説明

ノイズフィルタおよび複合コイル

【課題】製造が容易で、製造条件の違いによる性能ばらつきを抑えて安定した周波数特性を得ることができるノイズフィルタ、およびそのノイズフィルタの部品として使用可能な複合コイルを提供する。
【解決手段】第1および第2の巻線11,12が巻かれた第1のコア40における外周面の一部分に、第3の巻線13を巻く。これにより、第3の巻線13を別の第3のコアに巻いた構成にした場合に比べて、部品点数を削減でき、また、各コアの製造条件の違いによる性能ばらつきを抑えて、安定した周波数特性を得ることができる。また、第1のコア40と第2のコア50とを互いの外周面の一部分が対向するように並列配置する。対向する外周面同士の間隔Dや対向面積を調整することで第3の巻線13によるインダクタンス値L3の調整を容易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2本の導電線間に伝搬するノイズを抑制するノイズフィルタ、およびノイズフィルタの部品として使用可能な複合コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源、インバータ、照明機器の点灯回路等のパワーエレクトロニクス機器は、電力の変換を行う電力変換回路を有している。電力変換回路は、直流を矩形波の交流に変換するスイッチング回路を有している。そのため、電力変換回路は、スイッチング回路のスイッチング周波数と等しい周波数のリップル電圧や、スイッチング回路のスイッチング動作に伴うノイズを発生させる。このリップル電圧やノイズは他の機器に悪影響を与える。そのため、電力変換回路と他の機器あるいは線路との間には、リップル電圧やノイズを低減する手段を設ける必要がある。
【0003】
また、最近、家庭内における通信ネットワークを構築する際に用いられる通信技術として電力線通信が有望視され、その開発が進められている。電力線通信は、電力線に高周波信号を重畳して通信を行う。この電力線通信では、電力線に接続された種々の電気・電子機器の動作によって、電力線上にノイズが発生し、このことが、エラーレートの増加等の通信品質の低下を招く。そのため、電力線上のノイズを低減する手段が必要になる。また、電力線通信では、屋内電力線上の通信信号が屋外電力線に漏洩することを阻止する必要がある。
【0004】
なお、2本の導電線を伝搬するノイズには、2本の導電線の間で電位差を生じさせるノーマルモード(ディファレンシャルモード)ノイズと、2本の導電線を同じ位相で伝搬するコモンモードノイズとがある。
【0005】
これらのノイズを抑制するために、電源ラインや信号ラインなどにラインフィルタを設けることが有効である。ノーマルモード用のラインフィルタとしては、ライン上に配置されたインダクタンス素子とライン間に配置されたキャパシタとを組み合わせたLC共振回路を利用したものがよく知られている。特許文献1には、2本の導電線のそれぞれに、磁気的に結合した2つのコイル部分からなるインダクタンス素子を配置し、それら2本の導電線に設けられたインダクタンス素子の間に1つのキャパシタを接続した構成のノーマルモード用のフィルタ回路が開示されている。特許文献2には、2本の導電線の一方に磁気的に結合した2つのコイル部分からなるインダクタンス素子を配置し、そのインダクタンス素子と他方の導電線との間に1つのキャパシタを接続した構成のノーマルモード用のフィルタ回路が開示されている。
【0006】
特許文献1および特許文献2に記載のフィルタ回路に対し、さらにフィルタ性能を向上させた回路として、特許文献3に記載の回路がある。特許文献3には、第1の導電線に挿入された巻線と、インダクタおよびキャパシタからなり一端が前記巻線の途中に接続された直列回路とを組み合わせたノーマルモード用のフィルタ回路が開示されている。図12は、その回路構成を示している。このフィルタ回路は、一対の端子1A,1Bと、他の一対の端子2A,2Bと、端子1A,2A間を接続する第1の導電線3と、端子1B,2B間を接続する第2の導電線4とを備えている。また、第1の導電線3に挿入された巻線111と、直列に接続されたインダクタ113およびキャパシタ114よりなり、一端が巻線111の途中(例えば中点)に接続され、他端が第2の導電線4に接続された直列回路115とを備えている。インダクタ113はコア113Bとそれに巻かれる第3の巻線113Aとを有し、その一端が巻線111の途中に接続されている。巻線111は、直列回路115との接続点を境界として第1の巻線部分111Aと第2の巻線部分111Bとを有し、それらが共通の第1のコア112に巻かれている。直列回路115による直列共振回路を利用している点で、特許文献1および特許文献2に記載のフィルタ回路と異なっている。
