説明

トレーサ供給装置

【課題】発泡スチロールなどの軽量な小球を必要なタイミングで拡散させる技術を提供する。
【解決手段】トレーサ供給装置(20)は、軽量な小球(21A)をトレーサ(21)とし、静電気にて帯電させたトレーサ(21)を保持し、放電することで当該トレーサ(21)を放出させることが可能な装置である。 長手方向に直交する垂直な断面形状を下向き略コ字形として前記トレーサ(21)を保持または放出させるための導電性を有するトレーサ保持部(22)と、 そのトレーサ保持部(22)に近接した電極(23)と、 前記トレーサ保持部(22)と前記電極(23)を帯電させる直流電源(24)と、 その直流電源(24)の電流の制御及び前記トレーサ保持部(22)と電極(23)間の放電を制御する制御部(25)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物の室内などにおける気流の状態を撮影して調査するために被写体となるトレーサを供給するトレーサ供給装置、およびそのトレーサ供給装置を用いた気流調査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般の建物において空調設備を設置した場合、快適な生活環境をつくり出すために安定した空調が求められる。そのために空調設備の換気性能を調査して種々の工夫が行われている。そこで、サッシやドアなどの建具の換気性能、空調設備の換気性能を試験する技術を調査したところ、特許文献1および特許文献2を抽出した。
特許文献1に記載された技術は、大がかりであるものの、もっとも一般的に用いられている環境試験装置であった。
【0003】
また、特許文献2には、『気孔が極めて小さなガス拡散層を通る酸素ガス流や空気流についても可視化できるガス流可視化装置』が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−82731号公報
【特許文献2】特開2007−309829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、建具も空調設備も、部屋の広さや取り付け場所などが多種多様であり、現場に適した試験も必要とされている。その場合、特許文献1に示されるような環境試験装置は使用できない。
また、特許文献2に示されるような技術は、可視化するためのガスを入れたガスボンベなどを持ち込み、所定の場所からそのガスを噴射させる手間が大きく、やはり現場向きの技術ではない。
【0006】
そこで、発泡スチロールの小球を多数準備し、建具の開放部分や空調設備の換気口の近傍から拡散させ、小球がどのように動くかを観察する、という試験を行う場合もあった。 しかし、発泡スチロールの小球を必要なタイミングで拡散させるということについて、統一的な手法がなかった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、発泡スチロールなどの軽量な小球を必要なタイミングで拡散させる技術、およびその技術を用いて気流の状態を調査する簡易的な気流調査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(第一の発明)
本願における第一の発明は、 軽量な小球(21A)をトレーサ(21)とし、静電気にて帯電させたトレーサ(21)を保持し、放電することで当該トレーサ(21)を放出させることが可能なトレーサ供給装置(20)に係る。
すなわち、長手方向に直交する垂直な断面形状を下向き略コ字形として前記トレーサ(21)を保持または放出させるための導電性を有するトレーサ保持部(22)と、 そのトレーサ保持部(22)に近接した電極(23)と、 前記トレーサ保持部(22)と前記電極(23)を帯電させる直流電源(24)と、 その直流電源(24)の電流の制御及び前記トレーサ保持部(22)と電極(23)間の放電を制御する制御部(25)と、を備えたトレーサ供給装置(20)に係る。
【0009】
(用語説明)
「トレーサ」とは、気流が移動する軌跡をとらえるために撮影装置(30)の被写体となるものであり、例えば、発泡スチロールの小球(21A)を用いる。具体的な発泡スチロールの小球の大きさは、約0.01〜3ミリメートル程度である。
【0010】
(作用)
