ハイブリッド車両の制御装置
【課題】トラクション制御中における駆動電力の応答性を高める。
【解決手段】エンジン3に駆動される発電機5と、車両を駆動する駆動モータ11とを備える、ハイブリッド車両の発電制御装置において、車輪13のスリップに応じたモータトルク指令値制御を検出するトラクション制御検出手段1と、前記トルク指令値に応じた目標駆動電力から、発電電力を演算する要求発電電力演算手段1と、要求発電電力のための、発電機回転速度指令値とエンジントルク指令値からなる運転点又は発電機トルク指令値とエンジン回転速度指令値からなる運転点を演算する運転点演算手段1と、運転点から発電機及びエンジンを制御する制御手段1と、実際の発電電力とモータの実際の駆動電力が一致するようにトルクを制御する駆動モータ制御手段1,2,4と、を有し、トラクション制御中に、燃費を優先した運転点に代えて、発電機の回転速度変化量が所定値以下である運転点に設定する。
【解決手段】エンジン3に駆動される発電機5と、車両を駆動する駆動モータ11とを備える、ハイブリッド車両の発電制御装置において、車輪13のスリップに応じたモータトルク指令値制御を検出するトラクション制御検出手段1と、前記トルク指令値に応じた目標駆動電力から、発電電力を演算する要求発電電力演算手段1と、要求発電電力のための、発電機回転速度指令値とエンジントルク指令値からなる運転点又は発電機トルク指令値とエンジン回転速度指令値からなる運転点を演算する運転点演算手段1と、運転点から発電機及びエンジンを制御する制御手段1と、実際の発電電力とモータの実際の駆動電力が一致するようにトルクを制御する駆動モータ制御手段1,2,4と、を有し、トラクション制御中に、燃費を優先した運転点に代えて、発電機の回転速度変化量が所定値以下である運転点に設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクション制御を実行する電気自動車として、特許文献1に開示された電気自動車の駆動制御装置が知られている。この従来技術は、車両コントローラにより走行用モータの回転速度に基づいて車輪の加速度を演算し、演算された車輪加速度と、走行用モータのトルク指令値に基づいて算出される車体加速度から、車輪のスリップの有無を判定する。そして、スリップありと判定された場合には、走行用モータへのトルク指令値を減少させてモータコントローラへ指令(以下、トラクション制御)し、スリップなしと判定された場合には、走行用モータへのトルク指令値をアクセルペダル踏込量に応じた通常走行の指令値となるように制御する。これにより、摩擦抵抗の低い路面における走行をスムーズに行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−182118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリーズハイブリッド車両において、温度低下などによってバッテリの入出力電力(以下、充放電可能電力ともいう)が制限されている場合には、バッテリへの充放電が行われないようにすることを目的に、駆動力の要求値に応じて発電機に電力を発生させ、当該発電機が発電した実発電電力を過不足なく駆動電力で消費する制御(以下、ダイレクト配電制御)を実施する必要が生ずる。
【0005】
ダイレクト配電制御では、バッテリの入出力可能電力とアクセル開度や車速などから算出される所望の駆動トルクを実現するために必要な駆動電力を演算し、発電機を制御する。そして、発電電力指令値を実現するように発電機が制御された結果として発電された実発電電力を駆動機の駆動電力として消費するための駆動トルクを算出し、駆動機を制御する。
【0006】
しかしながら、ダイレクト配電時のトラクション制御中に、上記従来の駆動制御を行うと、トラクション制御では高応答に駆動トルク指令値が変化するため、駆動電力(=発電電力)も逐次変化する。そのため、発電電力を高応答に指令しても、エンジンの応答は、回転速度変化によるエンジンイナーシャを動かす応答に左右されるので、狙い通りのトラクションを得ることができず、また所望の加速が得られず、最悪の場合には駆動トルクが発散してしまうという問題がある。なお、充放電可能電力を超えてバッテリへ充電した場合には、狙い通りのトラクションは得られるが、過度な充電による内部抵抗上昇により、極度な電圧上昇が発生する可能性がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、トラクション制御中における駆動電力の応答性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ハイブリッド車両のダイレクト配電時のトラクション制御中においては、エンジンの運転点制御を、燃費優先制御からエンジントルク変化を優先させる制御に設定することによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ダイレクト配電時のトラクション制御中においてはエンジントルク変化を優先させる制御に設定することにより、エンジントルクの変化だけで狙い通りの駆動電力(=発電電力)の応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態を適用したシリーズハイブリッド車両のブロック図である。
【図2】図1のシステムコントローラで実行されるダイレクト配電時のトラクション制御中における制御手順を示すフローチャートである。
【図3】図2のステップ1の要求駆動電力演算の手順を示す制御ブロック図である。
【図4】図2のステップ1で用いられるアクセル開度に対する駆動モータの回転速度と駆動モータの出力トルクとの関係を示すトルクマップの一例である。
【図5】図1のシステムコントローラで実行されるトラクション制御の手順を示す制御ブロック図である。
【図6】図1のバッテリの温度に対する充放電可能電力を示すマップの一例である。
【図7】エンジン・発電機の回転速度とエンジントルクの関係を示すエンジン運転点マップである(α線はダイレクト配電で適用される運転点マップ)。
【図8】図2のステップ5の駆動モータトルク演算の手順を示す制御ブロック図である。
【図9】図2のステップ4の発電指令値演算サブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【図10】図9のステップ405で用いられる最大出力電力に対する発電機回転速度の制御マップである。
【図11】図9のステップ407で用いられる介入直後の発電機回転速度指令値の制御マップである。
【図12】図2のステップ4の発電指令値演算サブルーチンの他の手順を示すフローチャートである。
【図13】比較例の制御を示すタイムチャートである。
【図14】図9の制御例を示すタイムチャートである。
【図15】図12の制御例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る発電制御装置を適用したシリーズハイブリッド車両を示すブロック図であり、駆動系部品として、エンジン(内燃機関)3と、発電機5と、発電機インバータ6と、バッテリ8と、駆動インバータ10と、駆動モータ11と、減速機12と、駆動輪13と、を備える。また、制御系部品として、システムコントローラ1と、エンジンコントローラ2と、発電機コントローラ4と、バッテリコントローラ7と、駆動モータコントローラ9と、車輪速度センサ14と、モータ回転センサ15と、電流センサ16とを備える。
【0012】
本例のシリーズハイブリッド車両は、発電機5によって発電された電力をバッテリ8に充電するか或いは直接駆動モータ11に送電し、駆動モータ11はバッテリ8に充電された電力又は発電機6から直接送電された電力により駆動輪を駆動する車両である。バッテリ8又は駆動モータ11へ電力を供給する発電装置は、主にエンジン3と発電機5から構成され、エンジン3は発電のための駆動力を発電機5へ伝達する。一方、発電機5は、エンジン3の駆動力によって回転して三相交流電力を発電するほか、エンジン始動時にエンジン3をクランキングさせることや、エンジン3を発電機5の駆動力を用いて力行回転させることで電力を消費することができる。
【0013】
発電機インバータ6は、発電機5とバッテリ8と駆動インバータ10とのそれぞれに接続され、発電機5が発電する三相交流電力を直流に変換してバッテリ8又は駆動インバータ10に供給したり、また、バッテリ8の直流電力を三相交流電力に逆変換して発電機5に供給したりする。
【0014】
バッテリ8は、充放電可能な二次電池から構成され、発電機5による発電電力と駆動モータ11による回生電力を充電したり、発電機5又は駆動モータ11へ駆動電力を放電したりする。
【0015】
駆動インバータ10は、バッテリ8又は発電機インバータ6から供給される直流電力を、駆動モータ11を駆動する三相交流電流に変換したり、駆動モータ11による回生交流電力を直流電力に逆変換したりする。
【0016】
駆動モータ11は、駆動力を発生し減速機12を介して左右の駆動輪13に駆動力を伝達する。一方、車両の減速走行時などに駆動輪13に連れ回されて回転することにより回生駆動力を発生させることで電力エネルギーを回生する。
【0017】
エンジンコントローラ2は、システムコントローラ1から指令されるエンジントルク指令値を実現するために、エンジン3の回転速度(=単位時間当たりの回転数)や温度などの信号に応じて、エンジン3のスロットル開度、点火プラグによる点火時期、インジェクタからの燃料噴射量等を制御する。
【0018】
