説明

ハイブリッド車両の制御装置

【課題】ハイブリッド車両において、変速機故障時の燃費悪化を防止する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置(100)は、内燃機関(200)と、内燃機関の回転数を変速して車輪(FL,FR)に伝達する有段変速機(30)と、蓄電手段(12)を有する回転電機(MG)とを備えるハイブリッド車両(1)を制御する。ハイブリッド車両の制御装置は、有段変速機の故障を検出する変速機故障検出手段(110)と、有段変速機の故障が検出された場合に、回転電機の充放電パワーが所定の上限値又は下限値を超えないように内燃機関のトルクを制限する制限手段(120,130)と、有段変速機の故障が検出された場合に、蓄電手段の充電制限範囲を、変速機の故障が検出されていない場合と比べて大きくする充電制限範囲変更手段(150,160)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関及び回転電機を含む動力要素、並びに有段変速機を備えたハイブリッド車両を制御する制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のハイブリッド車両では、変速機によって適宜ギヤが切替えられることで、より適切な燃費状態での走行が実現される。よって、ハイブリッド車両の走行中に変速機が故障してしまうと、適切な燃費状態での走行が実現できなくなってしまうおそれがある。
【0003】
このような場合を想定して、例えば特許文献1では、モータの接続を変速機の入力軸と出力軸とで切り替え可能な車両において、変速機が特定の変速段で固定された場合に、モータの接続を出力軸に切替えるという技術が提案されている。また特許文献2では、変速機が故障した場合に、エンジンの出力特性を固定するという技術が提案されている。更に特許文献3では、変速機が故障して変速比の低いギヤに固定された場合、要求トルクを制限し、制限した要求トルクに基づいてエンジン及びモータを制御するという技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−247689号公報
【特許文献2】特開平05−104989号公報
【特許文献3】特開2005−313865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハイブリッド車両では、内燃機関の出力パワーと要求パワーとの差分が、回転電機の回生動作によりバッテリ等の蓄電手段へと充電される。ここで仮に、変速機が故障して変速比の低いギヤに固定されてしまった場合、要求パワーに対して内燃機関の回転数が極めて高い状態となり、蓄電手段への充電量が受け入れできない程に高くなってしまうおそれがある。この場合、内燃機関の動作点を最適燃費線へと近づけることが困難となるため、結果として燃費が悪化してしまう。
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1から3には、変速機の故障時において、蓄電手段への充電量が高くなり過ぎてしまうということについては何ら言及されていない。また仮に、特許文献1から3に記載されている変速機の故障時の制御を行なったとしても、蓄電手段への充電量が高くなり過ぎてしまうことを防止することは困難である。即ち、特許文献1から3に記載の技術は、変速機の故障時において、燃費が悪化するおそれがあるという技術的問題点を有している。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みなされたものであり、変速機の故障時において、燃費の悪化を防止することが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関と、前記内燃機関の回転数を変速して車輪に伝達する有段変速機と、蓄電手段を有する回転電機とを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、前記有段変速機の故障を検出する変速機故障検出手段と、前記有段変速機の故障が検出された場合に、前記回転電機の充放電パワーが所定の上限値又は下限値を超えないように前記内燃機関のトルクを制限する制限手段と、前記有段変速機の故障が検出された場合に、前記蓄電手段の充電制限範囲を、前記変速機の故障が検出されていない場合と比べて大きくする充電制限範囲変更手段とを備える。
【0009】
本発明に係るハイブリッド車両は、駆動軸に対し動力を供給可能な動力要素として、燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等を問わない各種の態様を採り得る内燃機関と、例えばモータジェネレータ等の電動発電機として構成され得る回転電機とを少なくとも備えた車両である。回転電機は、例えばバッテリ等の蓄電手段に回生によって得られた電力を充電可能であると共に、蓄電手段から供給される電力によって力行可能とされている。尚、内燃機関及び回転電機は、例えば複数のギヤを含んでなる有段変速機に夫々接続されている。これにより、有段変速機において適切な変速比が実現され、燃費を向上させることが可能となる。
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、このようなハイブリッド車両を制御する制御装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0011】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の動作時には、先ず変速機故障検出手段によって、有段変速機の故障が検出される。なお、ここでの「有段変速機の故障」とは、有段変速機において正常な動作を行えなくなった状況であり、例えば有段変速機が有するアクチュエータの不具合によって、変速段が固定されてしまうような状態が挙げられる。