【0007】
以下、このフィルタ回路の動作を、第1の巻線部分111Aと第2の巻線部分111Bとによって形成されるインダクタンスが互いに同一の値で、直列回路115におけるキャパシタ114のインピーダンスが無視できるほど小さい低インピーダンスであるものとして説明する。このフィルタ回路では、端子1A,1B間(第1および第2の導電線3,4間の第1の巻線部分111A側)にノーマルモードの電圧Viが印加されると、この電圧Viは、第1の巻線部分111Aと直列回路115の主にインダクタ113とによって分圧され、第1の巻線部分111Aの両端間とインダクタ113の両端間とにそれぞれ同一向きの所定の電圧V1,V3が発生する。なお、図中の矢印は、その先の方が高い電位であることを表している。第1の巻線部分111Aと第2の巻線部分111Bは、共通の同じ第1のコア112に巻かれ互いに磁気的に結合されているので、第1の巻線部分111Aの両端間に発生した電圧V1に応じて、第2の巻線部分111Bの両端間にも電圧V1と同一の電圧V2が発生する。直列回路115の一端は第1の巻線部分111Aと第2の巻線部分111Bとの間に接続されていることから、第2の巻線部分111Bの両端間に発生する電圧V2の向きは、インダクタ113の両端間に発生する電圧V3の向きとは逆方向となり、それらの電圧が互いに相殺される。その結果、端子2A,2B間(第1および第2の導電線3,4間の第2の巻線部分111B側)の電圧Voは、端子1A,1B間に印加された電圧Viよりも小さくなる。逆に、端子2A,2B間にノーマルモードの電圧Voが印加された場合も、上記の説明と同様にして、端子1A,1B間の電圧Viは、端子2A,2B間に印加された電圧Voよりも小さくなる。
【0008】
図13は、図12のフィルタ回路を平衡タイプの回路、すなわち、第1および第2の導電線3,4上に平衡信号が伝送されるような回路に適用した場合の回路構成を示している。このフィルタ回路は、図12の構成に対してさらに、第2の導電線4に挿入された巻線121を備え、直列回路115の他端をその巻線121の途中(例えば中点)に接続している。巻線121は、直列回路115との接続点を境界として第4の巻線部分121Aと第5の巻線部分121Bとを有し、それらが共通の第2のコア122に巻かれている。
【特許文献1】特許第2784783号公報
【特許文献2】特開2005−57893号公報
【特許文献3】特開2005−117218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載のフィルタ回路に対し、さらにフィルタ性能を向上させるために図13のフィルタ回路を実際に実現しようとすると、以下のような問題が生ずる。図14は、図13のフィルタ回路の具体的な構成例を示している。この構成例では、第1のコア112を例えば2つのE形コア131E,132Eを組み合わせて全体として日の字形状としている。そしてその中脚部に巻線111を巻いている。第2のコア122も同様に、例えば2つのE形コア141E,142Eを組み合わせて全体として日の字形状とし、その中脚部に巻線121を巻いている。そして、巻線111の途中と巻線121の途中に引き出し用の導電線を接続し、その引き出し線に直列回路115のインダクタ113とキャパシタ114とを接続している。このような構成の場合、第1の導電線3に挿入された巻線111と、第2の導電線4に挿入された巻線121と、直列回路115のインダクタ113を構成する巻線113Aとがそれぞれ別々のコアに巻かれることになる。そのため、設計上、各コアを同一材料であるものとして回路値を設定しても、実際には製造条件の違いにより各コアの材質に違いが生じやすく、設計上の所望の周波数特性(インピーダンス特性)を得にくいという問題がある。また、直列回路115のインダクタ113を別部品として構成しているため、部品点数が増えてしまうという問題がある。さらに、第1および第2の導電線3,4上の巻線111,121の途中に引き出し用の接続点を設ける必要があり、製造上、煩雑である。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、製造が容易で、製造条件の違いによる性能ばらつきを抑えて安定した周波数特性を得ることができるノイズフィルタ、およびそのノイズフィルタの部品として使用可能な複合コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるノイズフィルタは、第1の導電線に挿入された第1の巻線と、一端が第1の巻線の一端に接続され、第1の巻線に磁気的に結合された第2の巻線と、第1の巻線および第2の巻線が共通に巻かれた第1のコアと、第3の巻線およびキャパシタを含み、一端が第2の巻線の他端に接続された直列回路と、第2の導電線に挿入された第4の巻線と、一端が第4の巻線の一端に接続されると共に他端が直列回路の他端に接続され、第4の巻線に磁気的に結合された第5の巻線と、第4の巻線および第5の巻線が共通に巻かれた第2のコアとを備えている。