説明

ネック付きエルボ製品およびその製造方法

【課題】ネック部および曲げ部の全長に亘り、楕円および偏肉の発生を抑制し、ネック長さに拘わらず寸法特性に優れるネック付きエルボ製品を提供する。
【解決手段】ガイドチューブに挿入された素管を挿入側から逐次または連続的に押し抜きながら、対称ダイスを用いる縮径加工に引き続き、前記素管を曲げ手段で保持することにより曲げ加工を施して両ネック付きエルボを成形する方法であって、ネック部の縮径加工に際し、前記対称ダイスを用いて前記素管の肉厚を周方向に均等に増肉し、前記曲げ手段で保持することなく所定長さの直管部を押し抜き、引き続き、曲げ部の縮径加工に際し、前記対称ダイスを偏芯ダイスに切り換えて前記素管の曲げ外周側の肉厚を曲げ内周側の肉厚に比べて増肉すると同時に、前記素管を曲げ手段で保持して所定の曲げ角度に至るまで曲げ加工を施すネック付きエルボの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管系に使用され、接続用の直管を端部に設けたネック付きエルボに関し、さらに詳しくは、ネック部および曲げ部の全長に亘り、寸法特性(真円度、肉厚変動)に優れるネック付きエルボ製品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電および化学プラント等に用いられるエルボ配管は、エルボとエルボの両端に溶接された直管部とから構成される。エルボ配管に用いられるエルボの成形方法としては、押し曲げ方式やマンドレル方式があるが、通常の肉厚寸法品(t/D≦15%)を主体として、マンドレル方式が広く適用されている。
【0003】
マンドレル方式でエルボを製造する場合には、例えば、非特許文献1の41頁、図3.6に示すような、マンドレル拡管曲げ(ハンブルグ曲げ)がエルボの加工法として最も普及している。このマンドレル拡管曲げでは、素管とマンドレルを加熱した状態で加工が施され、マンドレルの形状は素管外径が製品側に向かって徐々に大きくなるように構成されているのが特徴であり、素管は拡管しながら曲げ成形される。このようにして得られたエルボ製品は、曲げ外周側の減肉が小さく、また曲げ内周側のしわも抑制されることが経験的に認識されている。
【0004】
また、特許文献1では、冷間加工によりマンドレルを用いた押通し曲げ方式でエルボを成形する曲管の製造装置を提案している。すなわち、提案の製造装置では、ワーク導入坑道を具えたガイド金型と、ガイド金型の上方に設けられ曲管の内側曲率と合致する円弧状型面を具えた内金型と、曲管の外側曲率と合致する円弧状型面を具えた外金型と、当該外金型と内金型の型締に基づき構成される彎曲坑道内にその上方口側から挿脱可能に嵌挿し、ワークの肉厚相当の環状間隙を形成するための彎曲マンドレルとで成形金型を構成しており、所定の曲率を具えた曲管を成形することができる。
【0005】
上述の加工方法および製造装置は、エルボの成形加工に関するものであり、一定の品質と生産効率を確保することができる。ところが、配管系に使用されるエルボとして、配管の溶接施工性を向上させるため、接続用の直管部を片端または両端に設けたネック付きエルボが有用であることから、これらを効率的に製造することが強く要請されている。
【0006】
ネック付きエルボの製造に際し、例えば、従来の代表的な加工法であるマンドレル拡管曲げ法でネック付きエルボを製造する場合には、前述した装置構成(非特許文献1の41頁、図3.6)により、端部のネック長さを見込んだ長めのエルボ管を成形加工し、次いで、ネック部に相当する部分を金型に入れて直管に矯正加工することが必要になる。
【0007】
すなわち、従来のネック付きエルボの製造では、管の曲げ加工とその後のネック付け加工との2行程からなる加工作業を必要としていたため、製造行程が煩雑になるとともに、成形されるネック長さには限界があり、JIS B 2312等では従来の曲げ加工法を前提として短めのネック長さ、例えば、16〜30mm程度に限定されている。
【0008】
