説明

ドラムブレーキのシューホールド装置

【課題】シューホールド装置におけるシューホールドスプリングの外れを防止することと組付け性を高めることの両立を図る。
【解決手段】シューホールドピンは小径軸部と大径軸部を有している。U字形のシューホールドスプリングの一対の腕片には、一端開放のスロットが形成されており、これらのスロットはシューホールドピンの小径軸部が通過可能で大径軸部が通過不能である。ウェブ側腕片には、ウェブ側腕片のスロットに連通して大径軸部を収容可能なピン挿通孔が形成されており、このピン挿通孔内にシューホールドピンの大径軸部を収容したときシューホールドスプリングの抜け出しを規制している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキシューを摺動自在かつ弾性的にバックプレート上に保持するドラムブレーキのシューホールド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
1枚の板材をU字形に折り曲げてウェブ側腕片とドラム側腕片とを形成すると共に、これらの腕片の先端において一端が開放された一対のスロットを有するシューホールドスプリングと、バックプレートに係止したシューホールドピンとにより構成するシューホールド装置が広く知られている。このシューホールド装置は、シューホールドピンをバックプレートに形成したピン挿通孔に挿通して係止した状態において、ウェブのバックプレートと反対の上面側でシューホールドスプリングをシューホールドピンの軸と交差する方向から移動させることにより、一対のスロットに沿ってシューホールドピンを通過させ、シューホールドピンの圧潰した係止頭部とウェブ間にシューホールドスプリングを弾性的に保持する構造である。
【0003】
上記した形式のシューホールド装置が特許文献1に開示されている。
特許文献1に記載のシューホールド装置は、シューホールドスプリングの一対の腕片にそれぞれ形成した一端開放のスロットの奥部に皿状に窪ませた着座部を形成し、この着座部の一方をシューホールドピンの係止頭部に係止させてシューホールドスプリングの外れを防止するようになっている。
前記シューホールド装置の組付け作業は、一対の腕片を圧縮させたシューホールドスプリングをウェブに沿ってシューホールドピンの軸と交差する方向から押し込んで、シューホールドスプリングの奥部がシューホールドピンの軸部に達するまでシューホールドスプリングを移動させ、次に一対の腕片を圧縮していた力を緩めてシューホールドスプリングの着座部の一方をシューホールドピンの係止頭部に係合して組付け作業を完了する。
【0004】
また、従来の他のシューホールド装置として、シューホールドスプリングを1枚の板材からP字形に折り曲げてウェブ側の腕片を対向する腕片に接近させたシューホールド装置が特許文献2に開示されている。
【特許文献1】米国特許第5540310号公報(図1−図3)
【特許文献2】米国特許第6062354号公報(図1−図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたシューホールド装置の特徴は、一対の腕片のスロットの奥部付近に形成した皿状の着座部と、一対の腕片の先端に形成した曲げ片とにあるが、このシューホールド装置には次のような問題がある。
(1)組付け後におけるシューホールドスプリングとシューホールドピンの係合箇所は、シューホールドピンの係止頭部とシューホールドスプリングの着座部の一方とが係合する一箇所だけであり、他にシューホールドピンとシューホールドスプリングとが係合する箇所がない。
そのため、ドラムブレーキ装置の搬送中等(車両に組付ける前の状態)において単体のドラムブレーキ装置を手扱いする際に、作業者がシューホールドスプリングを引っ張り上げてしまうと、シューホールドスプリングが前記一箇所の係合箇所を支点に回転してしまい、シューホールドスプリングが外れるおそれがある。
(2)シューホールドピンの係止頭部をシューホールドスプリングの着座部に係止させるには、シューホールドスプリングをその着座部の深さ相当量以上に強制的に弾性変形させ、その弾性変形状態を最後まで維持したままシューホールドスプリングを移動させることが必要であり、その作業性が極めて悪い。
【0006】
特許文献2に記載されたシューホールド装置には次のような問題がある。
