説明

ハイブリッド車両のエンジン始動制御装置

【課題】スタータモータによる低温時エンジン始動系の有効利用により、モータ/ジェネレータによるエンジン始動系のみを用いた場合よりも、モータ走行域を拡大可能にする。
【解決手段】EV走行中の車速VSPが設定VSP_s未満で、モータ/ジェネレータによるモータ走行が可能な低車速域である場合(S11)、このモータ/ジェネレータによる第1のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御を行わせ(S12)、EV走行中の車速VSPが設定VSP_s以上で、モータ/ジェネレータによるモータ走行が不能な車速域である場合(S11)、このモータ/ジェネレータによる第1のエンジン始動系に代え、スタータモータによる第2のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御を行わせる(S13)。これにより、VSP≧VSP_sでモータ/ジェネレータがエンジン始動トルクを賄う必要がなくなり、その分、モータ走行可能車速域が拡大され、モータ走行領域の拡大で燃費を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン、第1クラッチ、モータ/ジェネレータ、第2クラッチおよび駆動車輪を伝動経路の配列順とし、第1クラッチおよび第2クラッチの締結・解放制御により、モータ/ジェネレータのみによる電気走行を行うか、エンジンおよびモータ/ジェネレータの協調によるハイブリッド走行を行うかを選択可能なハイブリッド車両のエンジン始動制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記のようなハイブリッド車両としては、例えば特許文献1に記載のように、エンジンおよび駆動車輪間にモータ/ジェネレータを結合して介在させ、エンジンおよびモータ/ジェネレータ間を第1クラッチにより断接可能となし、モータ/ジェネレータおよび駆動車輪間を第2クラッチにより断接可能となした、所謂1モータ2クラッチ型パラレル式ハイブリッド車両が知られている。
【0003】
このハイブリッド車両は、第1クラッチを解放し、第2クラッチを締結するとき、モータ/ジェネレータのみによる電気(EV)走行を行うEVモードを選択することができ、第1クラッチおよび第2クラッチの双方を締結することにより、モータ/ジェネレータおよびエンジンの協調によるハイブリッド(HEV)走行を行うHEVモードを選択することができる。
【0004】
かかる1モータ2クラッチ型パラレル式ハイブリッド車両において、低負荷、低回転時に選択されるEVモードでの走行中、例えばアクセルペダルの踏み込みによる要求駆動力の増大で、モータ/ジェネレータのみによってはこの要求駆動力を実現できなくなった場合、モータ/ジェネレータおよびエンジンの協調によるHEV走行(HEVモード)へのモード切り替えを行うこととなる。
【0005】
このEV→HEVモード切り替えに際し必要なエンジン始動に当たっては、EVモードで解放状態だった第1クラッチを締結すると共に、モータ/ジェネレータからのモータトルクにより当該エンジン始動を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−179865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1所載のエンジン始動を保証するには、モータ/ジェネレータの定格トルクが、車両の走行抵抗(空気抵抗や、転がり抵抗など)に対応した駆動トルク分、および車両の所定加速度マージン分に対応した加速トルクマージン分の和値である電気(EV)走行用トルク分と、エンジン始動用トルク(クランキングトルク)分とを全て賄い得る大きさであるを要する。
【0008】
ところでモータ/ジェネレータは、コスト上の観点および搭載スペースの観点から、定格トルクをできるだけ小さくして、小型化することが求められており、定格トルクの大きさに制約を受ける。
しかし、かようにモータ/ジェネレータ定格トルクが制限されていても、必要な加速トルクマージン分およびエンジン始動用トルク分は概ね決まっており、これらを小さくすることはできない。
従って、モータ/ジェネレータ定格トルクから加速トルクマージン分およびエンジン始動用トルク分を差し引いて求まる上記の駆動トルク分が小さくなる。
【0009】
かように駆動トルク分が小さくなると、トルク不足からモータ/ジェネレータのみによるEVモードでの走行が不能となる状態が早期に(低車速から)到来し、エンジンとの協調によるHEVモードでの走行へ早期に(低車速から)モード切り替えしなければならなくなる。
