説明

ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法及び基板剥離装置

【課題】ノズル基板の製造時、支持基板からの剥離において、ノズル基板のウェハ割れやクラック発生をできるだけ低減すること。
【解決手段】先端が小径で後端が大径のノズル孔をノズル基板となるシリコン基板100の片面から途中までエッチングし、ノズル孔後端をシリコン基板100の片面に開口させる工程と、シリコン基板100のノズル孔後端側の面に、自己剥離層を有した両面接着シート110を介して支持基板112を貼り合せる工程と、シリコン基板100のノズル孔先端側の面を薄板化してノズル孔先端側を開口させる工程と、両面接着シート110に光または熱を照射し、両面接着シート100の自己剥離層での気泡の成長による界面剥離を発生させながら、シリコン基板100を外的な力で支持基板112から引き離す工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ等の液滴吐出装置に用いられる液滴吐出ヘッドに関連し、それを構成するノズル基板の製造方法、ノズル基板の製造に使用する基板剥離装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出させるための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板等を備え、駆動部によって吐出室に圧力を加えることにより、選択されたノズル孔よりインク滴を吐出するようになっている。
【0003】
近年、インクジェットヘッドに対して、印字、画質等の高品位化の要求が一段と強まり、そのため高密度化並びに吐出性能の向上が強く要求されている。そのため、インクジェットヘッドのノズル部に関しては、インク吐出特性を改善するためにノズル部の流路抵抗を調整し、最適なノズル長さになるように基板の厚さを調整することがしばしば実施される。例えば、ノズル部を構成するノズル基板を作製する場合において、予めシリコン基板にノズル孔の噴射口となる部分と導入口部分とを形成しておき、その後所望の厚さに研磨し、ノズル孔を開口形成している(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−159661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のノズル基板の製造時、ノズル基板は、両面接着テープを用いて支持基板に固定した状態で研磨が行われ、研磨終了後に、支持基板から剥離される。その際、ノズル基板の支持基板からの剥離は、ノズル基板のウェハ割れやクラック発生等ができるだけ生じないように実行されなければならない。
【0005】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、インクジェットヘッド等の液滴吐出ヘッドを構成するノズル基板の製造において、薄板化工程で支持基板に貼り合わせたノズル基板を薄板化後に剥離する際、接着界面での再密着による剥離性低下に起因する不良を防ぎ、ノズル基板の高生産性及び高歩留まりを実現することを目的とする。併せて、そのノズル基板を利用した液滴吐出ヘッドの製造方法、並びにそのノズル基板の製造に使用する基板剥離装置を提案することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るノズル基板の製造方法は、先端が小径で後端が大径のノズル孔をノズル基板の片面から途中までエッチングし、ノズル孔後端をノズル基板の片面に開口させる工程と、ノズル基板のノズル孔後端側の面に、自己剥離層を有した両面接着シートを介して支持基板を貼り合せる工程と、ノズル基板のノズル孔先端側の面を薄板化してノズル孔先端側を開口させる工程と、両面接着シートに光または熱を照射し、両面接着シートの自己剥離層での気泡の成長による界面剥離を発生させながら、ノズル基板を外的な力で支持基板から引き離す工程と、を備えたものである。
