説明

ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物ならびにノルボルネン系樹脂用弾性接着剤およびその使用方法

【課題】本発明は、ノルボルネン系樹脂成形物に対して優れた接着性を有し、成形物の製造後すぐに接着可能なノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物を提供する。
【解決手段】ジフェニルメタンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマー(A)と、ジフェニルメタンジイソシアネートより活性水素との反応性が低いイソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマー(B)とを含有する、ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物ならびにノルボルネン系樹脂用弾性接着剤およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ジシクロペンタジエンに代表される多環ノルボルネン系モノマーを用いた反応射出成形(Reaction Injection Molding)(以下「RIM」ともいう)により、ノルボルネン系樹脂成形物を製造する技術が開発されている。RIMで得られるノルボルネン系樹脂成形物は、吸水性が小さく、寸法安定性に優れているうえ、軽量性、耐熱性に優れている。そのため、例えば、自動車のハウジングやボディー、浄化槽、液体用の容器(コンテナ)等の大型の成形品を製造するのに適している。一般的に、このような大型の成形品の場合、例えば、浄化槽を例にすると、上部と下部に分割してそれぞれをRIMにより成形し、これらを接着剤組成物を用いて接着し、一体化する方法が採られている。
このようなノルボルネン系樹脂成形物に用いられる接着剤組成物には、外部応力による成形品の変形に対して追随できることから、ウレタン系接着剤組成物が用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、ノルボルネン系樹脂は極性が低く、接着に関与し得る活性点が少ないため、ノルボルネン系樹脂成形物同士またはこれと他の被着体とを接着剤を用いて接着する際に、十分な接着性を得ることが困難だった。
そのため、ノルボルネン系樹脂成形物に対する接着性を改善する目的で、成形物に接着剤を塗布する前に、モノイソシアネート化合物を原料とした高いNCO%を有するアダクト体または変性体を含有するプライマーを塗布する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開平7−266434号公報
【特許文献2】特開2003−155456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したように接着剤組成物の塗布前にプライマー組成物を塗布した場合でも十分な接着性は得られなかった。そこで、一般的には、ノルボルネン系樹脂成形物を成形後数日間放置して、ノルボルネン系樹脂成形物の表面を酸化させて接着し易い状態にした後接着が行われているが、成形品の製造に長時間要する一因となっていた。
【0006】
したがって、本発明は、ノルボルネン系樹脂成形物に対して優れた接着性を有し、成形物の製造後すぐに接着可能な1液型ウレタン接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、ジフェニルメタンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマーと、ジフェニルメタンジイソシアネートより活性水素との反応性が低いイソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマーとを含有する場合、ノルボルネン系樹脂成形物に対して優れた接着性を有する1液型ウレタン接着剤組成物となることを知見し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記(1)〜(6)を提供する。
(1)ジフェニルメタンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマー(A)と、
ジフェニルメタンジイソシアネートより活性水素との反応性が低いイソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマー(B)と
を含有する、ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物。
(2)前記イソシアネート基含有化合物が、トリレンジイソシアネートまたはヘキサメチレンジイソシアネートである上記(1)に記載のノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物。
(3)ジシクロペンタジエン樹脂用である上記(1)または(2)に記載のノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物と、
イソシアネート成分と、溶剤とを含有するプライマー組成物と