このことは、燃料消費率の向上を旨とするEVモード領域が狭くなることを意味し、車両の燃費が悪化するという問題を生ずる。
【0010】
本発明は、1モータ2クラッチ型パラレル式ハイブリッド車両の場合、上記したごとくモータ/ジェネレータによりエンジンを始動する第1のエンジン始動系に加えて、低温時のエンジン始動性に鑑み、エンジンを専用のスタータモータにより始動する第2のエンジン始動系を具えており、
かかる第2のエンジン始動系が、低温時のエンジン始動に大いに有用ではあるものの、通常は殆ど用いられることがなく、有効に活用されていないのが実情であるとの観点から、当該第2のエンジン始動系を有効に活用することで上述の燃費(EVモード領域が狭くなること)に関する問題を解消したハイブリッド車両のエンジン始動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のため、本発明によるハイブリッド車両のエンジン始動制御装置は、これを以下のような構成とする。
【0012】
先ず、前提となるハイブリッド車両を説明するに、これは、
エンジン、第1クラッチ、モータ/ジェネレータ、第2クラッチおよび駆動車輪を伝動経路の配列順とし、上記第1クラッチおよび第2クラッチの締結・解放制御により、上記エンジンおよびモータ/ジェネレータのうち、モータ/ジェネレータのみによる電気走行を行うか、エンジンおよびモータ/ジェネレータの協調によるハイブリッド走行を行うかを選択可能なものであり、
【0013】
また、かかるハイブリッド車両に用いる、前提となるエンジン始動制御装置は、
上記第1クラッチを締結して上記モータ/ジェネレータにより上記エンジンを始動させる第1のエンジン始動系と、エンジン始動用スタータモータにより上記エンジンを始動させる第2のエンジン始動系とを具備するものである。
【0014】
そして本発明は、かかるエンジン始動制御装置に対し、以下のようなエンジン始動系選択手段を設けた構成に特徴づけられる。
このエンジン始動系選択手段は、上記電気走行に係わる回転速度情報を基に、
該回転速度情報が設定速度未満のときは上記第1のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御が行われ、上記回転速度情報が設定速度以上のときは上記第2のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御が行われるよう、第1のエンジン始動系または第2のエンジン始動系を選択するものである。
【発明の効果】
【0015】
上記した本発明によるハイブリッド車両のエンジン始動制御装置によれば、
電気走行に係わる回転速度情報が設定速度未満のときは第1のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御を行わせるものの、電気走行に係わる回転速度情報が設定速度以上のときは第2のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御を行わせるため、以下の効果を得ることができる。
【0016】
つまり、第1のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御のみだと、モータ/ジェネレータの制限された定格トルクの関係上、前記した通り、モータ/ジェネレータの駆動トルク不足から早期に(低回転速度時から)モータ/ジェネレータのみによる電気走行が不能となり、エンジンとの協調によるハイブリッド走行へ早期に(低回転速度時から)モード切り替えしなければならず、電気走行領域が狭くて燃費の悪化を招く。
【0017】
しかし本発明によれば、電気走行に係わる回転速度情報が設定速度以上のときは第2のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御を行わせるため、
この間、モータ/ジェネレータの制限された定格トルクでエンジン始動トルク分を賄う必要がなくなり、その分だけ、モータ/ジェネレータの駆動トルク不足が発生するのを遅らせて、モータ/ジェネレータのみによる電気走行を一層高回転速度まで継続させることができ、電気走行領域の拡大により燃費の向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例になるエンジン始動制御装置を具えたハイブリッド車両のパワートレーンを、その制御系とともに示す概略システム図である。
【図2】図1に示したパワートレーン制御システムのハイブリッドコントローラが実行するエンジン始動制御プログラムを示すフローチャートである。
【図3】図1におけるモータ/ジェネレータのモータ出力可能トルク(定格トルク)を決定するときの要領を説明するのに用いた線図である。
