説明

トルク伝達装置

【課題】トルク変動吸収性能、トルク伝達力及び耐久性を満足し得るトルク伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動側回転体5と従動側回転体6が互いに同心的に配置され、駆動側回転体5に複数の駆動側伝達片54が円周方向所定間隔で形成され、従動側回転体6に前記駆動側伝達片54の間に位置する複数の従動側伝達片65が円周方向所定間隔で形成され、円周方向に互いに対向する駆動側伝達片54と従動側伝達片65の間に、ゴム状弾性材料からなる複数の弾性体7が介在され、この弾性体7は、駆動側回転体5と従動側回転体6の円周方向相対変位量が所定値未満では、円周方向両端7a,7bが駆動側伝達片5及び従動側伝達片6に径方向異なる位置で接触され、前記円周方向相対変位量が所定量以上では、円周方向両端7a,7bが駆動側伝達片54及び従動側伝達片65に径方向対応位置で接触される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の内燃機関から、車室空調装置用コンプレッサ、冷却水ポンプ、あるいはオルタネータ等、各種の補機へトルクを伝達するトルク伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車室空調装置の冷媒コンプレッサ等は、回転軸に設けられたプーリと、内燃機関のクランクプーリとの間に巻き掛けられた無端ベルトを介して、内燃機関の動力が伝達されることにより回転している。ところが、内燃機関は、吸気、圧縮、爆発(膨張)及び排気の各行程を繰り返しながら気筒内でピストンが往復運動し、この往復運動をクランクシャフトの回転運動に変換しているものであるため、クランクシャフトには、回転に伴って周期的なトルク変動を生じている。そして、このようなトルク変動を吸収して伝達トルクの平滑化を図るため、前記冷媒コンプレッサ等の回転軸のプーリには、ダンパ機能を有するトルク伝達装置が用いられる。
【0003】
図5は、従来のトルク伝達装置100をその軸心と直交する平面で切断して示す断面図で、一点鎖線より上側に示される半分が無トルク状態、一点鎖線より下側に示される半分がトルク入力状態を示している。このトルク伝達装置100は、内周に複数のトルク伝達片101aを有する駆動側回転体101と、外周に前記トルク伝達片101aと円周方向に対向する複数のトルク受け片102aを有する従動側回転体102と、各トルク伝達片101aと各トルク受け片102aの間に円周方向交互に介在されたゴム状弾性材料からなる弾性体103,104とを備える。
【0004】
すなわち、このトルク伝達装置100によれば、内燃機関から不図示のプーリを介して駆動側回転体101に入力された駆動トルクは、トルク伝達片101aから、その回転方向に存在する弾性体103を介して従動側回転体102のトルク受け片102aへ伝達され、この従動側回転体102が取り付けられた回転軸へ伝達される。また、弾性体103には、円周方向圧縮ばね定数を低減するための孔部103aが形成されており、駆動側回転体101に入力されたトルク変動は、図5における下半分に示されるように、弾性体103がその孔部103aが潰れるように円周方向圧縮変形を受けることによって吸収されるようになっている(例えば下記の特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−147531号公報
【0005】
しかし、上記従来技術によれば、トルク変動の吸収を弾性体103の圧縮変形によって吸収するものであるため、トルク変動吸収性能を向上させるためにばね定数の線形特性を確保する目的で孔部103aを形成しているが、反面、所要のトルク伝達力を維持するためには、弾性体103の体積をある程度確保する必要があり、したがって、線形特性による良好なトルク変動吸収性能を得られるトルク変動範囲が狭いものであった。
【0006】
また、弾性体103の体積と孔部103aの大きさを十分なものとすれば、ばね定数の線形特性範囲を広くして、トルク変動吸収性能及びトルク伝達力の双方を満足することは可能であるが、この場合は弾性体の円周方向分割数、すなわち弾性体103,104の個数が少なくなるため、一個あたりの弾性体に作用する応力が大きくなり、その耐久性が低下して、回転方向のガタが発生するおそれがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題とするところは、トルク変動吸収性能、トルク伝達力及び耐久性を満足し得るトルク伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係るトルク伝達装置は、駆動側回転体と従動側回転体が互いに同心的に配置され、駆動側回転体に複数の駆動側伝達片が円周方向所定間隔で形成され、従動側回転体に前記駆動側伝達片の間に位置する複数の従動側伝達片が円周方向所定間隔で形成され、円周方向に互いに対向する前記駆動側伝達片と従動側伝達片の間に、ゴム状弾性材料からなる複数の弾性体が介在され、この弾性体は、前記駆動側回転体と従動側回転体の円周方向相対変位量が所定値未満では、円周方向両端が前記駆動側伝達片と従動側伝達片に径方向異なる位置で接触され、前記駆動側回転体と従動側回転体の円周方向相対変位量が所定量以上では、円周方向両端が前記駆動側伝達片と従動側伝達片に径方向対応位置で接触されるものである。