発電機コントローラ4は、システムコントローラ1から指令される発電機5の回転速度指令値を実現するために、発電機5の回転速度や電圧などの状態に応じて、発電機インバータ6をスイッチング制御する。
【0019】
バッテリコントローラ7は、バッテリ8へ充放電される電流や電圧を元にSOC(充電状態,State Of Charge)を計測し、システムコントローラ1へ出力する。また、バッテリ8の温度、内部抵抗、SOCに応じて入力可能パワーや出力可能パワーを演算し、システムコントローラ1へ出力する。
【0020】
駆動モータコントローラ9は、システムコントローラ1から指令される駆動モータ11の駆動トルク指令値を実現するために、駆動モータ11の回転速度や電圧などの状態に応じて、駆動インバータ10をスイッチング制御する。そのため、モータ回転センサ15と電流センサ16が設けられている。
【0021】
システムコントローラ1は、運転者のアクセルペダル操作量、車速、勾配などの車両状態、バッテリコントローラ7からのSOC、入力可能パワー、出力可能パワー、発電機5の発電電力などに応じて、駆動モータ11へ駆動トルク指令値を指令する。さらに、バッテリ8へ充電、駆動モータ11へ供給するための発電電力指令値を演算する。なお、車速を検出するための車輪速度センサ14が設けられている。
【0022】
次に、システムコントローラ1の主動作を、ダイレクト配電中に車輪13のスリップが発生し、トラクション制御を行っている場合を例に、図2に示す制御フローチャートに基づいて説明する。なお、ダイレクト配電とは、バッテリ8の温度が低下しているためにバッテリ8への充放電が制限されている場合、すなわちバッテリ入力可能電力Pinが小さく、バッテリ出力可能電力Poutが小さい場合に、駆動要求に応じた電力を発電し、発電電力に応じた駆動電力の消費を行う電力制御をいう。なお、これらの演算は、システムコントローラ1において制御演算周期、例えば10msec毎に実行される。
【0023】
ステップ1の要求駆動電力演算においては、運転者が要求するアクセル開度等から要求駆動電力PD0を算出する。この要求駆動電力DP0の演算の詳細な動作について図3のブロック図を用いて説明すると、まずアクセル開度に対する駆動モータ11の回転速度と駆動モータ11の出力トルクとの関係が予め設定された目標駆動モータトルクマップ(図4参照)を用いて、駆動要求トルクTD0を算出する。この駆動要求トルクTD0に、駆動モータ11の回転速度の検出値を乗じて要求駆動軸出力を求める。更に、予め計測した駆動モータ11の回転速度と、駆動要求トルクTD0と、駆動インバータDC電圧(またはバッテリ電圧)に対する駆動インバータ/モータの損失の関係を有する駆動損失マップを用いて駆動損失を求め、駆動要求出力に加算して要求駆動電力PD0を算出する。
【0024】
図2に戻り、ステップ2のトラクション制御演算は、図5に示すように、まず、モータ回転速度ωm及び車速ωvに基づいて駆動輪13のスリップ状態(Slipon)を判断し、トラクション介入時はslipon=1とし、トラクション非介入時はslipon=0とする。次に、トラクション介入時は、スリップを解消するスリップトルク指令値(目標駆動トルク)Tslipを算出する。なお、トラクション制御演算は、スリップ有りと判定された場合には、今回の演算したスリップトルク指令値Tslipとモータ回転速度ωmから要求駆動電力PDslipを演算する。非スリップ時はステップ1で設定した要求駆動電力PD0を用いる。
【0025】
図2のステップ3の要求発電電力演算では、要求駆動電力PD0又はトラクション制御で算出した要求駆動電力PDslipを発電機5で生成するため、要求発電電力PG*を要求駆動電力PD0又はPDslipとする。
【0026】
ステップ4の発電指令値演算処理では、要求発電電力PG*や各種車両信号に応じて、エンジン3に対するエンジントルク指令値TE*と、発電機5に対する発電機回転速度指令値NG*を算出する。
【0027】
このうち、エンジントルク指令値TE*は、燃費等を考慮して予め設定したエンジン・発電機の回転速度とエンジントルクの関係を示す図7のエンジン運転点マップを用いて、要求発電電力PG*に応じて算出する。ここで、要求発電電力PG*が0kW以下である場合は、発電機5を力行動作させて電力を放電することになるため、エンジン3の燃料噴射をカットした上、要求発電(放電)電力PG*に対応するフリクショントルクを算出し、エンジントルク指令値TE*に設定する。このように算出したエンジントルク指令値TE*をエンジンコントローラ2へ送信する。
【0028】
発電機回転速度指令値NG*は、図7より要求発電電力PG*に対応する発電機回転速度として求める。このように算出した発電機回転速度指令値NG*を発電機コントローラ4に指令する。また、発電機コントローラ4へトルク指令TG*を行うことで、発電機5にてトルク制御を行い、エンジンコントローラ2へ回転速度指令NE*を行うことで、エンジン3で回転速度制御を行い、所望の発電を行ってもよい。なお、トラクション制御時の発電指令値演算の算出処理の詳細は後述する。
【0029】
ステップ5の駆動モータトルク指令値演算においては、駆動トルク指令値(駆動要求トルク)Tslip,TD0、バッテリ入力可能電力Pin、バッテリ出力可能電力Pout、実発電電力Pg、駆動モータ回転速度ωmに基づいて、図8に示す制御ブロック図より駆動モータトルクTD*を設定する。実発電電力Pgは、発電機5で発電された電力でありPgに設定する。充放電可能電力Pin,Poutは、バッテリコントローラ7で演算された値であり、図6に示すような温度による充電、放電の可能パワーのマップを使う。つまり、計測した発電機インバータDC電圧(またはバッテリ電圧)と発電機インバータDC電流を掛け合わせることで、実際発電された発電電力Pgを算出し、バッテリ入出力可能電力Pin,Poutを考慮した上で、駆動モータトルク指令値TD*を設定する。
【0030】
次に、駆動モータコントローラ9、発電機コントローラ4、エンジンコントローラ2における処理内容を説明する。まず、駆動モータコントローラ9の電流指令値算出処理では、図2のステップ5で演算した駆動モータトルク指令値(TD*)と駆動モータ回転速度(ωm)および直流電圧値(Vdc)から、dq軸電流目標値id*,iq*をテーブルより参照して求める。そして電流制御では、まず三相電流値iu,iv,iwと駆動モータ回転速度ωmからdq軸電流値id,iqを演算する。電流指令値算出処理で演算したdq軸電流目標値id*,iq*とdq軸電流id,iqとの偏差からdq軸電圧指令値vd,vqを演算する。なお、この部分には非干渉制御を加えることもある。
【0031】
ついで、dq軸電圧指令値vd,vqと駆動モータ回転速度ωmから三相電圧指令値vu,vv,vwを演算する。この三相電圧指令値vu,vv,vwと直流電圧VdcからPWM信号(on duty)tu[%],tv[%],tw[%]を演算する。このようにして求めたPWM信号により駆動インバータ10のスイッチング素子を開閉制御することにより、駆動モータ11をトルク指令値で指示された所望のトルクで駆動することができる。発電機コントローラ4も同様に、システムコントローラ1より目標発電電力(PG*)を受け、駆動モータコントローラ9と同様な電流指令値算出処理と電流制御の演算を行う。エンジンコントローラ2は、システムコントローラ1から指令されるエンジントルク指令値(TE*)を実現するために、エンジン3の回転速度や温度などの信号に応じて、エンジン3のスロットル、点火時期、燃料噴射量を調整する。
【0032】
次に、図2のステップ4の発電指令値演算処理について、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。発電機コントローラ4では、システムコントローラより指令される要求発電電力(PG*)を実現しつつ、バッテリ8の入出力電力を極力減らし、高応答でトラクション制御が可能となるよう、下記のような流れで処理を進める。
【0033】
すなわち、トラクション制御中は、ダイレクト配電で使っている運転点(α線)を外し、規定発電機回転速度(NGmax)とする。だだし、規定発電機回転速度(NGmax)は、路面μ推定や駆動機で必要とする最大出力電力(PGmax)を出力可能な規定発電機回転速度(NGmax)にて一定にする必要がある。また、トラクション制御介入時は、ダイレクト配電走行状態を維持しつつ、高応答なトラクション制御を行うため、極力、発電電力の応答性を落とさずに、介入時の発電機回転速度指令値(NG*)から、規定発電機回転速度(NGmax)まで上昇させたい。そこで、トラクション制御介入時のエンジントルク指令値(TE*)を保持し、発電機回転速度指令値(NG*)を上昇させることが望ましい。
【0034】
以降、このような思想で要求発電電力(PG*)を実現しつつ、駆動モータトルク指令値(TD*)を実現するように電流制御およびスイッチング制御を実施する。
【0035】
ステップ401では、ステップ2で判断したトラクション制御フラグsliponにより、トラクション制御中(slipon=1)はステップ402へ進み、非トラクション制御中(slipon=0)はステップ412へ進む。ステップ412では、トラクション制御が実行されていないので、図7に示す通常のダイレクト配電で使っている運転点(α線)と、要求発電電力(PG*)より、エンジントルク指令値(TE*)及び発電機回転速度指令値(NG*)を算出したのちENDへ進み、図2のステップ5へ移行する。
【0036】
ステップ402では、発電可能な最大出力電力(PGmax)を算出し、ステップ403へ進む。ステップ403では、現在走行中の路面μ推定が可能か否かを判断し、路面μ推定が可能な場合は、ステップ404へ進み、路面μ推定が不可能な時はステップ404の処理を実行しないでステップ405へ進む。
