説明

ハイブリッド車両の制御装置および制御方法

【課題】所謂ガス欠寸前といったような燃料の残量が低水準残量域にある場合であって、航続距離への要求が高い走行状態にあるときには、燃費を最優先とすべく、EV走行範囲を拡大して燃費を向上させ、航続距離を伸ばす。
【解決手段】エンジンおよびモータの双方または何れか一方が、設定した条件に応じた態様で、選択的に稼動する動力系に対する駆動態様の制御を行う。この制御では、動力系稼動態様変更制御部120によって、燃料残量情報取得部110が取得した燃料残量情報による燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には、該燃料の残量が所定値以上である場合とは異なる条件を設定する。即ち、燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には、該燃料の残量が所定値以上である場合におけるよりもエンジンの稼動機会が相対的に低下するように上記の条件設定を変更した制御モードに入る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動輪を駆動可能な動力源としての内燃機関(以下、エンジン)および電動機(以下、モータ)の双方または何れか一方が、或る設定した条件に応じた態様で、選択的に稼動する動力系を備えたハイブリッド車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両では、エンジンを停止させ、モータのみで走行するモード(以下、EV走行)を有する。エンジン用燃料の残量が少なくなった場合に、バッテリの電気エネルギーによってEV走行をすることができる。このため、エンジン用燃料がなくなった場合にもある程度の距離を走ることができ、航続距離を伸ばすことが可能である(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1所載の技術では、エンジン用燃料の残量が少なくなった所謂ガス欠の状態に陥った場合にもEV走行の距離を伸ばす為に、燃料の残量がある閾値を下回ると、バッテリの残量(SOC)のコントロール値を、高めとなるように制御を行う。即ち、ガス欠時のバッテリ残量をより多く確保してEV走行の距離を伸ばそうとする技術提案である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−320946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この提案では、ガス欠寸前時のバッテリの充電の水準(SOC)を上昇させるために、通常制御時よりも高いバッテリSOCを中心とした充放電指令をバッテリの充電回路に与える。そのため、通常制御時よりも高い頻度で或いは長い時間に亘ってバッテリ電要求が生じることになる。
上述のような充電要求を満たすために、次のような二通りのうちの何れか一方もしくは双方の方策を講じることになる。
一つの方策では、エンジンに対し、バッテリへの充電要求を満たすべく、通常車両を駆動させるために必要である以上に稼動させるような制御を行い、余ったエネルギーをバッテリの充電に充当する。即ち、エンジンが車両に搭載された走行用燃料を消費して、バッテリを充電させるための電力を発生させている。
【0005】
もう一方の方策では、車両の減速エネルギーによりモータを発電機として機能させ、発電により生じた電気エネルギーをバッテリに充電する過程(以下、回生)において、より多くの電力を充電させるようモータおよびインバータなどの電機機器を制御する。即ち、本来であれば、次回のモータ走行や加速時のアシストのために使える回生電力の一部をバッテリのSOCを高めるための充電に振り向けている。このため充電に振り向ける分の電力は、走行用燃料を消費してエンジンを稼動させて得なければならない。
【0006】
従って、上記何れの方策を講じる場合においても、バッテリSOCを上昇させるべくバッテリ充電を行った際に、通常制御時よりもより多くの走行用燃料を消費してしまうと考えられる。
即ち、燃料がなくなった後のEV走行距離は伸ばすことができるが、燃料が所定値よりも少なくなった後は、燃料を通常の走行時より多く消費しながらバッテリに蓄える電力を増やしておくため、結果的に、燃料がなくなるまでの走行距離は短くなってしまうという問題がある。
本発明は上述のような状況に鑑みてなされたものであり、燃料に限りがある条件下でEV走行を適切に織り交ぜた走行駆動制御を行うことによって総合的に航続距離を増大させることが可能なハイブリッド車の制御装置および制御方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のハイブリッド車の充電制御装置では、次のような手段を構成している。
