説明

トンネル型磁気抵抗素子、その製造方法およびその製造装置

【課題】 TMR比が35%以上であって、かつバリアハイトが1.8eV以上の8Å以下の層厚の酸化アルミニウム層を備えたトンネル型磁気抵抗素子の製造方法を提供する。
【解決手段】 スパッタリングにより形成した8Å以下の層厚の金属アルミニウム層をオゾンを含有するアルミニウム酸化処理用ガスの暴露により酸化して酸化アルミニウム層を形成し、次いで熱処理工程におけるアニール温度を250〜320℃に調整することにより酸化アルミニウム層のTMR比を35%以上に向上させ、バリアハイトを1.8eV以上に向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GMR型再生ヘッドや磁気デバイスの磁気メモリ(MRAM)等として使用されるトンネル型磁気抵抗素子、その製造方法およびその製造装置に関し、特に、トンネル絶縁層に酸化アルミニウム層を用いたトンネル型磁気抵抗素子、その製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トンネル型磁気抵抗(TMR;Tunneling Magnetoresistive)素子が提案され、このトンネル型磁気抵抗素子を適用した各種磁気式デバイスの開発も急速に進展しつつある。このようなトンネル型磁気抵抗素子(TMR素子)は、薄い絶縁層が2つの強磁性層の間に介装されてなる構成であって、一般に、強磁性層(磁化固定層)/絶縁層/強磁性層(磁化自由層)の積層構造になっている。なお、磁化固定層とは反磁性層と交換結合して、その磁化方向が一方向に固定される層のことであり、また磁化自由層とは、例えば外部磁界等により、その磁化方向が自由に変動する層のことである。これにより、磁化方向が一方向に固定された磁化固定層に対して、磁化自由層の磁化方向の変動により、トンネル磁気抵抗(TMR)効果が生じ、外部磁界の変化を抵抗値の変化として捉えることが可能になる。
【0003】
このようなトンネル型磁気抵抗素子を適用した磁気式デバイスとしては、例えば磁気記録装置におけるGMR型再生ヘッドや、電源OFF状態でもデータを保存することができる不揮発性磁気式メモリ(MRAM;Magnetic Random Access Memory)等がある。上記不揮発性磁気式メモリは、第1強磁性層(磁化固定層)/絶縁層/第2強磁性層(磁化自由層)からなる積層構造のトンネル型磁気抵抗素子を記憶素子として用いたものであって、このトンネル型磁気抵抗素子とMOSFETを組み合わせることによりMRAMのメモリ・セルを構成している。このようなトンネル型磁気抵抗素子の第1,2強磁性層を構成する素材としては、一般に保磁力が高いCoFe系合金が多く用いられている。
【0004】
また、絶縁層を構成する素材としては、高いトンネル磁気抵抗変化率(TMR)を得ることができる酸化アルミニウム層が多く用いられている。金属アルミニウム層を酸化させて、酸化アルミニウム層を形成する方法としては、例えば、酸素による自然酸化、酸素ラジカルによる酸化、および酸素プラズマによる酸化等、種々の酸化方法が提案されているが、酸素プラズマによる酸化(プラズマ酸化法)が主流である。
【0005】
プラズマ酸化法を用いたトンネル型磁気抵抗素子の製造方法およびその製造装置、このトンネル型磁気抵抗素子を用いた磁気デバイスについては、後述する従来例に係るものが公知である。即ち、この従来例に係るトンネル型磁気抵抗素子は、第1強磁性層と、絶縁層と、第2強磁性層とが順次積層されており、上記絶縁層は、プラズマ処理装置により、成膜した金属層あるいは合金層が酸化処理されて金属酸化物とされ、その抵抗値は、成膜後の熱処理により所定の抵抗値になるように制御されている。
【0006】
また、この従来例に係るトンネル型磁気抵抗素子は、その模式的断面図の図6に示すように構成されている。即ち、図6に示す符号1は、トンネル型磁気抵抗素子であって、このトンネル型磁気抵抗素子1は、第1強磁性層(導体)2と、絶縁層(絶縁体)3と、第2強磁性層(導体)4とが順次積層されて構成されている。上記第1強磁性層2は、その少なくとも一部または全部が強磁性を示す合金から構成されており、図中矢印で示すように、磁化方向が右向きの一方向に固定されている。絶縁層は、予め成膜しておいた金属膜をプラズマ処理装置で酸化することで形成される。この第1強磁性層2は、例えば、不純物ガス濃度が1ppb未満の高純度アルゴンガス雰囲気中におけるスパッタリング法により形成されたものである。
【0007】
