説明

トンネル掘削機

【課題】カッタ構造を簡略化して異形断面を円滑かつ安価に掘削することができるトンネル掘削機を提供する。
【解決手段】掘削機本体10の前部に円形断面を掘削するメインカッタ17を正逆回転自在に設けるとともに、メインカッタの外周に非円形断面を掘削するサブカッタ27を揺動自在に備え、サブカッタはその揺動支点を境に複数の正回転用ビット41aと逆回転用ビット41bとを対称に備えるとともに揺動支点からずれた位置に、基端部がメインカッタに枢支されたスイングジャッキ43の先端部を枢支させ、スイングジャッキの伸縮により複数の正回転用ビットと逆回転用ビットとがメインカッタに対し選択的に出没可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円形断面を掘削するメインカッタに加えて異形断面を掘削するサブカッタを備えたトンネル掘削機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、矩形、楕円形、卵形、馬蹄形等のように特殊な断面(異形断面)のトンネルが施工されるようになってきている。異形断面のトンネルは、内部構造物の寸法的制約が少ないため、幅広い用途に用いられている。
【0003】
従来、異形断面のトンネルを施工する場合、特許文献1や特許文献2に開示されているように、円形のメインカッタの外周に開閉自在にスイングカッタを設けたシールド掘削機が用いられ、メインカッタの所定の回転位置でスイングカッタを開いて異形部の掘削をおこなうようになっている。
【0004】
メインカッタの回転方向に応じて正逆回転用のスイングカッタが設けられ、それぞれのスイングカッタの開閉はトラニオン型のスイングジャッキの伸縮駆動により行われ、スイングカッタの開閉に伴ってスイングジャッキ自体も揺動するようになっている。
【0005】
ところで、このようなスイングカッタ機構にあっては、掘削中のスイングカッタの開閉によりスイングジャッキの伸縮による揺動が繰り返され、また、メインカッタの回転方向に応じて反対側のスイングジャッキは固定された状態にあるため、常にスイングジャッキの間の空間が変化しているとともに、スイングカッタが閉じられた際にスイングカッタの先端とシールド掘削機のフレーム等との間の空間に掘削土砂がたまることから、掘削土砂に圧密や固結が生じてスイングカッタの作動不良を招き所望の掘削断面が得られなくなるという虞がある。
【0006】
そこで、特許文献1や特許文献2のスイングカッタ機構では、正回転用のスイングジャッキと逆回転用のスイングジャッキとの空間に土砂粒度調整剤の注入口を設けかつ正回転用のスイングジャッキと逆回転用のスイングジャッキとにわたり弾性体を固定したり(特許文献1の場合)、圧密土砂を破砕するための突起をスイングカッタの内側に設けたり(特許文献2の場合)して、上述した虞を解消している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2883075号公報
【特許文献2】特許第2883076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上述した特許文献1や特許文献2のスイングカッタ機構にあっては、正逆回転用のスイングカッタが依然として別個に設けられているとともに、掘削土砂の圧密や固結によるスイングカッタの作動不良を防止する構造が施されているので、部品点数の増大と構造の煩雑化によりコストアップを招来するとともに装置に対する信頼性も低いという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、カッタ構造を簡略化して異形断面を円滑かつ安価に掘削することができるトンネル掘削機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
斯かる目的を達成するための本発明に係るトンネル掘削機は、
掘削機本体の前部に円形断面を掘削するメインカッタを正逆回転自在に設けるとともに、前記メインカッタの外周に非円形断面を掘削するサブカッタを揺動自在に備え、前記サブカッタはその揺動支点を境に複数の正回転用ビットと逆回転用ビットとを対称に備えるとともに前記揺動支点からずれた位置に、基端部が前記メインカッタに枢支されたスイングジャッキの先端部を枢支させ、前記スイングジャッキの伸縮により前記複数の正回転用ビットと逆回転用ビットとがメインカッタに対し選択的に出没可能としたことを特徴とする。
【0011】
また、
前記サブカッタは、メインカッタの点対称位置に二個配設されることを特徴とする。
【0012】
また、
前記各正回転用ビットと各逆回転用ビットは、サブカッタの前面において所定間隔離間しかつ揺動支点を境にハの字状に対称に配設されるとともに、それぞれ掘削前方を指向して斜めに配設されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るトンネル掘削機によれば、サブカッタの部品点数削減及び構造の簡略化が図れ、掘削土砂の圧密や固結等によるサブカッタの作動不良が回避されるとともにサブカッタに掛かるコストの低減が可能となり、異形断面を円滑かつ安価に掘削することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例を示す泥土圧式シールド掘削機の概略構成図である。
【図2】泥土圧式シールド掘削機の正面図である。