即ち、本発明のハイブリッド車両の制御装置は、駆動輪を駆動可能な動力源としての内燃機関および電動機の双方または何れか一方が、設定した条件に応じた態様で、選択的に稼動する動力系に対する駆動態様の制御を行う。
【0008】
燃料残量情報取得部を設け、この燃料残量情報取得部によって前記内燃機関の燃料の残量を表す情報を取得する。
また、動力系稼動態様変更制御部を設け、この動力系稼動態様変更制御部によって前記燃料残量情報取得部が取得した燃料残量情報による燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には、該燃料の残量が所定値以上である場合とは異なる条件を設定する。
即ち、燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には、該燃料の残量が所定値以上である場合におけるよりも前記内燃機関の稼動機会が相対的に低下するように前記条件の設定を変更する。
【発明の効果】
【0009】
内燃機関(エンジン)を稼動させる機会を適切に調整することが可能になりハイブリッド車両の航続距離を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一つの実施の形態としてのハイブリッド車両の制御装置を表す機能ブロック図である。
【図2】図1のハイブリッド車の制御装置の全体の動作を表すフローチャートである。
【図3】図1のハイブリッド車の制御装置によるEV走行の動作点を説明するための図である。
【図4】図1のハイブリッド車の制御装置による燃費特性を説明するための図である。
【図5】図1のハイブリッド車の制御装置の動作に関するEV領域について説明するための図である。
【図6】図1のハイブリッド車の制御装置による充放電マップの変更の例について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳述することにより本発明を明らかにする。
(ハイブリッド車両の制御装置の構成)
図1は、本発明の一つの実施の形態としてのハイブリッド車両の制御装置を表す機能ブロック図である。
【0012】
このハイブリッド車両の制御装置100は、エンジンおよびモータの双方または何れか一方が、設定した条件に応じた態様で、選択的に稼動する動力系を備えたハイブリッド車両の制御装置である。
燃料計の検出出力である燃料残量検出データを受けてエンジンの燃料の残量を表す情報を取得する燃料残量情報取得部110と、エンジンおよびモータを選択的に稼動させるための条件の設定を変更する動力系稼動態様変更制御部120とを備えている。
【0013】
動力系稼動態様変更制御部120は、燃料残量情報取得部110が取得した燃料残量情報による燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には該燃料の残量が所定値以上である場合におけるよりもエンジンの稼動機会が相対的に低下する処置を講じる。
即ち、燃料残量情報取得部110が取得した燃料残量情報による燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には該燃料の残量が所定値以上である場合におけるよりもエンジンの稼動機会が相対的に低下するように前記条件の設定を変更する。
【0014】
動力系稼動態様変更制御部120は、燃料の残量が上述の低水準残量域にある場合には、モータの電源であるバッテリの残量値と充放電パワーとの関係を規定する充放電マップを該低水準残量域に対応したものに切替えることにより前記条件の設定を変更する。
このため、動力系稼動態様変更制御部120は、場合によって異なる充放電マップを切替えて参照し、この切替えを、燃料残量情報取得部110が取得した燃料残量情報に基づいて行う。
【0015】
一方、動力系稼動態様変更制御部120は、例えば、ROM等に用意してある、バッテリの残量値と充放電パワーとの関係を規定する充放電マップを所要のタイミングで参照することにより、上記エンジンとモータとの双方または何れか一方を選択的に稼動させる。
即ち、充放電マップは、エンジンとモータとの双方または何れか一方を選択的に稼動させる条件を規定するものであり、通常走行駆動用の第一充放電マップと、燃料の残量が低水準である特定の場合に適用する第二充放電マップとがある。本実施の形態では、動力系稼動態様変更制御部120では、これら2通りの充放電マップを切替えて選択的に適用することによってエンジンとモータとの双方または何れか一方を選択的に稼動させる条件を変更する。
【0016】
エンジンの起動と停止の制御は、動力系稼動態様変更制御部120からエンジン停止指令E1およびエンジン起動指令E2を発して行う。
