説明

ナノ粒子の形態のTiO2の水性分散液の製造方法、及びこの方法で得られる分散体

本発明は、表面の光触媒被覆を形成し、また光触媒による気体及び液体の汚染除去に有用な、鋭錐石結晶形のTiOの水性分散体の製造方法、及び前記方法で得られた分散体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子の形態の組成物の製造方法の分野、特にナノ粒子の形態のTiO分散体の製造に関連した方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化チタンは、特に塗料、並びに紙及び合成ゴムの製造に用いられる被覆能力が非常に強い白色顔料である。二酸化チタンのごく最近の応用のうち、光触媒活性度を最も効果的に用いることが試みられており、言い換えれば、紫外線の働きを通して、ベンゼン、ダイオキシン及びその他の有機汚染物のような有害又は有毒な物質、及びまたカビやバクテリアのような不快でしかも病気を引き起こす物質を酸化分解する触媒作用を可能とするラジカル種を発生するという特性を利用するものである。従ってこれらの応用は、攻撃的な汚染物から洗剤及び滅菌製品に及ぶ広い環境分野において用いられる。
【0003】
これらの応用においては、二酸化チタンは、光触媒効果を最大にするために表面上に被覆として処理されて用いられる。“鋭錐石”と呼ばれる二酸化チタンの結晶形は、化学的に安定でありしかも容易に利用できると共に他の二つの結晶形、すなわち金紅石及び板チタン石よりも光触媒能力が高いので、この形式の応用には最も適している。
【0004】
他方、鋭錐石形態でも、二酸化チタンの吸収スペクトルを太陽スペクトルに重ね合わせると、それほど大きくはなく、そのため光触媒効率のレベルは低くなる。このため、例えばTiOに他の金属をドーピングする、又は問題の組成物をナノ粒子の形態で生成することにより、TiOを改質(変性)することが種々試みられてきた。実際、これにより表面積は大幅に増大し、同時に光触媒効率も大幅に増加する。
【0005】
TiOを粉末形態で提供するナノ粒子形態のTiO鋭錐石を製造する幾つかの方法がある。光触媒被覆を形成するのに適するようにするために、この粉末は適切な溶媒に分散させ、そして被覆の付着性を改善するために他の可能な添加剤と配合されなければならず、そのため二酸化チタン粒子が凝固し、光触媒効率及び微粒子状物質の活性を維持することできなくなる。さらにある時間が経過すると、これらの分散体におけるTiO粒子は、それらを入れている容器の底に沈殿する傾向があり、貯蔵中の安定性の問題が生じる。
【0006】
さらに、伊国特許出願公開第FI2004A252号明細書(同一出願人による出願)には、溶媒として水及び適切な錯化溶媒を用いる、鋭錐石形態の二酸化チタンの安定したナノ粒子分散体を作ることのできる方法が記載されている。
【特許文献1】伊国特許出願公開第FI2004A252号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
最近、本出願人は、水のみに既に分散され、光触媒被覆を作るのに直接用いることのできる鋭錐石形態の二酸化チタンのナノ粒子を得る方法を開発した。本発明による方法で得られる分散体は、長期保存の後でも粒子を凝固させることがなく、従って分散の均質性により粒状物質の光触媒能力を維持する被覆を形成できる。
【0008】
従って、本発明の目的は、チタンアルコキシドを、鉱酸及び非イオン界面活性剤の存在下で水相中で加熱により反応させ、こうして得られた溶液を必要ならば最終的にその容積を減少する水相中における鋭錐石形態の二酸化チタンのナノ粒子分散体の製造方法にある。本発明の別の目的は、本方法を用いて得られた水相中における鋭錐石形態の二酸化チタンのナノ粒子分散体の使用、並びに光触媒による気体及び液体の汚染除去のための光触媒表面被覆の生成及び太陽光線に対して人の皮膚を保護する作用をもつ化粧品の配合物を生成するための二酸化チタンのナノ粒子分散体の使用である。
【0009】
本発明の特徴及び利点について以下詳細に説明する。
【0010】
