説明

ドライバ状態推定装置及びプログラム

【課題】ドライバの運転適否状態を精度よく推定することができるようにする。
【解決手段】アクセル開度センサ12、車速センサ14、及び車間距離計測部16によって、自車両の走行状態及び操作状態を複数検出する。そして、尤度算出部26によって、予め求められた正常運転状態及び異常運転状態の各々における走行状態及び操作状態の組み合わせの混合ガウス分布に基づいて、検出された走行状態及び操作状態の組み合わせの確率値を、正常運転状態及び異常運転状態の各々について算出し、正常運転状態及び異常運転状態の各々について、算出された確率値を累積して、正常運転状態及び異常運転状態の各々に対する尤度を算出する。そして、ドライバ状態推定部28によって、尤度算出部26によって算出された正常運転状態及び異常運転状態の各々に対する尤度を比較し、比較結果に基づいて、ドライバの運転適否状態を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライバ状態推定装置及びプログラムに係り、特に、車両の走行状態やドライバの操作状態に基づいて、ドライバの運転適否状態を推定するドライバ状態推定装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、加減速の滑らかさを表す車両のジャークを算出し、ジャークに関する正常運転時との異なりに基づいて、ドライバ状態を推定する運転状態推定装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、走行レーンの曲率から基準となるハンドル操作量を算出し、現在のハンドル操作量と基準操作量とのずれの標準偏差に基づいて、ドライバの覚醒度を推定する車両用覚醒度検出装置が知られている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2006−335277号公報
【特許文献2】特開平7−9879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1、2に記載の技術では、現在の車両信号と、基準となる車両信号との異なりに基づいて、ドライバの状態を推定しており、基準とどれだけ異なっていれば異常と推定することが可能か、という点と、信号が基準と異なっている場合は必ず異常状態であるか、という点とに関して、明確な基準が与えられていないため、誤推定が生じてしまう、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、ドライバの運転適否状態を精度よく推定することができるドライバ状態推定装置及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本発明に係るドライバ状態推定装置は、自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態の少なくとも一方の状態を複数検出する状態検出手段と、予め求められた複数の運転適否状態の各々における前記状態の確率分布に基づいて、前記状態検出手段によって検出された複数の前記状態の各々の確率値又は確率密度値を、前記複数の運転適否状態の各々について算出する確率算出手段と、前記複数の運転適否状態の各々について、前記確率算出手段によって算出された前記確率値又は確率密度値を累積して、前記運転適否状態に対する尤度を算出する尤度算出手段と、前記尤度算出手段によって算出された前記複数の運転適否状態の各々に対する尤度を比較し、比較結果に基づいて、前記ドライバの運転適否状態を推定するドライバ状態推定手段とを含んで構成されている。
【0007】
本発明に係るプログラムは、コンピュータを、予め求められた複数の運転適否状態の各々における、自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態の少なくとも一方の状態の確率分布に基づいて、前記状態を複数検出する状態検出手段によって検出された複数の前記状態の各々の確率値又は確率密度値を、前記複数の運転適否状態の各々について算出する確率算出手段、前記複数の運転適否状態の各々について、前記確率算出手段によって算出された前記確率値又は確率密度値を累積して、前記運転適否状態に対する尤度を算出する尤度算出手段、及び前記尤度算出手段によって算出された前記複数の運転適否状態の各々に対する尤度を比較し、比較結果に基づいて、前記ドライバの運転適否状態を推定するドライバ状態推定手段として機能させるためのプログラムである。
【0008】
