説明

ドリルビット及びドリルビットの製造方法

【課題】 穿孔寿命を改善し、穿孔穴の穴あけ精度を向上させたドリルビット及びその製造方法を実現する。
【解決手段】
円柱状又は円筒状の金属ボディを有するドリルビットの製造方法において、金属ボディの先端を液状のろう材に浸漬して引き出し(31)、塗布されたろう材にダイヤモンド砥粒を付着させ(33)、ダイヤモンド砥粒が付着されたろう材の外周側面と先端面を型に押し付けて整形した後に焼結することにより穿孔刃を製造する(35、36、38)。整形工程においては、穿孔刃を、湾曲凹面状の型にろう材の外周側面を押し付けながら金属ボディを回転させて外周側面を整形し、平面状の型にろう材の先端面を押し付けて先端面を概ね平坦に整形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート、硬質タイルなどの穿孔に使用されるダイヤモンドを用いたドリルビット及びドリルビットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート、モルタル、タイルなどの穴あけに使用されるダイヤモンドを用いたドリルビットは、大径穴の穿孔に使用されるコア形と、細径穴の穿孔に使用されるノンコア形とがあり、穿孔刃がダイヤモンド砥粒と金属粉末の焼結体で形成されている。穿孔刃に含有されるダイヤモンド砥粒の体積含有率は、ダイヤモンド砥粒の保持力と穿孔刃の強度を保つために、5〜15Vol%程度の含有率とされることが多い。通常、ダイヤモンドの含有率が低いと切れ味が劣り、コンクリート等へ穿孔するにはビットの回転動作のみでは穿孔が困難となるため、回転動作に加えて振動動作を与える振動ドリル、打撃動作を与えるハンマドリルなどの専用電動工具に取り付けて使用されることが多かった。その場合、振動、打撃による騒音を伴っていた。
【0003】
これに対し特許文献1によれば、ドリルビットの金属ボディの先端に一条のスリットを設け、金属ボディの外周面及び先端面にろう付用合金(ろう材)を溶融してダイヤモンド砥粒を固着させる(溶着)ようにしたドリルビットが開示されている。このドリルビットは、コンクリートや石材などに代表される硬脆材に対して孔あけ作業を行う場合に、冷却水またはその他の加工液を用いずに、通常のドリルに装着するだけで容易に操作することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−108117号公報
【0005】
図10は、従来のドリルビット101における穿孔刃103の形状を示す図である。穿孔刃103は、主にろう材104とダイヤモンド砥粒105により構成される。最初に、円柱状又は円筒状のボディ102の先端を液状のろう材に浸漬することによりろう材104が塗布される。ろう材104塗布後のボディ102の先端部分は、浸漬して引き上げるときにできる垂れ下がった滴状の形状となることが多い。その後、ダイヤモンド砥粒105を滴状のろう材104に振り掛ける等の方法で付着させる。この付着後の形状は、図10で示すように、垂れ下がった滴状のろう材の外周面にダイヤモンド砥粒105がちりばめられた形となる。尚、図10では説明の便宜上、ダイヤモンド砥粒105がまばらに付着されたように図示しているが、実際にはできるだけ多くのダイヤモンド砥粒105がろう材に付着される。その後、ろう材104を十分乾燥させた後に、真空雰囲気または還元性ガス雰囲気炉内で高温加熱する(溶着工程)ことによってダイヤモンド砥粒105がろう材104によってボディ102に固定される。
【0006】
