説明

ドグクラッチ装置

【課題】駆動側ドグクラッチに伝達される動力が変動しても、爪部同士の衝突により発生する歯打ち音を抑えることができるドグクラッチ装置を提供する。
【解決手段】ドグクラッチ装置50は、本体側回転軸17a及び延長側回転軸31aの各先端部に取り付けられ、基板の周縁部に基板周方向に間隔を有して爪部53,62が複数設けられた駆動側ドグクラッチ51及び従動側ドグクラッチ60の爪部同士が噛み合って回転動力を伝達するものであり、本体側回転軸17aに設けられた駆動側ドグクラッチ51の爪部53よりも内側に環状に突設された突起部54と、延長側回転軸31aに設けられた従動側ドグクラッチ60の爪部62よりも内側に設けられ、一対のドグクラッチの爪部同士が噛み合った状態で突起部54によって押されて弾性変形する金属材料製の板ばね部材65を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに噛み合う爪部を有して回転動力を伝達するドグクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドグクラッチ装置は、一対の回転軸の各端部に設けられた爪部同士が噛み合って回転動力を伝達するものであり、構造が簡易で確実な動力伝達が可能であることから、自動車、オートバイ、耕耘機等に広く用いられている。耕耘機等の農業機械では、一方の出力軸側の回転軸に対して他方の入力軸側の回転軸が円弧状の軌道に沿って移動して、これらの回転軸同士を接続することが可能な一対のドグクラッチを有したドグクラッチ装置が開発されている。
【0003】
このドグクラッチ装置には、円盤状の基板の一方側の面の周縁部に複数の爪部を有し、基板の中央部に緩衝材を設けたドグクラッチを有してなるものがある(特許文献1参照)。このドグクラッチの爪部は、基板の一方側の面の周縁部に周方向に等間隔を有して取り付けられ、緩衝材は、ゴム、合成ゴム等の材料で形成されて円筒状をなし、基板上に設けられた環状凹部内に固定されている。一対のドグクラッチ同士が噛み合うと、緩衝材が他方のドグクラッチの基板の面に当接して圧縮され、一対のドグクラッチの衝撃を緩和することができる。
【0004】
またドグクラッチ装置には、一方のドグクラッチの隣接する爪部間に弾性体を装着したものがある(特許文献2参照)。この弾性体は、ゴム等の材料で形成され、環状に形成された基部の外周に周方向に所定間隔を有して放射状に突出した複数の突出片を有して構成されている。弾性体は、爪部よりも内側に基部を配置すると、周方向に隣接する爪部間に突出片が配置される。このため、一対のドグクラッチが噛み合った状態で一方の回転軸が回転すると、突出片を介して爪部同士が噛み合って動力が伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3268289号公報(段落0127〜0133、図15、図16)
【特許文献2】特開2005−73681号公報(段落0018〜0020、図3、図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の緩衝材は、ゴム等の材料で形成されているので、この緩衝材の縦弾性係数は、金属材料のそれと比較して小さい。また緩衝材は円筒状に形成され、爪部同士が噛み合った状態で駆動側のドグクラッチが回転すると、緩衝材はねじられるが、横弾性係数は縦弾性係数よりもさらに小さいので、緩衝材がねじれたときにドグクラッチに作用する緩衝材の反力はより小さくなる。このため、駆動側のドグクラッチに伝達された動力が変動して隣接する爪部同士が離れたり接近した場合、これらの爪部の移動速度を減速することは困難である。このため、爪部同士が速い速度で衝突して大きな歯打ち音が発生する虞がある。
【0007】
また特許文献2に記載の弾性体の突出片は、爪部同士が噛み合う際に、駆動側のドグクラッチの爪部と従動側の爪部との間に挟持された状態で圧縮され、接近移動する爪部の移動速度を減速するように作用する。しかしながら、この突出片の幅は短く、弾性体の縦弾性係数は金属材料と比較して小さいので、弾性体側に移動する爪部の移動速度を減速する効果は殆どない。このため、特許文献1に記載の緩衝材と同様に、駆動側のドグクラッチに伝達された動力が変動する毎に、爪部同士が高速で衝突して大きな歯打ち音が発生する虞がある。