【0037】
ステップ404では、ステップ403で推定した路面μにて、必要となる最大出力電力(PGmax=最大駆動電力)を算出しステップ405へ進む。ステップ405では、最大出力電力(PGmax)より、図10に示すようなマップを用いることで、規定発電機回転速度(NGmax)を算出する。
【0038】
ステップ406では、トラクション制御に介入直後の場合は、ステップ407へ進み、トラクション制御に介入し一定時間経過している時はステップ410へ進む。
【0039】
トラクション制御へ介入直後のステップ407では、図11に示すようなマップに応じて、介入時の発電機回転速度指令値(NG*)から上昇する傾きと時間を算出する。トラクション制御へ介入直後は、ドライバー操作による駆動トルク指令値(TD0)をスリップ制御のトルク指令(TDslip)に変更するため、駆動トルク指令値(TD*)は減少させる方向に働く。そこで、介入直後は、エンジントルク指令値(TE*)を保持した状態で、発電機回転速度指令値(NG*)を上昇させることで、過渡的には駆動電力を減少させることができる。よって、トラクション制御で必要な駆動電力指令値(PD*)まで短時間で下降させることができ、且つ回転速度の上昇も行える。
【0040】
ステップ408ではステップ407で算出した発電機5の回転速度を上昇する傾きと時間応じて、発電機回転速度指令値(NG*)を増加させる。
【0041】
一方、トラクション制御へ介入してから所定時間が経過したステップ409では、規定発電機回転速度(NGmax)と現状の発電機回転速度指令値(NG*)を比較し、現状の発電機回転速度(NG*)が規定発電機回転速度(NGmax)未満の場合はステップ410へ進み、規定発電機回転速度(NGmax)以上の場合は、ステップ410の処理を実行しないでステップ411へ進む。
【0042】
ステップ410では、応答が緩慢な車速(ωv)変化に応じて、発電機回転速度指令値(NG*)を上昇させる。ステップ411では、発電電力(PG*)と、発電機回転速度指令値(NG*又はNGmax)より、下記式によりエンジントルク指令値(TE*)を算出したのち、ENDへ進み、図2のステップ5へ移行する。
TE*=PG*/NG* 又はTE*=PG*/NGmax
【0043】
以上の処理を実行することで、ダイレクト配電走行時にトラクション制御へ介入した際も、狙い通りのトラクション制御を高応答に実現することができる。
【0044】
次に、本例の制御と従来の制御とを比較する。図13は従来の制御の問題点を示すタイムチャートであり、図13は、ダイレクト配電制御中の発電制御、駆動制御の様子を示し、通常走行から、T2にてスリップ発生を認識し、この時点T2からトラクション制御へ介入する様子を示している。
【0045】
まず、時間T1で加速中にスリップが発生し、これにより実モータ回転速度(ωm)と車速(ωv)の偏差が発生する。時間T2では、モータ回転の加速度、スリップ率、スリップ量(車速ωvとモータ回転速度の偏差)などよりスリップ有りと判断している。ここから、トラクション制御が開始されるが、発電電力は、ダイレクト配電で用いられる運転点(α線)上におけるエンジントルクと発電機回転速度から算出される。この発電機回転速度を変化させるために、エンジンイナーシャを動かす応答遅れがあり、発電電力を早期に下降させることができず、発電電力及び駆動電力共に、応答は緩慢になる。そのため、トラクション制御で必要とするトルク(=駆動電力)は、狙い通りの応答が得られず、時間T3,T4では、振動的になっていることが理解される。そして、充放電可能電力(Pin,Pout)を超えて充放電を行っていることも理解される。
【0046】
これに対し、図14に本例の制御タイムチャートを示す。図14は、図13の従来制御と同様に、ダイレクト配電制御中の発電制御、駆動制御の様子を示しており、通常走行から、時間T2にてスリップの発生を認識し、トラクション制御へ介入する様子を示している。
【0047】
まず、時間T1で加速中にスリップが発生し、実モータ回転速度(ωm)と車速(ωv)の偏差が大きくなる。時間T2では、前述したようモータ回転の加速度、スリップ率、スリップ量などよりスリップ有りと判断している。このとき、図2のステップ4で前述したようにエンジントルク指令値(TE*)を保持した状態で、発電機回転速度指令値(NG*)の上昇を行うと、過渡的には発電電力が減少する。
【0048】
時間T3では、時間T2から一定時間が経過すると、エンジントルク指令値(TE*)を下降させ、発電機回転速度指令値(NG*)の上昇を中断する。時間T3における発電機回転速度が、最大出力電力に対する規定発電機回転速度(NGmax)ではないため、時間T4に向けては、車速に応じて発電機回転速度指令値(NG*)の上昇を開始する。そして、時間T4で規定発電機回転速度(NGmax)となったため、発電機回転速度指令値(NG*)を一定に保持する。
【0049】
この結果、ダイレクト配電走行状態において、トラクション制御に介入した際も、高応答にトラクション制御を実現することができる。
【0050】
図12は、図2のステップ4の他の制御例を示すフローチャートである。なお、本例に係るハイブリッド車両の制御装置の全体構成は、上述した実施形態と同じであるためここに援用し、その説明を省略する。また、システムコントローラ1の動作についても、図2のステップ4の発電指令値演算処理以外は上述した実施形態と同じであるため、ステップ4の発電指令値演算処理以外の内容をここに援用し、その説明は省略する。
【0051】
本例の発電指令値演算では、トラクション制御介入前の回転速度上昇タイミングにて、規定発電機回転速度(NGmax)までの上昇を行う。そのため、トラクション制御介入後は発電機回転速度指令値(NG*)を調整する必要がない。この回転速度上昇タイミングは、エンジン回転速度の上昇時間(無駄時間や時定数)等を考慮し、トラクション介入前に判断する。
【0052】
なお、発電機コントローラ4へトルク指令(TG*)を出力することで、発電機5にてトルク制御を行い、エンジンコントローラ2へ回転速度指令(NE*)を出力することで、エンジン3で回転速度制御を行い、所望の発電を行ってもよい。
【0053】
本例の制御では、まず駆動輪速度ωmと車体速ωvにより、現在の輪速偏差ωslipを算出する。算出式を下記式(1)に示す。
[数1]
Ωslip=ωm−ωv …(1)
【0054】
次に、現在の輪速偏差ωslipと、現状の輪速偏差の変化速度d(ωv)/dtと、エンジン3の時定数と、無駄時間を考慮した予見時間T秒とにより、T秒後のスリップ量偏差(ωtslip)を予測する。算出式を下記式(2)に示す。
[数2]
ωtslip=ωmt−ωvt
ωtslip=ωslip+d(ωslip)/dt*T
ωmt−ωvt=ωslip+d(ωslip)/dt*T …(2)
【0055】
予見したT秒後のスリップ量偏差と、トラクション介入偏差閾値とを比較し、予見したスリップ量が、介入閾値を超えた所を発電機回転速度上昇タイミングとする。比較算出式を下記式(3)に示す。
[数3]
ωtslip≧ωslipon …(3)
【0056】
ここで、ωmは駆動輪速度、ωvは従動輪速度、Tは予見時間(エンジン応答)無駄時間、時定数等から算出する)、ωmtは予見時間(T秒)後の駆動輪速度、ωvtは予見時間(T秒)後の車体速度、ωsliponはトラクション介入偏差閾値、ωslipは車輪偏差(スリップ量)、ωtslipは予見時間(T秒)後の車輪偏差である。
【0057】
次に、図2の発ステップ4の他例に係る発電指令値演算処理に関して、図12に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0058】
ステップ501では、現在の駆動輪速度(ωm)、車速(ωv)、予見時間T等を格納する。ステップ502では、上式(1)〜(3)で説明した計算の処理を行い、予見時間後の輪速差(ωtslip)を算出する。
【0059】
ステップ503では、トラクション制御中(slipon=1)の場合は、ステップ504へ進み、トラクション非制御中(slipon=0)の場合はステップ507へ進む。トラクション制御中であるステップ504では、発電機の最大出力電力(PGmax)を算出し、ステップ505へ進む。ステップ505では、ステップ504で算出した発電機の最大出力電力(PGmax)より、図10に示すような制御マップを用いて規定発電機回転速度(NGmax)を算出する。ステップ506では、図2のステップ3で算出された要求発電電力(PG*)と、規定発電機回転速度(NGmax)より、目標トルク(TE*)を算出したのちENDへ進み、図2のステップ5へ移行する。
【0060】
トラクション非制御中であるステップ507では、トラクション介入の偏差閾値ωsliponと、ステップ502で算出した予見時間後の輪速差ωtslipを比較し、ωtslip≧ωsliponの場合は、ステップ504へ進み、ωtslip<ωsliponの場合はステップ508へ進む。ステップ508では、図7に示すダイレクト配電で使っている運転点(α線)と、発電電力(PG*)より、トルク指令値(TE*)、目標発電機回転速度(NG*)を算出したのちENDへ進み、図2のステップ5へ移行する。
【0061】
この結果、ダイレクト配電走行時に、トラクション制御へ介入する際も、介入前に規定発電機回転速度(NGmax)まで上昇させることで、介入後は、トラクション制御を高応答に実現する。
【0062】