【図4】図3に示すモータ出力可能トルク(定格トルク)によるモータ出力可能駆動力を、モータ/ジェネレータがEV走行に供し得るEV走行用駆動力、およびEV走行時要求駆動力と共に示す線図である。
【図5】図2に示したエンジン始動制御によって達成される燃費向上率の変化特性を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<ハイブリッド車両のパワートレーン>
図1は、本発明の一実施例になるエンジン始動制御装置を具えたハイブリッド車両のパワートレーンを、その制御系とともに示す。
このハイブリッド車両は、フロントエンジン・フロントホイールドライブ車(前輪駆動車)をベース車両とし、これをハイブリッド化したものであり、
図1において、1は動力源としてのエンジン、2FL,2FRはそれぞれ左右前輪(左右駆動車輪)、3RL,3RRはそれぞれ左右後輪(左右従動車輪)を示す。
【0020】
図1に示すハイブリッド車両のパワートレーンにおいては、通常の前輪駆動車と同様に横置きに搭載したエンジン1の車幅方向一方側にVベルト式無段変速機4を配置し、エンジン1(詳しくはクランクシャフト1a)からの回転をVベルト式無段変速機4の入力軸4aへ伝達する軸5に結合してモータ/ジェネレータ6(MG:動力源)を設ける。
【0021】
このモータ/ジェネレータ6は、ハウジング内に固設した環状のステータと、この環状ステータ内に所定のエアギャップを持たせて同心に配置したロータとよりなり、運転状態の要求に応じ、電動モータ(電動機)として作用したり、ジェネレータ(発電機)として作用するもので、エンジン1およびVベルト式無段変速機4間に配置する。
モータ/ジェネレータ6は、ロータの中心に上記の軸5を貫通して結着し、この軸5をモータ/ジェネレータ軸として利用する。
【0022】
かかるモータ/ジェネレータ6およびエンジン1間、詳しくは、モータ/ジェネレータ軸5とエンジンクランクシャフト1aとの間に第1クラッチ7(CL1)を介挿し、この第1クラッチ7によりエンジン1およびモータ/ジェネレータ6間を切り離し可能に結合する。
ここで第1クラッチ7は、伝達トルク(クラッチ締結)容量を連続的に変更可能なものとし、例えば、比例ソレノイドでクラッチ作動油流量およびクラッチ作動油圧を連続的に制御して伝達トルク(クラッチ締結)容量を変更可能な湿式多板クラッチで構成する。
【0023】
モータ/ジェネレータ6およびVベルト式無段変速機4間は、モータ/ジェネレータ軸5と変速機入力軸4aとの直接結合により相互に直結させ、変速機入力軸4aの途中に第2クラッチ9(CL2)を挿置する。
Vベルト式無段変速機4は、周知のものでよいが、これからトルクコンバータを排除して、その代わりにモータ/ジェネレータ6を変速機入力軸4aに直接結合したものとし、
変速機入力軸4aが締結状態であれば、入力軸4aからの回転をVベルト式無段変速機構のプーリ比に応じた減速比で変速して出力軸4bに出力するものとする。
【0024】
Vベルト式無段変速機4の出力軸4bから出力された回転は、図示せざるディファレンシャルギヤ装置を経て左右前輪2FL,2FRへ伝達され、車両の走行に供される。
但しVベルト式無段変速機4は、有段式の自動変速機であってもよいのは言うまでもない。
【0025】
なおハイブリッド車両にあって不可欠な、モータ/ジェネレータ6および駆動輪2FL,2FR を切り離し可能に結合する第2クラッチ9(CL2)は、図1のごとく変速機入力軸4aの途中に挿置する代わりに、Vベルト式無段変速機4の後段に設置してもよい。
但し第2クラッチ9は、前記した第1クラッチ7と同様、伝達トルク容量(クラッチ締結容量)を連続的に変更可能なものとする。
【0026】
以下、図1につき上述したパワートレーンの走行モードを説明する。
図1に示したパワートレーンにおいては、停車状態からの発進時などを含む低負荷・低車速時に用いられる電気走行(EVモード)が要求される場合、第1クラッチ7を解放し、第2クラッチ9を締結する。
【0027】
この状態でモータ/ジェネレータ6を駆動すると、当該モータ/ジェネレータ6からの出力回転のみが変速機入力軸4aに達することとなり、Vベルト式無段変速機4が当該入力軸4aへの回転を、選択中のプーリ比に応じ変速して変速機出力軸4bより出力する。
変速機出力軸4bからの回転はその後、図示せざるディファレンシャルギヤ装置を経て前輪2FL,2FRに至り、車両をモータ/ジェネレータ6のみによって電気走行(EV走行)させることができる。
【0028】
高速走行時や大負荷走行時などで用いられるハイブリッド走行(HEVモード)が要求される場合、第1クラッチ7を締結させると共に、第2クラッチ9を締結させる。