【0009】
すなわち、上記構成によれば、入力トルクの変動によって、駆動側回転体と従動側回転体が円周方向に相対変位した場合に、その変位量が所定値未満では、位置駆動側伝達片と従動側伝達片の間での弾性体へのトルク入力が径方向異なる位置で行われるので、この弾性体が受ける変形は剪断となって、ほぼ線形の剪断ばね領域でトルク伝達を行う。また、前記変位量が所定量以上では、位置駆動側伝達片と従動側伝達片の間での弾性体へのトルク入力が径方向対応位置で行われるので、この弾性体が受ける変形は圧縮となって、ばね定数が非線形的に上昇し、弾性体の過大変形を抑制すると共に、トルク伝達力を確保するものである。
【0010】
請求項2の発明に係るトルク伝達装置は、請求項1に記載の構成において、円周方向に互いに隣り合う弾性体が、駆動側伝達片又は従動側伝達片を跨ぐようにこの弾性体間に形成されたつなぎ部を介して互いに略対称に連結されたものである。
【0011】
請求項3の発明に係るトルク伝達装置は、請求項1に記載の構成において、弾性体に、軸方向両側へ突出した突起部が形成され、この突起部が、駆動側回転体及び従動側回転体の軸方向内側面と接触されたものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明に係るトルク伝達装置によれば、トルク入力による駆動側回転体と従動側回転体の円周方向相対変位が所定量未満では、弾性体が剪断を受ける構造とすることによって、線形ばね特性範囲を広くして優れたトルク変動吸収機能を奏することができ、トルク入力による駆動側回転体と従動側回転体の円周方向相対変位が所定量以上では、弾性体が圧縮を受ける構造とすることによって、大きなトルク伝達力が確保することができる。しかも、円周方向相対変位初期から圧縮となる場合に比較して、弾性体の配置数を多くすることができ、その結果、弾性体の耐久性が向上して、長期間にわたって安定したトルク変動吸収機能及びトルク伝達機能を奏することができる。
【0013】
請求項2の発明に係るトルク伝達装置によれば、請求項1による効果に加え、弾性体の装着性を向上させると共に、弾性体を安定した状態で配置可能となり、しかも、正・逆両回転での特性のチューニングが可能となる。
【0014】
請求項3の発明に係るトルク伝達装置によれば、請求項1による効果に加え、軸方向に対する弾性体の位置決めが可能となり、弾性体と駆動側回転体及び従動側回転体とのクリアランスを確保すると共に、圧縮を受けた時の弾性体の軸方向への逃げを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るトルク伝達装置の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るトルク伝達装置をその軸心を通る平面で切断して示す断面図、図2は、図1におけるII−II’線で切断して示す無トルク状態の断面図、図3は、図2におけるIII−III’線で切断して示す部分断面図、図4は、図1におけるII−II’線で切断して示すトルク入力状態の断面図である。なお、以下の説明において、正面側とは図1における左側のことであり、背面側とは図1における右側のことである。
【0016】
まず図1において、参照符号1は自動車の車室空調装置における可変容量型冷媒コンプレッサのハウジングであり、2はこのハウジング1の軸支持筒1aの内周からハウジング1の内部に挿通され冷媒コンプレッサの内部機構を動作させる回転軸である。そしてこの実施の形態によるトルク伝達装置は、ハウジング1の軸支持筒1aの外周にボールベアリング3を介して回転自在に支持されたプーリ4と、このプーリ4に取り付けられた駆動側回転体5と、この駆動側回転体5の内周側に同心的に配置されると共に回転軸2の軸端に固定された従動側回転体6と、前記駆動側回転体5と従動側回転体6の間に介在された複数の弾性体7とを備える。
【0017】
