説明

ニッケルスラリー及びその製造方法並びに該ニッケルスラリーを用いたニッケルペースト又はニッケルインキ

【課題】 微粒化され、粒度分布がシャープで、かつ分散性の良好なニッケルスラリー及びその製造方法、並びに該ニッケルスラリーを用いたニッケルペースト又はニッケルインキを提供すること。
【解決手段】 平均一次粒径が100nm以下のニッケル粒子と有機溶媒を含むことを特徴とするニッケルスラリー、並びにニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応液中のニッケルイオンを還元し、次いで有機溶媒で置換するニッケルスラリーの製造方法において、上記反応液にアミノ酸を添加することを特徴とするニッケルスラリーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルスラリー及びその製造方法並びに該ニッケルスラリーを用いたニッケルペースト又はニッケルインキに関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル粉は種々の用途に用いられており、例えば、ニッケル粉を含む導電性ペーストの原料として種々の電極や回路を形成する用途に用いられている。具体的には、積層セラミックコンデンサ(Multi−layer Ceramic Capacitor:MLCC)の内部電極として一般的にニッケルが用いられているが、該内部電極は、ニッケル粉を含む導電性ペーストをセラミック誘電体等に塗布し、焼成して得られるものである。
【0003】
また、ニッケル粉は、セラミックス基板、ガラス基板、ポリイミドに代表される樹脂基板等に高密度な金属配線や電極を形成するための導電性インクの原料としても用いられている。
【0004】
上記ニッケル粉の製造方法としては、例えば、特許文献1(特開昭59−173206号公報)には、ニッケル等の水酸化物等の固体化合物を反応温度において液状のポリオール又はポリオール混合物に懸濁させた懸濁体を少なくとも85℃の温度に加熱することにより、上記固体化合物をポリオールにより還元し、生成した金属析出物を単離する還元方法が開示されている。この製造方法によれば、簡単で経済的にニッケル粉を得ることができるとされている。
【0005】
また、特許文献2(特開2004−308013号公報)には、有機塩基、酢酸ニッケル等のニッケル前駆化合物及びポリオールを含む混合物を加熱する段階を含み、この際、上記ニッケル前駆化合物は、上記有機塩基と上記ポリオールとによって金属ニッケルに還元されるニッケル金属粉末の製造方法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載されているようなポリオール法では、溶媒の加熱による還元に依存しており、平均粒径が小さく、粒度分布がシャープなニッケル粉末を得ることは難しかった。また、特許文献2の実施例に記載されているように、ポリオール法で有機塩基を用いても特許文献1と同様に、得られるニッケル粉は平均粒径が50nmを超えるものであった。
【0007】
近年、MLCCの小型、大容量化の要請より、内部電極の薄型化及び電極表面の平滑化が求められており、このため、導電性ペーストに用いられるニッケル粉にも微粒化、及び粒度分布のシャープさが求められている。また、導電性インクに用いられるニッケル粉にも上記と同様に微粒化及び粒度分布のシャープさが要請されていた。これに対し、上記特許文献1及び特許文献2に記載の製造方法で得られたニッケル粉は、上述したように、微粒化及び粒度分布のシャープさの点で十分でないという問題があった。
【0008】
このため、微粒化され、かつ粒度分布のシャープなニッケル粉を製造する試みは種々なされており、各種分散剤、添加剤、貴金属触媒等の添加やマイクロ波を照射する等して反応を制御することが検討されてきた。例えば特許文献3(特開2000−256707号公報)には、水酸化ニッケル等の金属塩を溶媒中に溶解あるいは分散してなる溶液に、強度のマイクロ波を照射することにより、ナノサイズの超微粒子を製造することが記載されている。ところが、特許文献3に開示の方法で得られる実際のニッケル粉は粒度がばらついていたり、凝集が激しかったりするという問題点があった。
【0009】
また、水系でニッケルコロイドを製造する方法も提案されている。特許文献4(特開2004−124237号公報)には、ニッケルのコロイド粒子、非極性高分子顔料分散剤及び有機溶媒を含有するニッケルコロイド溶液が記載されている。このコロイド溶液とは、静置したとき、ニッケル粒子の沈降が短時間では殆ど起こらないのが通常である。従って、特許文献4で言う非極性高分子顔料分散剤という有機物の添加が必要となるものである。
【0010】
