説明

ドープ半導体単結晶及びIII−V族半導体単結晶の製造方法

【課題】ドーパントがドーピングされる半導体単結晶の製造方法、特に、製造される半導体単結晶と同一の半導体材料の種結晶を使用し、坩堝内で半導体溶融体を凝固させて製造する製造方法を提供する。
【解決手段】半導体単結晶11における所望の導電率を調整するために使用されるドーパント7は、種結晶5上に形成される半導体単結晶11の成長が開始した後、又は坩堝1の一部又は完全に坩堝の円錐な部分3又は先細部において半導体単結晶11の凝固が終了した後、半導体溶融体9に添加される。又は、ドーパント7の一部が、事前に坩堝1に添加され、その後残りが適宜半導体溶融体9に添加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造される半導体単結晶と同一の半導体材料の種結晶を使用し、坩堝内で半導体材料の溶融体を凝固させて、ドーパントがドーピングされる半導体単結晶を製造する製造方法、特に、高い導電率を有するn型とp型、殊にn型の化合物半導体単結晶を製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体技術、特に半導体レーザ、輝度ダイオードと太陽電池の製造技術の種々な分野において、化合物半導体結晶又は基板ウェハが必要であり、それらの導電率は、用途ごとに決まる特定の範囲内にある。この導電率は、適切なドーパントがドーピングされることにより得られる。さらに、ドーパントを選択することにより、半導体内の電荷移送が電子又は欠陥電子により支配されるかどうかを判断できる。導電率の値は、半導体単結晶内のドーパントの濃度により求められる。
【0003】
半導体単結晶、及び特に、化合物半導体単結晶を製造する通常の方法には、半導体溶融体を、たとえば、窒化硼素から形成される坩堝内で凝固する工程が含まれる。その工程において、半導体溶融体の揮発成分の蒸発を避けるために、半導体溶融体は、たとえば、酸化硼素(B)から形成される封止剤により覆われる。坩堝は、通常、円筒形容器であり、使用状態では下端部方向へ円錐形に先細になっており、その先端に端部が閉塞された下端径を有する円筒形部が形成されている。円筒形部の下部は、種結晶を収容する。坩堝の外側に設けられる加熱エレメントにより、三次元の、好ましくは半径方向に対称の温度領域が加えられ、その領域の対称軸は、坩堝の対称軸にほぼ対応する。温度領域は、坩堝内のそれぞれの位置において、垂直成分を有する温度勾配が存在するように形成される。結晶成長プロセス中に、温度領域は、凝固/温度の等温線が、種結晶から開始して垂直方向へ移行するように変化する。凝固最前部、すなわち、結晶と半導体溶融体との間の相界面が、坩堝の全断面を通して、かつそれぞれのプロセス時間において凝固/温度の等温線から僅かだけ異なる場合、結晶成長プロセスには良好な制御性がある。
【0004】
半導体単結晶、及び特に化合物半導体単結晶用の従来の製造方法において、ドーピングは、ドーパントを元素又は化学結合の形態で、半導体材料の溶融前後に坩堝へ添加し、ついで溶融された半導体材料の凝固により単結晶成長のプロセスを実施することによって、行われる。LEC法に基づいてシリコンがドーピングされたGaAs単結晶についてのフォルナリ(Fornari)氏他による特定の研究(Journalof Crystal Growth 63(1983)、415−418)において、所望のドーピング濃度に対応するドーパントシリコンのほぼ全量が、溶融体中に対応して事前投入され(2.5x1019atoms/cm)、その後、少量のシリコンが、溶融体内の最大濃度の3×1019atoms/cmへ徐々に達するように、引続き結晶成長中に溶融体へさらに添加される。フォルナリ(Fornari)氏他は、溶融体における固体粒子の生成の問題を解決しようとした。それらの粒子は、GaAs溶融体の上部を流れることがあり、かくして具体的には、結晶が溶融体から引き上げられるLEC法において、結晶と溶融体との間の相界面との粒子の接触により、単結晶成長を妨害することがある。しかしながら、この現象は、VGF法においては問題を生じない。なぜなら、結晶と溶融体との間の相界面は、溶融体上面へ接触していないからである。
【0005】
従来方法においては、事前投入されるドーパントの量は、溶融体におけるドーパント濃度を調整するという方法で決定され、その結果、有効な分布係数が考慮されて所望の濃度で単結晶中にドーパントが混合される。高い導電率を達成するためには、多量のドーパントが溶融体に注入される。
【0006】
封止剤として、たとえば酸化硼素融液を使用するとき、半導体溶融体は、結晶成長プロセスの全期間中、酸化硼素融液と直接接触する。使用ドーパントの酸素に対する親和性によっては、酸化硼素融液におけるドーパントの酸化、及び酸化物の溶解が部分的に生じる。それにより、ドーパントの一部分が、半導体溶融体から取り除かれる。同時に、この反応により生成される不純物(この例においては硼素)が、半導体溶融体中に混合される。かくして、調製された結晶は、かなりの濃度でこの不純物(たとえば、硼素)により汚染され、その結果、品質が低下することがある。たとえば、不純物が硼素の場合、電気的な補償欠陥が生成され、導電率の低下をもたらすことがある。
【0007】
JP2000−109400A[1]、JP2004−217508A[2]及びJP10−279398A[3]において、ガリウム砒素単結晶中へのシリコン混入を均質化する方法が記載されている。単結晶の導電率の軸方向均質性は、それにより向上されることになる。その方法は、結晶成長プロセスのある時点、又は幾つかの時点で酸化硼素封止剤を攪拌することに基づいている。[2]と[3]に記載された方法において、ガリウム砒素融液に含有されるシリコンドーパントの酸化を抑制するために、SiOで濃縮されている酸化硼素封止剤が使用されている。シリコン、酸化硼素及びSiOとの間の反応平衡のために、ガリウム砒素融液に対する相界面における酸化硼素の濃度が高くされている。酸化硼素の液体封止材を攪拌することにより完全に混合され、ガリウム砒素融液との界面においてSiO濃度が減少する。それにより、ガリウム砒素融液に含有されるシリコンの酸化が促進され、かつガリウム砒素単結晶におけるシリコン濃度が、最終的には、その目安が無いとはいえ増加しない。しかしながら、酸化硼素によりシリコンを酸化することにより、ガリウム砒素融液とガリウム砒素単結晶における硼素不純物の濃度は増加する。
【0008】