プーリ4は、外周面にポリV溝41aが形成されたプーリ本体41と、その内周側に形成された径方向部42と、更にその内周側に形成されたボス部43を有し、このボス部43が、ボールベアリング3を介してハウジング1の軸支持筒1aの外周に回転自在に支持されている。プーリ本体41のポリV溝41aにはエンジンのクランクプーリからの駆動力を伝達するためのプーリベルト(図示省略)が、エンジン冷却水循環ポンプやオルタネータ等、他の補機のプーリを経由して巻き掛けられる。
【0018】
駆動側回転体5は、金属又は合成樹脂材で製作され、プーリ4におけるプーリ本体41の内周側かつ径方向部42の正面側に相当する円形凹部4aに配置された環状本体部51と、その正面側の端部から外周側へ円周方向等間隔で形成された複数の突片52と、環状本体部51における背面側の端部から内周側へ延びて従動側回転体6における後述のリム部63の外周面と近接対向されたフランジ部53とを備える。そしてこの駆動側回転体5は、前記突片52がそれぞれボルト8を介してプーリ本体41の正面側の端面41bに緊結されることによって、プーリ4に同心的に取り付けられている。
【0019】
従動側回転体6は、金属又は合成樹脂材で製作されたものであって、駆動側回転体5の内周側に同心的に配置されており、回転軸2の端部2aにスプライン嵌合されると共に軸端の螺子部2bによって軸方向に緊結されたボス部61と、その正面側の端部から外周側へ展開した円盤部62と、その外周部から背面側へ延びて駆動側回転体5における環状本体部51の内周に近接した位置にあるリム部63と、このリム部63の正面端部から外周側へ延びて駆動側回転体5における環状本体部51の内周面と近接対向されたフランジ部64とを備える。
【0020】
図2に示されるように、駆動側回転体5には、環状本体部51の内周面及びフランジ部53の正面から突出した複数の駆動側伝達片54が、円周方向等間隔(図示の例では60度間隔)で形成されている。一方、従動側回転体6には、リム部63の外周面及びフランジ部64の背面から突出した複数の従動側伝達片65が、円周方向等間隔(図示の例では60度間隔)で形成され、それぞれ駆動側伝達片54,54の間に位置している。すなわち、駆動側伝達片54と従動側伝達片65は、円周方向交互に配置されている。
【0021】
弾性体7は、ゴム状弾性材料からなるものであって、円周方向に互いに隣り合う弾性体7が、二個一組として、この弾性体7,7の外周部間に従動側伝達片65を跨ぐように形成されたつなぎ部71を介して、互いに円周方向略対称に連結されている。
【0022】
詳しくは、この弾性体7は、つなぎ部71との連結部と背反する端部(円周方向両端部)7a,7aが、その外径部において駆動側伝達片54,54と接触されており、つなぎ部71の内周側で互いに対向する端部7b,7bが、その内径部において、従動側伝達片65に、その円周方向両側から挟むように接触されている。すなわち、図2に示される無トルク状態では、弾性体7と駆動側伝達片54との間には、内径側に隙間Gが存在し、弾性体7と従動側伝達片65との間には、外径側に隙間Gが存在する。
【0023】
また、各弾性体7には、軸方向両側へ突出した突起部72,72が形成されており、この突起部72,72は、図1及び図3に示されるように、駆動側回転体5におけるフランジ部53の内側面53a及び従動側回転体6におけるフランジ部64の内側面64aと接触されている。なお、前記内側面53a,64aは、請求項3に記載された軸方向内側面に相当する。
【0024】
以上のように構成されたトルク伝達装置によれば、図2に示されるように、つなぎ部71を介して二個一組で互いに円周方向略対称に連結された弾性体7が、前記つなぎ部71で従動側伝達片65を跨ぐように装着されることによって、安定した姿勢が保持され、しかも容易に装着することができる。また、つなぎ部71の両側の弾性体7,7の形状や大きさによって、正・逆回転双方に対する特性のチューニングが可能である。
【0025】
そして、図1に示されるプーリ4は、その外周に巻き掛けられた不図示のベルトを介してエンジンの駆動力が伝達され、例えば図2における時計回りの方向へ回転し、そのトルクは、プーリ4に取り付けられた駆動側回転体5から、つなぎ部71により連結された二個一組の弾性体7,7のうち一方の弾性体7及び従動側回転体6を介して回転軸2へ伝達され、冷媒コンプレッサの内部機構を動作させる。
【0026】
ここで、駆動側回転体5と従動側回転体6は、トルク変動の入力によって、回転に伴って円周方向へ周期的に相対変位するので、二個一組の弾性体7,7のうちトルクが伝達される側の弾性体7は、駆動側回転体5の各駆動側伝達片54と従動側回転体6の各従動側伝達片65との間で円周方向の変形を受ける。
【0027】