しかし、このような製造方法では、有機分散剤を多量に添加する必要があるため、このニッケルコロイドを用いてペーストやインクを製造すると、その製品中にも有機物としての分散剤が多量に含まれる。このため、ニッケル粒子の表面に過剰な有機物が残留し膜抵抗の上昇要因となる。また、膜密度の小さい空隙の多い乾燥膜しか得られない現象も発生しやすくなる。これらの点から上記のようなニッケルコロイド溶液は、本質的に電極材料用ペースト、インキ材料として不適当であった。
【0011】
【特許文献1】特開昭59−173206号公報
【特許文献2】特開2004−308013号公報
【特許文献3】特開2000−256707号公報
【特許文献4】特開2004−124237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、微粒化され、粒度分布がシャープで、且つ、分散性の良好なニッケル粒子が含まれたニッケルスラリーを提供する。そして、このニッケルスラリーを用いて、ニッケルペースト又はニッケルインキを製造し、これらによって形成した回路等に抵抗上昇の要因となる有機物残留がなく、膜密度の大きい薄膜形成が可能で膜抵抗を低くできるものを提供する。更に、そのニッケルスラリーの製造方法、並びに該ニッケルスラリーを用いたニッケルペースト又はニッケルインキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液中にアミノ酸を添加することによって、平均一次粒径が小さく、粒度分布がシャープなニッケル粒子が得られることを知見し、本発明に到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、ニッケル粒子と有機溶媒とからなるニッケルスラリーであって、当該ニッケル粒子は、その平均一次粒径が100nm以下であることを特徴とするニッケルスラリーを提供するものである。
【0015】
そして、上記ニッケルスラリーにおいて、ニッケル粒子の平均一次粒径が、10nm〜70nmであることが、より好ましい。
【0016】
また、上記ニッケルスラリーにおいて、ニッケル粒子の含有量が15重量%〜92重量%であることが、ニッケルペースト及びニッケルインクへを製造するための原料として好ましい。
【0017】
また、上記ニッケルスラリーにおいて、ニッケル粒子の表面に0.5nm〜3nmの有機化合物層を有することが好ましい。
【0018】
本発明は、ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応液中のニッケルイオンを還元し、次いで有機溶媒で置換するニッケルスラリーの製造方法において、上記反応液にアミノ酸を添加することを特徴とするニッケルスラリーの製造方法を提供するものである。
【0019】
また、上記製造方法において、上記アミノ酸の添加量が、ニッケルに対して0.01重量%〜20重量%であることが好ましい。
【0020】
また、上記製造方法において、上記アミノ酸は、沸点又は分解点が上記反応温度以上であり、かつニッケル及び貴金属触媒とポリオール中で錯体を形成するものであり、具体的にはL−アルギニン及び/又はL−シスチンが好ましく用いられる。
【0021】
また、上記製造方法において、上記反応液が分散剤を含むことが好ましい。
【0022】
また、本発明は、上記ニッケルスラリーを用いたニッケルペースト又はニッケルインクを提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係るニッケルスラリーは、微粒化され、粒度分布がシャープで、かつ分散性が良好なニッケル粒子を含むため、製品ニッケルスラリー中に有機分散剤を含まずに、緻密な乾燥膜が得られる。また、本発明に係るニッケルスラリーの製造方法は、工程の操業安定性に優れ、ニッケルスラリーを非常に効率よく製造できる方法である。さらに、本発明に係る上記ニッケルスラリーを用いたニッケルペーストやニッケルインクは、内部電極の薄型化及び電極表面の平滑化や高密度な金属配線や電極の形成に充分に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0025】
(本発明に係るニッケルスラリー)
本発明に係るニッケルスラリーは、「ニッケル粒子を含むニッケルスラリーにおいて、当該ニッケルスラリーは、有機溶媒と平均一次粒径が100nm以下のニッケル粒子のみからなることを特徴とするニッケルスラリー」である。ここで、本件発明の特徴は、樹脂等の有機剤を全く用いることなく、加熱により揮散可能な有機溶媒と、ニッケル粒子のみで構成されたニッケルスラリーである。このニッケルスラリーは、ニッケルコロイドと異なり、静置しているとニッケル粒子が容易に沈降する性質を持つ。従って、保存したものを使用するときには、攪拌作業が必要となるが、ニッケルスラリーの溶液側に不必要に有機剤を含まないために、有機剤によるニッケル粒子の表面の汚染もなく、ニッケルペースト及びニッケルインクの原料として使用するときの樹脂成分の調整等も容易となる。
