説明

トロイダル巻線モータ

【課題】モータを小型化することができるとともに、巻線およびステータを冷却可能なトロイダル巻線モータを提供する。
【解決手段】複数のティース32を有するステータコア25と、ステータコアに対してトロイダル状に巻き回された巻線17と、ステータコアの外周側に、ティースの径方向外側に延出されたティース延長部と、を備えたステータ21と、ティース延長部の外周縁と当接される円環状のハウジング11と、ステータの軸方向一端側に設けられ、巻線に冷媒Qを供給する冷媒供給配管40と、を備えたモータ23であって、冷媒供給配管には、冷媒供給配管に面する側に配された巻線渡り部18およびティース延長部とハウジングとで形成された空間28B内に配された巻線直線部19に対して冷媒を供給する吐出口44が形成され、隣接するティース間には、冷媒受け部材33が軸方向に沿って設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロイダル巻線モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、軸線周りに回転自在に支持されるとともに、永久磁石が配設されたロータと、ロータの周囲に対向配置されるとともに、コイル(巻線)が巻回されたステータとを備えたモータを有する車両用モータユニットが知られている。
また、コイルの巻回方法としては、分布巻き、集中巻きおよびトロイダル巻きが知られている。
【0003】
ステータにコイルを分布巻きで巻回すると、コイルの重なり合う部分が多く、ステータのスロット間を架け渡す渡り部の高さが高くなり、軸方向に長くなってしまう。なお、分布巻きでは、ステータコア内のq軸磁束分布が均等になり、トルクリップルおよび振動を低減することができる。
【0004】
また、ステータにコイルを集中巻きで巻回すると、渡り部の高さは低く抑えることができるが、q軸磁束分布が不均一になり、振動を低減することができない。
【0005】
一方、ステータにコイルをトロイダル巻きで巻回すると、渡り部の高さは集中巻きと略同一の高さに抑えることができ、q軸磁束分布は分布巻きと同様に均等にすることができる。しかしながら、トロイダル巻きでは、コイルがステータの外周側にも配されるため、ステータ外周面とハウジングとの接触面積が小さくなり、コイルおよびステータから発せられる熱を放熱しにくいという問題がある。
そこで、ステータにトロイダル巻きでコイルを巻回した場合でも、ハウジング自体を冷媒配管として用い、コイルおよびステータを冷却することができる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003−514493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1では、ハウジング自体を冷媒配管としているため、ロータとステータとの隙間(ロータ周囲のエアギャップ)に隔壁を設ける必要がある。つまり、隙間を大きくしなければならず、モータが大型化してしまうという問題がある。また、隔壁とハウジングとの間には、冷媒がロータ側に漏れないように強力なシール構造を有しなければならないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、モータを小型化することができるとともに、巻線およびステータを冷却可能なトロイダル巻線モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、円環状に形成され、複数のティース(例えば、実施形態におけるティース32)を有するステータコア(例えば、実施形態におけるステータコア25)と、該ステータコアに対してトロイダル状に巻き回された巻線(例えば、実施形態におけるコイル17)と、前記ステータコアの外周側に、前記ティースの径方向外側に延出されたティース延長部(例えば、実施形態における仕切部31)と、を備えたステータ(例えば、実施形態におけるステータ21)と、該ティース延長部の外周縁と当接される円環状のハウジング(例えば、実施形態におけるモータハウジング11)と、前記ステータの軸方向一端側に設けられ、前記巻線に冷媒(例えば、実施形態における油Q)を供給する冷媒供給配管(例えば、実施形態における油供給配管40)と、を備えたトロイダル巻線モータ(例えば、実施形態におけるモータ23)であって、前記冷媒供給配管には、該冷媒供給配管に面する側に配された巻線渡り部(例えば、実施形態における側面突出部18)および前記ティース延長部と前記ハウジングとで形成された空間(例えば、実施形態における外側スロット28B)内に配された