実際の配管作業において、ネックに直管を溶接する場合に、JIS規格より長いネック部を設けたエルボを用いることにより、作業性を大幅に改善できる。このようなことから、従来から所定のネック長さを具備したネック付きエルボを効率的に製造することが強く要望されていたのにも拘わらず、充分に対応することができない。
【0009】
【非特許文献1】チューブフォーミング(管材の二次加工と製品設計)、日本塑性加工学会編、コロナ社、2002年11月25日発行
【特許文献1】特開平6−114453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
溶接施工性の観点から、所定のネック長さを具備したネック付きエルボの製造方法を検討する場合に、ネック付きエルボの製品品格として、その全長に亘る寸法特性に留意する必要がある。
【0011】
例えば、ネック付きエルボのネック部において、楕円や偏肉の発生が著しい場合には、突き合わせ溶接する際に、ベベル加工後の端面形状に食い違いが生じ、管継手の耐圧試験で不適合になったり、溶接部の引張強度が充分に確保できない事態が発生する。
【0012】
また、ネック付きエルボをフレア接合する際に、管端をエクスパンダやフレアツールにより円状に拡げ、フレアされた管端にフレア管継手を用いてフレアナットにより締め付けを行うが、このときに著しい偏肉の発生があると、充分な接合ができず内面流体の漏洩を生ずるおそれがある。
【0013】
本発明は、このようなネック付きエルボの製品品格や、それらの製造方法における問題に鑑みてなされたものであり、ネック部および曲げ部の全長に亘り楕円および偏肉をなくし、寸法特性に優れるネック付きエルボ製品、およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記の課題を解決するため、押し通しによるエルボ成形加工について検討した結果、効率的にネック付きエルボを成形加工するには、ダイス穴径の入側中心軸と出側中心軸とが一致しているダイス(以下、「対称ダイス」という)と、ダイス穴径の入側中心軸と出側中心軸とが偏芯しているダイス(以下、「偏芯ダイス」という)とを使い分けて、素管を押し抜いて縮径加工するとともに曲げ加工を施すことが有効であることに着目した。
【0015】
すなわち、直管から曲げ加工された管の外周側では引張応力が作用し、内周側では圧縮応力が作用することから、外周側の肉厚は薄くなり、内周側の肉厚は厚くなるとともに、内周側でしわを発生し易い。また、縮径加工に際し、対称ダイスを用いることにより素管の肉厚を周方向に均等に増肉できるのに対し、偏芯ダイスを用いることにより素管の肉厚を周方向に部分的に増肉できる。
【0016】
図1は、本発明で採用できる対称ダイスおよび偏芯ダイスの構成を示す図であり、(a)は対称ダイス、(b)は偏芯ダイスを示している。対称ダイス1aはダイス穴径の入側中心軸と出側中心軸とが一致しているダイスであり、周方向に亘り均一にダイス角度αが設けられている。一方、偏芯ダイス1bはダイス穴径の入側中心軸と出側中心軸とが偏芯しているダイスであり、周方向に亘りダイス角度βが変化する。図1(b)に示すように、偏芯ダイス1bのA部ではテーパ面が形成されダイス角度βが大きく、B部ではダイス角度βがほぼゼロ(0°)でありテーパ面が形成されない。
【0017】
素管を曲げ加工する場合には、前記図1(b)に示す偏芯ダイス1bのA部(ダイス角度βが大きい部位)が曲げ加工で曲げ外周側に位置するように、B部(ダイス角度βを設けない部位)が曲げ内周側に位置するように偏芯ダイス1bを配置する。このように配置された偏芯ダイス1bを用い、素管を押し抜いて縮径加工を行うと、A部で主に塑性変形し外径が縮み肉厚が増えるのに対し、B部では塑性変形そのものが小さく肉厚変動は殆ど生じない。
【0018】
このため、後続の曲げ加工を施した後には、曲げ外周側(偏芯ダイスA部の配置位置)では、縮径加工にともなう増肉と曲げ加工にともなう減肉とが相殺され減肉を少なくすることができる。
【0019】