【0012】
本発明では特に、有段変速機の故障が検出された場合、制限手段によって内燃機関のトルクが制限されることになる。具体的には、内燃機関のトルクは、回転電機の充放電パワーが所定の上限値又は下限値を超えないように(即ち、上限値を上回らないように、或いは下限値を下回らないように)制限される。なお、ここでの「所定の上限値又は下限値」とは、回転電機が有する蓄電手段が瞬間的に受け入れ可能な充電量、或いは放出可能な放電量に対応する値であり、予め設定されメモリ等に記憶されている。
【0013】
制限手段は、例えば車軸に出力することが要求されている要求パワーと、内燃機関の実際の出力パワーとの差分から回転電機の充放電パワーを算出し、算出された回転電機の充放電パワーが、所定の上限値又は下限値を超えないように内燃機関のトルクを制限する。即ち、回転電機の充放電パワーが所定の上限値又は下限値を超えない場合には、制限手段による内燃機関に対する制限も行なわれない。一方で、回転電機の充放電パワーが所定の上限値又は下限値を超えてしまう場合には、内燃機関に対してトルクの上限値を制限するような制御が行なわれる。
【0014】
ここで仮に、有段変速機が故障して変速比の低いギヤに固定されてしまった場合、要求パワーに対して内燃機関の回転数が極めて高い状態となり、内燃機関からの出力パワーが大きくなり過ぎてしまうおそれがある。このような場合、回転電機の充放電パワーが大きくなり、蓄電手段への充放電が許容量を超えてしまうおそれがある。蓄電手段の許容量を超えてしまうと、内燃機関の動作点を最適燃費線へと近づけることが困難となるため、結果として燃費が悪化してしまう。
【0015】
しかるに本発明では特に、上述したように、有段変速機の故障が検出されると、内燃機関のトルクが制限される。これにより、内燃機関からの出力パワーが制限されることになり、回転電機の充放電パワーが一定範囲となる。従って、回転電機の充放電パワーが大きくなり、蓄電手段の充放電が許容量を超えてしまうことを防止できる。このため、内燃機関の動作点を最適燃費線へと近づけた状態で走行を続けることができる。
【0016】
なお、内燃機関のトルクを制限する場合には、有段変速機の故障検出時の内燃機関の回転数によっては、ハイブリッド車両の速度維持が困難となってしまう場合もあり得る。このような場合には、内燃機関のトルクは、急激に制限されるのではなく、ハイブリッド車両の速度を徐々に減速させるように段階的に制限されることが好ましい。
【0017】
本発明では更に、有段変速機の故障が検出された場合に、充電制限範囲変更手段によって、蓄電手段の充電制限範囲が大きくなるように変更される。具体的には、SOC(State Of Charge)の上限値が引き上げられる、或いは下限値が引き下げられる。なお、充電制限範囲は、予め設定された所定値分だけ大きくなるように変更されてもよいし、ハイブリッド車両における各種パラメータに基づいて決定された値に応じて大きくなるように変更されてもよい。
【0018】
ハイブリッド車両は、回転電機からの出力のみによって走行するモード(所謂、EVモード)と、内燃機関及び回転電機の両方を用いて走行するモード(所謂、HVモード)とを切替えながら走行するが、EVモードからHVモードへの切替え時には、停止していた内燃機関を始動させることが求められる。しかしながら、内燃機関の始動には比較的大きなパワーが要求されるため、燃費を向上させる観点で見れば、内燃機関の始動回数(言い換えれば、EVモードからHVモードへの切替え回数)は、できる限り少ないことが好ましい。
【0019】
しかるに本発明では特に、有段変速機の故障が検出された場合に、蓄電手段の充電制限範囲が大きくなるように変更される。これにより、EVモードの走行距離を延ばすことが可能となる。従って、内燃機関の始動回数を減らすことができ、有段変速機の故障時における燃費の悪化を防止することができる。
【0020】
以上説明したように、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、有段変速機の故障時において、燃費の悪化を防止することが可能である。
【0021】
本発明のハイブリッド車両の一態様では、前記充電制限範囲変更手段は、前記内燃機関及び前記回転電機に要求されるパワーの所定期間における平均値が大きい程、前記蓄電手段の充電制限範囲を大きくする。
【0022】
この態様によれば、有段変速機の故障検出時において、蓄電手段の充電制限範囲が、動力要素である内燃機関及び回転電機に要求されるパワー(以下、適宜「要求パワー」と称する)の所定期間における平均値に基づいて大きくなるように変更される。なお、蓄電手段の充電制限範囲は、要求パワーの所定期間における平均値に比例して連続的に大きくなるように変更されてもよいし、要求パワーの所定期間における平均値が所定の閾値を超える度に段階的に大きくなるよう変更されてもよい。
【0023】
要求パワーが比較的大きい場合、蓄電手段の充電制限範囲を大きくなるよう変更することで、効果的に燃費を向上させることができる。一方で、要求パワーが比較的小さい場合には、蓄電手段の充電制御範囲を大きくなるように変更せずとも、EVモードによる走行距離が相対的に長くなるため、燃費悪化への影響は小さくなる。よって、要求パワーに応じて蓄電手段の充電制限範囲を変更するようにすれば、蓄電手段の充電制限範囲を大きくすることによる不都合(例えば、蓄電手段の劣化等)を防止しつつ、燃費の悪化を防止することができる。