巻線直線部(例えば、実施形態における周面突出部19)に対して前記冷媒を供給する吐出口(例えば、実施形態における吐出口44)が形成され、隣接する前記ティース間には、冷媒受け部材(例えば、実施形態における油受け部材33)が軸方向に沿って設けられていることを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載した発明は、前記冷媒受け部材は、前記ステータの軸方向両端から突出する長さを有していることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載した発明は、前記ステータコアと前記巻線との間にはインシュレータ(例えば、実施形態におけるインシュレータ61)が設けられ、該インシュレータは前記巻線の軸方向両端から突出する長さを有していることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載した発明は、前記ハウジングの軸方向他端側には前記ステータコアと当接される壁部(例えば、実施形態における冷却配管本体部73)が形成されていることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載した発明は、前記壁部における前記ステータが配された側の反対側に、冷媒(例えば、実施形態における冷却水W)が通流可能に構成されていることを特徴としている。
【0014】
請求項6に記載した発明は、前記冷媒供給配管は、前記ステータにおける円環状の中心点(例えば、実施形態における中心点C)よりも上方において前記ステータの外周側から内周側に向かって前記冷媒を供給する外側配管部(例えば、実施形態における外側配管部41)と、前記中心点よりも下方において前記ステータの内周側から外周側に向かって前記冷媒を供給する内側配管部(例えば、実施形態における内側配管部42)と、前記中心点と略同一高さにおいて前記外側配管部と前記内側配管部との間を連接するステータ横断配管部(例えば、実施形態における横断配管部43)と、を有していることを特徴としている。
【0015】
請求項7に記載した発明は、前記ステータ横断配管部において、前記巻線渡り部の側面に対して前記冷媒を供給するように前記吐出口が形成されていることを特徴としている。
【0016】
請求項8に記載した発明は、前記ステータコアの軸方向端面にはフィン(例えば、実施形態におけるフィン83)が形成された放熱部材(例えば、実施形態における放熱部材81)が設けられ、前記フィンは、径方向に沿う方向に形成されていることを特徴としている。
【0017】
請求項9に記載した発明は、前記放熱部材に、前記冷媒供給配管を支持するための支持部(例えば、実施形態における溝部86)が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載した発明によれば、トロイダル状に巻き回された巻線を有するステータの軸方向一端側に冷媒供給配管を設け、巻線渡り部だけでなく巻線直線部にも冷媒を供給することで巻線を効果的に冷却することができる。また、冷媒受け部材を設けることにより、ステータの内周側に配されているロータに冷媒がかかるのを防止することができる。したがって、冷媒がロータにかかることで生じるフリクションを抑制することができる。さらに、冷媒受け部材と隣接するティースとで形成された内側空間を冷媒流路として利用することができるため、内側空間内に配された巻線も効率よく冷却することができる。つまり、ハウジングに冷媒流路を形成する必要がないため、ハウジングを小型化することができ、結果として、モータを小型化することができる。
【0019】
請求項2に記載した発明によれば、冷媒受け部材上を流れ、冷媒受け部材の軸方向端部から流れ落ちる冷媒がロータにかかるのを確実に防止することができる。したがって、ロータにフリクションが生じるのを確実に防止でき、回転効率が低下するのを抑制することができる。
【0020】
請求項3に記載した発明によれば、インシュレータを設け、該インシュレータの軸方向長さを巻線の軸方向両端から突出する長さにすることにより、冷媒供給配管から供給される冷媒を確実に受け入れることができるとともに、冷媒が空間内(巻線が配された空間内)から漏洩するのを防止することができる。したがって、巻線に冷媒を確実に供給することができ、効率よく巻線を冷却することができる。
【0021】
請求項4に記載した発明によれば、ハウジングに壁部を設けることによりステータの軸方向の位置決めを容易にすることができる。また、ステータに発生した熱をハウジング側へ放熱させることができる。したがって、ステータの冷却効率を向上することができるため、モータ効率の向上および連続出力範囲の拡大を図ることができる。
