ナノカーボン製造用粉末及び金属内包フラーレンの生成方法
【課題】 金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを確実に生成することができ、しかも、ナノカーボン生成時の収率を飛躍的に向上させうるナノカーボン製造粉末の提供を目的とする。
【解決手段】 プラズマによりナノカーボンを製造するためのナノカーボン製造用粉末であって、炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み、且つ、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、モード径が10μm以下であることを特徴とする。特に、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、メディアン径が10μm以下であることが望ましい。
【解決手段】 プラズマによりナノカーボンを製造するためのナノカーボン製造用粉末であって、炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み、且つ、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、モード径が10μm以下であることを特徴とする。特に、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、メディアン径が10μm以下であることが望ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノカーボン製造粉末に関し、特に、熱プラズマ中に導入して金属内包フラーレン、カーボンナノチューブ等のナノカーボンを製造する際に好適な金属−炭素粉末及び金属内包フラーレンの生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるフラーレン、金属内包フラーレン、カーボンナノチューブ等のナノカーボン材料が注目されている。これらのナノカーボン材料は従来の炭素材料であるグラファイトやダイヤモンドと異なる物性を有しているため、電池材料、触媒、分子磁石、半導体、超電導体、医薬等への応用が期待されている。
【0003】
上記カーボンナノチューブ等のナノカーボンの製造(生成)方法としては、化学気相成長法(CVD法)、レーザー蒸発法、アーク放電法が知られており、更に、プラズマを用いたナノカーボンの生成方法が提案されている。当該方法は、プラズマ中に粉末原料を投入し連続的にナノカーボンを製造する方法であり、工業的スケールアップの面で優れ、工業的に大量合成できるという利点がある。具体的には、下記(1)〜(3)に示すような方法が提案されている。
【0004】
(1)浮遊状態での大きさが100μmを超える粒子を実質的に含まない炭素質原料をガスに同伴して熱プラズマ中に導入し、加熱して蒸発させた後、冷却することにより、フラーレン類を製造する提案(下記特許文献1参照)。
【0005】
(2)高周波誘導コイルによって発生した熱プラズマ中にカーボンの粉末を送り込み、蒸発、再結合させてフラーレン及びカーボンナノチューブを合成する提案(下記特許文献2参照)。
【0006】
(3)マイクロ波放電場中にグラファイト粉末を供給し、該粉末を放電プラズマによって昇華および反応させてフラーレンを合成する提案(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−124807号公報
【特許文献2】特開平07−61803号公報
【特許文献3】特開平05−238717号公報
【特許文献4】特開平05−282938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記背景技術に記載した(1)〜(3)の技術では、金属を含む炭素粉末を用い、熱プラズマにより金属内包フラーレン等のナノカーボンを製造する例は記載されていない。
【0009】
具体的には、(1)の提案では、100μm以下の炭素粉末を熱プラズマに導入することが記載されているが、金属を含む炭素粉末を用いることについては言及されていない。したがって、当該提案では、金属内包フラーレンを生成することができず、しかも、金属内包フラーレン以外のナノカーボン(たとえばカーボンナノチューブ)を生成させる際に、金属による触媒効果を発揮しえないので、ナノカーボンの収率が低下する。
【0010】
また、(2)の提案では、平均粒径が2〜3μm炭素粉末を熱プラズマに導入することにより、フラーレンやカーボンナノチューブを製造することについて記載されているが、やはり金属を含む炭素粉末を用いることについては言及されていない。したがって、上記(1)の提案と同様の課題がある。
【0011】
更に、(3)の提案では、グラファイト粉末を放電プラズマにより処理して、金属内包フラーレンを生成することについて記載しているが、グラファイト粉末の具体的構成については記載されていない。したがって、実際に金属内包フラーレンが生成できるか否かが不明であり、また、生成できる場合であっても低収率である等の課題がある。
【0012】
尚、金属内包フラーレンの合成方法としては、上記特許文献4に記載の提案がなされている。この方法は、アーク放電を用いた金属内包フラーレンの製造方法であるが、この方法は基本的にバッチ式であり、炭素棒間がアーク放電維持できない距離まで昇華が促進され離れると、炭素棒を交換する必要があり、連続的な原料生成による大量生産には不向きである。
【0013】
本発明は上記課題を考慮したものであって、ナノカーボン、特に金属内包フラーレンを確実に生成でき、しかも、金属内包フラーレンを含むナノカーボン生成時の収率を飛躍的に向上させることができるナノカーボン製造粉末の提供と金属内包フラーレンの生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、プラズマ中に投入されることによりナノカーボンが生成されるナノカーボン製造用粉末であって、炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み(炭素に金属を含浸したものでも良い)、且つ、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、モード径が10μm以下であることを特徴とする。
ナノカーボン製造用粉末のモード径が10μm以下であれば、当該粉末の粒子径が大きいために、プラズマ処理(熱伝導と化学反応)をなされずに落下する粉末の量が減少する。したがって、ナノカーボン(金属内包フラーレン、フラーレン、カーボンナノチューブ)を生成する際の収率が飛躍的に向上する。加えて、金属内包フラーレンの生成には10μm以下のナノカーボン製造用粉末が主に寄与していると推測される。したがって、当該粉末のモード径を10μm以下に規制することによって、金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを確実に生成することができる。レーザー回折散乱式粒子径測定法においては、粉末を水に分散させて測定する湿式で行うことが好ましい。また、測定の際のレーザー波長は、780nmであることが好ましい。
【0015】
レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、メディアン径が10μm以下であることが望ましく、更に、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した粒度分布において、60μm以上の粒子が5体積%以下であることが望ましい。
このような構成であれば、ナノカーボンの収率を一層向上させることができる。特に、粒径が60μm以上のナノカーボン製造用粉末はナノカーボンの生成を阻害することがあるが、この割合を抑制することにより、ナノカーボンの収率をより一層向上させることができる。
【0016】
また、上記目的を達成するために本発明は、プラズマ中に投入されることによりナノカーボンが生成されるナノカーボン製造用粉末であって、プラズマによりナノカーボンを製造するためのナノカーボン製造用粉末であって、炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み、且つ、篩分け法よる粒度測定において、250メッシュ通過の粒子が95重量%以上であることを特徴とする。
このような構成であれば、上述した理由と同様の理由により、ナノカーボン、特に金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを確実に生成でき、且つ、ナノカーボンの収率が飛躍的に向上する。
【0017】
上記金属及び金属化合物は上記炭素中に分散していることが望ましい。
金属及び金属化合物が炭素中に分散していれば、プラズマ中においてナノカーボンの生成が円滑に行われるからである。
また、金属内包フラーレンを構成する元素組成としては、炭素原子60〜92個に対して金属原子が1〜3個によってなるため、上記分散の状態においては炭素粒子よりも粒子径の小さい金属粒子が炭素粒子中に分散された状態の金属-炭素複合粒子であることが望ましい。個々の金属-炭素複合粒子が、金属内包フラーレンを構成する元素組成に近づくからである。