[1]、 [2]及び[3]に記載された方法により、ガリウム砒素単結晶中へのシリコン混入の一定の均質化が可能であるが、ガリウム砒素融液とガリウム砒素単結晶における硼素不純物の濃度は増加する。これは、生成される結晶の品質に影響するという問題がある。JP2004−115339A[4]に記載されるガリウム砒素単結晶の製造方法では、ガリウム砒素融液は、砒化硼素融液の隔離層により酸化硼素封止剤から分離される。これにより、ドーパントとして添加されたシリコンの酸化が抑制される。
【0009】
US2004/0187768A1は、100cm−2未満の非常に低い転位密度を有するドープp型のGaAs結晶の製造方法に、他の着想を採用している。この低い転位密度は、GaAs出発原料へ、4種類のドーパント、すなわちp型ドーパントであるZn,n型ドーパントであるSi、中性原子であるB、及び中性原子であるInを強制的に添加することにより達成されるものである。すなわち、p型の高い導電率は、亜鉛のドーピングにより得られる一方、他のドーパント、Si、B及びInは、不純物硬化の効果をもたらすことになる。4種類のドーパントを意図的にドーピングする必要があるため、それによりウェハ材料の適用性は限定される。
【0010】
US3,496,118には、III-V族半導体化合物の導電率を高める方法が記載され、この方法では、III-V族半導体化合物の融液が、Al、Sb、Bi、In及びPbから選択された不純物の存在下で生成されて、添加される不純物により意図的に低下させた凝固点にて結晶が形成されるようになっている。導電性を得るための不純物であるドーピング原子が、Mn、Te、Se、S、Cd、Zn、Sn、Ge及びSiから選択されて添加される。添加される不純物の量が非常に多いことから、2元のIII-V族単結晶のドーピングや生成についてではなく、III-V族多成分融液とそれに対応する結晶(3元の、4元の)が生成されることについて述べられている。
【0011】
【特許文献1】JP 2000-109400A
【特許文献2】JP 2004-217508A
【特許文献3】JP 10-279398A
【特許文献4】JP 2004-115339A
【特許文献5】US 2004/0187768 A1
【特許文献6】US 3,496,118
【特許文献7】KR 1019920010134 B1
【非特許文献1】フォルナリ(Fornari)氏他, ”Journal of Crystal Growth 63”, 1983, 415−418
【非特許文献2】ASTM F76−86, 「単結晶半導体において抵抗率とホール係数を測定し、かつホール移動度を求める標準試験方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の製造方法では、ドーパントにより高キャリア移動度のIII-V族半導体単結晶を得るために、半導体溶融体の水平凝固用の容器において、たとえば、Bといった液体封止剤を使用しない。しかしながら、その製造原理は、通常2インチ(1インチ=2.54cm)又は最大で3インチまでの小径のIII-V族半導体結晶にだけ適用できる。たとえば、KR1019920010134B1のアブストラクトには、酸化硼素の封止剤を使用せず、封止された水晶アンプル内でGaAs融液の凝固が実施されるブリッジマン法が記載されている。この製造方法により製造されたGaAs単結晶は、2,000〜4,000cm/Vsの電子移動度、及び1017〜1018cm−3のキャリア濃度を有する。
従来、半導体材料の溶融体の垂直方向に向けられる凝固に基づいて、より大きな径、特に少なくとも100mmの径が所望されるIII-V族半導体結晶が製造される場合、たとえば、酸化硼素の封止剤を使用する必要があった。しかしながら、これにより上述の問題が生じる。
【0013】
従来の製造方法は、高いプロセス保証、歩留まり及び品質を提供すると同時に、高い導電率を有する半導体単結晶の製造に対して効果的ではない。
【0014】
そこで、本発明は、液体封止剤から生じる硼素のような不純物を制限することにより高い導電率を得ることができ、また、製品品質、プロセス保証及び歩留まりも同時に向上させてプロセスの経済性を改良することができるドープ半導体単結晶、特にIII-V族半導体化合物の半導体単結晶の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の課題は、請求項1に記載の製造方法により、及び請求項13又は16に記載のIII-V族化合物半導体単結晶、又は請求項23に記載の基板ウェハにより解決される。本発明の好ましい実施態様は、従属請求項に記載される。
【0016】
(1)請求項1に係る製造方法は、ドーパントがドーピングされる半導体単結晶を、製造される半導体単結晶と同一の半導体材料の種結晶を使用し、坩堝内で半導体溶融体を凝固させて製造する製造方法において、製造される半導体単結晶における所望の導電率を調整するために使用される前記ドーパントは、(a)種結晶上に形成される前記半導体単結晶の成長が開始した後、又は(b)坩堝の主部と、好ましくは完全に坩堝の円錐部又は先細部とにおいて半導体単結晶の凝固が終了した後に、前記半導体溶融体に添加され、前記ドーパントの添加が少なくとも2ステップで実施され、第1のステップでは、事前に、すなわち(a)もしくは(b)に先立って、前記ドーパントの一部が添加され、第2のステップでは、(a)もしくは(b)に従って、前記ドーパントの残りが前記半導体溶融体に添加されることを特徴とする。
【0017】
(2)請求項2に係る製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、前記第1のステップにおいて添加されるドーパントの量が、製造される半導体単結晶における所望の導電率を調整するために使用されるドーパント総量の2/3以下、好ましくは1/10〜2/3、さらに好ましく1/5〜1/2の範囲内の量であることを特徴とする。
【0018】
(3)請求項3に係る製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、製造される前記半導体単結晶の円錐部全体におけるドーパント濃度が最大で1×1018atoms/cm、好ましくは最大で6×1017atoms/cmであり、及び/又は、製造される前記半導体単結晶の円筒部全体、または前記半導体単結晶から加工される基板ウェハにおけるドーパント濃度が、6×1017atoms/cm以上、好ましくは1×1018atoms/cm以上であることを特徴とする。
【0019】