本発明によれば、状態検出手段によって、自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態の少なくとも一方の状態を検出する。そして、確率算出手段によって、予め求められた複数の運転適否状態の各々における状態の確率分布に基づいて、状態検出手段によって検出された複数の状態の各々の確率値又は確率密度値を、複数の運転適否状態の各々について算出し、尤度算出手段によって、複数の運転適否状態の各々について、確率算出手段によって算出された確率値又は確率密度値を累積して、運転適否状態に対する尤度を算出する。
【0009】
そして、ドライバ状態推定手段によって、尤度算出手段によって算出された複数の運転適否状態の各々に対する尤度を比較し、比較結果に基づいて、ドライバの運転適否状態を推定する。
【0010】
このように、運転適否状態の各々における状態の確率分布に基づいて、検出される状態について、各運転適否状態に対する尤度を算出し、尤度を比較して、ドライバの運転適否状態を推定することにより、ドライバの運転適否状態を精度よく推定することができる。
【0011】
本発明に係る状態検出手段は、複数種類の状態を複数検出し、確率算出手段は、予め求められた複数の運転適否状態の各々における複数種類の状態の組み合わせの確率分布に基づいて、状態検出手段によって検出された複数の複数種類の状態の組み合わせの各々の確率値又は確率密度値を、複数の運転適否状態の各々について算出することができる。これによって、複数種類の状態を検出して、複数種類の状態の組み合わせの確率分布に基づいて、運転適否状態に対する尤度を算出することにより、ドライバの運転適否状態を精度よく推定することができる。
【0012】
また、上記の状態検出手段は、状態を連続して複数検出することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明のドライバ状態推定装置及びプログラムによれば、運転適否状態の各々における状態の確率分布に基づいて、検出される状態について、各運転適否状態に対する尤度を算出し、尤度を比較して、ドライバの運転適否状態を推定することにより、ドライバの運転適否状態を精度よく推定することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、車両に搭載されたドライバ状態推定装置に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0015】
図1に示すように、第1の実施の形態に係るドライバ状態推定装置10は、ドライバが自車両を操作したときの操作状態としてのアクセル開度を検出するアクセル開度センサ12と、自車両の走行状態としての車速を検出する車速センサ14と、走行状態としての車間距離を計測する車間距離計測部16と、アクセル開度センサ12、車速センサ14、及び車間距離計測部16からの出力に基づいて、ドライバの運転適否状態が正常運転状態及び異常運転状態の何れであるかを推定し、推定されたドライバの運転適否状態に応じて、表示装置40に警告メッセージを表示させるコンピュータ18とを備えている。
【0016】
アクセル開度センサ12は、検出したアクセル開度を示すアクセル開度信号を出力し、車速センサ14は、検出した自車両の車速を示す車速信号を出力し、また、車間距離計測部16は、計測した前方車両との車間距離を示す前方車間距離信号を出力する。また、アクセル開度センサ12、車速センサ14、及び車間距離計測部16は、ある一定間隔で(例えば、100ms毎)で、各信号をコンピュータ18に入力する。
【0017】
コンピュータ18は、CPUと、RAMと、後述するドライバ状態推定処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。コンピュータ18は、アクセル開度センサ12から入力されたアクセル開度信号、車速センサ14から入力された車速信号、及び車間距離計測部16から入力された前方車間距離信号の各々について、1次微分及び2次微分を算出する微分算出部20と、ドライバが正常運転状態であるときの運転行動をモデル化した行動モデルとして、正常運転状態におけるアクセル開度、車速信号、及び車間距離の各々の1次微分及び2次微分と車速信号と車間距離との組み合わせの確率分布を表わす混合ガウス分布を記憶した正常運転時行動モデル記憶部22と、ドライバが異常運転状態として例えば居眠り状態であるときの運転行動をモデル化した行動モデルとして、異常運転状態におけるアクセル開度、車速信号、及び車間距離の各々の1次微分及び2次微分と車速信号と車間距離との組み合わせの確率分布を表わす混合ガウス分布を記憶した異常運転時行動モデル記憶部24と、微分算出部20により算出されたアクセル開度、車速信号、及び車間距離の各々の1次微分及び2次微分と、車速センサ14から入力された車速信号と、車間距離計測部16から入力された前方車間距離信号との組み合わせの時系列データ、正常運転状態に対する混合ガウス分布、並びに異常運転状態に対する混合ガウス分布に基づいて、正常運転状態に対する各信号の組み合わせの時系列データの尤度及び異常運転状態に対する各信号の組み合わせの時系列データの尤度を算出する尤度算出部26と、算出された正常運転状態に対する尤度及び異常運転状態に対する尤度を比較して、ドライバの運転適否状態を推定するドライバ状態推定部28と、ドライバ状態推定部28によって推定されたドライバの運転適否状態に応じて、表示装置40に警告メッセージを表示させる表示制御部30とを備えている。