一般にEV走行モードを持つハイブリッド車両において、このEV走行範囲を決定するには、燃費、動力性能、バッテリ寿命等を全て考慮している。例えば、エンジンの起動・停止を判定するパワーが低いと、EV走行できる領域が狭くなり、低負荷領域でEV走行モードを採ることによる燃費効果を最大限に発揮することができない。しかしエンジンの起動・停止を判定するパワーが高いと、バッテリのSOCの上昇や下降が激しくなり走行状態によっては再加速要求時にモータによるアシストのための駆動パワーが確保されないという問題が発生する。またバッテリに対する充電および放電量が多くなり、インバータ等の電気機器に負担を与えてしまう。
【0017】
本発明の実施の形態では、所謂ガス欠寸前といったような燃料の残量が低水準残量域にある場合であって、航続距離への要求が高い走行状態にあるときには、燃費を最優先とすべく、EV走行範囲を拡大して燃費を向上させ、航続距離を伸ばすことができる。
即ち、燃料の残量が所定値より少ない場合には、燃料の残量が所定値より多い場合に比べ、モータからの駆動力のみよる走行状態から、エンジンの駆動力、又は、エンジンとモータの駆動力による走行状態へ移行しにくいように、既述の条件を変更する。このような条件の変更により、燃料の残量が少ない場合には、モータの駆動力のみによる走行が増える。これにより、燃料の消費の増加を抑制し、航続距離を伸ばすことができる。
【0018】
モータの駆動力のみによる走行が増えると、バッテリに負担が掛かりその劣化が促進されることになるが、燃料の残量が所定値より少ない場合だけ、このような制御モードに入るため、常時、モータの駆動力のみによる走行を増やす場合より、バッテリの劣化を抑制することができる。
一方、動力系稼動態様変更制御部120は、各該当するセンサからバッテリに関する種々の情報を受ける。即ち、バッテリの残量を表すバッテリ残量情報(SOC)、充放電パワーを表す充放電パワー情報、使用状況を表すバッテリ使用状況情報の各情報を受信し取得する。
【0019】
本発明の実施の形態では、バッテリのSOCの値をパラメータとしたバッテリへの充電および放電の要求量を指定するマップを燃料の残量に応じて切替えて適用する。即ち、燃料の残量が所謂ガス欠に近い低水準残量域にある場合には、エンジンを稼動させる機会が通常の場合よりも減少するようなマップを適用した制御条件にする。
燃料の残量が所謂ガス欠に近い低水準残量域にある場合に限り、上述のように制御に適用するマップを切替えた制御モードに入るようにすることにより、EV走行領域の拡大に伴うバッテリ使用頻度上昇によるバッテリのSOCの低下を抑制できる。即ち、上述の制御モードに入る前後においてバッテリのSOCの水準を平坦に維持できる。従って、SOC低下による駆動力不足等の懸念を解消することができる。
【0020】
一方、上述のバッテリ使用状況情報は、必ずしも一時期にセンサから取得するのでなく、或る程度の時間経過における使用状況の推移に基づいて取得する。動力系稼動態様変更制御部120は、このようなバッテリ使用状況情報にも依拠して、適用する充放電マップを切替える。
即ち、車両走行中のバッテリの充電・放電量などのバッテリ使用状況情報に基づいて、その状況に適合するようにEV走行範囲を拡大する。これにより、バッテリへの過度な充電・放電を抑制することができ、EV走行範囲拡大によるバッテリ寿命への影響に関する懸念を払拭できる。
【0021】
即ち、バッテリの使用機会が相対的に低い場合は、EV走行範囲を拡大する制御モードとなるように、低水準残量域と判定する燃料残量閾値を上げる。これにより、より早い段階からEV走行範囲を拡大することが出来、燃費を向上させて、航続距離を伸ばすことができる。
一方、バッテリの使われ方が比較的多い場合は、EV走行範囲を抑制するような制御モードとなるように、低水準残量域と判定する燃料残量閾値を下げる。これにより、EV走行範囲拡大によるバッテリへの更なる使用負荷の増大を抑制することが出来るため、バッテリの寿命に影響を与える懸念を解消することができる。
【0022】
以上の結果、所謂ガス欠寸前といったような燃料の残量が低水準残量域にある場合に、航続距離の拡大とバッテリ劣化防止との双方の要請を満足させることができる。
また一方、本実施の形態では、このハイブリッド車両の走行状態を推定する走行状態推定部130を備えている。走行状態推定部130はナビゲーションシステムからの、GPS情報や道路交通情報を含むナビゲーション情報、および、本ハイブリッド車両のコントローラで生成した車両走行パターン情報等を受け、これらに基づいて走行状態を推定する。
【0023】
走行状態推定部130は、上述のように推定して得た走行状態を表す走行状態推定情報を動力系稼動態様変更制御部120に供給する。