但し、このような構成に限定するものではなく、金属及び/又は金属化合物と、炭素とが別途の粉末で構成され、これらが混合されている原料であっても良いことは勿論である。
【0018】
上記金属及び金属化合物が、Fe,NiおよびCoからなる鉄族元素、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Gd,Tb,Dy,Ho,ErおよびLuからなる希土類元素、Li、Na、K、RbおよびCsからなるアルカリ金属、Mg、Ca、SrおよびBaからなるアルカリ土類金属、Ti、ZrおよびHfからなる第4属元素、又はそれらの化合物から選択される少なくとも1種であることが望ましく、また、上記ナノカーボンは金属内包フラーレンまたはカーボンナノチューブであることが望ましい。
【0019】
又、上記目的を達成するために本発明は、金属及び金属化合物が分散している炭素粉末をハイブリッドプラズマ中に投入することにより金属内包フラーレンを生成することを特徴とする。
この様な構成であれば、金属内包フラーレンを大量且つ連続的に生成することが出来る。
【0020】
前記ハイブリッドプラズマは、直流プラズマと高周波誘導プラズマとから成っていても良く、直流プラズマとマイクロ波プラズマとから成っていても良く、或いは、二段の高周波誘導プラズマから成っていても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ナノカーボン、特に金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを確実に生成することができ、しかも、ナノカーボンを生成する際の収率が飛躍的に向上するといった優れた効果を奏する。又、金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを大量且つ連続的に生成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明粉末A1の粒径分布を示すグラフである。
【図2】本発明粉末A3の粒径分布を示すグラフである。
【図3】比較粉末Zの粒径分布を示すグラフである。
【図4】本発明粉末A1、A2及び比較粉末Zをプラズマ処理した場合のフラーレン生成の有無を示す高速液体クロマトグラフの結果であり、同図(a)は原料として本発明粉末A1を用いたときのもの、同図(b)は原料として比較粉末Zを用いたときのもの、同図(c)は原料として本発明粉末A2を用いたときのものである。
【図5】本発明粉末A1をプラズマ処理した煤の質量測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明粉末A2をプラズマ処理した煤の質量測定結果を示すグラフである。
【図7】本発明粉末A1をプラズマ処理した煤をSEM観察したときの写真である。
【図8】比較粉末Zをプラズマ処理した煤をSEM観察したときの写真である。
【図9】直流プラズマと高周波誘導プラズマを重畳させたハイブリッドプラズマを発生させる様に成したハイブリッドプラズマ発生装置の一概略例を示したものである。
【図10】本発明粉末A3をプラズマ処理した煤のラマン分光分析の結果を示すグラフである。
【図11】本発明粉末A3をプラズマ処理した場合のフラーレン生成の有無を示す高速液体クロマトグラフの結果である。
【図12】本発明粉末A3をプラズマ処理した煤の質量測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、この形態及び後述の実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0024】
本発明のナノカーボン製造用粉末は、骨材となる炭素質原料と、バインダとなる熱分解生成炭素と、金属及び/又は金属化合物とを用いて作製される。
【0025】
ナノカーボン製造用粉末を作製する一例としては、先ず、炭素質原料とバインダと金属等を、オープンロール、熱間ロール、或いは、熱間混練等で均一に混合した後、成形可能なように数μm〜数100μmに粉砕し、冷間圧縮または熱間圧縮成形する。この後、還元性ガス雰囲気中において、500〜2000℃で焼成する。
【0026】
この後、上記のようにして作製したブロック状の焼成品を所定の大きさに切断し、更に、カッター式粉砕機等を用いて数ミリ程度に粗粉砕する。しかる後、ハンマー式粉砕機等を用いて二次粉砕し、更に、高速気流中で衝撃力を加える微粉砕機等を用いて微粉砕することによって、ナノカーボン製造用粉末を作製する。微粉砕の方法は、高速回転するブレードとの衝撃粉砕、ノズルから噴出する高圧気流で粒子同士を衝撃させるジェットミル等を用いる事ができ、必要に応じて分級機構を設けて粒度調整することも出来る。
【0027】
このようにバインダを用いて一旦焼成品を作成する場合には、炭素と金属とを容易に複合化することができる。但し、炭素微粒子と金属微粒子を直接複合化させるビルドアップ法によっても炭素と金属を複合化することも出来る。
【0028】
上記骨材となる炭素質原料としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、フルフリルアルコール、セルロース、塩化ビニリデン、スルホン化ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂などの合成樹脂を500〜2200℃程度で炭素化して得られる樹脂炭が例示される。人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛を用いてもよい。また、石油コークスおよび石炭コークスなどのコークス類、メソフェーズ小球体およびバルクメソフェーズなどのメソフェーズ類、サーマルブラック、アセチレンブラックおよびファーネスブラックなどのカーボンブラック類等であっても良い。上記コークス類、メソフェーズ類およびカーボンブラック類は、原料を生のまま用いることもできるし、500℃〜2200℃程度で仮焼して用いることもできる。また、骨材となる炭素質原料としては、これらの炭素材のなかから一つあるいは複数を選択して用いることができる。尚、炭素質原料は、粉末状であることが望ましく、平均粒径が1μm以上で100μm以下であることが好ましく、特に5μm以上で50μm以下であることが望ましい。1μmを下回る炭素質原料はカーボンブラックを除いては入手が困難である一方、100μmを上回ると焼成品に粒子離脱を生じる可能性があるからである。
【0029】
上記バインダとなる熱分解性炭素としては、フェノール樹脂、フラン樹脂等の熱硬化性樹脂、熱可塑性のピッチやタールピッチ等を用いることができる。上記炭素質原料に対する熱分解生成炭素との割合は、炭素質原料100重量部に対し熱分解生成炭素マトリックスが5〜100重量部となるように構成されるのが望ましい。但し、上記コークス類およびメソフェーズ類のように自己焼結性を有する骨材を用いる場合は、バインダとなる熱分解生成炭素は必ずしも添加する必要は無い。
【0030】
上記金属及び金属化合物(以下、金属等と称することがある)は、フラーレンに内包されるか或いはナノカーボン生成時に触媒として作用する。上記金属等としては、上述した鉄族元素や希土類元素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、第4属元素或いはこれらの化合物であることが望ましいが、これに限定するものではない。例えば、上記金属等をカーボンナノチューブ生成の触媒として用いる場合には、Ph、Pd、及びPtからなる白金族元素或いはこれらの化合物を用いることができる。また、炭素原子に対する上記金属原子の割合(金属化合物の場合も、炭素原子Cに対する金属原子の割合)は、0.01〜20at%に規制することが望ましい。
【0031】
尚、金属等は粉末状であることが望ましく、平均粒径が1μm以上で100μm以下であることが好ましく、さらには5μm以上で50μm以下であることが望ましい。1μmを下回る金属等は入手が困難かコスト高となる一方、100μmを上回る塊状の場合は焼成品における金属等の均一な分散が困難となるからである。また、金属化合物としては、金属の酸化物、炭化物、硫化物、あるいは塩化物が例示される。更に、複数の金属を添加する場合は、それらの合金であってもかまわない。
【0032】
上記では、炭素質原料、バインダおよび金属等を成形し、焼成して金属と炭素とを複合化した後に粉砕して、ナノカーボン製造用粉末を作成しているが、これに限定されず、上述の炭素質原料と金属とをそれぞれ所定の粒度に微粉砕して混合する方法、炭素質原料と金属とを混合した後所定の粒度の微粉砕する方法等でナノカーボン製造用粉末を作成してもよい。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
先ず、炭素骨材としての人造黒鉛粉末(メディアン径約20μm)と、金属化合物としての酸化ガドリニウム粉末(Gd2O3であって、メディアン径約5μm)と、バインダとしての熱硬化性樹脂とを用意した。次に、上記人造黒鉛粉末と酸化ガドリニウム粉末と熱硬化性樹脂とを混合した。この際、人造黒鉛粉末100重量部に対して熱硬化性樹脂を50重量部添加し、また、炭素原子に対するガドリニウム原子の割合が、0.8at%になるように酸化ガドリニウム粉末を添加した。次いで、上記混合物をオープンロールにより混練した後、成形できる程度に粉砕した。この後、混練物を金型で成型した後、還元雰囲気中1000℃で焼成することによりブロック状の焼成品を得た。