そして、第3の巻線が、第1のコアおよび第2のコアのいずれか一方のコアの外周面の少なくとも一部分に巻かれ、かつ、その部分において他の巻線による磁界に直交する磁界を発生するようにいずれか一方のコアに巻かれているものである。
【0012】
本発明によるノイズフィルタでは、第3の巻線が第1のコアおよび第2のコアのいずれか一方のコアの外周面の少なくとも一部分に巻かれることで、第3の巻線を別の第3のコアに巻いた構成にした場合に比べて、部品点数が削減されると共に、各コアの製造条件の違いによる性能ばらつきが抑えられ、安定した周波数特性が得られる。また、直列回路の一端を、第1の巻線に磁気的に結合された第2の巻線の他端に接続し、直列回路の他端を、第4の巻線に磁気的に結合された第5の巻線の他端に接続したことで、1つの巻線の途中に接続点を設けてそこに直列回路を接続する構成に比べて、製造が容易となる。
また、本発明によるノイズフィルタでは、等価的に、第1のコアと第1および第2の巻線とによって第1の導電線上に直列的に2つのインダクタが形成される。また、一端がそれら2つのインダクタの間に接続され、他端が直列回路の一端に接続されるようなインダクタ成分が形成される。同様に、等価的に、第2のコアと第4および第5の巻線とによって第2の導電線上に直列的に2つのインダクタが形成される。このような等価回路を形成し、良好な周波数特性を得るために、第1および第2の巻線の結合度は強い方が好ましい。また、第4および第5の巻線の結合度も強い方が好ましい。しかし、第3の巻線は他の巻線に対して結合度は弱い方が好ましい。本発明によるノイズフィルタでは、第1のコアおよび第2のコアのいずれか一方のコアの外周面の少なくとも一部分において、第3の巻線が、他の巻線(第1および第2の巻線、または第4および第5の巻線)による磁界に直交する磁界を発生するように巻かれていることで、第3の巻線が巻かれた第1のコアまたは第2のコアにおいて、他の巻線との結合度が弱められる。
【0013】
ここで、本発明によるノイズフィルタにおいて、第1のコアと第2のコアとが互いの外周面の一部分が対向するように並列配置され、第3の巻線が、少なくとも第1のコアおよび第2のコアにおける対向する外周面に巻かれていても良い。この場合において、第1のコアおよび第2のコアが、互いの対向する外周面同士が間隔を空けて対向配置されていても良い。または、第1のコアおよび第2のコアが、互いの対向する外周面同士が接触するように対向配置されていても良い。
これにより、第3の巻線によるインダクタンス値の調整が容易となる。例えば対向する外周面同士の間隔や対向面積を調整することでインダクタンス値の調整が行える。
【0014】
また、本発明によるノイズフィルタにおいて、第1のコアおよび第2のコアがそれぞれ、中脚部を有する形状であり、第1の巻線および第2の巻線が第1のコアの中脚部に共通に巻かれ、第4の巻線および第5の巻線が第2のコアの中脚部に共通に巻かれるような構成であっても良い。そして、第3の巻線が、少なくとも第1のコアおよび第2のコアのいずれか一方における中脚部に直交する外周面に巻かれていても良い。
【0015】
また、本発明によるノイズフィルタにおいて、第1のコアおよび第2のコアが全体として中空部を有する四角形状であり、第1の巻線および第2の巻線が第1のコアの1つの辺に共通に巻かれ、第4の巻線および第5の巻線が第2のコアの1つの辺に共通に巻かれるような構成であっても良い。そして、第3の巻線が、少なくとも第1のコアおよび第2のコアのいずれか一方における1つの辺に直交する他の辺の外周面に巻かれていても良い。
【0016】
本発明による複合コイルは、第1の巻線と、一端が第1の巻線の一端に接続され、第1の巻線に磁気的に結合された第2の巻線と、第1の巻線および第2の巻線が共通に巻かれたコアと、コアの外周面の少なくとも一部分に巻かれ、かつ、その部分において他の巻線による磁界に直交する磁界を発生するようにコアに巻かれた第3の巻線とを備えたものである。
【0017】