直流電源(24)からトレーサ保持部(22)及び電極(23)に通電されると、トレーサ保持部(22)と電極(23)との間に電荷を帯びるので、小球(21A)のトレーサ(21)に静電気が帯電してトレーサ保持部(22)の断面コ字形の内側に保持される。 室内の気流を実際に調査する時に、制御部(25)によりトレーサ保持部(22)と電極(23)の間の電荷を放電することで、トレーサ保持部(22)に保持されていたトレーサ(21)を一斉に落下させることができる。
落下したトレーサ(21)は、室内の気流に流される。その流される様子を観察することで、気流の流れを把握することができる。たとえば、連続撮影すれば、映像データを取得することができる。
【0011】
(第一の発明のバリエーション1)
第一の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記電極(23)は、棒状もしくはパイプ状で、かつ、前記トレーサ保持部(22)の断面下向き略コ字形の内側の中心部の近傍に位置させたトレーサ供給装置(20)である。
【0012】
(作用)
棒状あるいはパイプ状をなす形状の電極(23)は、トレーサ保持部(22)の断面コ字形の内側に付着したトレーサ(21)を放出して落下させる時に邪魔にならない。
【0013】
(第一の発明のバリエーション2)
第一の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記制御部(25)が制御する給電及び放電を遠隔で制御する制御信号入力部と、 給電を停止させてトレーサ保持部(22)から放出されたトレーサ(21)を連続撮影する撮像部(30)とを備えることとしてもよい。
【0014】
(作用)
室内の気流を実際に調査する時に、遠隔操作で制御信号入力部から制御部(25)に給電及び放電の指令を与えることができるので、実際の作業性が向上する。また、落下したトレーサ(21)が気流に乗って伝搬する状態は撮像部(30)で連続撮影される。
【0015】
(第二の発明)
本願における第二の発明は、 建物(60)の室内(61)に気流(62)を取り入れるための空気取入口(63)から流入する気流(62)を調査するための気流調査装置(10)に係る。
その気流調査装置(10)は、軽量な小球(21A)をトレーサ(21)とし、静電気にて帯電させたトレーサ(21)を保持し、放電することで当該トレーサ(21)を放出させることが可能で前記空気取入口(63)の上方位置に設けたトレーサ供給装置(20)と、 そのトレーサ供給装置(20)から放出されて室内(61)の気流(62)に乗って移動するトレーサ(21)を連続撮影する撮影装置(30)と、 その撮影装置(30)にて撮影された画像データから気流(62)の範囲を探索する探索装置(40)とを備える。
前記トレーサ供給装置(20)は、 その長手方向に直交する垂直な断面形状を下向き略コ字形として前記トレーサ(21)を保持または放出させるための導電性を有するトレーサ保持部(22)と、 そのトレーサ保持部(22)に近接した電極(23)と、 前記トレーサ保持部(22)と前記電極(23)を帯電させる直流電源(24)と、 その直流電源(24)の電流の制御及び前記トレーサ保持部(22)と電極(23)間の放電を制御する制御部(25)と、を備える。
【0016】
(作用)
トレーサ供給装置(20)では、直流電源(24)からトレーサ保持部(22)及び電極(23)に通電すると、トレーサ保持部(22)と電極(23)との間に電荷を帯びるので、トレーサ(21)がトレーサ保持部(22)の断面コ字形の内側に保持される。室内(61)の気流(62)を調査する時は、制御部(25)によりトレーサ保持部(22)と電極(23)の間の電荷を放電することで、トレーサ保持部(22)に保持されていたトレーサ(21)を一斉に落下させることができる。
その落下したトレーサ(21)が気流に乗って室内(61)を伝搬していく状態は撮影装置(30)で連続撮影される。その撮影された画像データは探索装置(40)によりトレーサ(21)の軌跡が解析される。このように、一般の建物(60)の室内(61)に対して簡易的な装置で気流の状態を調査することができる。
【0017】
(第二の発明のバリエーション1)
