説明

ハイブリッド車両

【課題】電動機と内燃機関とを備えるハイブリッド車両において、EV走行中に空調装置を作動させるとき、内燃機関を確実に始動できるようにする。
【解決手段】制御装置21は、EV走行中に、空調装置5の作動を開始する場合に、蓄電装置2から空調装置5に出力する電力を漸増させていき、可能出力から走行出力と、始動出力と、空調出力とを合計した総出力を引いた出力の値が、出力マージン未満になったときに、エンジン10を始動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動源に電動機と内燃機関とを備えるハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機と内燃機関とを備えるハイブリッド車両が知られている(例えば、特許文献1)。このハイブリッド車両は、電動機の駆動力のみによる走行(EV走行)中に、空調装置を作動させる要求があった場合に、当該要求の優先度に応じて内燃機関を始動するか否かを判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−230385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載のハイブリッド車両では、EV走行に必要な出力、内燃機関の始動に必要な出力、空調装置の作動に必要な出力を考慮せずに上記の判断をしているので、これらの出力の合計が、当該車両の蓄電装置から出力可能な出力を超えている場合には、内燃機関を始動できない。
【0005】
本発明は、電動機と内燃機関とを備えるハイブリッド車両において、EV走行中に空調装置を作動させるときに、内燃機関を確実に始動できるハイブリッド車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様は、駆動源として電動機と内燃機関とを有するハイブリッド車両であって、前記電動機と前記内燃機関とを断接自在な断接手段と、前記電動機の電源として機能する蓄電装置と、前記蓄電装置を電源とする空調装置と、前記内燃機関が停止中で、前記断接手段により前記電動機と前記内燃機関との接続が断たれ、前記電動機の駆動力により走行しているときに、前記空調装置の作動を開始する場合には、前記蓄電装置から前記空調装置への出力である空調出力を漸増させていき、当該車両を走行するために必要な出力である走行出力と、前記内燃機関を始動するために必要な出力である始動出力と、前記空調出力とを合計した総出力を、前記蓄電装置から出力可能な出力から引いた値が、所定値未満になったときに、前記断接手段を接続することで前記電動機の駆動力を前記内燃機関に伝達して前記内燃機関を始動する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明の第1態様によれば、電動機の駆動力により走行しているときに、空調装置の作動を開始する場合には、空調出力を漸増させていく。これにより、出力可能な出力から、走行出力と空調出力を合計した出力を引いた残りの出力は、漸減していく。そして、この残りの出力が、始動出力と前記所定値とを加えた値より小さくなる前に内燃機関を始動する。このように、蓄電装置から始動出力分を出力可能な状態が確保されるので、断接手段を接続することで電動機と内燃機関が接続されることで、より大きな出力が必要となる場合であっても内燃機関を確実に始動できる。
【0008】
本発明の第1態様において、前記所定値は、前記駆動源への要求駆動力の変動分に基づいて決定されることが好ましい。これにより、例えば、要求駆動力の急激な増加(すなわち、走行出力の急激な増加)や、過去の要求駆動力の変動履歴(すなわち、走行出力の変動履歴)等に基づいて所定値が決定される。上述したように、走行出力と空調出力と始動出力との合計した出力の値に所定値を加えた値が、出力可能な出力の値を超える前に内燃機関を始動する。所定値が要求駆動力に基づいて決定されることで、要求駆動力の変動分を所定値で吸収でき、より確実に内燃機関を始動できる。
【0009】
本発明の第2態様は、駆動源として電動機と内燃機関とを有するハイブリッド車両であって、前記電動機と前記内燃機関とを断接自在な断接手段と、前記電動機の電源として機能する蓄電装置と、前記蓄電装置を電源とする空調装置と、前記内燃機関が停止中で、前記断接手段により前記電動機と前記内燃機関との接続が断たれ、前記電動機の駆動力により走行しているときに、前記空調装置の作動を開始する場合には、当該車両を走行するために必要な出力である走行出力と、前記内燃機関を始動するために必要な出力である始動出力と、前記空調装置への出力である空調出力とを合計した総出力が、前記蓄電装置から出力可能な出力を超える場合には、前記走行出力と前記始動出力とを合計した出力を前記出力可能な出力から引いた出力を前記空調出力として前記蓄電装置から前記空調装置に出力し、前記断接手段を接続することで前記電動機の駆動力を前記内燃機関に伝達して前記内燃機関を始動する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2態様によれば、電動機の駆動力により走行しているときに、空調装置の作動を開始する場合に、総出力が出力可能な出力を超えるときには、空調出力を、走行出力と始動出力を合計した出力を出力可能な出力から引いた出力にする。これにより、蓄電装置から始動出力分を出力可能な状態のまま空調出力を出力するので、断接手段を接続することで電動機と内燃機関が接続されることで、より大きな出力が必要となる場合であっても、内燃機関を確実に始動できる。また、このとき空調出力は、可能な限り大きい値になるので、空調機能に要求されている出力(例えば、冷気又は暖気の温度等)に可能な限り近付けることができ、運転者の利便性が向上する。
【0011】
本発明の第1態様及び第2態様において、前記制御手段は、前記駆動源への要求駆動力が増加して前記走行出力が増加したときに、前記総出力が、前記出力可能な出力を超えた場合には、前記空調出力を、前記出力可能な出力から前記走行出力と前記始動出力とを合計した出力を引いた値になるように変更することが好ましい。これにより、要求駆動力が増加した場合であっても、蓄電装置から始動出力分を出力可能な状態になるように、空調出力が変更される。これにより、要求駆動力の変動を空調出力の変更により吸収でき、より確実に内燃機関を始動できる。
【0012】
本発明の第1態様及び第2態様において、前記制御手段は、前記蓄電装置のSOCが所定のSOC以下であるときには、前記電動機の駆動力のみによる走行を中止して、前記内燃機関を始動して前記内燃機関の駆動力による走行、又は前記電動機の駆動力と前記内燃機関の駆動力による走行をするものであり、前記電動機の駆動力のみにより走行しているときに、前記空調装置が作動している場合には、前記空調装置が作動していない場合に比べて、前記所定のSOCの値を増加させることが好ましい。
【0013】