【0022】
請求項5に記載した発明によれば、ハウジング自体が熱交換器としての機能を有するため、ステータに発生した熱をより確実に冷却させることができる。また、巻線を冷却するための冷媒が、ハウジングにおける熱交換機能を有する当該箇所を通過することにより冷媒の冷却効率をさらに向上することができる。したがって、巻線およびステータの冷却効率をさらに向上することができるため、モータ効率の向上および連続出力範囲の拡大を図ることができる。
【0023】
請求項6に記載した発明によれば、巻線に対して上方から冷媒を供給できるように構成したため、巻線に対して確実に冷媒を供給することができる。また、冷媒供給配管の形状を複雑化させることなく実現することができるため、製造コストの上昇を抑制しつつ、巻線を効率よく冷却することができる。
【0024】
請求項7に記載した発明によれば、ステータ横断配管部からも冷媒を供給することで、巻線の冷却効率をさらに向上することができる。
【0025】
請求項8に記載した発明によれば、ステータに生じた熱を放熱部材により効率的に放熱することができる。また、放熱部材のフィンを径方向に沿って形成することにより、冷媒が空間内から漏洩するのを抑制することができる。したがって、巻線に冷媒を確実に供給することができ、効率よく巻線を冷却することができる。
【0026】
請求項9に記載した発明によれば、冷媒供給配管を放熱部材に支持することにより、冷媒供給配管をハウジングなどに支持する場合に比べて生産効率を向上することができる。また、ステータの熱を効率よく放熱する放熱部材に冷媒供給配管を支持することで、放熱部材の熱も冷媒供給配管で吸熱することができ、ステータの冷却効率をさらに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態における車両用モータユニットの概略縦断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】本発明の第一実施形態におけるモータハウジングにステータおよび油供給配管を取り付けた状態の斜視図である。
【図4】図1のB部拡大図である。
【図5】本発明の実施形態における油供給配管の斜視図である。
【図6】本発明の実施形態における油供給配管の正面図である。
【図7】図6のD部拡大図である。
【図8】図3の状態からさらにバスリングを取り付けた状態の斜視図である。
【図9】本発明の実施形態におけるモータハウジングを冷却配管が形成された側から見た斜視図である。
【図10】本発明の実施形態におけるモータハウジングから冷却配管カバーを取り外した状態を示す斜視図である。
【図11】本発明の実施形態における油の通流方向を説明する部分断面図である。
【図12】本発明の実施形態におけるステータの放熱方向を説明する部分断面図である。
【図13】本発明の実施形態における冷却配管本体部の構造を説明する部分斜視図である。
【図14】本発明の第二実施形態における放熱部材の構成を示す部分斜視図である。
【図15】本発明の第二実施形態におけるステータに放熱部材を取り付けた状態を示す部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第一実施形態)
次に、本発明の第一実施形態を図1〜図13に基づいて説明する。なお、本実施形態における各装置の取付方向や位置を示す定義は、車両進行方向を前方とし、車両進行方向に向かって左右方向および上下方向を定義するものとする。
図1は車両用モータユニットの概略構成断面図である。図1に示すように、車両用モータユニット(以下、モータユニットという。)10は、ステータ21およびロータ22を備えたモータ23を収容するモータハウジング11と、モータハウジング11の一方側に締結され、モータ23の出力軸24からの動力を伝達する動力伝達部(不図示)を収容するミッションハウジング12と、モータハウジング11の他方側に締結され、モータ23の回転センサ(不図示)を収容するセンサハウジング13と、を備えている。
【0029】
モータハウジング11の内部はモータ室36として、ミッションハウジング12の内部はミッション室37として、センサハウジング13の内部はセンサ室38として、それぞれ構成されている。
【0030】