【0034】
次いで、上記ブロック状の焼成品を、十数mm角の小さな塊に切断した後、カッター式粉砕を用いて数mm程度に粗粉砕した。しかる後、粗粉砕した粉末を、ハンマー式の粉砕機を用い周速70m/sで処理して、メディアン径が約60μmの粉末となるように二次粉砕した。最後に、二次粉砕した粉末を、高速気流中で衝撃力を加える微粉砕機を用い周速92m/sで3分間バッチ処理して、微粉砕した。これにより、微粉末化したナノカーボン製造用粉末を得た。
このようにして作製したナノカーボン製造用粉末を、以下、本発明粉末A1と称する。
【0035】
(実施例2)
金属化合物として、酸化ガドリニウム粉末の代わりに酸化ジスプロシウム粉末(Dy2O3であって、平均粒子径約5μm)を用いた以外は、上記実施例1と同様にして微粉末化したナノカーボン製造用粉末を得た。
このようにして作製したナノカーボン製造用粉末を、以下、本発明粉末A2と称する。
【0036】
(実施例3)
金属化合物として、酸化ガドリニウム粉末の代わりにニッケル微粒子(平均粒子径約5μm)および酸化イットリウム微粒子(平均粒子径5μm)を用いた以外は、上記実施例1と同様にして微粉末化したナノカーボン製造用粉末を得た。
このようにして作製したナノカーボン製造用粉末を、以下、本発明粉末A3と称する。
【0037】
(比較例)
微粉砕機で微粉砕しない(二次粉砕した粉末を用いる)以外は、上記実施例1と同様にしてナノカーボン製造用粉末を得た。
このようにして作製したナノカーボン製造用粉末を、以下、比較粉末Zと称する。
【0038】
(実験1)
上記本発明粉末A1〜A3及び、比較粉末Zの粒度分布を調べ、この結果に基づいて、各粉末のモード径と、メディアン径と、湿式測定(水に粉末を分散させてレーザー回折)において粒子径が60μm以上の割合とを調べたので、それらの結果を表1に示す。また、乾式測定(篩い分け)において250メッシュ不通過の粒子の割合を調べたので、その結果を表1に併せて示す。尚、本発明粉末A1及び比較粉末Zにおける粒度分布については、図1(本発明粉末A1)、図2(本発明粉末A3)及び図3(比較粉末Z)に示す。
【0039】
尚、上記粒度分布とは、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布を意味する。また、当該測定に用いるレーザー回折装置としては、日機装株式会社のマイクロトラックHRA(Model No.9320−X100:780nmの半導体レーザーを備え、2つの検出器を有する)を用い、溶媒に水を用い測定時間30秒にて粒度測定を実施した。
また、モード径とはレーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した頻度分布における極大値(出現比率の最も大きい粒子径)であり、メディアン径とはレーザー回折散乱式粒子径測定法で測定し累積分布において粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側とが等量になる径のことである。
【0040】
【表1】
【0041】
上記表1及び図1、図2、図3から明らかなように、本発明粉末A1、A2、A3は比較粉末Zと比べて、モード径とメディアン径とが極めて小さくなっており、且つ、湿式測定(レーザー回折)において粒子径が60μm以上の割合と、乾式測定(篩い分け)において250メッシュ不通過の粒子の割合とが極めて少なくなっていることが認められる。
また、粒径が10μm以下の粒子の割合について調べたところ、本発明粉末A1では82.3体積%であるのに対して、比較粉末Zでは10.3体積%であり、本発明粉末A1は比較粉末Zと比べて、粒径が10μm以下の粒子の割合が極めて多くなっていることが認められた。
【0042】
(実験2)
上記本発明粉末A1、A2及び比較粉末Zを、下記構成のプラズマ発生装置のプラズマ中へ投入した後、N,N−ジメチルホルムアミドを用いて煤からナノカーボン(フラーレン類)を抽出し、トルエン展開液にて高速液体クロマトグラフにて金属内包フラーレン生成状態について調べたので、その結果を図4に示す。尚、プラズマ発生装置による金属内包フラーレン生成について以下に説明する。
【0043】
〔プラズマ発生装置〕
図9は、直流プラズマと高周波誘導プラズマを重畳させたハイブリッドプラズマを発生させる様に成したハイブリッドプラズマ発生装置の一概略例を示したものである。
図中、1は直流プラズマ発生体で、絶縁性材料から成り、中央部がくり貫かれた縦断面(光軸Oを含む方向の断面)がコの字状のフランジ2の中心に設けられた陰極棒3、該陰極棒3との間にプラズマ発生空間4が出来る様に前記フランジ2の下面に取り付けられた中空状の陽極筒5、及び、前記フランジ2及び陽極筒5を取り囲む筒体6を備えている。
【0044】
前記フランジ2には、プラズマガス供給用の孔7及び処理物質供給用の孔8a,8bが開けられており、後者の処理物質供給用の孔8a,8bは前記陽極筒5の中空部5a,5bに繋がっている。
前記陽極筒5の外壁部には冷却水路10が設けられ、更に、該陽極筒5と陰極棒3の間には直流電源(図示せず)から直流電力が供給される様に成っている。
図中、11は前記直流プラズマ発生体1の下部に設けられた高周波誘導プラズマ発生体で、二重管構造の円筒部材12、該円筒部材の外側に巻かれた誘導コイル13を備えている。
【0045】
前記円筒部材12は、互いに支持棒14に固定された上部フランジ15Aと下部フランジ15Bとの間に取り付けられており、後者の下部フランジには冷却水の入り口通路16Aが、前者の上部フランジには冷却水の出口通路16Bがそれぞれ設けられており、前記円筒部材12の二重管内部に冷却水が循環される様に成っている。
前記円筒部材12の内側管と前記筒体6の間には、該内側管の内部の空間(プラズマ発生空間)17にプラズマガスを供給するための隙間18が設けられ、更に、前記誘導コイル13には高周波電源(図示せず)から高周波電力が供給される様に成っている。
【0046】
尚、前記高周波誘導プラズマ発生体11下部にはチャンバー19が配置されており、該チャンバー内は真空排気装置(図示せず)により真空に排気される様に成っていると共に、冷却器(図示せず)によって冷却される様に成っている。
【0047】
この様な構成のハイブリッドプラズマ発生装置において、前記チャンバー19内を真空排気装置(図示せず)により10〜95kPaの範囲で一定の圧力に保っておく。
同時に、前記直流プラズマ発生体1のプラズマ発生空間4内にプラズマガス供給用の孔7からアルゴンガスを供給し、前記陽極筒5と陰極棒3との間に直流電源(図示せず)から直流電力を供給することにより前記プラズマ発生空間4内に直流プラズマを発生させる
【0048】
次に、前記高周波誘導プラズマ発生体11のプラズマ発生空間17内に前記隙間18からアルゴンガスを供給し、高周波電源(図示せず)から前記誘導コイル13に、数百KHz〜100MHzの高周波電力を供給して、前記プラズマ発生空間17内に高周波誘導プラズマを発生させる。
この様にして直流プラズマと高周波誘導プラズマを重畳させたハイブリッドプラズマが形成される。
【0049】
次に、前記プラズマ発生空間17内に前記隙間18からアルゴンガスと共にヘリウムガスも供給する。
この様な状態において、粉末供給装置(図示せず)から、上記本発明粉末A1をキャリアガス(例えば、アルゴンガス)と共に、前記直流プラズマ発生体1の処理物質供給用の孔8a,8bを通じてプラズマ発生空間4に送る。
該プラズマ発生空間に送られて来た粉末は該直流プラズマ中で予備的な加熱を受けて溶融し、前記高周波プラズマ発生体11のプラズマ発生空間17に投入され、該プラズマ発生空間において高周波誘導プラズマにより更に加熱されて蒸発する。そして、該蒸気を含んだプラズマは前記チャンバー19内まで導かれることになる。前記蒸気は該チャンバー19内で急冷されフラーレンが合成されていくが、このフラーレン合成の過程において金属が内包される。また、カーボンナノチューブも生成することができる。
【0050】
尚、上記本発明粉末A2を前記ハイブリッドプラズマに投入した場合も金属内包フラーレンが生成されたが、比較粉末Zを投入した場合には、金属内包フラーレンが生成されなかった。また、上記本発明粉末A3を前記ハイブリッドプラズマに投入した場合には、カーボンナノチューブと金属内包フラーレンが生成された。
【0051】
ここで、前記粉末原料は、金属と炭素を単に混ぜたものではなく、金属を炭素に共有結合させた含浸材料、もしくは、金属が炭素に分散している粉末を使用することが好ましく、更に高周波誘導プラズマの直上に直流プラズマを重畳させたアルゴンガスのハイブリッドプラズマへ原料素材を導入することで、初めて大量且つ連続性のある金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを製造できる。尚、アルゴンと共にヘリウムも混合させることで、金属内包フラーレンの合成効率を更に高めることができる。
【0052】