【0008】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、駆動側のドグクラッチに伝達された動力が変動しても、爪部同士が衝突して発生する歯打ち音を小さくすることができるドグクラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するため、本発明は、一対の回転軸(例えば、実施形態における本体側回転軸17a、延長側回転軸31a)の各先端部に取り付けられ、基板の周縁部に基板周方向に間隔を有して爪部が複数設けられた一対のドグクラッチ(例えば、実施形態における駆動側ドグクッチ51、従動側ドグクッチ60)の爪部同士が噛み合って回転動力を伝達するドグクラッチ装置であって、前記一対の回転軸の一方の回転軸(例えば、実施形態における本体側回転軸17a)に設けられたドグクラッチ(例えば、実施形態における駆動側ドグクッチ51)の爪部よりも内側の基板に環状に突設された突起部と、前記一対の回転軸の他方の回転軸(例えば、実施形態における延長側回転軸31a)に設けられたドグクラッチ(例えば、実施形態における従動側ドグクッチ60)の爪部よりも内側の基板に設けられ、前記一対のドグクラッチの爪部同士が噛み合った状態で前記突起部によって押されて弾性変形する金属材料製の板ばね部材とを有していることを構成要件とする。
【0010】
爪部は、一対のドグクラッチの基板のそれぞれの対向する面の周縁部に爪部を周方向に設けたり、また一対のドグクラッチの一方のドグクラッチの基板の周面に放射状に突出する爪部を設け、一方のドグクラッチの基板に対向する他方のドグクラッチの基板の面の周縁部に爪部を周方向に設けたりしてもよい。
【0011】
突起部は、基板に突出して環状に形成されたものであり、具体的には、回転軸の中心軸線を中心として環状に形成されるとともに、回転軸の中心軸線と略平行に延びるように設けられる。突起部の先端部は回転軸の中心軸線と直交する方向に延びるように形成され、板ばね部材との接触を確実にするために面状に形成されることが好ましい。突起部は、ドグクラッチの爪部同士が噛み合った状態で、板ばね部材を押圧できるように所定の高さ寸法を有する。突起部は、駆動側のドグクラッチに設けられてもよいし、従動側のドグクラッチに設けられてもよい。
【0012】
なお、噛み合った状態とは、対向する一対のドグクラッチの一方の爪部が他方のドグクラッチの爪部間に挿入された状態をいい、爪部同士が接触しているか否かは問わない。
【0013】
板ばね部材は、一対のドグクラッチの爪部同士の噛み合い時に、突起部によって押されて弾性変形するものであり、弾性係数が大きい金属材料で形成される。板ばね部材の板ばね片は、突起部との接触時に突起部との接触面積が大きくなるよう面状に形成される。具体的には、板ばね部材は、環状溝の内面に着脱可能に装着され、環状溝の底面に沿って配置される環状基部と、環状基部の周縁部から爪部の先端側へ斜めに延びて環状突起部によって押されて弾性変形する板ばね片とを備える(請求項2)。
【0014】
環状溝は、一対の回転軸の他方の回転軸(例えば、実施形態における延長側回転軸31a)に設けられたドグクラッチ(例えば、実施形態における従動側ドグクッチ60)の爪部よりも内側の基板に回転軸の中心軸線に対して直交する方向に延びるように設けられる(請求項2)。環状溝は、板ばね部材の環状基部を配置可能であればよく、具体的には環状基部の断面形状に相似した断面形状を有することが好ましい。
【0015】
板ばね片は突起部によって押されると弾性変形して板ばね片の反力が突起部に作用する板ばねの機能を有したものであればよく、具体的には、環状基部から張り出して爪部の先端側へ斜めに延びる。板ばね片は、環状基部と一体的に形成され、板ばね片の基端側を折り曲げて形成する。板ばね部材は、駆動側のドグクラッチに設けられてもよいし、従動側のドグクラッチに設けられてもよい。但し、板ばね部材は、突起部が設けられたドグクラッチに対向する側のドグクラッチに設けられる。