このように、従来のドリルビット101においては、ボディ102の先端に形成される穿孔刃103の形状は滴状となることが多く、先端の外周側側面に矢印108aの部分のように突出する凸部や、矢印108bで示す部分のように先端面(下面)中央付近に突出する凸部が、溶着後にろう材から外部に大きく突出したままとなることがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した従来のドリルビットでは、外周側面および先端面に凸部を有する穿孔刃103を用いると、穿孔時にはこの凸部に応力が集中してしまう。そのため、矢印108a、108bの部分が欠けてしまう原因となっていた。「欠けてしまう」とは、例えば、ダイヤモンド砥粒105の脱落又はろう材104の欠損が生じることである。このように穿孔刃103の先端面又は外周側面に凸部が形成されていると、穿孔作業時に応力集中による欠けが発生してドリルビットの穿孔寿命が短くなってしまう。また、穿孔刃103の外周側面および端面に有する凸部は、穴あけ径の精度を悪化させる原因となることから、極力凸部が生じないようにドリルビットを製造することが望まれていた。
【0008】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は穿孔寿命を改善できるドリルビット及びその製造方法を実現することである。
【0009】
本発明の他の目的は、穿孔穴の穴あけ精度を向上できるドリルビット及びその製造方法を実現することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、穿孔効率(穿孔性能)を向上させるようにダイヤモンド砥粒を配置したドリルビット及びその製造方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0012】
本発明の一つの特徴によれば、円柱状又は円筒状の金属ボディの先端にダイヤモンド砥粒をろう材によって固定することにより穿孔刃を形成するドリルビットの製造方法において、金属ボディの先端を液状のろう材に浸漬して引き出し、塗布されたろう材にダイヤモンド砥粒を付着させ、ダイヤモンド砥粒が付着されたろう材の外周側面と先端面を型に押し付けて円筒状あるいは円柱状に整形するようにした。穿孔刃の整形を行った後に穿孔刃が焼結される。
【0013】
本発明の他の特徴によれば、穿孔刃の外周側面を湾曲凹面状の型に押し付けながら金属ボディを回転させて、ろう材の外周側面を概ね円筒形に整形する。さらに、穿孔刃の外周側面を平面状の型に押し付けて、ろう材の先端面を概ね平坦に整形する。
【0014】
本発明のさらに他の特徴によれば、平面状の型のろう材が押し付けられる面に、ダイヤモンド砥粒の平均粒径の1/2〜1倍の平均粒径を有する整形用ダイヤモンド砥粒を多数設け、整形用ダイヤモンド砥粒が設けられた面を用いてろう材の先端面を整形する。
【0015】
本発明のさらに他の特徴によれば、金属ボディは円筒状であり、穿孔刃は円筒状の金属ボディの開口部に設けられ、穿孔刃の内周部を、中央に円筒形の凸部を有する型の凸部に押し付けることにより穿孔刃の内周部を整形する。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、液状のろう材にダイヤモンド砥粒を付着させ、ダイヤモンド砥粒が付着されたろう材の外周側面と先端面を型に押し付けて整形した後に焼結するので、穿孔刃の外周側面と先端面に凸部の無いろう材の形状を整形でき、穿孔時の応力が集中して欠けを生じていた凸部を整形によってなくし、切削時に欠けの少ないドリルビットを実現できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、穿孔刃を円筒状あるいは円柱状に整形するので、ノンコア型とコア型の双方のドリルビットにおいて外周側面と先端面に凸部の無い形状の穿孔刃を形成することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、穿孔刃の外周側面を湾曲凹面状の型に押し付けながら金属ボディを回転させて、ろう材の外周側面を整形するので、円筒度、芯円度の高い形状に整形でき、穿孔刃の外周側面に突出する凸部の少ない形状を実現できる。また、押し付け力により、塗布されたダイヤモンド砥粒がボディ面に接触するので、ダイヤモンド砥粒の突き出し高さが揃えられるドリルビットを実現できる。
【0019】
請求項4の発明によれば、穿孔刃の外周側面を平面状の型に押し付けて、ろう材の先端面を整形するでき、穿孔刃の先端面に突出する凸部の少ない形状にすることができる。また、穿孔作業時に穿孔刃の先端面のダイヤモンド砥粒全体がコンクリートなどの被削材に均等に接触して穿孔するため、ダイヤモンド砥粒の偏磨耗を抑制して、穿孔寿命を延ばす効果がある。