【図3】サブカッタの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係るトンネル掘削機を実施例により図面を用いて詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
図1は本発明の一実施例を示す泥土圧式シールド掘削機の概略構成図、図2は泥土圧式シールド掘削機の正面図、図3はサブカッタの外観図である。
【0017】
本実施例で説明するトンネル掘削機は、切羽に加泥剤を注入しながら掘削した土砂をスクリューコンベアにより外部に排出しながらトンネルを構築する泥土圧式シールド掘削機である。
【0018】
図1に示すように、略矩形断面をなす掘削機本体10の前部には円環部材(回転リング)11が回転軸受12を介して回転自在に支持され、回転軸受12の外周には大歯車13が設けられている。掘削機本体10には駆動モータ(カッタ旋回電動モータ)14が設けられ、駆動モータ14の出力軸には駆動ピニオン15が設けられている。駆動ピニオン15は大歯車13に噛み合い、駆動モータ14の駆動により駆動ピニオン15及び大歯車13(回転軸受12)を介して円環部材11が正逆回転可能に駆動される。
【0019】
前記円環部材11には中間支持部材(連結ビーム)16を介してトンネルの円形断面を掘削する円形のメインカッタ17が固定され、このメインカッタ17の中央円筒部材18と外周リング19との間には2本のカッタスポーク20と2枚の保護鉄板(面盤)21が交互に90度の間隔で架設される。即ち、各カッタスポーク20と各保護鉄板21とはそれぞれ点対称に配置されるのである。
【0020】
前記中央円筒部材18は、その先端にトンネルの中央部を掘削するフィッシュテールカッタ22が設けられるとともに、後端にはロータリジョイント23が連結されてなる。このロータリジョイント23には中央円筒部材18の回転角、即ち、メインカッタ17の回転角を検出する図示しない回転検出装置が設けられている。また、ロータリジョイント23には図示しない各種配管が設けられ、メインカッタ17に装備された油圧機器、流体機器及び電気機器等に対し掘削機本体10側からそれぞれ油圧、流体の給排や電力の供給・停止が可能になっている。
【0021】
前記各カッタスポーク20の前面には多数のカッタビット24が取り付けられるとともに加泥注入口25が開口形成される。
【0022】
前記各保護鉄板21は、前,後壁21a,21bの二重壁からなり、その前壁21aの前面に多数の保護ビット26が取り付けられるとともに、前,後壁21a,21b間にトンネルの非円形断面を掘削するサブカッタ27が設けられる。このサブカッタ27の詳細な説明は後述する。
【0023】
また、掘削機本体10内には、掘削土砂を外部に搬出するためのスクリューコンベア28が配設されており、その前部が下方に傾斜して掘削機本体10の前壁部を貫通してメインカッタ17の後方空間部に開口している。
【0024】
一方、掘削機本体10の後部には、その内周面に沿ってリングガータ29が固定されており、このリングガータ29には複数本のシールドジャッキ(推進ジャッキ)30が掘削機本体10の周方向に沿って装着されており、このシールドジャッキ30を後方に伸長してスプレッダ31を既設のセグメントSに押し付けることで、その反力により掘削機本体10が前進することができる。
【0025】
また、リングガータ29には旋回リング32が掘削機本体10の周方向に沿って旋回自在に支持され、駆動モータ(リング旋回電動モータ)33により旋回駆動可能となっており、この旋回リング32にセグメントSを組み立てるエレクター装置34が設けられている。さらに、リングガータ29には左右一対の支柱35が固定され、この支柱35からは後方に向かってほぼ水平な架台36が延設されており、この架台36にはセグメントSの組み立てを補助する形状保持装置37が前後方向に移動自在に装着されている。
【0026】
前述したサブカッタ27は、図2に示すように、細長いブロック体でかつ正面視で低くなだらかな山形状に形成されてなり、その長手方向中間部において、山形形状部を保護鉄板21の外周部に沿わせて当該保護鉄板21の前,後壁21a,21b間に枢軸40を介して揺動自在に軸支(枢支)される。このサブカッタ27の前面には前記枢軸40を境に複数個(図示例では5個)からなる正回転用ビット41aと逆回転用ビット41bとが対称に取り付けられる。
【0027】
また、サブカッタ27の前記揺動支点(枢軸40)からずれた位置に、基端部が前記保護鉄板21における内周部の前,後壁21a,21b間に枢軸42を介して回動自在に軸支(枢支)されたスイングジャッキ43のピストンロッド先端部がピン44を介して回動自在に枢支される。そして、前記スイングジャッキ43の伸縮により前記正回転用ビット41aと逆回転用ビット41bとがメインカッタ17(保護鉄板21)に対し選択的に出没可能となっている。即ち、正回転用ビット41aと逆回転用ビット41bがともにメインカッタ17内に収容された、図2中実線で示すサブカッタ27の状態からスイングジャッキ43を収縮すると、サブカッタ27の一半部がメインカッタ17(保護鉄板21)の外周から突出して正回転用ビット41aが使用可能となり、逆に伸長すると、サブカッタ27の他半部がメインカッタ17(保護鉄板21)の外周から突出して逆回転用ビット41bが使用可能となるのである。
【0028】
前記各正回転用ビット41aと各逆回転用ビット41bは、図3に示すように、サブカッタ27の前面において山形形状部に沿い所定間隔離間しかつ枢軸40を境にハの字状に対称に配設されるとともに、それぞれ掘削前方を指向して斜めに配設され、掘削した土砂が互いに隣接するビット間の隙間を通って、メインカッタ17及び保護鉄板21の後方に積極的に排出可能になっている。