第二の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記撮影装置(30)は、前記建物(60)に供給される電気のヘルツ数の整数倍または整数分の一のヘルツ数にて連続撮影する構成とすることもできる。
【0018】
(作用)
建物(60)に供給される電気のヘルツ数の整数倍または整数分の一のヘルツ数にて連続撮影するので、撮影装置(30)は一定の電流値で、かつ時間的な等間隔で連続撮影できるため、安定した良好な連続撮影を行うことができる。
【0019】
(第二の発明のバリエーション2)
第二の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記探索装置(40)は、連続撮影された画像から得られた画素毎に最大輝度値を用いて作成された解析用画像でトレーサ(21)の軌跡を探索する構成とすることもできる。
【0020】
(作用)
最大輝度値を用いて作成された解析用画像でトレーサ(21)の軌跡を探索するので、トレーサ(21)に対する解像度が向上する。
【0021】
(第二の発明のバリエーション3)
第二の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記連続撮影された画像は、予め背景差分処理を施すこともできる。
【0022】
(作用)
画像が予め背景差分処理を施していることで、トレーサ(21)に対する解像度が向上する。
【0023】
(第二の発明のバリエーション4)
第二の発明は、以下のようなバリエーションを提供することもできる。
すなわち、 前記室内(61)には、前記トレーサ(21)を撮影するための照明手段(50)を備え、その照明手段(50)は、その照明手段(50)に供給される電気のヘルツ数の整数倍または整数分の一のヘルツ数で照明する構成とすることもできる。
【0024】
(作用)
照明手段(50)に供給される電気のヘルツ数の整数倍または整数分の一のヘルツ数にて連続撮影するので、照明手段(50)は一定の電流値で、かつ時間的な等間隔で照明できるため、安定した良好な連続撮影するために必要な安定した照明を行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
請求項1から請求項3に記載の発明によれば、一般の建物の室内への気流の状態を、複雑な装置や設備を用いることなく、簡易的な装置で効率良く調査することが可能とするようにトレーサを供給するトレーサ供給装置を提供することができた。
【0026】
請求項4から請求項8に記載の発明によれば、一般の建物の室内への気流の状態を、複雑な装置や設備を用いることなく、簡易的な装置で効率良く調査することが可能とする気流調査装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態のトレーサ供給装置並びにそれを用いた気流調査装置を示す概略的な斜視図である。
【図2】図1のトレーサ供給装置並びにそれを用いた気流調査装置を模式的に示した概略的な模式図である。
【図3】図1のトレーサ供給装置を拡大した概略的な斜視図である。
【図4】(a)はトレーサ保持部を斜め下方から視た斜視図で、(b)は通電時のトレーサ保持部の内部でトレーサが付着した状態を示す断面図で、(c)は放電時のトレーサ保持部の内部からトレーサが落下する状態を示す断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、画像内のトレーサの速度並びに軌跡を時系列的に解析して合成画像を作成する過程を示す工程説明図である。
【図6】室内を移動するトレーサの軌跡を三次元的に図示した合成画像である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1及び図2を参照するに、この実施の形態に係るトレーサ供給装置20は、一般の建物60の室内61に気流62を取り入れるための空気取入口63から室内61へ入ってくる気流62の状態を調査するためのトレーサ21を供給する装置であり、前記空気取入口63の上方位置に設けられる。
前記空気取入口63としては、例えば、ドアやサッシなどの建具に付属する空調のための通気口、あるいは空調設備により空調の気流62を通すダクトからの吹き出し口、あるいはドアや窓部64などがある。
【0029】