さらに、成形加工で縮径加工と曲げ加工を組み合わせることにより、素管の押し抜き縮径加工によって管断面は塑性変形状態となり、その状態で素管に曲げ加工を加えることにより、成形加工する部位に組み合わせ応力の効果を生じさせることができる。すなわち、塑性変形状態にある素管に曲げ加工を施すことにより、曲げ加工のために新たに加えるべき所要の曲げモーメントを小さくすることができる。
【0020】
曲げ加工の際に、素管に加えるべき曲げモーメントを抑制できるようになると、曲げ手段として、例えば、旋回駆動を要しない曲げアームのような簡易な構造からなる手段も採用することができる。このように、曲げ手段として比較的簡易な構造を採用できるようになると、上述した偏芯ダイスの作用と組み合わせて、ネック付きエルボを1行程からなる縮径加工と曲げ加工によって効率的に製造できる。
【0021】
図2は、両ネック付きエルボを1行程からなる縮径加工と曲げ加工によって製造する方法を説明する図であり、(a)は先端側ネックの形成プロセスを示し、(b)は曲げ部の形成プロセスを示し、(c)は後端側ネックの形成プロセスを示している。ネック付きエルボ2の成形加工には、素管3を案内するガイドチューブ4と、素管3を挿入側から逐次または連続的に押し抜く装置5とを備えて、偏芯ダイス1bを用いた縮径加工に引き続き、素管3の管端を曲げアーム6でクランプすることにより曲げ加工を行う。
【0022】
先端側のネック成形は、曲げアーム6で素管の管端をクランプすることなくネック長さN1に相当する直管部を押し抜く(図2(a))。次に、曲げ部の成形は、素管3の管端を曲げアーム6でクランプし曲げ加工に移行し、所定の曲げ角度に至るまで曲げ加工を行う(図2(b))。さらに、後端側のネック成形は、曲げ加工が所定の曲げ角度に至るまで進行したのち、素管3の管端から曲げアーム6のクランプを開放し、ネック長さN2の直管部を押し抜く(図2(c))。
【0023】
前記図2に示す成形方法であれば、ネック付きエルボを効率的に製造することができ、しかも曲げ部における寸法特性を大幅に改善することができるが、ネック部における寸法特性が悪化し、特に偏肉の発生が顕著になることから製品品格の低下は否めない。この成形方法において、ネック部における寸法特性も合わせて改善するには、ネック部における偏芯ダイスの作用をなくすこと、または素管の予備処理として、先端側ネック部、または先端側および後端側ネック部に相当する所定長さの縮径加工を施しておくことが有効であることを知見した。
【0024】
本発明は、上記の検討結果や知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)のネック付きエルボ製品、および(2)〜(4)のネック付きエルボの製造方法を要旨としている。
(1)ネック部および曲げ部の全長に亘り、成形加工にともなう楕円および偏肉の発生がなく寸法特性に優れるネック付きエルボ製品である。このネック付きエルボ製品は、成形加工後の寸法特性のうち、楕円率が5%以下であり、かつ偏肉率が6%以下にすることができる。
【0025】
本発明で規定する偏肉率は、後述する(3)式に示すように、{(公称肉厚−最小肉厚)/(公称肉厚)}×100(%)で定義される。
(2)ガイドチューブに挿入された素管を挿入側から逐次または連続的に押し抜きながら、対称ダイスを用いる縮径加工に引き続き、前記素管を曲げ手段で保持することにより曲げ加工を施して片ネック付きエルボを成形する方法であって、ネック部の縮径加工に際し、前記対称ダイスを用いて前記素管の肉厚を周方向に均等に増肉し、前記曲げ手段で保持することなく所定長さの直管部を押し抜き、引き続き、曲げ部の縮径加工に際し、前記対称ダイスを偏芯ダイスに切り換えて前記素管の曲げ外周側の肉厚を曲げ内周側の肉厚に比べて増肉し、前記素管を曲げ手段で保持して所定の曲げ角度に至るまで曲げ加工を施すことを特徴とするネック付きエルボの製造方法である。