図15に本例の制御タイムチャートを示す。図15は、図13の従来制御と同様に、ダイレクト配電制御中の発電制御、駆動制御の様子を示しており、通常走行から、T2にてスリップの発生を認識し、トラクション制御へ介入する様子を示している。
【0063】
まず、時間T1で加速中にスリップが発生し、実モータ回転速度(ωm)と車速(ωv)の偏差が大きくなる。時間T5は、エンジンの時定数、無駄時間を考慮したタイミングであり、時間T5のタイミングで発電機回転速度の上昇を開始する。そして、時間T2では、前述したようモータ回転の加速度、スリップ率、スリップ量などよりスリップ有りと判断している。この時既に、規定発電機回転速度(NGmax)となっており、発電機回転速度を一定に保持している。
【0064】
その結果、ダイレクト配電走行状態において、トラクション制御に介入する際も、一定とする発電機回転速度を時定数、無駄時間を考慮したタイミングにて、エンジン回転速度を事前に上昇させることで、トラクション制御に介入したタイミングでも、充放電電力を最小限に抑えながら、高応答にトラクション制御を実現することができる。
【0065】
以上のとおり本発明の実施の形態によれば、ダイレクト配電走行状態であってトラクション制御中においては、エンジン3の燃費を優先する運転点、特に燃費最適線(図7のα線)に代えて、発電機5の回転速度の変化量を所定値以下に設定することで、トルクの変化だけで狙い通りの駆動電力(=発電電力)を高応答に実現することができる。すなわち、トラクション制御中においてエンジン3の燃費最適線を用いると回転速度が逐次変動するため、この変化によるエンジンイナーシャを動かすための応答は遅く、トラクション制御が発散するといった問題があるが、本例によればこうした問題が解消される。
【0066】
また、バッテリ8の満充電時や残量が低下した時についても同様に、狙い通りの発電を高応答に実現することで、バッテリ8への過充電や過放電を防止することができ、バッテリ8への充放電電力を最小限に抑えることができる。
【0067】
また本発明の実施の形態では、トラクション制御中において発電機5で出力可能な最大発電電力を実現できる最小の回転速度に設定する。発電機5は、一般的に高回転に比べて低回転の方が発電電力指令値に対する実際の発電電力の精度が高いが、回転速度指令値を低回転で一定にすると、発電制御装置で出力できる最大発電電力までの発電ができないし、低回転で一定とすると、大きなトルクの増加及び減少が必要となる。そこで、トラクション制御中の回転速度の一定値は、発電制御装置で出力可能な最大発電電力を実現でき、且つ、極力、最小の回転速度とすることで、最大出力電力(PGmax)と、発電電力指令に対する実際の発電電力との合致精度を高めることができる。
【0068】
また、ハイブリッド車が走行する路面の摩擦抵抗を推定した上で最大発電電力を算出し、トラクション制御中において、発電機の回転速度指令値を、この路面の摩擦抵抗を考慮した最大発電電力を実現できる最小の回転速度に設定すれば、ハイブリッド車が走行する実際の状況により近い最大発電電力を用いることで、最大出力電力と、発電電力指令に対する実際の発電電力との合致精度をより高めることができる。
【0069】
また本発明の実施の形態では、トラクション制御中において、発電機5の回転速度指令値を、トラクション制御を開始したときの回転速度から最小の回転速度まで、車速の変化に応じて増減する回転速度指令値に設定する。トラクション制御の開始前は、燃費最適線α線より算出された回転速度に設定されているが、トラクション制御の開始と同時に、所定の回転速度まで増加又は減少させる必要がある。この場合に、トラクション制御の開始前と同様にα線上で増加させると、エンジンイナーシャの応答遅れが影響し、運転点の移動中は高応答にトラクション制御ができないない。そこで、本例では、トラクション制御の開始時の回転速度から狙いの一定回転速度まで、応答が緩慢な車体速に応じて増加又は減少させることで、トラクション制御開始後の運転点の移動中でも、エンジンイナーシャの応答遅れをほぼ考慮する必要がなく、高応答なトラクション制御を満足することができる。
【0070】
この発電機5の回転速度を、トラクション制御開始時の回転速度から所定の回転速度まで変化させる際に、エンジン3のトルクを保持しながら発電機5の回転速度制御を行い、発電機5による発電電力が最速で変化するように発電機5の回転速度を変動させることで、過渡的に駆動電力(=発電電力)を高応答に低下させることができ、且つ、所定の回転速度まで上昇させることができる。
【0071】
また、本発明の実施の形態では、トラクション制御を開始する前の回転速度の上昇タイミングにて、発電機5の回転速度を所定の回転速度まで上昇させるので、トラクション制御中に回転速度を変化させる必要がなくなり、ダイレクト配電時のトラクション制御を高応答に満足することができる。
【0072】
この場合に、エンジンの時定数及び無駄時間を考慮した予見時間後のスリップ量の偏差が所定値以上になったタイミングで発電機5の回転速度を上昇させれば、的確なタイミングで、回転速度を上昇させることができ、トラクション制御の開始後に回転速度を変動させる必要がなくなる。また、非トラクション制御時は、極力エンジン3の燃費最適線を使うことができるので、燃費も向上する。
【0073】
上記システムコントローラ1は本発明に係るトラクション制御検出手段、要求発電電力演算手段、運転点演算手段、駆動モータ制御手段及び制御手段に相当し、上記エンジンコントローラ2及び発電機コントローラ4は本発明に係る制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0074】
1:システムコントローラ
2:エンジンコントローラ
3:エンジン
4:発電機コントローラ
5:発電機
6:発電機インバータ
7:バッテリコントローラ
8:バッテリ
9:駆動モータコントローラ
10:駆動インバータ
11:駆動モータ
12:減速機
13:駆動輪
14:車輪速度センサ
15:モータ回転センサ
16:電流センサ
Pin:バッテリ入力可能電力,Pout:バッテリ出力可能電力
PD0:要求駆動電力
PDslip:要求駆動電力(トラクション制御時)
TD0:駆動要求トルク
ωm:モータ回転速度
ωv:車速
Tslip:スリップトルク指令値
PG*:要求発電電力
TE*:エンジントルク指令値
NG*:発電機回転速度指令値
Pg:実発電電力
TD*:駆動モータトルク指令値
NGmax:規定発電機回転速度
PGmax:最大出力電力
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクション制御を実行する電気自動車として、特許文献1に開示された電気自動車の駆動制御装置が知られている。この従来技術は、車両コントローラにより走行用モータの回転速度に基づいて車輪の加速度を演算し、演算された車輪加速度と、走行用モータのトルク指令値に基づいて算出される車体加速度から、車輪のスリップの有無を判定する。そして、スリップありと判定された場合には、走行用モータへのトルク指令値を減少させてモータコントローラへ指令(以下、トラクション制御)し、スリップなしと判定された場合には、走行用モータへのトルク指令値をアクセルペダル踏込量に応じた通常走行の指令値となるように制御する。これにより、摩擦抵抗の低い路面における走行をスムーズに行える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−182118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリーズハイブリッド車両において、温度低下などによってバッテリの入出力電力(以下、充放電可能電力ともいう)が制限されている場合には、バッテリへの充放電が行われないようにすることを目的に、駆動力の要求値に応じて発電機に電力を発生させ、当該発電機が発電した実発電電力を過不足なく駆動電力で消費する制御(以下、ダイレクト配電制御)を実施する必要が生ずる。
【0005】
ダイレクト配電制御では、バッテリの入出力可能電力とアクセル開度や車速などから算出される所望の駆動トルクを実現するために必要な駆動電力を演算し、発電機を制御する。そして、発電電力指令値を実現するように発電機が制御された結果として発電された実発電電力を駆動機の駆動電力として消費するための駆動トルクを算出し、駆動機を制御する。
【0006】
しかしながら、ダイレクト配電時のトラクション制御中に、上記従来の駆動制御を行うと、トラクション制御では高応答に駆動トルク指令値が変化するため、駆動電力(=発電電力)も逐次変化する。そのため、発電電力を高応答に指令しても、エンジンの応答は、回転速度変化によるエンジンイナーシャを動かす応答に左右されるので、狙い通りのトラクションを得ることができず、また所望の加速が得られず、最悪の場合には駆動トルクが発散してしまうという問題がある。なお、充放電可能電力を超えてバッテリへ充電した場合には、狙い通りのトラクションは得られるが、過度な充電による内部抵抗上昇により、極度な電圧上昇が発生する可能性がある。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、トラクション制御中における駆動電力の応答性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ハイブリッド車両のダイレクト配電時のトラクション制御中においては、エンジンの運転点制御を、燃費優先制御からエンジントルク変化を優先させる制御に設定することによって、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ダイレクト配電時のトラクション制御中においてはエンジントルク変化を優先させる制御に設定することにより、エンジントルクの変化だけで狙い通りの駆動電力(=発電電力)の応答性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態を適用したシリーズハイブリッド車両のブロック図である。