【0020】
請求項5の発明によれば、整形用ダイヤモンド砥粒が設けられた面を用いてろう材の先端面を整形するので、ろう材の先端面を押し付けて整形した際に、各ダイヤモンド砥粒の平坦面が外側を向いて揃っているため、ダイヤモンド砥粒に若干の回転を加え、ダイヤモンド砥粒の角を外側へ向かわせて鋭利な切れ刃とすることができ、切れ味を上げる効果がある。
【0021】
請求項6の発明によれば、穿孔刃の内周部を、中央に円筒形の凸部を有する型の凸部に押し付けることにより穿孔刃の内周部を整形するので、コアタイプの穿孔刃の内周面を良好な形状に整形することができる。
【0022】
請求項7の発明によれば、請求項1から6のいずれか一項の方法により製造されるドリルビットが実現できるので、耐久性が良くて穿孔性の良いドリルビットを提供することができる。
【0023】
請求項8の発明によれば、穿孔刃の外周側面を湾曲凹面状の型に押し付けながら金属ボディを回転させて、ろう材の外周側面を整形するので、円筒度、芯円度の高い形状に整形でき、穿孔刃の外周側面に突出する凸部の少ない穿孔刃形状を実現したドリルビットを提供できる。
【0024】
請求項9の発明によれば、穿孔刃の先端面に突出する凸部の少ない形状にすることができ、良好な穿孔性能を有するドリルビットを提供できる。
【0025】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は本発明の実施例に係るドリルビットの製造手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施例に係る穿孔刃3へのダイヤモンド砥粒の付着させる方法を示す図である。
【図3】本発明の実施例に係る穿孔刃3の外周側面を湾曲凹面状の型21へ押し付けながら整形する工程を説明する概略図である。
【図4】本発明の実施例に係る穿孔刃3の先端面を平面状の型31へ押し付けながら整形する工程を説明する概略図である。
【図5】本発明の実施例に係る穿孔刃3の先端面を平面状の型41へ押し付けながら整形する工程を説明する概略図である。
【図6】本発明の第2の実施例に係るコア形のドリルビット51の正面図である。
【図7】本発明の第2の実施例に係るコア形のドリルビット51の断面図である。
【図8】本発明の第3の実施例に係る穿孔刃3の内周面を、中央に円筒形の凸部を有する型81へ押し付けながら整形する工程を説明する概略図である。
【図9】本発明の実施例に係るドリルビット1の正面図である。
【図10】従来技術によるドリルビット101の穿孔刃103部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0027】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本明細書においては、ドリルビット単体の上下方向は図9に示す方向であるとして説明する。
【0028】
最初に図9を用いて、本実施例に係るノンコア型のドリルビット1の全体構成を説明する。ドリルビット1を構成する部材は、円柱状のベース部分を構成する金属製のボディ2と、後端側に形成される取付部10と、ボディ2と取付部10の間に形成される円盤状のツバ部12と、ボディ2の先端部に設けられる穿孔刃3によって構成される。取付部10は、駆動源となる動力工具に取り付けるための断面が六角形の、いわゆる六角軸であり、例えば、ドリルビット1を電動ドリル、インパクトドライバ、ハンマドリルなどの駆動用工具の六角取付口に装着することができる。六角形状の中心軸に対称な対辺間の間隔は例えば6.35mmであって、軸方向の長さ(上下方向長さ)は30mm程度である。また、取付部10の軸方向(上下方向)の中央付近に、円周方向に連続した窪み部11を形成して、インパクトドライバ等のいわゆるワンタッチ取り付け機構のボールが嵌合できるように構成した。窪み部11の最細部の直径は、例えば5mmである。
【0029】