(3)ガイドチューブに挿入された素管を挿入側から逐次または連続的に押し抜きながら、対称ダイスを用いる縮径加工に引き続き、前記素管を曲げ手段で保持することにより曲げ加工を施して両ネック付きエルボを成形する方法であって、先端側ネック部の縮径加工に際し、前記対称ダイスを用いて前記素管の肉厚を周方向に均等に増肉し、前記曲げ手段で保持することなく所定長さの直管部を押し抜き、引き続き、曲げ部の縮径加工に際し、前記対称ダイスを偏芯ダイスに切り換えて前記素管の曲げ外周側の肉厚を曲げ内周側の肉厚に比べて増肉すると同時に、前記素管を曲げ手段で保持して所定の曲げ角度に至るまで曲げ加工を施し、さらに、後端側ネック部の縮径加工に際し、前記偏芯ダイスを対称ダイスに切り換えて前記素管の肉厚を周方向に均等に増肉すると同時に、前記素管における曲げ手段の保持を開放し所定長さの直管部を押し抜くことを特徴とするネック付きエルボの製造方法である(以下、「第1の製造方法」という)。
(4)ガイドチューブに挿入された素管を挿入側から逐次または連続的に押し抜きながら、縮径加工とともに曲げ加工を施して、ネック付きエルボを成形する方法であって、前記素管の予備処理として、先端側ネック部、または先端側および後端側ネック部に相当する所定長さの縮径加工が施されており、前記縮径加工に際し、偏芯ダイスを用いて前記素管の曲げ外周側の肉厚を曲げ内周側の肉厚に比べて増肉し、引き続いて曲げ加工を施すことを特徴とするネック付きエルボの製造方法である(以下、「第2の製造方法」という)。
【発明の効果】
【0026】
本発明のネック付きエルボ製品によれば、ネック部および曲げ部の全長に亘り、成形加工にともなう楕円および偏肉の発生をなくし、ネック長さに拘わらず寸法特性に優れることから、溶接施工性を高め、製品品格を向上させることができる。
【0027】
また、本発明のネック付きエルボの製造方法によれば、適切に対称ダイスと偏芯ダイスを切り替え、同時に偏芯ダイスを適正に配置することにより、素管を押し抜いて縮径加工し曲げ加工を施すことにより、両ネックまたは片ネックに拘わらず、1行程からなる効率的な製造方法により、全長に亘り寸法特性に優れるとともに、曲げ内周側でしわ発生がないネック付きエルボ製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図3は、本発明が対象とするネック付きエルボ製品の外観形状を示す図であり、(a)は片ネック付きエルボ製品を、(b)は両ネック付きエルボ製品を示している。ネック付きエルボ2の形状は軸心を基準とする曲率半径R並びに外径D、内径および肉厚tで規定されており、用途によってロングエルボ(曲率半径Rが1.5×外径D)、またはショートエルボ(曲率半径Rが外径D)に区分される。
【0029】
図3(a)に示す片ネック付きエルボ2は、曲げ部の片端に溶接施工用の直管からなる長さNのネック部を設けており、図3(b)に示す両ネック付きエルボ2は、曲げ部の両端に溶接施工用の直管からなる長さNのネック部を設けている。
【0030】
以下の説明では、本発明の実施形態を、まずネック付きエルボの製造方法について説明し、さらにその製造方法により得られるネック付きエルボ製品の寸法特性について説明する。そして、実施形態の説明では、両ネック付きエルボ製品を対象としているが、その内容はこれに限定されるものではなく、片ネック付きエルボの成形加工にも適用できるものである。
(本発明の第1の製造方法について)
図4は、本発明の第1の製造方法における縮径加工の成形プロセスを模式的に説明する図であり、(a)はネック部の成形プロセスを示し、(b)は曲げ部の成形プロセスを示している。図4(a)に示すように、ネック部の成形プロセスでは、対称ダイス1aを用い周方向に均一なダイス角度αで縮径加工を行い、その後も曲げ加工を加えることなく所定長さの直管部を押し抜く。このため、ネック部では素管肉厚を周方向に均等に増肉することが可能であり、成形加工にともなう楕円および偏肉の発生をなくすことができる。
【0031】
図4(b)に示す曲げ部の成形プロセスでは、対称ダイス1aを偏芯ダイス1bに切り換えて縮径加工を行い、引き続き所定の曲げ角度に至るまで曲げ加工を施す。対称ダイス1aから偏芯ダイス1bに切り替えるのは、対称ダイス1aをダイス傾斜角θで傾斜させることにより、偏芯ダイス1bを構成することができる。偏芯ダイス1bに切り換えることにより、偏芯ダイス1bのA部におけるダイス角度βは(α+θ、ただし、θ<α)となる。