【図2】図1のシステムコントローラで実行されるダイレクト配電時のトラクション制御中における制御手順を示すフローチャートである。
【図3】図2のステップ1の要求駆動電力演算の手順を示す制御ブロック図である。
【図4】図2のステップ1で用いられるアクセル開度に対する駆動モータの回転速度と駆動モータの出力トルクとの関係を示すトルクマップの一例である。
【図5】図1のシステムコントローラで実行されるトラクション制御の手順を示す制御ブロック図である。
【図6】図1のバッテリの温度に対する充放電可能電力を示すマップの一例である。
【図7】エンジン・発電機の回転速度とエンジントルクの関係を示すエンジン運転点マップである(α線はダイレクト配電で適用される運転点マップ)。
【図8】図2のステップ5の駆動モータトルク演算の手順を示す制御ブロック図である。
【図9】図2のステップ4の発電指令値演算サブルーチンの手順を示すフローチャートである。
【図10】図9のステップ405で用いられる最大出力電力に対する発電機回転速度の制御マップである。
【図11】図9のステップ407で用いられる介入直後の発電機回転速度指令値の制御マップである。
【図12】図2のステップ4の発電指令値演算サブルーチンの他の手順を示すフローチャートである。
【図13】比較例の制御を示すタイムチャートである。
【図14】図9の制御例を示すタイムチャートである。
【図15】図12の制御例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施の形態に係る発電制御装置を適用したシリーズハイブリッド車両を示すブロック図であり、駆動系部品として、エンジン(内燃機関)3と、発電機5と、発電機インバータ6と、バッテリ8と、駆動インバータ10と、駆動モータ11と、減速機12と、駆動輪13と、を備える。また、制御系部品として、システムコントローラ1と、エンジンコントローラ2と、発電機コントローラ4と、バッテリコントローラ7と、駆動モータコントローラ9と、車輪速度センサ14と、モータ回転センサ15と、電流センサ16とを備える。
【0012】
本例のシリーズハイブリッド車両は、発電機5によって発電された電力をバッテリ8に充電するか或いは直接駆動モータ11に送電し、駆動モータ11はバッテリ8に充電された電力又は発電機6から直接送電された電力により駆動輪を駆動する車両である。バッテリ8又は駆動モータ11へ電力を供給する発電装置は、主にエンジン3と発電機5から構成され、エンジン3は発電のための駆動力を発電機5へ伝達する。一方、発電機5は、エンジン3の駆動力によって回転して三相交流電力を発電するほか、エンジン始動時にエンジン3をクランキングさせることや、エンジン3を発電機5の駆動力を用いて力行回転させることで電力を消費することができる。
【0013】
発電機インバータ6は、発電機5とバッテリ8と駆動インバータ10とのそれぞれに接続され、発電機5が発電する三相交流電力を直流に変換してバッテリ8又は駆動インバータ10に供給したり、また、バッテリ8の直流電力を三相交流電力に逆変換して発電機5に供給したりする。
【0014】
バッテリ8は、充放電可能な二次電池から構成され、発電機5による発電電力と駆動モータ11による回生電力を充電したり、発電機5又は駆動モータ11へ駆動電力を放電したりする。
【0015】
駆動インバータ10は、バッテリ8又は発電機インバータ6から供給される直流電力を、駆動モータ11を駆動する三相交流電流に変換したり、駆動モータ11による回生交流電力を直流電力に逆変換したりする。
【0016】
駆動モータ11は、駆動力を発生し減速機12を介して左右の駆動輪13に駆動力を伝達する。一方、車両の減速走行時などに駆動輪13に連れ回されて回転することにより回生駆動力を発生させることで電力エネルギーを回生する。
【0017】
エンジンコントローラ2は、システムコントローラ1から指令されるエンジントルク指令値を実現するために、エンジン3の回転速度(=単位時間当たりの回転数)や温度などの信号に応じて、エンジン3のスロットル開度、点火プラグによる点火時期、インジェクタからの燃料噴射量等を制御する。
【0018】
発電機コントローラ4は、システムコントローラ1から指令される発電機5の回転速度指令値を実現するために、発電機5の回転速度や電圧などの状態に応じて、発電機インバータ6をスイッチング制御する。
【0019】
バッテリコントローラ7は、バッテリ8へ充放電される電流や電圧を元にSOC(充電状態,State Of Charge)を計測し、システムコントローラ1へ出力する。また、バッテリ8の温度、内部抵抗、SOCに応じて入力可能パワーや出力可能パワーを演算し、システムコントローラ1へ出力する。
【0020】
駆動モータコントローラ9は、システムコントローラ1から指令される駆動モータ11の駆動トルク指令値を実現するために、駆動モータ11の回転速度や電圧などの状態に応じて、駆動インバータ10をスイッチング制御する。そのため、モータ回転センサ15と電流センサ16が設けられている。
【0021】
システムコントローラ1は、運転者のアクセルペダル操作量、車速、勾配などの車両状態、バッテリコントローラ7からのSOC、入力可能パワー、出力可能パワー、発電機5の発電電力などに応じて、駆動モータ11へ駆動トルク指令値を指令する。さらに、バッテリ8へ充電、駆動モータ11へ供給するための発電電力指令値を演算する。なお、車速を検出するための車輪速度センサ14が設けられている。
【0022】
次に、システムコントローラ1の主動作を、ダイレクト配電中に車輪13のスリップが発生し、トラクション制御を行っている場合を例に、図2に示す制御フローチャートに基づいて説明する。なお、ダイレクト配電とは、バッテリ8の温度が低下しているためにバッテリ8への充放電が制限されている場合、すなわちバッテリ入力可能電力Pinが小さく、バッテリ出力可能電力Poutが小さい場合に、駆動要求に応じた電力を発電し、発電電力に応じた駆動電力の消費を行う電力制御をいう。なお、これらの演算は、システムコントローラ1において制御演算周期、例えば10msec毎に実行される。
【0023】
ステップ1の要求駆動電力演算においては、運転者が要求するアクセル開度等から要求駆動電力PD0を算出する。この要求駆動電力DP0の演算の詳細な動作について図3のブロック図を用いて説明すると、まずアクセル開度に対する駆動モータ11の回転速度と駆動モータ11の出力トルクとの関係が予め設定された目標駆動モータトルクマップ(図4参照)を用いて、駆動要求トルクTD0を算出する。この駆動要求トルクTD0に、駆動モータ11の回転速度の検出値を乗じて要求駆動軸出力を求める。更に、予め計測した駆動モータ11の回転速度と、駆動要求トルクTD0と、駆動インバータDC電圧(またはバッテリ電圧)に対する駆動インバータ/モータの損失の関係を有する駆動損失マップを用いて駆動損失を求め、駆動要求出力に加算して要求駆動電力PD0を算出する。
【0024】
図2に戻り、ステップ2のトラクション制御演算は、図5に示すように、まず、モータ回転速度ωm及び車速ωvに基づいて駆動輪13のスリップ状態(Slipon)を判断し、トラクション介入時はslipon=1とし、トラクション非介入時はslipon=0とする。次に、トラクション介入時は、スリップを解消するスリップトルク指令値(目標駆動トルク)Tslipを算出する。なお、トラクション制御演算は、スリップ有りと判定された場合には、今回の演算したスリップトルク指令値Tslipとモータ回転速度ωmから要求駆動電力PDslipを演算する。非スリップ時はステップ1で設定した要求駆動電力PD0を用いる。
【0025】
図2のステップ3の要求発電電力演算では、要求駆動電力PD0又はトラクション制御で算出した要求駆動電力PDslipを発電機5で生成するため、要求発電電力PG*を要求駆動電力PD0又はPDslipとする。
【0026】
ステップ4の発電指令値演算処理では、要求発電電力PG*や各種車両信号に応じて、エンジン3に対するエンジントルク指令値TE*と、発電機5に対する発電機回転速度指令値NG*を算出する。
【0027】
このうち、エンジントルク指令値TE*は、燃費等を考慮して予め設定したエンジン・発電機の回転速度とエンジントルクの関係を示す図7のエンジン運転点マップを用いて、要求発電電力PG*に応じて算出する。ここで、要求発電電力PG*が0kW以下である場合は、発電機5を力行動作させて電力を放電することになるため、エンジン3の燃料噴射をカットした上、要求発電(放電)電力PG*に対応するフリクショントルクを算出し、エンジントルク指令値TE*に設定する。このように算出したエンジントルク指令値TE*をエンジンコントローラ2へ送信する。
【0028】
発電機回転速度指令値NG*は、図7より要求発電電力PG*に対応する発電機回転速度として求める。このように算出した発電機回転速度指令値NG*を発電機コントローラ4に指令する。また、発電機コントローラ4へトルク指令TG*を行うことで、発電機5にてトルク制御を行い、エンジンコントローラ2へ回転速度指令NE*を行うことで、エンジン3で回転速度制御を行い、所望の発電を行ってもよい。なお、トラクション制御時の発電指令値演算の算出処理の詳細は後述する。
