説明

ノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法およびこれにより得られるノルボルネン系透明樹脂シート

【課題】 本発明は、光学材料用途に有用な厚みが300〜2000μmのノルボルネン系透明樹脂シートの加工用法およびノルボルネン系透明樹脂シートを提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明者は、上記従来技術に鑑みて鋭意研究したところ、波長が20μm以下であり、レーザー発振媒質が二酸化炭素であるレーザー照射により加工することにより、厚みが300〜2000μmのノルボルネン系透明樹脂シートを加工後の外観が良好で、加工面に発泡による変形等がなく加工することができる方法を見出し、本発明を完成するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料用途に有用なノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法、及びこれにより得られるノルボルネン系透明樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置などに代表される光学部材の製造に、透明性、光学特性の観点からノルボルネン系透明樹脂を使用した透明樹脂シートが好ましく用いられる。このような透明樹脂シートを加工するには、打ち抜き装置で型抜きする方法、鋸などで切削する方法などが知られている。しかし、厚さ300〜2000μmと言った肉厚で耐熱性が高いシート状の熱可塑性のノルボルネン系樹脂を切断面に発泡やクラックなどを発生させずに、外観良好に切削する有効な方法は知られていなかった(特許文献1)。また、光学部材として種々の機能を付与する目的で、透明樹脂シートの表面に特定の形状を付与する方法としては転写法や射出成形、または透明樹脂シートの表面に熱/光硬化性組成物により任意の形状を有する層を形成するなどの方法が知られている。液晶表示装置やその他の光学機器の高機能化や高性能化に伴い、透明樹脂シートの表面形状の微細化、複雑化が求められている。しかし、その様な微細な表面形状を精確に工業的生産性に耐えうるレベルで形成するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−086675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、光学材料用途に有用な厚みが300〜2000μmのノルボルネン系透明樹脂シートの加工用法およびノルボルネン系透明樹脂シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記従来技術に鑑みて鋭意研究したところ、波長が20μm以下であり、レーザー発振媒質が二酸化炭素であるレーザー照射により加工することにより、厚みが300〜2000μmの特定の構造単位を有するノルボルネン系透明樹脂シートを加工後の外観が良好で、加工面に発泡による変形等がなく加工することができる方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法は、厚みが300〜2000μmのノルボルネン系透明樹脂シートを、波長が20μm以下であり、レーザー発振媒質が二酸化炭素であるレーザー照射により加工することを特徴としている。
本発明のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法の第一の態様は、ノルボルネン系透明樹脂シートを切断する方法である。
本発明のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法の第二の態様は、ノルボルネン系透明樹脂シートの表面に微細加工を形成する方法である。
本発明のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法で使用するレーザーの出力は、10W以上、2kW以下であることが好ましい。
本発明の前記微細加工の加工深さは5〜50μmの範囲である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の加工方法によれば、光学材料用途に有用な厚みが300〜2000μmの特定の構造単位を有するノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法およびノルボルネン系透明樹脂シートを提供することができる。本発明のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法によれば、発泡のない切削外観の良好な、かつ切削寸法安定性に優れた樹脂シートを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例の1形態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0009】
ノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法
本発明は、厚みが300〜2000μmの特定の構造単位を有するノルボルネン系透明樹脂シートを波長が20μm以下であり、レーザー発振媒質が二酸化炭素であるレーザー照射により切削加工、表面微細加工する方法を提供する。
【0010】
<ノルボルネン系透明樹脂>
本発明の加工方法に用いられるノルボルネン系透明樹脂シートのノルボルネン系透明樹脂としては、下記式(1)で表わされる少なくとも一種の環状オレフィン系化合物(1)と、下記式(2)で表わされる少なくとも一種の環状オレフィン系化合物(2)とを開環重合して得られるノルボルネン系開環(共)重合体または該重合体を水素添加して得られる水素化(共)重合体であることが好ましい。
【0011】
【化1】

[式(1)中、nは0〜3の整数であり、A1〜A4は、それぞれ独立に下記(i)〜(iv)のいずれかを表す。
(i)水素原子、
(ii)ハロゲン原子、
(iii)アルコキシ基、水酸基、エステル基、シアノ基、アミノ基およびチオール基よりなる群から選ばれた極性基、
(iv)ハロゲン原子または前記極性基(iii)により置換されていてもよい、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、または芳香族炭化水素基。]
また本発明で用いる環状オレフィン系モノマーは、下記式(2)で表わされる少なくとも一種のノルボルネン系化合物(2)をさらに含んでもよい。環状オレフィン系モノマーがノルボルネン系化合物(2)を適切な量で含むことにより、得られる共重合体のガラス転移温度(Tg)を容易に調節することができる。
【0012】
【化2】