強磁性を示す合金としては、強磁性を示すものであれば良いが、バリアハイトが十分に確保され、しかも高いTMR比が得られるということが考慮され、Co、Fe等の強磁性を有する金属、Co系合金、Fe系合金、Ni系合金、NiFe系合金、CoFe系合金、CoNi系合金、CoFeNi系合金、MnAs、MnSb、MnBi等のMnと周期律表のVA族(N、P、As、Sb、Bi)との合金化合物、NiAs、NiSb、NiBi等のNiと周期律表のVA族との合金化合物等が用いられている。これらの合金の中でも、組成式CoxFe100−xで表されるCoFe系合金が好適である。このような組成式において、x(at%)の好ましい範囲は、50≦x≦85である。なお、第1強磁性層2の全てを上記組成の金属または合金としても良く、またこの第1強磁性層2を組成の異なる複数の強磁性層からなる積層体とし、少なくとも1層を上記組成の金属または合金としても良い。
【0008】
上記絶縁層3には金属酸化物等の絶縁性材料からなるもの、例えば、酸化アルミニウムが使用されている。成膜した金属層または合金層が酸化処理されて金属酸化物とされ、これらの金属酸化物の抵抗値は成膜後の熱処理(アニール処理)によって制御されている。
この絶縁層3の層厚は、トンネル効果が得られるように極めて薄いものが好ましく、例えば0.5〜2.0nm(5〜20Å)である。
【0009】
上記第2強磁性層4は、その少なくとも一部または全部が強磁性を示す合金からなるものであり、図6中において矢印で示すように、外部磁界5の方向を変えることにより磁化方向が図中の左右向きに変化する。この第2強磁性層4は、第1強磁性層2と同様に、不純物ガス濃度が1ppb未満の高純度アルゴンガス雰囲気中におけるスパッタリング法により形成されたものである。
【0010】
また、その模式的断面図の図7に示すような構成になるトンネル型磁気抵抗素子も知られている。即ち、この従来例に係るトンネル型磁気抵抗素子51は、Si基板52上に、下地層53、反強磁性層54、第1強磁性層(磁化固定層)55、絶縁層56、第2強磁性層(磁化自由層)57、電極層58が順次積層されてなる構成になっている。
【0011】
次に、トンネル型磁気抵抗素子を適用した各種磁気式デバイスの概要構成を説明する。
図8はGMR型再生ヘッドおよびこの再生ヘッドと誘導型記録ヘッドを組み合わせた記録再生分離型磁気ヘッドを示す一部断面斜視図であり、図9はGMR型再生ヘッドの要部を示す断面図である。これらの図において、符号100はトンネル型磁気抵抗素子、符号108はMR電極、符号109はハード膜、符号111はGMR型再生ヘッド、符号112は記録ヘッドの下部磁極(124)を兼ねるGMR型再生ヘッド111の上部シールド層、符号113、114は非磁性絶縁膜、符号115はGMR型再生ヘッド111の下部シールド、符号121は記録ヘッド、122は記録ヘッド121の上部ポール、符号123は導電体からなるコイル、符号124はGMR型再生ヘッド111の上部シールド(112)を兼ねる記録ヘッドの下部磁極である。なお、トンネル型磁気抵抗素子100の構成については、図7に示した形態のトンネル型磁気抵抗素子51とほぼ同一であるから、このトンネル型磁気抵抗素子51と同一の符号を付して説明は省略する。
【0012】
また、不揮発性磁気式メモリ(MRAM)を、その要部であるメモリ・セルを示す断面図の図10を参照しながら説明する。このメモリ・セル200は、セル選択用の素子であるMOSFET201と、ワード線202と、ビット線203と、トンネル型磁気抵抗素子204とから構成されている。ワード線202はMOSFET201に接続され、ビット線203はトンネル型磁気抵抗素子204に接続され、トンネル型磁気抵抗素子204は接続配線205を介しMOSFET201に接続されている。なお、このトンネル型磁気抵抗素子204は、図8で示した形態のトンネル型磁気抵抗素子100とほぼ同一であるから、その構成に係る説明を省略する(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−101098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の場合、近い将来、記憶容量の増大、強磁性トンネル接合(MTJ)素子のダウンサイジング化に加えて、読み出し速度の向上のための素子抵抗の低減が要求され、接合の抵抗面積(R×A)を低下させなければならない状況になることが予想される。トンネル磁気抵抗変化率(TMR比)を損なうことなく接合抵抗を低減するためには、障壁性能を劣化させるピンホール等を発生させることなく、トンネル絶縁層の厚さを薄くすることが必要である。しかしながら、現状一般的に用いられているプラズマ酸化法によるトンネル絶縁層の形成プロセスにおいては、後述するような問題がある。