ツバ部12は、穿孔作業中に発生する粉塵が図示しないインパクト工具などの動力工具や作業者側に直接飛散するのを低減させる役目を果たすものであり、ボディ2及び取付部10の直径よりも大きい直径を有する。ボディ2の直径は、被削材にあける穴の大きさによって決定される。例えば、直径5mm程度から直径40mm以上の大径のボディ2まで、様々なサイズのドリルビット1が提供される。穿孔作業においては、ドリルビット1を低速で回転させると好ましく、例えば毎分1,000〜3、000回転程度で回転させる。
【0030】
穿孔刃3は、例えば砥粒を単層に並べて溶着させた単層構造からなるものである。ボディ2の側面には、らせん状の突起13が形成される。らせん状の突起13は、ボディ2と一体で構成されると好ましい。らせんの向きは、通常のドリル刃と同じように回転方向に対して切削粉を後端側(上側)に引き出すような回転方向とする。突起13の製造方法は、規定の厚さよりも肉厚の円筒形のボディ2から、突起13の部分を残すようにらせん状に削り出すことによって製造する。尚、突起13の外径は、穿孔刃3の外径(切削径)よりやや小さく構成すると良い。
【0031】
次に、ドリルビット1の製造手順を図1のフローチャートを用いて説明する。ドリルビット1を製造するにあたって、最初に公知の加工方法を用いてドリルビット1の取付部10及びボディ2の機械加工を行う(ステップ31)。ドリルビット1の取付部10及びボディ2は例えば鉄系の合金製であり、機械加工によって図9に示すドリルビット1のうち、穿孔刃3がつけられていない状態の形状に形成される。次に、機械加工した素材全体に錆止め処理等の保護のための下地塗りを行う(ステップ32)。
【0032】
次に、塗られた下地用の塗料が十分乾燥した後に、ドリルビット1のボディ2の先端(下端)をビーカー等の容器内に入れた液状のろう材(ろう材ペースト)に浸した後に引き上げる(ステップ33)。ろう材には、いわゆる「銀ろう」「銅ろう」「ニッケルろう」等の市販されているろう材を用いることができる。ろう材を、ボディ2の先端部分に浸漬させてボディ2を引き上げることにより、ろう材4をボディ2に簡単に付着させることができる。このようにろう材4を付着させることにより、金属製のボディ2の先端部分に塗り残し無く所定量のろう材4を塗布することができる。
【0033】
次に、ドリルビット1を上下反転させて倒立状態にして、上からダイヤモンド砥粒を振りかけることにより、ボディ2の先端(下端)に塗布したろう材の表面にダイヤモンド砥粒を付着させる(ステップ34)。ステップ33の終了からステップ34でダイヤモンド砥粒を付着させるまでの時間は、例えば30秒から60秒程度である。図2は、ダイヤモンド砥粒を付着させる方法を示す図である。ここでは、ボディ2の上下をひっくり返して倒立させた状態にして、上から多数のダイヤモンド砥粒5を振りかけるように矢印20のように落下させ、ろう材4にダイヤモンド砥粒5を付着させる。この際、ボディ2を直立状態でなく斜めに傾けたり回転させたりして、ろう材4にダイヤモンド砥粒5をまんべんなく付着させることが重要である。この振りかける工程は、重力によって単純にダイヤモンド砥粒5を落下させるようにするだけで十分であるが、その他、ダイヤモンド砥粒5に所定の速度をつけて付着させるようにしても良いし、その他の方法によって付着させても良い。
【0034】
次に、ダイヤモンド砥粒5を振りかけた後に、第1の整形工程に進む。これはボディ2を横に寝かせた状態として、穿孔刃3の外周側面を湾曲凹面状の型21へ押し付けながら、ボディ2を回転させる(ステップ35)。図3は、穿孔刃3の外周側面を湾曲凹面状の型21へ押し付けながら整形する工程を説明する概略図である。型21の上面は、軸方向と垂直方向に所定の曲率を有する曲面に形成される。従って、上面の軸方向と垂直の辺21a、21cは曲線となり、上面の軸方向と平行な辺21b、21dは直線となる。このような型21を用いて、ボディ2を矢印22の方向に所定の力で押しつけながら、矢印23の方向、あるいは矢印23とは逆方向に移動させながら回転させる。回転させる回数は1回でも複数回でも良い。このように湾曲凹面状の型21へ押し付けと回転を加えることによって穿孔刃3を整形することにより、垂れ下がった滴状の形をした穿孔刃3の外周側面を概ね円柱状に整形することができ、円筒度、芯円度の高い形状に整形することができる。この結果、従来例において穿孔刃の外周側面で見られたような大きな凸部をほとんど無くすることができ、穿孔刃3の一部分に応力が集中することが原因の欠けを大幅に抑制することができる。