(4)請求項4に係る製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、前記半導体溶融体が液体封止剤に覆われており、製造される前記半導体単結晶の円筒部全体、または前記半導体単結晶から加工される基板ウェハにおいて、前記液体封止剤から生じる不純物の濃度が5×1018atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【0020】
(5)請求項5に係る製造方法は、請求項4に記載の製造方法において、前記液体封止剤は酸化硼素であり、該酸化硼素から生じる不純物は硼素であることを特徴とする。
【0021】
(6)請求項6に係る製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、製造される前記半導体単結晶が、化合物半導体、好ましくはIII-V族半導体の単結晶であることを特徴とする。
【0022】
(7)請求項7に係る製造方法は、請求項6に記載の製造方法において、製造される前記単結晶が、主成分としてガリウム砒素を含むことを特徴とする。
【0023】
(8)請求項8に係る製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、製造される前記半導体単結晶、または前記半導体単結晶から加工される基板ウェハが、高い導電率を有するn型あるいはp型、好ましくはn型半導体であることを特徴とする。
【0024】
(9)請求項9に係る製造方法は、請求項8に記載の製造方法において、製造される前記半導体単結晶、または前記半導体単結晶から加工される前記基板ウェハが、少なくとも250S/cmの導電率、及び/又は最大で4×10−3Ωcmの抵抗率を有することを特徴とする。
【0025】
(10)請求項10に係る製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、前記ドーパントが固体状態で添加されることを特徴とする。
【0026】
(11)請求項11に係る製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、シリコンが元素又は化学結合した状態でドーパントとして使用されることを特徴とする。
【0027】
(12)請求項12に係る製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、VGF法あるいはVB法によって実施されることを特徴とする。
【0028】
(13)請求項13に係るIII−V族半導体単結晶は、導電率生成ドーパント濃度が少なくとも1×1018atoms/cm、製造過程で生じる不純物の濃度が最大で5×1018atoms/cmであるIII−V族半導体単結晶であって、少なくとも250S/cmの導電率、及び/又は最大で4×10−3Ωcmの抵抗率を有することを特徴とする。
【0029】
(14)請求項14に係るIII-V族半導体単結晶は、請求項13に記載のIII-V族半導体単結晶において、少なくとも100mmの径を有することを特徴とする。
【0030】
(15)請求項15に係るIII-V族半導体単結晶は、請求項13に記載のIII-V族半導体単結晶において、前記導電率生成ドーパント濃度が1×1018atoms/cm〜5×1019atoms/cm、好ましくは2×1018atoms/cm〜1×1019atoms/cmの範囲内にあり、及び/又は、製造過程において生じる前記不純物の濃度が1×1017atoms/cm〜5×1018atoms/cm、好ましくは1×1017atoms/cm〜3.5×1018atoms/cmの範囲内にあることを特徴とする。
【0031】
(16)請求項16に係るIII−V族半導体単結晶は、少なくとも100mmの径を有し、導電率生成ドーパント濃度が少なくとも1.0×1018atoms/cm、キャリア濃度が少なくとも1.0×1018cm−3であるIII-V族半導体単結晶であって、ASTMのF76−86によって求められるホール移動度が、キャリア濃度が1.0〜1.2×1018cm−3の場合には2.100cm/Vs以上であり、キャリア濃度が1.2×1018cm−3〜2.0×1018cm−3の場合には1.900cm/Vs以上であることを特徴とする。
【0032】
(17)請求項17に係るIII-V族半導体単結晶は、請求項16に記載のIII-V族半導体単結晶において、キャリア濃度が1.3〜1.8×1018cm−3である場合には、前記ホール移動度が少なくとも2.100cm/Vsであることを特徴とする。
【0033】
(18)請求項18に係るIII−V族半導体単結晶は、請求項16に記載のIII-V族半導体単結晶において、前記導電率生成ドーパント濃度が少なくとも1.5×1018atoms/cmであり、及び/又は、製造過程で生じる不純物が最大5×1018atoms/cmの濃度で含有されることを特徴とする。
【0034】
(19)請求項19に係るIII-V族半導体単結晶は、請求項13又は16に記載のIII−V族半導体単結晶において、前記導電率生成ドーパントがシリコンであり、及び/又は、製造過程で生じる不純物が硼素であることを特徴とする。
【0035】
(20)請求項20に係るIII-V族半導体単結晶は、請求項13又は16に記載のIII−V族半導体単結晶において、III-V族半導体化合物がGaAsであることを特徴とする。
【0036】
(21)請求項21に係るIII-V族半導体単結晶は、請求項13又は16に記載のIII−V族半導体単結晶において、VGF法あるいはVB法によって、液体封止剤を用いて製造されることを特徴とする。
【0037】
(22)請求項22に係るIII-V族半導体単結晶は、請求項13又は16に記載のIII−V族半導体単結晶において、請求項1に記載の製造方法によって得られることを特徴とする。
【0038】
(23)請求項23に係る基板ウェハは、請求項13又は16に記載のIII-V族半導体単結晶より加工されることを特徴とする。
【0039】
従来の半導体単結晶の製造方法、特に、たとえば[1]〜[4]に記載の製造方法、又は類似の製造方法等の高い導電率を有するIII−V族化合物半導体単結晶の製造方法には問題があった。それはシリコン等のドーパントの存在、及びそれに伴う溶融体過冷却の増加に起因するものであった。溶融体におけるドーパントの濃度が一定の範囲に達すると、結晶成長プロセスにおける重要なプロセス段階の制御性に悪影響を及ぼすように、溶融体の基本的な物理的パラメータが作用する。これにより、凝固/温度の等温線と界面の相との間に、いくらか不定の偏差が生じることがある。その結果、結晶成長プロセスの制御性が、大幅に劣化する。このような偏差は、種結晶において結晶成長を開始するプロセス、及び坩堝の円錐部又は先細部における凝固のプロセスにおける異常な危険性を表す。結晶成長プロセスにおいて、坩堝の円錐部又は先細部での欠陥種構造又は双晶成長は、成長する別の結晶中まで延びる。加えて、利用される結晶長さにかなりの損失が生じる恐れがあり、結果として、歩留まり、及び結晶成長プロセスの経済性にも悪影響を及ぼす。さらに、液体封止剤を使用するとき、ドーパントの添加は、不純物の混合と相関性がある。つまり、選択された所望のドーパント濃度が高いほど、不純物を混合するリスクが高くなる。従来製造されてきた半導体単結晶と、そこから加工された基板ウェハにおいては、シリコン等の高ドーパント濃度、及びそれから生じる比較的高い導電率及び/又は比較的低い抵抗率と、硼素等の不純物の比較的低下した不純物濃度とを両立せることができなかった。