(1)このシューホールド装置は、一対の腕片間の距離を小さく設定しているので、特許文献1の装置のように一対の腕片の先端に曲げ片を形成する必要がない。しかしながら、特許文献1の装置が有している皿状の着座部がないので、シューホールドスプリングは移動しやすく、そのためシューホールドスプリングが外れるおそれがあり、組付け後におけるシューホールドスプリングの外れ防止効果が十分とはいえない。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みて成されたものでその目的とするところは、簡易な構成で以ってシューホールド装置の組付け性を高めながら、シューホールドスプリングの外れ防止を確実に図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本願の第1発明に係るドラムブレーキのシューホールド装置は、バックプレート上に載置したブレーキシューのウェブのバックプレートと反対側の上面に配設される第1腕片と、この第1腕片と相対向して形成した第2腕片と、これらの第1腕片と第2腕片とを繋ぐ連結部とから成り、前記第1腕片および第2腕片の先端において一端が開放された一対のスロットとを有するシューホールドスプリングと、前記バックプレートに形成したピン挿通孔を通過不能な第1係止部と、この第1係止部に連続して形成したピン軸部と、このピン軸部に連続して形成した第2係止部とから成り、これらのピン軸部と第2係止部とが前記ピン挿通孔を挿通可能なシューホールドピンとを具備しており、前記ピン挿通孔に前記第2係止部と前記ピン軸部とを挿通して前記第1係止部を前記バックプレートに係止させて、前記ピン軸部の一部と前記第2係止部が前記ウェブの上面から突出した状態で、前記シューホールドスプリングを前記ウェブの上面側で前記シューホールドピンの軸と交差する方向から移動させることにより、前記一対のスロットに沿って前記シューホールドピンを通過させ、前記シューホールドピンの第2係止部と前記ウェブ間に前記シューホールドスプリングを弾性的に保持する、ドラムブレーキのシューホールド装置であって、前記シューホールドスプリングは、その第1腕片に前記スロットから連通して形成したピン挿通部を有する共に、前記シューホールドピンのピン軸部は、前記第1腕片および第2腕片のスロットを通過可能な通過軸部と、前記第1腕片のスロットを通過不能で、前記ピン挿通部に収容可能な断面形状を有する抜け止め軸部とを有し、この抜け止め軸部は、前記シューホールドピンを前記バックプレートに係止した状態で、前記バックプレート上に載置した前記ブレーキシューのウェブの上面から突出する長さを有し、この突出する長さは、前記第1腕片のピン挿通孔内にシューホールドピンの抜け止め軸部を収容したときシューホールドスプリングが前記ウェブに沿って移動するのを規制できる寸法であることを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、シューホールドスプリングの組付け後において、シューホールドスプリングの外れを確実に防止することができる。
【0010】
本願の第2発明に係るドラムブレーキのシューホールド装置は、前記した第1発明において、前記シューホールドピンは、通過軸部と抜け止め軸部との境界で、前記シューホールドスプリングの第1腕片を仮取着可能であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、シューホールドスプリングの組付け性を格段に高めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シューホールドスプリングの第1腕片に形成したスロットの開口幅と、ピン挿通孔に挿通されたシューホールドピンの抜け止め軸部との寸法差により、シューホールドスプリングの組付け後において、シューホールドピンの抜け止め軸部がシューホールドスプリングの第1腕片に形成したスロットを通過不能なので、シューホールドスプリングの外れを確実に防止することができる。
【0013】
さらに、シューホールドスプリングをシューホールドピンに仮取着可能なので、仮取着後はシューホールドスプリングを移動させるのみでよく、言い換えれば、シューホールドスプリングの弾性変形状態を維持するために力を加え続けることが不要なので、組付け性を格段に高めることができる。
【0014】