【0024】
また、ハイブリッド車両では、要求パワーが一定のままで走り続けることは現実的ではなく、走行状況に応じて変動する値であると考えられる。よって、要求パワーの所定期間における平均値を用いることで、好適に蓄電手段の充電制限範囲の変更が行える。なお、ここでの「所定期間」は、燃費悪化を効果的に防止できるよう、予め理論的、実験的、或いは経験的に求められている。
【0025】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】エンジンの一断面構成を例示する模式図である。
【図4】実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図5】実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の一連の動作を示すフローチャートである。
【図6】エンジンの熱効率を示すマップである。
【図7】通常制御時及び変速機故障時のSOC制限範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0028】
先ず、本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0029】
図1において、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、ハイブリッド駆動装置10、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14及びECU100を備えて構成されている。
【0030】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明の「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両1における各種制御を実行可能に構成されている。
【0031】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMGに供給する。また、モータジェネレータMGによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能な不図示のインバータを含んでいる。即ち、PCU11は、バッテリ12とモータジェネレータとの間の電力の入出力、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずにモータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0032】
バッテリ12は、モータジェネレータMGを力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な蓄電手段である。バッテリ12の蓄電量は、ECU100等において検出可能とされている。
【0033】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0034】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0035】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1のパワートレインとして機能する動力ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0036】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、主にエンジン200、変速機30、モータジェネレータMG、接続切替機構40及び減速機構70を備えて構成されている。
【0037】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能するように構成されている。ここで、図3を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、エンジンの一断面構成を例示する模式図である。
【0038】
尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る内燃機関の構成は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。また、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図3においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。
【0039】
図3において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介して、クランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0040】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転数NEが算出される構成となっている。
【0041】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。
【0042】