【0029】
このように構成されるため、本実施例の泥土圧式シールド掘削機にあっては、先ず、駆動モータ14によりメインカッタ17が正,逆回転されるとともに、このメインカッタ17の所定の回転角で、メインカッタ17の正,逆回転に対応してサブカッタ27が、所謂シーソーの如くスイングされる。
【0030】
この状態で、複数のシールドジャッキ30が伸長されスプレッダ31が既設のセグメントSへ押し付けられることで、その反力によって掘削機本体10が前進される。これにより、メインカッタ17のカッタビット24とサブカッタ27の正回転用ビット41a及び逆回転用ビット41bにより前方の地盤が掘削され、その掘削土砂がカッタスポーク20及び保護鉄板21の後方へ積極的に排出されてスクリューコンベア28によって外部に搬出される。
【0031】
そして、エレクター装置34では、順次収縮されるシールドジャッキ30に対応してトンネル内に搬入されたセグメントSを把持してトンネル内壁面に沿って移動し、把持したセグメントSを所定の位置に固定してリング状に組み立てていく。このとき、形状保持装置37はリング状に組み立てられたセグメントSが所定の形状となるように矯正する。
【0032】
このようにして、異形断面(図示例では縦長の楕円形状)のトンネルが掘削される。
【0033】
そして、本実施例では、サブカッタ27はその揺動支点を境に正回転用ビット41aと逆回転用ビット41bとを対称に備えるとともに揺動支点からずれた位置に、基端部がメインカッタ17の保護鉄板21に枢支されたスイングジャッキ43の先端部を枢支させているので、サブカッタ27の部品点数削減及び構造の簡略化が図れる。
【0034】
即ち、特許文献1や特許文献2のスイングカッタ機構と比較して、サブカッタ27(スイングカッタ)が二個から一個で済むとともに、これに伴いスイングジャッキ43も二個から一個で済むのである。言い換えれば、単一のサブカッタ27(スイングカッタ)が正回転用と逆回転用を兼用するのである。
【0035】
また、サブカッタ27(スイングカッタ)が一個であるとともに、サブカッタ27(スイングカッタ)の一半部(正回転用ビット41a)が突出するときは他半部(逆回転用ビット41b)が大きく没しているので、特許文献1や特許文献2のスイングカッタ機構のように、スイングジャッキ間やスイングカッタ先端と掘削機本体フレーム等との間で掘削土砂の圧密や固結が生じることもない。
【0036】
依って、サブカッタ27に掛かるコストの低減が可能となるとともにサブカッタ27の作動不良が未然に回避され、異形断面を円滑かつ安価に掘削することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係るトンネル掘削機は、泥土圧式シールド掘削機に限らず、泥水式シールド掘削機、機械式シールド掘削機やトンネルボーリングマシーン(TBM)等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0038】
10 掘削機本体
11 円環部材(回転リング)
12 回転軸受
13 大歯車
14 駆動モータ(カッタ旋回電動モータ)
15 駆動ピニオン
16 中間支持部材(連結ビーム)
17 メインカッタ
18 中央円筒部材
19 外周リング
20 カッタスポーク
21 保護鉄板(面盤)
21a,21b 前,後壁
22 フィッシュテールカッタ
23 ロータリジョイント
24 カッタビット
25 加泥注入口
26 保護ビット
27 サブカッタ
28 スクリューコンベア
29 リングガータ
30 シールドジャッキ
31 スプレッダ
32 旋回リング
33 駆動モータ(リング旋回電動モータ)
34 エレクター装置
35 支柱
36 架台
37 形状保持装置
40 枢軸
41a 正回転用ビット
41b 逆回転用ビット
42 枢軸
43 スイングジャッキ
44 ピン
S セグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削機本体の前部に円形断面を掘削するメインカッタを正逆回転自在に設けるとともに、前記メインカッタの外周に非円形断面を掘削するサブカッタを揺動自在に備え、前記サブカッタはその揺動支点を境に複数の正回転用ビットと逆回転用ビットとを対称に備えるとともに前記揺動支点からずれた位置に、基端部が前記メインカッタに枢支されたスイングジャッキの先端部を枢支させ、前記スイングジャッキの伸縮により前記複数の正回転用ビットと逆回転用ビットとがメインカッタに対し選択的に出没可能としたことを特徴とするトンネル掘削機。
【請求項2】
前記サブカッタは、メインカッタの点対称位置に二個配設されることを特徴とする請求項1に記載のトンネル掘削機。
【請求項3】
前記各正回転用ビットと各逆回転用ビットは、サブカッタの前面において所定間隔離間しかつ揺動支点を境にハの字状に対称に配設されるとともに、それぞれ掘削前方を指向して斜めに配設されることを特徴とする請求項1又は2に記載のトンネル掘削機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−77551(P2012−77551A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225317(P2010−225317)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(309036221)三菱重工メカトロシステムズ株式会社 (57)
【Fターム(参考)】