このように、両面接着シートに光または熱を照射し、両面接着シートの自己剥離層での気泡の成長による界面剥離を発生させながら、ノズル基板を外的な力で支持基板から引き離すようにすることで、剥離層界面での再密着による剥離性低下に起因するウェハ割れ、クラックといった不良の発生を防ぎ、生産性向上と歩留まり向上を同時に実現できる。また、ノズル長さの制御性にも優れ、安定した吐出特性を有する液滴吐出ヘッドが提供できる。
【0007】
また、両面接着シートへの光または熱の照射とノズル基板を外的な力で引き離すのとは、同一の装置で行うことが好ましい。これにより、ノズル基板製造工程におけるノズル基板と支持基板との剥離作業が簡素化できる。
【0008】
また、ノズル基板を支持基板から引き離す際に、両面接着シートの自己剥離層での気泡の成長状態を観察し、その成長状態に応じて光または熱の照射量若しくは外的な力を調整することが好ましい。これにより、ノズル基板に余分な外力を与えることなく、支持基板から安全に剥離することが可能となる。
【0009】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記いずれかに記載のノズル基板の製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造するようにしたものである。これによれば、ノズル基板の加工時に基板の割れ等が低減するため、歩留まりの向上と生産性の向上を同時に達成した液滴吐出ヘッドを得ることができる。
【0010】
本発明に係る基板剥離装置は、ノズル基板を吸着するノズル基板吸着板と、UV照射部を備えノズル基板を支持する支持基板を吸着する支持基板吸着板とが対向配置され、ノズル基板吸着板と支持基板吸着板の少なくとも一方が、互いの対向面と直交する方向に移動可能となっているものである。この装置により、ノズル基板と支持基板との接合体の接合面にある両面接着シートをUV照射しながら、それらを吸着して引き離すことにより、ノズル基板と支持基板とを容易に剥離できる。
【0011】
また、ノズル基板吸着板は、ノズル基板を支持する吸着部が周囲にあり、吸着部の内側部分は吸着部より凹んだ形状となっていることが好ましい。このようにしておくことで、ノズル基板と支持基板とを引き離す際、ノズル基板がノズル基板吸着板の内側部の底部側にたわむため、両面接着シートの自己剥離層での気泡が成長しやすくなり剥離が促進される。
【0012】
さらに、ノズル基板吸着板と支持基板吸着板との間に置かれたノズル基板と支持基板との接合体の接合面にある両面接着シートの自己剥離層での気泡の成長状態をモニタするカメラと表示装置とを備えていることが好ましい。これによれば、両面接着シートの自己剥離層での気泡の成長状態を観察し、その成長状態に応じてUV照射量や基板の引き離し力を調整できるため、ノズル基板に余分な外力を与えることなく安全に剥離することが可能となる。
なお、この課題を解決するための手段に記載した「ノズル基板」は、ノズル基板を製造するための各種基板やウェハを含むものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施形態1.
図1は、本発明の実施形態1に係る液滴吐出ヘッドのひとつであるインクジェットヘッドの分解斜視図であり、図2は、図1に示すインクジェットヘッドが組み立てられた状態の部分縦断面図である。以下、図1及び図2を用いて実施形態1に係るインクジェットヘッドの構造及び動作について説明する。なお、この構造のヘッドは、インク以外の液滴を吐出することもできるので、液滴吐出ヘッドと称することもできる。
【0014】
図1に示すように、本実施形態1に係る液滴吐出ヘッドは、電極基板4、キャビティ基板3、リザーバ基板2、ノズル基板1の4つの基板から構成されている。リザーバ基板2の一方の面にはノズル基板1が接合されており、リザーバ基板2の他方の面にはキャビティ基板3が接合されている。そして、キャビティ基板3のリザーバ基板2が接合された面の反対面には、電極基板4が接合されている。
【0015】
ノズル基板1はシリコン基板等から作製され、インクを吐出するノズル孔5が2列に複数個形成されている。各ノズル孔5は、径の異なる2段の円筒状に形成されている。すなわち、インク吐出面側に位置して先端がこのインク吐出面に開口する径の小さい第1ノズル孔5aと、リザーバ基板2との接合面側に位置して導入口部分がその接合面に開口する径の大きい第2ノズル孔5bとから構成され、それらのノズル孔5a,5bが基板面に対して垂直にかつ同軸上に設けられている。これにより、インク滴の吐出方向をノズル孔5の中心軸方向に揃え、安定したインク吐出特性を発揮させることができ、インク滴の飛翔方向のばらつきや吐出量のばらつきを抑制することができる。