本発明による複合コイルでは、第3の巻線がコアの外周面の少なくとも一部分に巻かれているので、例えばノイズフィルタを形成する場合において第3の巻線を別のコアに巻いてフィルタを形成した場合に比べて、部品点数を削減できると共に、各コアの製造条件の違いによる性能ばらつきが抑えられ、安定した周波数特性が得られる。また第2の巻線を第1の巻線の一端に接続したことで、1つの巻線の途中に接続点を設けた場合に比べて、製造が容易となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のノイズフィルタによれば、第3の巻線を第1のコアおよび第2のコアのいずれか一方のコアの外周面の少なくとも一部分に巻くようにしたので、第3の巻線を別の第3のコアに巻いた構成にした場合に比べて、部品点数を削減でき、また、各コアの製造条件の違いによる性能ばらつきを抑えて、安定した周波数特性を得ることができる。また、直列回路の一端を第1の巻線に磁気的に結合された第2の巻線の他端に接続し、直列回路の他端を第4の巻線に磁気的に結合された第5の巻線の他端に接続するようにしたので、1つの巻線の途中に接続点を設けてそこに直列回路を接続する構成に比べて、製造が容易となる。
【0019】
特に、第1のコアと第2のコアとを互いの外周面の一部分が対向するように並列配置し、第3の巻線を、少なくとも第1のコアおよび第2のコアにおける対向する外周面に巻くようにした場合には、対向する外周面同士の間隔や対向面積を調整することで第3の巻線によるインダクタンス値の調整を容易に行うことができる。
【0020】
本発明の複合コイルによれば、第3の巻線をコアの外周面の少なくとも一部分に巻くようにしたので、例えばノイズフィルタを形成する場合において第3の巻線を別のコアに巻いてフィルタを形成した場合に比べて、部品点数を削減でき、また、各コアの製造条件の違いによる性能ばらつきを抑えて、安定した周波数特性を得ることができる。また、第2の巻線を第1の巻線の一端に接続するようにしたので、1つの巻線の途中に接続点を設けた場合に比べて、製造が容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る複合コイルを用いたノイズフィルタの一構成例を示している。また、図2は、そのノイズフィルタによって形成される回路構成を示している。まず、図2を参照して回路構成を説明する。このノイズフィルタは、平衡タイプの伝送路、すなわち、一対の導電線上に平衡信号が伝送されるような伝送路に接続され、その伝送路を伝わるノーマルモードノイズを抑制するために使用されるものである。このノイズフィルタは、一対の端子1A,1Bと、他の一対の端子2A,2Bと、端子1A,2A間を接続する第1の導電線3と、端子1B,2B間を接続する第2の導電線4とを備えている。このノイズフィルタはまた、第1の導電線3に挿入された第1の巻線11と、一端が第1の巻線11の一端に接続されると共に第1の巻線11に磁気的に結合された第2の巻線12と、第3の巻線13およびキャパシタ31を含み一端が第2の巻線12の他端に接続された直列回路30とを備えている。このノイズフィルタはまた、第2の導電線4に挿入された第4の巻線14と、一端が第4の巻線14の一端に接続されると共に他端が直列回路30の他端に接続され、第4の巻線14に磁気的に結合された第5の巻線15とを備えている。
【0022】
なお、図2では、第3の巻線13の一端を第2の巻線12の他端に接続すると共に、第3の巻線13の他端をキャパシタ31の一端に接続し、キャパシタ31の他端を第5の巻線15の他端に接続しているが、直列回路30内における第3の巻線13とキャパシタ31との位置関係は図2の構成とは逆であっても良い。すなわち、図3に示したように、キャパシタ31の一端を第2の巻線12の他端に接続すると共に、キャパシタ31の他端を第3の巻線13の一端に接続し、第3の巻線13の他端を第5の巻線15の他端に接続するようにしても良い。
【0023】
このノイズフィルタはさらに、第1の巻線11および第2の巻線12ならびに第3の巻線13が共通に巻かれた第1のコア40と、第4の巻線14および第5の巻線15が共通に巻かれた第2のコア50とを備えている。第1のコア40に第1の巻線11が巻かれることで第1のインダクタ21が形成され、第1のコア40に第2の巻線12が巻かれることで第2のインダクタ22が形成され、第1のコア40に第3の巻線13が巻かれることで第3のインダクタ23が形成されている。また、第2のコア50に第4の巻線14が巻かれることで第4のインダクタ24が形成され、第2のコア50に第5の巻線15が巻かれることで第5のインダクタ25が形成されている。なお、図3の構成の場合には、第3の巻線13が第2のコア50に巻かれている。
【0024】