【0040】
結晶円錐の成長中における溶融体の予冷却又は過冷却は、結晶上のファセットの長さを測定することにより求められる。高ドーパント濃度では、ファセットの非対称形成が、化合物半導体において生じることがある。すなわち、過冷却は、ファセットのような表面特性に影響を与える。シリコンが多くドーピングされるガリウム砒素単結晶において、Ga/Asのファセット長さの非対称は、溶融体の過冷却により2:1になることがある。この場合、過冷却は数ケルビン度に及ぶ。
【0041】
本発明による製造方法では、種結晶の結晶成長開始と、坩堝の円錐部又は先細部における凝固との重要なプロセス期間において、半導体溶融体の過冷却が大幅に減少するという利点を有する。これにより、そのプロセス期間における結晶成長プロセスの制御性が改良され、単結晶成長における欠陥の発生率が大幅に減少する。別の利点は、ドーパントが酸化硼素のような封止剤に含有される酸素により酸化される時間が短いことである。これにより、ドーパントの損失、及び硼素のような封止剤からの不純物の半導体溶融体中への混合が減少される。所定のドーパント濃度にすると、製造された結晶において、封止剤から生じる硼素のような不純物の含有濃度が極めて少なくなる。本発明に係るプロセスにより、プロセス保証と歩留まり、及びプロセスの経済性ならびに単結晶の品質と特性が大幅に改良される。
【0042】
その結果、後でさらに(半導体ウェハを調製するために)利用される凝固したインゴットの円筒部分における精製半導体単結晶は、ドーパントの添加が制御されることにより、事前に設定できる所望の導電率を有し、同時に望ましくない不純物の混合がより少なくなる。本発明の製造方法により問題と欠陥が減少したことによって、従来技術と比較して、インゴットすなわちその後基板ウェハとなるインゴットの部分の各固化率において、低い不純物に対する高いドーピング(高い導電率に対応する)の関係を実現することができる。
【0043】
それにより、本発明の特定の態様において、III-V族半導体単結晶を形成でき、その単結晶は、Siのような導電率生成ドーパントのかなりの量を含有すると同時に、製造過程で生じる不純物を制限しながら、独自の導電率と電気抵抗率とを合わせて有する。そのIII-V族半導体単結晶は、 導電率生成ドーパント濃度が少なくとも1×1018atoms/cm、製造過程で生じる不純物の濃度が最大で5×1018atoms/cmであるIII−V族半導体単結晶であって、少なくとも250S/cmの導電率、及び/又は最大で4×10−3Ωcmの抵抗率を有することを特徴とする。ここで、「製造過程で生じる不純物」とは、たとえば導電率を調整する、又は転位密度に影響を及ぼすために、III-V族半導体出発材料にドーパントとして意図的に混合するために坩堝中に添加されるものではなく、良好な特性を有する少なくとも100mm径の大形ウェハの製造に必要である酸化硼素封止剤内の硼素のように、III-V族半導体単結晶の製造様式により不可避的に含まれるものを意味する。したがって、本発明のこの態様は、特にn型のものであるものにおいて、少なくとも100mmの径を有するIII−V族半導体単結晶の製造に特に有用である。
【0044】
さらに、このように実現可能に大きく改良された、高いドーピング(高い導電率に対応する)で少ない不純物という関係により、少なくとも100mm程度の比較的大きい径のIII−V族半導体単結晶と、その結晶から加工されるウェハとにおいて、非常に高いキャリア移動度(ASTM F76−86に従って測定可能なホール移動度により求められる)を実現できる。従って、本発明の他の態様によれば、少なくとも100mmの径を有するIII−V族半導体単結晶が提供され、その単結晶は、導電率生成ドーパント濃度が少なくとも1.0×1018atoms/cm、キャリア濃度が少なくとも1.0×1018cm−3であって、ASTMのF76−86によって求められるホール移動度が、キャリア濃度が1.0〜1.2×1018cm−3の場合には2.100cm/Vs以上であり、キャリア濃度が1.2×1018cm−3〜2.0×1018cm−3の場合には1.900cm/Vs以上であることを特徴とする。
【0045】
導電率を調整するのに使用されるドーパントを制御すること、および製造過程で生じる他の不純物を最小にすることにより、2元III-V族単結晶の優れた結晶品質が実現し、その単結晶は、導電率、キャリア濃度とキャリア(ホール)移動度を独自に合わせ持つ。
【0046】
本発明による製造方法において、所望の導電率を調整するために定められるドーパントの量を、請求項1に示される条件(a)又は(b)に従って完全に添加する必要はないが、代わりにドーパントの全量添加を、少なくとも2つのステップで実施でき、そのうち1つのステップだけが、条件(a)又は(b)に合致する。つまり、実質的な欠点を避けるために依然許容される少量のドーパントを、前もって又は暫定的に、すなわち半導体溶融体の凝固が始まる前に、坩堝中に添加することができる。従来のプロセスに従って加工する際には、単結晶成長時の欠陥のような欠点を生じることのないように、結晶形成又は結晶成長のプロセス前に、予め決められたドーパントの濃度を超えてはならない。たとえば、シリコンドープガリウム砒素単結晶の製造において、実質的な欠点を避けるために依然許容されるガリウム砒素融液における最大初期シリコン濃度は、たとえば、約4×1018atoms/cm(凝固された結晶における5.6×1017atoms/cmに対応する)である。本発明によるドーパントの段階的添加に関するこの実施態様では、第1のステップにおいて、非臨界の低いドーパント濃度、たとえば、融液中で最大約4×1018atoms/cm(凝固した結晶において5.6×1017atoms/cmに対応する)の濃度に制御された条件下で、円錐又は先細部における重要な種結晶成長期及び結晶形成期とすることができる。その一方、坩堝の円筒形主部、すなわち後に基板ウェハの製造に使用する部分に関係する第2のステップにおいては、その用途に応じてあるいは予め決められた、より高いドーパント濃度、たとえば、融液中で少なくとも約4×1018atoms/cm(凝固した結晶において5.6×1017atoms/cmに対応する)以上の濃度に定められる。請求項2において、第1のステップに対するドーパント濃度の適切な事前調整が記載されているが、この実施態様の原理は、それに限定されない。たとえば、円錐又は先細部におけるドーパント濃度が坩堝の円筒形部へ向けて増加するように、及び/又はドーパント濃度の円錐部から円筒形部への連続的な転移が得られるように、第1のステップにおけるドーパントの添加量を決めればよい。