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0043】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(即ち、上述したアクセル開度Ta)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0044】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出される排気中のNOx(窒素酸化物)を還元すると同時に、排気中のCO(一酸化炭素)及びHC(炭化水素)を酸化可能に構成された触媒装置である。尚、触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
【0045】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
【0046】
図2に戻り、エンジン200からエンジン出力軸15を介して出力される機械的動力は、摩擦クラッチ装置20を介して変速機入力軸28に伝達される。
【0047】
変速機30は、本発明の「有段変速機」の一例であり、変速機入力軸28で受けた機械的動力を、複数の変速段31〜34のうちいずれか1つにより変速し、変速機出力軸60に伝達可能に構成されている。具体的には、変速機30は、複数の歯車対を備えた平行軸歯車装置として構成されており、本実施形態においては、第1速ギヤ段31と、第2速ギヤ段32と、第3速ギヤ段33と、第4速ギヤ段34とを有している。なお、第1速ギヤ段31〜第4速ギヤ段34の減速比は、第1速ギヤ段31、第2速ギヤ段32、第3速ギヤ段33、第4速ギヤ段34の順に小さくなるよう構成されている。
【0048】
変速機30の各変速段31、32、33、34の各々は、変速機入力軸28側のギヤであるメインギヤ31a、32a、33a、34a、及び変速機出力軸60側のギヤであるカウンタギヤ31c、32c、33c、34cを有している。メインギヤ31a、32a、33a、34aは、対応するカウンタギヤ31c、32c、33c、34cと噛み合う。各変速段31、32、33、34において、メインギヤとカウンタギヤのうち一方は、変速機入力軸28又は変速機出力軸60に対して回転可能に構成されている。各変速段31〜34には、回転可能に構成されたギヤ(メインギヤ又はカウンタギヤ)と変速機入力軸28又は変速機出力軸40とを結合させる図示しない噛み合いクラッチ機構(例えば、ドグクラッチ)が、それぞれ設けられている。
【0049】
変速機出力軸60から出力される動力は、ギヤ46及び48を介して減速機構70へと伝達される。減速機構70は、図示せぬ車軸に対して伝達された動力を出力する。
【0050】
モータジェネレータMGは、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた電動発電機である。尚、モータジェネレータMGは、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、他の構成を有していてもよい。モータジェネレータMGは、本発明に係る「回転電機」の一例である。
【0051】
接続切替機構40は、モータジェネレータMGの出力軸50の変速機30に対する接続状態を切替える機構である。接続切替機構40は、複数のギヤ及びスリーブ等を含んで構成されており、スリーブの位置が変更されることで、モータジェネレータMGの出力軸50の接続状態を変更することが可能である。本実施形態に係る接続切替機構40は、モータジェネレータMGの出力軸50を変速機入力軸28に接続するIN接続状態と、モータジェネレータMGの出力軸50をギヤ54a及び54bを介して変速機出力軸60に接続するOUT接続状態とを相互に切り替え可能とされている。
【0052】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の一例であるECU100の具体的な構成について、図4を参照して説明する。ここに図4は、実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の構成を示すブロック図である。
【0053】
図4において、ECU100は、変速機故障検出部110、トルク制限値算出部120、トルク制限部130、要求パワー平均値算出部140、SOC制限範囲決定部150及びSOC制限範囲変更部160を備えて構成されている。
【0054】
変速機故障検出部110は、本発明の「変速機故障検出手段」の一例であり、変速機30の故障(具体的には、変速段を変更できない状態)を検出する。変速機故障検出部110で検出された変速機30の故障に関する情報は、トルク制限値算出部120及びSOC制限範囲決定部150に、それぞれ伝達される。
【0055】
トルク制限値算出部120は、変速機故障検出部110において変速機30の故障が検出された場合に、エンジン200のトルクを制限するためのトルク制限値を算出する。このトルク制限値の算出方法については、後に詳述する。
【0056】
トルク制限部30は、トルク制限値算出部120において算出されたトルク制限値に基づいて、エンジンの出力トルクを制限する。
【0057】
尚、トルク制限値算出部120及びトルク制限部30は、本発明の「制限手段」の一例である。
【0058】
要求パワー平均値算出部140は、例えば演算回路及びメモリ等を含んで構成されており、ハイブリッド車両1の走行に要求されるパワーの所定期間における平均値を算出する。要求パワー平均値算出部140において算出された平均値は、SOC制限範囲決定部150に伝達される。
【0059】