を備えるノルボルネン系樹脂用弾性接着剤。
(5)前記イソシアネート成分が、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートである上記(4)に記載のノルボルネン系樹脂用弾性接着剤。
(6)上記(4)または(5)に記載のノルボルネン系樹脂用弾性接着剤の使用方法であって、ノルボルネン系樹脂成形物の表面に、前記プライマー組成物を塗布するプライマー組成物塗布工程と、前記プライマー組成物塗布工程でプライマー組成物が塗布された面に、前記ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物を塗布する接着剤塗布工程とを備える、ノルボルネン系樹脂用弾性接着剤の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物は、ノルボルネン系樹脂成形物に対して優れた接着性を有する。そのため、成形物の製造後数日間放置しなくても接着することができ、成形品の製造に要する期間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明をより詳細に説明する。
<ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物>
本発明のノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)は、ジフェニルメタンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマー(A)と、ジフェニルメタンジイソシアネートより活性水素との反応性が低いイソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマー(B)とを含有する、ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物である。
【0011】
本発明の組成物に用いられるウレタンプレポリマー(A)は、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)と、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマーである。
【0012】
上記ポリオール化合物は、炭化水素の複数個の水素をヒドロキシ基で置換したアルコール類である。例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキサイドの少なくとも1種を、分子中に活性水素を2個以上有する活性水素含有化合物に付加重合させた生成物が挙げられる。
【0013】
分子中に活性水素を2個以上有する活性水素含有化合物としては、例えば、多価アルコール類、アミン類、アルカノールアミン類、多価フェノール類が挙げられる。
具体的には、多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
アミン類としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
アルカノールアミン類としては、例えば、エタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられる。
多価フェノール類としては、例えば、レゾルシン、ビスフェノール類等が挙げられる。
【0014】
ポリオール化合物としては、具体的には、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシブチレングリコール等のポリエーテル系ポリオール;ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール等のポリオレフィン系ポリオール;アジペート系ポリオール;ラクトン系ポリオール;ヒマシ油等のポリエステル系ポリオールが好適に挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
ポリオール化合物は、平均分子量が1000〜10000程度であるのが好ましく、2000〜5000程度であるのがより好ましい。
【0016】
上記ウレタンプレポリマー(A)の製造時におけるポリオール化合物とMDIとを混合する割合は、ポリオール化合物のヒドロキシ基の数に対するMDIのイソシアネート基の数の比(NCO/OH)が、1.0以上であるのが好ましく、1.5〜2.5がより好ましい。
【0017】
本発明の組成物に用いられるウレタンプレポリマー(A)の製造は、通常のウレタンプレポリマーと同様に、所定量比の両化合物を混合し、通常、常圧下、60〜100℃で、加熱撹拌することによって行うことができる。
【0018】
本発明の組成物に用いられるウレタンプレポリマー(B)は、MDIより活性水素との反応性が低いイソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマーである。
【0019】