【0047】
上述のプロセスの任意選択に応じて、請求項4の特徴を、単独又は組合せて実現できる。
【0048】
請求項5に記載の封止剤の使用により、半導体溶融体からの揮発成分の蒸発を避けることができ、又同時に、経済的な製造方法が実現できる。封止剤の適切な材料は、酸化硼素、硼素砒化物及びシリカ、ならびにそれらの組合せである。特にIII-V族半導体溶融体用の好ましい材料は、酸化硼素である。高いドーパント濃度が望まれる場合でも、本発明により、封止剤から生じる硼素のような不純物を実質的に制限することが可能である。
【0049】
化合物半導体単結晶、及びその単結晶から必要に応じて加工される基板ウェハの製造において、請求項7〜10のいずれかの規定に従うことにより、本発明の利点が特に大きくなる。本発明によって製造される単結晶は、好ましくは主成分としてGaAs、InP、GaP、InAs、GaSb、InSbのようなIII-V族半導体化合物、又はSiGe、HgCdTe、HgZnTe、ZnOのような他の半導体化合物を含み、もしくは上述のIII-V族半導体化合物から成る。特に好ましい半導体単結晶材料は、GaAsである。
【0050】
主に導電率の調整のために選ばれるドーパントは、固体形態で適切に添加される。GaASの例において高い導電率を得るために最適であるドーパントは、シリコン(Si)であるが、テルル(Te)、硫黄(S)、亜鉛(Zn)及びセレン(Se)の単独又は組合せも適切であり、そして、それぞれは元素又は化学結合した状態である。n型III−V族半導体単結晶の製造に好適であり、Siは好ましいドーパントである。n型半導体又はSiドーパントとの組合せにおいて、硼素の欠陥を補償することは重大であるので、硼素濃度はできるだけ本発明の製造方法に従い最小にする必要があり、かつ不可避な極微量まで制限する必要がある。インヂウム(In)は、ドーパントとして除外できる。さらに、所望の導電率を調整するために事前に決められるドーパントの添加量は十分である。これらの対策により、2元III−V族半導体単結晶、特に2元GaAs単結晶を製造することができる。
【0051】
本発明による製造方法は、半導体溶融体にドーピングして製造する半導体単結晶のあらゆる製造方法に適用できる。上述の説明から明らかなように、本発明による効果は、特に、下端から上端へ配向される凝固が溶融体内で直接実施されるときに発揮される。したがって、本発明による製造方法は、VGF(垂直勾配凝固)法、又はVB(垂直ボート又は垂直ブリッジマン)法へ特に有効に適用される。したがって、製造されたIII−V族半導体単結晶又は基板において、非常に低い転位密度が得られ、その転位密度は多くても5×10cm−2の範囲内となる。
【0052】
このように、本発明による技術により、III−V族半導体単結晶は、請求項13と16において、及びそれぞれの従属請求項の好ましい実施態様に明示されるようにして実現可能である。
【0053】
請求項23に記載の基板ウェハは、たとえば、単結晶インゴットの鋸引き法又は他の分離法により、本発明によるIII−V族半導体単結晶から形成することができる。それぞれの基板ウェハは、結晶の長さ方向におけるそれぞれの固化率(g)に対応する、ドーパント濃度、不純物濃度、導電率及び電気抵抗率に関する条件を反映し表している。
【0054】
本発明によれば、請求項13と16、及びそれぞれの従属請求項の好ましい実施態様に記載される条件を、III−V族半導体単結晶の全円筒形部、すなわち円筒形結晶インゴットの全固化率(g)において満たすことが可能でありかつ好ましく、またそれらの条件をIII−V族半導体単結晶又はインゴットから調製される全ての基板ウェハにそれ相当に存在させることが可能でありかつ好ましい。
【0055】
この発明の概念は、特に有利な方法で、少なくとも100mm径、好ましくは少なくとも150mm径のもの、さらには少なくとも200mm径のもの、すなわち本発明のプロセスによりキャリア濃度とキャリア移動度とが同時調整されて、導電率と電気抵抗率との独自の組み合わせを持った大径の単結晶と基板ウェハに適用できる。本発明によれば、そのような大径の場合、VGF法又はVB法が、結晶の製造に使用され、又、酸化硼素等の封止剤が使用される。
【0056】
本発明の別の特徴と利点は、添付図面1〜7と関連した非限定実施態様の説明から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
図1から分かるように、化合物半導体単結晶の成長用の装置は、たとえば、窒化硼素、特にpBNから形成される坩堝1を備える。坩堝は、円筒形部2と、作動状態では下端部が円錐形に先細であり、かつ円筒形部2から延びる部分3と、その下端を閉止でき下部径を有する下部円筒形部4とを備える。円筒形部4は、種結晶5を収容するためのものである。
【0058】
坩堝1は、公知の方法により、図1に図示されない炉の内部に載置される。その炉は、当該技術では公知な方法により、垂直温度勾配を有する三次元温度領域を生成する加熱エレメントを備える。又、図示されない制御装置が設けられ、その装置は、固体状態で坩堝1中に投入される半導体材料が溶融されるように、かつ種結晶5を素材とする半導体溶融体が坩堝1の上方向に連続的に凝固するように、加熱エレメントを作動できるように設計されている。坩堝の上方には容器6が設けられて、所定量のドーパント7が収容されている。その容器は、その下部にある器具8により開放でき、容器内に収容されるドーパント7を坩堝1中に落下させる。
【0059】