本発明の方法は、直接水相中で鋭錐石形態のTiOを作ることができ、そして反応過程の終了時に30〜50nmの大きさのTiO粒子の分散体を得ることができる。粒子の測定は、XRD(X線回析)、FEG−SEM(電界放出銃−走査型電子顕微鏡)、TEM(透過電子顕微鏡)及びDLS(動的光散乱法)のような当該技術分野における通常の知識を有する者に周知である種々の方法を用いて行った。溶媒混合物又は水相中にナノメートル粉末を分散して生成したものと違い、これらの分散体は、分散体生成物を長期間貯蔵した後でも集塊又は凝固及び固体沈殿の兆候が全くない。この種の分散体で得られることになる利点は、明らかであり、前記分散体で作ることのできる被覆の光触媒効率及び一様性と関連している。本発明による方法で得ることのできる分散率は、DLS法(動的光散乱法)で測定して、0.3以下であり、従って本発明による分散体は、ナノ粒子粉末を溶媒に分散させて作る先行技術の方法を用いて得られたものとは異なっている。
【0011】
本方法において出発製品として用いたチタンアルコキシドは、チタンメトキシド、エトキシド、ノルマルプロポキシド、イソプロポキシド、ノルマルブトキシド及びイソブトキシドから成る群から選択され得る。
【0012】
チタンイソプロポキシドは、安価であり、本方法で用いた条件の下では反応が良好なので、特に好ましい。
【0013】
非イオン界面活性剤は、非イオン化エーテル、エステル、エーテル−エステルのような非極性部と極性機能部とから成る表面活性剤であり、特に好ましいのはトリトンX−100(TX−100)である。
【0014】
本発明において鉱酸なる用語は、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、過塩素酸、臭化水素酸及び沃化水素から成る群から選択した酸に係り、好ましくは、ハロゲン酸が用いられ、そして特に塩酸が用いられる。
【0015】
チタンアルコキシド/鉱酸のアルコラートモル比は、0.005乃至15であり、好ましくは5乃至6である。
【0016】
反応温度は15℃乃至95℃であり、好ましくは45℃乃至55℃である。
【0017】
反応時間は12乃至72時間であり、好ましくは24時間である。
【0018】
本分散体を用いて被覆を形成する場合に、必要ならば、本分散体は、必要な稀釈レベルを得るために、例えば水やエタノールのような接着改良剤又は溶媒のような表面被覆の分野において普通に用いられる、添加剤及び稀釈剤を用いて組成され得る。
【0019】
一方、本分散体を用いて液体や気体生成物の汚染を除去する場合には、本分散体は、シリカゲル支持体又は吸着特性をもつあるその他の適当な無機支持体にそれぞれ吸着される。当該支持体は、そのままの状態若しくは稀釈した状態の液体に浸漬され、又は純化される気体を洗浄すべく、その気体が発生している容器内に設置される。
【0020】
本分散体で作った表面被覆が適用できる支持体は、ロールに巻かれた又は既に衣料品に形成されたの編織布からセラミック製品及びガラス、金属、鏡及び同様な材料製の支持体まで広く種々に及ぶ。
【0021】
本発明による表面被覆の光触媒活性度は、典型的には388nm未満の適当な波長の光に被覆を曝すことの結果として説明される。被覆を紫外線に暴露した後は、滅菌性、抗菌性でしかも超親水性の表面となる。実際に、TiOで被覆した支持体は、全体として、撥水性能力がなくなり超親水性能力と呼ばれる状態になり、TiOの自己洗浄作用で処理した表面となる。
【0022】
さらに、TiO粒子の大きさが極端に小さいと、本分散体は、実際に透明であり、該分散体の施される表面の外観は全体として変化しない。この透明性はまた、紫外線に対して保護レベルの高い太陽光フィルタを作るために化粧品の分野に用いるのに適した製品にできる。
【0023】
本分散体の別の利点は、高温でのそれらの挙動にある。実際に、セラミック支持体に表面被覆を施すには、分散体の施される支持体を高温処理する必要があるが、本分散体は、当該被覆における外観、鋭錐石の結晶形及びナノ粒子の性質を加熱処理前と全く同様に維持する。
【0024】
本発明に係る方法の特定の実施形態によれば、Tiは、遷移金属群、特にAg、Cu及びCeから選択した金属の一つを塩として反応開始時の溶液に添加することによって、これらの金属でドーピングされ得る。このようにして、本方法では、紫外線なしでも触媒活性を行うことができる、Ag、Cu又はCeでドーピングしたTiOの分散体を形成することなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の幾つかの実施例を挙げる。これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0026】