電動機の駆動力のみにより走行しているときに、空調装置が作動している場合には、空調装置が作動していない場合に比べて蓄電装置の出力が増加する。このような場合には、SOCが小さくなりやすい。SOCが小さくなると内燃機関の始動ができなくなる恐れがある。このため、所定のSOCの値を増加させることで内燃機関の始動ができるSOCを維持できるように、空調装置が作動していないときに比べてSOCの値が大きいときに電動機の駆動力のみによる走行を中止する。これにより、内燃機関の始動ができなくなるようなSOCになることを防止でき、より確実に内燃機関を始動できる。
【0014】
本発明の第1態様及び第2態様において、前記蓄電装置を電源とし、当該蓄電装置を冷却するファンを備え、前記空調装置は、車室内を冷却する冷房機能を有し、前記制御手段は、前記空調装置が前記冷房機能を作動しており、且つ前記蓄電装置のSOCが前記所定のSOC以下であるときには、前記蓄電装置から前記ファンへの出力を低下することが好ましい。
【0015】
空調装置が車室内を冷却しているときには、冷却された車室内の空気により蓄電装置を冷却できるので、蓄電装置からファンへの出力を低下させても蓄電装置を冷却できる。このように、内燃機関を始動するときに、蓄電装置から始動出力以外の出力を抑制するので、確実に内燃機関を始動できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態のハイブリッド車両を示す図。
【図2】第1実施形態のハイブリッド車両の制御装置が実行する制御処理の処理手順を示すフローチャート。
【図3】(a)は、第1実施形態のハイブリッド車両の蓄電装置の最大のSOCに対して分割された複数の領域を示す図、(b)は、(a)の各領域に応じたEV走行の許可、制限又は禁止を示す図。
【図4】第1実施形態のハイブリッド車両の制御装置が実行する図2のステップST6の処理の詳細を示すフローチャート。
【図5】第1実施形態のハイブリッド車両の各出力の時間変化の一例を示す図であり、(a)は走行出力の時間変化を示す図、(b)は始動出力の時間変化を示す図、(c)は空調出力の時間変化を示す図、(d)は出力可能な出力と総出力の時間変化を示す図。
【図6】第2実施形態のハイブリッド車両の制御装置が実行する図2のステップST6の処理の詳細を示すフローチャート。
【図7】第2実施形態のハイブリッド車両の各出力の時間変化の一例を示す図であり、(a)は走行出力の時間変化を示す図、(b)は始動出力の時間変化を示す図、(c)は空調出力の時間変化を示す図、(d)は出力可能な出力と総出力の時間変化を示す図。
【図8】第1実施形態及び第2実施形態とは別の実施形態のハイブリッド車両を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
図1は、ハイブリッド車両に適用される本発明の第1実施形態のハイブリッド車両を示す図である。図1に示されるように、第1実施形態のハイブリッド車両1は、内燃機関としてのエンジン10と、電動機11と、電動機11と電力を授受する蓄電装置2と、自動変速機31と、空調装置5と、ファン6と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)からなる制御装置21とを備える。
【0018】
制御装置21は、エンジン10、電動機11、自動変速機31、空調装置5、及びファン6を制御する。また、制御装置21は、各種演算処理を実行するCPU211と、このCPU211で実行される各種演算プログラム、各種テーブル、演算結果等を記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)212とを備え、車両速度、アクセル開度センサ22によって検出されたアクセルペダルの操作量、及びエンジン10の回転数等を表す各種電気信号が入力されると共に、演算結果等に基づいて駆動信号を外部に出力する。
【0019】
自動変速機31は、エンジン10の駆動力が伝達されるエンジン出力軸32と、図外のディファレンシャルギアを介して駆動輪としての左右の前輪に動力を出力する出力ギア33と、ギア比の異なる6つのギア列G2〜G7とを備える。
【0020】
また、自動変速機31は、変速比順位で奇数番目の各変速段を確立する奇数番ギア列G3,G5,G7の駆動ギア73,75,77を回転自在に軸支する第1駆動軸34と、変速比順位で偶数番目の変速段を確立する偶数番ギア列G2,G4,G6の駆動ギア72,74,76を回転自在に軸支する第2駆動軸35と、リバースギアGRを回転自在に軸支するリバース軸36を備える。尚、第1駆動軸34はエンジン出力軸32と同一軸線上に配置され、第2駆動軸35及びリバース軸36は第1駆動軸34と平行に配置されている。
【0021】
また、自動変速機31は、第1駆動軸34に回転自在に軸支されたアイドル駆動ギア80と、アイドル軸37に固定されアイドル駆動ギア80に噛合する第1アイドル従動ギア81と、第2駆動軸35に固定された第2アイドル従動ギア82と、リバース軸36に固定され第1アイドル従動ギア81に噛合する第3アイドル従動ギア83とで構成されるアイドルギア列GIを備える。尚、アイドル軸37は第1駆動軸34と平行に配置されている。
【0022】
自動変速機31は、油圧作動型の乾式摩擦クラッチ又は湿式摩擦クラッチからなる第1クラッチ51及び第2クラッチ52を備える。第1クラッチ51は、エンジン10の駆動力を第1駆動軸34に伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切替自在に構成されている。また、第1クラッチ51は、伝達状態において、締結量を変化させることで、伝達することができる駆動力を調整することができる。
【0023】
第2クラッチ52は、エンジン10の駆動力を第2駆動軸35に伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切替自在に構成されている。また、第2クラッチ52は、伝達状態において、締結量を変化させることで、伝達することができる駆動力を調整することができる。エンジン出力軸32は第1アイドル従動ギア81及び第2アイドル従動ギア82を介して第2駆動軸35に連結される。
【0024】
両クラッチ51,52は、素早く状態が切り替えられるように電気式アクチュエータにより作動されるものであることが好ましい。尚、両クラッチ51,52は、油圧式アクチュエータにより作動されるものであってもよい。
【0025】
また、自動変速機31には、エンジン出力軸32と同軸上に位置させて、遊星歯車機構15が配置されている。遊星歯車機構15は、サンギア16と、リングギア17と、サンギア16及びリングギア17に噛合するピニオン19を自転及び公転自在に軸支するキャリア18とからなるシングルピニオン型で構成される。本実施形態では、遊星歯車機構15のギア比(リングギア17の歯数/サンギア16の歯数)をgとしている。
【0026】
サンギア16は、第1駆動軸34に固定されている。キャリア18は、3速ギア列G3の3速駆動ギア73に連結されている。リングギア17は、ロック機構60により変速機ケース7に解除自在に固定される。
【0027】
ロック機構60は、リングギア17が変速機ケース7に固定される固定状態、又はリングギア17が回転自在な開放状態の何れかの状態に切替自在なブレーキ機構で構成されている。