本発明による製造方法においては、先ず、製造される結晶と同一の半導体材料から成る種結晶5が、坩堝1の円筒形部4に投入される。ついで、たとえばGaAs又は他の望ましいIII−V族半導体化合物等の半導体材料と、たとえば、酸化硼素等の封止剤用の材料とがそれぞれ、固体状態で坩堝1中に充填される。坩堝1中に投入された半導体材料には、この半導体材料の準備中にドーピング材料として加えられた少量のドーパントが既に含まれる。あるいは、それに加えて、半導体溶融体内で調整されるドーパント濃度が過冷却時に半導体溶融体中において著しく増加しない程度に、ごく少量のドーパント材料を坩堝1中に一時的に添加してもよい。器具8により下端部で閉止される容器6は、固体状態の所定量のドーパント7を収容する。加熱エレメントは、半導体材料と封止剤(酸化硼素)とを完全に溶融するように制御される。密度差により、半導体溶融体は坩堝の下部に沈み、かつ封止剤10(酸化硼素)により完全に覆われる。ついで加熱エレメントは、垂直温度勾配を形成し、そして種結晶を素材とし、かつ上方へ成長する半導体溶融体が半導体単結晶11として凝固、形成されるように制御される。
【0060】
半導体溶融体から種結晶5までの凝固が進んで、半導体単結晶の種形成又は初期成長期間が終了した後に、又は、好ましくは凝固最前部12が、坩堝1の円錐部分3と円筒形部2との間の転移領域に実質的に又は完全に達し、容器6がその下端の器具8により開放された後に、ドーパント7が坩堝中に落下し、半導体溶融体9内で可溶化される。ドーパント7は、適切な固体状態で添加され、添加された量のドーパントが、実質的に好ましくは完全に封止剤を通過して、半導体溶融体9に流入される。このようにして添加されるドーパントの量は、有効な分布係数を考慮しながら所望の濃度でドーパントが単結晶中に混合されるように溶融体内のドーパント濃度を調整して決められる。それにより、製造される半導体単結晶、さらには後に加工される基板ウェハにおける所望のドーパント濃度を調整できる。ドーパント濃度を決めるとき、半導体溶融体に既に存在するドーパントの濃度、及び半導体溶融体の既存の固化率を考慮する必要がある。加熱エレメントを所定時間適切に制御することにより、凝固プロセスを一時的に休止させることができる。その休止により、半導体溶融体におけるドーパントの溶解と均質化が図られる。その後、半導体溶融体が完全に凝固するまで、結晶成長が継続される。
【0061】
形成される単結晶の成長が開始された後に、好ましくは、坩堝の円錐部又は円筒形部における凝固が(大部分好ましくは完全に)終了した後に、種結晶へのドーパントを添加することにより、種結晶を素材とする結晶の成長、及び坩堝の円錐部における凝固の期間中における半導体溶融体の著しい過冷却を避ける。それによって、結晶成長プロセスのそのような重要な期間における欠陥構造と成長双晶の発生が回避される。また、封止剤(たとえば、液体酸化硼素)によりドーパントが酸化される時間も短くなる。これによって、高いドーパント濃度でも、封止剤から生じる不純物(たとえば、硼素)による結晶内の不純物を大幅に減少させることができる。加えて、特に欠陥配向又は双晶成長の無い単結晶配向性がある場合に、改良された結晶特性が確保される。さらに、ホール移動度にも好影響を与える。従来プロセスにより製造される半導体単結晶と比較すると、硼素欠陥面のような好ましくない欠陥箇所の発生率を減少できる。
【0062】
図2に、ICP−AES(誘導結合プラズマ原子分光分析)により測定した、本発明のプロセスにより生成されたシリコンドープガリウム砒素単結晶におけるシリコン濃度軸方向分布を示す。従来プロセスによって生成されたガリウム砒素単結晶内のシリコン濃度軸方向分布との比較により、固化率(g)で表される、結晶内の軸方向位置からのシリコン濃度の基本的依存性は、両方のプロセスにおいて同一であることが分かる。しかしながら、本発明によるプロセスにより製造された結晶におけるシリコン濃度は、結晶のそれぞれのアキシアル位において、単結晶収率を減少することなく、従来プロセスに従って製造された結晶内の濃度と比較して2.5倍である。図2における左側の第1の測定点、及び以下の図3〜6において相当する点は、円筒形部の開始点を指す。
【0063】
図3は、硼素不純物の濃度の比較を示す。この濃度は、本発明によるプロセスにより、1/2〜1/3に減少できる。
【0064】
図4は、キャリア濃度軸方向分布の比較を示す。キャリア濃度は、本発明によるプロセスを使用することにより、基板ウェハの製造に使用される結晶の全部分において増加する。
【0065】
図5乃至図6に示されるように、従来の方法で製造された半導体単結晶と比較すると、本発明による半導体単結晶のみにおいて、結晶の各凝固点を基準にして、相対的に低い電気抵抗率と、相対的に高い導電率との組合せとなる。電気抵抗率及び導電率は、van der Pauw法(ASTM F76−86、「単結晶半導体において抵抗率とホール係数を測定し、かつホール移動度を求める標準試験方法」)に従って求めることができる。
【0066】
図6において、本発明のプロセスにより製造されて相対的に大きな径(ここでは100mm)を有するシリコンドープガリウム砒素単結晶を例にとり、ASTM F76−86、「単結晶半導体において抵抗率とホール係数を測定し、かつホール移動度を求める標準試験方法」に従ったホール測定により求められるホール移動度の依存性が、キャリア濃度に対してグラフ化される。硼素不純物の減少に伴い、結晶内のイオン欠陥部位の濃度も減少する。イオン欠陥部位は、キャリアの分散中心として働くため、その減少によりキャリア移動度が向上する。
【0067】
本発明の構成で得られた結果から、以下のことが言える。たとえば酸化硼素等から成る液体封止剤と接触している半導体溶融体の垂直方向に進む凝固に基づき、少なくとも100mmの径を有するIII−V族半導体単結晶を製造すると、従来プロセスとは異なり本発明の技術によってのみ、少なくとも1.0×1018cm−3のキャリア濃度範囲、特に1.0×1018cm−3〜2.0×1018cm−3 のキャリア濃度範囲において、ホール移動度が少なくとも1.900cm/Vsとなる。これは、本発明により、少なくとも1×1018atoms/cmの導電率生成ドーパントの濃度で達成可能である。さらに良いことには、1.0〜1.2×1018cm−3 のキャリア濃度の場合には、ホール移動度は2.100cm/Vsよりも高く、さらに1.2x1018cm−3より高いキャリア濃度の場合には、ホール移動度は1.900cm/Vsよりも高くなる。1.3〜1.8×1018cm−3 のキャリア濃度範囲では、ホール移動度は少なくとも2.000cm/Vsとなる。
【0068】
本発明を、実施例により詳細に説明する。
【0069】