この状態では、エンジン1からの出力回転およびモータ/ジェネレータ6からの出力回転の双方が協調下に変速機入力軸4aに達することとなり、Vベルト式無段変速機4が当該入力軸4aへの回転を、選択中のプーリ比に応じ変速して、変速機出力軸4bより出力する。
変速機出力軸4bからの回転はその後、図示せざるディファレンシャルギヤ装置を経て前輪2FL,2FRに至り、車両をエンジン1およびモータ/ジェネレータ6の協調によってハイブリッド走行(HEV走行)させることができる。
【0029】
かかるHEV走行中において、エンジン1を最適燃費で運転させるとエネルギーが余剰となる場合、この余剰エネルギーによりモータ/ジェネレータ6を発電機として作動させることで余剰エネルギーを電力に変換し、この発電電力をモータ/ジェネレータ6のモータ駆動に用いるよう蓄電しておくことでエンジン1の燃費を向上させることができる。
【0030】
上記したEVモードおよびHEVモードの選択に当たっては、一般的に、このモード選択を以下のように行う。
車速が所定車速(例えば30km/h)以下で、アクセル開度が所定開度(例えば1/8)以下またはアクセル開度変化率が所定加速度要求(例えば0.05G)以下で、モータ/ジェネレータ回転数が所定モータ回転数(例えば1000rpm)以下で、エンジン冷却水温が所定水温(例えば40℃)以上で、且つバッテリ蓄電状態SOCが所定蓄電状態(例えば60%)以上であるとき、モータ/ジェネレータ6のみにより電気(EV)走行を行うEVモードの選択を指令する。
【0031】
そして、上記EVモード選択条件の一つでも欠けると、つまり例えば、EV走行状態でアクセルペダルの踏み込みにより、アクセル開度が所定開度(1/8)を超えるか、またはアクセル開度変化率が所定加速度要求(0.05G)を超えたり、或いは、バッテリ蓄電状態SOCが所定蓄電状態(60%)未満に低下すると、エンジン1およびモータ/ジェネレータ6の協調によりハイブリッド(HEV)走行を行うHEVモードの選択を指令する。
【0032】
次に、上記したハイブリッド車両のパワートレーンを成すエンジン1、モータ/ジェネレータ6、第1クラッチ7(CL1)、および第2クラッチ9(CL2)の制御システムを、図1に基づき概略説明する。
この制御システムは、パワートレーンの動作点を統合制御するハイブリッドコントローラ11を具え、該パワートレーンの動作点を、目標エンジントルクtTeと、目標モータ/ジェネレータトルクtTmと、第1クラッチ7の目標締結容量tTc1(第1クラッチ締結圧指令値tPc1)と、第2クラッチ9の目標締結容量tTc2(第2クラッチ締結圧指令値tPc2)とで規定する。
【0033】
ハイブリッドコントローラ11は更に、本発明が狙いとする後述のエンジン始動制御用に、低温時エンジン始動のためのスタータモータ8をON,OFF制御するスタータモータ制御信号Ssmを生成する。
【0034】
ハイブリッドコントローラ11には、上記パワートレーンの動作点を決定するために、
エンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ12からの信号と、
モータ/ジェネレータ回転数Nmを検出するモータ/ジェネレータ回転センサ13からの信号と、
変速機入力回転数Niを検出する入力回転センサ14からの信号と、
変速機出力回転数No(車速VSP)を検出する出力回転センサ15からの信号と、
アクセルペダル踏み込み量(アクセル開度APO)を検出するアクセル開度センサ16からの信号と、
モータ/ジェネレータ6用の電力を蓄電しておく強電バッテリ31の蓄電状態SOCを検出する蓄電状態センサ17からの信号と、
エンジン冷却水温Tempを検出するエンジン冷却水温センサ18からの信号とを入力する。
【0035】
ハイブリッドコントローラ11は、上記入力情報のうちアクセル開度APO、バッテリ蓄電状態SOC、および変速機出力回転数No(車速VSP)から、運転者が希望している車両の駆動力を実現可能な運転モード(EVモード、HEVモード)を選択すると共に、目標エンジントルクtTe、目標モータ/ジェネレータトルクtTm、第1クラッチ目標締結容量tTc1、および第2クラッチ目標締結容量tTc2をそれぞれ演算する。
【0036】
目標エンジントルクtTeはエンジンコントローラ32に供給され、このエンジンコントローラ32は、センサ12で検出したエンジン回転数Neと目標エンジントルクtTeとから、エンジン回転数Neのもとで目標エンジントルクtTeを実現するためのスロットル開度制御や燃料噴射量制御などにより、エンジントルクが目標エンジントルクtTeとなるようエンジン1を制御する。