次に、図1を参照して具体的な構成を説明する。第1のコア40は、例えば2つのE形コア41E,42Eを組み合わせて全体として日の字形状となっている。第1のコア40は、中脚部43を有し、その中脚部43に第1の巻線11および第2の巻線12が巻かれている。第2のコア50も同様に、例えば2つのE形コア51E,52Eを組み合わせて全体として日の字形状となっている。第2のコア50は、中脚部53を有し、その中脚部53に第4の巻線14および第5の巻線15が巻かれている。なお、第1の巻線11と第4の巻線14は第1および第2の導電線3,4上に挿入され、他の巻線よりも大電流が流れるので、比較的太い導線で構成されていることが好ましい。第1のコア40と第2のコア50は、例えば同一材料で構成されている。
【0025】
第1のコア40において、中脚部43に直交する1つの側面44(外周面の一部分)には中脚部43に直交する方向に延在する溝部44Aが設けられている。第3の巻線13は、一端が中脚部43側において第2の巻線12に接続されると共に、他端が中脚部43に平行な他の側面45側から引き出され、さらに溝部44Aにはめ込まれるようにして第1のコア40に巻かれ、さらにキャパシタ31の一端に接続されている。
【0026】
第2のコア50についても、中脚部53に直交する1つの側面54(外周面の一部分)には中脚部53に直交する方向に延在する溝部54Aが設けられている。第5の巻線15は、一端が中脚部53側において第4の巻線14に接続されると共に、他端が中脚部53に平行な他の側面55側から引き出され、キャパシタ31に接続されている。なお、回路構成が図3の構成の場合には、第3の巻線13が第2のコア50側の溝部54Aに巻かれる。
【0027】
第1のコア40と第2のコア50は、図1に示したように、溝部44A,54Aが設けられた側面44,54同士が対向するようにして並列的に配置されている。第1のコア40と第2のコア50は、対向する側面44,54同士が間隔D(エアギャップ)を空けて対向配置されている。
【0028】
ただし、図4に示したように、対向する側面44,54同士が接触するように対向配置されていても良い。また、図5に示したように、水平方向に位置をずらして配置し、対向する側面44,54同士が部分的に接触するようにして対向配置されていても良い。また、図5のように水平方向に位置をずらして配置した状態で、間隔D(エアギャップ)を空けて対向配置されていても良い。側面44,54同士の間隔Dや対向面積・接触面積を調整することで、第3の巻線13によるインダクタンス値の調整を容易に行うことができる。これにより、後述するフィルタとしての周波数特性の調整を容易に行うことができる。例えば間隔Dが大きいほど、第3の巻線13による磁束が通る閉磁路を形成しにくくなるので、第3の巻線13によるインダクタンス値は小さくなる。また、接触面積が大きいほど、閉磁路を形成しやすくなるので、第3の巻線13によるインダクタンス値は大きくなる。
【0029】
次に、本実施の形態に係るノイズフィルタの作用を説明する。
図6は、このノイズフィルタにおける片側(第1の導電線3側)の回路部分の構成を示している。また、図7は、図6の回路の等価回路を示している。ここで、図7の等価回路を考察するにあたり、以下の値を定義する。
L1:第1の巻線11による第1のインダクタ21の自己インダクタンス値
L2:第2の巻線12による第2のインダクタ22の自己インダクタンス値
L3:第3の巻線13による第3のインダクタ23の自己インダクタンス値
C:キャパシタ31のキャパシタンス値
K:第1の巻線11と第2の巻線12との結合係数
M:第1の巻線11と第2の巻線12との相互インダクタンス値
M=K√(L1・L2)
ただし、√は(L1・L2)全体の平方根を取ることを示す。
【0030】
ここで、図7の等価回路は、図6の回路構成において第1および第2の巻線11,12と第3の巻線13との結合が非常に小さいもの(例えば結合係数が0.1程度)として考えた場合を示している。このノイズフィルタでは、第1のコア40と第1および第2の巻線11,12とによって、図7に示したように等価的に、第1の導電線3上に直列的に2つのインダクタが形成される(同様に、等価的に、第2のコア50と第4および第5の巻線14,15とによって第2の導電線4上に直列的に2つのインダクタが形成される)。第1の導電線3上の2つのインダクタのインダクタンスはそれぞれ、MとL1−Mである。また、一端がそれら2つのインダクタの間に接続され、他端が直列回路30(の第3の巻線13)の一端に接続されるようなインダクタ成分(L2−M)が形成される。