説明

トロリの空転防止制御装置

【課題】吊荷の振れによって車輪間に輪圧差が生じた場合でも、輪圧の低くなる車輪の空転を確実に防止することができるトロリの空転防止制御装置を提供すること。
【解決手段】車輪によってガーダ上を走行するトロリの空転防止制御装置23であって、前記車輪を駆動するトロリモータ21の駆動トルクが、吊荷に基づく前記車輪の輪圧に応じて決定され、決定された指令が、前記トロリモータ21を制御するトロリモータ制御器22に出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、コンテナヤード等において、コンテナを陸揚げ、船積みする際に用いられるコンテナクレーン、あるいはコンテナヤード内において荷役作業を行うトランスファークレーン等に適用可能なトロリの空転防止制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンテナクレーンに適用されるトロリの空転防止制御装置としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。
【特許文献1】特開2006−76685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に開示されたトロリの空転防止制御装置では、吊荷の振れが考慮されているものの、吊荷の振れによって生じる車輪間の輪圧差までは考慮されておらず、車輪間の輪圧差が大きくなった場合、輪圧の低くなる車輪が空転してしまうおそれがある。
【0004】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、吊荷の振れによって車輪間に輪圧差が生じた場合でも、輪圧の低くなる車輪の空転を確実に防止することができるトロリの空転防止制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
本発明に係るトロリの空転防止制御装置は、車輪によってガーダ上を走行するトロリの空転防止制御装置であって、前記車輪を駆動するトロリモータの駆動トルクが、吊荷に基づく前記車輪の輪圧に応じて決定され、決定された指令信号が、前記トロリモータを制御するトロリモータ制御器に出力される。
【0006】
本発明に係るトロリの空転防止制御装置によれば、車輪を駆動するトロリモータの駆動トルクが、吊荷に基づく車輪の輪圧に応じて決定されることとなる。すなわち、吊荷の振れによって輪圧が低くなる車輪を駆動するトロリモータの駆動トルクが、車輪が空転しないように、例えば、当該車輪の輪圧に摩擦係数を乗じた値よりも小さくなるような指令がトロリモータを制御するトロリモータ制御器に出力されることとなる。これにより、車輪の空転を確実に防止することができる。
【0007】
上記トロリの空転防止制御装置において、前記駆動トルクを決定する際、雨、雪の場合と晴、曇の場合とで、摩擦係数が変更されるように構成されているとさらに好適である。
【0008】
このようなトロリの空転防止制御装置によれば、雨、雪等、車輪20が滑りやすい状況にある時には摩擦係数が小さい値(例えば、0.1)に設定され、晴、曇等、車輪が滑り難い状況にある時には大きい値(例えば、0.3)に設定されることとなる。これにより、車輪の空転をより確実に防止することができる。
【0009】
上記トロリの空転防止制御装置において、前記摩擦係数の変更が、オペレータ室に設けられた切換スイッチにより行えるとさらに好適である。
【0010】
このようなトロリの空転防止制御装置によれば、トロリを操作(運転)するオペレータが、オペレータ室に設けられた切換スイッチを操作することにより、摩擦係数が容易かつ迅速に変更されることとなる。
これにより、摩擦係数が状況に合わせて適切に変更され、車輪の空転をより確実に防止することができる。
【0011】
上記トロリの空転防止制御装置において、前記摩擦係数の変更が、オペレータ室に取り付けられたワイパのオン・オフと連動して行えるとさらに好適である。
【0012】
このようなトロリの空転防止制御装置によれば、トロリを操作(運転)するオペレータが、オペレータ室に設けられたワイパのオン・オフスイッチを操作することにより、摩擦係数が変更されることとなる。
これにより、摩擦係数の変更を自動的に行うことができるとともに、車輪の空転をより確実に防止することができる。
【0013】