[実施例1]
5グラムの濃HCIと、7.5グラムのTX−100と、総重量750グラムまでの水とを、外部ジャケットに循環する非断熱性油によって加熱した2リットルの反応器に入れた。温度を50℃に上昇させた。この時点で、50グラムのTi[OCH(CH(TIP)を素早く添加すると、直ちに白色羊毛状の沈殿を見ることができた。
【0027】
7時間後、非常に安定した透明なゾルが形成された。
【0028】
<特性決定>
特性は、溶液中に存在する二酸化チタンの濃度を測定すること(ICP法)及び粒子のサイズを測定すること(DLS法)によって決定した。
濃度:TiO1.5重量%
粒子のサイズ:0.282の多分散率で36.67nm
【0029】
[実施例2]
5グラムの濃HCIと、7.5グラムのTX−100と、総重量750グラムまでの水とを、外部ジャケットに循環する非断熱性油によって加熱した2リットルの反応器に入れた。温度を50℃に上昇させた。この時点で、50グラムのTIPを素早く添加すると、直ちに白色羊毛状の沈殿を見ることができた。
【0030】
24時間後、非常に安定した透明なゾルが形成された。
【0031】
<特性決定>
濃度:TiO1.45重量%
粒子のサイズ:0.216の多分散率で30.26nm
【0032】
[実施例3]
実施例2の合成で得た生成物500ccをロータリーエバポレーターに入れ、濃縮した。恒温槽を40℃に加熱し、そして油圧真空ポンプで恒温槽内を真空にした。
【0033】
110ccの溶液が得られた。
【0034】
<特性決定>
濃度:TiO6.69重量%
粒子のサイズ:0.269の多分散率で26.72nm
【0035】
[実施例4]
5グラムの濃HCIと、1.0グラムのTX−100と、総重量936グラムまでの水とを、外部ジャケットに循環する非断熱性油によって加熱した2リットルの反応器に入れた。温度を50℃に上昇させた。この時点で、64グラムのTIPを素早く添加すると、直ちに白色羊毛状の沈殿を見ることができた。
【0036】
24時間後、非常に安定した透明なゾルが形成された。
【0037】
<特性決定>
濃度:TiO1.8重量%
粒子のサイズ:0.246の多分散率で49.62nm
【0038】
[実施例5]
5グラムの濃HCIと、総重量936グラムまでの水とを、外部ジャケットに循環する非断熱性油によって加熱した2リットルの反応器に入れた。温度を50℃に上昇させた。この時点で、64グラムのTIPを素早く添加すると、直ちに白色羊毛状の沈殿を見ることができた。
【0039】
24時間後、非常に安定した透明なゾルが形成された。
【0040】
<特性決定>
濃度:TiO1.8重量%
粒子のサイズ:0.286の多分散率で52.71nm
【0041】
[実施例6]
繊維に、水相中のTiOのナノ粒子分散体を施す例
実施例1〜5に記載したようにして得た懸濁液は、繊維を処理し、皮膚に有害な紫外線を繊維に吸着させ、それにより皮膚ガンが発生する危険をさせる。
【0042】
15Kgの0.5M酢酸ナトリウム溶液及び0.5KgのPimasil(シロキサン樹脂)を、水相中で生成した13Kgの生成物に添加し、6%まで濃縮した。こうして得られた組成物を、パジング法、続いてラメユース乾燥法を用いて繊維に施した。こうして得られた繊維は、同じ形式の処理していない繊維の値の20倍に匹敵するUPF値をもつ。
【0043】
[実施例7]
セラミック又はガラス表面に、水相中のTiOのナノ粒子分散体を施す例
実施例1〜5に記載したようにして得た懸濁液をそのままの濃度で又は稀釈(水又はアルコールで)して、セラミック又はガラス表面に(エアーブラシ又は浸漬被覆法を用いて)施すことができる。こうして得られた表面は、施した層が完全に透明であるので、最初の特徴を維持している。この表面は、光触媒特性を用いた全ての機能、すなわち、自己洗浄、抗菌性、有機汚染物質を低減させる機能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】乾燥した生成物の回析図を示す。y軸は放射線の強さを表し、x軸は放射線の入射角の大きさを表す。この分析は本発明の方法を用いて得られた鋭錐石形態の結晶二酸化チタンがいかなるものであるかを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンアルコキシドを、鉱酸及び非イオン界面活性剤の存在下で水中で加熱することにより反応させ、得られた溶液を必要に応じて可能な限りその容量を減少することを特徴とする鋭錐石形態のTiOのナノ粒子分散体の製造方法。