又、前記ハイブリッドプラズマは直流プラズマと高周波誘導プラズマを組み合わせたが、直流プラズマとマイクロ波プラズマを組み合わせても良い。この場合、マイクロ波プラズマの直上に直流プラズマを形成しても良いし、逆に、直流プラズマの直上にマイクロ波プラズマを形成しても良い。又、高周波誘導熱プラズマ同士を重畳させたタンデムプラズマを用いても良い。シンプルな高周波誘導熱プラズマ単独でも良い。
又、金属を含有させた材料は、液体状態でも良い。
【0053】
図4において、(a)は原料として本発明粉末A1を用いたときのもの、(b)は原料として比較粉末Zを用いたときのもの、(c)は原料として本発明粉末A2を用いたときのものである。図4から明らかなように、原料として本発明粉末A1、A2を用いた場合には金属内包フラーレンGd@C82(I)あるいはDy@C82(I)に相当するリテンションタイム位置に明確なピークが現れておりナノカーボンが合成されていることが確認できるが、原料として比較粉末Zを用いた場合には明確なピークが現れず、ナノカーボンが合成されていないことが確認できる。
【0054】
(実験3)
上記実験2において、本発明粉末A1、A2を用いた場合には金属内包フラーレンの生成が確認できたことから、飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)を用いて質量測定することにより、当該場合に金属内包フラーレンが生成しているか否かについて調べたので、その結果を図5(本発明粉末A1)及び図6(本発明粉末A2)に示す。図5はポジティブモードでの結果であり、図6の上段はポジティブモードでの結果、下段はネガティブモードでの結果である。
尚、実験は、各々の煤からCS2(二硫化炭素)にてフラーレン類を抽出し、トルエンへ溶媒置換した後、高速液体クロマトグラフィーを用いて金属内包フラーレンに相当するトルエン溶液を分取した。そして、分取した金属内包フラーレン溶液の質量スペクトルを測定した。
【0055】
図5及び図6から明らかなように、本発明粉末A1、A2を用いた場合には、金属内包フラーレンの質量に相当するピークが得られ、これにより、金属内包フラーレンの生成を確認できた。
【0056】
(実験4)
本発明粉末A1及び比較粉末Zを用いた場合に、各生成した煤の電子顕微鏡観察を行ったので、その結果を図7(本発明粉末A1)及び図8(比較粉末Z)に示す。
図7から明らかなように、本発明粉末A1を用いた場合には、原料粉末が一度蒸発して再凝集して生成したと考えられる100nm以下のアモルファス状炭素が殆どを占めている。尚、10〜30μmの粒子が若干見つかっており、この粒子は完全には蒸発せずに煤中に混入した原料粉末の一部であると推測される。
【0057】
一方、図8から明らかなように、比較粉末Zを用いた場合には、30〜60μm以上の粒子が大量に存在しており、蒸発が不完全な粒子が大量に生じたことが認められた。つまり、比較粉末Zでは、ナノカーボンの生成に関与しない粒子が大量にあり、ナノカーボンの生成効率が悪いことが分かる。
【0058】
(実験5)
上記本発明粉末A3を、プラズマ発生装置のプラズマ中へ投入した後、煤を回収し、カーボンナノチューブの生成について調べた。まず、回収した煤をFE−SEMで観察したところ、繊維状物質を確認した。さらに、この煤についてラマン分光分析を行った結果を図10に示す。1590cm−1付近に単層カーボンナノチューブに由来する特徴的な鋭いピークが観察された。また、200cm-1以下に直径およそ1.5nmの単層カーボンナノチューブに対応するラジアルブリージングモードが観察された。
これにより、単層カーボンナノチューブの生成が確認された。
【0059】
(実験6)
さらに、実験3と同様に、上記本発明粉末A3から得られた煤について、N,N−ジメチルホルムアミドを用いて煤からフラーレン類を抽出し、トルエン展開液にて高速液体クロマトグラフにて金属内包フラーレン生成状態について調べたので、その結果を図11に示す。
図11から明らかなように、原料として本発明粉末A3を用いた場合には金属内包フラーレンY@C82(I)に相当するリテンションタイム位置に明確なピークが現れておりナノカーボンが合成されていることが確認できる。
【0060】
(実験7)
上記実験6において、本発明粉末A3用いた場合には金属内包フラーレンの生成が確認できたことから、上記実験3と同様に飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)を用いて質量測定することにより、当該場合に金属内包フラーレンが生成しているか否かについて調べたので、その結果を図12に示す。
【0061】
図12の上段はポジティブモードでの結果、下段はネガティブモードでの結果である。
尚、実験は、各々の煤からCS2(二硫化炭素)にてフラーレン類を抽出し、トルエンへ溶媒置換した後、高速液体クロマトグラフィーを用いて金属内包フラーレンに相当するトルエン溶液を分取した。そして、分取した金属内包フラーレン溶液の質量スペクトルを測定した。
図12から明らかなように、本発明粉末A3を用いた場合には、金属内包フラーレンの質量に相当するピークが得られ、これにより、金属内包フラーレンの生成を確認できた。
【0062】
(実験1〜実験7のまとめ)
上記実験1〜実験7の結果から、原料粉末の粒子径が、金属内包フラーレンの生成に影響を及ぼすことが確認できる。図1、図2、及び図3に示した粒度分布測定結果と合わせて考慮すると、金属内包フラーレンの生成にはモード径および/またはメディアン径における10μm以下の粉末が主に寄与していると推測される一方、60μm以上の粒子は金属内包フラーレンの生成を阻害していると推測される。
【0063】
したがって、金属内包フラーレンの収率を向上させて、投入する粉末原料の経済的な活用を図るには、原料粉末においてレーザー回折散乱式粒子径測定法で測定して10μm以下の粒子が60体積%以上含まれることが望ましく、特に、80体積%以上含まれることが望ましい。一方、60μm以上の粒子は10体積%以下であることが望ましく、特に、5体積%以下であることが望ましい。
【0064】
また、カーボンナノチューブも同様に、投入する粉末原料の経済的な活用を図るには、原料粉末においてレーザー回折散乱式粒子径測定法で測定して10μm以下の粒子が60体積%以上含まれることが望ましく、特に、80体積%以上含まれることが望ましい。一方、60μm以上の粒子は10体積%以下であることが望ましく、特に、5体積%以下であることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の粉末を用いて生成されたナノカーボンは、例えば、太陽電池のn層、燃料電池やリチウム二次電池用負極材、樹脂や有機半導体との複合材料からなる高強度樹脂、導電性樹脂、電磁波シールド材の材料、MRIの造影剤、医療用ナノカプセルの材料として好ましく適用することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明はナノカーボン製造粉末に関し、特に、熱プラズマ中に導入して金属内包フラーレン、カーボンナノチューブ等のナノカーボンを製造する際に好適な金属−炭素粉末及び金属内包フラーレンの生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるフラーレン、金属内包フラーレン、カーボンナノチューブ等のナノカーボン材料が注目されている。これらのナノカーボン材料は従来の炭素材料であるグラファイトやダイヤモンドと異なる物性を有しているため、電池材料、触媒、分子磁石、半導体、超電導体、医薬等への応用が期待されている。
【0003】
上記カーボンナノチューブ等のナノカーボンの製造(生成)方法としては、化学気相成長法(CVD法)、レーザー蒸発法、アーク放電法が知られており、更に、プラズマを用いたナノカーボンの生成方法が提案されている。当該方法は、プラズマ中に粉末原料を投入し連続的にナノカーボンを製造する方法であり、工業的スケールアップの面で優れ、工業的に大量合成できるという利点がある。具体的には、下記(1)〜(3)に示すような方法が提案されている。
【0004】
(1)浮遊状態での大きさが100μmを超える粒子を実質的に含まない炭素質原料をガスに同伴して熱プラズマ中に導入し、加熱して蒸発させた後、冷却することにより、フラーレン類を製造する提案(下記特許文献1参照)。
【0005】
(2)高周波誘導コイルによって発生した熱プラズマ中にカーボンの粉末を送り込み、蒸発、再結合させてフラーレン及びカーボンナノチューブを合成する提案(下記特許文献2参照)。
【0006】
(3)マイクロ波放電場中にグラファイト粉末を供給し、該粉末を放電プラズマによって昇華および反応させてフラーレンを合成する提案(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−124807号公報
【特許文献2】特開平07−61803号公報
【特許文献3】特開平05−238717号公報
【特許文献4】特開平05−282938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記背景技術に記載した(1)〜(3)の技術では、金属を含む炭素粉末を用い、熱プラズマにより金属内包フラーレン等のナノカーボンを製造する例は記載されていない。