【0016】
リザーバ基板2は、例えば単結晶シリコンからなり、後述する圧力室(吐出室ともいう)7に吐出液を供給するための液貯蔵室であるリザーバ10が左右に2個形成されている。リザーバ10の底面には、リザーバ10から圧力室7へ吐出液を移送するための供給口9と、吐出液を導入するためのインク供給孔11aが形成されている。また、リザーバ基板2には、各々の圧力室7に連通し、圧力室7からノズル孔5に吐出液を移送するためのノズル連通孔6が形成されている。さらに、リザーバ基板2の中央部分には、リザーバ基板2を貫通し、後述するドライバICを収容する空間となる開口が形成されている。
【0017】
キャビティ基板3は、例えば単結晶シリコンからなり、圧力室7がノズル基板1のノズル孔5に対応して2列に複数個形成されている。圧力室7の底壁は可撓性を有し電極として作用する振動板8として形成されている。また、キャビティ基板3には、リザーバ基板2のインク供給孔11aに対応する位置にインク供給孔11bが形成され、中央部分にはキャビティ基板3を貫通し、ドライバICを収容する空間となる開口が形成されている。キャビティ基板3はさらに、各振動板8に電圧を印加するための共通電極16も備える。なお、キャビティ基板3の全面には、TEOS(Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン)からなる絶縁膜302,306が成膜されている。これらは、振動板8の駆動時における絶縁破壊及びショートを防止するためと、インク等の液滴によるキャビティ基板3のエッチングを防止する作用を果たす。
【0018】
電極基板4は、例えばホウ珪酸ガラス等のガラスから形成されている。電極基板4にはガラス溝12が例えば深さ0.3μmで形成されている。この溝12の内部には個別電極17が、所定のギャップ19を有して振動板8と対向するように、例えばITO(Indium Tin Oxide)を0.1μmの厚さでスパッタすることにより形成されている。また、インク供給孔11cが形成されていて、キャビティ基板3及びリザーバ基板2のそれら11b、11aと共にリザーバ10へのインク供給孔11を構成している。
電極基板4の中間部には、電極を駆動させるために使用されるドライバIC15を実装するための配線パターンが形成されており、この部分にドライバIC15が設置されている。このパターンはドライバIC15への入力配線20と、接続部品であるFPC(Flexible Printed Circuit)30の実装部21とを含む。なお、FPC30は、電極基板4の入力配線20と接続されるIC入力配線32と、キャビティ基板3の共通電極16に接続されるCOM配線31とを備えている。
【0019】
電極基板4とキャビティ基板3とが接合されることにより、個別電極17と振動板8との間には振動板8の振動領域となるギャップ19が形成される。上記の場合、このギャップ19は約0.2μmとなる。ギャップ19は静電力を生じさせるための重要な空間であり、内部に異物が入らないように、その開口端部は封止材23で封止されている。
【0020】
上記のように構成したインクジェットヘッドは次のように動作する。個別電極17に電荷を供給して、例えば正に帯電させると、振動板8は負に帯電し、個別電極17と振動板8との間に静電気力が発生する。この静電気力によって、振動板8は個別電極17に引き寄せられて撓む。これによって、圧力室7の容積が増大する。そして、個別電極17への電荷の供給を止めると、振動板8はその弾性力により元に戻り、その際、圧力室7の容積が急激に減少して、そのときの圧力により圧力室7のインクの一部が、ノズル連通孔6を介してノズル孔5からインク滴として吐出する。その後、振動板8が再び変位すると、インクがリザーバ10から供給口9を通って圧力室7内に補給される。
【0021】