本発明に係るクレーンは、吊荷の振れによって車輪間に輪圧差が生じた場合でも、輪圧の低くなる車輪の空転を確実に防止することができるトロリの空転防止制御装置を具備しているので、ガーダ上でトロリの車輪が空転することを防止することができ、トロリをガーダ上で確実に移動させることができて、吊荷の搬送を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、吊荷の振れによって車輪間に輪圧差が生じた場合でも、輪圧の低くなる車輪の空転を確実に防止することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係るトロリの空転防止制御装置の第1実施形態について、図1から図7を参照しながら説明する。
コンテナクレーン1は、岸壁2に接岸した船舶3から、搭載されたコンテナ等の貨物(以下、「コンテナ」という。)4を陸上へ荷降し、もしくは陸上のコンテナ4を船舶3に積載するため、岸壁2に沿って走行するとともに、陸上と船舶3の艙口上の間を往復動するクレーンである。
図1に示すように、コンテナクレーン1は、岸壁2の基礎面に配置されたレール(図示せず)上に立設され、複数の走行車輪(図示せず)と、脚部5と、水平ガーダ6とを主たる要素として構成されている。
【0016】
複数の走行車輪は、脚部5の下端に設けられている。また、脚部5には、他の脚部5および水平ガーダ6を支持するブレース材7が、適当な位置に複数配置されている。
水平ガーダ6は、岸壁2の基礎面と平行方向に配置されている。この水平ガーダ6上には、走行架台(レール)8が設けられており、この走行架台8上をその幅(長手)方向にトロリ9が自走するようになっている。そして、トロリ9には、吊荷としてのコンテナ4の荷役を行うスプレッダ(吊具)10が、巻上ロープ11を介して吊下げられている。
【0017】
トロリ9は、走行架台8上を転動する少なくとも4つの車輪20(図4参照)と、車輪20を駆動する(回転させる)トロリモータ21(図2参照)と、トロリモータ21を制御するトロリモータ制御器22(図2参照)と、トロリモータ制御器22を制御する空転防止制御装置23(図2参照)とを備えている。
なお、図4中の符号mgはトロリ9が把持する吊荷の重量(スプレッダ10およびスプレッダ10が把持するコンテナ4の合計重量)、Gはトロリ9の重心、θはトロリ9が把持する吊荷(スプレッダ10およびスプレッダ10が把持するコンテナ4)の振れ角、Tは吊荷の重量と振れにより発生する巻上ロープ11の張力、30は巻上ロープ11を掛けまわすための滑車である。
【0018】
空転防止制御装置23には、トロリモータ制御器22から駆動トルクおよびトロリモータ速度が与えられるようになっている。これら駆動トルクおよびトロリモータ速度は、トロリモータ制御器22が備えるインバータ(図示せず)から得ることができる。また、空転防止制御装置23には、既知であるトロリ9の重量、トロリ9が把持する吊荷の重量を検出する荷重計24の出力、および振れセンサ25の出力が与えられるようになっている。
【0019】
図3に示すように、振れセンサ25は、スプレッダ10に設けられたターゲットとしてのレーザ光源26と、トロリ9に設けられ、レーザ光源26を撮影するCCDカメラ27と、CCDカメラ27が撮影した映像を解析して振れ量を算出する処理装置(図示せず)とを備えている。また、CCDカメラ27には、レーザ光源26が発するレーザ光の波長のみを通すフィルタ(図示せず)が設けられており、これにより、レーザ光源26を追跡することができる。
【0020】
さて、本実施形態に係る空転防止制御装置23は、図5に示すフローチャートにしたがって進行方向前側(図4および図6において左側)に位置する車輪(以下、本実施形態において「前輪」という。)20の輪圧F1(図6参照)と、進行方向後側(図4および図6において右側)に位置する車輪(以下、本実施形態において「後輪」という。)20の輪圧F2(図6参照)との輪圧差(F2−F1)を算出し、前輪20を駆動するトロリモータ21の駆動トルクが、前輪20の輪圧F1に摩擦係数μ(μの値は、雨天時等、車輪20が滑りやすい状況にある時には0.1に、晴天時等、車輪20が滑り難い状況にある時には0.3に設定される。)を乗じた値、あるいは後輪20の輪圧F2に摩擦係数μを乗じた値(図6の場合は前輪20)よりも小さくなるようにトロリモータ制御器22を制御するものである。
輪圧差(F2−F1)>0の場合はF1を最小、輪圧差(F2−F1)<0の場合はF2を最小とする。
【0021】
なお、輪圧差(F2−F1)は、図4に示すように、各巻上ロープ11に同じ張力Tが加わっている場合には、図6を用いて容易に求めることができる。
すなわち、図6に示すように、吊荷が角度θだけ振れることにより全張力4Tの水平成分4TH(=4T×Sinθ)が発生し、吊点(巻上ドラム30の中心点)とトロリ9の重心Gとの距離Hに比例する転倒モーメントM(=4TH×H)が発生する。
この転倒モーメントMを前輪20と後輪20とで受けることとなるため、F2×(L/2)−F1×(L/2)=Mとなり、輪圧差(F2−F1)は(2/L)×Mと求まる。
【0022】