このような等価回路を形成し、良好な周波数特性を得るために、第1および第2の巻線11,12の結合度は強い(結合係数が大きい)方が好ましい(同様に、第4および第5の巻線14,15の結合度も強い方が好ましい)。しかし、第3の巻線13は、第1の巻線11および第2の巻線12と第4の巻線14および第5の巻線15とに対して、結合度が弱い(結合係数が小さい)方が好ましい。第3の巻線13と他の巻線との結合度が強くなってくると、図示した等価回路が成り立たなくなってくる。本実施の形態では、第1のコア40の中脚部43に第1の巻線11および第2の巻線12を巻き、第3の巻線13を第1のコア40の外周面に巻くことで、第3の巻線13による磁界と第1の巻線11および第2の巻線12による磁界とを直交させ、結合度を弱めている。同様に、第2のコア50の中脚部53に第4の巻線14および第5の巻線15を巻き、第1のコア40における第3の巻線13が巻かれた側面44に対向するように第2のコア50を配置していることで、第3の巻線13による磁界と第4の巻線14および第5の巻線15による磁界とを直交させ、結合度を弱めている。
【0031】
上記したように、このノイズフィルタでは、第1の巻線11と第2の巻線12との結合が強いこと(例えばK=0.9以上)が好ましく、また、
L1>L2
であることが好ましい。ここで、図7の等価回路におけるL2−MとL3との関係から、フィルタ性能を以下の3つの場合に分けて考えることができる。
L2−M+L3=0 ……(1)
L2−M+L3>0 ……(2)
L2−M+L3<0 ……(3)
【0032】
各条件で理論的には以下の周波数特性が得られる。第1の条件(1)を満たすときには、共振点は生じないがT型(3次)フィルタに等価な減衰特性が得られる。第2の条件(2)を満たすときには、低域に共振点ができるが、その共振点以降は2次フィルタに等価な減衰特性が得られる。第3の条件(3)を満たすときには、共振点がなく、ある帯域から2次フィルタに等価な減衰特性が得られる。フィルタとして必要とされる性能に応じて、これらの条件となるように回路値を適宜設定すれば良い。既に説明したように、本実施の形態では、第1および第2のコア40,50において、対向する側面44,54同士の間隔Dや接触面積を調整することで、第3の巻線13によるインダクタンス値L3の調整を容易に行うことができる。これにより、所望の条件を容易に満たすことができる。
【0033】
このノイズフィルタにおいて、T型フィルタとしての最高性能を出すためには、
M=L1−M
であることが好ましい。M=K√(L1・L2)を用いて、この式を展開すると、
L2=L1/4K2 [H]
が得られる。この条件を満たすために、第2の巻線12の巻数を第1の巻線11の巻数に対して半分にすることが好ましい。さらに第1の巻線11と第2の巻線12とをツイストペアで巻き、結合係数Kを大きくすることで条件を満たしやすくなる。
【0034】
特に、第2の条件(2)を満たすときには上記したように共振点ができるが、その共振周波数F0は次のようになる。第2の条件(2)を満たす場合には、例えばスイッチング回路を有する回路に接続した場合において、共振周波数F0を、低域に発生したスイッチング周波数のノイズに合わせることで、そのノイズ成分を良好に抑制できる。
0=1/[2π√(L2−M+L3)・C] [Hz]
ただし、√は(L2−M+L3)全体の平方根を取ることを示す。
【0035】
図8は、本実施の形態に係るノイズフィルタのノーマルモードでの伝送特性を実際に測定した実施例を示している。なお、図8の横軸は周波数(Hz)を表し、縦軸はゲイン(dB)を表している。実施例としては、上記第2の条件(2)を満たす場合の特性を示す。なお、比較例として、図14に示した構成にした場合の伝送特性についても示す。比較例のノイズフィルタに対して本実施例に係るノイズフィルタでは、上記した共振周波数F0で共振点ができており、全周波数帯域に亘って良好な減衰特性が得られている。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態に係るノイズフィルタによれば、第1および第2の巻線11,12が巻かれた第1のコア40における外周面の一部分に第3の巻線13を巻くようにしたので、第3の巻線13を別の第3のコアに巻いた構成にした場合に比べて、部品点数を削減でき、また、各コアの製造条件の違いによる性能ばらつきを抑えて、安定した周波数特性を得ることができる。また、直列回路30の一端を第1の巻線11に磁気的に結合された第2の巻線12の他端に接続し、直列回路30の他端を第4の巻線14に磁気的に結合された第5の巻線15の他端に接続するようにしたので、1つの巻線の途中に接続点を設けてそこに直列回路30を接続する構成に比べて、製造が容易となる。また、第1のコア40と第2のコア50とを互いの外周面の一部分が対向するように並列配置し、第3の巻線13を第1のコア40および第2のコア50における対向する外周面に巻くようにしたので、対向する外周面同士の間隔Dや対向面積を調整することで第3の巻線13によるインダクタンス値L3の調整を容易に行うことができる。これにより所望のフィルタ性能を容易に得ることができる。