【0014】
トンネル絶縁層において高いTMR比を維持するためには、二つの強磁性層のスピン分極率を高く維持することが必要である。金属アルミニウム層を形成した後に、この金属アルミニウム層を酸素プラズマによって酸化させて絶縁層とするプラズマ酸化法は、高いTMR比が容易に得られるということから、一般にトンネル障壁膜の形成方法として適していると考えられている。高いTMR比を損なうことなくトンネル障壁膜を極薄化して接合抵抗の低減効果を得るためには、極薄の金属アルミニウム層の酸化工程において、下地である強磁性層の表面を酸化させることなく、極薄の金属アルミニウム層を下部の強磁性層との界面まで精密に制御して酸化させる必要がある。
【0015】
しかしながら、金属アルミニウム層の厚さを薄くしていった場合に、プラズマ酸化では酸化活性の極めて高い酸素ラジカルや酸素イオンを酸化種としている為、酸化速度が非常に速く、極薄の金属アルミニウム層の酸化過程の精密な制御が困難である。また、プラズマの広がりによるチャンバー壁からの不純物放出により、酸化アルミニウム層にピンホールが形成される恐れがある。即ち、酸化速度が速いために酸化条件の最適化が難しく、例えば酸化が過度になったり、またピンホールなどによってTMR比が激減する。そのため、TMR比が高い極薄の酸化アルミニウム層を備えた高品質のトンネル型磁気抵抗素子を安定して製造することができないという問題がある。
【0016】
従って、本発明の目的は、TMR比が高い極薄の酸化アルミニウム層を備えたトンネル型磁気抵抗素子を提供することであり、また極薄の金属アルミニウム層の酸化層厚を精度良く制御すること、高品質のトンネル型磁気抵抗素子を安定して製造することができるトンネル型磁気抵抗素子の製造方法、およびトンネル型磁気抵抗素子の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者らは、近い将来に要求される高密度・高速動作MRAMの生産に必要不可欠なピンホールの少ない均一な組織の極薄の酸化アルミニウム層からなる絶縁層形成を実現するためには、適切な酸化活性を有するオゾンが有効であると考えた。即ち、オゾンは、原子状酸素と酸素分子とに容易に分解され、そして分解された原子状酸素が比較的高い酸化活性(エネルギー準位:酸素分子<原子状酸素<酸素ラジカル・イオン)を有する酸化剤として用いられている。これに加えて、これまでのオゾン生成装置では最大6%程度の濃度のオゾンを生成し得る程度であったが、近年95%を越える濃度のオゾンを生成し得るオゾン発生装置が開発されるに至り、オゾンの活用を考え、本発明をなすに至ったものである。
【0018】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、従って上記課題を解決するために本発明の請求項1に係るトンネル型磁気抵抗素子が採用した構成は、基板の上に強磁性層からなる磁化固定層が形成され、この磁化固定層の上に、金属アルミニウム層のオゾン酸化により生成されてなる酸化アルミニウム層が形成され、この酸化アルミニウム層の上に強磁性体からなる磁化自由層が形成されてなるトンネル型磁気抵抗素子において、上記酸化アルミニウム層の層厚が8Å以下に設定されると共に、この酸化アルミニウム層のアニール処理前のTMR比が25%以上、バリアハイトが1.5eV以上であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の請求項2に係るトンネル型磁気抵抗素子が採用した構成は、基板の上に強磁性層からなる磁化固定層が形成され、この磁化固定層の上に、金属アルミニウム層のオゾン酸化により生成されてなる酸化アルミニウム層が形成され、この酸化アルミニウム層の上に強磁性体からなる磁化自由層が形成されてなるトンネル型磁気抵抗素子において、上記酸化アルミニウム層の層厚が8Å以下に設定されると共に、この酸化アルミニウム層のアニール処理後のTMR比が35%以上、バリアハイトが1.8eV以上であることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の請求項3に係るトンネル型磁気抵抗素子の製造方法が採用した手段は、スパッタリングにより強磁性層の上に形成した金属アルミニウム層を、アルミニウム酸化処理用ガスのオゾンの分圧P(Torr)と暴露時間t(s)との積で表される暴露量が10〜10Langmuir(1 