次に、上記のように構成されたインクジェットヘッドで使用されているノズル基板の製造方法について説明する。図3〜図8は図1のインクジェットヘッドを構成するノズル基板の製造方法の一例を示す工程図であり、これに基づいて説明する。
(A)まず、例えば200μm程度の厚さのシリコン基板100を用意し、シリコン基板100の表面に膜厚1μmの熱酸化膜(SiO2 膜)102を均一に成膜する。
(B)次に、シリコン基板100の片面にレジスト104をコーティングし、第2ノズル孔5bとなる部分をパターニングする。
【0022】
(C)次に、シリコン基板100の熱酸化膜102を、例えば緩衝フッ酸水溶液でハーフエッチングし、露出している熱酸化膜102を薄くする。
(D)次に、シリコン基板100のレジスト104を硫酸洗浄などにより剥離する。
(E)次に、シリコン基板100の第2ノズル孔5bとなる部分が形成される面側にレジスト106をコーティングし、第1ノズル孔5aとなる部分をパターニングする。
【0023】
(F)次に、シリコン基板100を緩衝フッ酸水溶液でエッチングし、第1ノズル孔5aとなる部分の熱酸化膜102を完全に除いて開口する。このとき、反対面側の熱酸化膜102もエッチングされ、完全に除去される。
(G)次に、シリコン基板100のレジスト106を、硫酸洗浄などにより剥離する。
【0024】
(H)次に、ICP(Inductively Coupled Plasma)ドライエッチングにより、熱酸化膜102の開口部を、例えば深さ25μmまで垂直に異方性ドライエッチングし、第1ノズル孔5aを形成する。この場合のエッチングガスとしては、C48、SF6 を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用すればよい。ここで、C48は形成される溝の側面にエッチングが進行しないように溝側面を保護するために使用し、SF6 はシリコン基板100の垂直方向のエッチングを促進させるために使用する。
【0025】
(I)次に、第2ノズル孔5bとなる部分の熱酸化膜102のみがなくなるように、緩衝フッ酸水溶液でハーフエッチングする。
(J)次に、ICPドライエッチングにより、第2ノズル孔5bとなる部分の開口部を、深さ40μmまで垂直に異方性ドライエッチングし、第2ノズル孔5bを形成する。
【0026】
(K)次に、シリコン基板100の表面に残る熱酸化膜102をフッ酸水溶液で除去した後、シリコン基板100の両面、第1ノズル孔5a及び第2ノズル孔5bの側面及び底面に、膜厚0.1μmの熱酸化膜(SiO2 膜)108を均一に成膜する。
【0027】
(L)次に、シリコン基板100の第2ノズル孔5bの形成面側に、自己剥離層110aを有した両面接着シート110を介して、ガラス等の透明材料よりなる支持基板112を貼り付ける。両面接着シート110はその両面が接着面となっており、少なくともその一面に自己剥離層110aを持ったシート(自己剥離型シート)である。この自己剥離層110aは紫外線または熱などの刺激によって接着力が低下するようになっている。
【0028】
シリコン基板100と支持基板112の貼り付けは、減圧環境下(10Pa以下)、例えば真空中で行う。こうすることによって、接着界面に気泡が残らず、きれいな接着が可能になる。接着界面に気泡が残ると、研磨加工で薄板化されるシリコン基板100の板厚がばらつく原因となるからである。
【0029】
(M)次に、シリコン基板100のインク吐出側の面をグラインダーによって研削加工し、第1ノズル孔5aの先端が開口するまでシリコン基板100を薄くする。さらにポリッシャーによってインク吐出側の面を研磨し、第1ノズル孔5aの先端部の開口を行う。このとき、第1ノズル孔5a及び第2ノズル孔5bの内壁は、ノズル内の研磨材の水洗除去工程などによって洗浄する。
【0030】
(N)次に、シリコン基板100のインク吐出側の面に、スパッタ装置でSiO2 膜114を0.1μmの厚みで成膜する。ここで、SiO2 膜114の成膜は、両面接着シート110が劣化しない温度(200℃程度)以下で実施できればよく、スパッタリングに限るものではない。ただし、耐インク性等を考慮すると緻密な膜を形成する必要があり、ECRスパッタ装置等の常温で緻密な膜を成膜できる装置を使用することが望ましい。