【0028】
尚、ロック機構60は、シンクロメッシュ機構に限らず、同期機能がないドグクラッチ、湿式多板ブレーキ、ハブブレーキ、バンドブレーキ、ワンウェイクラッチ、2ウェイクラッチ等で構成してもよい。また、遊星歯車機構15は、シングルピニオン型に限らず、サンギアと、リングギアと、互いに噛合し一方がサンギア、他方がリングギアに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型で構成してもよい。この場合、例えば、サンギア(第1要素)を第1駆動軸34に固定し、リングギア(第3要素)を3速ギア列G3の3速駆動ギア73に連結し、キャリア(第2要素)をロック機構60で変速機ケース7に解除自在に固定するように構成すればよい。
【0029】
遊星歯車機構15の径方向外方には、中空の電動機11が配置されている。換言すれば、遊星歯車機構15は、中空の電動機11の内方に配置されている。電動機11は、ステータ12とロータ13とを備える。
【0030】
また、電動機11は、制御装置21の指示信号に基づき、パワードライブユニット14を介して制御される。制御装置21は、パワードライブユニット14を、蓄電装置2の電力を消費して電動機11を駆動させる駆動状態と、ロータ13の回転力を抑制させて発電し、発電した電力をパワードライブユニット14を介して蓄電装置2に充電する回生状態とに適宜切り替える。
【0031】
出力ギア33を軸支する従動軸38には、第1従動ギア41と、第2従動ギア42と、第3従動ギア43とが固定されている。第1従動ギア41は、2速駆動ギア72及び3速駆動ギア73に噛合する。第2従動ギア42は、4速駆動ギア74及び5速駆動ギア75に噛合する。第3従動ギア43は、6速駆動ギア76及び7速駆動ギア77に噛合する。
【0032】
このように、2速ギア列G2と3速ギア列G3の従動ギア、4速ギア列G4と5速ギア列G5の従動ギア、及び6速ギア列G6と7速ギア列G7の従動ギアをそれぞれ1つのギア41,42,43で構成することにより、自動変速機の軸長を短くすることができ、FF(前輪駆動)方式の車両への搭載性を向上させることができる。
【0033】
また、第1駆動軸34には、リバースギアGRに噛合するリバース従動ギア44が固定されている。
【0034】
第1駆動軸34には、シンクロメッシュ機構で構成された、第1噛合機構61と第3噛合機構63とが設けられている。第1噛合機構61は、3速駆動ギア73と第1駆動軸34とを連結した3速側連結状態、7速駆動ギア77と第1駆動軸34とを連結した7速側連結状態、3速駆動ギア73及び7速駆動ギア77と第1駆動軸34との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。第3噛合機構63は、5速駆動ギア75と第1駆動軸34とを連結した5速側連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。
【0035】
第2駆動軸35には、シンクロメッシュ機構で構成された、第2噛合機構62と第4噛合機構64とが設けられている。第2噛合機構62は、2速駆動ギア72と第2駆動軸35とを連結した2速側連結状態、6速駆動ギア76と第2駆動軸35とを連結した6速側連結状態、2速駆動ギア72及び6速駆動ギア76と第2駆動軸35との連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。第4噛合機構64は、4速駆動ギア74と第2駆動軸35とを連結した4速側連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在に構成されている。
【0036】
リバース軸36には、シンクロメッシュ機構で構成され、リバースギアGRとリバース軸36とを連結した連結状態と、この連結を断つニュートラル状態の何れかの状態に切替選択自在なリバース用噛合機構65が設けられている。
【0037】
空調装置5は、車室内を冷気により冷却する冷房機能と、車室内を暖気により加熱する暖房機能とを有する。空調装置5は、制御装置21の制御により、蓄電装置2から電力が出力されることで作動する電動コンプレッサ(図示省略)を有し、蓄電装置2から電力が出力されることで、空調装置5の作動が可能となる。
【0038】
ファン6は、蓄電装置2を電源とし、(蓄電装置2から電力が出力され)、制御装置21の制御により、蓄電装置2を冷却するための送風を行う電動のファンである。
【0039】
ここで、第1クラッチ51及び第2クラッチ52が、本発明における「断接手段」に相当する。
【0040】
次に、上記のように構成された自動変速機31の作動について説明する。
【0041】
自動変速機31では、第1クラッチ51を係合させることにより、電動機11の駆動力を用いてエンジン10を始動させることができる。
【0042】
エンジン10の駆動力を用いて1速段を確立する場合には、ロック機構60により遊星歯車機構15のリングギア17を固定状態とし、第1クラッチ51を締結させて伝達状態とする。ここで、エンジン10の駆動力のみによる走行をENG走行という。
【0043】
エンジン10の駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチ51、第1駆動軸34を介して、遊星歯車機構15のサンギア16に入力され、エンジン出力軸32に入力されたエンジン10の回転数が1/(g+1)に減速されて、キャリア18を介し3速駆動ギア73に伝達される。
【0044】
3速駆動ギア73に伝達された駆動力は、3速駆動ギア73及び第1従動ギア41で構成される3速ギア列G3のギア比(駆動ギアの歯数/従動ギアの歯数)をiとして、1/{i(g+1)}に変速されて第1従動ギア41及び従動軸38を介し出力ギア33から出力され、1速段が確立される。
【0045】
このように、自動変速機31では、遊星歯車機構15及び3速ギア列で1速段を確立できるため、1速段専用の噛合機構が必要なく、これにより、自動変速機の軸長の短縮化を図ることができる。
【0046】
尚、1速段において、車両が減速状態にあり、且つ蓄電装置2のSOC(State Of Charge:充電量、バッテリ残容量)に応じて、制御装置21は、電動機11でブレーキをかけることにより発電を行う減速回生運転を行う。また、蓄電装置2のSOCに応じて、電動機11を駆動させて、エンジン10の駆動力を補助するHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行、又は電動機11の駆動力のみで走行するEV(Electric Vehicle)走行を行うことができる。
【0047】
また、EV走行中であって車両の減速が許容された状態であり且つ車両速度が一定速度以上の場合には、第1クラッチ51を徐々に締結させることにより、電動機11の駆動力を用いることなく、車両の運動エネルギーを用いてエンジン10を始動させることができる。
【0048】
また、1速段で走行中に2速段にアップシフトされることを制御装置21が車両速度やアクセルペダルの操作量等の各種電気信号から予測した場合には、第2噛合機構62を2速駆動ギア72と第2駆動軸35とを連結させる2速側連結状態又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0049】