【0016】
板ばね片は、環状基部の周縁部に周方向に間隔を有して複数設けられる(請求項3)。板ばね片を複数設けることで、板ばね片が接触する側のドグクラッチにより大きな力を作用させることができる。その結果、駆動側のドグクラッチの回転速度を減速して駆動側の爪部が従動側の爪部に当接したときに発生する歯打ち音を小さくすることができる。板ばね片は、環状の突起部と周方向に均等に接触するように、環状基部の周方向に均等に配設されるのが好ましい。
【0017】
板ばね部材は、環状溝の内面に着脱可能に装着される(請求項2)。具体的には、環状溝に板ばね片の環状基部を配置した状態で、環状溝の内側の内面又はこの内面を形成する基板に、止め輪が挿着可能な凹溝を環状に形成し、この凹溝に止め輪を挿着する。また環状基部の内側に径方向内側へ突出する係止片を設け、環状溝に板ばね片の環状基部を配置した状態で、環状溝の内側の内面に係止片を係止して、板ばね部材を環状溝に着脱可能に取り付けてもよい。
【0018】
また板ばね部材は、環状溝の内面に回動自在に装着される(請求項4)。具体的には、環状溝内で板ばね片の環状基部が回転できるように、環状溝の内径を環状基部のそれよりも小さくし、環状溝の外径を環状基部のそれよりも大きくする。また止め輪を環状溝の内側の内面に挿着した状態で、止め輪と環状基部との間に隙間ができるように止め輪の挿着位置を設定する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係わるドグクラッチ装置によれば、一対の回転軸の一方の回転軸に設けられたドグクラッチの爪部よりも内側に環状に形成された突起部を設け、他方の回転軸に設けられたドグクラッチの爪部よりも内側の基板に設けられ、ドグクラッチの爪部同士が噛み合った状態で突起部によって押されて弾性変形する金属材料製の板ばね部材を設けることで、ドグクラッチの爪部同士の噛み合い時に、板ばね部材が突起部に押されて弾性変形し、板ばね部材の反力が突起部に作用して、突起部が設けられた側のドグクラッチの回転速度を減速する。このため、駆動側のドグクラッチに伝達された動力が変動した場合、噛み合った爪部同士が離れて反対側の爪部に接近移動するときや、一旦離れた爪部が元の爪部側に接近移動するときの駆動側のドグクラッチの回転速度を減速することができ、爪部同士が衝突する際に発生する歯打ち音を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係わるドグクラッチ装置を示し、同図(a)は一対のドグクラッチが分離した状態のドグクラッチ装置の断面図であり、同図(b)は一対のドグクラッチが結合した状態のドグクラッチ装置の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係わるドグクラッチ装置を搭載した耕耘作業機の平面図を示す。
【図3】本発明の一実施形態に係わるドグクラッチ装置を搭載した耕耘作業機の側面図を示す。
【図4】一対のドグクラッチが分離した状態にあるときの耕耘作業機の側面図を示す。
【図5】本発明の一実施形態に係わるドグクラッチ装置の駆動側ドグクラッチを示し、同図(a)は駆動側ドグクラッチの平面図であり、図(b)は同図(a)のV−V矢視に相当する駆動側ドグクラッチの断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係わるドグクラッチ装置の従動側ドグクラッチを示し、同図(a)は従動側ドグクラッチの平面図であり、図(b)は同図(a)のVI−VI矢視に相当する従動側ドグクラッチの断面図である。
【図7】ドグクラッチ装置の板ばね部材の平面図を示し、同図(a)は板ばね片が2つ設けられた板ばね部材の平面図であり、同図(b)は板ばね片が4つ設けられた板ばね部材の平面図であり、同図(c)は板ばね片が8つ設けられた板ばね部材の平面図である。