モータハウジング11は、モータ23全体を覆うような略円筒形状で形成されている。モータハウジング11とミッションハウジング12との境界部のミッションハウジング12側には、モータ23の出力軸24の一端を回転自在に支持するベアリング26が設けられ、モータハウジング11とセンサハウジング13との境界部のモータハウジング11側には、モータ23の出力軸24の他端を回転自在に支持するベアリング27が設けられている。また、出力軸24に連接されたロータ22の外周面には磁石29が取り付けられている。
【0031】
図2、図3に示すように、ステータ21は、円環状に形成され、複数のティース32を有する板材が積層されたステータコア25と、隣接するティース32,32間に形成されるスロット28に巻回されたコイル17と、を備えている。
具体的には、コイル17は、ステータ21の内側スロット28Aからステータ21の径方向外側に向かい、ステータ21の外周面21cに形成された仕切部31,31で囲まれた外側スロット28Bを出力軸24の軸方向に沿って架け渡されている。つまり、リング状に形成されたコイル17がスロット28ごとに設けられた、所謂トロイダル巻線モータを構成している。なお、仕切部31は、ステータ21のティース32の径方向に延長した位置に形成されている。また、コイル17とステータコア25との間には樹脂で作られたインシュレータ61が配設されている。つまり、ステータコア25にインシュレータ61を取り付け、そこにコイル17を巻回するようになっている。
【0032】
図4に示すように、コイル17が巻回されることにより、ステータ21の軸方向両端面21a,21bから軸方向外方へ突出した側面突出部18が形成されるとともに、ステータ21の外周面21cから径方向外方へ突出した周面突出部19が形成される。なお、インシュレータ61はコイル17の側面突出部18よりも軸方向にさらに突出した長さで形成されている。
【0033】
また、内側スロット28Aにおいて、コイル17が配されたさらに内周側には油受け部材33が設けられている。油受け部材33は、例えば、樹脂や非磁性材で作られた板状部材であり、隣接するティース32,32間に挟持されている。つまり、隣接するティース32,32と、油受け部材33と、で囲まれた空間S1が形成され、その空間S1内に冷却用の油Qが流通できるようになっているとともに、油Qがロータ22側に漏れないように構成されている。このように構成することで、油Qが回転中のロータ22に触れて飛散するのを防止することができる。なお、油受け部材33は、コイル17の側面突出部18よりも軸方向に長く形成されている。また、油受け部材33は、空間S1内を通流している油Qが空間S1内から漏洩したときに、ロータ22に触れてしまう虞があるスロット28のみに設けられている。つまり、出力軸24の回転中心C(図2参照)よりも上方に位置しているスロット28のみに油受け部材33が設けられている。
【0034】
ここで、図2、図3に示すように、ステータ21の軸方向一端側には冷却用の油Qを吐出可能な油供給配管40が設けられている。
【0035】
油供給配管40について詳細に説明する。図5〜図7に示すように、油供給配管40は、ステータ21における円環状の中心点Cよりも上方においてステータ21の外周縁に対応した位置に配される外側配管部41と、中心点Cよりも下方においてステータ21の内周縁(ティース32の先端部に対応した位置)に配される内側配管部42と、中心点Cと略同一高さにおいて外側配管部41と内側配管部42との間を連接する横断配管部43と、を有している。また、油供給配管40の頂部には、ミッションハウジング12内に配されたオイルポンプ45から汲み上げられた油Qを導入する導入配管46が形成されている。なお、オイルポンプ45と導入配管46との間には、流通配管47が設けられている。なお、流通配管47は出力軸24の内部に形成された空洞部62にも接続されており、油Qを供給できるようになっている。
【0036】
また、油供給配管40は、モータハウジング11内周側に周方向に形成された配管支持部51に外側配管部41が当接するように配され、内側配管部42がステータコア25のティース32の略先端部に当接するように廃されている。なお、横断配管部43は、中心点Cと略同一高さに配されているティース32に沿って当接配置されており、外側配管部41と内側配管部42との間を連接している。
【0037】
油供給配管40にはコイル17に対応した位置に、油Qを吐出する吐出口44が複数形成されている。外側配管部41の吐出口44から吐出された油Qは、コイル17の側面突出部18および周面突出部19に対して外周側から内周側に向かって供給され、内側配管部42の突出口44から吐出された油Qは、コイル17の側面突出部18および内側スロット28A内に配されたコイルに対して内周側から外周側に向かって供給される。また、横断配管部43から吐出された油Qはコイル17の側面に供給される。