また、輪圧差(F2−F1)は、図7に示すように、前輪20側に位置する巻上ロープ11に加わる張力と、後輪20側に位置する巻上ロープ11に加わる張力とが異なるような場合、すなわち、前輪20側に位置する巻上ロープ11に加わる張力T1が、後輪20側に位置する巻上ロープ11に加わる張力T2よりも小さいような場合でも、図7を用いて容易に求めることができる。
すなわち、図7に示すように、吊荷が角度θだけ振れることにより前輪20側に位置する巻上ドラム30には張力2T1の水平成分2T1H(=2T1×Sinθ)および垂直成分2T1V(=2T1×Cosθ)が発生し、後輪20側に位置する巻上ドラム30には張力2T2の水平成分2T2H(=2T2×Sinθ)および垂直成分2T2V(=2T2×Cosθ)が発生し、吊荷による転倒モーメントM1(=(2T1H+2T2H)×H+2T2V×S2−2T1V×S1)が発生する。
また、吊り荷による輪圧差(F2’−F1’)は、2/(L1+L2)×(M1+2L1(T1V+T2V))−2(T1V+T2V))となり、トロリ9の重量による輪圧差(F2”−F1”)は、(L1−L2)/(L1+L2)×mgとなる。
そして、これらの式から、輪圧差(F2−F1)は、2/(L1+L2)×(M1+2L1(T1V+T2V))−2(T1V+T2V))+(L1−L2)/(L1+L2)×mgと求まる。
【0023】
本実施形態に係る空転防止制御装置23によれば、吊荷の振れによって前輪20と後輪20との間に輪圧差が生じたとしても、輪圧の低くなる車輪20(すなわち、前輪20)を駆動するトロリモータ21の駆動トルクが、前輪20の輪圧F1に摩擦係数μを乗じた値よりも小さくなるように、トロリモータ制御器22を制御することとなるので、車輪20の空転を確実に防止することができる。
また、摩擦係数μの値が、雨天時等、車輪20が滑りやすい状況にある時には0.1に設定され、晴天時等、車輪20が滑り難い状況にある時には0.3に設定されることとなるので、車輪20の空転をより確実に防止することができる。
さらに、本実施形態に係る空転防止制御装置23を具備したコンテナクレーン1によれば、走行架台8上でトロリ9の車輪20が空転することがなくなるので、トロリ9を走行架台8上で確実に移動させることができて、吊荷の搬送を確実に行うことができる。
【0024】
本発明に係る空転防止制御装置の第2実施形態を、図8を用いて説明する。
図8に示すように、本実施形態に係る空転防止制御装置は、進行方向前側に位置する車輪(以下、本実施形態において「前輪」という。)20の輪圧F1と、進行方向後側に位置する車輪(以下、本実施形態において「後輪」という。)20の輪圧F2とをそれぞれ求め、前輪20を駆動するトロリモータ21の駆動トルクが、前輪20の輪圧F1に摩擦係数μを乗じた値よりも小さくなるようにトロリモータ制御器22を制御するとともに、後輪20を駆動するトロリモータ21の駆動トルクが、後輪20の輪圧F2に摩擦係数μを乗じた値よりも小さくなるようにトロリモータ制御器22を制御するように構成されているという点で上述した第1実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
【0025】
本実施形態に係る空転防止制御装置の作用効果は、上述した第1実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0026】
本発明に係る空転防止制御装置の第3実施形態を、図9を用いて説明する。
図9に示すように、本実施形態に係る空転防止制御装置は、巻上ロープ11に加わる張力をロードセルで検出し、各巻上ロープ11に加わる張力のアンバランスによって生じる進行方向前側に位置する各車輪(以下、本実施形態において「前輪右」「前輪左」という。)20の輪圧F1,F3と、進行方向後側に位置する各車輪(以下、本実施形態において「後輪右」「後輪左」という。)20の輪圧F2,F4とをそれぞれ算出し、吊荷の振れ、各巻上ロープ11に加わる張力のアンバランス、およびトロリ9の重心Gのずれをすべて考慮して各車輪20の輪圧を算出した後、輪圧が最も小さくなる車輪20を駆動するトロリモータ21の駆動トルクが、当該車輪20の輪圧に摩擦係数μを乗じた値よりも小さくなるようにトロリモータ制御器22を制御するように構成されているという点で上述した実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
【0027】
本実施形態に係る空転防止制御装置の作用効果は、上述した実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0028】
本発明に係る空転防止制御装置の第4実施形態を、図10を用いて説明する。