SOC制限範囲決定部150は、要求パワー平均値算出部140において算出された平均値に基づいて、バッテリ12(図1参照)における適切なSOC制限範囲を決定する。SOC制限範囲決定部150は、例えば要求パワーの所定期間における平均値と、SOC制限範囲(具体的には、SOC上限値及び下限値)との関係を示すマップ等を用いてSOC制限範囲を決定する。より具体的なSOC制限範囲の決定方法については後述する。
【0060】
SOC制限範囲変更部160は、バッテリ12におけるSOC制限範囲が、SOC制限範囲決定部150において決定されたSOC制限範囲となるように変更する。
【0061】
尚、要求パワー平均値算出部140、SOC制限範囲決定部150及びSOC制限範囲変更部160は、本発明の「充電制限範囲変更手段」の一例である。
【0062】
以上説明したECU100は、上述した各部位を含んで構成された一体の電子制御ユニットであり、上記各部位に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記部位の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0063】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の動作について、図5を参照して説明する。ここに図5は、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の一連の動作を示すフローチャートである。
【0064】
図5において、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の動作時には、先ず変速機故障検出部110において変速機30が故障しているか否かが判定される(ステップS01)。なお、変速機30の故障が検出されない場合(ステップS01:NO)、変速機30の故障が検出されるまで判定が続けられる。
【0065】
変速機30の故障が検出された場合(ステップS01:YES)、モータジェネレータMGが使用可能な状態であるか否かが判定される(ステップS02)。この判定は、変速機故障検出部110において行なわれてもよいし、他の部位で行なわれてもよい。なお、モータジェネレータMGが使用可能でない場合(ステップS02:NO)、ハイブリッド車両の制御装置による一連の処理は終了する。
【0066】
モータジェネレータMGが使用可能である場合(ステップS02:YES)、トルク制限値算出部120において、エンジン200の出力トルクを制限するためのトルク制限値が算出される(ステップS03)。以下では、トルク制限値の具体的な算出方法について、図6を参照して説明する。ここに図6は、エンジンの熱効率を示すマップである。
【0067】
図6において、例えば変速機30の故障によって変速段が最も低い1stに固定された場合、高車速で走行しようとすると、エンジン200の動作点が図中の点Aで示すような動作点となり、走行は可能であるものの、熱効率が悪くなると共に、最適燃費線とのパワー差も大きくなる。
【0068】
ここで、実際のエンジン200の出力パワーと最適燃費線とのパワー差は、モータジェネレータMGにおける充電パワーPchg_maxによって補完される。しかしながら、モータジェネレータMGからバッテリ12への充電パワーには上限値Pbmaxがあるため、充電パワーPchg_maxが大きくなり過ぎると、バッテリ12が充電パワーを受け入れられなくなり、結果としてエンジン200の動作点を最適燃費線へと近づけることが困難となる。
【0069】
トルク制限値算出部120では、モータジェネレータMGによって得られる充電パワーPchg_maxが、バッテリ12における充電パワーの上限値Pbmaxを超えないようなトルク制限値が算出される。具体的には、最適燃費線上のパワーをPopt、要求パワーをPdemとすると、充電パワーPchg_maxは、以下の数式(1)で求めることができる。
【0070】
Pchg_max=Popt−Pdem ・・・(1)
このようにして求められたPchg_maxが上限値Pbmax以下である場合、充電パワーがバッテリ12の許容量を超えてしまうことはないため、エンジン200の実出力パワーPrealは、要求パワーPdemと等しくされる。他方で、求められたPchg_maxが上限値Pbmaxを超えている場合は、バッテリ12の許容量を超えてしまうため、エンジン200の実出力パワーPrealは以下の数式(2)で示されるような値として制限される。
【0071】
Preal≦Popt−Pbmax ・・・(2)
トルク制限値算出部120では、上述したエンジン200の実出力パワーPrealを実現するようなトルク制限値が算出される。
【0072】
図5に戻り、トルク制限値が算出されると、算出されたトルク制限値に基づくエンジン200の制御がトルク制限部130によって行なわれる(ステップS04)。これにより、充電パワーPchg_maxが大きくなり過ぎ、バッテリ12が受け入れられなくなるという状態を防止することができる。よって、変速機30が故障している場合であっても最適燃費線に近い状態での走行が可能となり、結果として燃費の悪化を防止することができる。
【0073】
なお、上述したエンジン200のトルク制限による効果は、トルクや回転数に制限のない比較的大型のモータジェネレータよりも、トルクや回転数に制限のある比較的小型のモータジェネレータMGを用いる場合に顕著に発揮される。
【0074】