【図8】本発明の他の実施形態に係わるドグクラッチ装置の従動側ドグクラッチを示し、同図(a)は従動側ドグクラッチの平面図であり、図(b)は同図(a)のVIII−VIII矢視に相当する従動側ドグクラッチの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係わるドグクラッチ装置の実施形態を図1から図8に基づいて説明する。先ず、ドグクラッチ装置を説明する前に、ドグクラッチ装置を搭載した耕耘作業機について概説する。
【0022】
耕耘作業機1は、図2(平面図)及び図3(側面図)に示すように、走行機体90の後部に装着されて走行機体90の前進走行とともに進行して耕耘作業を行うものである。耕耘作業機1は、進行方向に対して左右方向に延びる作業機本体10と、作業機本体10の左右両側に上下方向に折り畳み自在に取り付けられた延長作業機体30を有して構成される。
【0023】
耕耘作業機1の作業機本体10は左右方向に延びる本体フレーム11を有する。本体フレーム11の前側には走行機体90の後部に設けられた3点リンク連結機構に連結されるトップマスト12とロアーリンク連結部が設けられて、耕耘作業機1は走行機体90の後部に対して昇降可能に装着される。
【0024】
本体フレーム11の両側には伝動ケース14及びサポートフレーム15が設けられ、これらの下側間に耕耘ロータ17が回転自在に支持されている。本体フレーム11の左右方向中央部には走行機体90からの動力を入力する入力軸19aを備えたギヤボックス19が設けられ、走行機体90から取り出された動力はユニバーサルジョイントを介して入力軸19aに伝達される。入力軸19aに伝達された動力は、本体フレーム11及び伝動ケース14内に設けられた動力伝達機構を介して耕耘ロータ17を回転させる。
【0025】
耕耘ロータ17の上方にはシールドカバー18が配設され、シールドカバー18の後端部には前端部が回動自在に取り付けられて後側が斜め後方へ延びる本体側エプロン20が設けられている。本体側エプロン20の後端部には上下方向に回動自在に取り付けられた本体側レベラー22が設けられている。
【0026】
耕耘ロータ17は、伝動ケース14及びサポートフレーム15間に回転自在に支持された本体側回転軸17aに複数の耕耘爪17b(図1(a)参照)を放射状に取り付け構成されている。耕耘ロータ17の本体側回転軸17aの両端部には、ドグクラッチ装置50の一部である駆動側ドグクラッチ51(図1(a)参照)が取り付けられている。ドグクラッチ装置50については後述する。なお、作業機本体10には、耕耘作業機1を走行機体90から取り外した状態で耕耘作業機1の移動を可能にするキャスタ24が着脱可能に設けられている。
【0027】
延長作業機体30は、作業機本体10との間に連結された回動機構3を介して折り畳み可能であり、回動機構3の回動支点Oを中心として、作業機本体10の上方位置に格納される格納位置Pkと、作業機本体10の側方位置に配置されて作業が可能な作業位置Psとの間を移動可能である。
【0028】
延長作業機体30は、左右方向に延びて回転自在に支持された延長耕耘ロータ31(図4参照)と、延長耕耘ロータ31の上方を覆う延長側シールドカバー32と、この後部に回動自在に設けられた延長側エプロン33と、延長側エプロン33の後端部に上下方向に回動自在に取り付けられた第1延長レベラー35と、第1延長レベラー35の端部に上下方向に回動自在に取り付けられた第2延長レベラー36とを有してなる。
【0029】
延長耕耘ロータ31は、耕耘ロータ17と同様に構成され、延長作業機体30の左右両側に回転自在に支持された延長側回転軸31a(図1(a)参照)に複数の耕耘爪を放射状に取り付けて構成されている。延長耕耘ロータ31の延長側回転軸31aの作業機本体側端部には、ドグクラッチ装置50の一部である従動側ドグクラッチ60(図1(a)参照)が取り付けられている。ドグクラッチ装置50については後述する。
【0030】
延長作業機体30は、回動機構3により作業位置Psに移動されると、作業機本体10の本体側エプロン20の左右方向端部に延長作業機体30の延長側エプロン33が連結されるとともに、作業機本体10の本体側レベラー22の左右方向端部に延長作業機体30の第1延長レベラー35が連結されるように構成されている。また、回動機構3により作業位置Psに移動した延長作業機体30を格納位置Pk側に移動させると、これらの連結が解除されるようになっている。