【0009】
具体的には、(1)の提案では、100μm以下の炭素粉末を熱プラズマに導入することが記載されているが、金属を含む炭素粉末を用いることについては言及されていない。したがって、当該提案では、金属内包フラーレンを生成することができず、しかも、金属内包フラーレン以外のナノカーボン(たとえばカーボンナノチューブ)を生成させる際に、金属による触媒効果を発揮しえないので、ナノカーボンの収率が低下する。
【0010】
また、(2)の提案では、平均粒径が2〜3μm炭素粉末を熱プラズマに導入することにより、フラーレンやカーボンナノチューブを製造することについて記載されているが、やはり金属を含む炭素粉末を用いることについては言及されていない。したがって、上記(1)の提案と同様の課題がある。
【0011】
更に、(3)の提案では、グラファイト粉末を放電プラズマにより処理して、金属内包フラーレンを生成することについて記載しているが、グラファイト粉末の具体的構成については記載されていない。したがって、実際に金属内包フラーレンが生成できるか否かが不明であり、また、生成できる場合であっても低収率である等の課題がある。
【0012】
尚、金属内包フラーレンの合成方法としては、上記特許文献4に記載の提案がなされている。この方法は、アーク放電を用いた金属内包フラーレンの製造方法であるが、この方法は基本的にバッチ式であり、炭素棒間がアーク放電維持できない距離まで昇華が促進され離れると、炭素棒を交換する必要があり、連続的な原料生成による大量生産には不向きである。
【0013】
本発明は上記課題を考慮したものであって、ナノカーボン、特に金属内包フラーレンを確実に生成でき、しかも、金属内包フラーレンを含むナノカーボン生成時の収率を飛躍的に向上させることができるナノカーボン製造粉末の提供と金属内包フラーレンの生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために本発明は、プラズマ中に投入されることによりナノカーボンが生成されるナノカーボン製造用粉末であって、炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み(炭素に金属を含浸したものでも良い)、且つ、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、モード径が10μm以下であることを特徴とする。
ナノカーボン製造用粉末のモード径が10μm以下であれば、当該粉末の粒子径が大きいために、プラズマ処理(熱伝導と化学反応)をなされずに落下する粉末の量が減少する。したがって、ナノカーボン(金属内包フラーレン、フラーレン、カーボンナノチューブ)を生成する際の収率が飛躍的に向上する。加えて、金属内包フラーレンの生成には10μm以下のナノカーボン製造用粉末が主に寄与していると推測される。したがって、当該粉末のモード径を10μm以下に規制することによって、金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを確実に生成することができる。レーザー回折散乱式粒子径測定法においては、粉末を水に分散させて測定する湿式で行うことが好ましい。また、測定の際のレーザー波長は、780nmであることが好ましい。
【0015】
レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、メディアン径が10μm以下であることが望ましく、更に、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した粒度分布において、60μm以上の粒子が5体積%以下であることが望ましい。
このような構成であれば、ナノカーボンの収率を一層向上させることができる。特に、粒径が60μm以上のナノカーボン製造用粉末はナノカーボンの生成を阻害することがあるが、この割合を抑制することにより、ナノカーボンの収率をより一層向上させることができる。
【0016】
また、上記目的を達成するために本発明は、プラズマ中に投入されることによりナノカーボンが生成されるナノカーボン製造用粉末であって、プラズマによりナノカーボンを製造するためのナノカーボン製造用粉末であって、炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み、且つ、篩分け法よる粒度測定において、250メッシュ通過の粒子が95重量%以上であることを特徴とする。
このような構成であれば、上述した理由と同様の理由により、ナノカーボン、特に金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを確実に生成でき、且つ、ナノカーボンの収率が飛躍的に向上する。
【0017】
上記金属及び金属化合物は上記炭素中に分散していることが望ましい。
金属及び金属化合物が炭素中に分散していれば、プラズマ中においてナノカーボンの生成が円滑に行われるからである。
また、金属内包フラーレンを構成する元素組成としては、炭素原子60〜92個に対して金属原子が1〜3個によってなるため、上記分散の状態においては炭素粒子よりも粒子径の小さい金属粒子が炭素粒子中に分散された状態の金属-炭素複合粒子であることが望ましい。個々の金属-炭素複合粒子が、金属内包フラーレンを構成する元素組成に近づくからである。
但し、このような構成に限定するものではなく、金属及び/又は金属化合物と、炭素とが別途の粉末で構成され、これらが混合されている原料であっても良いことは勿論である。
【0018】
上記金属及び金属化合物が、Fe,NiおよびCoからなる鉄族元素、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Gd,Tb,Dy,Ho,ErおよびLuからなる希土類元素、Li、Na、K、RbおよびCsからなるアルカリ金属、Mg、Ca、SrおよびBaからなるアルカリ土類金属、Ti、ZrおよびHfからなる第4属元素、又はそれらの化合物から選択される少なくとも1種であることが望ましく、また、上記ナノカーボンは金属内包フラーレンまたはカーボンナノチューブであることが望ましい。
【0019】
又、上記目的を達成するために本発明は、金属及び金属化合物が分散している炭素粉末をハイブリッドプラズマ中に投入することにより金属内包フラーレンを生成することを特徴とする。
この様な構成であれば、金属内包フラーレンを大量且つ連続的に生成することが出来る。
【0020】
前記ハイブリッドプラズマは、直流プラズマと高周波誘導プラズマとから成っていても良く、直流プラズマとマイクロ波プラズマとから成っていても良く、或いは、二段の高周波誘導プラズマから成っていても良い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ナノカーボン、特に金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを確実に生成することができ、しかも、ナノカーボンを生成する際の収率が飛躍的に向上するといった優れた効果を奏する。又、金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを大量且つ連続的に生成することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明粉末A1の粒径分布を示すグラフである。
【図2】本発明粉末A3の粒径分布を示すグラフである。
【図3】比較粉末Zの粒径分布を示すグラフである。
【図4】本発明粉末A1、A2及び比較粉末Zをプラズマ処理した場合のフラーレン生成の有無を示す高速液体クロマトグラフの結果であり、同図(a)は原料として本発明粉末A1を用いたときのもの、同図(b)は原料として比較粉末Zを用いたときのもの、同図(c)は原料として本発明粉末A2を用いたときのものである。
【図5】本発明粉末A1をプラズマ処理した煤の質量測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明粉末A2をプラズマ処理した煤の質量測定結果を示すグラフである。
【図7】本発明粉末A1をプラズマ処理した煤をSEM観察したときの写真である。
【図8】比較粉末Zをプラズマ処理した煤をSEM観察したときの写真である。
【図9】直流プラズマと高周波誘導プラズマを重畳させたハイブリッドプラズマを発生させる様に成したハイブリッドプラズマ発生装置の一概略例を示したものである。
【図10】本発明粉末A3をプラズマ処理した煤のラマン分光分析の結果を示すグラフである。
【図11】本発明粉末A3をプラズマ処理した場合のフラーレン生成の有無を示す高速液体クロマトグラフの結果である。
【図12】本発明粉末A3をプラズマ処理した煤の質量測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、この形態及び後述の実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0024】
本発明のナノカーボン製造用粉末は、骨材となる炭素質原料と、バインダとなる熱分解生成炭素と、金属及び/又は金属化合物とを用いて作製される。
【0025】