【0026】
しかも、ここでは単にニッケル粒子の平均一次粒径が100nm以下と記載しているが、従来このレベルの微粒のニッケル粒子を狙って作り出すことは困難であり、仮に製造可能であっても品質バラツキは大きく、量産性に欠け市場供給は出来ないものであり、本件発明に係るニッケルスラリーは、従来、市場供給することが不可能であった微粒のニッケル粒子を含むのである。
【0027】
平均一次粒径が100nmを超えるレベルのニッケル粒子は、従来の製造方法を適用してもある程度の製造は可能である。これに対し、本発明に係るニッケルスラリー中のニッケル粒子の平均一次粒径は、製造上不可避的に発生する一定のバラツキを考えても、100nm以下の値となる。そして、より最適な製造条件を適用することで、10nm〜70nmの範囲の微粒ニッケル粒子を得ることができ、高品質のニッケルスラリーを提供する事が可能となる。なお、ここで明記しておくが、10nm未満のニッケル粒子は、全く存在しないわけではなく、ある一定の工程バラツキの範囲で発生する。しかしながら、10nm未満のニッケル粒子は、電界放射型の走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いても視認することが難しく、平均一次粒子径を厳密に測定し、バラツキを見る等の統計的なデータを得にくいため除外したに過ぎない。従って、本件発明に係るニッケルスラリー中に含まれるニッケル粒子を観察するには、数十万倍以上の観察の可能な透過型電子顕微鏡レベルの倍率での観察の可能な装置を用いて行うことが好ましい。ここで言うニッケルスラリーは、事後的にニッケルペースト、ニッケルインク等に加工され使用されることを想定すれば、ニッケル粒子の平均一次粒径は小さなものであるほど、微細な回路、電極等の形成が容易となる。従って、ニッケル粒子は、細かく且つ良好な粒度分布を備えることが好ましいのである。
【0028】
また、金属粉の粒子の一般的性質として、微粒化すればするほど、粒子同士が擬似的に連結する凝集が起こりやすい傾向がある場合がある。従って、本件発明に係るニッケルスラリー中のニッケル粒子の平均一次粒子径が如何に細かくとも、粒子同士が強固な凝集をした二次粒子を構成していると、上述のような微細な回路等を形成するためのニッケルペースト、ニッケルインクとしての使用は不可能と言える。そこで、粒子の粒度分布が良好であることを推し量る指標として一次粒子径の標準偏差を用いることとする。
【0029】
ここで、上記ニッケル粒子の一次粒径の標準偏差に関して述べる。本件発明に係るニッケルスラリーに含まれるニッケル粒子は、平均一次粒径がnmオーダーと極めて細かいことから、その製造段階における厳格な意味での粒径制御は困難であり、狙い目とした平均一次粒径によっても粒径のバラツキが異なるという特性を持っている。そこで、発明者等は、上記ニッケル粒子の一次粒径の標準偏差を考える際に、単なる数値としての標準偏差ではなく、平均一次粒径を基準として、[平均一次粒径(nm)]/2.5以下であることを良好な粒子分散性を示す指標として用いた。標準偏差が、[平均一次粒径(nm)]/2.5を超えると、透過電子顕微鏡で観察したときの一次粒子のバラツキが、目に見えて大きく感じられ、そもそもシャープな粒度分布のニッケル粒子であるとは言えないものである。なお、これらニッケル粒子の平均一次粒径は、透過型電子顕微鏡写真により観察し、その観察像から得られた粒径分布より標準偏差を算出し、[平均一次粒径(nm)]/2.5と対比して粒子分布の精度を判断するのである。
【0030】
そして、nmオーダーの粒径を持つニッケル粒子を、通常のレーザー回折散乱式粒度分析法で測定しようとすると、一般的な装置ではなく、超微粒子測定の可能な動的光散乱式(ドップラー散乱光解析)装置を用いなければならない。そこで、本件発明者等は、0.0032μm〜6.5406μmの粒度分布の測定の可能な日機装株式会社製 UPA150を用いてみた。ところが、この装置で測定したときの測定データは、検出器の持つ特性から、2つのピークを示す場合が多く、この事象に関しての原因が明確でない。従って、この事象を特に考慮することなく、粒度分布の標準偏差を求める事も可能であるが、好ましいとは言えない。
【0031】