【0031】
ドグクラッチ装置50は、図1(a)及び図1(b)に示すように、作業機本体10の本体側回転軸17aの端部に取り付けられた駆動側ドグクラッチ51と、延長作業機体30の延長側回転軸31aの端部に取り付けられた従動側ドグクラッチ60とを有してなる。これら駆動側ドグクラッチ51及び従動側ドグクラッチ60(以下、「一対のドグクラッチ51,60」と記す。)は、延長作業機体30が作業位置Psに移動すると爪部同士が噛み合って連結される。
【0032】
駆動側ドグクラッチ51は、図5(a)(正面図)及び図5(b)(断面図)に示すように、円盤状の基板52の周面に周方向に等間隔を有して放射状に延びる4つの爪部53を有して構成されている。爪部53の従動側クラッチに対向する側は凸状に形成され、従動側ドグクラッチ60(図1(a)参照)の爪部62との噛み合いを容易にしている。爪部53の数は、4つに限るものではなく、2つ以上あればよい。
【0033】
駆動側ドグクラッチ51の基板52は、その中央部に本体側回転軸17aの端部を螺合するねじ孔52aが設けられている。この基板52の一方側の面52bは、一対のドグクラッチ51,60の爪部同士が噛み合った状態で、従動側ドグクラッチ60の基板61の面61bと所定の隙間を有して対向配置される(図1(b)参照)。
【0034】
この面52bには、駆動側ドグクラッチ51の中心軸線を中心として環状に形成されて突出する突起部54が設けられている。この突起部54は、一対のドグクラッチ51,60同士が噛み合った状態になると、その先端部が従動側ドグクラッチ60に設けられた環状溝63(図6(b)参照)の底面の近傍位置まで移動して、環状溝63内に設けられた板ばね部材65を押圧する(図6(b)参照)。突起部54の先端部は面状に形成されて基板52の一方側の面52bと略平行に延びている。
【0035】
従動側ドグクラッチ60は、図6(a)(正面図)及び図6(b)(断面図)に示すように、円盤状の基板61の一方側の面61bの周縁部に周方向に等間隔を有して突設された複数の爪部62と、爪部62よりも内側の基板61に装着された板ばね部材65を有して構成されている。爪部62は、先端部が凸状に形成され、駆動側ドグクラッチ51(図5(a)参照)の爪部53と接触したときに従動側クラッチ60が回動して一対のドグクラッチ51、60の爪部同士が容易に噛み合うようにしている。隣接する爪部62間の距離Bは、駆動側ドグクラッチ51の爪部53の幅A(図5(a)参照)よりも僅かに大きな寸法を有し、爪部62間の空間部に爪部53が挿入されると、僅かな隙間(バックラッシュ)を有して爪部53,62同士が噛み合った状態になる。
【0036】
基板61の一方側の面61bの中央部には、延長側回転軸31aの端部が螺合するねじ孔61aが設けられている。この基板61の面61bは、一対のドグクラッチ51,60の爪部同士が噛み合った状態で、駆動側ドグクラッチ51の基板52の面52bと所定の隙間を有して対向する(図1(b)参照)。爪部62よりも内側の基板61には面61bよりも回転軸側に凹み、従動側ドグクラッチ60の中心軸線に対して直交する方向に延びて幅Wを有した環状溝63が設けられている。一対のドグクラッチ51,60が対向した状態になると、環状溝63内に駆動側ドグクラッチ51の環状に形成された突起部54(図5(b)参照)が挿入される。
【0037】
環状溝63内には板ばね部材65が装着されている。この板ばね部材65は、環状溝63の底面63b上に設置される環状基部65aと、環状基部65aの周縁部から爪部62の先端側へ斜め方向に延びる板ばね片65bを備えている。板ばね部材65は、一対のドグクラッチ51,60の爪部同士の噛み合い時に、突起部54によって押されて弾性変形した板ばね片65bの反力を突起部54に作用させるためのものであり、弾性係数が大きい金属材料(例えば、ばね鋼)で形成されている。
【0038】
板ばね部材65の環状基部65aは、環状溝63の内面63aに嵌合するように装着される。板ばね部材65が環状溝63内に装着されると、板ばね片65bの先端は爪部62よりも内側であって爪部62の先端側へ斜めに延びる。この板ばね片65bの先端側に突起部54が接触して板ばね片65bは環状溝63の底面63b側に押されて弾性変形する。