ナノカーボン製造用粉末を作製する一例としては、先ず、炭素質原料とバインダと金属等を、オープンロール、熱間ロール、或いは、熱間混練等で均一に混合した後、成形可能なように数μm〜数100μmに粉砕し、冷間圧縮または熱間圧縮成形する。この後、還元性ガス雰囲気中において、500〜2000℃で焼成する。
【0026】
この後、上記のようにして作製したブロック状の焼成品を所定の大きさに切断し、更に、カッター式粉砕機等を用いて数ミリ程度に粗粉砕する。しかる後、ハンマー式粉砕機等を用いて二次粉砕し、更に、高速気流中で衝撃力を加える微粉砕機等を用いて微粉砕することによって、ナノカーボン製造用粉末を作製する。微粉砕の方法は、高速回転するブレードとの衝撃粉砕、ノズルから噴出する高圧気流で粒子同士を衝撃させるジェットミル等を用いる事ができ、必要に応じて分級機構を設けて粒度調整することも出来る。
【0027】
このようにバインダを用いて一旦焼成品を作成する場合には、炭素と金属とを容易に複合化することができる。但し、炭素微粒子と金属微粒子を直接複合化させるビルドアップ法によっても炭素と金属を複合化することも出来る。
【0028】
上記骨材となる炭素質原料としては、フェノール樹脂、フラン樹脂、フルフリルアルコール、セルロース、塩化ビニリデン、スルホン化ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂などの合成樹脂を500〜2200℃程度で炭素化して得られる樹脂炭が例示される。人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛を用いてもよい。また、石油コークスおよび石炭コークスなどのコークス類、メソフェーズ小球体およびバルクメソフェーズなどのメソフェーズ類、サーマルブラック、アセチレンブラックおよびファーネスブラックなどのカーボンブラック類等であっても良い。上記コークス類、メソフェーズ類およびカーボンブラック類は、原料を生のまま用いることもできるし、500℃〜2200℃程度で仮焼して用いることもできる。また、骨材となる炭素質原料としては、これらの炭素材のなかから一つあるいは複数を選択して用いることができる。尚、炭素質原料は、粉末状であることが望ましく、平均粒径が1μm以上で100μm以下であることが好ましく、特に5μm以上で50μm以下であることが望ましい。1μmを下回る炭素質原料はカーボンブラックを除いては入手が困難である一方、100μmを上回ると焼成品に粒子離脱を生じる可能性があるからである。
【0029】
上記バインダとなる熱分解性炭素としては、フェノール樹脂、フラン樹脂等の熱硬化性樹脂、熱可塑性のピッチやタールピッチ等を用いることができる。上記炭素質原料に対する熱分解生成炭素との割合は、炭素質原料100重量部に対し熱分解生成炭素マトリックスが5〜100重量部となるように構成されるのが望ましい。但し、上記コークス類およびメソフェーズ類のように自己焼結性を有する骨材を用いる場合は、バインダとなる熱分解生成炭素は必ずしも添加する必要は無い。
【0030】
上記金属及び金属化合物(以下、金属等と称することがある)は、フラーレンに内包されるか或いはナノカーボン生成時に触媒として作用する。上記金属等としては、上述した鉄族元素や希土類元素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、第4属元素或いはこれらの化合物であることが望ましいが、これに限定するものではない。例えば、上記金属等をカーボンナノチューブ生成の触媒として用いる場合には、Ph、Pd、及びPtからなる白金族元素或いはこれらの化合物を用いることができる。また、炭素原子に対する上記金属原子の割合(金属化合物の場合も、炭素原子Cに対する金属原子の割合)は、0.01〜20at%に規制することが望ましい。
【0031】
尚、金属等は粉末状であることが望ましく、平均粒径が1μm以上で100μm以下であることが好ましく、さらには5μm以上で50μm以下であることが望ましい。1μmを下回る金属等は入手が困難かコスト高となる一方、100μmを上回る塊状の場合は焼成品における金属等の均一な分散が困難となるからである。また、金属化合物としては、金属の酸化物、炭化物、硫化物、あるいは塩化物が例示される。更に、複数の金属を添加する場合は、それらの合金であってもかまわない。
【0032】
上記では、炭素質原料、バインダおよび金属等を成形し、焼成して金属と炭素とを複合化した後に粉砕して、ナノカーボン製造用粉末を作成しているが、これに限定されず、上述の炭素質原料と金属とをそれぞれ所定の粒度に微粉砕して混合する方法、炭素質原料と金属とを混合した後所定の粒度の微粉砕する方法等でナノカーボン製造用粉末を作成してもよい。
【実施例】
【0033】
(実施例1)
先ず、炭素骨材としての人造黒鉛粉末(メディアン径約20μm)と、金属化合物としての酸化ガドリニウム粉末(Gd2O3であって、メディアン径約5μm)と、バインダとしての熱硬化性樹脂とを用意した。次に、上記人造黒鉛粉末と酸化ガドリニウム粉末と熱硬化性樹脂とを混合した。この際、人造黒鉛粉末100重量部に対して熱硬化性樹脂を50重量部添加し、また、炭素原子に対するガドリニウム原子の割合が、0.8at%になるように酸化ガドリニウム粉末を添加した。次いで、上記混合物をオープンロールにより混練した後、成形できる程度に粉砕した。この後、混練物を金型で成型した後、還元雰囲気中1000℃で焼成することによりブロック状の焼成品を得た。
【0034】
次いで、上記ブロック状の焼成品を、十数mm角の小さな塊に切断した後、カッター式粉砕を用いて数mm程度に粗粉砕した。しかる後、粗粉砕した粉末を、ハンマー式の粉砕機を用い周速70m/sで処理して、メディアン径が約60μmの粉末となるように二次粉砕した。最後に、二次粉砕した粉末を、高速気流中で衝撃力を加える微粉砕機を用い周速92m/sで3分間バッチ処理して、微粉砕した。これにより、微粉末化したナノカーボン製造用粉末を得た。
このようにして作製したナノカーボン製造用粉末を、以下、本発明粉末A1と称する。
【0035】
(実施例2)
金属化合物として、酸化ガドリニウム粉末の代わりに酸化ジスプロシウム粉末(Dy2O3であって、平均粒子径約5μm)を用いた以外は、上記実施例1と同様にして微粉末化したナノカーボン製造用粉末を得た。
このようにして作製したナノカーボン製造用粉末を、以下、本発明粉末A2と称する。
【0036】
(実施例3)
金属化合物として、酸化ガドリニウム粉末の代わりにニッケル微粒子(平均粒子径約5μm)および酸化イットリウム微粒子(平均粒子径5μm)を用いた以外は、上記実施例1と同様にして微粉末化したナノカーボン製造用粉末を得た。
このようにして作製したナノカーボン製造用粉末を、以下、本発明粉末A3と称する。
【0037】
(比較例)
微粉砕機で微粉砕しない(二次粉砕した粉末を用いる)以外は、上記実施例1と同様にしてナノカーボン製造用粉末を得た。
このようにして作製したナノカーボン製造用粉末を、以下、比較粉末Zと称する。
【0038】
(実験1)
上記本発明粉末A1〜A3及び、比較粉末Zの粒度分布を調べ、この結果に基づいて、各粉末のモード径と、メディアン径と、湿式測定(水に粉末を分散させてレーザー回折)において粒子径が60μm以上の割合とを調べたので、それらの結果を表1に示す。また、乾式測定(篩い分け)において250メッシュ不通過の粒子の割合を調べたので、その結果を表1に併せて示す。尚、本発明粉末A1及び比較粉末Zにおける粒度分布については、図1(本発明粉末A1)、図2(本発明粉末A3)及び図3(比較粉末Z)に示す。
【0039】
尚、上記粒度分布とは、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布を意味する。また、当該測定に用いるレーザー回折装置としては、日機装株式会社のマイクロトラックHRA(Model No.9320−X100:780nmの半導体レーザーを備え、2つの検出器を有する)を用い、溶媒に水を用い測定時間30秒にて粒度測定を実施した。
また、モード径とはレーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した頻度分布における極大値(出現比率の最も大きい粒子径)であり、メディアン径とはレーザー回折散乱式粒子径測定法で測定し累積分布において粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側とが等量になる径のことである。
【0040】
【表1】
【0041】
上記表1及び図1、図2、図3から明らかなように、本発明粉末A1、A2、A3は比較粉末Zと比べて、モード径とメディアン径とが極めて小さくなっており、且つ、湿式測定(レーザー回折)において粒子径が60μm以上の割合と、乾式測定(篩い分け)において250メッシュ不通過の粒子の割合とが極めて少なくなっていることが認められる。
また、粒径が10μm以下の粒子の割合について調べたところ、本発明粉末A1では82.3体積%であるのに対して、比較粉末Zでは10.3体積%であり、本発明粉末A1は比較粉末Zと比べて、粒径が10μm以下の粒子の割合が極めて多くなっていることが認められた。
【0042】
(実験2)