(O)続いて、シリコン基板100のインク吐出側の面にさらに撥インク処理を施す。この場合、F原子を含む撥インク性を持った材料を蒸着やディッピングで成膜し、撥インク層116を形成する。このときは、第1ノズル孔5a及び第2ノズル孔5bの内壁も、撥インク処理される。
【0031】
(P)次に、撥インク処理されたインク吐出側の面に、片面粘着テープ120をサポートテープとして貼り付ける。
(Q)〜(R)次に、支持基板112側から両面接着シート110に向けてUV光を照射する。こうして、シリコン基板100と支持基板112との間の両面接着シート110の自己剥離層110aに気泡122を発生成長させ、界面の密着性を徐々に低下させる。なお、UV光に代えて、100〜200℃の熱エネルギーを照射するようにしてもよい。
(S)〜(T)さらに、UV光を照射しながら、シリコン基板100から支持基板112を引き離すような外力を与えて、シリコン基板100と支持基板112を引き離す。
【0032】
(U)〜(V)次に、シリコン基板100から両面接着シート110を剥離する。
(W)さらに、アルゴンプラズマアッシングもしくは酸素プラズマ処理によって、シリコン基板100の第1ノズル孔5a及び第2ノズル孔5bの内壁に形成されていた余剰の撥インク層116を除去する。
(X)〜(Y)最後に、シリコン基板100から片面粘着テープ120を剥離して、ノズル基板1が完成する。
【0033】
以上の工程を経ることにより、シリコン基板100から、ノズル長さの制御性に優れ、高安定なインク吐出特性を有するインクジェットヘッド用のノズル基板が得られる。また、上記工程(Q)〜(T)に示したように、両面接着シート110にUV光等を照射し、自己剥離層110aでの気泡の発生成長による界面剥離を生じさせるとともに、併せてシリコン基板100と支持基板112とを引き離すための外力を加えることで、剥離層界面での再密着による剥離性低下に起因するウェハ割れ、クラックといった不良の発生を防ぎ、生産性向上と歩留まり向上が同時に実現できる。
【0034】
次に、上記(Q)〜(T)の工程を、基板剥離装置を使用して行う場合の例を説明する。図9は本発明の実施の形態に係る基板剥離装置を利用したノズル基板(この例ではノズル基板となるシリコン基板100)の剥離工程説明図である。まず、ここで使用する基板剥離装置について説明する。
【0035】
図9の基板剥離装置は、支持基板吸着板200、ノズル基板吸着板210、それらを支持する柱(一部表示)、該柱の少なくとも一方を直線往復運動させるための駆動制御機構(図示せず)を備えている。支持基板吸着板200とノズル基板吸着板210とは対向して配置されており、基板を真空吸着する溝乃至孔202,212がそれぞれ設けられていて、それらは独立した真空引き経路につながれている。
支持基板吸着板200は、内部にUV照射装置204を装備し、外周にノズル基板となるウェハを真空吸着するための溝202を備えた吸着部が形成されており、その溝202は支持基板吸着板200を支持する柱内部に集約されている。なお、この柱は、支持基板吸着板200とノズル基板吸着板210との距離を可変させる機構を備えているものとする。一方、ノズル基板吸着板210は、真空吸着するための孔212が表面に複数形成された吸着部を有しており、それらの孔212はすべてノズル基板吸着板210を支持する柱の内部に集約されている。
【0036】
以下、この装置を利用したノズル基板の剥離方法を図9に沿って説明する。
(A)まず、ノズル基板吸着板210へ、ノズル基板となるシリコン基板100が接する様にセットし、真空吸着させる。次に、支持基板吸着板200を支持基板112に接するまで降下させ、真空吸着させる。
(B)次に、支持基板吸着板200の内部に設置されたUV照射装置204により紫外線を支持基板112の全面に照射する。紫外線は透明の支持基板112を介して両面接着シート110に照射される。これにより、シリコン基板100と支持基板112との界面の両面接着テープ110の自己剥離層110a内にて分解ガスが生成され、接着界面に気泡122が発生成長し、その気泡圧力により互いの基板を引き離す力が働く。この際、紫外線の照射量は気泡の成長に合わせ任意に可変可能とする。そのために、ノズル基板となるシリコン基板100と支持基板112との接合体が吸着板200,210に吸着されている時に、両面接着シート110の自己剥離層110aでの気泡の成長状態をモニタするためのカメラと表示装置とを備えておくのが好ましい。