【0039】
板ばね片65bは、図7(b)に示すように、環状基部65aの外周に等間隔を有して4つ設けられている。なお、板ばね片65bの数は4つに限るものではなく、図7(a)及び図7(c)に示すように、環状基部65aの外周に2つの板ばね片65bを設けたものや(図7(a)参照)、環状基部65aの外周に8つの板ばね片65bを設けたもの(図7(b)参照)でもよい。また図示しないが、板ばね部材65は、前述した板ばね片65bの数以外の複数の板ばね片65bを設けたものでもよい。板ばね片65bは、環状基部65aと一体的に形成され、板ばね片65bの基端側を折り曲げ加工することで環状基部65aに対して斜め方向に延びる。
【0040】
板ばね部材65は、図6(a)及び図6(b)に示すように、環状溝63の内面63aに取り付けられた止め輪67(C形止め輪)によって脱着が防止されている。止め輪67は環状溝63の内面63aに設けられた環状の凹溝63cに着脱可能に取り付けられている。このため、止め輪67を取り外すことで、板ばね部材65を容易に交換することができる。凹溝63cは、環状溝63に装着された環状基部65aよりも内面63aの先端側に設けられている。
【0041】
なお、環状基部65aの内径を環状溝63の内面63aの径よりも大きくし、凹溝63cの位置をより内面63aの先端側に設けると、環状溝63の内面63aに対して板ばね部材65を回動自在に装着することができる。これにより、板ばね部材65に土等が付着しても、板ばね部材65を回動させることで、付着した土等を容易に除去することができる。
【0042】
また、前述した実施例では、板ばね部材65が止め輪67(C形止め輪)を介して環状溝63内に装着される場合を示したが、図8(a)及び図8(b)に示すように、板ばね部材65の環状基部65aの内側に径方向内側へ突出する係止片65cを設け、環状溝63に板ばね部材65の環状基部65aを配置した状態で、係止片65cが弾性変形した状態で環状溝63の内面63aに係止されて、板ばね部材65が環状溝63に着脱可能に取り付けられるようにしてもよい。この場合、係止片65cは内面63aを付勢した状態で接触しているので、板ばね部材65を内面63aに対して回動させることができる。また内面63aに係止片65cを係止するための凹溝(図示せず)を設けてもよい。この凹溝は、対応する係止片65c毎に設けてもよいし、内面63aに環状に設けて、いずれの係止片65cでも係止可能にしてもよい。
【0043】
次に、このように構成されたドグクラッチ装置50を登載した耕耘作業機1の延長作業機体30を作業位置Psに回動して作業機本体10と連結する連結動作及び一対のドグクラッチ51,60が噛み合った状態でのドグクラッチ間の動力伝達について説明する。
【0044】
格納位置Pkに位置する延長作業機体30(図4参照)が回動機構3を介して作業位置側に回動すると、延長作業機体30は回動機構3の回動支点Oを中心として下側に回動し、図1(a)に示すように、延長作業機体30に設けられた従動側ドグクラッチ60が作業機本体10に設けられた駆動側ドグクラッチ51に接近移動する。
【0045】
延長作業機体30が作業位置Psに移動すると、図1(b)に示すように、従動側ドグクラッチ60の隣接する爪部62間に駆動側ドグクラッチ51の爪部53が挿入され、駆動側ドグクラッチ51に設けられた突起部54の先端部が従動側ドグクラッチ60の環状溝63内に挿入され、板ばね部材65の板ばね片65bを環状溝63の底面63b側に押圧する。
【0046】
板ばね片65bは、突起部54によって押圧されると、環状溝63の底面側に弾性変形し、板ばね片65bの反力が突起部54に作用する。また延長作業機体30が作業位置Psに移動すると、延長作業機体30の延長側エプロン33が作業機本体10の本体側エプロン20に連結され、延長作業機体30の第1延長レベラー35が作業機本体10の本体側レベラー22に連結される。
【0047】