Langmuir は 1×10−6 Torr・sec)となるように、上記アルミニウム酸化処理用ガスの暴露により酸化させることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の請求項4に係るトンネル型磁気抵抗素子の製造方法が採用した手段は、請求項3に記載のトンネル型磁気抵抗素子の製造方法において,上記金属アルミニウム層をアルミニウム酸化処理用ガスの暴露により生成した酸化アルミニウム層のTMR比とバリアハイトを、熱処理工程における250〜320℃のアニール処理温度により制御することを特徴とするものである。
【0022】
本発明の請求項5に係るトンネル型磁気抵抗素子の製造装置が採用した手段は、基板の上に強磁性層からなる磁化固定層が形成され、この磁化固定層の上に、金属アルミニウム層のオゾン酸化により生成されてなる酸化アルミニウム層が形成され、この酸化アルミニウム層の上に強磁性体からなる磁化自由層が形成されてなるトンネル型磁気抵抗素子を製造するトンネル型磁気抵抗素子の製造装置において、上記強磁性体からなる磁化固定層、磁化自由層を、および金属アルミニウム層を形成させるスパッタリング装置を備えたスパッタ用チャンバーと、上記金属アルミニウム層を酸化処理する酸化処理用チャンバーと、この酸化処理用チャンバーにオゾンを供給するオゾン発生装置とを備えてなることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の請求項6に係るトンネル型磁気抵抗素子の製造装置が採用した手段は、基板の上に強磁性層からなる磁化固定層が形成され、この磁化固定層の上に、金属アルミニウム層のオゾン酸化により生成されてなる酸化アルミニウム層が形成され、この酸化アルミニウム層の上に強磁性体からなる磁化自由層が形成されてなるトンネル型磁気抵抗素子を製造するトンネル型磁気抵抗素子の製造装置において、上記強磁性体からなる磁化固定層、磁化自由層、および金属アルミニウム層を形成させるスパッタリング装置を備えたスパッタ用チャンバーと、このスパッタ用チャンバーにオゾンを供給するオゾン発生装置とを備えてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1または2に係るトンネル型磁気抵抗素子、請求項3または4に係るトンネル型磁気抵抗素子の製造方法、および請求項5または6に係るトンネル型磁気抵抗素子の製造装置では、金属アルミニウム層を、適切な酸化活性を有するオゾンで酸化させる。
【0025】
従って、酸素プラズマによる酸化と異なり、オゾン酸化による本発明の請求項3または4に係るトンネル型磁気抵抗素子の製造方法、および請求項5または6に係るトンネル型磁気抵抗素子の製造装置によれば、酸化層厚を精密に制御可能であることから、金属アルミニウム層の層厚が8Å以下であっても下部層を酸化させることなく、しかも未酸化部分や欠陥や不純物の混入によるピンホールの発生を抑制することができるので、TMR比が高い極薄の酸化アルミニウム層を備えたトンネル型磁気抵抗素子を安定的に供給することができる。
さらに、熱処理工程におけるアニール温度を250〜320℃に制御することにより、TMR比とバリアハイトが優れた酸化アルミニウム層を備えたトンネル型磁気抵抗素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、添付図面を順次参照しながら、本発明のトンネル型磁気抵抗素子の製造方法、およびトンネル型磁気抵抗素子の製造方法を実施するトンネル型磁気抵抗素子の製造装置を説明する。図1は、本発明のトンネル型磁気抵抗素子の製造装置で、マルチスパッタ装置を示す模式的断面図、図2は本発明のトンネル型磁気抵抗素子の製造装置で、金属アルミニウム層を酸化処理するオゾン酸化処理装置の模式的断面図である。図3は酸素プラズマと、オゾンとによる金属アルミニウム層の酸化速度説明図、図4は高TMR比を得るための、酸素プラズマとオゾンの暴露量の範囲説明図である。図5は、本発明のオゾンにより酸化させた酸化アルミニウム層と、プラズマ酸化法により酸化させた酸化アルミニウム層とのアニール処理によるTMR比とバリアハイトの変化差異説明図である。
【0027】
なお、以下の説明においては圧力をTorrで説明するが、これをSI単位であるPaに換算する場合には、1Torr=133Paとすれば良い。また、金属アルミニウム層または酸化アルミニウム層の厚さをÅで表記しているが、これをSI単位であるnmに換算する場合には、1Å=0.1nmとすれば良い。さらに、磁界をOeで説明する場合があるが、これをSI単位であるA/mに換算する場合には、10Oe=79.58A/mとすれば良いものである。