そこで、本件発明者等は、平均一次粒子径がnmオーダーのニッケル粒子の粒径バラツキを標準偏差で捉える場合、透過型電子顕微鏡の観察像(ニッケル粒子が25個〜60個含まれる観察像)から、直接測定した一次粒子径をもとに、標準偏差を計算により導き出す事の方が、より信頼性のある値が得られると考えた。そして、この方法によれば、本件発明に係るニッケルスラリー中のニッケル粒子の粒度分布の標準偏差の値は、ほぼ[平均一次粒径(nm)]/6.0〜[平均一次粒径(nm)]/2.5の範囲となることが分かった。この程度のバラツキであれば、微細な回路形成等に用いるニッケルインクとしての使用には十分に耐えると言える。
【0032】
また、粒子分散性を見る指標として変動係数を採用する事も好ましい。ここで変動係数CV値は、平均一次粒径Dと粒度分布の標準偏差SDとの関係式SD/D×100で表されるものであり、このCV値の値が小さいほど、粉粒の粒径が揃っており、大きなバラツキをもっていないことを意味している。なお、ここでの平均一次粒径は、透過型電子顕微鏡の観察像(ニッケル粒子が25個〜60個含まれる観察像)から、直接測定した一次粒子径である。
【0033】
また、上記ニッケルスラリーにおいて、ニッケル粒子の含有量は、15重量%〜92重量%であることが好ましい。本件発明に係るニッケルスラリーを用いて、ニッケルペースト及びニッケルインクを製造する場合には、この中にバインダー、粘度調整剤等として、種々の有機剤などを添加することになる。従って、ニッケルペースト及びニッケルインクとして必要な、ニッケル粒子含有量を確保するという観点から、上記範囲の含有量が好ましいのである。
【0034】
そして、上記ニッケル粒子は、その表面に適正な厚さの有機化合物層を有することが望ましい。この有機化合物層は、製造工程においてポリオールがオリゴマー化し、ニッケル粒子表面に付着したものと推察されるが、この有機化合物層を除去することなく、適正な厚さ残存させておく方が、分散剤を添加したと同様の効果が得られ好ましいのである。そして、後述するアミノ酸として、特にL−アルギニン及び/又はL−シスチンを併用することにより、特に良好な有機化合物層が形成されるのである。このような有機化合物層をニッケル粒子表面に備えさせることによって、分散剤を用いなくとも、ニッケルペースト又はニッケルインキとした時の粒子分散性を向上させ、長寿命化が図れる。ニッケル粒子表面の有機化合物層は、0.5nm〜3nm厚さとして残存させることが好ましい。以下に述べるポリオール法で得られる金属粉には、不可避的に有機化合物層が生成している。しかしながら、この有機化合物層の厚さは、還元反応時間の長短により制御出来るものであり、上記範囲に制御することが、本件発明に係るニッケルスラリーの長期保存安定性と電気的導電性等の品質上好ましいのである。当該有機化合物層の厚さが0.5nm未満の場合には、有機化合物層を設ける効果自体が無くなるのである。そして、有機化合物層が3nmを超えると、ニッケル粉としての粉体抵抗が上昇する傾向が顕著になるのである。なお、この有機化合物層の厚さの測定は、透過型電子顕微鏡像(倍率500000倍以上、10個以上の測定平均値)から直接観察したものである。
【0035】
本発明に係るニッケルスラリーに使用される有機溶媒は、ニッケル粉としての粒子表面の酸化等の化学的変質を引き起こさ無い限り、特に限定されない。使用可能な有機溶媒としては、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール等のテルペン類や、オクタノール、デカノール等のアルコール等が挙げられる。上記有機溶剤は1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
(本発明に係るニッケルスラリーの製造方法)
本発明に係るニッケルスラリーの製造方法は、「ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応液中のニッケルイオンを還元し、次いで有機溶媒で置換するニッケルスラリーの製造方法において、上記反応液にアミノ酸を添加することを特徴とするニッケルスラリーの製造方法」である。
【0037】
本発明に係る製造方法で用いられるニッケル塩は、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル等が挙げられる。これらの中で水酸化ニッケルは、ニッケルペースト又はニッケルインキとした時に悪影響を及ぼすイオウ、ハロゲン等の元素を含んでいないため特に好ましい。
【0038】
そして、これらニッケル塩は、当該反応液中でニッケル濃度として1g/l〜100g/lの濃度とすることが好ましい。1g/l未満の濃度では、工業的に必要な生産効率を得ることが出来ず、100g/l濃度を超えると、還元析出するニッケル粒子が凝集することによって粒径が大きくなる傾向にあり、本来目的とするところである平均一次粒径が50nm以下のニッケル粒子が得られなくなるのである。