<変形例>
【0037】
次に、図1に示した構成例に対する変形例を説明する。なお、図1の構成例と同一の構成部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0038】
図9は、本実施の形態に係る複合コイルを用いたノイズフィルタの第1の変形例を示している。図1の構成例では、第1のコア40において1つの側面44に溝部44Aを設け、そこに第3の巻線13を設けるようにした。これに対し図9の変形例は、第1のコア40において対向する他の側面にも溝部44Aを設け、第3の巻線13を第1のコア40の外周面全体に亘って巻いたものである。図9の変形例によれば、図1の構成例に比べて第3の巻線13によるインダクタンス値を大きくすることができる。
【0039】
図10は、本実施の形態に係る複合コイルを用いたノイズフィルタの第2の変形例を示している。図1の構成例では、第1のコア40の1つの側面44において第3の巻線13を巻くための溝部44Aを水平方向にのみ設けていたが、これに対し図10の変形例は、垂直方向(コアの厚み方向)にも溝部44Bを設けている。そして第3の巻線13の一端を中脚部43側において第2の巻線12に接続すると共に、他端を中脚部43側から溝部44B側に引き出し、さらに溝部44Aにはめ込まれるようにして第1のコア40に巻いている。なお、垂直方向に設ける溝部44Bの数を図示したように複数にすることで、第3の巻線13を巻く長さを調整しやすくなるので好ましい。また特に、第1のコア40と第2のコア50とを図4および図5に示したように部分的に接触させて対向配置する場合には、第2のコア50の側面54にも同様の溝部54Bを設けると良い。
【0040】
図11は、本実施の形態に係る複合コイルを用いたノイズフィルタの第3の変形例を示している。図1の構成例では、第1のコア40と第2のコア50とを全体として日の字形状にしているが、コアの形状はこれに限定されるものではない。図11の変形例は、例えば2つのU形コア41U,42Uを組み合わせて全体としてロの字形状(中空部を有する四角形状)とした第1のコア40Aを備えている。また同様に、例えば2つのU形コア51U,52Uを組み合わせて全体としてロの字形状とした第2のコア50Aを備えている。そして、第1の巻線11および第2の巻線12は、第1のコア40Aにおける1つの辺46に共通に巻かれている。同様に第4の巻線14および第5の巻線15は、第2のコア50Aにおける1つの辺56に共通に巻かれている。
【0041】
第1のコア40Aにおいて、1つの辺46に直交する他の辺の1つの側面44(外周面の一部分)には、図1の構成例と同様の溝部44Aが設けられている。第3の巻線13は、一端が1つの辺46側において第2の巻線12に接続されると共に、他端が1つの辺46に対向する他の側面45側から引き出され、さらに溝部44Aにはめ込まれるようにして第1のコア40に巻かれ、さらにキャパシタ31の一端に接続されている。第2のコア50Aについても、1つの辺56に直交する他の辺の1つの側面54(外周面の一部分)に、図1の構成例と同様の溝部54Aが設けられている。なお、回路構成が図3の構成の場合には、第3の巻線13が第2のコア50A側の溝部54Aに巻かれる。
【0042】
なお、本発明は上記実施の形態および変形例に限定されず、さらに種々の変更が可能である。例えば、コアの組み合わせはE形コアやU形コアに限らず他の形状のコアを組み合わせた構成も可能である。