【0028】
図1に示す符号11は、本発明のトンネル型磁気抵抗素子1を製造するのに用いるマルチスパッタ装置である。このマルチスパッタ装置11は、外部から隔離された処理空間となるチャンバー12を備えている。このチャンバー12内には、強磁性層を形成させるスパッタ装置13と、後述する酸化処理により酸化されて絶縁層となる金属アルミニウム層を形成させるスパッタ装置14と、被処理物である基板15をスパッタ装置13とスパッタ装置14との間を移動させる基板ホルダー16とが設けられている。
【0029】
上記スパッタ装置13、14は、スパッタリング用ターゲット17と、カソード18を備えている。また、上記基板ホルダー16は、軸心を回動中心として回動する垂直な軸22と、基板15を保持し、基端が上記軸22の下端に固着されてなる水平なホルダー部21とからなり、このホルダー部21は軸22により回動され、基板15をスパッタ装置13とスパッタ装置14の間を移動させるように構成されている。また、チャンバー12の側壁には図示しない真空装置に接続される排気口23が形成されており、この真空装置によりチャンバー12内が所定の圧力に保持されるようになっている。このチャンバー12の内部は、例えば、不純物ガス濃度が1ppb以下であり、かつその圧力が、例えば0.1〜10mTorrの高純度アルゴンガスに満たされた状態で強磁性層、金属アルミニウム層が形成されようになっている。スパッタ装置13、14は、スパッタリング法により強磁性層、金属アルミニウム層を形成することができるものであれば、特に限定されないが、層厚の均一性が良好な点、大面積の形成が可能な点を考慮すれば、マグネトロンスパッタ装置が好適である。
【0030】
図2に示す符号31は,本発明の形態に係るオゾン酸化処理装置である。このオゾン酸化処理装置31は、上記スパッタ装置13で形成された磁化固定層の上に、上記スパッタ装置14で金属アルミニウム層が形成されてなる基板41を出し入れ自在に収納する酸化処理用チャンバー32を備えている。この酸化処理用チャンバー32内の上部には基板41を保持する基板ホルダー33が設けられ、側壁にオゾンを導入するオゾン導入口34および図示しない真空ポンプに連通する吸引ダクトが接続されるガス吸引口35を備えている。そして、上記オゾン導入口34にオゾン供給ダクト36の一端側が接続されると共に、このオゾン供給ダクト36の他端側には濃度95%を越える高濃度オゾンを発生させるオゾン発生装置37が接続されている。
【0031】
なお、この形態に係るトンネル型磁気抵抗素子の製造装置の場合には、上記の通り、マルチスパッタ装置11に酸化処理用チャンバー32が設けられている。しかしながら、このマルチスパッタ装置11のチャンバー12内に設けられているスパッタリング用ターゲット、カソードは何れも図示しないシャッターで遮蔽することができるので、この形態に係る構成に限らず、オゾン発生装置37からチャンバー12内に直接オゾンを供給する構成にすることが可能である。このような構成にすることにより、トンネル型磁気抵抗素子の製造装置のコスト低減、およびトンネル型磁気抵抗素子の製造効率の向上が可能になるという効果が得られる。
【0032】
次に、このオゾン酸化処理装置31を用いて、上記スパッタ装置14で形成した金属アルミニウム層を酸化させて酸化アルミニウム層にするオゾン酸化法を説明する。予め、マルチスパッタ装置11を用いて、基板15の上面に第1強磁性層(磁化固定層)および酸化されて酸化アルミニウム層となる金属アルミニウム層を形成させることにより、第1強磁性層および金属アルミニウム層が積層された基板41を製作する。そして、図示しない搬送装置によりこの基板41を酸化処理用チャンバー32内に収容し、静電チャックまたはクランプ機構を介して基板ホルダー33に基板41を固定する。
【0033】
次いで、酸化処理用チャンバー32内を所定の真空状態、例えば、1×10−6〜1×10−11Torrに保持し、オゾン発生装置37からオゾン導入口34を通して酸化処理用チャンバー32内に、例えば分圧10−4Torrのオゾンを含有するアルミニウム酸化処理用ガス導入して暴露することにより金属アルミニウム層を酸化させて酸化アルミニウム層にする。ところで、金属アルミニウム層に対するオゾンの曝露量は酸化処理用ガスのオゾンの分圧Pと暴露時間t(s)との積で表され、アルミニウム酸化処理用ガスのオゾンの分圧P(Torr)が高ければ暴露時間t(s)を短くすれば良く、逆にアルミニウム酸化処理用ガスのオゾンの分圧Pが低ければ暴露時間t(s)を長くすれば良い。つまり、暴露量を変化させることにより金属アルミニウム層の酸化状態を制御することができる。