【0039】
本発明に係る製造方法で用いられるポリオールは、炭化水素鎖及び複数の水酸基を有する物質をいう。該ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール(沸点197℃)、ジエチレングリコール(沸点245℃)、トリエチレングリコール(沸点278℃)、テトラエチレングリコール(沸点327℃)、1,2−プロパンジオール(沸点188℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、1,2−ブタンジオール(沸点193℃)、1,3−ブタンジオール(沸点208℃)、1,4−ブタンジオール(沸点235℃)、2,3−ブタンジオール(沸点177℃)1,5−ペンタンジオール(沸点239℃)及びポリエチレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。このうちエチレングリコールは、沸点が低く、常温で液状であり取り扱い性に優れるため好ましい。本発明においてポリオールは、ニッケル塩に対する還元剤として作用すると共に、溶媒としても機能するものである。
【0040】
そして、これらポリオールの当該反応液中での濃度は、ニッケル濃度に対応して添加量が定められるのである。従って、上述のニッケル濃度範囲であることを前提として、反応液中のポリオール濃度は、ニッケルに対して11当量〜1100当量となるように添加することが好ましい。11当量未満の濃度では、ニッケル濃度が高くなり析出粒子の凝集が起こりやすくなるのである。そして、上記ニッケル濃度の上限濃度を考慮しても、還元析出したニッケル粒子表面への有機化合物層の形成を考慮すると1100当量濃度を超えると、反応時間を僅かに長くしても、有機化合物層が無用に厚くなり、ニッケルペースト等に加工して回路等を形成したときの抵抗上昇の原因となるのである。
【0041】
本発明に係る製造方法で用いられる貴金属触媒は、上記反応液中において、ポリオールによるニッケル塩の還元反応を促進するものであり、例えば、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アンモニウムパラジウム等のパラジウム化合物、硝酸銀、乳酸銀、酸化銀、硫酸銀、シクロヘキサン酸銀、酢酸銀等の銀化合物、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、塩化白金酸ナトリウム等の白金化合物、及び塩化金酸、塩化金酸ナトリウム等の金化合物等が挙げられる。このうち、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸銀又は酢酸銀は、得られるニッケル粉の純度が高くなり易く、また、製造コストが低くて済むため好ましい。上記触媒は、上記化合物が安定である限りそのままの形態で又は該化合物の溶液の形態で用いることができる。
【0042】
そして、これら貴金属触媒の当該反応液中での濃度は、ニッケル粒子の還元析出速度を定めるものである。従って、上述の如き100nm以下の平均一次粒子径を持つニッケル粒子を製造しようとするときの、最適な還元速度を得る必要がある。従って、反応液中の貴金属触媒濃度は、0.01mg/l〜0.5mg/lの濃度とすることが好ましい。貴金属触媒濃度が0.01mg/l未満の濃度では、還元速度が遅く、ニッケル粒子が粗大化する上、工業的な意味での操業条件を満足し得ない。そして、貴金属触媒濃度が0.5mg/lを超えると、還元速度が速くなり、得られるニッケル粒子の粒径のバラツキが大きくなり、しかも100nmを超える粗粒が多く発生するのである。
【0043】
以上に述べてきたニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液は、例えば、水にニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を投入し攪拌し、混合することにより調製することができ、また、貴金属触媒が硝酸パラジウム等のように水溶液として存在する場合は、ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を水なしで混合するだけで調製することができる。ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を混合して反応液を調製する際、添加する順序や混合方法は、特に限定されない。例えば、ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒、さらに必要により後述の分散剤を予備混合してスラリーを調製し、該スラリーとポリオールの残部とを混合して反応液を作製してもよい。