また、シューホールドピンの形状および構造が単純であるためシューホールドピンの製作が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係わるドラムブレーキのシューホールド装置について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1はバックプレート10にブレーキシュー20を弾性的に保持したシューホールド装置50の断面図、図2は一部を省略したシューホールド装置50の分解斜視図である。
【0017】
シューホールド装置50は、シューホールドスプリング30とシューホールドピン40とにより構成され、静止部材であるバックプレート10上に摺動自在に配置されたブレーキシュー20をバックプレート10上に弾性的に保持している。
【0018】
図2に示すようにブレーキシュー20は断面T字形にリム21とウェブ22を固着し、リム21の表面にライニング23を取付けて成る。
ウェブ22にはピン挿通孔22aが穿設されていて、このピン挿通孔22aは、バックプレート10に穿設したピン挿通孔11を経てウェブ22のピン挿通孔22aにシューホールドピン40を挿通できるように、バックプレート10のピン挿通孔11に対して縦列になるように形成されている。
【0019】
シューホールドピン40は円柱状のピン軸部41と、ピン軸部41の一方の端部を拡径して形成した第2係止部としての円盤形頭部42と、ピン軸部41の他方の端部を拡径して皿状に形成した第1係止部としてのフランジ43とを具備している。そして、頭部42とピン軸部41はバックプレート10とウェブ22のピン挿通孔11,22aを挿通可能で、フランジ43はバックプレート10のピン挿通孔11を挿通不能な形状に成っている。
ピン軸部41はフランジ43側に形成される抜け止め軸部としての大径軸部41aと、頭部42側に前記大径軸部41aより小径に形成された通過軸部としての小径軸部41bと、両軸部41a,41bの境界に形成された肩部41cとより構成されている。
なお、肩部41cはテーパ面であってもよい。
【0020】
小径軸部41bは圧縮状態のシューホールドスプリング30をシューホールドピンの軸と交差する方向から押し込んで組付けを可能とする部位であるから、図2に示すように小径軸部41bを連続した均一径に形成するとよい。
また大径軸部41aの軸長は、バックプレートのピン挿通孔11を通じてシューホールドピン40をブレーキ内に挿入したとき、肩部41cがウェブ22を貫通してドラム側に十分突出する長さに形成されていればよい。
詳細には、大径軸部41aが、ウェブ22の上面(ドラム側の面)から突出する寸法は、ブレーキシュー20が浮き上がったときでも後述するシューホールドスプリングのウェブ側腕片31が外れないだけの寸法があればよい
【0021】
図2,図3に例示したシューホールドスプリング30について説明すると、シューホールドスプリング30は1枚の板材を略U字形に折曲して形成したもので、第1腕片としてのウェブ側腕片31と、このウェブ側腕片31に連設して円弧形に湾曲して形成した連結部32と、この連結部32に連設してウェブ側腕片31と相対向する第2腕片としてのドラム側腕片33とを一体に有し、ウェブ側腕片31はウェブ22の上面に配設され、ドラム側腕片33はシューホールドピンの頭部42に係止される。
【0022】
ウェブ側腕片31の板面中央には一端開放のスロット31aと、スロット31aの奥部に該スロット31aの溝幅より大径のピン挿通孔31bが連通して形成されている。
スロット31aは、シューホールドピンの小径軸部41bが通過可能で、且つ、大径軸部41aが通過不能な寸法に形成されている。
【0023】
ドラム側腕片33には、シューホールドピンの頭部42および大径軸部41aが通過不能で、且つ、小径軸部41bが通過可能なスロット33aが形成されている。
【0024】
ここで、シューホールドスプリング30とシューホールドピン40の相対的な寸法関係について詳しく説明する。
なお、説明においては、ウェブ側腕片のスロット31aの開口幅をW1、ドラム側腕片のスロット33aの開口幅をW2、ピン挿通孔31bの径をD、シューホールドピンの大径軸部41aの径をd1、小径軸部41bの径をd2(以上、図3参照)とし、頭部42の径をd3(図1参照)とする。
【0025】
ウェブ側腕片のスロット31aの開口幅W1は、d2<W1<d1<Dの関係式が成り立つように形成されている(図3参照)。
このような寸法関係にしたのは、ドラム側腕片33とウェブ側腕片31間にシューホールドピンの小径軸部41bを収容可能とすることと、シューホールドスプリング30の組付け完了後は、ピン挿通孔31bに位置させた大径軸部41aがウェブ側腕片のスロット31aを通過不能として、シューホールドスプリング30が外れてしまうのを防止するためである。