エンジン10の駆動力を用いて2速段を確立する場合には、第2噛合機構62を2速駆動ギア72と第2駆動軸35とを連結させた2速側連結状態とし、第2クラッチ52を締結して伝達状態とする。この場合、エンジン10の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、第2駆動軸35、2速ギア列G2及び従動軸38を介して、出力ギア33から出力される。
【0050】
尚、2速段において、制御装置21がアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1駆動軸34とを連結した3速側連結状態又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0051】
逆に、制御装置21がダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を、3速駆動ギア73及び5速駆動ギア75と第1駆動軸34との連結を断つニュートラル状態とする。
【0052】
これにより、アップシフト又はダウンシフトを、第1クラッチ51を伝達状態とし、第2クラッチ52を開放状態とするだけで行うことができ、変速段の切り替えを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
【0053】
また、2速段においても、車両が減速状態にある場合、蓄電装置2のSOCに応じて、制御装置21は、減速回生運転を行う。2速段において減速回生運転を行う場合には、第1噛合機構61が3速側連結状態であるか、ニュートラル状態であるかで異なる。
【0054】
第1噛合機構61が3速側連結状態である場合には、2速駆動ギア72で回転される第1従動ギア41によって回転する3速駆動ギア73が第1駆動軸34を介して電動機11のロータ13を回転させるため、このロータ13の回転を抑制しブレーキをかけることにより発電して回生を行う。
【0055】
第1噛合機構61がニュートラル状態である場合には、ロック機構60を固定状態とすることによりリングギア17の回転数を「0」とし、第1従動ギア41に噛合する3速駆動ギア73と共に回転するキャリア18の回転数を、サンギア16に連結させた電動機11により発電させることによりブレーキをかけて、回生を行う。
【0056】
また、2速段においてHEV走行する場合には、例えば、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1駆動軸34とを連結させた3速側連結状態として、ロック機構60を開放状態とすることにより遊星歯車機構15を各要素が相対回転不能な状態とし、電動機11の駆動力を3速ギア列G3を介して出力ギア33に伝達することにより行うことができる。または、第1噛合機構61をニュートラル状態として、ロック機構60を固定状態としてリングギア17の回転数を「0」とし、電動機11の駆動力を1速段の経路で第1従動ギア41に伝達することによっても、2速段によるHEV走行を行うことができる。この場合、2速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1駆動軸34、3速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0057】
エンジン10の駆動力を用いて3速段を確立する場合には、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1駆動軸34とを連結させた3速側連結状態として、第1クラッチ51を締結させて伝達状態とする。この場合、エンジン10の駆動力は、エンジン出力軸32、第1クラッチ51、第1駆動軸34、第1噛合機構61、3速ギア列G3を介して、出力ギア33に伝達され、1/iの回転数で出力される。
【0058】
3速段においては、第1噛合機構61が3速駆動ギア73と第1駆動軸34とを連結させた3速側連結状態となっているため、遊星歯車機構15のサンギア16とキャリア18とが同一回転となる。
【0059】
従って、遊星歯車機構15の各要素が相対回転不能な状態となり、電動機11でサンギア16にブレーキをかければ減速回生となり、電動機11でサンギア16に駆動力を伝達させれば、HEV走行を行うことができる。この場合、3速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1駆動軸34、3速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0060】
また、第1クラッチ51を開放して(このとき、第2クラッチ52は既に開放状態である。仮に第2クラッチ52が開放状態でない場合には開放状態にする)、電動機11の駆動力のみで走行するEV走行も可能である。
【0061】
3速段において、制御装置21は、車両速度やアクセルペダルの操作量等の各種電気信号に基づきダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構62を2速駆動ギア72と第2駆動軸35とを連結する2速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第4噛合機構64を4速駆動ギア74と第2駆動軸35とを連結する4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0062】
これにより、第2クラッチ52を締結させて伝達状態とし、第1クラッチ51を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切替えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0063】
エンジン10の駆動力を用いて4速段を確立する場合には、第4噛合機構64を4速駆動ギア74と第2駆動軸35とを連結させた4速側連結状態とし、第2クラッチ52を締結させて伝達状態とする。この場合、エンジン10の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、第2駆動軸35、4速ギア列G4及び従動軸38を介して、出力ギア33から出力される。
【0064】
4速段で走行中は、制御装置21が各種電気信号からダウンシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1駆動軸34とを連結した3速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0065】
逆に、制御装置21が各種電気信号からアップシフトを予測している場合には、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1駆動軸34とを連結した5速側連結状態、又は、この状態に近付けるプレシフト状態とする。これにより、第1クラッチ51を締結させて伝達状態とし、第2クラッチ52を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0066】