なお、吐出口44は、油供給配管40の上方に形成される吐出口44の口径が下方に形成される吐出口44の口径よりも大きく形成されている。このようにすることで、下方に形成された吐出口44においても所望の吐出圧が確保され、確実にコイル17に対して油Qを供給することができる。
【0038】
また、図8に示すように、ステータ21の軸方向一端面21a側には円環状のバスリング69が設けられており、コイル17に対して電流を印加できるように構成されている。バスリング69はインシュレータ61に当接するように配されている。
【0039】
次に、図9、図10に示すように、モータハウジング11におけるステータ21の軸方向他端面21b側には、該他端面21bを覆うように冷却水Wが流通可能な冷却配管70が一体成形されている。
【0040】
ここで、図9〜図13に示すように、本実施形態の冷却配管70はモータハウジング11の内周面に沿うように円環状に形成されている。具体的には、冷却配管70はモータハウジング11に一体成形された冷却配管本体部73と、冷却配管本体部73を塞ぐ冷却配管カバー74と、を備えている。
【0041】
冷却配管70は、ステータ21の他端面21bおよびコイル17の側面突出部18を覆うように形成されている。また、隣接するコイル17の側面突出部18,18間に対応する位置に吸熱部71を有している。吸熱部71は、ステータ21の他端面21bと当接するように構成されている。なお、吸熱部71は、冷却配管70の略全周に亘って等間隔に複数形成されている。また、隣接する吸熱部71,71間には冷却水通路72が形成されている。
【0042】
また、冷却配管70の下部には流入口75が設けられているとともに、上部には流出口76が設けられている。つまり、冷却水Wは、流入口75から供給されて、冷却配管70内を通過後、流出口76から排出されるように構成されている。このように冷却水Wを下方から上方へ向けて流通させることで、冷却配管70内に酸素が滞留するのを抑制することができる。なお、流出口76から流出した冷却水Wは、車両に設けられたラジエータ77で冷却され、冷却水ポンプ78を介して再度流入口75から冷却配管70内へ供給され、冷却水Wが循環するようになっている(図1参照)。
【0043】
つまり、トロイダル巻線モータ23における隣接するコイル17の側面突出部18,18間のスペースを冷却水路として有効に利用することで、無駄なスペースをなくし、モータユニット10の小型化を図ることができる。
また、冷却配管70において、吸熱部71と、側面突出部18が形成された箇所に対応した冷却水通路72と、で断面積が異なるため、冷却水Wの流れを積極的に乱流にすることができる。したがって、冷却水Wによる吸熱性能を高めることができる。なお、冷却配管70は、モータハウジング11と一体に形成されていてもよいし、別体で形成されていてもよい。
【0044】
また、図13に示すように、冷却配管本体部73におけるステータ21に面した側に、ステータ21のティース32の先端部と当接する内周当接部80が周方向に沿って略全周に形成されている。内周当接部80が形成された径方向外側に油受け部材33の端部が配されている。このように内周当接部80を形成することで、コイル17に供給された油Qはステータ21の他端面21b側からモータ室36内へ排出されず、全ての油Qが当該箇所で折り返して、内側スロット28A内に配された油受け部材33上に沿って一端面21a側へ導かれる。つまり、内側スロット28A内に配されたコイル17を確実に冷却することができる。
【0045】
上述のようにモータハウジング11と冷却配管70とを一体に形成して、そこにステータ21を圧入固定することができるようにすることで、ステータ21の固定にボルトなどが不要になり、モータユニット10の小型軽量化を図ることができる。
【0046】
続いて、このように構成したモータユニット10のコイル17およびステータ21の冷却方法について説明する。
まず、冷却水の供給源から供給される冷却水Wは、冷却配管70の下部の流入口75から冷却配管70内に供給される。そして、この冷却水Wが、冷却配管70の冷却水通路72および吸熱部71を通過しながら上方へ流れ、コイル17およびステータ21から発せられる熱を吸熱する。冷却配管70の上部に流れてきた冷却水Wは流出口76から排出される。
このとき、冷却配管70は、コイル17およびステータ21と密着するように配されているため、コイル17およびステータ21から発せられる熱を効率よく吸熱することができる。
【0047】
次に、このように構成されたモータ23の製造方法について説明する。