上記本発明粉末A1、A2及び比較粉末Zを、下記構成のプラズマ発生装置のプラズマ中へ投入した後、N,N−ジメチルホルムアミドを用いて煤からナノカーボン(フラーレン類)を抽出し、トルエン展開液にて高速液体クロマトグラフにて金属内包フラーレン生成状態について調べたので、その結果を図4に示す。尚、プラズマ発生装置による金属内包フラーレン生成について以下に説明する。
【0043】
〔プラズマ発生装置〕
図9は、直流プラズマと高周波誘導プラズマを重畳させたハイブリッドプラズマを発生させる様に成したハイブリッドプラズマ発生装置の一概略例を示したものである。
図中、1は直流プラズマ発生体で、絶縁性材料から成り、中央部がくり貫かれた縦断面(光軸Oを含む方向の断面)がコの字状のフランジ2の中心に設けられた陰極棒3、該陰極棒3との間にプラズマ発生空間4が出来る様に前記フランジ2の下面に取り付けられた中空状の陽極筒5、及び、前記フランジ2及び陽極筒5を取り囲む筒体6を備えている。
【0044】
前記フランジ2には、プラズマガス供給用の孔7及び処理物質供給用の孔8a,8bが開けられており、後者の処理物質供給用の孔8a,8bは前記陽極筒5の中空部5a,5bに繋がっている。
前記陽極筒5の外壁部には冷却水路10が設けられ、更に、該陽極筒5と陰極棒3の間には直流電源(図示せず)から直流電力が供給される様に成っている。
図中、11は前記直流プラズマ発生体1の下部に設けられた高周波誘導プラズマ発生体で、二重管構造の円筒部材12、該円筒部材の外側に巻かれた誘導コイル13を備えている。
【0045】
前記円筒部材12は、互いに支持棒14に固定された上部フランジ15Aと下部フランジ15Bとの間に取り付けられており、後者の下部フランジには冷却水の入り口通路16Aが、前者の上部フランジには冷却水の出口通路16Bがそれぞれ設けられており、前記円筒部材12の二重管内部に冷却水が循環される様に成っている。
前記円筒部材12の内側管と前記筒体6の間には、該内側管の内部の空間(プラズマ発生空間)17にプラズマガスを供給するための隙間18が設けられ、更に、前記誘導コイル13には高周波電源(図示せず)から高周波電力が供給される様に成っている。
【0046】
尚、前記高周波誘導プラズマ発生体11下部にはチャンバー19が配置されており、該チャンバー内は真空排気装置(図示せず)により真空に排気される様に成っていると共に、冷却器(図示せず)によって冷却される様に成っている。
【0047】
この様な構成のハイブリッドプラズマ発生装置において、前記チャンバー19内を真空排気装置(図示せず)により10〜95kPaの範囲で一定の圧力に保っておく。
同時に、前記直流プラズマ発生体1のプラズマ発生空間4内にプラズマガス供給用の孔7からアルゴンガスを供給し、前記陽極筒5と陰極棒3との間に直流電源(図示せず)から直流電力を供給することにより前記プラズマ発生空間4内に直流プラズマを発生させる
【0048】
次に、前記高周波誘導プラズマ発生体11のプラズマ発生空間17内に前記隙間18からアルゴンガスを供給し、高周波電源(図示せず)から前記誘導コイル13に、数百KHz〜100MHzの高周波電力を供給して、前記プラズマ発生空間17内に高周波誘導プラズマを発生させる。
この様にして直流プラズマと高周波誘導プラズマを重畳させたハイブリッドプラズマが形成される。
【0049】
次に、前記プラズマ発生空間17内に前記隙間18からアルゴンガスと共にヘリウムガスも供給する。
この様な状態において、粉末供給装置(図示せず)から、上記本発明粉末A1をキャリアガス(例えば、アルゴンガス)と共に、前記直流プラズマ発生体1の処理物質供給用の孔8a,8bを通じてプラズマ発生空間4に送る。
該プラズマ発生空間に送られて来た粉末は該直流プラズマ中で予備的な加熱を受けて溶融し、前記高周波プラズマ発生体11のプラズマ発生空間17に投入され、該プラズマ発生空間において高周波誘導プラズマにより更に加熱されて蒸発する。そして、該蒸気を含んだプラズマは前記チャンバー19内まで導かれることになる。前記蒸気は該チャンバー19内で急冷されフラーレンが合成されていくが、このフラーレン合成の過程において金属が内包される。また、カーボンナノチューブも生成することができる。
【0050】
尚、上記本発明粉末A2を前記ハイブリッドプラズマに投入した場合も金属内包フラーレンが生成されたが、比較粉末Zを投入した場合には、金属内包フラーレンが生成されなかった。また、上記本発明粉末A3を前記ハイブリッドプラズマに投入した場合には、カーボンナノチューブと金属内包フラーレンが生成された。
【0051】
ここで、前記粉末原料は、金属と炭素を単に混ぜたものではなく、金属を炭素に共有結合させた含浸材料、もしくは、金属が炭素に分散している粉末を使用することが好ましく、更に高周波誘導プラズマの直上に直流プラズマを重畳させたアルゴンガスのハイブリッドプラズマへ原料素材を導入することで、初めて大量且つ連続性のある金属内包フラーレンやカーボンナノチューブを製造できる。尚、アルゴンと共にヘリウムも混合させることで、金属内包フラーレンの合成効率を更に高めることができる。
【0052】
又、前記ハイブリッドプラズマは直流プラズマと高周波誘導プラズマを組み合わせたが、直流プラズマとマイクロ波プラズマを組み合わせても良い。この場合、マイクロ波プラズマの直上に直流プラズマを形成しても良いし、逆に、直流プラズマの直上にマイクロ波プラズマを形成しても良い。又、高周波誘導熱プラズマ同士を重畳させたタンデムプラズマを用いても良い。シンプルな高周波誘導熱プラズマ単独でも良い。
又、金属を含有させた材料は、液体状態でも良い。
【0053】
図4において、(a)は原料として本発明粉末A1を用いたときのもの、(b)は原料として比較粉末Zを用いたときのもの、(c)は原料として本発明粉末A2を用いたときのものである。図4から明らかなように、原料として本発明粉末A1、A2を用いた場合には金属内包フラーレンGd@C82(I)あるいはDy@C82(I)に相当するリテンションタイム位置に明確なピークが現れておりナノカーボンが合成されていることが確認できるが、原料として比較粉末Zを用いた場合には明確なピークが現れず、ナノカーボンが合成されていないことが確認できる。
【0054】
(実験3)
上記実験2において、本発明粉末A1、A2を用いた場合には金属内包フラーレンの生成が確認できたことから、飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)を用いて質量測定することにより、当該場合に金属内包フラーレンが生成しているか否かについて調べたので、その結果を図5(本発明粉末A1)及び図6(本発明粉末A2)に示す。図5はポジティブモードでの結果であり、図6の上段はポジティブモードでの結果、下段はネガティブモードでの結果である。
尚、実験は、各々の煤からCS2(二硫化炭素)にてフラーレン類を抽出し、トルエンへ溶媒置換した後、高速液体クロマトグラフィーを用いて金属内包フラーレンに相当するトルエン溶液を分取した。そして、分取した金属内包フラーレン溶液の質量スペクトルを測定した。
【0055】
図5及び図6から明らかなように、本発明粉末A1、A2を用いた場合には、金属内包フラーレンの質量に相当するピークが得られ、これにより、金属内包フラーレンの生成を確認できた。
【0056】
(実験4)
本発明粉末A1及び比較粉末Zを用いた場合に、各生成した煤の電子顕微鏡観察を行ったので、その結果を図7(本発明粉末A1)及び図8(比較粉末Z)に示す。
図7から明らかなように、本発明粉末A1を用いた場合には、原料粉末が一度蒸発して再凝集して生成したと考えられる100nm以下のアモルファス状炭素が殆どを占めている。尚、10〜30μmの粒子が若干見つかっており、この粒子は完全には蒸発せずに煤中に混入した原料粉末の一部であると推測される。
【0057】
一方、図8から明らかなように、比較粉末Zを用いた場合には、30〜60μm以上の粒子が大量に存在しており、蒸発が不完全な粒子が大量に生じたことが認められた。つまり、比較粉末Zでは、ナノカーボンの生成に関与しない粒子が大量にあり、ナノカーボンの生成効率が悪いことが分かる。
【0058】
(実験5)
上記本発明粉末A3を、プラズマ発生装置のプラズマ中へ投入した後、煤を回収し、カーボンナノチューブの生成について調べた。まず、回収した煤をFE−SEMで観察したところ、繊維状物質を確認した。さらに、この煤についてラマン分光分析を行った結果を図10に示す。1590cm−1付近に単層カーボンナノチューブに由来する特徴的な鋭いピークが観察された。また、200cm-1以下に直径およそ1.5nmの単層カーボンナノチューブに対応するラジアルブリージングモードが観察された。
これにより、単層カーボンナノチューブの生成が確認された。
【0059】
(実験6)
さらに、実験3と同様に、上記本発明粉末A3から得られた煤について、N,N−ジメチルホルムアミドを用いて煤からフラーレン類を抽出し、トルエン展開液にて高速液体クロマトグラフにて金属内包フラーレン生成状態について調べたので、その結果を図11に示す。
図11から明らかなように、原料として本発明粉末A3を用いた場合には金属内包フラーレンY@C82(I)に相当するリテンションタイム位置に明確なピークが現れておりナノカーボンが合成されていることが確認できる。
【0060】