従来のプロセスと本発明のプロセスを比較するために、図1に概略が示される形状(内径約102mm、全長約230mm)を有する熱分解窒化硼素の2個の坩堝それぞれに、11kgのドーピングされていない大量のガリウム砒素が投入される。封止剤の生成のために、650gの円筒状の酸化硼素が、坩堝それぞれへ添加される。第1の坩堝に、3.18gのシリコンがドーパントとして添加される。この量は、溶融体を溶融し、溶融体の凝固を実施した後に、ガリウム砒素単結晶の円錐部と円筒形部との間の転移領域において約2×1018cm−3 のシリコン濃度になるように、定められた。第2の坩堝には、僅か0.95gのシリコン、すなわち先の量の約30%の量のシリコンが添加される。第1の坩堝は、最初に固体ガリウム砒素と酸化硼素が溶融するまで、炉内で加熱される。炉の加熱エレメントを適切に制御することにより、垂直温度勾配が成立する。坩堝の縦方向軸と平行に温度領域を移行することにより、種結晶を素材とする溶融体が完全に凝固される。第2の坩堝も、炉内で加熱されるが、その炉には、ガリウム砒素と酸化硼素が溶融するまで、図1の通り、坩堝にドーパントを後で添加するための容器6と器具8が備えられている。容器6中には予め、1.95gの量のシリコンが固体形態で加えられている。そして、凝固先端部が坩堝の円錐部と円筒形部との間の転移領域に達するまで、溶融体の凝固が行われる。次に、容器6が器具8により開放され、その結果、シリコンが坩堝中に落下する。その後、溶融体の凝固が継続される。
【0070】
それぞれの結晶の円筒形部が、約100mm径のウェハにそれぞれ加工される。従来のプロセスによって製造された結晶の中から、9個の比較対象ウェハ、及び本発明によるプロセスにより製造された結晶の中から、11個の本発明のウェハを選び、それぞれ結晶インゴットのさまざまな固化率gにわたって割り当てられた。これらのウェハにおいて、電気抵抗率、ホール移動度及びキャリア濃度が、van der Pauw法と、ASTM F76−86、「単結晶半導体において抵抗率とホール係数を測定し、かつホール移動度を求める標準試験方法」に基づくホール測定によって求められ、又シリコンと硼素の含有量が、ICP−AESにより求められた。ASTM F76−86に基づく実験的ホール測定での設定値は、以下の通りである。
試料形態:ウェハの中央部から切り取った正方形プレート
横方向寸法:17mm×17mm、厚さ625μm(ウェハの厚さに相当する)
測定中の試料温度:(22±0.2)℃
磁界の磁束密度:0.47T
試料電流:100mA
【0071】
得られた測定データが、図2乃至図7に図示される。試験されたウェハのアキシアル位は、結晶成長プロセス中にこの位置でそれぞれ凝固された、ガリウム砒素溶融体の固化率gにより示される。
【0072】
図2から明らかなように、本発明のプロセスにより加工されたウェハそれぞれにおけるシリコン濃度は、従来プロセスに基づいて製造された結晶のアキシアル位に相当するウェハのシリコン濃度より、約2.5倍高い。ただし、ドーパントの全添加量は、両方の結晶においてほぼ同量であり、厳密に言えば、その量は、本発明の試料において、僅かに少ない。シリコン濃度が高いほど、本発明に基づいて製造された結晶又はウェハのキャリア濃度が高くなり(図4参照)、電気抵抗率が低くなり(図5参照)、さらに導電率が高くなる(図6参照)。図3は、高いシリコン濃度が結晶内で実現できるにもかかわらず、硼素含有量が1/2〜1/3減少することを示す。このように補償欠陥の割合が減少したことにより、ホール移動度は、本発明によって大幅に向上された(図7参照)。
【0073】
本発明に係る、比較的大きい径を有するウェハにおけるホール移動度の向上又は増加は、特に1×1018cm−3よりも高い所望のキャリア濃度範囲、特に1.0×1018cm−3〜2.0x1018cm−3の範囲において、特に高い値を示す。なぜなら、本発明により実現可能なキャリア濃度、すなわち、少なくとも1×1018atoms/cmの導電率生成ドーパントの濃度、好ましくは少なくとも1.5×1018atoms/cmの濃度の範囲において、ホール移動度は常に少なくとも1.900cm/Vsであるからである。また、1.0〜1.2×1018cm−3 のキャリア濃度の場合には、ホール移動度は2.100cm/Vsよりも高くなり、さらに1.2×1018cm−3より高く、とりわけ1.3〜1.8×1018cm−3 のキャリア濃度範囲の場合には、ホール移動度は1.900cm/Vsよりも高く少なくとも2.000cm/Vsとなる。
【0074】
キャリア濃度とホール移動度の比率に対する以上の条件は、比較対象のウェハにおいては十分ではない。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】化合物半導体単結晶の製造装置の概略断面図である。
【図2】シリコンドープガリウム砒素単結晶を例にとった、従来のプロセスにより製造された単結晶と本発明により製造された単結晶とを比較した、シリコン濃度の軸方向分布図である。
【図3】本発明と比較対照例とを比較した、図2に示すガリウム砒素単結晶における硼素濃度の軸方向分布図である。
【図4】本発明と図2に示す比較対象例とをそれぞれ参照して比較したキャリア濃度の軸方向分布図である。
【図5】本発明と図2に示す比較対象例とをそれぞれ参照して比較した電気抵抗率の軸方向分布図である。
【図6】本発明と図2に示す比較対象例とをそれぞれ参照して比較した導電率の軸方向分布図である。
【図7】本発明により製造された単結晶と従来プロセスにより製造された単結晶とについて、実験によって得られたホール移動度とキャリア濃度との依存性を比較した図である。
【符号の説明】
【0076】
1 坩堝
2 円筒形部
3 部分
4 円筒形部
5 種結晶
6 容器
7 ドーパント
8 器具
9 半導体溶融体
10 封止剤
11 半導体単結晶
12 凝固最前部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパントがドーピングされる半導体単結晶を、製造される半導体単結晶と同一の半導体材料の種結晶を使用し、坩堝内で半導体溶融体を凝固させて製造する製造方法において、
製造される半導体単結晶における所望の導電率を調整するために使用される前記ドーパントは、
(a)種結晶上に形成される前記半導体単結晶の成長が開始した後、又は
(b)坩堝の主部と、好ましくは完全に坩堝の円錐部又は先細部とにおいて半導体単結晶の凝固が終了した後に、前記半導体溶融体に添加され、
前記ドーパントの添加が少なくとも2ステップで実施され、
第1のステップでは、事前に、すなわち(a)もしくは(b)に先立って、前記ドーパントの一部が添加され、