【0032】
このとき、偏芯ダイス1bのダイス角度βの大きいA部が曲げ外周側に位置するように、ダイス角度βの小さいB部が曲げ内周側に位置するように配置することにより、素管3の縮径加工にともない、A部では材料が主に塑性変形し外径が縮み肉厚が増えるのに対し、B部では材料の塑性変形そのものが小さく肉厚変動は殆ど生じない。このため、引き続いて曲げ加工を行うことにより、曲げ外周側に位置するA部では縮径加工による増肉と曲げ加工による減肉とを相殺させ減肉を少なくできる。
【0033】
さらに、曲げ部の成形プロセスで縮径加工と曲げ加工を組み合わせることにより、素管の押し抜き縮径加工によって管断面は塑性変形状態となり、その状態で素管に曲げ加工を加えることにより組み合わせ応力の効果が生じさせることができ、曲げ加工のために新たに加えるべき所要の曲げモーメントを小さくすることができる。そして、曲げモーメントを抑制できることから、曲げ外周側の引張応力および曲げ内周側の圧縮応力を小さくでき、圧縮応力に起因する曲げ内周側に発生するしわを防止できる。
【0034】
次に、後端側ネック部を成形する場合には、前記図4(a)に示すように、偏芯ダイス1bを対称ダイス1aに切り替えて、対称ダイス1aによる周方向に均一なダイス角度αで縮径加工を行い、その後も曲げ加工を加えることなく所定長さの直管部を押し抜く。これにより、後端側ネック部の成形加工にともなう楕円および偏肉の発生をなくすことができる。
【0035】
偏芯ダイスを用いて縮径加工を行う場合に、ダイス穴径の入側中心軸と出側中心軸とには偏芯Hが生じる。このため、図4に示す成形プロセスでは、図4(b)に示すように、曲げ部の成形プロセスで偏芯ダイスを用いて縮径加工を行う際に、ダイス穴径の出側中心軸と素管のパスラインと一致させ、ダイス穴径の入側中心軸を素管のパスラインより偏芯Hを下方に移動させている。
【0036】
図5は、本発明の第1の製造方法における縮径加工の他の成形プロセスを模式的に説明する図であり、(a)はネック部の成形プロセスを示し、(b)は曲げ部の成形プロセスを示している。図5に示す成形プロセスでは、曲げ部の成形プロセスで縮径加工を行う場合に、偏芯ダイスのダイス穴径の入側中心軸と素管のパスラインと一致させ、ダイス穴径の出側中心軸を素管のパスラインより偏芯Hを上方に移動させている。
【0037】
図5に示す成形プロセスは、前記図4に示す成形プロセスに比べ、偏芯ダイスの偏芯Hを素管のパスラインに対し修正する方法が異なるだけであり、図5(a)に示すネック部の成形プロセスおよび図5(b)に示す曲げ部の成形プロセスは、前記図4に示す成形プロセスの場合と同様である。
【0038】
図6は、本発明の第1の製造方法におけるダイス傾斜角度θとダイスの幾何学的楕円率との関係を示す図である。ここで、楕円率は下記(1)式で定義でき、具体的には(2)式により算出される。また、偏芯ダイスの短径はパスライン軸に垂直な平面に偏芯ダイスの穴形状を投影したときの楕円の短径である。
【0039】
楕円率={(偏芯ダイスの短径−対称ダイスの穴径)/(対称ダイスの穴径)}
×100(%) ・・・ (1)
楕円率=1−cosθ ・・・ (2)
図6に示す関係から、対称ダイスを偏芯ダイスに切り換える際のダイス傾斜角度θが10°に対し、ダイスの幾何学的楕円率を2%未満に留めることができるから、偏芯ダイスの楕円率は十分小さいものであると言える。本発明者らの検討によれば、偏芯ダイスによる縮径加工の効果による偏肉改善を確保し、しわ防止の効果を発揮させるには、ダイス傾斜角度θを10〜12°程度にするのが有効であることから、この場合にあってはダイスの幾何学的楕円率を2.5%以下にすることができる。また、実製造における管の楕円率は5%程度と十分小さいものであった。
(本発明の第2の製造方法について)
図7は、本発明の第2の製造方法の成形プロセスのうち、曲げ部の成形プロセスを模式的に説明する図である。曲げ部の成形プロセスでは、ガイドチューブ4に挿入された素管3を挿入側から逐次または連続的に押し抜きながら、縮径加工とともに曲げ加工を施して、ネック付きエルボ2を成形する。