【0026】
前記したウェブ側腕片のピン挿通孔31bの径Dと、大径軸部41aの径d1は、その寸法差に比例して大径軸部41aに対するウェブ側腕片31の移動量が大きくなる要因となるため、寸法差はできるだけ小さくすることが望ましい。
【0027】
ドラム側腕片のスロット33aの開口幅W2は、d2<W2<d3の関係式が成り立つように形成されている(図4参照)。
【0028】
前述したように、シューホールドピンの大径軸部41aが、ウェブ22の上面(ドラム側の面)から突出する寸法は、ブレーキシューが浮き上がったときでも後述するシューホールドスプリングのウェブ側腕片31が外れないだけの寸法があればよい。
具体的には、シューホールドスプリング30を組付け後の状態において、大径軸部41aがウェブ22の上面から突出する長さをL1、シューホールドスプリング30の弾性保持力に抗してブレーキシュー20が浮き上がる量をL2とした場合、L2<L1の関係式が成り立つように形成されている(図1参照)。
【0029】
本発明は後述するようにシューホールドピンの小径軸部41bに対し圧縮状態でシューホールドスプリング30を一方向から押し込み操作をするだけで、一対の腕片31,33をウェブ22とシューホールドピンの頭部42にそれぞれ係止できる。言い換えれば、シューホールドスプリング30はウェブ22とシューホールドピンの頭部42との間に弾性的に保持できる。このように保持されたシューホールドスプリング30は、そのウェブ側腕片のスロット31aの開口幅と、ピン挿通孔31bに挿通されたシューホールドピンの大径軸部41aの径との寸法差により、シューホールドスプリング30の外れ防止を確実に図れるようにしたものである。
【0030】
また、本発明は後述するようにシューホールドピンの小径軸部41bに対し圧縮状態でシューホールドスプリング30を一方向から押し込み操作をするだけで、ウェブ側腕片31およびドラム側腕片33をシューホールドピンの肩部41cおよびシューホールドピンの頭部42にそれぞれ係止できる。言い換えれば、シューホールドスプリング30をシューホールドピンの小径軸部41bに仮取着できるので、シューホールド装置50の組付け性を格段に高めることができる。
【0031】
[作用]
次に図5,図6に基づいてシューホールド装置50の組付け方法について説明する。
【0032】
バックプレートのピン挿通孔11を通じてブレーキ内に挿入したシューホールドピン40を、ブレーキシューのウェブ22に形成されたピン挿通孔22aに挿入して、ウェブ22の上面(ドラム側の面)に頭部42と小径軸部41b、および大径軸部41aの一部を突出させる。
【0033】
次に、ブレーキシューのウェブ22の上面にウェブ側腕片31を対向させた状態でシューホールドスプリング30を圧縮して一対の腕片31,33を互いに接近させる。
シューホールドピンの小径軸部41bが一対の腕片31,33に形成されたスロット31a,33aを通過できるように、シューホールドスプリング30を圧縮状態のままシューホールドピンの軸と交差する方向から押し込む。
シューホールドピンの小径軸部41bが一対のスロット31a,33aに十分に掛ったときにシューホールドスプリング30を圧縮していた力を開放すると、蓄えられたばね力によりドラム側腕片33が頭部42に当接するとともに、ウェブ側腕片31が肩部41cに当接し、シューホールドスプリング30が、小径軸部41bに弾性的に保持される(図5参照)。
【0034】
一対の腕片31,33をシューホールドピンの小径軸部41bに弾性的に保持した後におけるシューホールド装置50の組付け作業を詳しく説明する。
シューホールドスプリング30をさらに押し込むことにより、シューホールドピンの小径軸部41bがウェブ側腕片のスロット31aの開口側から大径のピン挿通孔31b方向へ移動していくと、ウェブ側腕片31を当接支持していた部位(肩部41c)がウェブ側腕片31を支持しなくなる(図6参照)ために、蓄えられたばね力によりウェブ側腕片31がドラム側腕片33と離隔する方向に弾性変形してウェブ22の上面に弾接する(図1参照)。
【0035】
この時、シューホールドピンの大径軸部41がウェブ側腕片31に形成されたピン挿通孔31bに瞬間的に嵌入して収容される。
【0036】
最終的に、シューホールドピンのフランジ43が係止するバックプレート10と、シューホールドピンの頭部42との間でシューホールドスプリング30のばね力が保持されるため、バックプレート10に対してブレーキシュー20を弾性的に保持することができる(図1参照)。