4速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、制御装置21がダウンシフトを予測しているときには、第1噛合機構61を3速駆動ギア73と第1駆動軸34とを連結した3速側連結状態とし、電動機11でブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。この場合、4速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1駆動軸34、3速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0067】
制御装置21がアップシフトを予測しているときには、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1駆動軸34とを連結した5速側連結状態とし、電動機11によりブレーキをかければ減速回生、電動機11から駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。この場合、4速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1駆動軸34、5速ギア列G5、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0068】
エンジン10の駆動力を用いて5速段を確立する場合には、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1駆動軸34とを連結した5速側連結状態とする。5速段においては、第1クラッチ51が伝達状態とされることによりエンジン10と電動機11とが直結された状態となるため、電動機11から駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、電動機11でブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
【0069】
尚、5速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチ51を開放状態とすればよい(このとき、第2クラッチ52は既に開放状態である。仮に第2クラッチ52が開放状態でない場合には開放状態にする)。また、5速段でのEV走行中に、第1クラッチ51を徐々に締結させることにより、エンジン10の始動を行うこともできる。
【0070】
制御装置21は、5速段で走行中に各種電気信号から4速段へのダウンシフトが予測される場合には、第4噛合機構64を4速駆動ギア74と第2駆動軸35とを連結させた4速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とし、アップシフトが予測される場合には、第2噛合機構62を6速駆動ギア76と第2駆動軸35とを連結する6速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0071】
これにより、第2クラッチ52を締結させて伝達状態とし、第1クラッチ51を開放させて開放状態とするだけで、変速段の切替えを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0072】
エンジン10の駆動力を用いて6速段を確立する場合には、第2噛合機構62を6速駆動ギア76と第2駆動軸35とを連結させた6速側連結状態とし、第2クラッチ52を締結させて伝達状態とする。この場合、エンジン10の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、第2駆動軸35、6速ギア列G6及び従動軸38を介して、出力ギア33から出力される。
【0073】
6速段で走行中は、制御装置21が各種電気信号からダウンシフトを予測している場合には、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1駆動軸34とを連結した5速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
【0074】
逆に、制御装置21が各種電気信号からアップシフトを予測している場合には、第1噛合機構61を7速駆動ギア77と第1駆動軸34とを連結した7速側連結状態、又は、この状態に近付けるプレシフト状態とする。これにより、第1クラッチ51を締結させて伝達状態とし、第2クラッチ52を開放させて開放状態とするだけで、ダウンシフト又はアップシフトを行うことができ、駆動力が途切れることなく変速をスムーズに行うことができる。
【0075】
6速段で走行中に減速回生又はHEV走行を行う場合には、制御装置21がダウンシフトを予測しているときには、第3噛合機構63を5速駆動ギア75と第1駆動軸34とを連結した5速側連結状態とし、電動機11でブレーキをかければ減速回生、駆動力を伝達すればHEV走行を行うことができる。この場合、6速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1駆動軸34、5速ギア列G3、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0076】
制御装置21がアップシフトを予測しているときには、第1噛合機構61を7速駆動ギア77と第1駆動軸34とを連結した7速側連結状態とし、電動機11によりブレーキをかければ減速回生、電動機11から駆動力を伝達させればHEV走行を行うことができる。この場合、6速段におけるENG走行時のエンジン10の駆動力に加えて、電動機11の駆動力が、第1駆動軸34、7速ギア列G7、従動軸38を介して出力ギア33に伝達される。
【0077】
エンジン10の駆動力を用いて7速段を確立する場合には、第1噛合機構61を7速駆動ギア77と第1駆動軸34とを連結した7速側連結状態とする。7速段においては、第1クラッチ51が伝達状態とされることによりエンジン10と電動機11とが直結された状態となるため、電動機11から駆動力を出力すればHEV走行を行うことができ、電動機11でブレーキをかけ発電すれば減速回生を行うことができる。
【0078】
尚、7速段でEV走行を行う場合には、第1クラッチ51を開放状態とすればよい(このとき、第2クラッチ52は既に開放状態である。仮に第2クラッチ52が開放状態でない場合には開放状態にする)。また、7速段でのEV走行中に、第1クラッチ51を徐々に締結させることにより、エンジン10の始動を行うこともできる。
【0079】
制御装置21は、7速段で走行中に各種電気信号から6速段へのダウンシフトが予測される場合には、第2噛合機構62を6速駆動ギア76と第2駆動軸35とを連結させた6速側連結状態、又はこの状態に近付けるプレシフト状態とする。
これにより、6速段へのダウンシフトを駆動力が途切れることなくスムーズに行うことができる。
【0080】