【0018】
微分算出部20は、以下に説明するように、アクセル開度、車速信号、及び車間距離の各々の1次微分及び2次微分を算出する。
【0019】
まず、ある時刻tに入力された車速信号が示す車速又は前方車間距離信号が示す車間距離をx(t)とすると、車速又は車間距離の1次微分量Δx(t)は、以下の(1)式によって算出される。
【0020】
【数1】

【0021】
ここで、Cは予め定められた定数である。
【0022】
また、上記(1)式において、x(t)を1次微分量Δx(t)に置き換えた式に従って、車速又は車間距離の1次微分量に基づいて、車速又は車間距離の2次微分量が算出される。
【0023】
また、時刻tに入力されたアクセル開度信号が示すアクセル開度をx(t)とすると、アクセル開度の1次微分量Δx(t)は、以下の(2)式によって算出される。
【0024】
【数2】

【0025】
また、上記(2)式において、x(t)を1次微分量Δx(t)に置き換えた式に従って、アクセル開度の1次微分量に基づいて、アクセル開度の2次微分量が算出される。
【0026】
また、車速センサ14から入力された車速信号が示す車速、車間距離計測部16から入力された前方車間距離信号が示す車間距離、及び微分算出部20によって算出された各信号の1次微分と2次微分とは、FIFO型バッファ(図示省略)に格納される。ここで、FIFO型バッファのバッファサイズをTとし、バッファインデックスiのバッファの値は、現在からT−i+1時刻前の各信号を表すものとする。
【0027】
正常運転時行動モデル記憶部22には、正常運転状態に対する混合ガウス分布を決定するパラメータが記憶され、異常運転時行動モデル記憶部24には、異常運転状態に対する混合ガウス分布を決定するパラメータが記憶されている。
【0028】
尤度算出部26は、FIFO型バッファ中に含まれる各信号、各信号の1次微分、及び各信号の2次微分からなる信号列と、正常運転状態に対する混合ガウス分布を決定するパラメータとに基づいて、正常運転状態に対する、FIFO型バッファ中に含まれる信号列の時系列データの尤度を、以下に説明するように算出する。
【0029】
まず、正常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの条件付確率p(x|θnm)を、以下の(3)式に従って算出する。
【0030】
【数3】

【0031】
ここで、θnmは正常運転状態に対する混合ガウス分布を決定するパラメータであり、θnm={anmnmnm}である。また、anmは、正常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの混合重み係数であり、μnmは、正常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの平均ベクトルであり、Σnmは、正常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの共分散行列であり、Dは次元数である。なお、この実施例においては、アクセル開度、車間距離、及び車速の各々の1次微分量及び2次微分量と車間距離と車速との8つの値を用いるため、D=8である。
【0032】
そして、以下の(4)式に示すように、各混合要素mに対する上記の条件付確率p(x|θnm)の重み付き総和を算出すると共に、時系列データの各信号列について、算出された条件付確率の重み付き総和を累積して、正常運転状態に対する、FIFO型バッファ中に含まれる信号列の時系列データの尤度lを算出する。
【0033】
【数4】

【0034】
ここで、xは、時刻tにおける車速信号及び車間距離信号と、アクセル開度信号、車速信号、及び車間距離信号の各信号の1次微分と、各信号の2次微分とからなるベクトルであり、Tは、FIFO型バッファのバッファサイズであり、wは、混合要素mの重み係数である。
【0035】
また、正常運転状態に対する尤度と同様に、以下の(5)式に従って、異常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの条件付確率p(x|θ im)の重み付き総和を算出すると共に、時系列データの各信号列について条件付確率の重み付き総和を累積して、異常運転状態に対する、FIFO型バッファ中に含まれる信号列の時系列データの尤度lを算出する。
【0036】
【数5】

【0037】