【0037】
目標モータ/ジェネレータトルクtTmはモータコントローラ33に供給され、このモータコントローラ33は、強電バッテリ31の電力をインバータ34により直流−交流変換して、またインバータ34による制御下でモータ/ジェネレータ6のステータに供給し、モータ/ジェネレータトルクが目標モータ/ジェネレータトルクtTmに一致するようモータ/ジェネレータを制御する。
【0038】
なお目標モータ/ジェネレータトルクtTmが、モータ/ジェネレータ6に回生制動作用を要求するようなものである場合、モータコントローラ33はインバータ34を介し、センサ17で検出したバッテリ蓄電状態SOCとの関連において強電バッテリ31が過充電とならないような発電負荷をモータ/ジェネレータ6に与え、
モータ/ジェネレータ6が回生制動により発電した電力をインバータ34により交流−直流変換して強電バッテリ31に蓄電する。
【0039】
第1クラッチ目標締結容量tTc1は第1クラッチコントローラ36に供給され、この第1クラッチコントローラ36は、第1クラッチ目標締結容量tTc1に対応した第1クラッチ締結圧指令値tPc1と、センサ19で検出した第1クラッチ7の締結圧Pc1との対比により、第1クラッチ7の締結圧Pc1が第1クラッチ締結圧指令値tPc1となるよう第1クラッチ締結圧制御ユニット37を介し第1クラッチ7の締結圧を制御して第1クラッチ7の締結容量制御を行う。
【0040】
第2クラッチ目標締結容量tTc2は変速機コントローラ38に供給され、
この変速機コントローラ38は、第2クラッチ目標締結容量tTc2に対応した第2クラッチ締結圧指令値tPc2と、センサ20で検出した第2クラッチ9の締結圧Pc2との対比により、第2クラッチ9の締結圧Pc2が第2クラッチ締結圧指令値tPc2となるよう第2クラッチ締結圧制御ユニット39を介し第2クラッチ9の締結圧を制御して第2クラッチ9の締結容量制御を行う。
【0041】
なお変速機コントローラ38は、センサ15で検出した変速機出力回転数No(車速VSP)およびセンサ16で検出したアクセル開度APOから予定の変速マップをもとに、現在の運転状態に好適なプーリ比を求め、現在のプーリ比からこの好適プーリ比への無段変速をも行うものとする。
【0042】
<エンジン始動制御>
以上は、図1の制御システムが実行する通常制御の概要であるが、
本実施例においては図1におけるハイブリッドコントローラ11が、図2に示すエンジン始動制御プログラムを実行することにより、本発明が狙いとするエンジン始動制御を以下のごとくに行うものとする。
【0043】
なおエンジン始動は、第1クラッチ7(CL1)を締結し、モータ/ジェネレータ6によりエンジン1をクランキングして始動させる第1のエンジン始動系を用いる方法と、スタータモータ8が弱電バッテリからの電力でエンジン1をクランキングして始動させる第2のエンジン始動系を用いる方法とがあり、
スタータモータ8を用いる第2のエンジン始動系は、低温時におけるエンジン始動性を確保すべく、エンジン1を燃焼自立始動させるために設置されているものである。
【0044】
図2のエンジン始動制御プログラムは、エンジン始動性の確保が要求される上記の低温時以外に実行されるもので、先ずステップS11において、エンジン1を停止させたEV走行中の車速VSPが設定車速VSP_s未満の低車速か否かをチェックする。
【0045】
ここで、設定車速VSP_sについて説明する。
前記したごとく第1のエンジン始動系を成すモータ/ジェネレータ6が、エンジン1を始動し得るようにするには、車速VSP(モータ/ジェネレータ回転数Nm)に対して図3に例示するような変化を呈するモータ/ジェネレータ6のモータ出力可能トルク(定格トルク)が、車両の走行抵抗(空気抵抗や、転がり抵抗など)に対応した駆動トルク分、および車両の所定加速度マージン分に対応した加速トルクマージン分の和値である電気(EV)走行用トルク分と、エンジン始動用トルク(クランキングトルク)分とを全て賄い得る大きさである必要がある。
【0046】
ところでモータ/ジェネレータ6は、コスト上の観点および搭載スペースの観点から、モータ出力可能トルク(定格トルク)をできるだけ小さくして、小型化することを求められており、モータ出力可能トルク(定格トルク)の大きさに制約を受ける。
しかし、かようにモータ/ジェネレータ6のモータ出力可能トルク(定格トルク)が制限されていても、必要な加速トルクマージン分およびエンジン始動用トルク分は概ね決まっており、これらを小さくすることはできない。
従って、モータ/ジェネレータ定格トルクから加速トルクマージン分およびエンジン始動用トルク分を差し引いて求まる駆動トルク分が小さくなる。