動力系稼動態様変更制御部120は、この走行状態推定情報にも基づいてエンジンおよびモータを選択的に稼動させるための条件の設定を変更する。
EV走行範囲を拡大するような条件変更による燃費の向上は、エンジン仕事の低い低負荷走行時において顕著であるため、反対に余り効果が多く見込めないような走行状態では特にこのような条件の変更はしないといった態様を採ってもよい。即ち、一般道や市街地などでの特に燃費効果が期待できる走行状態において、EV走行範囲を拡大することによりその走行負荷に応じた燃費効果が著しい最適なEV走行範囲の拡大を図ることができる。これにより、より確実な燃費向上効果が発揮でき、航続距離を伸ばすことが可能になる。
【0024】
(ハイブリッド車の制御装置の全体の動作)
図2は、図1のハイブリッド車の制御装置の全体(図1には示していないコントローラをも含む)の動作を表すフローチャートである。以下、このフローチャートを参照して、本発明の実施の形態であるハイブリッド車の制御装置の全体の動作を説明する。
ステップS201では、ドライバーによるアクセル開度を読み込む。
ステップS202では、ドライバーによるブレーキ踏み込み量を読み込む。
ステップS203では、車両に設置された走行速度検知手段によって車体の速度を読み込む。
【0025】
ステップS204では、ドライバーが車両に求める加速力(駆動力)を、S201で読み込んだドライバーの加速の要求を表すアクセル開度、もしくはステップS202で読み込んだ減速の要求を表すブレーキ踏み込み量と、ステップS203で読み込んだ車速を用い、これらを軸としたマップから求めることにより駆動に必要なパワーを計算する。
ステップS205では、燃料残量情報取得部110によって車両に搭載された燃料の残量Fを検出する。
【0026】
ステップS206では、ステップS205で検出した燃料の残量が閾値Fth未満か否かを判断し、未満であれば(ステップS206:Yes)ステップS209へ、そうでなければ(ステップS206:No)ステップS207へ移行する。
ステップS209では、燃費残量警告信号E3を発して該信号E3により燃料警告灯点灯手段を用いて警告灯を点灯することにより、ガス欠が近いことをドライバーに知らせる。
ステップS2010では、バッテリのエネルギー残量を示すSOCと、充放電パワーを軸としたマップのうち燃料の残量が低水準である特定の場合に適用する第二充放電マップを読み込む。
【0027】
ステップS211では、バッテリ放電積算量(Ah)を読み込むことによりバッテリの寿命を推定する。
ステップS212では、車両情報もしくはナビ情報を用いて、車両の走行状態を推測する。
ステップS2013では、エンジンを起動するパワーと、停止するパワーのガス欠寸前専用のものを上記のバッテリ放電積算量(Ah)と走行状態推定情報に基づいて設定し、ステップS214に移行する。
【0028】
ステップS207では、バッテリのエネルギー残量を示すSOCと、充放電パワーを軸としたマップのうち通常走行駆動用の第一充放電マップを読み込む。
ステップS208では、エンジンを起動するパワーと停止するパワーの通常走行駆動用のデータを読み込み、S214に移行する。
ステップS214では、バッテリのエネルギー残量を表すSOCを読み込む。
【0029】
ステップS215では、ステップS208で読み込んだ通常走行駆動用のデータもしくはステップS210で読み込んだ燃料の残量が低水準である特定の場合に適用する第二充放電マップを用いて、SOCに応じた充放電パワーを計算する。
ステップS216では、最終的にエンジンに求められる要求パワーを、駆動パワーと充放電パワーの和をとることにより計算する。
ステップS217では、エンジンが起動していてかつ要求パワーがステップS208もしくはステップS213で設定した停止パワー未満か否かを判断し、未満でなければ(ステップS217:No)ステップS219に移行する。未満であれば(ステップS217:Yes)、ステップS218に移行しエンジンを停止し、ステップS219に移行する。
【0030】
ステップS219では、エンジンが停止していてかつ要求パワーがステップS208もしくはステップS213で設定した起動パワーを上回っているか否かを判断し、上回っていなければ(ステップS219:No)、リターンに移行する。一方、上回っていればステップS220に移行してエンジンを起動し、リターンへ移行する。
【0031】
図3は、図1のハイブリッド車の制御装置によるEV走行の動作点を説明するための図である。起動停止パワーを変更しEV領域を拡大した場合には、エンジン低負荷動作点による運転が行われなくなる。図中に示したエンジン平均燃費率等高線が表すように、エンジン低負荷動作点は効率が悪い。このような運転を避けることによって、もしエンジン仕事の上昇が抑えられた場合に、全体的な効率を上げることができ、燃費が向上する。