【0035】
また、矢印22の方向への押し付け力により、塗布されたダイヤモンド砥粒5がボディ2の表面に接触し、ダイヤモンド砥粒5の突き出し高さが揃えられるので、穿孔作業時にはダイヤモンド砥粒5全体がコンクリートなどの被削材に均等に接触する。この結果、ダイヤモンド砥粒5の偏磨耗を抑制することができ、穿孔刃3による穿孔寿命を大幅に延長でき、穴あけ径精度が長く持続する。
【0036】
次に、第2の整形工程に進み、穿孔刃3の先端面(下端面)を整形する(ステップ36)。図4は、本発明による穿孔刃3の先端面を平面状の型31へ押し付けながら整形する工程を説明する概略図である。図3で示したように穿孔刃3の外周側面を整形した後に、穿孔刃3の刃先端面を平面状の型31を用いて整形する。平面状の型31は、例えば鉄系合金或いはアルミ系合金による平板状の板であり、その上面31a及び下面31bは平面である。このような型31を用いて、ボディ2を矢印24の方向に平面状の型31に押し付けて、穿孔刃3の先端面が概ね平坦になるように整形する。これにより、従来、穿孔刃3の先端面で見られた凸部(例えば図10の108a、108b)が無い形状となり、凸部に加わる大きな応力によるダイヤモンド砥粒5の欠けを大幅に抑制できる。また、穿孔作業時にドリルビットをコンクリートなどの被削材に押し当てると、穿孔刃3の先端面のダイヤモンド砥粒5全体が被削材に対して均等に接触して穿孔するため切削効率が向上する。さらに、ダイヤモンド砥粒5の偏磨耗を抑制することができ、穿孔寿命を延ばす効果が得られる。
【0037】
次に、整形した穿孔刃3を所定時間、例えば数十分から数時間程度、大気中において乾燥させる(ステップ37)。その後、水素を充填した高温炉等を用いて、還元雰囲気内で焼結して(ステップ38)、ドリルビット1が完成する。尚、焼結の際の温度や焼結時間は、ろう材4の材質で変わるが、例えばニッケルベースのろう材4を用いる場合は、1000℃程度の炉内で30分以上焼結すると好ましい。焼結により、ろう材4の溶媒成分が蒸発し、その後融解することにより、ダイヤモンド砥粒5がボディ2にしっかり固定されると共に、ダイヤモンド砥粒5がろう材4の表面から外部に大きく露出するようになる。
【実施例2】
【0038】
次に、図5を用いて第2の実施例を説明する。第1の実施例においては、穿孔刃3の側面を整形する第1の整形加工と、穿孔刃3の先端面を整形する第2の整形加工を用いて、穿孔刃の形状を整えるようにした。しかしながら、本方法を用いると、図4の型31の上面31aと接触するダイヤモンド砥粒5の接触面5aがほぼ平行にそろってしまい、ダイヤモンド砥粒5の平面部分が下側に位置するように整列する。このため、ランダムにダイヤモンド砥粒5を配置させた従来の穿孔刃に比べて切れ味がやや劣る傾向にあることがわかった。そこで、第2の実施例においては、ステップ36で用いる平面状の型31の代わりに改良した平面状の型41を用いて整形するようにした。
【0039】
図5は、第2の実施例に係る平面状の型41を用いて穿孔刃3の先端面を整形する状態を示す図である。平面状の型41は、上面に無数のダイヤモンド砥粒42を、予め接着等により固定しておく。このダイヤモンド砥粒42は、穿孔刃3側に付着させるものではなく、穿孔刃3側のダイヤモンド砥粒5の向きを調整するために設けられるもので、ダイヤモンド砥粒42は平面状の型41から離脱しないように固定しておくと好ましい。また、穿孔刃3側のダイヤモンド砥粒5の向きを調整する目的を達成するためには、ダイヤモンド砥粒42は、穿孔刃3に付着されるダイヤモンド砥粒5の平均粒径の1/2〜1倍の平均粒径とするのが好ましい。
【0040】