第2のステップでは、(a)もしくは(b)に従って、前記ドーパントの残りが前記半導体溶融体に添加されることを特徴とするドープ半導体単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記第1のステップにおいて添加されるドーパントの量が、製造される半導体単結晶における所望の導電率を調整するために使用されるドーパント総量の2/3以下、好ましくは1/10〜2/3、さらに好ましく1/5〜1/2の範囲内の量であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
製造される前記半導体単結晶の円錐部全体におけるドーパント濃度が最大で1×1018atoms/cm、好ましくは最大で6×1017atoms/cmであり、
及び/又は、製造される前記半導体単結晶の円筒部全体、または前記半導体単結晶から加工される基板ウェハにおけるドーパント濃度が、6×1017atoms/cm以上、好ましくは1×1018atoms/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記半導体溶融体が液体封止剤に覆われており、
製造される前記半導体単結晶の円筒部全体、または前記半導体単結晶から加工される基板ウェハにおいて、前記液体封止剤から生じる不純物の濃度が5×1018atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記液体封止剤は酸化硼素であり、該酸化硼素から生じる不純物は硼素であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
製造される前記半導体単結晶が、化合物半導体、好ましくはIII-V族半導体の単結晶であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
製造される前記単結晶が、主成分としてガリウム砒素を含むことを特徴とする請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
製造される前記半導体単結晶、または前記半導体単結晶から加工される基板ウェハが、高い導電率を有するn型あるいはp型、好ましくはn型半導体であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
製造される前記半導体単結晶、または前記半導体単結晶から加工される前記基板ウェハが、少なくとも250S/cmの導電率、及び/又は最大で4×10−3Ωcmの抵抗率を有することを特徴とする請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ドーパントが固体状態で添加されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
シリコンが元素又は化学結合した状態でドーパントとして使用されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
VGF法あるいはVB法によって実施されることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
導電率生成ドーパント濃度が少なくとも1×1018atoms/cm、製造過程で生じる不純物の濃度が最大で5×1018atoms/cmであるIII-V族半導体単結晶であって、
少なくとも250S/cmの導電率、及び/又は最大で4×10−3Ωcmの抵抗率を有することを特徴とするIII-V族半導体単結晶。
【請求項14】
少なくとも100mmの径を有することを特徴とする請求項13に記載のIII-V族半導体単結晶。
【請求項15】
前記導電率生成ドーパント濃度が1×1018atoms/cm〜5×1019atoms/cm、好ましくは2×1018atoms/cm〜1×1019atoms/cmの範囲内にあり、
及び/又は、製造過程において生じる前記不純物の濃度が1×1017atoms/cm〜5×1018atoms/cm、好ましくは1×1017atoms/cm〜3.5×1018atoms/cmの範囲内にあることを特徴とする請求項13に記載のIII-V族半導体単結晶。
【請求項16】
少なくとも100mmの径を有し、導電率生成ドーパント濃度が少なくとも1.0×1018atoms/cm、キャリア濃度が少なくとも1.0×1018cm−3であるIII-V族半導体単結晶であって、
ASTMのF76−86によって求められるホール移動度が、
キャリア濃度が1.0〜1.2×1018cm−3の場合には2.100cm/Vs以上であり、
キャリア濃度が1.2×1018cm−3〜2.0×1018cm−3の場合には1.900cm/Vs以上であることを特徴とするIII-V族半導体単結晶。
【請求項17】
キャリア濃度が1.3〜1.8×1018cm−3である場合には、前記ホール移動度が少なくとも2.100cm/Vsであることを特徴とする請求項16に記載のIII-V族半導体単結晶。
【請求項18】
前記導電率生成ドーパント濃度が少なくとも1.5×1018atoms/cmであり、及び/又は、製造過程で生じる不純物が最大5×1018atoms/cmの濃度で含有されることを特徴とする請求項16に記載のIII-V族半導体単結晶。
【請求項19】
前記導電率生成ドーパントがシリコンであり、及び/又は、製造過程で生じる不純物が硼素であることを特徴とする請求項13又は16に記載のIII-V族半導体単結晶。
【請求項20】
III-V族半導体化合物がGaAsであることを特徴とする請求項13又は16に記載のIII-V族半導体単結晶。
【請求項21】
VGF法あるいはVB法によって、液体封止剤を用いて製造されることを特徴とする請求項13又は16に記載のIII-V族半導体単結晶。
【請求項22】
請求項1に記載の製造方法によって得られることを特徴とする請求項13又は16に記載のIII-V族半導体単結晶。
【請求項23】
請求項13又は16に記載のIII-V族半導体単結晶より加工されることを特徴とする基板ウェハ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−51054(P2007−51054A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−182311(P2006−182311)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(500562905)フライベルガー・コンパウンド・マテリアルズ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (23)
【氏名又は名称原語表記】FREIBERGER COMPOUND MATERIALS GMBH
【Fターム(参考)】