トレーサ供給装置20は、軽量な小球をトレーサ21とし、そのトレーサ21に静電気を帯電させて保持し、放電することで当該トレーサ21を放出させることを可能とするものであり、例えば通気口や吹き出し口やドアや窓部64などの空気取入口63の上方位置に取り付けられるもので、着脱可能としている。基本的にはトレーサ保持部22と電極23と直流電源24と制御部25とから構成される。
【0030】
なお、トレーサ21とは、気流62が移動する軌跡をとらえるために撮影装置30の被写体となるもので、本実施形態では気流62に乗って移動する大きさの発泡スチロールの小球21Aが多数用いられている。
【0031】
トレーサ保持部22は、その長手方向に直交する垂直な断面形状が下向き略コ字形であり、かつ、前記トレーサ21を保持または放出させるための導電性を有する、例えば導電性の金属材料からなる。その長さが空気取入口63の横方向の全長に亘るように約700〜1000mm程度のもので、人に影響を与えないようにあまり大きな電荷を保持しない程度の大きさである。
【0032】
電極23は、上記のトレーサ保持部22の断面コ字形の内側に近接して対向させるものである。トレーサ保持部22の断面コ字形の内側に付着したトレーサ21を放出して落下させる時に邪魔にならないという点で、例えば棒状あるいはパイプ状をなす形状のものが望ましい。その棒状の電極23は、図2及び図3に示されているように、トレーサ保持部22の断面コ字形の内側の中心部の近傍(ほぼ中央位置)に配置される。なお、図3では、電極23がトレーサ保持部22の長手方向の両端部に固定されているが、トレーサ保持部22と電極23は図示しない絶縁体で導通しないようにしている。
【0033】
上記のトレーサ保持部22と電極23は、図3の回路に示されているように、直流電源24に配線されており、その直流電気によりトレーサ保持部22と電極23を帯電させてその空間に電荷を溜めるコンデンサの機能を有することになる。また、±の電線26の間はトレーサ保持部22と電極23の間の電荷を放電させるための放電用切換スイッチ27が設けられている。
【0034】
制御部25は、直流電源24の電流の制御及び前記トレーサ保持部22と電極23間の放電を制御するものである。すなわち、直流電源24の電流値を制御したり、放電用切換スイッチ27のON、OFFを制御することで、付着するトレーサ21の量を制御したり、トレーサ21を放出する時間的なタイミングを制御する。
【0035】
また、トレーサ供給装置20には、前記制御部25が制御する給電及び放電を遠隔で制御する図示しない制御信号入力部を接続することができる。その制御信号入力部は、例えば、図1及び図2に示すコンピュータ41に設けられており、このコンピュータ41の制御信号入力部から前記制御部25に制御信号を与えるものである。
【0036】
さらに、トレーサ供給装置20には、給電を停止させてトレーサ保持部22から放出されたトレーサ21を連続撮影する撮像部30を設けることができる。その撮像部30は、少なくとも一つのカメラ31で構成されている。図1では2台のカメラ31が図示されているが、室内61内のいくつもの箇所から様々な角度でトレーサ21を撮影することによって、トレーサ21の軌跡をより正確に調査することができる。
【0037】
また、撮像部30は、建物60に供給される電気のヘルツ数の整数倍または整数分の一のヘルツ数にて連続撮影する構成であることが望ましい。これにより、一定の電流値で、かつ時間的な等間隔で連続撮影することができるので、安定した良好な連続撮影を行うことができる。
例えば、関東では電気のヘルツ数は50Hzであるので、その1倍とすれば、連続撮影するヘルツ数は50Hzである。すなわち、1秒間に50回の連続撮影が行われることになる。その連続撮影時の電流値は同じ値である。
一方、電気のヘルツ数の1/2倍とすれば、連続撮影するヘルツ数は25Hzである。すなわち、1秒間に25回の連続撮影が行われることになる。その連続撮影時の電流値は同じ値である。
【0038】
次に、上記のトレーサ供給装置20を用いた気流調査装置10について説明する。
本実施形態の気流調査装置10は、図1ないしは図3に示されているように、基本的には、トレーサ供給装置20と撮影装置30と探索装置40とから構成されている。
撮影装置30は前述したトレーサ供給装置20の撮像部30に該当するので、前述したトレーサ供給装置20並びに撮影装置30についての詳細な説明は省略する。