このように、延長作業機体30が作業位置Psに移動して一対のドグクラッチ51,60が噛み合った状態になると、板ばね片65bの反力が突起部54に作用した状態になる。
【0048】
このような状態で走行機体90が前進走行して耕耘作業機1が前進しながら耕耘作業を行う場合、走行機体側に連結されるユニバーサルジョイントの前側端部と耕耘作業機1の入力軸19aに連結されるユニバーサルジョイントの後端部の上下位置の差が大きいときには、ユニバーサルジョイントが不等速運動(回転)する場合がある。
【0049】
ユニバーサルジョイントが不等速運動すると、作業機本体10の本体側回転軸17aも不等速運動(回転)する。このため、一対のドグクラッチ51,60の爪部同士が接触したり離れたりして歯打ち音が発生する。
【0050】
しかしながら、本願発明のドグクラッチ装置50では、従動側ドグクラッチ60内に板ばね部材65が設けられ、一対のドグクラッチ51,60が噛み合った状態では、板ばね部材65の板ばね片65bにより駆動側ドグクラッチ51の突起部54に反力が作用した状態に維持されている。
【0051】
このため、爪部53,62同士が噛み合った状態で、駆動側ドグクラッチ51の回転速度が変化して低速になると、爪部53,62同士が離反するが、このときの爪部53が反対側の爪部62に衝突する際の回転速度を減速することができる。また、爪部53,62同士が離反した状態で、駆動側ドグクラッチ51の回転速度が増速すると、爪部53が元の爪部62に接近するが、このときに回転速度を減速することができる。よって、爪部53,62同士が衝突する際の歯打ち音を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0052】
17a 本体側回転軸(回転軸)
31a 延長側回転軸(回転軸)
50 ドグクラッチ装置
51 駆動側ドグクッチ(ドグクラッチ)
52、61 基板
53、62 爪部
54 突起部
60 従動側ドグクッチ(ドグクラッチ)
63 環状溝
65 板ばね部材
65a 環状基部
65b 板ばね片
65c 係止片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の回転軸の各先端部に取り付けられ、基板の周縁部に基板周方向に間隔を有して爪部が複数設けられた一対のドグクラッチの爪部同士が噛み合って回転動力を伝達するドグクラッチ装置であって、
前記一対の回転軸の一方の回転軸に設けられたドグクラッチの爪部よりも内側の基板に環状に突設された突起部と、
前記一対の回転軸の他方の回転軸に設けられたドグクラッチの爪部よりも内側の基板に設けられ、前記一対のドグクラッチの爪部同士が噛み合った状態で前記突起部によって押されて弾性変形する金属材料製の板ばね部材と
を有していることを特徴とするドグクラッチ装置。
【請求項2】
前記一対の回転軸の他方の回転軸に設けられたドグクラッチの爪部よりも内側の基板に前記回転軸の中心軸線に対して直交する方向に延びる環状溝が設けられ、
前記板ばね部材は、前記環状溝の内面に着脱可能に装着され、前記環状溝の底面に沿って配置される環状基部と、該環状基部の周縁部から前記爪部の先端側へ斜めに延びて前記環状突起部によって押されて弾性変形する板ばね片とを備えることを特徴とする請求項1に記載のドグクラッチ装置。
【請求項3】
前記板ばね片は、前記環状基部の周縁部に周方向に間隔を有して複数設けられていることを特徴とする請求項2に記載のドグクラッチ装置。
【請求項4】
前記板ばね部材は、前記環状溝の内面に回動自在に装着されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のドグクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−196748(P2010−196748A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40636(P2009−40636)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(390010836)小橋工業株式会社 (198)
【Fターム(参考)】