図10に示すように、本実施形態に係る空転防止制御装置は、車輪20を個別に駆動するトロリモータ21の駆動トルクが、各車輪20の輪圧に摩擦係数μを乗じることによって車輪20毎に算出され、トロリモータ21が算出された駆動トルクを発生するように、トロリモータ制御器22を制御するという点で上述した実施形態のものと異なる。その他の構成要素については上述した実施形態のものと同じであるので、ここではそれら構成要素についての説明は省略する。
【0029】
本実施形態に係る空転防止制御装置の作用効果は、上述した実施形態のものと同じであるので、ここではその説明を省略する。
【0030】
なお、本発明に係る空転防止制御装置は、図1に示すコンテナクレーン1以外のクレーン(例えば、トランスファークレーン)にも適用することができる。
【0031】
また、摩擦係数μの変更が、オペレータ室(図示せず)に設けられた切換スイッチ(図示せず)により行えるとさらに好適である。
すなわち、トロリを操作(運転)するオペレータが、オペレータ室に設けられた切換スイッチを操作することにより、摩擦係数が容易かつ迅速に変更されるとさらに好適である。
これにより、摩擦係数が状況に合わせて適切に変更され、車輪の空転をより確実に防止することができる。
【0032】
さらに、摩擦係数μの変更が、オペレータ室に取り付けられたワイパ(図示せず)のオン・オフと連動して行えるとさらに好適である。
すなわち、トロリを操作(運転)するオペレータが、オペレータ室に設けられたワイパのオン・オフスイッチを操作することにより、摩擦係数が変更されるとさらに好適である。
これにより、摩擦係数の変更を自動的に行うことができるとともに、車輪の空転をより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に係る空転防止制御装置を具備したコンテナクレーンの概略構成図である。
【図2】本発明に係る空転防止制御装置を示したブロック図である。
【図3】コンテナクレーンに設けられた振れセンサについて示した図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る空転防止制御装置が計算を行う際のトロリ吊荷モデルである。
【図5】本発明の第1実施形態に係る空転防止制御装置の動作について示したフローチャートである。
【図6】本発明の第1実施形態に係る空転防止制御装置が計算を行う際のトロリ吊荷モデルである。
【図7】本発明の第1実施形態に係る空転防止制御装置が計算を行う際の他のトロリ吊荷モデルである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る空転防止制御装置の動作について示したフローチャートである。
【図9】本発明の第3実施形態に係る空転防止制御装置の動作について示したフローチャートである。
【図10】本発明の第4実施形態に係る空転防止制御装置の動作について示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0034】
1 コンテナクレーン(クレーン)
6 ガーダ
9 トロリ
20 車輪
21 トロリモータ
22 トロリモータ制御器
23 空転防止制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪によってガーダ上を走行するトロリの空転防止制御装置であって、
前記車輪を駆動するトロリモータの駆動トルクが、吊荷に基づく前記車輪の輪圧に応じて決定され、決定された指令信号が、前記トロリモータを制御するトロリモータ制御器に出力されることを特徴とするトロリの空転防止制御装置。
【請求項2】
前記駆動トルクを決定する際、雨、雪の場合と晴、曇の場合とで、摩擦係数が変更されることを特徴とする請求項1に記載のトロリの空転防止制御装置。
【請求項3】
前記摩擦係数の変更が、オペレータ室に設けられた切換スイッチにより行われることを特徴とする請求項2に記載のトロリの空転防止制御装置。
【請求項4】
前記摩擦係数の変更が、オペレータ室に取り付けられたワイパのオン・オフと連動して行われることを特徴とする請求項2に記載のトロリの空転防止制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のトロリの空転防止制御装置を具備してなることを特徴とするクレーン。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−57148(P2009−57148A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225493(P2007−225493)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】