【0044】
本発明に係る製造方法では、上記反応液にアミノ酸を添加する。このように反応液にアミノ酸を添加することによって、ニッケル粒子の一次粒径を小さく、かつ分散性を良好にすることができる。上記アミノ酸は、沸点又は分解点が反応温度以上であり、かつニッケル及び貴金属触媒とポリオール中で錯体を形成するものが用いられ、具体的にはL−アルギニン及び/又はL−シスチンが好ましく用いられる。アミノ酸の添加量は反応液中のニッケルに対して0.01重量%〜20重量%が好ましい。アミノ酸の添加量が0.01重量%未満では上記効果が得られず、20重量%を超えて添加してもそれ以上の効果が得られず、経済的に不利である。
【0045】
また、上記反応液は、必要に応じて、一定量の分散剤を含むことにより、得られるニッケル粒子がより微粒になり、還元析出した粒子同士の凝集化を防止し、粒度分布をよりシャープにできる。従って、この分散剤は、反応過程においてのみ必要なものであり、製品であるニッケルスラリー中では不要なものであり、ニッケルスラリー中には含ませないようにすることが好ましい。本発明で用いられる分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミド、ポリ(2―メチル―2−オキサゾリン)等の含窒素有機化合物、及びポリビニルアルコール等が挙げられる。このうち、ポリビニルピロリドンは、得られるニッケル粒子の粒度分布がシャープになりやすいため好ましい。上記分散剤は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。分散剤を含ませる場合には、分散剤の種類に応じて添加量が異なるが、反応液中のニッケル量を基準として、一般的にニッケル量の1重量%〜20重量%、より好ましくは1重量%〜12重量%を含ませることが好ましい。分散剤が、1重量%未満の場合には、分散剤を添加した効果として、ニッケルスラリー中でのニッケル粒子の粒度分布改善効果を発揮し得ない。一方、分散剤を20重量%を超えて添加しても、分散剤を含ませる効果は、それ以上に変化せず、むしろニッケル粒子の有機剤としての分散剤による汚染が深刻化するのである。
【0046】
本発明では、上記反応液を上記還元温度まで加熱し、該還元温度を維持しながら該反応液中のニッケル塩を還元し、ニッケル粒子を製造する。
【0047】
ここで、還元反応を行う反応温度に関して説明する。反応温度としては、150℃〜210℃、好ましくは150℃〜200℃の温度範囲を採用することが好ましい。反応温度と称しているが、本件発明の場合には反応液の液温の事である。上記反応液組成の範囲で、反応温度が150℃未満の場合には、還元反応速度が遅く、工業的に使用出来ない操業条件となる。そして、反応温度が210℃を超えると、還元反応で得られる生成物が炭素を含有して炭化ニッケル粒子になり易いため好ましくない。
【0048】
反応液を上記還元温度に維持する時間は、反応液の組成や還元温度により適切な時間が異なるため一概に特定できないが、通常1時間〜20時間、好ましくは2時間〜15時間である。反応液を上記還元温度に維持する時間が該範囲内であると、ニッケル粒子の核の成長が抑制されると共にニッケル粒子の核が多数発生し易い雰囲気となることにより系内でのニッケル粒子の粒成長が略均一となるため、得られるニッケル粒子が粗大粒子になったり凝集したりすることを抑制することができる。このため、本発明では、上記還元温度に上記時間だけ維持すれば、これ以後は、反応液の温度を上記還元温度の範囲外の温度にしてもよい。例えば、還元反応の速度を向上させるために、反応液の温度を上記還元温度を超える温度にしてもよい。
【0049】
次に、ニッケル粒子が得られた反応液を、有機溶媒で置換してニッケルスラリーとする。ここで用いられる有機溶媒は、上述したように、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール等のテルペン類や、オクタノール、デカノール等のアルコール等が挙げられる。上記有機溶剤は1種又は2種以上混合して用いることができる。
【0050】
(本発明に係るニッケルペースト又はニッケルインク)
本発明に係るニッケルペースト又はニッケルインクは、上記ニッケルスラリーを用い、溶媒置換を行ったり、その他の公知の成分を加えて調製される。
【0051】
以下に実施例及び比較例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0052】