本実施形態では更に、変速機30の故障時において、上述したエンジン200の出力トルクの制限に加えて、バッテリ12におけるSOC制限範囲の変更が行なわれる。SOC制限範囲を変更する際には、先ず要求パワー平均値算出部140において、要求パワーの所定期間における平均値が算出される(ステップS05)。
【0075】
要求パワーの平均値が算出されると、SOC制限範囲決定部150において、算出された平均値に基づく適切なSOC制限範囲(具体的には、SOCの上限値及び下限値)が決定される(ステップS06)。以下では、より具体的なSOC制限範囲の決定方法について、図7を参照して説明する。ここに図7は、通常制御時及び変速機故障時のSOC制限範囲を示すグラフである。
【0076】
図7に示すように、通常制御時(即ち、変速機30が故障していない場合)のSOC上限値及び下限値が、それぞれU1及びL1であるとする。これに対して変速機故障時のSOC上限値は、要求パワーの平均値がp1に満たない場合には通常制御時と同じU1とされるが、要求パワーがP1以上となってからP2となるまでは徐々に上昇し、P2以上となるとU2とされる。また、変速機故障時のSOC下限値は、要求パワーの平均値がp1に満たない場合には通常制御時と同じL1とされる、要求パワーがP1以上となってからP2となるまでは徐々に下降し、P2以上となるとL2とされる。即ち、変速機故障時のSOC制限範囲は、要求パワーの平均値が大きいほど拡大される。
【0077】
図5に戻り、SOC制限範囲が決定されると、SOC制限範囲変更部160において、実際にSOC制限範囲が決定された値へと変更される(ステップS07)。
【0078】
ハイブリッド車両1は、モータジェネレータMGからの出力のみによって走行するEVモードと、エンジン00及びモータジェネレータMGの両方を用いて走行するHVモードとを切替えながら走行するが、EVモードからHVモードへの切替え時には、停止していたエンジン200を始動させることが求められる。しかしながら、エンジン200の始動には比較的大きなパワーが要求されるため、燃費を向上させる観点で見れば、エンジン200の始動回数(言い換えれば、EVモードからHVモードへの切替え回数)は、できる限り少ないことが好ましい。
【0079】
これに対し本実施形態では、変速機30の故障が検出された場合に、バッテリ12のSOC制限範囲が大きくなるように変更される。これにより、EVモードの走行距離を延ばすことが可能となる。従って、エンジン200の始動回数を減らすことができ、変速機30の故障時における燃費の悪化を、より好適に防止することが可能となる。
【0080】
また、要求パワーが比較的大きい場合は、蓄電手段の充電制限範囲を大きくなるよう変更することで、効果的に燃費を向上させることができるが、要求パワーが比較的小さい場合には、蓄電手段の充電制御範囲を大きくなるように変更せずとも、EVモードによる走行距離が相対的に長くなるため、燃費悪化への影響は小さくなる。よって、上述したように要求パワーの平均値に応じてバッテリ12のSOC制限範囲を変更するようにすれば、SOC制限範囲を大きくすることによる不都合(例えば、バッテリ12の劣化等)を防止しつつ、燃費の悪化を防止することができる。
【0081】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、変速機30の故障を検出した場合に、エンジン200の出力トルク制限及びSOC制限範囲の拡大が行なわれる。従って、変速機30の故障時においても燃費の悪化を防止することが可能である。
【0082】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0083】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、11…PCU、12…バッテリ、13…アクセル開度センサ、14…車速センサ、28…変速機入力軸、30…変速機、40…接続切替機構、50…MG出力軸、60…変速機出力軸、70…減速機構、100…ECU、110…変速機故障検出部、120…トルク制限値算出部、130…トルク制限部、140…要求パワー平均値算出部、150…SOC制限範囲決定部、160…SOC制限範囲変更部、200…エンジン、MG…モータジェネレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関の回転数を変速して車輪に伝達する有段変速機と、蓄電手段を有する回転電機とを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記有段変速機の故障を検出する変速機故障検出手段と、
前記有段変速機の故障が検出された場合に、前記回転電機の充放電パワーが所定の上限値又は下限値を超えないように前記内燃機関のトルクを制限する制限手段と、
前記有段変速機の故障が検出された場合に、前記蓄電手段の充電制限範囲を、前記変速機の故障が検出されていない場合と比べて大きくする充電制限範囲変更手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記充電制限範囲変更手段は、前記内燃機関及び前記回転電機に要求されるパワーの所定期間における平均値が大きい程、前記蓄電手段の充電制限範囲を大きくすることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−63736(P2013−63736A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204608(P2011−204608)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】