まず、モータハウジング11内にコイル17が巻回されたステータ21を取り付ける。この際、ステータ21の仕切部31をモータハウジング11の内周面に当接させながら圧入固定する。また、モータハウジング11の冷却配管本体部73が形成されていない側からコイル17が巻回されたステータ21を挿入し、冷却配管70の吸熱部71とステータ21の他端面21bとが当接するまでステータ21を挿入することで、ステータ21の軸方向の位置決めがなされる。なお、ステータ21やモータハウジング11に切欠きを設けるか、ノックピンなどを利用してステータ21の位置合わせをするように構成してもよい。
続いて、ステータ21の一端面21a側に油供給配管40を取り付け、その後、ステータ21を覆うようにバスバー69を設けることで、モータ23を製造することができる。
【0048】
なお、ステータ21をモータハウジング11に取り付けた後に樹脂モールドしてもよい。特に、ステータ21を取り付けた後、モータハウジング11ごと樹脂モールドすることにより、微小な隙間を無くすことができ、より効率良くコイル17およびステータ21を冷却することができる。また、ステータ21をより強固に固定することができ、信頼性の高いモータ23を製造することができる。
【0049】
次に、このように構成したモータユニット10のコイル17(およびステータ21)の冷却方法について説明する。
まず、ミッションハウジング12内の冷却用油の供給源から供給される油Qは、モータハウジング11の上部に配された導入配管46から油供給配管40内に供給される。そして、この油Qが、油供給配管40内を流通して適宜吐出口44から吐出される。吐出された油Qは、コイル17の周面突出部19および側面突出部18に供給される。そして、コイル17から発せられる熱を吸熱する。
【0050】
コイル17に供給された油Qは、隣接する仕切部31,31で仕切られた空間(外側スロット28B)内を流通し、ステータ21の他端面21b方向へ熱を吸熱しながら向かう。ステータ21の他端面21b側の側面突出部18まで流通してきた油Qは、折り返してステータ21の内側スロット28A内に配されたコイル17の方へ流通する。コイル17から発せられる熱を吸熱した油Qは最終的にはモータ室36内へ排出されるが、油Qは油受け部材33上に排出された後、油受け部材33の軸方向端部からモータ室36内へと排出される。モータ室36へ排出された冷却油Qは、モータ室36の下部に貯留され、再びオイルポンプ45に汲み上げられて油供給配管40へ循環されるようになっている。なお、ステータ21の他端面21b側まで流れてきた油Qは、冷却配管70によっても冷却されるため、その後スロット28A内に配されたコイル17の冷却効率を向上することができる。
【0051】
このように、冷却用の油Qをコイル17に直接噴射するため、コイル17から発せられる熱を効率よく吸熱することができる。なお、ステータ21の熱も油Qがスロット28内を流通することにより同時に吸熱することができる。また、ステータ21に生じた熱は、モータハウジング11側へ放熱されたり、冷却配管70により冷却されたりすることで、ステータ21の温度上昇をさらに抑制することができる。なお、油Qをバスリング69に噴射するように構成してもよい。
【0052】
本実施形態によれば、トロイダル状に巻き回されたコイル17を有するステータ21の軸方向一端面21a側に油供給配管40を設け、コイル17の側面突出部18だけでなく周面突出部19にも油Qを供給することでコイル17を効果的に冷却することができる。また、油受け部材33を設けることにより、ステータ21の内周側に配されているロータ22に油Qがかかるのを防止することができる。したがって、油Qがロータ22にかかることで生じるフリクションを抑制することができる。さらに、油受け部材33と隣接するティース32,32とで形成された内側空間S1を油流路として利用することができるため、内側空間S1内に配されたコイル17も効率よく冷却することができる。つまり、モータハウジング11に冷却油用の流路を形成する必要がないため、モータハウジング11を小型化することができ、結果として、モータユニット10を小型化することができる。
【0053】
また、油受け部材33を軸方向にコイル17の側面突出部18よりも長く形成することで、油受け部材33上を流れ、油受け部材33の軸方向端部から流れ落ちる油Qがロータ22にかかるのを確実に防止することができる。したがって、ロータ22にフリクションが生じるのを確実に防止でき、回転効率が低下するのを抑制することができる。
【0054】