反応容器に張り込まれたエチレングリコール445.28g中で水酸化ニッケル31.31g、ポリビニルピロリドン(PVP)2.15g、100g/lの硝酸パラジウム溶液0.69ml及びL−アルギニン1.0gを攪拌しながら190℃で10時間加熱し、平均一次粒径37.86nmのニッケル粒子を得た。この反応液をエチレングリコールでデカンテーションを行い、反応液中のPVPを洗浄除去し、これをターピネオールで2回のデカンテーションを行い、ニッケル粉含有量80重量%、残部ターピネオールのニッケルスラリーを製造した。
【0053】
上記ニッケルスラリー中の50個のニッケル粒子の一次粒径(平均、標準偏差、最大値、最小値)を透過型電子顕微鏡で観察した結果を表1に示す。そして、FE−SEMの観察像を図1(×100000)に示した。しかし、FE−SEMレベルの分解能では、十分な粒子観察が出来ないことが分かる。そこで、図2に透過型電子顕微鏡での観察像を示す。この図2では、得られたニッケル粒子の様子が明瞭に観察出来る。また、乾燥膜の膜密度を以下の方法で測定したところ、表1に示されるように4.8g/cmであった。
【0054】
なお、本件発明に言う膜密度の測定は、上述のように当該ニッケルスラリーにバインダーとしてのエチルセルロース、ターピネオールを適量添加し、最終的にニッケル濃度50重量%、エチルセルロース2.5重量%の組成としてペースト化したものを用いて、ポリエステルシート上にアプリケータを用いて厚さ約15μmの塗膜を形成する。そして、100℃で乾燥させた後、直径13mmのポンチで乾燥膜をくり抜き試料とする。そして、精密天秤で、くり抜いた試料の重量を測定し、マイクロメータで厚さを測定する。そして、くり抜いた試料の直径、厚さ、重量から膜密度を算出した。
【実施例2】
【0055】
L−アルギニン1.0gに代えて、L−アルギニン0.5g及びL−シスチン0.5gを用いた以外は、実施例1と同様にしてニッケル粉含有量80重量%、残部ターピネオールのニッケルスラリーを製造した。
【0056】
上記ニッケルスラリー中のニッケル粒子の一次粒径(平均、標準偏差、最大値、最小値)を透過型電子顕微鏡で観察した結果を表1に示した。そして、FE−SEMの観察像を図3(×100000)に示した。しかし、FE−SEMレベルの分解能では、十分な粒子観察が出来ないことが分かる。そこで、図4に透過型電子顕微鏡での観察像を示す。この図4では、得られたニッケル粒子の様子が明瞭に観察出来る。また、実施例1と同様にして、乾燥膜の膜密度を測定したところ、表1に示されるように4.3g/cmであった。
【実施例3】
【0057】
この実施例3では、実施例1の硝酸パラジウム溶液を0.13mlとした以外は、実施例1と同様にしてニッケル粉含有量80重量%、残部ターピネオールのニッケルスラリーを製造した。
【0058】
上記ニッケルスラリー中のニッケル粒子の一次粒径(平均、標準偏差、最大値、最小値)を透過型電子顕微鏡で観察した結果を表1に示した。また、実施例1と同様にして、乾燥膜の膜密度を測定したところ、表1に示されるように4.9g/cmであった。
【実施例4】
【0059】
この実施例4では、実施例1の硝酸パラジウム溶液を0.07mlとした以外は、実施例1と同様にしてニッケル粉含有量80重量%、残部ターピネオールのニッケルスラリーを製造した。
【0060】
上記ニッケルスラリー中のニッケル粒子の一次粒径(平均、標準偏差、最大値、最小値)を透過型電子顕微鏡で観察した結果を表1に示した。また、実施例1と同様にして、乾燥膜の膜密度を測定したところ、表1に示されるように4.9g/cmであった。
【比較例】
【0061】
(比較例1)
L−アルギニンを添加しない以外は、実施例3と同様にしてニッケルスラリーを製造した。
【0062】
上記ニッケルスラリー中のニッケル粒子の一次粒径(平均、標準偏差、最大値、最小値)を透過型電子顕微鏡で観察した結果を表1に示すと共に、その写真を図5(×100
000)に示す。実施例1と同様に、このニッケルスラリーにバインダーとしてのエチルセルロース及びターピネオールを添加し、厚さ15μmの乾燥膜を作成した。乾燥膜の膜密度を測定したところ、表1に示されるように3.8g/cmであった。
【0063】
(比較例2)
実施例1で得られたニッケルスラリーをトルエンに置換して、さらに高分子分散剤としてソルスパース32550(アビシア社製)を21重量%加え、トルエンスラリーを作成した。従って、ニッケル粒子の平均一次粒径は37.86nmであり、実施例1のニッケル粒子の持つ粒度分布と同じである。
【0064】
実施例1と同様に、このニッケルスラリーにバインダーとしてのエチルセルロース及びターピネオールを添加し、厚さ15μmの乾燥膜を作成した。乾燥膜の膜密度を測定したところ、表1に示されるように3.5g/cmであった。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例と比較例との対比:
表1から明らかなように、実施例1及び実施例2は平均一次粒径が50nm以下のニッケル粒子を含むニッケルスラリーで、実施例3及び実施例4は平均一次粒径が50nm〜100nm以下のニッケル粒子を含むニッケルスラリーである。
【0067】
ここで、比較例と対比すると、アミノ酸を添加した実施例1〜実施例4は、アミノ酸を添加しない比較例1と比較して、微粒化され、粒度分布がシャープで、変動係数も良好である。また、実施例1〜実施例4は、高分子分散剤を多量に添加した比較例2に比較して高い膜密度を示している。更に、実施例1と比較例2とを対比すると明らかとなるように、高分子分散剤を含むスラリーは、本件発明に係るニッケルスラリーと比べ、膜密度の値が低くなるのである。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るニッケルスラリーは、微粒化され、粒度分布がシャープで、かつ分散性が良好であり、製品ニッケルスラリー中に有機分散剤を含まずに、緻密な乾燥膜が得られる。従って、本発明に係るニッケルスラリーは、ニッケルペースト又はニッケルインキとして種々の分野に使用できる。また、本発明に係るニッケルスラリーの製造方法は、工程の操業安定性に優れ、ニッケルスラリーを非常に効率よく製造できる方法である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】図1は、実施例1のニッケル粒子のFE−SEM像である。
【図2】図2は、実施例1のニッケル粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】図3は、実施例2のニッケル粒子のFE−SEM像である。
【図4】図4は、実施例2のニッケル粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】図5は、比較例1のニッケル粒子の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル粒子と有機溶媒とからなるニッケルスラリーであって、当該ニッケル粒子は、その平均一次粒径が100nm以下であることを特徴とするニッケルスラリー。
【請求項2】
上記ニッケル粒子の平均一次粒径が、10nm〜70nmである請求項1に記載のニッケルスラリー。
【請求項3】
ニッケル粒子の含有量が15重量%〜92重量%である請求項1又は請求項3に記載のニッケルスラリー。
【請求項4】
上記ニッケル粒子の表面に0.5nm〜3nmの有機化合物層を有する請求項1〜請求項3のいずれかに記載のニッケルスラリー。
【請求項5】
ニッケル塩、ポリオール及び貴金属触媒を含む反応液を反応温度まで加熱し、該反応温度を維持しながら該反応液中のニッケルイオンを還元し、次いで有機溶媒で置換するニッケルスラリーの製造方法において、
上記反応液にアミノ酸を添加することを特徴とするニッケルスラリーの製造方法。
【請求項6】
上記アミノ酸の添加量が、ニッケルに対して0.01重量%〜20重量%である請求項5に記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項7】
上記アミノ酸は、沸点又は分解点が上記反応温度以上であり、かつニッケル及び貴金属触媒とポリオール中で錯体を形成するものである請求項5又は請求項6に記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項8】
上記アミノ酸が、L−アルギニン及び/又はL−シスチンである請求項5〜請求項7のいずれかに記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項9】
上記反応液が分散剤を含む請求項5〜請求項8のいずれかに記載のニッケルスラリーの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のニッケルスラリーを用いて得られるニッケルペースト。
【請求項11】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のニッケルスラリーを用いて得られるニッケルインキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−161128(P2006−161128A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357140(P2004−357140)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】