【0040】
成形加工に用いられる素管3は、素材鋼管から製品寸法に相当する短尺寸法に切断され、予備処理として、先端側および後端側ネック部に相当する所定長さの縮径加工が施されており、1本ごとに押し抜き力が加えられ、偏芯ダイス1bで縮径加工が行われる。これに引き続いて、ネック付きエルボ2の曲げ部に相当するC位置〜D位置の範囲で、曲げアーム6のクランプ7で素管3を保持しつつ曲げ加工が行われる。
【0041】
このとき、偏芯ダイス1bのダイス角度βが大きい部位が曲げ加工で曲げ外周側に位置するように、ダイス角度βが小さい部位が曲げ内周側に位置するように偏芯ダイス1bを配置する。このように配置された偏芯ダイス1bを用い縮径加工を行い、後続の曲げ加工を施した後には、曲げ外周側では、縮径加工にともなう増肉と曲げ加工にともなう減肉とを相殺し減肉を少なくできる。
【0042】
偏芯ダイスを用いて縮径加工を行う場合に、ダイス穴径の入側中心軸と出側中心軸とには偏芯Hが生じるため、図7に示す成形プロセスでは、曲げ部の成形加工中に偏芯Hを吸収できるように、偏芯ダイスを昇降可能にする必要がある。
(本発明のネック付きエルボ製品)
本発明の第1、第2の製造方法によって成形加工されネック付きエルボ製品は、その曲げ部およびネック部の全長に亘り優れた偏肉特性を発揮することができる。ここで、偏肉率は曲げ外周部の減肉に注目して下記(3)式で定義でき、例えば、JIS B 2312では管継手の厚さ許容差を−12.5%(+規定しない)と規定するが、本発明のエルボ製品であれば−6%以下を満足できることを確認している。
【0043】
偏肉率={(公称肉厚−最小肉厚)/(公称肉厚)}×100(%) ・・・ (3)
前述の通り、本発明のネック付きエルボ製品は、ネック部の形成から曲げ部の形成にかけて対称ダイスから偏芯ダイスに切り換えるため、楕円の発生がある。しかし、前記の如く、偏肉改善やしわ防止の効果を確保するには、ダイス傾斜角度θを10〜12°程度にするのが有効であることから、楕円率を5%以下にすることができるので、エルボ製品として真円度に問題が生ずることがない。
【0044】
また、本発明のネック付きエルボ製品は、曲率半径が小さいまたは薄肉の寸法であっても、曲げ加工にともなう曲げモーメントを抑制できることから、通常、曲げ内周側に発生し易い、しわをなくすことができる。
【0045】
本発明のネック付きエルボ製品は、両ネックまたは片ネックに拘わらず、1行程からなる成形加工で効率的に製造できるだけでなく、JIS B 2312等で規定するネック長さ16〜30mmに限定されることなく製造できることから、従来から強く要請されている、例えば、1000mmを超えるような長いネック付きエルボの製造に対応することができる。
【実施例】
【0046】
図8は、本発明の第1の製造方法を実施するための模式的な装置構成例を示す図である。素管3を挿入するガイドチューブ4と素管3を挿入側から逐次または連続的に押し抜くための押し抜き装置5が配置される。そして、ガイドチューブ4の先端側にダイスタンド8が設けられており、このダイスタンド8に縮径加工を施すためのダイス装置1と、曲げ加工を施す曲げ手段として曲げアーム6が配置される。
【0047】
ダイス装置1は傾斜機構を備えており、ネック部または曲げ部の形成プロセス切替にともなって、対称ダイスと偏芯ダイスとの切替を行う。対称ダイスを用いて縮径加工する場合は、素管肉厚は周方向に均等に増肉される。一方、偏芯ダイスを用いて縮径加工する場合は、偏芯ダイスのダイス角度βが大きい部位が曲げ外周側に位置し、ダイス角度βの小さい部位が曲げ内周側に位置するように配置され、素管肉厚は曲げ外周側において曲げ内周側に比べて増肉される。
【0048】
曲げアーム6は、ダイス装置1の出側面に一致する面上で支持されるように配置され、ダイスタンド8に固定される。このとき、曲げアーム6は必要に応じて旋回駆動力を有するものであってもよい。
【0049】