通常、工業用のダイヤモンド砥粒42の結晶構造は、多くが多面体である。そして、その内の1面(42a)を平面状の型41の上面に接するようにして接着すると、その対向側に突起(42b)が位置することになる事が多い。即ち、図5に図示するようにダイヤモンド砥粒42bの突起42bは上向きになるように配置される。このようなダイヤモンド砥粒42に対して、穿孔刃3を矢印25のように押しつけると、ダイヤモンド砥粒42の突起42bが相対するダイヤモンド砥粒5の間隙に入りこみ、塗布されたダイヤモンド砥粒5を若干回転させ、鋭利な角を外側に向けることができる。このようにして、ダイヤモンド砥粒5の鋭利な角の方向を積極的に調整することにより、切れ味が良好なドリルビットを実現することができる。
【0041】
尚、発明者らの実験により、平面状の型41に固定されるダイヤモンド砥粒42の平均粒径がドリルビット1の穿孔刃3の切れ味に大きく影響するということが判明した。即ち、ダイヤモンド砥粒42の平均粒径が塗布されたダイヤモンド砥粒5の平均粒径の1/2倍未満では、穿孔刃3の先端面を平面状の型41に押し当てた際にダイヤモンド砥粒42の先端角がダイヤモンド砥粒5の間隙に十分入りこむことができず、ダイヤモンド砥粒5に理想的な回転力を加えることができない。また、ダイヤモンド砥粒42の平均粒径が塗布されたダイヤモンド砥粒5の1倍を超えるとダイヤモンド砥粒5の間隙に大きく食い込んで、ダイヤモンド砥粒5を横へ押しのけ、ダイヤモンド砥粒5の偏在を生じてしまう。従って、ダイヤモンド砥粒42は、穿孔刃3に付着されるダイヤモンド砥粒5の平均粒径の1/2〜1倍程度とすることが好ましい。
【実施例3】
【0042】
以上説明したドリルビットは図9に示したような、いわゆるノンコア型のドリルビットであるが、本発明はいわゆるコア型のドリルビットにも同様に適用できる。図6はコア型のドリルビット51の正面図である。ドリルビット51を構成する部材は、円筒状の金属製のボディ52と、ボディ52の後端側に接続される取付部60と、ボディ52と取付部60の間に形成されるボディ52の外径よりも大きい径を有する円盤状のツバ部62と、ボディ52の開口先端部に設けられる穿孔刃53によって構成される。取付部60の軸方向(上下方向)の中央付近には、窪み部61が形成される。
【0043】
ボディ52は取付部60に対してその径が大きくなっており、ボディ52の内部には空洞が形成されて略円筒状に形成される。ボディ52の側面には、らせん状の突起63が形成される。らせん状の突起63は、ボディ52と一体で構成されると好ましい。らせんの向きは、通常のドリル刃と同じように回転方向に対して切削粉を後端側に引き出すような回転方向とすれば良い。ボディ52の先端側(下端側)の開口部には、切削粉のはけやドリルビット1の抜けを良くするため、軸方向に切り欠き52aを形成してもよい。ドリルビット51において、穿孔刃53の円周上の一部分に設けることにより穿孔刃53を分割して形成することができ、穿孔された被削材から発生する細かい粉塵が切り欠き52aによって効果的に排出され、穿孔効率の向上を図ることができる。
【0044】
ボディ52の側方にはコア排出孔65が形成される。コア排出孔65はボディ52の内部に貯まったコアを外部に排出するために形成されたもので、内部空間と外部を貫通させる横穴である。コア排出孔65は、ボディ52の内部空間の内後端側(上側)に配置すると良い。コア排出孔65の形状は比較的任意であり、内部空間にたまったコアを効果的に外部に排出できるように、ある程度の大きさを有することが好ましい。本実施例では、正面から見たとき(図6にように見た際)に、コア排出孔65が長方形の上下辺に、半円を接続したような長円形状としている。また、コア排出孔の幅については、切削時に内部空間に溜まるコアが穿孔刃53の内径より若干小さい径を有して溜まることから、穿孔刃53の内径と同程度かもしくは若干大きい程度確保されていることが好ましい。
【0045】
図7はドリルビット51の断面図である。ボディ52は円筒状の形状をしており、ボディ52と突起63は一体に構成される。突起63は、ボディ52の外周に沿って下端付近からツバ部62付近までらせん状に連続して延びる。その製造方法は、均一肉厚の円筒状のボディ52を準備し、最初に切削加工によってらせん状に連続した溝64を形成する。らせん状の突起63の軸方向幅w1と溝64の軸方向幅w2の比は、本実施例では7:2位である。しかしながらこれらの幅w1、w2の大きさは任意であり、特に溝64の軸方向幅w2は、切削対象から生ずる切削粉の粒子の量や大きさ等を考慮してその幅の大きさ、溝64の半径方向の深さを決めれば良い。