(C)気泡が一定の成長に達した時点で、支持基板吸着板200をノズル基板吸着板210から引き離す方向に徐々に移動させ、気泡成長に伴う気泡圧力を逃がすとともに、シリコン基板100と支持基板112とを接着界面にて剥離する。この際、支持基板吸着板200の移動速度は気泡の成長に合わせ、前述の駆動制御機構により任意に調整できるようにしておくのが好ましい。
【0037】
図10は、本発明の別の実施形態に係る基板剥離装置を利用したノズル基板の剥離工程説明図である。ここで使用する基板剥離装置は、基本的には図9に示した装置と同じである。図9の装置との相違点はノズル基板吸着板210Aにあり、ノズル基板を吸着する吸着部が表面の周囲のみに形成されていて、該吸着部の内側部214はその吸着部より凹んだ形状となっている点である。
【0038】
以下、この装置を利用したノズル基板の剥離方法を図10に沿って説明する。
(A)まず、ノズル基板吸着板210Aへ、ノズル基板となるシリコン基板100が接する様にセットし、真空吸着させる。次に、支持基板吸着板200を支持基板112に接するまで降下させ、真空吸着させる。
(B)次に、支持基板吸着板200の内部に設置されたUV照射装置204により紫外線を支持基板112の全面に照射する。紫外線は透明の支持基板112を介して両面接着シート110に照射される。これにより、シリコン基板100と支持基板112との界面の両面接着テープ110の自己剥離層110a内にて分解ガスが生成され、接着界面に気泡122が発生成長し、その気泡圧力により互いの基板を引き離す力が働く。そして、気泡の成長に伴い厚みの薄いシリコン基板100は気泡圧力を緩和する方向(内側部214の底部方向)に変形し(たわみ)ながら、徐々に支持基板112から離れる。
この際、紫外線の照射量は気泡の成長に合わせ任意に可変可能とする。そのために、ノズル基板となるシリコン基板100と支持基板112との接合体が吸着板200,210Aに吸着されている時に、両面接着シート110の自己剥離層110aでの気泡の成長状態をモニタするためのカメラと表示装置とを備えておくのが好ましい。
(C)気泡が一定の成長に達し、十分に基板100,112との間の距離が離れた時点で、支持基板吸着板200をノズル基板吸着板210Aから引き離す方向に徐々に移動させ、気泡成長に伴う気泡圧力を逃がすとともに、シリコン基板100と支持基板112とを接着界面にて剥離する。この際、支持基板吸着板200の移動速度は気泡の成長に合わせ、前述の駆動制御機構により任意に調整できるようにしておくのが好ましい。
【0039】
図9及び図10の基板剥離装置を用いた方法によれば、両面接着シート110へのUV光の照射と、シリコン基板100(ノズル基板と呼んでも同じ)を外的な力で支持基板112から引き離すのとを、同一の装置で行うことができ、ノズル基板の製造の簡素化がはかれる。しかも、ノズル基板となるシリコン基板100と支持基板112の剥離を、きわめて効率的かつ歩留まりよく行うことが可能となる。
【0040】
次に、上記のようにして作製されたノズル基板1を用いたインクジェットヘッドの製造方法を簡単に説明しておく。図11〜図13は図1、2に示したインクジェットヘッドの製造工程の一例を示す工程図であり、これに基づいて説明する。
(a)例えば、厚さ200μm程度の単結晶シリコン基板300を用意し、そのシリコン基板300の片側表面に、プラズマCVD等により厚さ0.1μm程度のTEOS絶縁膜302を成膜する。
(b)上記シリコン基板300と、ガラス基板に個別電極17やインク供給孔11c等が形成された電極基板4とを陽極接合する。
(c)電極基板4と接合されたシリコン基板300をグラインダーやポリッシャーなどによって研削して薄くし、さらにその表面の加工変質層をウェットエッチングにより除去して、シリコン基板300の厚さを30μm程度にする。
【0041】
(d)次に、薄板化されたシリコン基板300の表面に、エッチングマスクとなるTEOS膜306を、プラズマCVDによって厚さ約0.8μmに成膜する。