エンジン10の駆動力を用いて後進1速段を確立する場合には、ロック機構60を固定状態とし、リバース用噛合機構65をリバースギアGRとリバース軸36とを連結した連結状態として、第2クラッチ52を締結させて伝達状態とする。これにより、エンジン出力軸32の駆動力が、第2クラッチ52、アイドルギア列GI、リバースギアGR、リバース従動ギア44、サンギア16、キャリア18、3速ギア列G3及び従動軸38を介して後進方向の回転として、出力ギア33から出力され、後進1速段が確立される。
【0081】
このとき、ロック機構60を固定状態にする代わりに、第1噛合機構61により3速側連結状態にすれば後進3速段を確立でき、第1噛合機構61により7速側連結状態にすれば後進7速段を確立でき、第3噛合機構63により5速側連結状態にすれば後進5速段を確立できる。
【0082】
次に、図2〜図5を参照して、本実施形態のハイブリッド車両の制御手段としての制御装置21によって実行される制御処理について説明する。
【0083】
図2は、本実施形態のハイブリッド車両の制御装置21が実行する制御の処理手順を示すフローチャートである。制御装置21の制御処理は、所定時間(例えば、10msec)毎に呼び出されて実行される。
【0084】
まず最初のステップST1では、SOCが所定のSOC以下か否かを判定する。本実施形態のハイブリッド車両の制御装置21は、蓄電装置2が蓄電可能な最大のSOC(以下、「最大SOC」という)に対して複数の領域(ゾーン)に分割して、車両の各作動(例えば、EV走行、アイドリングストップ、減速時の回生による充電等)を許可、制限又は禁止するように制御している。
【0085】
各領域は、具体的には、通常の使用領域であり基準領域となるAゾーン、Aゾーンより蓄電装置2のSOCが小さく放電が一部制限される放電一部制限領域であるBゾーン、Bゾーンより更に蓄電装置2のSOCが小さく放電が制限される放電制限領域であるCゾーン、及び、Aゾーンより蓄電装置2のSOCが大きく充電が制限される充電制限領域であるDゾーンに区分されている。
【0086】
Aゾーンは、更に、蓄電装置2のSOCが最適な中間領域AゾーンM、AゾーンMより蓄電装置2のSOCが小さいAゾーンL、及び、AゾーンMより蓄電装置2のSOCが大きいAゾーンHに区分されている。
【0087】
なお、温度によって充放電の特性が変化するため、最大SOCをSOCの他に、温度を加味して分割してもよい。また、領域の数及び分割方法は、これに限られるものではない。
【0088】
図3(b)は、上記領域に基づいて、制御装置21によって制御されるEV走行の許可、制限又は禁止について示す。EV走行は、DゾーンからAゾーンMまでは、蓄電装置2のSOCをAゾーンMの領域内にするために許可され、AゾーンLでは制限され、BゾーンからCゾーンでは、蓄電装置2のSOCの低下を抑制するために禁止される。
【0089】
ここで、AゾーンLでEV走行が制限されるとは、所定の条件を満たす場合にはEV走行を禁止し、所定の条件を満たしていない場合にはEV走行を許可することを表す。所定の条件とは例えば、運転者がアクセルペダルを踏み込むことにより、車両に対する要求駆動力が急増したような場合であり、この場合には蓄電装置2のSOCが通常より早く低下することが考えられるので、制御装置21は、エンジン10を始動してEV走行からHEV走行に移行する。
【0090】
このように、SOCが、AゾーンL以上のゾーンの場合、詳細には、AゾーンLとBゾーンとの境界値であるα以上の場合にEV走行が行われる。このように、ステップST1では、SOCがα以下か否かを判定している。この判定が、本発明における「蓄電装置のSOCが所定のSOC以下であるか否か」に相当する。
【0091】
ステップST1でSOCがα以下であると判定された場合(ステップST1の判定結果がYESの場合)には、ステップST2に進み、EV走行からHEV走行に移行するために、上述したように電動機11の駆動力をエンジン10に伝達して、エンジン10を始動する。エンジン10が始動されたら本制御処理を終了する。
【0092】
ステップST1及びST2の処理が、本発明における「蓄電装置のSOCが所定のSOC以下であるときには、電動機の駆動力のみによる走行を中止して、電動機の駆動力と内燃機関の駆動力による走行をする」ことに相当する。
【0093】
また、ステップST2でエンジン10を始動した後に、電動機11の駆動を停止して、ENG走行に移行してもよい。この場合には、本発明における「蓄電装置のSOCが所定のSOC以下であるときには、電動機の駆動力のみによる走行を中止して、内燃機関を始動して内燃機関の駆動力による走行をする」ことに相当する。
【0094】
ステップST1でSOCがαより大きいと判定された場合(ステップST1の判定結果がNOの場合)には、ステップST3に進み、運転者等により空調装置5の作動が開始されたか否かを判定する。制御装置21は、空調装置5の操作ボタン(図示省略)等が空調装置5の作動を開始するように操作されたときに、当該操作ボタンから出力された電気信号が入力されることで、空調装置5の作動が開始されたと判定する。
【0095】
ステップST3で空調装置5の作動が開始されていないと判定された場合(ステップST3の判定結果がNOの場合)には、本制御処理を終了する。
【0096】
ステップST3で空調装置5の作動が開始されていると判定された場合(ステップST3の判定結果がYESの場合)には、ステップST4に進む。ステップST4では、EV走行中か否かを判定する。
【0097】
ステップST4でEV走行中ではないと判定された場合(ステップST4の判定結果がNOの場合)には、ステップST5に進み、空調装置5を通常通り始動する。ここで、空調装置5を通常通り始動するとは、後述するステップST6の処理のようにEV走行用の空調装置の始動処理ではなく、空調装置5の作動を開始するときに必要な出力を、必要な分だけ蓄電装置2から空調装置5に出力して始動することをいう。ステップST5の処理が終了すると本制御処理を終了する。
【0098】
ステップST4でEV走行中であると判定された場合(ステップST4の判定結果がYESの場合)には、ステップST6に進み、EV走行用の空調装置の作動を開始する処理を実行する。図4を用いてステップST6の詳細な処理を説明する。
【0099】
図4は、EV走行時の空調装置5の作動を開始する制御の処理手順を示すフローチャートである。まず最初のステップST101では、蓄電装置2から空調装置5への出力(以下、「空調出力」という)Pcを所定の出力ΔPに設定する。所定の出力ΔPは、空調出力Pcを、0から空調装置5の設定等に従って作動するために必要な出力(以下、「要求空調出力」という)Pcrまで急激に増加させず、各制御周期毎に漸増させるための値である。
【0100】
次にステップST102に進み、出力マージンPmを決定する。ここで、出力マージンPmとは、車両への要求駆動力の急激な変動等により、EV走行に必要な出力(以下、「走行出力」という)Prが増加することで、空調出力Pcと走行出力Prとエンジン10の始動に必要な出力(以下、「始動出力」という)Psとを合計した出力(以下、「総出力」という)Paが、蓄電装置2が出力可能な出力(以下、「可能出力」という)Poを超えないようにするためのマージン(余裕)である。