上記ウレタンプレポリマー(B)に用いられるイソシアネート基含有化合物は、MDIの活性水素(特に−OH)との反応性よりも、活性水素との反応性が低いものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHMDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、ノルボルナン骨格を有するジイソシアネート(NBDI)、および、これらの変成品等が挙げられる。
これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
これらのイソシアネート基含有化合物の中でも、2,4−TDIが好ましい。2,4−TDIの2位のイソシアネート基はメチル基の立体障害で非常に反応性が低く、逆に、4位のイソシアネート基は立体障害がなく、ベンゼン環に直接結合しているため反応性が非常に高くなっている。そのため、2,4−TDIの4位のイソシアネート基がポリオール化合物のヒドロキシ基と優先的に反応し、分子量分布の狭いウレタンプレポリマー(B)を速やかに生成できる。更に、得られたウレタンプレポリマー(B)は、主に、反応性の非常に低い2位のイソシアネート基を末端に有するので、プライマー組成物と被着体との接着を阻害し難い。
【0021】
上記ウレタンプレポリマー(B)に用いられるポリオール化合物は、ウレタンプレポリマー(A)に用いられるポリオール化合物と同様である。
また、上記ウレタンプレポリマー(B)の製造方法は、ウレタンプレポリマー(A)の製造方法と同様である。
【0022】
本発明の組成物において、上記ウレタンプレポリマー(A)と上記ウレタンプレポリマー(B)との質量比は、10/1〜1/10が好ましく、1/2〜2/1がより好ましい。この範囲であると、得られる組成物はノルボルネン系樹脂成形物に対して優れた接着性を有する。
【0023】
ところで、ノルボルネン系樹脂は、その表面に有する接着に寄与し得る極性基や活性水素が少なく、プライマーとの接着発現速度が遅い。そのため、比較的反応性の高いMDIプレポリマーのみを含有する接着剤組成物は、プライマーの接着に有効なイソシアネート成分と反応し、被着体(ノルボルネン系樹脂)と反応するプライマーのイソシアネート成分までもが接着剤組成物との反応に使われるので、被着体とプライマーとの接着性が低下する。
一方、TDIプレポリマーやHDIプレポリマー等の反応性の低いウレタンプレポリマーのみを含有する接着剤組成物は、上述したプライマーと被着体との接着を阻害しにくいが、それ自体の硬化が非常に遅く、また、発泡を生じやすくなる。
本発明の組成物は、MDIプレポリマーと、反応性の低いウレタンプレポリマーとを併用することで、接着剤組成物の硬化性およびプライマーの接着性能を両立でき、ノルボルネン系樹脂成形物に対して優れた接着性を有する。
【0024】
本発明の組成物は、更に、硬化触媒を含有することができる。
上記硬化触媒は、特に限定されないが、具体的には、例えば、ジメチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズマレエート、ジブチルスズジアセテート、オクチル酸スズ、ナフテン酸スズ等のスズカルボン酸塩類、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル類、アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等の有機アルミニウム化合物類、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等のキレート化合物類、オクタン酸鉛、オクタン酸ビスマス等のオクタン酸金属塩等の金属触媒が挙げられる。
【0025】
このほかに、ブチルアミン、オクチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン等のモノアミン類、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルプロパン−1,3−ジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン等のジアミン類、N,N,N′,N″,N″−ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N′,N″,N″−ペンタメチルジプロピレントリアミン等のトリアミン類、N−メチルモルホリン、N,N′−ジメチルピペラジン、N−メチル−N′−(2−ジメチルアミノ)−エチルピペラジン等の環状アミン類、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノエトキシエタノール、N,N,N′−トリメチルアミノエチルエタノールアミン等のアルコールアミン類、ビス(2−ジメチルアミノエチル)エーテル、エチレングリコールビス(3−ジメチル)アミノプロピルエーテル等のエーテルアミン類等のアミン系触媒、またはこれらの塩化合物も挙げられる。
【0026】
このような硬化触媒の中でも、骨格にスズを含有する金属触媒が少量で硬化性に優れる点から好ましい。
硬化触媒の含有量は、上記ウレタンプレポリマー(A)および(B)の合計100質量部に対して1質量部以下が好ましい。
【0027】