【0046】
図7において、穿孔刃53は円筒形のボディ52の下端部付近の内周面53cから先端面53b、外周面53aにかけて連続して形成される。このうち、穿孔刃53の外周面53aの成型方法は図3で説明した整形方法と同様に整形できる。また、穿孔刃53の先端面53bの成型方法は図4又は図5で説明した整形方法と同様に整形できる。しかしながら、第1の実施例による整形手順では穿孔刃53の先端面53bと外周面53aの整形はできるものの、内周面53cの形状を整形できない。穿孔作業においては、内周面53cの内側に円柱状のコアが通過することになるので、内周面53cにダイヤモンド砥粒5の大きな突出等が生じていると、穿孔時にはこの凸部に応力が集中し、穿孔刃53の欠けが生ずる恐れがある。そこで、第3の実施例においては、図8のような中央に円筒形の凸部を有する型81を用いて穿孔刃53の内周面53cを整形するようにした。
【0047】
図8は本発明の第3の実施例に係る穿孔刃3の内周面53cを、中央に円筒形の凸部を有する型81へ押し付けながら整形する工程を説明する概略図である(本図では縦横の寸法とは厳密に描いていないので注意されたい)。型81は、上面から下方に延びる円筒状の窪み82が形成され、円環状の底面83が形成される。円環状の底面83の内周側は、上方向に突出する円筒形の凸部84が形成される。凸部84は平坦な円形の上面84aと、上面84aと円環状の底面83を接続するための円筒状の側面84bが形成される。円筒形の凸部84は底部から上部に至るにつれてその径が小さくなるように形成され、図8のように断面で見るとd1>d2の関係となる。このように側面84bをテーパー状に形成したことによって、穿孔刃53の内周面53cの整形を行いやすくした。この際、穿孔刃53の外周面53aにおいては、矢印85に示す部分のように穿孔刃53は型81には接触しない。従って、型81を用いることによって外周面53aの形状に影響を及ぼすことを防止できる。一方、穿孔刃53の先端面53bは、型81の円環状の底面83に良好に接触するので、内周面53cの整形と同時に先端面53bの整形も行うことができる。型81を用いた整形作業は、図1で示したフローチャートのステップ36に置き換えて行うことができる。あるいは、ステップ35と36の間に型81を用いた整形作業を追加するようにしても良い。
【0048】
以上説明したように、内周面整形用の型81を用いた整形作業を行うことによってコア型のドリルビット51の穿孔刃53も良好に形成することができるので、穿孔刃53の突起が少ない形状となり、局所的に加わる大きな応力によるダイヤモンド砥粒55の欠けを大幅に抑制できる。また、ダイヤモンド砥粒55の偏磨耗を抑制することができ、穿孔寿命を延ばす効果が得られる。
【0049】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば第2の実施例では図5に示すように平面状の型41の上面にダイヤモンド砥粒42を接着固定するようにしたが、ダイヤモンド砥粒42を用いる代わりに平面状の型41の上面に機械加工などによってダイヤモンド砥粒42と同等の凹凸をつけるようにしてもよい。このようにすると、ドリルビットの整形時にダイヤモンド砥粒5によって凹凸が削られるため、型の寿命が低下するものの、ダイヤモンド砥粒を使用しないことにより全体の製造コストを抑制することが可能となる。また、第1の実施例の図3に示される湾曲凹面状の型21に、図5と同様にダイヤモンド砥粒を接着固定してもよく、このようにするとドリルビットの側面においても鋭利な角を外側に向けることができ、切れ味が良好なドリルビットを実現することができる。また、上述の実施例においてドリルビットは外周面が軸方向に平行に形成されていたが、ドリルビットの先端付近を後端に向かって若干拡径するテーパー形状とし、図8において矢印85に示す隙間を無くすようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 ドリルビット 2 ボディ 3 穿孔刃 4 ろう材