[式(2)中、B1〜B4は、それぞれ独立に、下記(i)〜(iii)のいずれかを表すか、(iv)あるいは(v)を表す。
(i)水素原子、
(ii)ハロゲン原子、
(iii)ハロゲン原子により置換されていてもよい、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、または芳香族炭化水素基、
(iv)B1とB2、またはB3とB4が、相互に結合してアルキリデン基を形成し、前記結合に関与しないB1〜Bは相互に独立に前記(i)〜(iii)より選ばれるものを表す、
(v)B1とB3、B1とB4、B2とB3、またはB2とB4が、相互に結合して、それぞれが結合する炭素原子とともに環状構造を形成し、前記結合に関与しないB1〜Bは相互に独立に前記(i)〜(iii)より選ばれるものを表す。]
上記環状オレフィン系化合物(1)および環状オレフィン系化合物(2)において、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が挙げられる。
【0013】
上記環状オレフィン系化合物(1)において、A〜Aの少なくとも1つは(iii)であることが好ましい。極性基としては、アルコキシ基、水酸基、エステル基、シアノ基、アミノ基およびチオール基が挙げられる。アルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基などが挙げられ、炭素原子数1〜10のアルコキシ基が好ましい。エステル基としては、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基、フルオレニルオキシカルボニル基、ビフェニリルオキシカルボニル基などのアリーロキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜10のものが好ましい。アミノ基としては第1級アミノ基が好ましく挙げられる。
【0014】
本発明のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法で使用される、環状オレフィン系モノマー中に含まれる環状オレフィン系化合物(1)の量は、特に限定されるものではないが、全モノマー中に環状オレフィン系化合物(1)を70〜99重量%、好ましくは75〜97重量%程度含有することが望ましい。環状オレフィン系モノマー中に環状オレフィン系化合物(1)を70重量%以上含有すると、ガラス転移温度が高くできるため得られるノルボルネン系透明樹脂シートのレーザー加工をするときに、製品に発泡が入りにくくなり、また、99重量%以下の含有量であると、ノルボルネン系透明樹脂シートの切削時にクラックや割れなどの発生を抑制するため、外観良好なノルボルネン系透明樹脂シートを得られるので好ましい。
【0015】
上記環状オレフィン系化合物(1)および(2)において、炭素原子数1〜10の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基などのアルケニル基が挙げられる。脂環族炭化水素基としては、炭素原子数5〜10のものが好ましく、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基が挙げられる。この脂環族炭化水素基は、環内に二重結合を有さない。芳香族炭化水素基としては、炭素原子数6〜20のものが好ましく、たとえばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、インデニル基、フルオレニル基、アントラセニル基などが挙げられる。
【0016】
環状オレフィン系化合物(1)としては、具体的には、
5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェノキシエチルカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェニルカルボニルオキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフロオロメチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−フェノキシエチルカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ヒドロキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ヒドロキシエチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−アミノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−フェノキシエチルカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−フェニルカルボニルオキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−トリフロオロメチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−フェノキシエチルカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−ヒドロキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−ヒドロキシエチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−メチル−8−ヒドロキシエチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−シアノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、
8−アミノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
等を挙げることができる。
【0017】
本発明ではノルボルネン系樹脂シート原反の環状オレフィン系化合物(1)として、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンが好ましく用いられる。
【0018】
環状オレフィン系化合物(2)としては、具体的には、
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(ノルボルネン)、