また、インシュレータ61を設け、該インシュレータ61の軸方向長さをコイル17の側面突出部18から突出する長さにすることにより、油供給配管40から供給される油Qを確実に受け入れることができるとともに、コイル17が配された空間内から油Qが漏洩するのを防止することができる。したがって、コイル17に油Qを確実に供給することができ、効率よくコイル17を冷却することができる。
【0055】
また、モータハウジング11に冷却配管本体部73を設けることによりステータ21の軸方向の位置決めを容易にすることができる。また、ステータ21に発生した熱をモータハウジング11側へ放熱させることができる。したがって、ステータ21の冷却効率を向上することができるため、モータ効率の向上および連続出力範囲の拡大を図ることができる。
【0056】
また、モータハウジング11の他端側に冷却配管70を設けることで、モータハウジング11自体が熱交換器としての機能を有するため、ステータ21に発生した熱をより確実に冷却させることができる。また、コイル17を冷却するための油Qが、モータハウジング11における熱交換機能を有する当該箇所を通過することにより油Qの冷却効率をさらに向上することができる。したがって、コイル17およびステータ21の冷却効率をさらに向上することができるため、モータ効率の向上および連続出力範囲の拡大を図ることができる。
【0057】
また、油供給配管40をコイル17に対して上方から油Qを供給できるように吐出口44を形成したため、コイル17に対して確実に油Qを供給することができる。また、油供給配管40の形状を複雑化させることなく実現することができるため、製造コストの上昇を抑制しつつ、コイル17を効率よく冷却することができる。
【0058】
また、油供給配管40の横断配管部43にも吐出口44を形成し、横断配管部43からも油Qをコイル17に供給することで、コイル17の冷却効率をさらに向上することができる。
【0059】
(第二実施形態)
次に、本発明の第二実施形態を図14〜図15に基づいて説明する。なお、本実施形態は、第一実施形態のステータの一端面に放熱部材を設けた構成が異なるのみであり、その他の構成は第一実施形態と略同一であるため、同一箇所には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0060】
図14、図15に示すように、ステータ21の一端面21aに放熱部材81が設けられている。放熱部材81は、例えば銅などで形成された板状の本体部82にフィン83が形成されたものであり、ステータコア25と正面視で略同一形状に形成されたものである。なお、放熱部材81は、アルミニウムや樹脂で形成してもよい。
【0061】
フィン83は、本体部82の表面に対して垂直方向に壁状に立設されており、径方向に沿って形成されている。また、フィン83はステータコア25のティース32に対応した領域に形成されている。なお、フィン83の内周端84はティース32の先端部から若干径方向外側にセットバックした位置に形成され、外周端87は仕切部31の外縁と略同一の位置まで形成されている。さらに、放熱部材81の先端部85にはフィン83と同じ方向に立設された壁部88が形成されている。つまり、先端部85の壁部88とフィン83の内周端84との間には溝部86が形成されている。この溝部86には冷媒供給配管40の内側配管部42が配設され、支持できるようになっている。
【0062】
本実施形態によれば、ステータ21に生じた熱を放熱部材81により効率的に放熱することができる。また、放熱部材81のフィン83を径方向に沿って形成することにより、コイル17が配された空間内から油Qが漏洩するのを抑制することができる。したがって、コイル17に油Qを確実に供給することができ、効率よくコイル17を冷却することができる。
【0063】
また、放熱部材81に溝部86を形成し、油供給配管40を放熱部材81に支持することにより、油供給配管40をモータハウジング11などに支持する場合に比べて生産効率を向上することができる。また、ステータ21の熱を効率よく放熱する放熱部材81に油供給配管40を支持することで、放熱部材81の熱も油供給配管40で吸熱することができ、ステータ21の冷却効率をさらに向上することができる。
【0064】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な構造や形状などはほんの一例に過ぎず、適宜変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、永久磁石式ブラシレスモータの場合を用いて説明したが、モータがトロイダル巻線であれば、インダクションモータやリラクタンスモータなどに適用してもよい。