【0034】
このように金属アルミニウム層をオゾンで酸化するようにしたのは、オゾンは適切な酸化活性を有しているからである。例えば、図3にて縦軸にバリア幅(Å)、横軸に酸化時間(s)をとり、酸素プラズマと、オゾンとによる金属アルミニウム層の酸化速度を示すように、酸素プラズマ(He+O;三角印と実線で示す、Kr+O;黒丸印と実線で示す、Ar+O;白丸印と実線で示す)の場合には、極めて酸化速度が速いため短時間のうちに酸化が進行し、十数秒程度で金属アルミニウム層の15Å以上が酸化アルミニウム層になってしまう。
【0035】
これに対して、点線で示すオゾン(オゾンの分圧は3×10−4Torrである。)の場合には、金属アルミニウム層の6Å程度までは十数秒程度で酸化が進んでしまうが、例えば200s以上酸化(暴露)を継続したとしても、金属アルミニウム層の8Å程度が酸化されるだけである。従って、この図3によれば、オゾンの分圧を制御すると共に、酸化時間を制御することにより、極薄の金属アルミニウム層であっても、下地である第1強磁性層を酸化させることなく、しかもピンホール等の欠陥のない均質の酸化アルミニウム層にすることが可能になるということが分かる。
【0036】
そして、酸化アルミニウム層が形成された基板41を、再度マルチスパッタ装置11内に搬入し、スパッタ装置13を用いて上記酸化アルミニウム層の上に第2強磁性層(磁化自由層)を形成させる。これにより、第1強磁性層(磁化固定層)/絶縁層/第2強磁性層(磁化自由層)からなる積層構造のトンネル型磁気抵抗素子が得られる。次いで、このトンネル型磁気抵抗素子をマルチスパッタ装置11から取出し、これとは別に設けた図示しない真空熱処理において、250〜320℃でアニール処理を施す。このアニール処理により、層厚が薄く、そしてTMR比とバリアハイトが優れた酸化アルミニウム層を備えたトンネル型磁気抵抗素子を得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、オゾンにより金属アルミニウム層を酸化させた酸化アルミニウム層の強磁性トンネル接合(MTJ)素子の実施例により、酸素プラズマにより金属アルミニウム層を酸化させた従来の酸化アルミニウム層と対比して、酸化アルミニウム層の形成プロセス、適正な暴露条件、MTJ素子のTMR比、およびバリアハイト等について説明する。
【0038】
この実施例に係るMTJ素子の構成は、基板/下地リード電極層/Mn−Ir100Å/Co70Fe3040Å/Al−O/Co70Fe3040Å/Ni−Fe200Å/上部リード電極層とし、フォトリソグラフィーならびにイオンミリングによって、25μm〜2500μmの接合面積のMTJ素子を作成した。酸化される金属アルミニウム層の層厚を8Åとし、金属アルミニウム層を酸化させる酸化処理用ガスに含有されるオゾンの分圧PO(Torr)と暴露時間t(s)との積(暴露量)を種々変化させた。また、他のものについては、酸素プラズマの分圧POと暴露時間t(s)との積(暴露量)を種々変化させた。そして、作成後のMTJ素子には1KOeの印加磁界中で同一試料に対して熱処理を行った。
【0039】
酸化アルミニウム層の暴露量に対するTMR比(%)の変化(アニール処理前)は、縦軸にTMR比(%)、横軸に暴露量〔分圧P(Torr)×暴露時間t(s)〕をとって示す図4の通りである。なお、この図4においては、アニール処理をおこなったものは白丸印と実線で示し、アニール処理をする前のものは黒丸印と実線で示している。
【0040】
上記図4によれば、オゾンの暴露によって金属アルミニウム層を酸化させる本発明の場合には、暴露量が10〜10の範囲であれば25%以上(最高35%)のTMR比が得られている。また、プラズマの暴露により金属アルミニウム層を酸化させる従来例の場合には、暴露量が5×10〜1×10の範囲であれば10%以上(最高40%)のTMR比が得られている。本発明の場合、得られるTMR比に関しては、従来例と同等である。しかしながら、本発明の場合には、プラズマ酸化法と異なり、酸化アルミニウム層にピンホール等の欠陥が生じる恐れや下地が酸化する恐れがなく、そして暴露時間が長く制御の容易性が優れているため、TMR比が高く、かつ均質の極薄の酸化アルミニウム層を備えたトンネル型磁気抵抗素子を安定的に供給することができる。尚、プラズマ酸化において、暴露量が5×10程度の場合において高いTMR比が得られているが、これは下地である第1強磁性層(磁化固定層)がある一定量酸化したトンネル型磁気抵抗素子において、それを高温熱処理することにより得られる特殊なものである。このトンネル型磁気抵抗素子の抵抗は、暴露量が5×10〜1×10の範囲のトンネル型磁気抵抗素子に比較して1〜2桁程度高く、実用化には向かない。