ここで、θimは異常運転状態に対する混合ガウス分布を決定するパラメータであり、θim={aimimim}である。また、aimは、異常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの混合重み係数であり、μimは、異常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの平均ベクトルであり、Σimは、異常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの共分散行列である。
【0038】
なお、上記の正常運転状態に対する混合ガウス分布を決定するパラメータθimが、正常運転時行動モデル記憶部22に記憶されており、異常運転状態に対する混合ガウス分布を決定するパラメータθimが、異常運転時行動モデル記憶部24に記憶されている。
【0039】
ドライバ状態推定部28は、算出された正常運転状態に対する尤度lと、算出された異常運転状態に対する尤度lとを比較して、異常運転状態に対する尤度lの方が大きい場合には、ドライバの運転適否状態が異常運転状態であると推定し、異常運転状態に対する尤度lが、正常運転状態に対する尤度l以下である場合には、ドライバの運転適否状態が正常運転状態であると推定する。
【0040】
表示制御部30は、ドライバ状態推定部28によってドライバの運転適否状態が異常運転状態であると判定された場合に、異常運転状態であることを示す警告メッセージを表示装置40に表示させる。
【0041】
次に、第1の実施の形態に係るドライバ状態推定装置10の作用について説明する。まず、以下に説明するような学習処理が行われる。正常運転に関する学習処理では、予め用意した正常運転時の複数の学習データ(アクセル開度の1次微分及び2次微分、車速の1次微分及び2次微分、車間距離の1次微分及び2次微分、車速、並びに車間距離の組み合わせからなる学習データ)から、確率分布としての混合ガウス分布を決定するパラメータを求め、正常運転時行動モデル記憶部22に記憶する。
【0042】
また、異常運転に関する学習処理では、予め用意した異常運転時の複数の学習データ(アクセル開度の1次微分及び2次微分、車速の1次微分及び2次微分、車間距離の1次微分及び2次微分、車速、並びに車間距離の組み合わせからなる学習データ)から、確率分布としての混合ガウス分布を決定するパラメータを求め、異常運転時行動モデル記憶部24に記憶する。
【0043】
そして、ドライバ状態推定装置10を搭載した車両の走行中に、コンピュータ18において、図2に示すドライバ状態推定処理ルーチンが実行される。
【0044】
まず、ステップ102において、アクセル開度センサ12、車速センサ14、及び車間距離計測部16の各々から連続して出力された信号を取得する。
【0045】
そして、ステップ104では、上記ステップ102で取得したアクセル開度信号、車速信号、及び車間距離信号の各々について、1次微分及び2次微分を算出し、次のステップ106では、上記ステップ102で取得した車速信号及び車間距離信号と、上記ステップ104で算出したアクセル開度信号、車速信号、及び車間距離信号の各々の1次微分及び2次微分との組み合わせからなる信号ベクトルの時系列データを、FIFO型バッファに格納する。
【0046】
そして、ステップ108では、正常運転状態に対する、FIFO型バッファに格納された信号ベクトルの時系列データの尤度を算出する。上記ステップ108は、図3に示す尤度算出処理ルーチンによって実現される。
【0047】
まず、ステップ120において、尤度Pを初期値の1.0に設定し、ステップ122で、FIFO型バッファのインデックスを表わす変数iを1に初期化する。そして、ステップ124において、ベクトルxに、FIFO型バッファのインデックスiに格納された信号ベクトルをセットし、ステップ125において、上記(3)式で算出される正常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの条件付確率p(x|θnm)を算出し、各混合要素mに対して算出される条件付確率を合計して、正常運転状態に対するベクトルxの確率p(x)を算出する。次のステップ126では、上記ステップ125で算出された確率p(x)を、尤度Pに対して積算して、正常運転状態に対するベクトルxの確率p(x)を累積する。
【0048】
そして、ステップ128において、インデックスiをインクリメントし、ステップ130において、インデックスiがFIFO型バッファのバッファサイズT未満であるか否かを判定する。インデックスiがFIFO型バッファのバッファサイズT未満であり、FIFO型バッファの中に、条件付確率を算出していない信号ベクトルがある場合には、ステップ124へ戻るが、一方、インデックスiがFIFO型バッファのバッファサイズT以上であり、FIFO型バッファの全ての信号ベクトルについて、条件付確率を算出している場合には、ステップ132において、尤度Pを、正常運転状態に対する、FIFO型バッファに格納された信号ベクトルの時系列データの尤度として出力して、尤度算出処理ルーチンを終了する。