また、図11の変形例において、図4および図5の構成例と同様、第1のコア40Aと第2のコア50Aとを部分的に接触して対向配置させた構成であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施の形態に係る複合コイルを用いたノイズフィルタの一構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るノイズフィルタの回路構成を示す回路図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係るノイズフィルタの回路構成の他の例を示す回路図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るノイズフィルタの他の構成例を示す構成図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係るノイズフィルタのさらに他の構成例を示す構成図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係るノイズフィルタのフィルタ特性を説明するための回路図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係るノイズフィルタのフィルタ特性を説明するための等価回路図である。
【図8】本発明の一実施の形態に係るノイズフィルタの周波数特性を示す特性図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る複合コイルを用いたノイズフィルタの第1の変形例を示す構成図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る複合コイルを用いたノイズフィルタの第2の変形例を示す構成図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る複合コイルを用いたノイズフィルタの第3の変形例を示す構成図である。
【図12】従来のノイズフィルタの第1の構成例を示す回路図である。
【図13】従来のノイズフィルタの第2の構成例を示す回路図である。
【図14】従来のノイズフィルタの具体的な構成例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0044】
3…第1の導電線、4…第2の導電線、11…第1の巻線、12…第2の巻線、13…第3の巻線、14…第4の巻線、15…第5の巻線、20…中脚部、21…第1のインダクタ、22…第2のインダクタ、23…第3のインダクタ、24…第4のインダクタ、25…第5のインダクタ、30…直列回路、31…キャパシタ、40…第1のコア、44A,54A…溝部、50…第2のコア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電線に挿入された第1の巻線と、
一端が前記第1の巻線の一端に接続され、前記第1の巻線に磁気的に結合された第2の巻線と、
前記第1の巻線および前記第2の巻線が共通に巻かれた第1のコアと、
第3の巻線およびキャパシタを含み、一端が前記第2の巻線の他端に接続された直列回路と、
第2の導電線に挿入された第4の巻線と、
一端が前記第4の巻線の一端に接続されると共に他端が前記直列回路の他端に接続され、前記第4の巻線に磁気的に結合された第5の巻線と、
前記第4の巻線および前記第5の巻線が共通に巻かれた第2のコアと
を備え、
前記第3の巻線が、前記第1のコアおよび前記第2のコアのいずれか一方のコアの外周面の少なくとも一部分に巻かれ、かつ、その部分において他の巻線による磁界に直交する磁界を発生するように前記いずれか一方のコアに巻かれている
ことを特徴とするノイズフィルタ。
【請求項2】
前記第1のコアと前記第2のコアとが互いの外周面の一部分が対向するように並列配置され、
前記第3の巻線が、少なくとも前記第1のコアおよび前記第2のコアにおける前記対向する外周面に巻かれている
ことを特徴とする請求項1に記載のノイズフィルタ。
【請求項3】
前記第1のコアおよび前記第2のコアは、互いの対向する外周面同士が間隔を空けて対向配置されている
ことを特徴とする請求項2に記載のノイズフィルタ。
【請求項4】
前記第1のコアおよび前記第2のコアは、互いの対向する外周面同士が接触するように対向配置されている
ことを特徴とする請求項2に記載のノイズフィルタ。
【請求項5】
第1の巻線と、
一端が前記第1の巻線の一端に接続され、前記第1の巻線に磁気的に結合された第2の巻線と、
前記第1の巻線および前記第2の巻線が共通に巻かれたコアと、
前記コアの外周面の少なくとも一部分に巻かれ、かつ、その部分において他の巻線による磁界に直交する磁界を発生するように前記コアに巻かれた第3の巻線と
を備えたことを特徴とする複合コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−215377(P2007−215377A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35346(P2006−35346)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】