【0101】
これらの関係を数式で表すと、総出力Paは、「Pa=Pr+Ps+Pc」であり、「Po≧Pa」である限りは、EV走行に影響を与えずにエンジン10を始動できる。このとき、「Po≧Pa+Pm」となるような出力マージンPmを設定しておくことで、急な要求駆動力の増加により、走行出力Prが増加した場合であっても、出力マージンPmよりも大きい増加でない場合には、総出力Paが可能出力Poを超えることはない。車両が走行する場合には、様々な要因により総出力Paが変動する。出力マージンPmを設けない場合には、このような変動により総出力Paが少し増加しただけで総出力Paが可能出力Poを超える可能性が高まり、超えた場合にはエンジン10を始動するときにEV走行に影響を与えてしまう。このため、出力マージンPmを設けることで、総出力Paの多少の変動(特に増加)があった場合であってもEV走行に影響を与えずに、エンジン10をより確実に始動できる。
【0102】
なお、出力マージンPmは0に設定されていてもよい。ここで、出力マージンPmが本発明における「所定値」に相当する。
【0103】
また、この出力マージンPmは、当該車両の状態に応じて変更される。例えば、要求駆動力の変動に応じて出力マージンPmを変更したり、また、過去の要求駆動力の変動等の統計データから学習し、直近の未来の要求駆動力の変動を予測するして出力マージンPmを変更してもよい。また、過去の要求駆動力の履歴に基づいてアクセルペダルが踏み込まれたときに、加速の追従性を保持できるように出力マージンPmを変更してもよい。このように、出力マージンPmを変動させることが、本発明の第1態様における「所定値は、駆動源への要求駆動力の変動分に基づいて決定される」ことに相当する。
【0104】
なお、出力マージンPmを車両の状態に応じて設定する必要はなく、例えば、各車両に対して最適な出力マージンPmを得るための実験等を行い、この実験で得られた値をメモリ212に記憶しておく。この場合には、この記憶された値を出力マージンPmとして扱えばよい。このとき、この記憶された値をそのまま出力マージンPmとして設定してもよいし(すなわち出力マージンPmを固定値とする)、上述したように、車両の状況(要求駆動力の変化等)に応じて補正した後の値を出力マージンPmとして設定してもよい(すなわち出力マージンPmを可変に設定する)。
【0105】
次にステップST103に進み、総出力Paと出力マージンPmを合計した出力(すなわち、Pr+Ps+Pc+Pm)が、可能出力Poより大きいか否かを判定する。
【0106】
ステップST103で、総出力Paと出力マージンPmを合計した出力が、可能出力Po以下であると判定された場合(ステップST103の判定結果がNOの場合)には、ステップST104に進む。ステップST104では、現時点での空調出力Pcに、所定の出力ΔPを加えた出力を新たな空調出力Pcとして、蓄電装置2から空調装置5に出力する。
【0107】
次に、ステップST105に進み、現時点での空調出力Pcが、要求空調出力Pcr未満であるか否かを判定する。
【0108】
ステップST105で空調出力Pcが要求空調出力Pcr未満である場合(ステップST105の判定結果がYESの場合)には、ステップST102の処理に戻り、空調出力Pcが要求空調出力Pcr未満ではない場合(ステップST105の判定結果がNOの場合)には、図4の制御処理を終了する。
【0109】
ステップST103で、総出力Paと出力マージンPmを合計した出力が、可能出力Poより大きいと判定された場合(ステップST103の判定結果がYESの場合)には、ステップST106に進み、総出力Paが可能出力Po未満か否かを判定する。
【0110】
ステップST106で、総出力Paが可能出力Po未満ではないと判定された場合(ステップST106の判定結果がNOの場合)には、ステップST107に進む。ステップST107では、可能出力Poから、走行出力Prと始動出力Psを合計した出力を引いた出力を、空調出力Pcとして設定する。すなわち、「Pc=Po−(Pr+Ps)」とする。
【0111】
ステップST106で、総出力Paが可能出力Po未満であると判定された場合(ステップST106の判定結果がYESの場合)、又はステップST107の処理が終了した場合には、ステップST108に進む。ステップST108では、上述したように、電動機11の駆動力をエンジン10に伝達してエンジン10を始動する。
【0112】
次に、ステップST109に進み、空調出力Pcを要求空調出力Pcrと同じ出力にし、蓄電装置2から空調装置5に電力を出力する。ステップST109の処理が終了すると、図4の制御処理を終了する。
【0113】
また、ステップST106の判定結果がNOになるような場合とは、例えば、EV走行中に空調装置5の作動が開始されることで、図2の制御処理が開始されてから、アクセルペダルの操作等により車両に対する要求駆動力が変化した場合を想定している。このような場合、要求駆動力が変化する前は、総出力Paが可能出力Poを超えていなかったにも拘らず、要求駆動力が変化することにより走行出力Prが出力マージンPm以上増加した場合には、総出力Paが可能出力Poを超える可能性がある。この場合には、ステップST107の処理によって、エンジン10を確実に始動するために、蓄電装置2から始動出力Psを出力できるような値まで、空調出力Pcを減少させている。このように、車両の状況に応じて柔軟に空調出力Pcを設定することで、要求駆動力の変動を吸収でき、エンジン10を確実に始動できる。
【0114】
ステップST106の判定結果がNOになりステップST107の処理を実行することが、本発明における「制御手段は、駆動源への要求駆動力が増加して走行出力が増加したときに、総出力が、出力可能な出力を超えた場合には、空調出力を、出力可能な出力から走行出力と始動出力とを合計した出力を引いた値になるように変更する」ことに相当する。
【0115】
また、ステップST103の判定結果がYESになるまで又はステップST105の判定結果がNOになるまで、ステップST104の処理で、空調出力Pcを所定の出力ΔP分増加させることは、本発明の第1態様における「蓄電装置から空調装置への出力である空調出力を漸増させる」ことに相当する。
【0116】
また、ステップST103の判定によって、総出力Paと出力マージンPmとの合計が可能出力Poより大きいか否かを判定すること(Po<Pa+Pm)は、換言すれば、総出力Paを可能出力Poから引いた値が、出力マージンPm未満になったか否かを判定すること(Pm>Po−Pa)である。従って、ステップST103の判定結果がYESになるときが、本発明の第1態様における「総出力を、蓄電装置から出力可能な出力から引いた値が、所定値未満になったとき」に相当する。
【0117】
図5は、制御装置21の制御により、EV走行中に空調装置の作動を開始する場合の各出力の時間変化の一例を示す。この例では、空調出力Pcを要求空調出力Pcrにした場合の総出力Paに、出力マージンPmを加えた出力が、可能出力Poを超える場合、すなわち、