【0049】
そして、ドライバ状態推定処理ルーチンのステップ110では、異常運転状態に対する、FIFO型バッファに格納された信号ベクトルの時系列データの尤度を算出する。上記ステップ110では、上述した図3に示す尤度算出処理ルーチンと同様に、FIFO型バッファの各インデックスにおける信号ベクトルxについて、異常運転状態に対する混合ガウス分布の混合要素mの条件付確率p(x|θim)を算出し、上記(5)式に示すように、各混合要素に対して算出された条件付確率を合計して、異常運転状態に対する信号ベクトルxの確率p(x)を算出する。そして、尤度Pに対して確率p(x)を積算して、異常運転状態に対する信号ベクトルxの確率p(x)を累積し、尤度Pを、異常運転状態に対する、FIFO型バッファに格納された信号ベクトルの時系列データの尤度として出力する。
【0050】
そして、ステップ112において、上記ステップ110で算出された異常運転状態に対する尤度liが、上記ステップ108で算出された正常運転状態に対する尤度lnより大きいか否かを判定し、尤度liが尤度lnより大きい場合には、ドライバの運転適否状態が異常運転状態であると推定されるため、ステップ114で、ドライバの運転適否状態が異常運転状態であることを示す警告メッセージを表示装置40に表示させて、ドライバ状態推定処理ルーチンを終了する。一方、上記ステップ112において、尤度liが尤度ln以下である場合には、ドライバの運転適否状態が正常運転状態であると推定されるため、ステップ116において、ドライバの運転適否状態が正常運転状態であることを示すメッセージを表示装置40に表示させて、ドライバ状態推定処理ルーチンを終了する。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態に係るドライバ状態推定装置によれば、正常運転状態及び異常運転状態の各々における各センサから出力される信号の組み合わせの混合ガウス分布に基づいて、各センサから出力された信号の組み合わせの時系列データについて、正常運転状態及び異常運転状態の各々に対する尤度を算出し、尤度を比較して、ドライバの運転適否状態を推定することにより、ドライバの運転適否状態を精度よく推定することができる。
【0052】
また、複数種類の操作状態又は走行状態として、車速、アクセル開度、及び車間距離を検出して、車速、アクセル開度、及び車間距離の各々の1次微分及び2次微分と、車速と、車間距離との組み合わせについて、各運転適否状態に対する確率を算出して、各運転適否状態に対する尤度を算出することにより、各運転適否状態に対する尤度を精度よく算出することができる。
【0053】
また、各センサから得られる信号列に基づいて、正常運転状態および異常運転状態における運転行動を、確率モデルによってモデル化し、これらの2つの確率モデルに基づいて、正常運転状態および異常運転状態に対する、得られる信号列の時系列データの尤度を計算する。ドライバの運転適否状態が正常運転状態であれば、正常運転状態に対する尤度の方が大きくなることが期待されるため、算出される尤度を比較して、ドライバの運転適否状態を精度よく推定することが可能となる。
【0054】
また、運転適否状態として、居眠り状態、飲酒状態、漫然状態等、正常とは異なるドライバの状態を、検出される走行状態や操作状態によって推定することが可能となる
また、異常運転状態に対する尤度が大きかったとしても、正常運転状態に対する尤度が、それ以上に大きければ、ドライバの運転適否状態が正常運転状態であると推定することができるため、誤推定が生じることを防止することができる。
【0055】
従来技術では、異常運転状態を、対象信号(例えばハンドル操作量)の標準偏差に基づいて判定していた。これは、時々刻々変化する多様な運転環境を、対象信号の変化としてのみ捕らえているに過ぎない。また、直線、カーブといったおおまかな走行路の区別だけでなく、前方車両が接近している場合、アクセルを強く踏み込んでいる場合などにも、ハンドル操作量の特性が変化することが予想されるが、ハンドル操作量の標準偏差では、そのような変化を捉えることはできない。一方、本実施の形態では、確率分布である混合ガウス分布によって運転行動モデルのモデル化を行なうため、ドライバの運転行動を的確にモデル化することができる。すなわち、センサから得られる信号列を複数の混合要素に分割することによって、確率的基準に基づいて前述のような多様な操作特性を分けて捉えることができる。
【0056】