5―メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5―エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5―プロピル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5―ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5―ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5―オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5―ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン)、
トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン、
7−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−エチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−シクロヘキシル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−フェニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7−(4−ビフェニル)−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8−ジメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8,9−トリメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
8−メチル−トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン、
8−フェニル−トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン、
7,8−ジクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
7,8,9−トリクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、
このうち、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エンなどが好ましく用いられる。
【0019】
環状オレフィン系モノマーが、このような環状オレフィン系化合物(2)を含有することにより、環状オレフィン系モノマーを開環共重合して得られる本発明の環状オレフィン系重合体、およびその水素化物は、そのガラス転移温度(Tg)を容易に調節することができ、たとえば、成形体用途として望ましい115℃〜170℃の範囲の所望の温度とすることが可能となる。
【0020】
本発明の加工方法で加工されるノルボルネン系透明樹脂シートを形成するノルボルネン系透明樹脂の分子量は、特に限定されるものではないが、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の数平均分子量(Mw)が、20,000〜150,000である必要がある。分子量が過小である場合には、シート成形品の強度が低いものとなることがある。一方、分子量が過大である場合には、溶液粘度が高くなりすぎて、本発明のノルボルネン系透明樹脂の生産性や成形性、加工性が悪化することがある。
【0021】
また、本発明のノルボルネン系透明樹脂シートを形成するノルボルネン系透明樹脂の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されるものではないが、例えばフィルム用途などに用いる場合には、通常1.5〜10、好ましくは2〜8、さらに好ましくは2.2〜5であるのが望ましい。
【0022】
本発明の加工方法で得られるノルボルネン系透明樹脂のシートは、開環(共)重合体の水素化物であることが好ましく、水素化割合が好ましくは99重量%以上、より好ましくは99.5重量%以上、さらに好ましくは99.7重量%以上であることが望ましい。
【0023】
更に、本発明のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法で使用されるノルボルネン系樹脂シートのガラス転移温度(以下 Tgという)は、115℃〜200℃であることが好ましく、120〜170℃であることが、より好ましい。Tgが115℃より低い値になると、光学レンズ、導光板、タッチパネル基板等の最終商品の実用に耐えられなくなってしまう。一方、Tgが200℃以上であると、成形加工温度を300℃以上の高温にしなければならず、樹脂の劣化着色が著しくなる。
【0024】
<添加剤>
本発明のノルボルネン系透明樹脂シートを製造する際に添加する添加剤は、公知のフェノール系化合物、リン系化合物、チオール系化合物などが好適に用いられる。これらを原料樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部添加することで、耐熱劣化性や耐光性などの特性を向上させることができる。
また、その融点は好ましくは、80℃以上、さらに好ましくは100℃以上であることがよい。融点が80℃未満の添加剤を使用して、樹脂シートを作製するに当たっては、成形、押出加工を実施する際に、加熱により添加剤のブリードアウトなどが発生し、加工に使用するロール、プレス装置などにブリード物による汚れなどが発生する懸念があり好ましくない。
【0025】
<ノルボルネン系透明樹脂シートの製造方法>
本発明の加工方法に用いられる厚さ300〜2000μmのノルボルネン系透明樹脂シートを製造するには、通常の押出加工、成形加工、プレス加工などが好適に使用できる。好ましくは、押出機とロール設備を用いた押出加工である。
押出に際しては、ノルボルネン系透明樹脂は、Tg以下の適切な温度で乾燥を行い、樹脂中の水分率を低減することが好ましい。好ましい水分率は、100ppm以下、さらに好ましくは、20ppm以下である。水分率が100ppmを超えて含まれていると、押出成形時に不連続な発泡筋、射出成形を行う時には、シルバーストリークスなどの発生を招き、好ましくない。
【0026】
押出加工にて環状オレフィン系開環共重合体樹脂を溶融させるには、公知の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、遊星式混練機などを用いることができる。特に好ましくは、単軸の押出機である。
さらに、溶融樹脂を計量するには、ギアポンプにより、昇圧しながら樹脂を供給することが好ましい。ギアポンプを使用しないで、押し出すと押出量が不安定になり、押出シートの厚みが不均一になりやすいため、好ましくない。