【0029】
ステップ5の駆動モータトルク指令値演算においては、駆動トルク指令値(駆動要求トルク)Tslip,TD0、バッテリ入力可能電力Pin、バッテリ出力可能電力Pout、実発電電力Pg、駆動モータ回転速度ωmに基づいて、図8に示す制御ブロック図より駆動モータトルクTD*を設定する。実発電電力Pgは、発電機5で発電された電力でありPgに設定する。充放電可能電力Pin,Poutは、バッテリコントローラ7で演算された値であり、図6に示すような温度による充電、放電の可能パワーのマップを使う。つまり、計測した発電機インバータDC電圧(またはバッテリ電圧)と発電機インバータDC電流を掛け合わせることで、実際発電された発電電力Pgを算出し、バッテリ入出力可能電力Pin,Poutを考慮した上で、駆動モータトルク指令値TD*を設定する。
【0030】
次に、駆動モータコントローラ9、発電機コントローラ4、エンジンコントローラ2における処理内容を説明する。まず、駆動モータコントローラ9の電流指令値算出処理では、図2のステップ5で演算した駆動モータトルク指令値(TD*)と駆動モータ回転速度(ωm)および直流電圧値(Vdc)から、dq軸電流目標値id*,iq*をテーブルより参照して求める。そして電流制御では、まず三相電流値iu,iv,iwと駆動モータ回転速度ωmからdq軸電流値id,iqを演算する。電流指令値算出処理で演算したdq軸電流目標値id*,iq*とdq軸電流id,iqとの偏差からdq軸電圧指令値vd,vqを演算する。なお、この部分には非干渉制御を加えることもある。
【0031】
ついで、dq軸電圧指令値vd,vqと駆動モータ回転速度ωmから三相電圧指令値vu,vv,vwを演算する。この三相電圧指令値vu,vv,vwと直流電圧VdcからPWM信号(on duty)tu[%],tv[%],tw[%]を演算する。このようにして求めたPWM信号により駆動インバータ10のスイッチング素子を開閉制御することにより、駆動モータ11をトルク指令値で指示された所望のトルクで駆動することができる。発電機コントローラ4も同様に、システムコントローラ1より目標発電電力(PG*)を受け、駆動モータコントローラ9と同様な電流指令値算出処理と電流制御の演算を行う。エンジンコントローラ2は、システムコントローラ1から指令されるエンジントルク指令値(TE*)を実現するために、エンジン3の回転速度や温度などの信号に応じて、エンジン3のスロットル、点火時期、燃料噴射量を調整する。
【0032】
次に、図2のステップ4の発電指令値演算処理について、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。発電機コントローラ4では、システムコントローラより指令される要求発電電力(PG*)を実現しつつ、バッテリ8の入出力電力を極力減らし、高応答でトラクション制御が可能となるよう、下記のような流れで処理を進める。
【0033】
すなわち、トラクション制御中は、ダイレクト配電で使っている運転点(α線)を外し、規定発電機回転速度(NGmax)とする。だだし、規定発電機回転速度(NGmax)は、路面μ推定や駆動機で必要とする最大出力電力(PGmax)を出力可能な規定発電機回転速度(NGmax)にて一定にする必要がある。また、トラクション制御介入時は、ダイレクト配電走行状態を維持しつつ、高応答なトラクション制御を行うため、極力、発電電力の応答性を落とさずに、介入時の発電機回転速度指令値(NG*)から、規定発電機回転速度(NGmax)まで上昇させたい。そこで、トラクション制御介入時のエンジントルク指令値(TE*)を保持し、発電機回転速度指令値(NG*)を上昇させることが望ましい。
【0034】
以降、このような思想で要求発電電力(PG*)を実現しつつ、駆動モータトルク指令値(TD*)を実現するように電流制御およびスイッチング制御を実施する。
【0035】
ステップ401では、ステップ2で判断したトラクション制御フラグsliponにより、トラクション制御中(slipon=1)はステップ402へ進み、非トラクション制御中(slipon=0)はステップ412へ進む。ステップ412では、トラクション制御が実行されていないので、図7に示す通常のダイレクト配電で使っている運転点(α線)と、要求発電電力(PG*)より、エンジントルク指令値(TE*)及び発電機回転速度指令値(NG*)を算出したのちENDへ進み、図2のステップ5へ移行する。
【0036】
ステップ402では、発電可能な最大出力電力(PGmax)を算出し、ステップ403へ進む。ステップ403では、現在走行中の路面μ推定が可能か否かを判断し、路面μ推定が可能な場合は、ステップ404へ進み、路面μ推定が不可能な時はステップ404の処理を実行しないでステップ405へ進む。
【0037】
ステップ404では、ステップ403で推定した路面μにて、必要となる最大出力電力(PGmax=最大駆動電力)を算出しステップ405へ進む。ステップ405では、最大出力電力(PGmax)より、図10に示すようなマップを用いることで、規定発電機回転速度(NGmax)を算出する。
【0038】
ステップ406では、トラクション制御に介入直後の場合は、ステップ407へ進み、トラクション制御に介入し一定時間経過している時はステップ410へ進む。
【0039】
トラクション制御へ介入直後のステップ407では、図11に示すようなマップに応じて、介入時の発電機回転速度指令値(NG*)から上昇する傾きと時間を算出する。トラクション制御へ介入直後は、ドライバー操作による駆動トルク指令値(TD0)をスリップ制御のトルク指令(TDslip)に変更するため、駆動トルク指令値(TD*)は減少させる方向に働く。そこで、介入直後は、エンジントルク指令値(TE*)を保持した状態で、発電機回転速度指令値(NG*)を上昇させることで、過渡的には駆動電力を減少させることができる。よって、トラクション制御で必要な駆動電力指令値(PD*)まで短時間で下降させることができ、且つ回転速度の上昇も行える。
【0040】
ステップ408ではステップ407で算出した発電機5の回転速度を上昇する傾きと時間応じて、発電機回転速度指令値(NG*)を増加させる。
【0041】
一方、トラクション制御へ介入してから所定時間が経過したステップ409では、規定発電機回転速度(NGmax)と現状の発電機回転速度指令値(NG*)を比較し、現状の発電機回転速度(NG*)が規定発電機回転速度(NGmax)未満の場合はステップ410へ進み、規定発電機回転速度(NGmax)以上の場合は、ステップ410の処理を実行しないでステップ411へ進む。
【0042】
ステップ410では、応答が緩慢な車速(ωv)変化に応じて、発電機回転速度指令値(NG*)を上昇させる。ステップ411では、発電電力(PG*)と、発電機回転速度指令値(NG*又はNGmax)より、下記式によりエンジントルク指令値(TE*)を算出したのち、ENDへ進み、図2のステップ5へ移行する。
TE*=PG*/NG* 又はTE*=PG*/NGmax
【0043】
以上の処理を実行することで、ダイレクト配電走行時にトラクション制御へ介入した際も、狙い通りのトラクション制御を高応答に実現することができる。
【0044】
次に、本例の制御と従来の制御とを比較する。図13は従来の制御の問題点を示すタイムチャートであり、図13は、ダイレクト配電制御中の発電制御、駆動制御の様子を示し、通常走行から、T2にてスリップ発生を認識し、この時点T2からトラクション制御へ介入する様子を示している。
【0045】
まず、時間T1で加速中にスリップが発生し、これにより実モータ回転速度(ωm)と車速(ωv)の偏差が発生する。時間T2では、モータ回転の加速度、スリップ率、スリップ量(車速ωvとモータ回転速度の偏差)などよりスリップ有りと判断している。ここから、トラクション制御が開始されるが、発電電力は、ダイレクト配電で用いられる運転点(α線)上におけるエンジントルクと発電機回転速度から算出される。この発電機回転速度を変化させるために、エンジンイナーシャを動かす応答遅れがあり、発電電力を早期に下降させることができず、発電電力及び駆動電力共に、応答は緩慢になる。そのため、トラクション制御で必要とするトルク(=駆動電力)は、狙い通りの応答が得られず、時間T3,T4では、振動的になっていることが理解される。そして、充放電可能電力(Pin,Pout)を超えて充放電を行っていることも理解される。
【0046】
これに対し、図14に本例の制御タイムチャートを示す。図14は、図13の従来制御と同様に、ダイレクト配電制御中の発電制御、駆動制御の様子を示しており、通常走行から、時間T2にてスリップの発生を認識し、トラクション制御へ介入する様子を示している。
【0047】
まず、時間T1で加速中にスリップが発生し、実モータ回転速度(ωm)と車速(ωv)の偏差が大きくなる。時間T2では、前述したようモータ回転の加速度、スリップ率、スリップ量などよりスリップ有りと判断している。このとき、図2のステップ4で前述したようにエンジントルク指令値(TE*)を保持した状態で、発電機回転速度指令値(NG*)の上昇を行うと、過渡的には発電電力が減少する。
【0048】
時間T3では、時間T2から一定時間が経過すると、エンジントルク指令値(TE*)を下降させ、発電機回転速度指令値(NG*)の上昇を中断する。時間T3における発電機回転速度が、最大出力電力に対する規定発電機回転速度(NGmax)ではないため、時間T4に向けては、車速に応じて発電機回転速度指令値(NG*)の上昇を開始する。そして、時間T4で規定発電機回転速度(NGmax)となったため、発電機回転速度指令値(NG*)を一定に保持する。