また、本実施形態においては、油受け部材が平板状の場合について説明したが、油受け部材を断面山型形状にするなど傾斜を設けて、油受け部材に滴下した油がスムーズに端部に導かれモータ室内へ排出されるようにしてもよい。
また、本実施形態においては、ステータを円環状に形成した場合の説明をしたが、ステータをティースごとに分割して、その分割ステータを組み合わせることで円環状のステータにするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0065】
11…モータハウジング(ハウジング) 17…コイル(巻線) 18…側面突出部(巻線渡り部) 19…周面突出部(巻線直線部) 21…ステータ 23…モータ(トロイダル巻線モータ) 25…ステータコア 28B…外側スロット(空間) 31…仕切部(ティース延長部) 32…ティース 33…油受け部材(冷媒受け部材) 40…油供給配管(冷媒供給配管) 41…外側配管部 42…内側配管部 43…横断配管部(ステータ横断配管部) 44…吐出口 61…インシュレータ 73…冷却配管本体部(壁部) 81…放熱部材 83…フィン 86…溝部 C…中心点 Q…油(冷媒) W…冷却水(冷媒)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状に形成され、複数のティースを有するステータコアと、該ステータコアに対してトロイダル状に巻き回された巻線と、前記ステータコアの外周側に、前記ティースの径方向外側に延出されたティース延長部と、を備えたステータと、
該ティース延長部の外周縁と当接される円環状のハウジングと、
前記ステータの軸方向一端側に設けられ、前記巻線に冷媒を供給する冷媒供給配管と、を備えたトロイダル巻線モータであって、
前記冷媒供給配管には、該冷媒供給配管に面する側に配された巻線渡り部および前記ティース延長部と前記ハウジングとで形成された空間内に配された巻線直線部に対して前記冷媒を供給する吐出口が形成され、
隣接する前記ティース間には、冷媒受け部材が軸方向に沿って設けられていることを特徴とするトロイダル巻線モータ。
【請求項2】
前記冷媒受け部材は、前記ステータの軸方向両端から突出する長さを有していることを特徴とする請求項1に記載のトロイダル巻線モータ。
【請求項3】
前記ステータコアと前記巻線との間にはインシュレータが設けられ、該インシュレータは前記巻線の軸方向両端から突出する長さを有していることを特徴とする請求項1または2に記載のトロイダル巻線モータ。
【請求項4】
前記ハウジングの軸方向他端側には前記ステータコアと当接される壁部が形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のトロイダル巻線モータ。
【請求項5】
前記壁部における前記ステータが配された側の反対側に、冷媒が通流可能に構成されていることを特徴とする請求項4に記載のトロイダル巻線モータ。
【請求項6】
前記冷媒供給配管は、前記ステータにおける円環状の中心点よりも上方において前記ステータの外周側から内周側に向かって前記冷媒を供給する外側配管部と、前記中心点よりも下方において前記ステータの内周側から外周側に向かって前記冷媒を供給する内側配管部と、前記中心点と略同一高さにおいて前記外側配管部と前記内側配管部との間を連接するステータ横断配管部と、を有していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のトロイダル巻線モータ。
【請求項7】
前記ステータ横断配管部において、前記巻線渡り部の側面に対して前記冷媒を供給するように前記吐出口が形成されていることを特徴とする請求項6に記載のトロイダル巻線モータ。
【請求項8】
前記ステータコアの軸方向端面にはフィンが形成された放熱部材が設けられ、前記フィンは、径方向に沿う方向に形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のトロイダル巻線モータ。
【請求項9】
前記放熱部材に、前記冷媒供給配管を支持するための支持部が形成されていることを特徴とする請求項8に記載のトロイダル巻線モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−213495(P2010−213495A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58211(P2009−58211)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】