次に溶融樹脂をポリマーフィルタを使用して、樹脂中の異物をろ過することが好ましい。ポリマーフィルタとしては、リーフ型、プリーツ型、リーフディスク型などが挙げられ、リーフディスク型が好ましく用いられる。
【0027】
本発明におけるノルボルネン系透明樹脂シートの厚みは、300から2000μmである。300μm以上の厚みであると、切削または表面微細加工時に割れにくく、2000μm以下であると、レーザーによる切削が可能である点で好ましい。
本発明のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法に用いられるレーザーは、通常波長が20μm以下であるが、好ましくは10μm以下である。レーザー発振媒質が二酸化炭素である。切削加工を行う場合の出力は、通常10W以上、2kW以下であることが好ましく、好ましくは15W以上、30W以下である。レーザーの出力が2kWを超えると、切削加工断面に発泡などを生じ、外観が悪化するために好ましくない。表面微細加工を行う場合の出力は通常5〜30W、好ましくは8〜32Wである。出力が30Wを超えると表面微細加工時に発泡、クラック発生などのため好ましくない。
【0028】
<用途>
本発明に係るノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法により、レーザーにより加工したシートは、光学シートとしてなどタッチパネル、プリズムシート、導光板、偏光板などの各種光学部品等の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の実施例および比較例において、重合反応、触媒調製、水素化反応などの各工程は、窒素雰囲気下で実施した。
また以下の実施例および比較例において、各性状の測定及び評価は、以下の方法により行った。
ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、商品名:DSC6200)を用いて、日本工業規格K7121に従って補外ガラス転移開始温度(以下、単にTgという)を求めた。
【0030】
重量平均分子量および分子量分布
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、東ソー株式会社製、商品名:HLC-8020)を用い、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量(M)および分子量分布(M/M)を測定した。
【0031】
1H−NMR分析
超伝導核磁気共鳴吸収装置(NMR、Bruker社製、商品名:AVANCE500)を用い、重水素化クロロホルム中で1H−NMRを測定し、共重合組成比および水素添加率を算出した。
【0032】
水分量
カールフィッシャー(京都電子工業株式会社、商品名:MKC−610)を用いて溶剤中に含まれる水分量の分析を行なった。
【0033】
モノマーの転化率分析
ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、商品名:GC-2014)を用いて反応溶液中に含まれる残モノマーの量を分析し、算出した。
[合成例1]
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン237部と、ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エンを13部、1−ヘキセン(分子量調節剤)33部と、トルエン(開環重合反応用溶媒)750部とを窒素置換した反応容器内に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(1.5モル/l)0.62部と、t−ブタノール/メタノールで変性した六塩化タングステン(t−ブタノール:メタノール:タングステン=0.35モル:0.3モル:1モル)のトルエン溶液(濃度0.05モル/l)3.7部とを添加し、反応容器温度を80℃に上げ3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。この重合反応における重合転化率は97%であった。このようにして得られた開環共重合体溶液4,000部をオートクレーブに仕込み、この開環共重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C 0.48部を添加し、水素ガス圧力100kg/cm、反応温度160℃の条件下で、3時間加熱攪拌して水素添加反応を行った。得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。この反応溶液を大量のメタノール中に注いで凝固物を分離回収し、これを乾燥して、水素添加された環状オレフィン系樹脂B1を得た。樹脂B1のTgは155℃であった。また、GPC法により測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mw)、重量平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)は、それぞれ、22,000、64,000、2.9であり、固有粘度(ηinh)は0.52dl/gであった。
【0034】
合成例2
例1で得られた開環重合体(1)の溶液を水添反応容器に移液し、トルエン(1250部)を加え撹拌して均一溶液とし、水素添加反応触媒であるRu[4−CH(CHCO]H(CO)[P(C653](2mg)を添加した。90℃まで温度を上げてから、水素を7MPaまで導入した後、最終的に160〜165℃まで温度を上げ、導入水素ガス圧を9〜10MPaとし3時間反応させた。得られた生成物を多量のメタノール中で沈殿、減圧乾燥させることにより、開環共重合水素化体(1)を得た。H−NMRの分析により水素化率は、99%であった。DSCの測定によりTg=150℃であった。GPCを測定したところ、重量平均分子量(M)=67,000、分子量分布(M/M)=2.8であった。また屈折率はnD=1.514、abbe数は56であった。
【0035】
実施例1
上記の合成例2で得られた開環水素化共重合体(1)を単軸押出機に通して、脱気しながら溶融し、ストランドダイを通して、窒素雰囲気下で異物を除去した冷却水槽に通して、冷却の後、ストランドカッターによりカッティングしてペレットを得た。
得られたペレットを120℃で除湿乾燥の後、65mmΦの単軸押出機に通して、295℃で溶融し、溶融樹脂を両軸排出型ギアポンプを用いて70kg/hrで定量供給しながら10μmの開口のリーフディスクフィルタを通して、600mm幅のTダイに供給した。Tダイはリップ開口2.5mmとした。ここから樹脂膜を押出、700mm幅のスリーブタッチ式引取り機(千葉機械工業製)に導き、140℃で冷却し、引取り速度を2.5m/minとして、1.0mm厚の透明シートを500mm幅で作製した。