曲げアーム6の先端には、図示しないが、素管3を保持するためのアームクランプが設けられる。アームクランプは、ネック部または曲げ部の形成プロセス切替にともない、保持または開放の操作を繰り返すことが必要になり、さらに長尺のネック部形成に対応するため、左右2つ割りの構造にするのが望ましい。
【0050】
さらに、ダイスタンド8には、偏芯ダイスを用いて縮径加工を行う場合に、偏芯Hを修正するため、ダイス装置1および曲げアーム6と連動して昇降可能な装置が設置されている。
【0051】
図9は、ネック部の成形プロセスおよび曲げ部の成形プロセスにおける、ダイス装置のダイス傾斜角度θ、ダイスタンドの偏芯Hおよび曲げアームの曲げ角度ψの関係を示している。素材鋼管から設計寸法に切断された素管3は、ガイドチューブ4に挿入され、ガイドチューブ4の後端側に配置された押し込み装置5の油圧シリンダーの作動によって、ダイス装置1に押し込まれる。
【0052】
先端側ネック部の縮径加工のプロセスでは、対称ダイスを用いて素管肉厚を周方向に均等に増肉し、曲げアーム6のアームクランプで素管を保持することなく所定長さの直管部を押し抜く。このため、先端側ネック部では、成形加工にともなう楕円および偏肉を発生することがない。
【0053】
曲げ部の縮径加工のプロセスでは、対称ダイスを偏芯ダイスに切り換えるため、ダイス傾斜角度θが設定され、これと連動してダイスタンド8が偏芯Hを修正すると同時に、曲げアーム6のアームクランプが素管3を保持し、曲げアーム6は所定の曲げ角度ψに至るまで曲げ加工を施す。
【0054】
このときの曲げ部の縮径加工のプロセスでは、縮径加工された素管3は、偏芯ダイスのダイス角度βが大きい部位で増肉加工され、その後の曲げ加工にともなう減肉と相殺されるため、肉厚変動が小さくなる。また、このとき発生する楕円も、楕円率が5%以下と充分に抑制されており、寸法特性に問題を生じるものではない。
【0055】
後端側ネック部の縮径加工プロセスでは、曲げアーム6が所定の曲げ角度ψに達した後、偏芯ダイスから対称ダイスに切り換えるため、ダイス傾斜角度θをゼロ(零)に設定し、これと連動してダイスタンド8を下降させ偏芯Hをゼロ(零)にすると同時に、曲げアーム6のアームクランプによる素管の保持を開放し、所定長さの直管部を押し抜く。したがって、後端側ネック部においても、成形加工にともなう楕円および偏肉を発生することがない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のネック付きエルボ製品によれば、ネック部および曲げ部の全長に亘り、成形加工にともなう楕円および偏肉の発生をなくし、ネック長さに拘わらず寸法特性に優れることから、溶接施工性を高め、製品品格を向上させることができる。
【0057】
また、本発明のネック付きエルボの製造方法によれば、適切に対称ダイスと偏芯ダイスを切り替え、同時に偏芯ダイスを適正に配置することにより、素管を押し抜いて縮径加工し曲げ加工を施すことにより、両ネックまたは片ネックに拘わらず、1行程からなる効率的な製造方法により、全長に亘り寸法特性に優れるとともに、曲げ内周側でしわ発生がないネック付きエルボ製品を得ることができる。これによりエルボ配管に用いられるネック付きエルボの成形方法として広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明で採用できる対称ダイスおよび偏芯ダイスの構成を示す図であり、(a)は対称ダイス、(b)は偏芯ダイスを示している。
【図2】両ネック付きエルボを1行程からなる縮径加工と曲げ加工によって製造する方法を説明する図であり、(a)は先端側ネックの形成プロセスを示し、(b)は曲げ部の形成プロセスを示し、(c)は後端側ネックの形成プロセスを示している。
【図3】本発明が対象とするネック付きエルボ製品の外観形状を示す図であり、(a)は片ネック付きエルボ製品を、(b)は両ネック付きエルボ製品を示している。
【図4】本発明の第1の製造方法における縮径加工の成形プロセスを模式的に説明する図であり、(a)はネック部の成形プロセスを示し、(b)は曲げ部の成形プロセスを示している。
【図5】本発明の第1の製造方法における縮径加工の他の成形プロセスを模式的に説明する図であり、(a)はネック部の成形プロセスを示し、(b)は曲げ部の成形プロセスを示している。