【請求項2】
前記チタンアルコキシドが、チタンメトキシド、エトキシド、ノルマルプロポキシド、イソプロポキシド、ノルマルブトキシド及びイソブトキシドから成る一群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記チタンアルコキシドが、チタンイソプロポキシドであることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記鉱酸がハロゲン酸であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ハロゲン酸がHCLであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記非イオン界面活性剤がエーテル又はエステル型の極性機能をもつことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記非イオン界面活性剤がトリトンX−100(TX−100)であることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
非イオン界面活性剤/ハロゲン酸のモル比が0.005乃至15であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
非イオン界面活性剤/ハロゲン酸のモル比が5乃至6であることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
反応温度が15℃乃至95℃であり、反応時間が12乃至72時間であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
反応温度が45℃乃至55℃であり、反応時間が24時間であることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
チタンアルコキシド、鉱酸及び界面活性剤を含む溶液にAg、又はCu又はCeの金属塩が添加されることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1乃至11に記載の方法を用いて得ることのできる水相中で鋭錐石形態のTiOのナノ粒子分散体。
【請求項14】
請求項12に記載の方法を用いて得ることのできる、一連の遷移金属から選択した金属でTiがドーピングされる水相中のTiOのナノ粒子分散体。
【請求項15】
前記遷移金属が、Ag、Cu及びCeから成る群から選択される請求項14記載のTiOのナノ粒子分散体。
【請求項16】
前記処理を必要とする支持体表面に光触媒コーティングを施すための請求項13乃至15記載のTiOのナノ粒子分散体の使用。
【請求項17】
前記表面が、編織布、金属、セラミック及びエナメル製品の表面の中から選択される請求項16記載のTiOのナノ粒子分散体の使用。
【請求項18】
気体及び液体の光触媒による気体及び液体の汚染除去のための請求項13乃至15記載のTiOのナノ粒子分散体の使用。
【請求項19】
太陽光線に対して人の皮膚を保護する化粧品を作るための請求項13乃至15記載のTiOのナノ粒子分散体の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−525246(P2009−525246A)
【公表日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552790(P2008−552790)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/050826
【国際公開番号】WO2007/088151
【国際公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(507185118)コロロッビア イタリア ソシエタ ペル アチオニ (7)
【Fターム(参考)】