【0036】
得られたシートを、レーザマーカー加工機(SUNX株式会社製:LP−420S9U)を用いて、レーザー波長9.3μm、出力20W、スポット径1.8μmの条件で切削を実施した。このときのレーザー走査速度は、20mm/sとした。切削したシートの大きさは100mm×105mmとした。得られたシートの切削断面を、50倍の光学顕微鏡にて観察した。観察結果を表1に示した。
【0037】
実施例2
実施例1の樹脂を使用し、シートの引取り速度だけ、5m/minまで引き上げて、厚み0.5mmのシートを得た。得られたシートを実施例1と同様の装置を使用し切削した。レーザー走査速度のみ、57mm/sとした。
実施例1と同様に、光学顕微鏡により観察した。
【0038】
実施例3
実施例1で得られたシートを使用し、実施例1と同様のレーザー加工装置を使用し、レーザー走査速度を100mm/sとして、図1に示すように50μm間隔で、直径が50μmで深さ20μmのドットを連続的に加工した。
【0039】
比較例1
実施例の樹脂の代わりに、原料をAPEL 6013T(三井化学製)に変更した。ペレットは、100℃で乾燥の後、265℃に加熱した押出機に送り、溶融させて、265℃に加熱したTダイより、膜状に押し出して、実施例1と同様の装置を使用し、冷却ロールの温度を100℃として、1mmシートを得た。
得られたシートを実施例1と同様のレーザーマーカ装置を使用し、レーザ走査速度を10mm/sとして切削を実施した。実施例1と同様に光学顕微鏡によりカット面を観察した。
【0040】
比較例2
実施例1の樹脂の代わりに、原料をZEONOR 1430R(日本ゼオン製)に変更した。ペレットを100℃で乾燥の後、270℃に加熱した押出機に送り、溶融させて、270℃に加熱したTダイより、膜状に押し出して、実施例1と同様の装置を使用し、冷却ロールの温度を110℃として、1mmシートを得た。
得られたシートを実施例1と同様のレーザーマーカ装置を使用し、レーザ走査速度を10mm/sとして切削を実施した。
【0041】
比較例3
実施例1の樹脂の代わりに、原料としてポリカーボネート(帝人化成製、パンライトAD5503)を使用し、ペレットを100℃で乾燥の後、270℃に加熱した押出機に送り、溶融後、270℃に加熱したTダイより、膜状に押し出して、実施例1と同様の装置を使用し、冷却ロールの温度を115℃として、1mmシートを得た。
得られたシートを実施例1と同様のレーザーマーカ装置を使用し、レーザ走査速度を10mm/sとして切削を試みたが、シートの切削はできず、シートは黄色に変色した。
【0042】
比較例4
実施例1の樹脂の代わりに、ZEONOR1430Rを使用し、実施例3と同様の方法により、ドットピッチを形成しようとしたが、樹脂の表面に盛り上がりができたが、ドットピッチは形成できなかった。
【0043】
【表1】

【0044】
切削性:○ シートを切り取ることができた。
× シートを切れなかった。
断面形状:○ 断面に樹脂の盛り上がりが10μm未満
× 断面に樹脂の盛り上がりが10μm以上
断面発泡:○ 断面外周での気泡発泡が1個以下
× 断面外周での気泡発泡が複数発生
【0045】
【表2】

【0046】
ドットピッチ形成性:○ 50μmピッチに20μmの深さのピッチが形成された。
× ピッチは形成できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明に係るノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法により得られるノルボルネン系透明樹脂シートは、光線透過率や耐熱性に優れた熱可塑性透明樹脂材料として光学部品として好適に用いることができる。光学部品としては、光学レンズ、フィルム、シートを挙げることができ、これらの具体例として、撮像レンズ、導光板、位相差フィルム、保護フィルム、接着フィルム、タッチパネル、透明電極基板、TFT用基板、カラーフィルター基板などが挙げられる。特に本発明に係るノルボルネン系透明樹脂シートは、高い透明性とレーザー切削性を有するため各種成形体製造用途に好適に使用でき、特にレンズ、フィルムなどの各種光学用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが300〜2000μmの下記式(1)で表される化合物に由来する構造単位を有するノルボルネン系透明樹脂シートを、波長が20μm以下であり、レーザー発振媒質が二酸化炭素であるレーザー照射により加工するノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法。
【化1】

[式(1)中、nは0〜3の整数であり、A1〜A4は、それぞれ独立に下記(i)〜(iv)のいずれかを表す。
(i)水素原子、
(ii)ハロゲン原子、
(iii)アルコキシ基、水酸基、エステル基、シアノ基、アミノ基およびチオール基よりなる群から選ばれた極性基、
(iv)ハロゲン原子または前記極性基(iii)により置換されていてもよい、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、または芳香族炭化水素基。]
【請求項2】
前記加工方法が、ノルボルネン系透明樹脂シートを切断する方法であることを特徴とする請求項1に記載のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法。
【請求項3】
前記加工方法が、ノルボルネン系透明樹脂シートの表面に微細加工を形成する方法であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法。
【請求項4】
使用するレーザーの出力が、10W以上、2kW以下であることを特徴とする請求項1〜3のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法。
【請求項5】
前記微細加工の加工深さが5〜50μmの範囲であることを特徴とする請求項3記載のノルボルネン系透明樹脂シートの加工方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の加工方法により得られるノルボルネン系透明樹脂シート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−148121(P2011−148121A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9381(P2010−9381)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】