【0047】
かように駆動トルク分が小さくなると、トルク不足からモータ/ジェネレータ6のみによるEVモードでの走行が不能となる状態が早期に(低車速から)到来し、エンジン1との協調によるHEVモードでの走行へ早期に(低車速から)モード切り替えしなければならなくなる。
このことは、燃料消費率の向上を旨とするEVモード領域が狭くなることを意味し、車両の燃費が悪化するという問題を生ずる。
【0048】
図4に基づき付言するに、この図4は、図3におけるモータ出力可能トルク(定格トルク)の駆動力換算値であるモータ出力可能駆動力を破線で示し、
このモータ出力可能駆動力から、図3のエンジン始動用トルク分による駆動力を差し引いて得られるEV走行用駆動力(図3におけるEV走行用トルク分の駆動力換算値)を一点鎖線で示し、
EV走行時要求駆動力(前記した走行抵抗および所定加速度マージン分の和値)を実線で示す。
【0049】
終始、第1のエンジン始動系(モータ/ジェネレータ6)を用いてエンジン始動を行おうとすると、EV走行中の車速VSPが図4のVSP_s以上になるとき、EV走行に供し得るモータ/ジェネレータ6のEV走行用駆動力(一点鎖線)がEV走行時要求駆動力(実線)未満となって、モータ/ジェネレータ6の駆動トルク不足からモータ/ジェネレータ6のみによるEV走行が不能となる。
従って、EV走行中の車速VSPがVSP≧VSP_sになると、エンジン1との協調によるHEV走行へモード切り替えしなければならず、燃料消費率の向上を旨とするEVモード領域が狭くなって、車両の燃費が悪化するという問題を生ずる。
【0050】
そこで本実施例においては、ステップS11で用いる設定車速VSP_sを、図4に同符号で示す車速値に定める。
ステップS11において、EV走行中の車速VSPが設定車速VSP_s(図4参照)未満の低車速であると判定する間は、ステップS12において、第1のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御を行う。
【0051】
かかる第1のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御に当たっては、EVモードからHEVモードへのモード切り替え要求があるか否かにより、エンジン始動要求があるか否かをチェックし、エンジン始動要求が発生したとき、
図1における第1クラッチ7の目標締結容量tTc1を、第1クラッチ7(CL1)が締結される所定容量以上に設定すると共に、目標モータトルクtTmを、モータ/ジェネレータ6によるエンジン1のクランキングが可能なモータトルク値以上に設定して、第1のエンジン始動系(モータ/ジェネレータ6)によるエンジン始動を行わせる。
従って、ステップS11およびステップS12は、本発明におけるエンジン始動系選択手段に相当する。
【0052】
ところで、EV走行中の車速VSPがVSP<VSP_sの低車速である場合は、モータ/ジェネレータ6をエンジン始動に用いても、EV走行に供し得るモータ/ジェネレータ6のEV走行用駆動力(図4の一点鎖線)がEV走行時要求駆動力(図4の実線)以上であり、モータ/ジェネレータ6のみによるEV走行が可能であって、燃費の悪化に関する前記の問題を生ずることはない。
【0053】
しかしてEV走行中の車速VSPがVSP≧VSP_sの車速域である場合は、モータ/ジェネレータ6をエンジン始動に用いると、EV走行に供し得るモータ/ジェネレータ6のEV走行用駆動力(図4の一点鎖線)がEV走行時要求駆動力(図4の実線)未満であり、駆動力不足に起因してモータ/ジェネレータ6のみによるEV走行が不能となり、エンジン1との協調によるHEV走行へのモード切り替えが不可避であり、燃料消費率の向上を旨とするEVモード領域が狭くて車両の燃費が悪化する。
【0054】
そこで本実施例においては、EV走行中の車速VSPがVSP≧VSP_sの車速域である場合(ステップS11)、制御をステップS13に進め、低温時エンジン始動に用いられるも、それ以外では殆ど用いられることのない第2のエンジン始動系(スタータモータ8)の有効活用により、これを用いたエンジン始動制御を以下のごとくに行う。
【0055】
つまりステップS13では、EVモードからHEVモードへのモード切り替え要求があるか否かにより、エンジン始動要求があるか否かをチェックし、エンジン始動要求が発生したとき、
図1におけるスタータモータ制御信号SsmをSsm=ONにしてスタータモータ8を駆動し、第2のエンジン始動系(スタータモータ8)を用いたエンジン始動を行わせる。
従って、ステップS11およびステップS13は、本発明におけるエンジン始動系選択手段に相当する。
【0056】