【0041】
なお、上記図4において、暴露量が多過ぎるとTMR比が低下しているが、これは下地である第1強磁性層(磁化固定層)も酸化されてしまうことに起因すると理解することができる。また、本発明のオゾン酸化によるよりもプラズマ酸化法による方がTMR比が高い酸化アルミニウム層を得ることができ、プラズマ酸化法の方が本発明のオゾン酸化法よりも優れているように考えられる。しかしながら、酸化速度の速いプラズマ酸化法では、8Å以下の薄膜の酸化層厚を制御するには暴露時間を短くせざるを得ず、安定した酸化層厚の酸化アルミニウム層を得るのが難しい。そのため、一定以上のTMR比を有する酸化アルミニウム層の歩留まりが悪いため、実用性に劣っていると考えられる。
【0042】
また、上記図4に示す試料のうち、TMR比が25%の本発明の酸化アルミニウム層を有する試料と、TMR比が10%の従来例の酸化アルミニウム層を有する試料のそれぞれをアニール処理した場合の、アニール処理温度(℃)に対するTMR比(%)とバリアハイト(eV)の値について示したのが図5である。この場合、本発明の酸化アルミニウム層では、250〜320℃でアニール処理することにより、TMR比が25%から35%に向上し、またバリアハイトが1.5eVから1.8eVに向上している。オゾン暴露条件を最適化すれば、熱処理を施すことにより、酸化アルミニウム層のTMR比を45%程度に、またバリアハイトをより好ましい2eV以上に向上(TMR比が大きくなるとバリアハイトも大きくなる。)させることができると考えられる。なお、酸化アルミニウム層をアニール処理するとTMR比が向上するのは、金属アルミニウム層をオゾンや酸素プラズマで酸化するだけでは、アルミニウム原子間に酸素原子が介在するだけであるが、アニール処理によりアルミニウム原子とアルミニウム原子間に介在する酸素原子とが酸化結合するためであると理解することができる。
【0043】
また、図5に示すように実用的なTMR比(40%以上)を得る為にアニール処理を必要としピンホール等の欠陥の発生する問題のあるプラズマ酸化法と比較して、アニール処理がなくとも一定レベルのTMR比が安定して得られるオゾン酸化は、今後益々必要とされるトンネル型磁気抵抗素子の高速化・小型化に対応する酸化層の薄膜化(8Å以下)に適した優れた酸化方法であるといえる。
【0044】
なお、以上の実施例においては、8Åの層厚の金属アルミニウム層を酸化させる例について説明しているが、8Å未満の層厚の金属アルミニウム層を酸化させる場合については説明していない。これは、プラズマ酸化法では金属アルミニウム層の層厚が8Å未満であると金属アルミニウム層だけを酸化させた試料を得ることが実質的にできず、比較例が得られないこと、および本発明のオゾン酸化法によれば、上記図3から、層厚が8Å未満の金属アルミニウム層であっても、この金属アルミニウム層だけを酸化させることができるということが示唆されているからである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明のトンネル型磁気抵抗素子の製造装置で、マルチスパッタ装置を示す模式的断面図である。
【図2】本発明のトンネル型磁気抵抗素子の製造装置で、金属アルミニウム層を酸化処理するオゾン酸化処理装置の模式的断面図である。
【図3】本発明に係り、酸素プラズマと、オゾンとによる金属アルミニウム層の酸化速度説明図である。
【図4】本発明に係り、高TMR比を得るための、酸素プラズマとオゾンの暴露量の範囲説明図である。
【図5】本発明のオゾンにより酸化させた酸化アルミニウム層と、プラズマ酸化法により酸化させた酸化アルミニウム層とのアニール処理によるTMR比とバリアハイトの変化差異説明図である。
【図6】従来例に係るトンネル型磁気抵抗素子の模式的断面図である。
【図7】従来例に係るトンネル型磁気抵抗素子の模式的断面図である。
【図8】従来例に係るGMR型再生ヘッドおよびこの再生ヘッドと誘導型記録ヘッドを組み合わせた記録再生分離型磁気ヘッドを示す一部断面斜視図である。
【図9】従来例に係るGMR型再生ヘッドの要部を示す断面図である。