【0042】
(e)次に、TEOS膜306の表面にレジスト(図示せず)を形成し、フォトリソグラフィーによってレジストをパターニングして、TEOS膜306をエッチングすることにより、圧力室7、インク供給孔11b、ドライバIC収容用開口部22、FPC接続用開口部(図示せず)などとなる部分を開口する。
【0043】
(f)次に、上記所定部分が開口されたシリコン基板300を水酸化カリウム水溶液でエッチングすることにより、圧力室7、インク供給孔11b、ドライバIC収容用開口部22及びFPC接続用開口部を形成する。なお、シリコン基板300の所定深さ位置に、予めボロンをドープしたボロンドープ層等を形成しておき、それをエッチングストップ層として利用することが好ましい。こうすることで、エッチングがそのエッチングストップ層に来たとき、自然にエッチングの進行を停止させることができるからである。エッチングストップ層の利用により、圧力室7の一部を構成する振動板8の厚みを、高精度に維持した状態で形成できる。
【0044】
なお、上記のエッチング工程では、最初は、濃度35wt%の水酸化カリウム水溶液を用いて、次いで残りの例えば5μm程度を濃度3wt%の水酸化カリウム水溶液に切り替えてエッチングを行うのが良い。これにより、エッチングストップが十分に働き、面荒れの少ない振動板8を高精度の厚さに形成することができるからである。
【0045】
(g)次に、圧力室7などが形成されたシリコン基板300上にシリコンマスク308をセットし、RIE(Reactive Ion Etching)ドライエッチングにより、ドライバIC収容用開口部22を形成する。
【0046】
(h)次に、シリコンマスク308とは別のシリコンマスク310をシリコン基板300上にセットし、同じくRIEドライエッチングにより、共通電極16を形成するための開口部16aを形成する。
【0047】
(i)次に、シリコンマスク310を用いて、開口部16aに、例えば白金(Pt)をスパッタリングして共通電極16を形成する。
【0048】
(j)続いて、電極基板4の個別電極17とキャビティ基板3とにより形成されたギャップ19の開口端部を封止材23で封止する。
以上のようにして、個別電極17がパターン形成された電極基板4と、所定の形状を有したキャビティ基板3との積層体を作製することができる。
【0049】
(k)その後、予めノズル連通孔6、リザーバ10及び供給口9となる部分が形成されたリザーバ基板2を、上記のようにして作製された積層体のキャビティ基板3上に接着剤により接着する。このとき、リザーバ基板2とキャビティ基板3とは、TEOS膜306を介して接合される。
【0050】
(l)ついで、ドライバIC15をキャビティ基板3のドライバIC収容用開口部22から電極基板4に実装する。そして電極基板4の個別電極17及びリード部(図示せず)に接続し、さらにFPC(図示せず)のIC入力配線をリード部の端部(FPC実装部)に、またそのFPCのCOM配線を共通電極16に、導電性接着剤を用いて接続する。
【0051】
(m)最後に、予めノズル孔5が形成されたノズル基板1をリザーバ基板2上に接着剤により接着する。そして、ダイシングにより個々のヘッドに分離すれば、図1、2に示したインクジェットヘッドが完成する。
【0052】
以上のようにして製造されたインクジェットヘッドは、前述したように、ノズル基板の生産性向上と歩留まり向上のため、同様の生産性向上と歩留まり向上が実現される。また、ノズル孔5が高精度に形成できるので、安定した吐出特性を有する液滴吐出ヘッドが実現される。
【0053】
なお、実施の形態1では液滴吐出ヘッドの一例としてのインクジェットヘッドについて説明したが、液滴吐出ヘッドはインクジェットヘッドに限定されるものではなく、液滴を種々変更することによって、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、生体液体の吐出等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェットヘッドの分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドの部分縦断面図。