本発明の組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲で、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、溶剤、界面活性剤(レベリング剤を含む)、分散剤、脱水剤、接着付与剤、帯電防止剤等の各種添加剤等を含有することができる。
【0028】
充填剤としては、各種形状の有機または無機の充填剤が挙げられる。具体的には、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ;ケイソウ土;酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛;ろう石クレー、カオリンクレー、焼成クレー;カーボンブラック;これらの脂肪酸処理物、樹脂酸処理物、ウレタン化合物処理物、脂肪酸エステル処理物が挙げられる。
【0029】
反応遅延剤としては、具体的には、例えば、アルコール系等の化合物が挙げられる。
【0030】
老化防止剤としては、具体的には、例えば、ヒンダードフェノール系等の化合物が挙げられる。
酸化防止剤としては、具体的には、例えば、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等が挙げられる。
【0031】
顔料としては、具体的には、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、群青、ベンガラ、リトポン、鉛、カドミウム、鉄、コバルト、アルミニウム、塩酸塩、硫酸塩等の無機顔料;アゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、ジケトピロロピロール顔料、キノナフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、イソインドリン顔料、カーボンブラック等の有機顔料等が挙げられる。
【0032】
可塑剤としては、具体的には、例えば、ジオクチルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP);アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチル;リン酸トリクレジル、リン酸トリオクチル;アジピン酸プロピレングリコールポリエステル、アジピン酸ブチレングリコールポリエステル等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
揺変性付与剤としては、具体的には、例えば、エアロジル(日本エアロジル(株)製)、ディスパロン(楠本化成(株)製)等が挙げられる。
接着付与剤としては、具体的には、例えば、テルペン樹脂、フェノール樹脂、テルペン−フェノール樹脂、ロジン樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。
【0034】
難燃剤としては、具体的には、例えば、クロロアルキルホスフェート、ジメチル・メチルホスホネート、臭素・リン化合物、アンモニウムポリホスフェート、ネオペンチルブロマイド−ポリエーテル、臭素化ポリエーテル等が挙げられる。
帯電防止剤としては、一般的に、第四級アンモニウム塩;ポリグリコール、エチレンオキサイド誘導体等の親水性化合物等が挙げられる。
【0035】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、反応容器に上記の各必須成分と任意成分とを入れ、減圧下で混合ミキサー等のかくはん機を用いて十分に混練する方法を用いることができる。
また、本発明の組成物の製造方法としては、MDIより活性水素との反応性が低いイソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物とを反応させてウレタンプレポリマー(B)を得る、ウレタンプレポリマー(B)製造工程(第一反応)と、上記ウレタンプレポリマー(B)製造工程で得られたウレタンプレポリマー(B)に、MDIを加えて分散させた後、ポリオール化合物を加えてウレタンプレポリマー(A)を得る、ウレタンプレポリマー(A)製造工程(第二反応)とを備える方法が好ましい。この製造方法であれば、ウレタンプレポリマー(A)と(B)とを混合する手間が省け、1つの反応容器内で効率よく本発明の組成物を製造することができる。
【0036】
本発明の組成物は、上述したように、接着剤組成物中にイソシアネート成分として比較的反応性の高いMDIと、MDIより反応性の低いイソシアネート基含有化合物とを含有するので、プライマー組成物の接着剤組成物に対する反応速度と被着体に対する反応速度のバランスが保たれる。また、接着剤組成物自体の硬化性も保持でき、発泡を抑制できる。その結果、ノルボルネン系樹脂成形物に対して優れた接着性を有すると考えられる。したがって、本発明の組成物は、ノルボルネン系樹脂成形物の製造後すぐに接着することができる。また、本発明の組成物は、湿気により硬化する1液型であるので主剤と硬化剤を混合する手間がないため作業性に優れる。
【0037】
本発明の組成物は、上述したような特性を有することから、ノルボルネン系樹脂用の接着剤組成物(シーリング材組成物)として用いられ、プライマー組成物と共に使用される形態のノルボルネン系樹脂用弾性接着剤に好適に用いられる。被着体としては、ノルボルネン系樹脂の中でも、ジシクロペンタジエン樹脂が好ましい。