【0039】
また、探索装置40は、上記の撮影装置30にて撮影された画像データから吹き出し範囲を探索するものであり、本実施形態では画像データが、前述したトレーサ供給装置20のコンピュータ41(制御装置)に送信され、そのコンピュータ41の演算装置によりトレーサ21の軌跡が解析される。演算装置では、例えば、撮影した画像データに基づいて、連続する二枚の画像データ間のモード変化で画像内のトレーサ21の速度並びに軌跡を例えばオプティカルフロー方式で算出することができる。そのオプティカルフロー方式とは、通常、時間的に連続するデジタル画像などの視覚表現の中で物体の動きをベクトルで表したものである。
【0040】
このとき、上記の連続撮影された画像から得られた画素毎に最大輝度値を用いて解析用画像を作製し、その解析用画像でトレーサ21の軌跡を探索することが、トレーサ21に対する解像度が向上するという点で望ましい。また、上記の連続撮影された画像は、予め背景差分処理を施していることで、トレーサ21に対する解像度が向上することになる。
【0041】
また、上述した本実施形態の気流調査装置10に、吹き出し口65から吹き出されたトレーサ21を撮影するための照明手段50をさらに備えることができる。
その照明手段50は、その照明手段50に供給される電気のヘルツ数の整数倍または整数分の一のヘルツ数で照明する構成である。これにより、照明手段50は一定の電流値で、かつ時間的な等間隔で照明できるため、安定した良好な連続撮影するために必要な安定した照明を行うことができる。なお、撮影装置30が前述したように建物60に供給される電気のヘルツ数の整数倍または整数分の一のヘルツ数にて連続撮影する構成である場合は、照明手段50もその撮影装置30のヘルツ数に同期して同じヘルツ数で照明する必要がある。
【0042】
上記構成により、トレーサ供給装置20では、直流電源24からトレーサ保持部22及び電極23に通電されると、トレーサ保持部22と電極23との間に電荷を帯びることになる。この状態でトレーサ保持部22の断面コ字形の内側にトレーサ21としての例えば発泡スチロールの小球21Aを多数投入すると、発泡スチロールの小球21Aに静電気が帯電してトレーサ保持部22の断面コ字形の内側に保持される。そのトレーサ保持部22は、図1及び図3に示されているように空気取入口63としての例えば窓部64の上方位置に取り付けられると、図4(a),(b)に示されているように、多数のトレーサ21が保持された状態となり、落下しない。
【0043】
次に、例えば窓部64を開放し、外気が室内61へ流入した時に、コンピュータ41の制御信号入力部から与えられる制御信号により、放電用切換スイッチ27が短絡するよう制御部25に指令が与えられる。放電用切換スイッチ27が短絡することで、トレーサ保持部22と電極23の間の電荷を放電することになり、電荷が無くなるので、図4(c)に示されているように、トレーサ保持部22に保持されていた多数の小球21Aのトレーサ21は一斉に落下する。
【0044】
その落下したトレーサ21は図1及び図2に示されているように、室内61の気流62に乗って移動することになる。その時、多数の小球21Aのトレーサ21の伝搬状態は複数のカメラ31で連続撮影される。
【0045】
探索装置40では、各カメラ31で撮影された画像データがコンピュータ41(制御装置)に送信され、そのコンピュータ41の演算装置によりトレーサ21の軌跡が解析される。連続する二枚の画像データ間のモード変化で画像内のトレーサ21の速度並びに軌跡が計算されるので、例えば、トレーサ21の各小球21Aが図5(a)の状態から図5(b)の状態に移動するとき、各小球21Aの時間経過毎の画像42が得られる。それらを合成すると図5(c)に示される合成画像43が得られる。
【0046】
また、複数のカメラ31による画像データに基づいてPTV処理をすることで、トレーサ21の伝搬状態を三次元で図示することができる。例えば、図6では室内61におけるトレーサ21の各小球21Aの軌跡が三次元的に図示されており、この合成画像43から気流62の流れの状態を解析することができる。
【0047】