5 ダイヤモンド砥粒 5a (ダイヤモンド砥粒の)接触面
8a 凸部 10 取付部 11 窪み部 12 ツバ部
13 突起 21 (湾曲凹面状の)型
21a〜21d (湾曲凹面状の型の)辺 31 (平面状の)型
31a (平面状の型の)上面 31b (平面状の型の)下面
41 (平面状の)型 42 ダイヤモンド砥粒
51 ドリルビット 52 ボディ 53 穿孔刃
53c 内周面 55 ダイヤモンド砥粒
60 取付部 61 窪み部 62 ツバ部
63 突起 64 溝 65 コア排出孔 81 型
83 底面 84 凸部 84a (凸部の)上面
84b (凸部の)側面 101 ドリルビット 102 ボディ
103 穿孔刃 104 ろう材 105 ダイヤモンド砥粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状又は円筒状の金属ボディの先端にダイヤモンド砥粒をろう材によって固定することにより穿孔刃を形成するドリルビットの製造方法において、
前記金属ボディの先端を液状のろう材に浸漬して引き出し、
塗布された前記ろう材に前記ダイヤモンド砥粒を付着させ、
前記ダイヤモンド砥粒が付着された前記ろう材の外周側面と先端面を型に押し付けて整形した後に焼結することにより前記穿孔刃を製造することを特徴とするドリルビットの製造方法。
【請求項2】
前記穿孔刃を、円筒状あるいは円柱状に整形することを特徴とする請求項1に記載のドリルビットの製造方法。
【請求項3】
前記穿孔刃の外周側面を湾曲凹面状の型に押し付けながら前記金属ボディを回転させて、前記ろう材の外周側面を整形することを特徴とする請求項2に記載のドリルビットの製造方法。
【請求項4】
前記穿孔刃の外周側面を平面状の型に押し付けて、前記ろう材の先端面を整形することを特徴とする請求項3に記載のドリルビットの製造方法。
【請求項5】
前記平面状の型の前記ろう材が押し付けられる面に、前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径の1/2〜1倍の平均粒径を有する整形用ダイヤモンド砥粒を設け、
前記整形用ダイヤモンド砥粒が設けられた面を用いて前記ろう材の先端面を整形することを特徴とする請求項4に記載のドリルビットの製造方法。
【請求項6】
前記金属ボディは円筒状であり、
前記穿孔刃は円筒状の前記金属ボディの開口部に設けられ、
前記穿孔刃の内周部を、中央に円筒形の凸部を有する型の凸部に押し付けることにより前記穿孔刃の内周部を整形することを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載のドリルビットの製造方法。
【請求項7】
円柱状又は円筒状の金属ボディの先端にダイヤモンド砥粒をろう材によって固定することにより穿孔刃を形成するドリルビットであって、
前記金属ボディの先端を液状のろう材に浸漬して引き出し、
塗布された前記ろう材に前記ダイヤモンド砥粒を付着させ、
前記ダイヤモンド砥粒が付着された前記ろう材の外周側面と先端面を型に押し付けて整形した後に焼結することにより前記穿孔刃が製造されるドリルビット。
【請求項8】
前記穿孔刃の外周側面を湾曲凹面状の型に押し付けながら前記金属ボディを回転させて、前記ろう材の外周側面を整形することを特徴とする請求項7に記載のドリルビット。
【請求項9】
前記穿孔刃の外周側面を平面状の型に押し付けて、前記ろう材の先端面を整形することを特徴とする請求項8に記載のドリルビット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−240446(P2011−240446A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115641(P2010−115641)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】