【0037】
このように、本発明は一対の腕片31,33を圧縮させたシューホールドスプリング30をシューホールドピン40の小径軸部41bに対してシューホールドピンと交差する方向から移動させるだけで、シューホールドスプリング30をシューホールドピンの頭部42とウェブ22の上面(ドラム側の面)との間に縮設することができる。
組付けを完了したシューホールド装置50は、シューホールドスプリングのウェブ側腕片のピン挿通孔31bに収容された大径軸部41aがウェブ側腕片31に形成したスロット31aを通過不能な寸法関係になっているので、ウェブ側腕片31が大径軸部41aから外れることがない。また、大径軸部41aの長手方向の寸法は、たとえブレーキシュー20が浮き上がってシューホールドスプリング30が撓んだ場合でも掛かり代を確保するようになっているので、さらに安心である。
【実施例2】
【0038】
図7〜図9に他の実施例に係わるシューホールド装置50を示す。
図8に示すように本例のシューホールド装置50は、スロット33aを有するドラム側腕片33の中央部に板面をウェブ側腕片31へ向け窪んだ座部33bを形成したシューホールドスプリング30と、小径軸部41bの先端部に扁平で半円形を呈する頭部42が形成されたシューホールドピン40とにより構成するものである。
本例のシューホールドスプリングのドラム側腕片33には、シューホールドピンの頭部42および大径軸部41aが通過不能で、かつ小径軸部41bが通過可能な一端開放のスロット33aが配設されている。
【0039】
図7,図9を基にシューホールド装置50の組付け操作について説明する。
一対の腕片31,33をシューホールドピンの小径軸部41bに弾性的に保持するまでは実施例1と同様であるので、それ以降におけるシューホールド装置50の組付け作業のみを説明する。
【0040】
シューホールドピンの小径軸部41bが一対の腕片31,33に形成されたスロット31a,33aの奥部に達するように、シューホールドスプリング30を押し込むことにより、シューホールドピンの小径軸部41bがウェブ側腕片のスロット31aの開口側から大径のピン挿通孔31b方向へ移動していくと、ウェブ側腕片31を当接支持していた部位(肩部41c)およびドラム側腕片33を当接支持していた部位(ドラム側腕片33の先端から座部33bまでの部位)が両腕片31,33を支持しなくなる(図9参照)ために、蓄えられたばね力によりウェブ側腕片31とドラム側腕片33とが離隔する方向に弾性変形する。これにより、ドラム側腕片の座部33aに小径軸部41bより幅広の頭部42が係合して位置決めされるとともに、ウェブ側腕片31がウェブ22の上面に弾接する(図7参照)。
【0041】
この時、シューホールドピンの大径軸部41aがウェブ側腕片31に形成されたピン挿通孔31bに瞬間的に嵌入して収容される。
【0042】
最終的に、シューホールドピンのフランジ43が係止するバックプレート10と、シューホールドピンの頭部42との間でシューホールドスプリング30のばね力が保持されるため、バックプレート10に対してブレーキシュー20を弾性的に保持することができる(図7参照)。
本実施例の形態によれば、従来から汎用的に広く使用されている扁平な頭部42を有するシューホールドピン40を適用できるので、新たにシューホールドピン40を製作する必要がなく、そのコストを省くことができる利点がある。
【0043】
図8に示すように一対の腕片31,33に形成されたスロット31a,33aの入口側の溝幅を幅広に形成してガイド機能を付与すると、シューホールドピン40への差込み操作性がよくなる。
【0044】
上述した実施例では、その発明の理解のために、断面が円形のシューホールドピンを用いたが、最初にシューホールドスプリングをシューホールドピンに組付け始める小径軸部に相当する部位と、両者の組付け完了後にシューホールドスプリングが外れてしまうのを防止する大径軸部に相当する部位があればよく、断面が多角形やその他の形状でも良いことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施例1に係わるドラムブレーキのシューホールド装置の断面図
【図2】本発明の実施例1に係わるシューホールド装置の分解斜視図であって、一部を省略した図
【図3】図1におけるIII−III断面図
【図4】図1におけるIV矢視図