以上のことから、一般の建物60の室内61への気流62の状態を、複雑な装置や設備を用いることなく、簡易的な装置で効率良く調査することが可能となるようにトレーサ21を供給するトレーサ供給装置20、およびそのトレーサ供給装置20を用いた気流調査装置10を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、ドアやサッシなどの建具メーカ、住宅メーカ、空調機や換気扇などメーカ、それらの性能を試験する試験サービス業などにおいて利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0049】
10 気流調査装置
20 トレーサ供給装置 21 トレーサ
21A 小球 22 トレーサ保持部
23 電極 24 直流電源
25 制御部 26 電線
27 放電用切換スイッチ
30 撮像部(撮影装置) 31 カメラ
40 探索装置 41 コンピュータ
42 画像 43 合成画像
50 照明手段
60 建物 61 室内
62 気流 63 空気取入口
64 窓部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽量な小球をトレーサとし、静電気にて帯電させたトレーサを保持し、放電することで当該トレーサを放出させることが可能なトレーサ供給装置であって、
長手方向に直交する垂直な断面形状を下向き略コ字形として前記トレーサを保持または放出させるための導電性を有するトレーサ保持部と、
そのトレーサ保持部に近接した電極と、
前記トレーサ保持部と前記電極を帯電させる直流電源と、
その直流電源の電流の制御及び前記トレーサ保持部と電極間の放電を制御する制御部と
を備えたことを特徴とするトレーサ供給装置。
【請求項2】
前記電極は、棒状もしくはパイプ状で、かつ、前記トレーサ保持部の断面下向き略コ字形の内側の中心部の近傍に位置させたことを特徴とする請求項1に記載のトレーサ供給装置。
【請求項3】
前記制御部が制御する給電及び放電を遠隔で制御する制御信号入力部と、
給電を停止させてトレーサ保持部から放出されたトレーサを連続撮影する撮像部とを備えた請求項1または請求項2のいずれかに記載のトレーサ供給装置。
【請求項4】
建物の室内に気流を取り入れるための空気取入口から流入する気流を調査するための気流調査装置であって、
軽量な小球をトレーサとし、静電気にて帯電させたトレーサを保持し、放電することで当該トレーサを放出させることが可能で前記空気取入口の上方位置に設けたトレーサ供給装置と、
そのトレーサ供給装置から放出されて室内の気流に乗って移動するトレーサを連続撮影する撮影装置と、
その撮影装置にて撮影された画像データから気流の範囲を探索する探索装置とを備え、
前記トレーサ供給装置は、
その長手方向に直交する垂直な断面形状を下向き略コ字形として前記トレーサを保持または放出させるための導電性を有するトレーサ保持部と、
そのトレーサ保持部に近接した電極と、
前記トレーサ保持部と前記電極を帯電させる直流電源と、
その直流電源の電流の制御及び前記トレーサ保持部と電極間の放電を制御する制御部と
を備えたことを特徴とする気流調査装置。
【請求項5】
前記撮影装置は、前記建物に供給される電気のヘルツ数の整数倍または整数分の一のヘルツ数にて連続撮影する構成であることを特徴とする請求項4に記載の気流調査装置。
【請求項6】
前記探索装置は、連続撮影された画像から得られた画素毎に最大輝度値を用いて作成された解析用画像でトレーサの軌跡を探索する構成であることを特徴とする請求項4または請求項5のいずれかに記載の気流調査装置。
【請求項7】
前記連続撮影された画像は、予め背景差分処理を施していることを特徴とする請求項4から請求項6のいずれかに記載の気流調査装置。
【請求項8】
前記室内には、前記トレーサを撮影するための照明手段を備え、その照明手段は、その照明手段に供給される電気のヘルツ数の整数倍または整数分の一のヘルツ数で照明する構成であることを特徴とする請求項4から請求項7のいずれかにのいずれかに記載の気流調査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−230333(P2010−230333A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75261(P2009−75261)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】