そして、通常運転状態での比較的小さなトルク変動に対しては、トルクが伝達される側の弾性体7の端部7a,7bは、隙間G,Gによって、駆動側回転体5の駆動側伝達片54及び従動側回転体6の各従動側伝達片65に対して径方向異なる位置で接触されているので、変形が剪断となる。しかも、この弾性体7の軸方向両端は、突起部72,72のみで駆動側回転体5のフランジ部53の内側面53a及び従動側回転体6のフランジ部64の内側面64aと接触されているので、円周方向に柔軟に剪断変形される。このためほぼ線形の低いばね特性によってトルク変動が吸収され、伝達トルクが平滑化される。
【0028】
また、駆動側回転体5の駆動側伝達片54と弾性体7との間の隙間G、及び従動側回転体6の従動側伝達片65と弾性体7との間の隙間Gは、駆動側回転体5と従動側回転体6の円周方向相対変位に伴って、すなわち弾性体7の変形に伴って変化する。そして、例えば車両走行の加速や減速等によって、伝達トルクの変動が通常の範囲を超えて増大し、駆動側回転体5と従動側回転体6の円周方向相対変位量が所定量以上になると(なお、加速時と減速時では、相対変位方向が逆になる)、図4に示されるように、トルクを受ける側の弾性体7の端部7a,7bは、駆動側伝達片54及び従動側伝達片65とのG,Gがなくなって全面接触状態となる。このため駆動側伝達片54と従動側伝達片65の間での弾性体7へのトルク入力が径方向対応位置で行われるので、この弾性体7が受ける円周方向の変形は圧縮となって、ばね定数が非線形的に上昇し、弾性体7の過大変形を抑制すると共に、トルク伝達力が増大する。
【0029】
なお、上述した実施の形態においては、電磁クラッチを用いない動力伝達装置について説明したが、本発明は、電磁クラッチを備える動力伝達装置や、冷媒コンプレッサ以外の回転機器に用いられる動力伝達装置についても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るトルク伝達装置をその軸心を通る平面で切断して示す断面図である。
【図2】図1におけるII−II’線で切断して示す無トルク状態の断面図である。
【図3】図2におけるIII−III’線で切断して示す部分断面図である。
【図4】図1におけるII−II’線で切断して示すトルク入力状態の断面図である。
【図5】従来のトルク伝達装置100をその軸心と直交する平面で切断して示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
5 駆動側回転体
51 環状本体部
53 フランジ部
53a 内側面
54 駆動側伝達片
6 従動側回転体
61 ボス部
62 円盤部
63 リム部
64 フランジ部
64a 内側面
65 従動側伝達片
7 弾性体
7a,7b 端部
71 つなぎ部
72 突起部
,G 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動側回転体(5)と従動側回転体(6)が互いに同心的に配置され、駆動側回転体(5)に複数の駆動側伝達片(54)が円周方向所定間隔で形成され、従動側回転体(6)に前記駆動側伝達片(54)の間に位置する複数の従動側伝達片(65)が円周方向所定間隔で形成され、円周方向に互いに対向する前記駆動側伝達片(54)と従動側伝達片(65)の間に、ゴム状弾性材料からなる複数の弾性体(7)が介在され、この弾性体(7)は、前記駆動側回転体(5)と従動側回転体(6)の円周方向相対変位量が所定値未満では、円周方向両端(7a,7b)が前記駆動側伝達片(54)及び従動側伝達片(65)に径方向異なる位置で接触され、前記円周方向相対変位量が所定量以上では、円周方向両端(7a,7b)が前記駆動側伝達片(54)及び従動側伝達片(65)に径方向対応位置で接触されることを特徴とするトルク伝達装置。
【請求項2】
円周方向に互いに隣り合う弾性体(7,7)が、駆動側伝達片(54)又は従動側伝達片(65)を跨ぐようにこの弾性体(7,7)間に形成されたつなぎ部(71)を介して互いに略対称に連結されたことを特徴とする請求項1に記載のトルク伝達装置。
【請求項3】
弾性体(7)に、軸方向両側へ突出した突起部(72)を有し、この突起部(72)が、駆動側回転体(5)及び従動側回転体(6)の軸方向内側面(53a,64a)と接触されたことを特徴とする請求項1に記載のトルク伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−232164(P2007−232164A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−57447(P2006−57447)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】