【図5】本発明の実施例1に係わるシューホールド装置の組付け作業の説明図であって、シューホールドスプリングを組付け始めた初期段階におけるシューホールド装置の断面図
【図6】本発明の実施例1に係わるシューホールド装置の組付け作業の説明図であって、シューホールドピンがシューホールドスプリングのピン挿入孔に達した瞬間におけるシューホールド装置の断面図
【図7】本発明の実施例2に係わるドラムブレーキのシューホールド装置の断面図
【図8】本発明の実施例2に係わるシューホールド装置の分解斜視図であって、シューホールドピンとシューホールドスプリングのみを記した図
【図9】本発明の実施例2に係わるシューホールド装置の組付け作業の説明図であって、シューホールドスプリングを組付け始めた初期段階におけるシューホールド装置の断面図
【符号の説明】
【0046】
10 バックプレート
11 バックプレートのピン挿通孔
20 ブレーキシュー
22 ブレーキシューのウェブ
22a ウェブのピン挿通孔
30 シューホールドスプリング
31 シューホールドスプリングのウェブ側腕片(第1腕片)
31a ウェブ側腕片のスロット
31b ウェブ側腕片のピン挿通孔
32 シューホールドスプリングの連結部
33 シューホールドスプリングのドラム側腕片(第2腕片)
33a ドラム側腕片のスロット
33b ドラム側腕片の座部
40 シューホールドピン
41 シューホールドピンのピン軸部
41a ピン軸部の大径軸部(抜け止め軸部)
41b ピン軸部の小径軸部(通過軸部)
41c ピン軸部の肩部
42 シューホールドピンの頭部(第2係止部)
43 シューホールドピンのフランジ(第1係止部)
50 シューホールド装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックプレート上に載置したブレーキシューのウェブのバックプレートと反対側の上面に配設される第1腕片と、この第1腕片と相対向して形成した第2腕片と、これらの第1腕片と第2腕片とを繋ぐ連結部とから成り、前記第1腕片および第2腕片の先端において一端が開放された一対のスロットとを有するシューホールドスプリングと、前記バックプレートに形成したピン挿通孔を通過不能な第1係止部と、この第1係止部に連続して形成したピン軸部と、このピン軸部に連続して形成した第2係止部とから成り、これらのピン軸部と第2係止部とが前記ピン挿通孔を挿通可能なシューホールドピンとを具備しており、前記ピン挿通孔に前記第2係止部と前記ピン軸部とを挿通して前記第1係止部を前記バックプレートに係止させて、前記ピン軸部の一部と前記第2係止部が前記ウェブの上面から突出した状態で、前記シューホールドスプリングを前記ウェブの上面側で前記シューホールドピンの軸と交差する方向から移動させることにより、前記一対のスロットに沿って前記シューホールドピンを通過させ、前記シューホールドピンの第2係止部と前記ウェブ間に前記シューホールドスプリングを弾性的に保持する、ドラムブレーキのシューホールド装置であって、
前記シューホールドスプリングは、その第1腕片に前記スロットから連通して形成したピン挿通部を有する共に、
前記シューホールドピンのピン軸部は、前記第1腕片および第2腕片のスロットを通過可能な通過軸部と、前記第1腕片のスロットを通過不能で、前記ピン挿通部に収容可能な断面形状を有する抜け止め軸部とを有し、
この抜け止め軸部は、前記シューホールドピンを前記バックプレートに係止した状態で、前記バックプレート上に載置した前記ブレーキシューのウェブの上面から突出する長さを有し、
この突出する長さは、前記第1腕片のピン挿通孔内にシューホールドピンの抜け止め軸部を収容したときシューホールドスプリングが前記ウェブに沿って移動するのを規制できる寸法であることを特徴とする、
ドラムブレーキのシューホールド装置。
【請求項2】
請求項1において、前記シューホールドピンは、その通過軸部と抜け止め軸部との境界で、前記シューホールドスプリングの第1腕片を仮取着可能であることを特徴とする、ドラムブレーキのシューホールド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−168177(P2009−168177A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7926(P2008−7926)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】