【0032】
図4は、図1のハイブリッド車の制御装置による燃費特性を説明するための図である。
図4(a)は、本発明の実施の形態における平均燃費率の変化例を示し、図4(b)は、とエンジン仕事の変化例を示している。図4(a)の平均燃費率は単位出力エネルギーを得るために消費した燃料の量を表す指標であり、値が小さいほど少ない燃料で出力を得たことになるので効率がよいことを示す。また図4(b)のエンジン仕事は走行のためエンジンがした仕事の総量を表しており、一般的に燃費は、平均燃費率とエンジン仕事との積で決まってくる。EV領域の拡大を行うことによりエンジンの効率が悪い低負荷運転が行われなくなり、その分図中に示されたように平均燃費率は向上する。しかしながら、EV領域の拡大は充電や放電などのロスを多くしエンジン仕事を増大させてしまうため、図中に示されたようにエンジン仕事は増える。このような背景により、低負荷走行状態などエンジン仕事が抑えられたときに車両全体の効率は上昇するため、燃費は向上する。
【0033】
図5は、図1のハイブリッド車の制御装置の動作に関するEV領域について説明するための図である。図5にはエンジン出力要求値とEV領域の例について示す。エンジン出力要求値が起動パワーを上回るとEV走行を止め、エンジンが起動する。またエンジン出力要求値が停止パワーを下回るとエンジンを停止し、EV走行に移行する。通常走行駆動の場合よりも起動パワーや停止パワーを上昇させることによって、EV走行領域が拡大されていることが図からわかる。その際エンジンは低負荷の低効率運転点で作動することはなくなるので、もしエンジン仕事の上昇が抑えられれば全体的な効率が向上し燃費が向上する。
【0034】
図6は、図1のハイブリッド車の制御装置による充放電マップの変更の例について説明するための図である。通常走行駆動の場合よりもEV走行領域を拡大するに際して、充電と放電要求マップの設定を変更する場合の例を示している。図示のように、充電側の要求出力を高めることによりEV走行頻度が上がって消費電力が上がっても、バッテリSOCの中心値が急激に下がることを防止することができる。
【0035】
(本発明の実施の形態における効果)
以上説明した本発明の実施の形態における効果を構成との関連において次に列記する。
(1)エンジンおよびモータの双方または何れか一方が、設定した条件に応じた態様で、選択的に稼動する動力系に対する駆動態様の制御を行う。この制御では、動力系稼動態様変更制御部120によって、燃料残量情報取得部110が取得した燃料残量情報による燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には、該燃料の残量が所定値以上である場合とは異なる条件を設定する。即ち、燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には、該燃料の残量が所定値以上である場合におけるよりもエンジンの稼動機会が相対的に低下するように上記の条件設定を変更した制御モードに入る。
【0036】
このため、所謂ガス欠寸前といったような燃料の残量が低水準残量域にある場合であって、航続距離への要求が高い走行状態にあるときには、燃費を最優先とすべく、EV走行範囲を拡大して燃費を向上させ、航続距離を伸ばすことができる。また、燃料の残量が所定値より少ない場合だけ、このような制御モードに入るため、常時、モータの駆動力のみによる走行を増やす場合より、バッテリの劣化を抑制することができる。
【0037】
(2)上記(1)において特に、動力系稼動態様変更制御部120は、燃料の残量が低水準残量域にある場合には、モータの電源であるバッテリの残量値と充放電パワーとの関係を規定する充放電マップを上記低水準残量域に対応したものに切替えることにより上記の条件設定を変更する。
燃料の残量が所謂ガス欠に近い低水準残量域にある場合に限り、上述のように制御に適用するマップを切替えた制御モードに入るようにすることにより、EV走行領域の拡大に伴うバッテリ使用頻度上昇によるバッテリのSOCの低下を抑制できる。即ち、上述の制御モードに入る前後においてバッテリのSOCの水準を平坦に維持できる。従って、SOC低下による駆動力不足等の懸念を解消することができる。
【0038】
(3)上記(1)において特に、動力系稼動態様変更制御部120は、燃料の残量が低水準残量域にある場合には、モータの電源であるバッテリの使用状況を表す情報に基づいて上記の条件設定を変更する。
このため、バッテリの使用機会が相対的に低い場合は、EV走行範囲を拡大する制御モードとなるように、低水準残量域と判定する燃料残量閾値を上げる。これにより、より早い段階からEV走行範囲を拡大することが出来、燃費を向上させて、航続距離を伸ばすことができる。