【図10】従来例に係り、不揮発性磁気式メモリ(MRAM)の要部であるメモリ・セルを示す断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1:トンネル型磁気抵抗素子、2:第1強磁性層、3:絶縁層、4:第1強磁性層、5:外部磁界
11:マルチスパッタ装置、12:チャンバー、13:スパッタ装置(強磁性層)
14:スパッタ装置(金属アルミニウム層)、15:基板、16:基板ホルダー
17:パッタリング用ターゲット、18:ソード、21:ホルダー部、22:軸、23:排気口
31:オゾン酸化装置、32:酸化処理用チャンバー、33:基板ホルダー、34:オゾン導入口
35:ガス吸引口、36:オゾン供給ダクト、37:オゾン発生装置、41:基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に強磁性体からなる磁化固定層が形成され、この磁化固定層の上に、金属アルミニウム層のオゾン酸化により生成されてなる酸化アルミニウム層が形成され、この酸化アルミニウム層の上に強磁性体からなる磁化自由層が形成されてなるトンネル型磁気抵抗素子において、上記酸化アルミニウム層の層厚が8Å以下に設定されると共に、この酸化アルミニウム層のアニール処理前のTMR比が25%以上、バリアハイトが1.5eV以上であることを特徴とするトンネル型磁気抵抗素子。
【請求項2】
基板の上に強磁性体からなる磁化固定層が形成され、この磁化固定層の上に、金属アルミニウム層のオゾン酸化により生成されてなる酸化アルミニウム層が形成され、この酸化アルミニウム層の上に強磁性体からなる磁化自由層が形成されてなるトンネル型磁気抵抗素子において、上記酸化アルミニウム層の層厚が8Å以下に設定されると共に、この酸化アルミニウム層のアニール処理後のTMR比が35%以上、バリアハイトが1.8eV以上であることを特徴とするトンネル型磁気抵抗素子。
【請求項3】
スパッタリングにより強磁性層の上に形成した金属アルミニウム層を、アルミニウム酸化処理用ガスであるオゾンの分圧P(Torr)と暴露時間t(s)との積で表される暴露量が10〜10Langmuir(1 Langmuir ≡ 1×10-6 Torr・sec)となるように、上記アルミニウム酸化処理用ガスの暴露により酸化させることを特徴とするトンネル型磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項4】
上記金属アルミニウム層をアルミニウム酸化処理用ガスであるオゾンの暴露による酸化により生成した酸化アルミニウム層のTMR比とバリアハイトを、熱処理工程における250〜320℃のアニール処理温度により制御することを特徴とする請求項3に記載のトンネル型磁気抵抗素子の製造方法。
【請求項5】
基板の上に強磁性体からなる磁化固定層が形成され、この磁化固定層の上に酸化アルミニウム層が形成され、この酸化アルミニウム層の上に強磁性体からなる磁化自由層が形成されてなるトンネル型磁気抵抗素子を製造するトンネル型磁気抵抗素子の製造装置において、上記強磁性層からなる磁化固定層、磁化自由層、および金属アルミニウム層を形成させるスパッタリング装置を備えたスパッタ用チャンバーと、上記金属アルミニウム層を酸化処理する酸化処理用チャンバーと、この酸化処理用チャンバーにオゾンを供給するオゾン発生装置とを備えてなることを特徴とするトンネル型磁気抵抗素子の製造装置。
【請求項6】
基板の上に強磁性体からなる磁化固定層が形成され、この磁化固定層の上に酸化アルミニウム層が形成されると共に、この酸化アルミニウム層の上に強磁性体からなる磁化自由層が形成されてなるトンネル型磁気抵抗素子を製造するトンネル型磁気抵抗素子の製造装置において、上記強磁性層からなる磁化固定層、磁化自由層、および金属アルミニウム層を形成させるスパッタリング装置を備えたスパッタ用チャンバーと、このスパッタ用チャンバーにオゾンを供給するオゾン発生装置とを備えてなることを特徴とするトンネル型磁気抵抗素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−59963(P2006−59963A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239396(P2004−239396)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000158312)岩谷産業株式会社 (137)
【Fターム(参考)】