かように、EV走行中の車速VSPがVSP≧VSP_sの車速域である場合に(ステップS11)、低温時エンジン始動用の第2のエンジン始動系(スタータモータ8)を用いてエンジン1を始動させるように構成すると(ステップS13)、
この間、モータ/ジェネレータ6の制限された定格トルクでエンジン始動トルク分を賄う必要がなくなり、図4におけるVSP≧VSP_sの車速域においては、同図に破線で示すモータ/ジェネレータ6のモータ出力可能駆動力を全て、EV走行用駆動力として用いることができる。
【0057】
従って、図4に破線で示すモータ出力可能駆動力が、実線で示すEV走行時要求駆動力よりも小さくなる車速VSP_uまで、モータ/ジェネレータ6のみによるEV走行が可能となって、エンジン1との協調によるHEV走行へモード切り替えを車速VSP_uまで先延ばしすることができる。
これにより、燃料消費率の向上を旨とするEVモード領域を図4に矢印で示すごとく、VSP_sからVSP_uへと拡大することができ、かかるEVモード領域の拡大分だけ車両の燃費を、図5に示すように改善することができる。
【0058】
<実施例の効果>
図2につき上述した本実施例のエンジン始動制御によれば、
図4の一点鎖線で示すモータ/ジェネレータ6のEV走行用駆動力が、同図に実線で示すEV走行時要求駆動力未満になる設定車速VSP_s未満の車速域でエンジン始動要求が発生した場合は(ステップS11およびステップS12)、第1のエンジン始動系(モータ/ジェネレータ6)を用いたエンジン始動制御を行わせるようにするが(ステップS12)、
EV走行中の車速VSPが設定車速VSP_s以上である場合は(ステップS11およびステップS13)、第2のエンジン始動系(スタータモータ8)を用いたエンジン始動制御を行わせるようにしたため(ステップS13)、
EV走行中の車速VSPがVSP≧VSP_sの車速域である場合、モータ/ジェネレータ6の制限された定格トルクでエンジン始動トルク分を賄う必要がなくなり、図4に破線で示すモータ/ジェネレータ6のモータ出力可能駆動力を全て、EV走行用駆動力として用いることができる。
【0059】
従って、図4に破線で示すモータ出力可能駆動力が、実線で示すEV走行時要求駆動力よりも小さくなる車速VSP_uまで、モータ/ジェネレータ6のみによるEV走行が可能となって、エンジン1との協調によるHEV走行へモード切り替えを車速VSP_uまで先延ばしすることができる。
よって、EVモード領域を図4に矢印で示すごとく、VSP_sからVSP_uへと拡大することができ、かかるEVモード領域の拡大分だけ車両の燃費を向上させることができる。
【0060】
<他の実施例>
なお上述の実施例では、EV走行中の車速VSPが設定車速VSP_s未満であるか、以上であるかに応じて、第1のエンジン始動系(モータ/ジェネレータ6)を用いたエンジン始動制御を行うか、第2のエンジン始動系(スタータモータ8)を用いたエンジン始動制御を行うかを決定することとしたが、
この代わりに、EV走行中のモータ/ジェネレータ回転数Nmに応じて、第1のエンジン始動系(モータ/ジェネレータ6)を用いたエンジン始動制御を行うか、第2のエンジン始動系(スタータモータ8)を用いたエンジン始動制御を行うかを決定するようにしてもよい。
【0061】
かように、EV走行中の車速VSPに代え、EV走行中のモータ/ジェネレータ回転数Nmを、EV走行中の回転速度情報として用い得る理由は、エンジン始動にモータ/ジェネレータ6(第1のエンジン始動系)を用いる場合、モータ/ジェネレータ6の定格トルクを発生可能なモータ回転数でエンジン1をクランキングさせるためである。
【0062】
そこで、この定格トルク発生可能回転数を設定回転数と定め、EV走行中のモータ/ジェネレータ回転数Nmがこの設定回転数(定格トルク発生可能回転数)未満である場合は、第1のエンジン始動系(モータ/ジェネレータ6)を用いたエンジン始動制御を行わせ、EV走行中のモータ/ジェネレータ回転数Nmが設定回転数(定格トルク発生可能回転数)以上である場合は、第2のエンジン始動系(スタータモータ8)を用いたエンジン始動を行わせるように構成する。
かかる構成によっても、前記した図示の実施例と同様な作用効果を得ることができ、燃費向上を旨とするEVモード領域の拡大により燃費の改善を図ることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 エンジン
2FL,2FR 左右前輪(駆動車輪)
3RL,3RR 左右後輪
4 Vベルト式無段変速機
6 モータ/ジェネレータ(第1のエンジン始動系)
7 第1クラッチ(第1のエンジン始動系)
8 スタータモータ(第2のエンジン始動系)