【0049】
この結果、ダイレクト配電走行状態において、トラクション制御に介入した際も、高応答にトラクション制御を実現することができる。
【0050】
図12は、図2のステップ4の他の制御例を示すフローチャートである。なお、本例に係るハイブリッド車両の制御装置の全体構成は、上述した実施形態と同じであるためここに援用し、その説明を省略する。また、システムコントローラ1の動作についても、図2のステップ4の発電指令値演算処理以外は上述した実施形態と同じであるため、ステップ4の発電指令値演算処理以外の内容をここに援用し、その説明は省略する。
【0051】
本例の発電指令値演算では、トラクション制御介入前の回転速度上昇タイミングにて、規定発電機回転速度(NGmax)までの上昇を行う。そのため、トラクション制御介入後は発電機回転速度指令値(NG*)を調整する必要がない。この回転速度上昇タイミングは、エンジン回転速度の上昇時間(無駄時間や時定数)等を考慮し、トラクション介入前に判断する。
【0052】
なお、発電機コントローラ4へトルク指令(TG*)を出力することで、発電機5にてトルク制御を行い、エンジンコントローラ2へ回転速度指令(NE*)を出力することで、エンジン3で回転速度制御を行い、所望の発電を行ってもよい。
【0053】
本例の制御では、まず駆動輪速度ωmと車体速ωvにより、現在の輪速偏差ωslipを算出する。算出式を下記式(1)に示す。
[数1]
Ωslip=ωm−ωv …(1)
【0054】
次に、現在の輪速偏差ωslipと、現状の輪速偏差の変化速度d(ωv)/dtと、エンジン3の時定数と、無駄時間を考慮した予見時間T秒とにより、T秒後のスリップ量偏差(ωtslip)を予測する。算出式を下記式(2)に示す。
[数2]
ωtslip=ωmt−ωvt
ωtslip=ωslip+d(ωslip)/dt*T
ωmt−ωvt=ωslip+d(ωslip)/dt*T …(2)
【0055】
予見したT秒後のスリップ量偏差と、トラクション介入偏差閾値とを比較し、予見したスリップ量が、介入閾値を超えた所を発電機回転速度上昇タイミングとする。比較算出式を下記式(3)に示す。
[数3]
ωtslip≧ωslipon …(3)
【0056】
ここで、ωmは駆動輪速度、ωvは従動輪速度、Tは予見時間(エンジン応答)無駄時間、時定数等から算出する)、ωmtは予見時間(T秒)後の駆動輪速度、ωvtは予見時間(T秒)後の車体速度、ωsliponはトラクション介入偏差閾値、ωslipは車輪偏差(スリップ量)、ωtslipは予見時間(T秒)後の車輪偏差である。
【0057】
次に、図2の発ステップ4の他例に係る発電指令値演算処理に関して、図12に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0058】
ステップ501では、現在の駆動輪速度(ωm)、車速(ωv)、予見時間T等を格納する。ステップ502では、上式(1)〜(3)で説明した計算の処理を行い、予見時間後の輪速差(ωtslip)を算出する。
【0059】
ステップ503では、トラクション制御中(slipon=1)の場合は、ステップ504へ進み、トラクション非制御中(slipon=0)の場合はステップ507へ進む。トラクション制御中であるステップ504では、発電機の最大出力電力(PGmax)を算出し、ステップ505へ進む。ステップ505では、ステップ504で算出した発電機の最大出力電力(PGmax)より、図10に示すような制御マップを用いて規定発電機回転速度(NGmax)を算出する。ステップ506では、図2のステップ3で算出された要求発電電力(PG*)と、規定発電機回転速度(NGmax)より、目標トルク(TE*)を算出したのちENDへ進み、図2のステップ5へ移行する。
【0060】
トラクション非制御中であるステップ507では、トラクション介入の偏差閾値ωsliponと、ステップ502で算出した予見時間後の輪速差ωtslipを比較し、ωtslip≧ωsliponの場合は、ステップ504へ進み、ωtslip<ωsliponの場合はステップ508へ進む。ステップ508では、図7に示すダイレクト配電で使っている運転点(α線)と、発電電力(PG*)より、トルク指令値(TE*)、目標発電機回転速度(NG*)を算出したのちENDへ進み、図2のステップ5へ移行する。
【0061】
この結果、ダイレクト配電走行時に、トラクション制御へ介入する際も、介入前に規定発電機回転速度(NGmax)まで上昇させることで、介入後は、トラクション制御を高応答に実現する。
【0062】
図15に本例の制御タイムチャートを示す。図15は、図13の従来制御と同様に、ダイレクト配電制御中の発電制御、駆動制御の様子を示しており、通常走行から、T2にてスリップの発生を認識し、トラクション制御へ介入する様子を示している。
【0063】
まず、時間T1で加速中にスリップが発生し、実モータ回転速度(ωm)と車速(ωv)の偏差が大きくなる。時間T5は、エンジンの時定数、無駄時間を考慮したタイミングであり、時間T5のタイミングで発電機回転速度の上昇を開始する。そして、時間T2では、前述したようモータ回転の加速度、スリップ率、スリップ量などよりスリップ有りと判断している。この時既に、規定発電機回転速度(NGmax)となっており、発電機回転速度を一定に保持している。
【0064】
その結果、ダイレクト配電走行状態において、トラクション制御に介入する際も、一定とする発電機回転速度を時定数、無駄時間を考慮したタイミングにて、エンジン回転速度を事前に上昇させることで、トラクション制御に介入したタイミングでも、充放電電力を最小限に抑えながら、高応答にトラクション制御を実現することができる。
【0065】
以上のとおり本発明の実施の形態によれば、ダイレクト配電走行状態であってトラクション制御中においては、エンジン3の燃費を優先する運転点、特に燃費最適線(図7のα線)に代えて、発電機5の回転速度の変化量を所定値以下に設定することで、トルクの変化だけで狙い通りの駆動電力(=発電電力)を高応答に実現することができる。すなわち、トラクション制御中においてエンジン3の燃費最適線を用いると回転速度が逐次変動するため、この変化によるエンジンイナーシャを動かすための応答は遅く、トラクション制御が発散するといった問題があるが、本例によればこうした問題が解消される。
【0066】
また、バッテリ8の満充電時や残量が低下した時についても同様に、狙い通りの発電を高応答に実現することで、バッテリ8への過充電や過放電を防止することができ、バッテリ8への充放電電力を最小限に抑えることができる。
【0067】
また本発明の実施の形態では、トラクション制御中において発電機5で出力可能な最大発電電力を実現できる最小の回転速度に設定する。発電機5は、一般的に高回転に比べて低回転の方が発電電力指令値に対する実際の発電電力の精度が高いが、回転速度指令値を低回転で一定にすると、発電制御装置で出力できる最大発電電力までの発電ができないし、低回転で一定とすると、大きなトルクの増加及び減少が必要となる。そこで、トラクション制御中の回転速度の一定値は、発電制御装置で出力可能な最大発電電力を実現でき、且つ、極力、最小の回転速度とすることで、最大出力電力(PGmax)と、発電電力指令に対する実際の発電電力との合致精度を高めることができる。
【0068】
また、ハイブリッド車が走行する路面の摩擦抵抗を推定した上で最大発電電力を算出し、トラクション制御中において、発電機の回転速度指令値を、この路面の摩擦抵抗を考慮した最大発電電力を実現できる最小の回転速度に設定すれば、ハイブリッド車が走行する実際の状況により近い最大発電電力を用いることで、最大出力電力と、発電電力指令に対する実際の発電電力との合致精度をより高めることができる。
【0069】
また本発明の実施の形態では、トラクション制御中において、発電機5の回転速度指令値を、トラクション制御を開始したときの回転速度から最小の回転速度まで、車速の変化に応じて増減する回転速度指令値に設定する。トラクション制御の開始前は、燃費最適線α線より算出された回転速度に設定されているが、トラクション制御の開始と同時に、所定の回転速度まで増加又は減少させる必要がある。この場合に、トラクション制御の開始前と同様にα線上で増加させると、エンジンイナーシャの応答遅れが影響し、運転点の移動中は高応答にトラクション制御ができないない。そこで、本例では、トラクション制御の開始時の回転速度から狙いの一定回転速度まで、応答が緩慢な車体速に応じて増加又は減少させることで、トラクション制御開始後の運転点の移動中でも、エンジンイナーシャの応答遅れをほぼ考慮する必要がなく、高応答なトラクション制御を満足することができる。
【0070】
この発電機5の回転速度を、トラクション制御開始時の回転速度から所定の回転速度まで変化させる際に、エンジン3のトルクを保持しながら発電機5の回転速度制御を行い、発電機5による発電電力が最速で変化するように発電機5の回転速度を変動させることで、過渡的に駆動電力(=発電電力)を高応答に低下させることができ、且つ、所定の回転速度まで上昇させることができる。
【0071】
また、本発明の実施の形態では、トラクション制御を開始する前の回転速度の上昇タイミングにて、発電機5の回転速度を所定の回転速度まで上昇させるので、トラクション制御中に回転速度を変化させる必要がなくなり、ダイレクト配電時のトラクション制御を高応答に満足することができる。
【0072】