なお、上記の実施の形態では、検出する操作状態又は走行状態の特徴量として、車速、車間距離、及びアクセル開度を採用した場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、他の特徴量の組み合わせであってもよい。例えば、アクセル開度、ブレーキ操作量、及びハンドル操作量などの操作状態の特徴量の組み合わせを検出するようにしてもよい。また、走行状態を表わす特徴量のみを検出するようにしてもよい。
【0057】
また、1種類の特徴量だけを検出するようにしてもよい。例えば、アクセル開度を検出し、検出されたアクセル開度から、各運転適否状態に対する尤度を算出するようにしてもよい。
【0058】
また、ドライバの運転適否状態が、正常運転状態及び異常運転状態の何れであるかを推定する場合を例に説明したが、ドライバの運転適否状態の異常運転状態として、居眠り状態や飲酒状態など複数種類の状態の何れかであるかを推定するようにしてもよい。この場合には、複数種類の異常運転状態の各々における運転行動を、混合ガウス分布でモデル化すればよい。
【0059】
また、各運転適否状態に対する、各センサからの信号の組み合わせの確率値を算出する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、各運転適否状態に対する、各センサからの信号の組み合わせの確率密度値を算出するようにしてもよい。この場合には、信号の組み合わせの時系列データについて算出された確率密度値を累積して、各運転適否状態に対する尤度を算出すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態に係るドライバ状態推定装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るドライバ状態推定装置におけるドライバ状態推定処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態に係るドライバ状態推定装置における尤度算出処理ルーチンの内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0061】
10 ドライバ状態推定装置
12 アクセル開度センサ
14 車速センサ
16 車間距離計測部
18 コンピュータ
20 微分算出部
22 正常運転時行動モデル記憶部
24 異常運転時行動モデル記憶部
26 尤度算出部
28 ドライバ状態推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態の少なくとも一方の状態を複数検出する状態検出手段と、
予め求められた複数の運転適否状態の各々における前記状態の確率分布に基づいて、前記状態検出手段によって検出された複数の前記状態の各々の確率値又は確率密度値を、前記複数の運転適否状態の各々について算出する確率算出手段と、
前記複数の運転適否状態の各々について、前記確率算出手段によって算出された前記確率値又は確率密度値を累積して、前記運転適否状態に対する尤度を算出する尤度算出手段と、
前記尤度算出手段によって算出された前記複数の運転適否状態の各々に対する尤度を比較し、比較結果に基づいて、前記ドライバの運転適否状態を推定するドライバ状態推定手段と、
を含むドライバ状態推定装置。
【請求項2】
前記状態検出手段は、複数種類の状態を複数検出し、
前記確率算出手段は、予め求められた複数の運転適否状態の各々における前記複数種類の状態の組み合わせの確率分布に基づいて、前記状態検出手段によって検出された複数の前記複数種類の状態の組み合わせの各々の確率値又は確率密度値を、前記複数の運転適否状態の各々について算出する請求項1記載のドライバ状態推定装置。
【請求項3】
前記状態検出手段は、前記状態を連続して複数検出する請求項1又は2記載のドライバ状態推定装置。
【請求項4】
コンピュータを、
予め求められた複数の運転適否状態の各々における、自車両の走行状態及びドライバが自車両を操作したときの操作状態の少なくとも一方の状態の確率分布に基づいて、前記状態を複数検出する状態検出手段によって検出された複数の前記状態の各々の確率値又は確率密度値を、前記複数の運転適否状態の各々について算出する確率算出手段、
前記複数の運転適否状態の各々について、前記確率算出手段によって算出された前記確率値又は確率密度値を累積して、前記運転適否状態に対する尤度を算出する尤度算出手段、及び
前記尤度算出手段によって算出された前記複数の運転適否状態の各々に対する尤度を比較し、比較結果に基づいて、前記ドライバの運転適否状態を推定するドライバ状態推定手段
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−145951(P2009−145951A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319531(P2007−319531)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】