い、グリス排出口13からグリスが溢れ出てくるまで該グリスの注入を継続すれば、少なくともトラニオンシャフト3の焼き付きを回避する上で最も重要な潤滑部11の下側領域について、その車幅方向の外側端から内側端にかけて偏りなく確実にグリスが注入されることになる。
【0028】
即ち、回動ベース7の下側部分における車幅方向の外側端に設けられたグリス注入口12から注入されたグリスが、回動ベース7の下側部分における車幅方向の内側端に設けられたグリス排出口13から溢れ出たということは、少なくとも潤滑部11の下側領域が車幅方向の外側端から内側端にかけてグリスにより満たされたものと想定できる。
【0029】
また、本形態例においては、回動ベース7の下側部分における車幅方向の外側端にグリス注入口12を配置し且つ車幅方向の内側端にグリス排出口13を配置しているので、アクセス性の良い車幅方向の外側にグリス注入口12が配置されることでグリスの注入作業が行い易くなる。
【0030】
従って、上記形態例によれば、トラニオンブラケット4から車幅方向外側に突き出たトラニオンシャフト3の突出部分と、該突出部分に外嵌装着される回動ベース7との間に形成される潤滑部11の下側領域に対し、その車幅方向の一端から他端にかけて偏りなく確実にグリスを注入することができるので、トラニオンシャフト3による面圧の最も高く作用する部分を良好に潤滑することができ、トラニオンシャフト3に焼き付きが生じる虞れを未然に回避することができる。
【0031】
また、アクセス性の良い車幅方向の外側にグリス注入口12が配置されることでグリスの注入作業を行い易くすることができ、グリス注入口12を回動ベース7の下側部分に設けたことによる作業性の悪化を極力回避することができる。
【0032】
尚、本発明のトラニオンシャフトの潤滑構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
【図2】従来のトラニオン式サスペンションの一例を示す側面図である。
【図3】図2のIII−III矢視の断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 車軸
2 車軸
3 トラニオンシャフト
4 トラニオンブラケット
6 リーフスプリング
7 回動ベース
11 潤滑部
12 グリス注入口
13 グリス排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後にタンデム配置された一対の車軸の間でトラニオンブラケットにより軸支され且つ前後の車軸を支えるリーフスプリングを回動ベースを介し回動自在に支持するようにしたトラニオンシャフトの潤滑構造であって、トラニオンブラケットから車幅方向外側に突き出たトラニオンシャフトの突出部分と、該突出部分に外嵌装着される回動ベースとの間を潤滑部とし、該潤滑部にグリスを注入するためのグリス注入口を前記回動ベースの下側部分における車幅方向の一端に設け、前記潤滑部から溢れたグリスを抜き出すためのグリス排出口を前記回動ベースの下側部分における車幅方向の他端に設けたことを特徴とするトラニオンシャフトの潤滑構造。
【請求項2】
回動ベースの下側部分における車幅方向の外側端にグリス注入口を配置し且つ車幅方向の内側端にグリス排出口を配置したことを特徴とする請求項1に記載のトラニオンシャフトの潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−149724(P2010−149724A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330443(P2008−330443)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】