【0039】
一方、バッテリの使われ方が比較的多い場合は、EV走行範囲を抑制するような制御モードとなるように、低水準残量域と判定する燃料残量閾値を下げる。これにより、EV走行範囲拡大によるバッテリへの更なる使用負荷の増大を抑制することが出来るため、バッテリの寿命に影響を与える懸念を解消することができる。
以上の結果、所謂ガス欠寸前といったような燃料の残量が低水準残量域にある場合に、航続距離の拡大とバッテリ劣化防止との双方の要請を満足させることができる。
【0040】
(4)上記(1)において特に、動力系稼動態様変更制御部120は、燃料の残量が低水準残量域にある場合には、当該ハイブリッド車両の走行状態に関する推定情報(走行状態推定部130の出力)に基づいて上記の条件設定を変更する。
このため、一般道や市街地などでの特に燃費効果が期待できる走行状態において、EV走行範囲を拡大することによりその走行負荷に応じた燃費効果が著しい最適なEV走行範囲の拡大を図ることができる。これにより、より確実な燃費向上効果が発揮でき、航続距離を伸ばすことが可能になる。
【0041】
(5)上記(1)の装置に対応したハイブリッド車両の制御方法では、所謂ガス欠寸前といったような燃料の残量が低水準残量域にある場合であって、航続距離への要求が高い走行状態にあるときに航続距離を伸ばすことができる。即ち、上述のような燃料の残量が低水準残量域にある場合に、燃費を最優先とすべく、EV走行範囲を拡大して燃費を向上させることができる。また、燃料の残量が所定値より少ない場合だけ、このような制御モードに入るため、常時、モータの駆動力のみによる走行を増やす場合より、バッテリの劣化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0042】
100…ハイブリッド車両の制御装置
110…燃料残量情報取得部
120…動力系稼動態様変更制御部
130…走行状態推定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪を駆動可能な動力源としての内燃機関および電動機の双方または何れか一方が、設定した条件に応じた態様で、選択的に稼動する動力系を備えたハイブリッド車両の制御装置であって、
前記内燃機関の燃料の残量を表す情報を取得する燃料残量情報取得部と、
前記燃料残量情報取得部が取得した燃料残量情報による燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には該燃料の残量が所定値以上である場合におけるよりも前記内燃機関の稼動機会が相対的に低下するように前記条件の設定を変更する動力系稼動態様変更制御部と、
を備えていることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記動力系稼動態様変更制御部は、燃料の残量が前記低水準残量域にある場合には、前記電動機の電源であるバッテリの残量値と充放電パワーとの関係を規定する充放電マップを前記低水準残量域に対応したものに切替えることにより前記条件の設定を変更することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記動力系稼動態様変更制御部は、燃料の残量が前記低水準残量域にある場合には、前記電動機の電源であるバッテリの使用状況を表す情報に基づいて前記条件の設定を変更することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記動力系稼動態様変更制御部は、燃料の残量が前記低水準残量域にある場合には、当該ハイブリッド車両の走行状態に関する推定情報に基づいて前記条件の設定を変更することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
内燃機関および電動機の双方または何れか一方が、設定した条件に応じた態様で、選択的に稼動する動力系を備えたハイブリッド車両の制御方法であって、
前記内燃機関の燃料の残量が所定値未満の低水準残量域にある場合には該燃料の残量が所定値以上である場合におけるよりも前記内燃機関の稼動機会が相対的に低下するように前記条件の設定を変更することを特徴とするハイブリッド車両の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−167964(P2010−167964A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13487(P2009−13487)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】