【0038】
<ノルボルネン系樹脂用弾性接着剤>
本発明のノルボルネン系樹脂用弾性接着剤(以下、「本発明の弾性接着剤」ともいう。)は、上述した本発明の組成物と、イソシアネート成分と、溶剤とを含有するプライマー組成物とを備えるものである。
【0039】
本発明の弾性接着剤に用いられるプライマー組成物は、イソシアネート成分と、溶剤とを含有するプライマー組成物である。
上記イソシアネート成分は、少なくとも2つのイソシアネート基を末端に有する化合物であれば特に限定されないが、具体的には、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、水添(水素添加)MDI、水添TDI、水添XDI、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、芳香族脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートが、ノルボルネン系樹脂に対する接着性に優れるという点から好ましい。特に、このトリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートをプライマー全質量に対し6〜24質量%含有するのが好ましく、10〜20質量%含有するのがより好ましい。この範囲であると、粘度が高くなり過ぎず、貯蔵安定性に優れる。
【0040】
上記プライマー組成物に用いられる溶剤としては、上記イソシアネート成分に対して不活性であれば特に限定されず、従来公知の各種の溶剤を用いることができる。
具体的には、ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類等が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、上記溶剤は、充分に乾燥または脱水してから用いることが好ましい。これらのうち、メチルエチルケトンや酢酸エチルが沸点が低く乾きが速い等の理由から好ましい。
【0041】
上記溶剤の含有量は、特に限定されず、イソシアネート成分の種類等によって適宜決定されるが、イソシアネート成分100質量部に対して500〜1000質量部程度が好ましい。
【0042】
上記プライマー組成物は、更に、リン酸塩を含有するのが好ましい態様の一つである。
リン酸塩としては、特に限定されないが、具体的には、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、トリポリリン酸二水素アルミニウム等が好適に例示される。特に、トリポリリン酸二水素アルミニウムが好適に使用される。
【0043】
このようなリン酸塩は各種の処理を施されていてもよい。特に、Siおよび/またはZnによって表面処理を施されたリン酸塩、特にSiおよび/またはZnによって表面処理を施されたトリポリリン酸二水素アルミニウムは、極めて優れた接着性を確保することができ、より好ましい結果を得ることができる。また、リン酸塩は脱水処理を施されたものであるのが好ましい。
【0044】
上記リン酸塩の含有量は、上記イソシアネート成分100質量部に対して5〜100質量部程度が好ましい。この範囲であれば、リン酸塩を添加することの効果が十分に得られ、かつ、リン酸塩を十分に分散することができ、良好な接着性を得ることができる。これらの特性により優れることから、30〜60質量部程度がより好ましい。
【0045】
上記プライマー組成物は、更に、カーボンブラックを含有するのが好ましい態様の一つである。
カーボンブラックの含有量は、5〜30質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。この範囲であると、貯蔵安定性やプライマー塗膜の柔軟性に優れる。
【0046】
上記プライマー組成物は、必要に応じて、硬化触媒を含有することができる。
触媒としては、具体的には、例えば、トリエチレンジアミン、ペンタメチレンジエチレントリアミン、モルフォリン系アミン、トリエチルアミン等のアミン系触媒、ジラウリル酸−ジ−n−オクチルスズ、ジラウリル酸ジブチルスズ、スタナスオクトエート等のスズ系触媒等が挙げられる。
硬化触媒の添加量は、特に限定されないが、通常、イソシアネート成分100質量部に対して0.1〜1質量部程度である。
【0047】
上記プライマー組成物の好ましい態様の一つは、特開2003−155456号公報に記載されたプライマー組成物である。具体的には、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート6〜24質量%と、カーボンブラック5〜30質量%と、溶剤とを含有するプライマー組成物である。
上記プライマー組成物は、ノルボルネン系樹脂に対する接着性に優れる。
【0048】
上記プライマー組成物を製造する方法は、特に限定されないが、例えば、上述した各成分を、ロール、ニーダー、押出し機、万能攪拌機等により混合する方法が挙げられる。
【0049】