【図6】本発明の第1の製造方法におけるダイス傾斜角度θとダイスの幾何学的楕円率との関係を示す図である。
【図7】本発明の第2の製造方法の成形プロセスのうち、曲げ部の成形プロセスを模式的に説明する図である。
【図8】本発明の第1の製造方法を実施するための模式的な装置構成例を示す図である。
【図9】ネック部の成形プロセスおよび曲げ部の成形プロセスにおける、ダイス装置のダイス傾斜角度θ、ダイスタンドの偏芯Hおよび曲げアームの曲げ角度ψの関係を示している。
【符号の説明】
【0059】
1:ダイス、ダイス装置、 1a:対称ダイス
1b:偏芯ダイス、 2:エルボ
3:素管、 4:ガイドチューブ
5:押し抜き装置、 6:曲げアーム
7:クランプ、 8:ダイスタンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネック部および曲げ部の全長に亘り、成形加工にともなう楕円および偏肉の発生がなく寸法特性に優れるネック付きエルボ製品。
【請求項2】
成形加工後の寸法特性のうち、楕円率が5%以下であり、かつ偏肉率が6%以下であることを特徴とする請求項1に記載のネック付きエルボ製品。
【請求項3】
ガイドチューブに挿入された素管を挿入側から逐次または連続的に押し抜きながら、ダイス穴径の入側中心軸と出側中心軸とが一致しているダイス(以下、「対称ダイス」という)を用いる縮径加工に引き続き、前記素管を曲げ手段で保持することにより曲げ加工を施して片ネック付きエルボを成形する方法であって、
ネック部の縮径加工に際し、前記対称ダイスを用いて前記素管の肉厚を周方向に均等に増肉し、前記曲げ手段で保持することなく所定長さの直管部を押し抜き、
引き続き、曲げ部の縮径加工に際し、前記対称ダイスをダイス穴径の入側中心軸と出側中心軸とが偏芯しているダイス(以下、「偏芯ダイス」という)に切り換えて前記素管の曲げ外周側の肉厚を曲げ内周側の肉厚に比べて増肉し、前記素管を曲げ手段で保持して所定の曲げ角度に至るまで曲げ加工を施すことを特徴とするネック付きエルボの製造方法。
【請求項4】
ガイドチューブに挿入された素管を挿入側から逐次または連続的に押し抜きながら、対称ダイスを用いる縮径加工に引き続き、前記素管を曲げ手段で保持することにより曲げ加工を施して両ネック付きエルボを成形する方法であって、
先端側ネック部の縮径加工に際し、前記対称ダイスを用いて前記素管の肉厚を周方向に均等に増肉し、前記曲げ手段で保持することなく所定長さの直管部を押し抜き、
引き続き、曲げ部の縮径加工に際し、前記対称ダイスを偏芯ダイスに切り換えて前記素管の曲げ外周側の肉厚を曲げ内周側の肉厚に比べて増肉すると同時に、前記素管を曲げ手段で保持して所定の曲げ角度に至るまで曲げ加工を施し、
さらに、後端側ネック部の縮径加工に際し、前記偏芯ダイスを対称ダイスに切り換えて前記素管の肉厚を周方向に均等に増肉すると同時に、前記素管における曲げ手段の保持を開放し所定長さの直管部を押し抜くことを特徴とするネック付きエルボの製造方法。
【請求項5】
ガイドチューブに挿入された素管を挿入側から逐次または連続的に押し抜きながら、縮径加工とともに曲げ加工を施して、ネック付きエルボを成形する方法であって、
前記素管の予備処理として、先端側ネック部、または先端側および後端側ネック部に相当する所定長さの縮径加工が施されており、
前記縮径加工に際し、偏芯ダイスを用いて前記素管の曲げ外周側の肉厚を曲げ内周側の肉厚に比べて増肉し、引き続いて曲げ加工を施すことを特徴とするネック付きエルボの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−173650(P2008−173650A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7321(P2007−7321)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000182926)住金機工株式会社 (7)
【Fターム(参考)】