この場合に、エンジンの時定数及び無駄時間を考慮した予見時間後のスリップ量の偏差が所定値以上になったタイミングで発電機5の回転速度を上昇させれば、的確なタイミングで、回転速度を上昇させることができ、トラクション制御の開始後に回転速度を変動させる必要がなくなる。また、非トラクション制御時は、極力エンジン3の燃費最適線を使うことができるので、燃費も向上する。
【0073】
上記システムコントローラ1は本発明に係るトラクション制御検出手段、要求発電電力演算手段、運転点演算手段、駆動モータ制御手段及び制御手段に相当し、上記エンジンコントローラ2及び発電機コントローラ4は本発明に係る制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0074】
1:システムコントローラ
2:エンジンコントローラ
3:エンジン
4:発電機コントローラ
5:発電機
6:発電機インバータ
7:バッテリコントローラ
8:バッテリ
9:駆動モータコントローラ
10:駆動インバータ
11:駆動モータ
12:減速機
13:駆動輪
14:車輪速度センサ
15:モータ回転センサ
16:電流センサ
Pin:バッテリ入力可能電力,Pout:バッテリ出力可能電力
PD0:要求駆動電力
PDslip:要求駆動電力(トラクション制御時)
TD0:駆動要求トルク
ωm:モータ回転速度
ωv:車速
Tslip:スリップトルク指令値
PG*:要求発電電力
TE*:エンジントルク指令値
NG*:発電機回転速度指令値
Pg:実発電電力
TD*:駆動モータトルク指令値
NGmax:規定発電機回転速度
PGmax:最大出力電力
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動され車両駆動用の電力を生成する発電機と、車両を駆動するための駆動モータと、前記発電機及び前記駆動モータに接続する充放電可能なバッテリと、を備えるハイブリッド車両の、前記発電機を制御するための発電制御装置において、
前記ハイブリッド車両の車輪のスリップの有無に応じて前記駆動モータへのトルク指令値を制御するトラクション制御を検出するトラクション制御検出手段と、
車両負荷又は前記トラクション制御で演算されたトルク指令値に応じて算出される目標駆動電力に基づいて、前記発電機への要求発電電力を演算する要求発電電力演算手段と、
前記要求発電電力を発電するための、前記発電機の回転速度指令値と前記エンジンのトルク指令値からなる運転点又は前記発電機のトルク指令値と前記エンジンの回転速度指令値からなる運転点を演算する運転点演算手段と、
前記運転点に基づいて前記発電機及び前記エンジンを制御する制御手段と、
前記発電機における実際の発電電力と前記駆動モータにおける実際の駆動電力が一致するように前記駆動モータの駆動トルクを制御する駆動モータ制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記運転点演算手段で演算されるエンジンの燃費を優先した運転点に代えて、前記発電機の回転速度の変化量が所定値以下である運転点に設定するハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記運転点演算手段で演算されるエンジンの燃費が最適な運転点に代えて、前記発電機の回転速度の変化量が所定値以下である運転点に設定する請求項1に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、当該発電機で出力可能な最大発電電力を実現できる最小の回転速度に相当する回転速度指令値に設定する請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記ハイブリッド車両が走行する路面の摩擦抵抗を推定し、当該推定された路面摩擦抵抗に基づいて路面毎に必要となる最大発電電力を算出し、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、前記最大発電電力を実現できる最小の回転速度に相当する回転数指令値に設定する請求項2又は3に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、前記トラクション制御を開始したときの回転速度から前記最小の回転速度まで、車速の変化に応じて増減する回転速度指令値に設定する請求項2〜4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、前記トラクション制御を開始したときの回転速度から、前記エンジンのトルクを保持しながら前記発電機の回転速度制御を行い、前記発電機による発電電力が最速で変化するように前記発電機の回転速度を変動させる回転速度指令値に設定する請求項2〜4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、前記トラクション制御を開始する前の回転速度の上昇タイミングにて、所定の回転速度まで上昇させる回転速度指令値に設定する請求項1に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記回転速度の上昇タイミングを、前記エンジンの時定数及び無駄時間を考慮した予見時間後のスリップ量の偏差が所定値以上になったタイミングに設定する請求項7に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項1】
エンジンにより駆動され車両駆動用の電力を生成する発電機と、車両を駆動するための駆動モータと、前記発電機及び前記駆動モータに接続する充放電可能なバッテリと、を備えるハイブリッド車両の、前記発電機を制御するための発電制御装置において、
前記ハイブリッド車両の車輪のスリップの有無に応じて前記駆動モータへのトルク指令値を制御するトラクション制御を検出するトラクション制御検出手段と、
車両負荷又は前記トラクション制御で演算されたトルク指令値に応じて算出される目標駆動電力に基づいて、前記発電機への要求発電電力を演算する要求発電電力演算手段と、
前記要求発電電力を発電するための、前記発電機の回転速度指令値と前記エンジンのトルク指令値からなる運転点又は前記発電機のトルク指令値と前記エンジンの回転速度指令値からなる運転点を演算する運転点演算手段と、
前記運転点に基づいて前記発電機及び前記エンジンを制御する制御手段と、
前記発電機における実際の発電電力と前記駆動モータにおける実際の駆動電力が一致するように前記駆動モータの駆動トルクを制御する駆動モータ制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記運転点演算手段で演算されるエンジンの燃費を優先した運転点に代えて、前記発電機の回転速度の変化量が所定値以下である運転点に設定するハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記運転点演算手段で演算されるエンジンの燃費が最適な運転点に代えて、前記発電機の回転速度の変化量が所定値以下である運転点に設定する請求項1に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、当該発電機で出力可能な最大発電電力を実現できる最小の回転速度に相当する回転速度指令値に設定する請求項1又は2に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記ハイブリッド車両が走行する路面の摩擦抵抗を推定し、当該推定された路面摩擦抵抗に基づいて路面毎に必要となる最大発電電力を算出し、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、前記最大発電電力を実現できる最小の回転速度に相当する回転数指令値に設定する請求項2又は3に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、前記トラクション制御を開始したときの回転速度から前記最小の回転速度まで、車速の変化に応じて増減する回転速度指令値に設定する請求項2〜4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、前記トラクション制御を開始したときの回転速度から、前記エンジンのトルクを保持しながら前記発電機の回転速度制御を行い、前記発電機による発電電力が最速で変化するように前記発電機の回転速度を変動させる回転速度指令値に設定する請求項2〜4のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記トラクション制御中において、前記発電機の回転速度指令値を、前記トラクション制御を開始する前の回転速度の上昇タイミングにて、所定の回転速度まで上昇させる回転速度指令値に設定する請求項1に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記回転速度の上昇タイミングを、前記エンジンの時定数及び無駄時間を考慮した予見時間後のスリップ量の偏差が所定値以上になったタイミングに設定する請求項7に記載のハイブリッド車両の発電制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−60175(P2013−60175A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201567(P2011−201567)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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