(実験7)
上記実験6において、本発明粉末A3用いた場合には金属内包フラーレンの生成が確認できたことから、上記実験3と同様に飛行時間型質量分析装置(TOF−MS)を用いて質量測定することにより、当該場合に金属内包フラーレンが生成しているか否かについて調べたので、その結果を図12に示す。
【0061】
図12の上段はポジティブモードでの結果、下段はネガティブモードでの結果である。
尚、実験は、各々の煤からCS2(二硫化炭素)にてフラーレン類を抽出し、トルエンへ溶媒置換した後、高速液体クロマトグラフィーを用いて金属内包フラーレンに相当するトルエン溶液を分取した。そして、分取した金属内包フラーレン溶液の質量スペクトルを測定した。
図12から明らかなように、本発明粉末A3を用いた場合には、金属内包フラーレンの質量に相当するピークが得られ、これにより、金属内包フラーレンの生成を確認できた。
【0062】
(実験1〜実験7のまとめ)
上記実験1〜実験7の結果から、原料粉末の粒子径が、金属内包フラーレンの生成に影響を及ぼすことが確認できる。図1、図2、及び図3に示した粒度分布測定結果と合わせて考慮すると、金属内包フラーレンの生成にはモード径および/またはメディアン径における10μm以下の粉末が主に寄与していると推測される一方、60μm以上の粒子は金属内包フラーレンの生成を阻害していると推測される。
【0063】
したがって、金属内包フラーレンの収率を向上させて、投入する粉末原料の経済的な活用を図るには、原料粉末においてレーザー回折散乱式粒子径測定法で測定して10μm以下の粒子が60体積%以上含まれることが望ましく、特に、80体積%以上含まれることが望ましい。一方、60μm以上の粒子は10体積%以下であることが望ましく、特に、5体積%以下であることが望ましい。
【0064】
また、カーボンナノチューブも同様に、投入する粉末原料の経済的な活用を図るには、原料粉末においてレーザー回折散乱式粒子径測定法で測定して10μm以下の粒子が60体積%以上含まれることが望ましく、特に、80体積%以上含まれることが望ましい。一方、60μm以上の粒子は10体積%以下であることが望ましく、特に、5体積%以下であることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の粉末を用いて生成されたナノカーボンは、例えば、太陽電池のn層、燃料電池やリチウム二次電池用負極材、樹脂や有機半導体との複合材料からなる高強度樹脂、導電性樹脂、電磁波シールド材の材料、MRIの造影剤、医療用ナノカプセルの材料として好ましく適用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ中に投入されることによりナノカーボンが生成されるナノカーボン製造用粉末であって、
炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み、且つ、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、モード径が10μm以下であることを特徴とするナノカーボン製造用粉末。
【請求項2】
レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、メディアン径が10μm以下である、請求項1に記載のナノカーボン製造用粉末。
【請求項3】
レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した粒度分布において、60μm以上の粒子が5体積%以下である、請求項1又は2に記載のナノカーボン製造用粉末。
【請求項4】
プラズマ中に投入されることによりナノカーボンが生成されるナノカーボン製造用粉末であって、
炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み、且つ、篩分け法よる粒度測定において、250メッシュ通過の粒子が95重量%以上であることを特徴とするナノカーボン製造用粉末。
【請求項5】
上記金属及び金属化合物は上記炭素中に分散している、請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノカーボン製造用粉末。
【請求項6】
上記金属及び金属化合物が、Fe,NiおよびCoからなる鉄族元素、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Gd,Tb,Dy,Ho,ErおよびLuからなる希土類元素、Li、Na、K、RbおよびCsからなるアルカリ金属、Mg、Ca、SrおよびBaからなるアルカリ土類金属、Ti、ZrおよびHfからなる第4属元素、またはそれらの化合物から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項にナノカーボン製造用粉末。
【請求項7】
上記ナノカーボンは金属内包フラーレンまたはカーボンナノチューブである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノカーボン製造用粉末。
【請求項8】
金属又は金属化合物が分散している炭素粉末をハイブリッドプラズマ中に投入することにより金属内包フラーレンを生成するようにしたことを特徴とする金属内包フラーレンの生成方法。
【請求項9】
前記ハイブリッドプラズマは、直流プラズマと高周波誘導プラズマとから成る、請求項8に記載の金属内包フラーレンの生成方法。
【請求項10】
前記ハイブリッドプラズマは、直流プラズマとマイクロ波プラズマとから成る、請求項8に記載の金属内包フラーレンの生成方法。
【請求項11】
前記ハイブリッドプラズマは、二段の高周波誘導プラズマから成る、請求項8に記載の金属内包フラーレンの生成方法。
【請求項1】
プラズマ中に投入されることによりナノカーボンが生成されるナノカーボン製造用粉末であって、
炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み、且つ、レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、モード径が10μm以下であることを特徴とするナノカーボン製造用粉末。
【請求項2】
レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した体積基準の粒度分布において、メディアン径が10μm以下である、請求項1に記載のナノカーボン製造用粉末。
【請求項3】
レーザー回折散乱式粒子径測定法で測定した粒度分布において、60μm以上の粒子が5体積%以下である、請求項1又は2に記載のナノカーボン製造用粉末。
【請求項4】
プラズマ中に投入されることによりナノカーボンが生成されるナノカーボン製造用粉末であって、
炭素と、金属及び/又は金属化合物とを含み、且つ、篩分け法よる粒度測定において、250メッシュ通過の粒子が95重量%以上であることを特徴とするナノカーボン製造用粉末。
【請求項5】
上記金属及び金属化合物は上記炭素中に分散している、請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノカーボン製造用粉末。
【請求項6】
上記金属及び金属化合物が、Fe,NiおよびCoからなる鉄族元素、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Gd,Tb,Dy,Ho,ErおよびLuからなる希土類元素、Li、Na、K、RbおよびCsからなるアルカリ金属、Mg、Ca、SrおよびBaからなるアルカリ土類金属、Ti、ZrおよびHfからなる第4属元素、またはそれらの化合物から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項にナノカーボン製造用粉末。
【請求項7】
上記ナノカーボンは金属内包フラーレンまたはカーボンナノチューブである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノカーボン製造用粉末。
【請求項8】
金属又は金属化合物が分散している炭素粉末をハイブリッドプラズマ中に投入することにより金属内包フラーレンを生成するようにしたことを特徴とする金属内包フラーレンの生成方法。
【請求項9】
前記ハイブリッドプラズマは、直流プラズマと高周波誘導プラズマとから成る、請求項8に記載の金属内包フラーレンの生成方法。
【請求項10】
前記ハイブリッドプラズマは、直流プラズマとマイクロ波プラズマとから成る、請求項8に記載の金属内包フラーレンの生成方法。
【請求項11】
前記ハイブリッドプラズマは、二段の高周波誘導プラズマから成る、請求項8に記載の金属内包フラーレンの生成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−46393(P2012−46393A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191787(P2010−191787)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】
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