【図3】図1のインクジェットヘッドを構成するノズル基板の製造工程図。
【図4】図3の続きを示す製造工程図。
【図5】図4の続きを示す製造工程図。
【図6】図5の続きを示す製造工程図。
【図7】図6の続きを示す製造工程図。
【図8】図7の続きを示す製造工程図。
【図9】本発明の実施の形態に係る基板剥離装置を利用したノズル基板の剥離工程説明図。
【図10】本発明の実施の形態に係る別の基板剥離装置を利用したノズル基板の剥離工程説明図。
【図11】図1のインクジェットヘッドの製造工程図。
【図12】図11の続きを示す製造工程図。
【図13】図12の続きを示す製造工程図。
【符号の説明】
【0055】
1 ノズル基板、2 リザーバ基板、3 キャビティ基板、4 電極基板、5 ノズル孔、5a 第1ノズル孔、5b 第2ノズル孔、7 圧力室、8 振動板、9 供給口、10 リザーバ、11,11a,11b,11c インク供給孔、12 ガラス溝、15 ドライバIC、16 共通電極、17 個別電極、19 ギャップ、23 封止材、100 シリコン基板、108 熱酸化膜、110 両面接着シート、110a 自己剥離層、112 支持基板、114 SiO2 膜、116 撥インク層、120 片面粘着テープ、122 気泡、200 支持基板吸着板、202 真空吸着用の溝、204 UV照射装置、210,210A ノズル基板吸着板、212 真空吸着用の孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が小径で後端が大径のノズル孔をノズル基板の片面から途中までエッチングし、前記ノズル孔後端を前記ノズル基板の前記片面に開口させる工程と、
前記ノズル基板の前記ノズル孔後端側の面に、自己剥離層を有した両面接着シートを介して支持基板を貼り合せる工程と、
前記ノズル基板の前記ノズル孔先端側の面を薄板化して前記ノズル孔先端側を開口させる工程と、
前記両面接着シートに光または熱を照射し、前記両面接着シートの自己剥離層での気泡の成長による界面剥離を発生させながら、前記ノズル基板を外的な力で前記支持基板から引き離す工程と、
を備えたことを特徴とするノズル基板の製造方法。
【請求項2】
前記両面接着シートへの光または熱の照射と前記ノズル基板を外的な力で引き離すのとを同一の装置で行うことを特徴とする請求項1記載のノズル基板の製造方法。
【請求項3】
前記ノズル基板を前記支持基板から引き離す際に、前記両面接着シートの自己剥離層での気泡の成長状態を観察し、その成長状態に応じて前記光または熱の照射量若しくは前記外的な力を調整することを特徴とする請求項1または2記載のノズル基板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のノズル基板の製造方法を適用して液滴吐出ヘッドを製造することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項5】
ノズル基板を吸着するノズル基板吸着板と、UV照射部を備え前記ノズル基板を支持する支持基板を吸着する支持基板吸着板とが対向配置され、前記ノズル基板吸着板と前記支持基板吸着板の少なくとも一方が、互いの対向面と直交する方向に移動可能となっていることを特徴とする基板剥離装置。
【請求項6】
前記ノズル基板吸着板は、前記ノズル基板を吸着する吸着部が周囲に形成されており、前記吸着部の内側部分は前記吸着部より凹んだ形状となっていることを特徴とする請求項5記載の基板剥離装置。
【請求項7】
前記ノズル基板吸着板と前記支持基板吸着板との間に置かれた前記ノズル基板と前記支持基板との接合体の接合面にある両面接着シートの自己剥離層での気泡の成長状態をモニタするカメラと表示装置とを備えていることを特徴とする請求項5または6記載の基板剥離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−6501(P2009−6501A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167712(P2007−167712)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】