上記プライマー組成物として、例えば、浄化槽用プライマーM(RC−50E)−J、浄化槽用プライマーM(RC−50KE)−J、浄化槽用プライマーNo.65E(いずれも、横浜ゴム(株)製)等の市販品を用いてもよい。
【0050】
本発明の弾性接着剤は、ノルボルネン系樹脂成形物に対して優れた接着性を有する。そのため、成形物の製造後数日間放置しなくても接着することができ、成形品の製造に要する期間を短縮することができる。
【0051】
本発明のノルボルネン系樹脂用弾性接着剤の使用方法(以下、「本発明の使用方法」という。)は、ノルボルネン系樹脂成形物の表面に、上記プライマー組成物を塗布するプライマー組成物塗布工程と、上記プライマー組成物塗布工程でプライマー組成物が塗布された面に、上記ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物を塗布する接着剤塗布工程とを備える。
【0052】
上記プライマー組成物塗布工程は、ノルボルネン系樹脂成形物の表面に、上述した本発明の弾性接着剤に用いられるプライマー組成物を塗布する工程である。
上記プライマー組成物は通常採用されている塗布方法、例えば、ハケ塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法等を用いて塗布できる。
【0053】
更に、上記プライマー組成物塗布工程の後、プライマー組成物を乾燥させる乾燥工程を備えるのが好ましい。乾燥方法は、特に限定されないが、通常、室温で5〜60分程度放置することにより溶剤が揮発して乾燥される。
【0054】
上記接着剤塗布工程は、上記プライマー組成物塗布工程でプライマー組成物が塗布された面に、上述した本発明の組成物を塗布する工程である。
接着剤組成物は通常採用されている塗布方法、例えば、ハケ塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法等を用いて塗布できる。
【0055】
上記接着剤塗布工程の後、ノルボルネン系樹脂成形物のプライマー塗布面上に塗布された接着剤組成物を他の被着体と接触させて硬化させ、ノルボルネン系樹脂成形物と他の被着体とを接着する。接着剤組成物を硬化させる際、必要に応じて加熱してもよい。
上記ノルボルネン系樹脂成形物と接着させる相手方の被着体は、特に限定されないが、樹脂、ガラス、金属等が挙げられ、これらの被着体にも予めプライマー組成物を塗布しておくのが好ましい。特に、ノルボルネン系樹脂成形物の場合は、上述したプライマー組成物を塗布するのが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を示して、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
<ウレタンプレポリマーの合成>
(MDIプレポリマー)
3官能ポリプロピレングリコール(エクセノール5030、数平均分子量約5000、旭硝子(株)製)と、2官能ポリプロピレングリコール(エクセノール2020、数平均分子量約2000、旭硝子(株)製)とを、モル比(3官能PPG/2官能PPG)=2.0となるように混合し、100〜110℃で約1時間真空撹拌して脱水した。次に、60℃まで冷却し、予め加熱して溶解させたMDI(住友バイエルウレタン(株)製)をこのイソシアネート基と上記ポリオールのヒドロキシ基とのモル比(NCO/OH)が2.0となるように投入した。その後、80〜90℃で12〜24時間撹拌し、NCO含有量を測定して反応が完了したことを確認した後、撹拌を終了し、MDIプレポリマー(NCO%=2.4)を得た。
【0057】
(TDIプレポリマー)
MDIを2,4−TDI(住友バイエルウレタン(株)製)に変えた以外は、上述したMDIプレポリマーの合成方法と同様に行い、TDIプレポリマー(NCO%=2.5)を得た。
【0058】
(HDIプレポリマー)
MDIをHDI(住友バイエルウレタン(株)製)に変えた以外は、上述したMDIプレポリマーの合成方法と同様に行い、HDIプレポリマー(NCO%=2.5)を得た。
【0059】
(MDI/TDIプレポリマー)
(1)ポリオール化合物の準備
3官能ポリプロピレングリコール(エクセノール5030、数平均分子量約5000、旭硝子(株)製)と、2官能ポリプロピレングリコール(エクセノール2020、数平均分子量約2000、旭硝子(株)製)とを、モル比(3官能PPG/2官能PPG)=2.0となるように混合し、100〜110℃で約1時間真空撹拌して脱水した。
【0060】
(2)第一反応
次に、60℃まで冷却し、予め加熱して溶解させた2,4−TDI(住友バイエルウレタン(株)製)をこのイソシアネート基と上記ポリオールのヒドロキシ基とのモル比(NCO/OH)が2.0となるように投入した。その後、80〜90℃で12〜24時間撹拌して反応させ、TDIプレポリマー(NCO%=2.5)を得た。
【0061】
(3)第二反応
次に、上記第一反応で得られたTDIプレポリマーに、予め加熱して溶解させたMDI(住友バイエルウレタン(株)製)を投入し、均一に分散させた。その後、上記と同様に準備したポリオール化合物(エクセノール5030/エクセノール2020=2.0)をMDIのイソシアネート基と上記ポリオールのヒドロキシ基とのモル比(NCO/OH)が2.0となるように投入し、80〜90℃で12〜24時間撹拌して反応させ、MDI/TDIプレポリマー(最終NCO%=2.4)を得た。なお、第二反応におけるMDIおよびポリオール化合物の添加量は、第一反応で合成されるTDIプレポリマーと、第二反応で合成されるMDIプレポリマーとの質量比が1/1となる量とした。