9 第2クラッチ
11 ハイブリッドコントローラ
12 エンジン回転センサ
13 モータ/ジェネレータ回転センサ
14 変速機入力回転センサ
15 変速機出力回転センサ
16 アクセル開度センサ
17 蓄電状態センサ
18 エンジン冷却水温センサ
31 バッテリ
32 エンジンコントローラ
33 モータコントローラ
34 インバータ
36 第1クラッチコントローラ
37 第1クラッチ締結圧制御ユニット
38 変速機コントローラ
39 第2クラッチ締結圧制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、第1クラッチ、モータ/ジェネレータ、第2クラッチおよび駆動車輪を伝動経路の配列順とし、前記第1クラッチおよび第2クラッチの締結・解放制御により、前記エンジンおよびモータ/ジェネレータのうち、モータ/ジェネレータのみによる電気走行を行うか、エンジンおよびモータ/ジェネレータの協調によるハイブリッド走行を行うかを選択可能なハイブリッド車両に用いられ、
前記第1クラッチを締結して前記モータ/ジェネレータにより前記エンジンを始動させる第1のエンジン始動系と、エンジン始動用スタータモータにより前記エンジンを始動させる第2のエンジン始動系とを具備したエンジン始動制御装置において、
前記電気走行に係わる回転速度情報を基に、該回転速度情報が設定速度未満のときは前記第1のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御が行われ、前記回転速度情報が設定速度以上のときは前記第2のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御が行われるよう、第1のエンジン始動系または第2のエンジン始動系を選択するエンジン始動系選択手段を設けたことを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された、ハイブリッド車両のエンジン始動制御装置において、
前記エンジン始動系選択手段は、前記回転速度情報として電気走行中の車速を用い、該車速が設定車速未満のときは前記第1のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御が行われ、前記車速が設定車速以上のときは前記第2のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御が行われるよう、第1のエンジン始動系または第2のエンジン始動系を選択するものであることを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された、ハイブリッド車両のエンジン始動制御装置において、
前記設定車速は、前記モータ/ジェネレータの定格トルクからエンジン始動に要するエンジン始動用トルク分を差し引いて得られる電気走行用トルク分で発生可能な電気走行用駆動力が、車両の走行抵抗および所定加速度マージン分の和値未満になったときの車速であることを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載された、ハイブリッド車両のエンジン始動制御装置において、
前記エンジン始動系選択手段は、前記回転速度情報として電気走行中のモータ/ジェネレータ回転数を用い、該モータ/ジェネレータ回転数が設定回転数未満のときは前記第1のエンジン始動系を用いたエンジン始動制御が行われ、前記モータ/ジェネレータ回転数が設定回転数以上のときは前記第2のエンジン始動系を用いたエンジン始動が行われるよう、第1のエンジン始動系または第2のエンジン始動系を選択するものであることを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動制御装置。
【請求項5】
前記モータ/ジェネレータの定格トルクが、エンジン始動に要するエンジン始動用トルク分と、電気走行用トルク分との和値に相当するよう定められている、請求項4に記載された、ハイブリッド車両のエンジン始動制御装置において、
前記設定回転数は、前記モータ/ジェネレータの定格トルクを発生可能なモータ/ジェネレータ回転数であることを特徴とするハイブリッド車両のエンジン始動制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−250676(P2012−250676A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126881(P2011−126881)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】