【0062】
<実施例1〜3および比較例1〜3>
下記第1表の各成分を、第1表に示す組成(質量部)で、撹拌機を用いて混合し、第1表に示される各接着剤組成物を得た。
得られた各接着剤組成物について、下記の方法により接着性および発泡性を評価した。結果を第1表に示す。
【0063】
<接着性>
図1は、剪断接着試験に用いられる試験体の概略図である。
成形後1日経過した浄化槽用ジシクロペンタジエンRIM成形品(ペンタム、日本ゼオン(株)製)から100mm(長さ)×25mm(幅)×5mm(厚さ)の板状の部材1を切り出した。この部材1にイソシアネート系プライマー組成物(トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートと酢酸エチルとを含有するプライマー組成物、商品名:M(RC−50E)−J、横浜ゴム(株)製)を塗布して、約5〜10分のオープンタイムを取り、プライマー組成物を乾燥させた。これを2枚用意した。
【0064】
次に、上記部材1のプライマー塗布面の上に、得られた各接着剤組成物を接着面積が25mm×25mmとなるように塗布し、厚さ1mmのスペーサ3を介して、他の部材1のプライマー組成物塗布面と接着剤5が厚さ約1mmとなるように接触させて、20℃、60%RHで7日間養生し、試験体を作製した。
【0065】
作製した試験体を用いて、引張り速度5.0mm/分で剪断接着強度を測定した。
また、破壊状態を目視で観察し、接着剤が凝集破壊しているものを「CF」、被着体−プライマー組成物間で界面剥離しているものを「AF」、接着剤の一部が未硬化で一部が凝集破壊しているものを「未硬化・CF」とした。
【0066】
<発泡性>
剪断接着試験に用いた試験体の接着剤について発泡状態を目視で観察した。ボイドの無かったものを「○」、ボイドがあったものを「×」とした。
【0067】
【表1】

【0068】
第1表に示す各成分は、下記のとおりである。
・可塑剤:ジオクチルフタレート
・カーボンブラック:アサヒサーマルカーボン、旭カーボン社製
・炭酸カルシウム:スーパー#1500、丸尾カルシウム社製
・硬化触媒:ジブチルスズラウレート
【0069】
第1表に示す結果から明らかなように、実施例1〜3の接着剤組成物は、比較例1〜3の接着剤組成物に比べて、極めて優れた接着性を有しており、発泡も生じなかった。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、剪断接着試験に用いられる試験体の概略図である。
【符号の説明】
【0071】
1 部材
3 スペーサ
5 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジフェニルメタンジイソシアネートと、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマー(A)と、
ジフェニルメタンジイソシアネートより活性水素との反応性が低いイソシアネート基含有化合物と、ポリオール化合物とを反応させてなるウレタンプレポリマー(B)と
を含有する、ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物。
【請求項2】
前記イソシアネート基含有化合物が、トリレンジイソシアネートまたはヘキサメチレンジイソシアネートである請求項1に記載のノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物。
【請求項3】
ジシクロペンタジエン樹脂用である請求項1または2に記載のノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物と、
イソシアネート成分と、溶剤とを含有するプライマー組成物と
を備えるノルボルネン系樹脂用弾性接着剤。
【請求項5】
前記イソシアネート成分が、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェートである請求項4に記載のノルボルネン系樹脂用弾性接着剤。
【請求項6】
請求項4または5に記載のノルボルネン系樹脂用弾性接着剤の使用方法であって、ノルボルネン系樹脂成形物の表面に、前記プライマー組成物を塗布するプライマー組成物塗布工程と、前記プライマー組成物塗布工程でプライマー組成物が塗布された面に、前記ノルボルネン系樹脂用1液型ウレタン接着剤組成物を塗布する接着剤塗布工程とを備える、ノルボルネン系樹脂用弾性接着剤の使用方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−23099(P2007−23099A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204391(P2005−204391)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】