Po<Pa+Pm
<Pr+Ps+Pc+Pm
ここで、「Pc=Pcr」なので、
Po<Pr+Ps+Pcr+Pm
となる場合の例を示す。
【0118】
図5は、横軸が時間を示し、縦軸が出力を示す。図5(a)は走行出力Prの時間変化を示し、図5(b)は始動出力Psの時間変化を示し、図5(c)は空調出力Pcの時間変化を示し、図5(d)は可能出力Poと、総出力Pa及び出力マージンPmの合計出力との時間変化を示す。
【0119】
時刻t0は、空調装置の作動が開始された時刻を示す。すなわち、図2のステップST3の判定結果がYESになった時刻を示す。時刻t0において、空調装置5の作動が開始されたため、図4のステップST101の処理により、図5(c)に示されるように、空調出力Pcが所定の出力ΔPになる。
【0120】
時刻t1,t2,t3は、ステップST105の判定結果がYESになったときに、再度ステップST102に戻った時刻をそれぞれ示す。すなわち、時刻t0の後、ステップST103の判定結果がNOになり、ステップST105の判定結果がYESになったときの時刻がt1であり、その後、同様に再びステップST102に戻ったときの時刻がt2であり、その後、同様に再びステップST102に戻ったときの時刻がt3である。
【0121】
このように、時刻t0〜t3では、ステップST103の判定結果がYESになるまで、ステップST102〜ステップST105の処理が繰り返される。
【0122】
時刻t3において、ステップST103の判定結果がYESになる。すなわち、「Po>Pr+Ps+Pc+Pm」となる。このため、時刻t3では、空調出力Pcを現時点のまま維持して、ステップST108の処理により、エンジン10を始動する。
【0123】
時刻t4は、ステップST108の処理によるエンジン10の始動が終了した時刻を示し、ステップST109の処理によって、空調出力Pcを、空調装置5の設定等に従って作動するために必要な要求空調出力Pcrにする。時刻t4では、図5に示されるように、エンジン10の始動が終了しているので始動出力Psが0になる。これにより、時刻t4以降の総出力Paは「Pa=Pr+Pc」となり、空調出力Pcを要求空調出力Pcrまで増加させても、蓄電装置2の可能出力Poを超えることがなくなる。
【0124】
ステップST105又はST109の処理が終了すると、図4の処理を終了し、図2のステップST7の処理に進む。ステップST7では、エンジン10が始動されているか否か(図4のステップST108の処理が実行されたか否か)を判定する。ステップST7で、エンジン10が始動されていると判定された場合(ステップST7の判定結果がYESの場合)には、本制御処理を終了する。ステップST7で、エンジン10が始動されていないと判定された場合(ステップST7の判定結果がNOの場合)には、ステップST8に進む。ステップST8では、所定のSOCをαからβに増加する。ここで、βは、図3(a)に示される領域のAゾーンLとAゾーンMの境界値である。ここで、ステップST8の処理によって所定のSOCをβにすると、次の制御周期においては、ステップST1の判定のときにαではなくβを所定のSOCとして用いられる。そして、SOCがβ以下になったときには、ステップST2の処理によりエンジン10が始動される。
【0125】
すなわち、ステップST8の処理は、図3(b)に示されるようにAゾーンLにおいて、EV走行が制限されていたものを、EV走行を禁止するように変更する処理を意味する。
【0126】
本ステップST8の処理が実行されるときはEV走行中且つ空調装置5が作動中である。この場合には、蓄電装置2からの出力が多くなるので、ステップST8の処理によりEV走行からHEV走行に移行することで、蓄電装置2の電力消費量を抑制(SOCの低下を抑制)し、エンジン10が始動できないようなSOCになる前にエンジン10を始動できるようになる。
【0127】
本ステップST8の処理が、本発明における「電動機の駆動力のみにより走行しているときに、空調装置が作動している場合には、空調装置が作動していない場合に比べて、所定のSOCの値を増加させる」ことに相当する。
【0128】
なお、所定のSOCは、例えば、ステップST2の処理等のように、エンジン10を始動した後にβからαに変更される(AゾーンLが禁止から制限に変更される)。
【0129】
ステップST8の処理が終了すると、ステップST9に進み、空調装置5が冷房機能により車室内を冷却中であり、且つSOCが所定のSOC(この場合はβ)以下であるか否かを判定する。
【0130】
ステップST9で冷却中ではないか、又はSOCが所定のSOCより大きいと判定される場合(ステップST9の判定結果がNO)には、本制御処理を終了する。
【0131】
ステップST9で、冷却中且つSOCが所定のSOC以下であると判定される場合(ステップST9の判定結果がYES)には、ステップST10に進む。ステップST10では、ファン6への出力を低下させて、本制御処理を終了する。本ステップST10の処理が実行される場合には、EV走行中、空調装置5が冷房機能を作動中、且つSOCが所定のSOC(この場合にはβ)以下のときである。
【0132】
このときにおいては、空調装置5の冷房機能が作動しているので、車室内の空気は冷えていると考えられる。従って、ファン6への出力を低下させる、すなわち、ファン6が送風する空気の量を少なくした場合であっても、冷えた空気により蓄電装置2の冷却を充分に行える。従って、ファン6への出力を減らしてSOCの低下を抑制することで、エンジン10の始動を、より確実なものにできる。
【0133】
ステップST9〜ST10の処理が、本発明における「制御手段は、空調装置が冷房機能を作動しており、且つ蓄電装置のSOCが所定のSOC以下であるときには、蓄電装置からファンへの出力を低下する」ことに相当する。
【0134】
以上のように、第1実施形態のハイブリッド車両では、図4のフローチャートの処理により、空調出力Pcを要求空調出力Pcrになるまで、所定の出力ΔPずつ増加している(漸増させている)。そして、所定の出力ΔPずつ増加する度に、可能出力Poから総出力Paを引いた出力の値が、出力マージンPm未満か否かを判定し、出力マージンPm以上になる場合には、エンジン10を始動している。
【0135】
このように、空調装置5への出力(空調出力)Pcを漸増させることで、蓄電装置2から、エンジン10の始動に必要な出力(始動出力)Psを出力できなくなる前に、エンジン10を始動している。これにより、エンジン10を確実に始動することができる。
【0136】
また、第1実施形態のハイブリッド車両では、空調装置5への出力を調整するため、走行出力Prを少なくする必要がない。これにより、走行出力Prの減少により、車両の駆動輪に伝達される駆動力が減少し、走行時にショック等が発生することを防止でき、当該車両に乗車している人の快適性を維持できる。
【0137】
[第2実施形態]
次に、図6及び図7を参照して、第2実施形態のハイブリッド車両について説明する。第2実施形態のハイブリッド車両は、第1実施形態のハイブリッド車両に比べて、EV走行時の空調装置の作動を開始する処理(図2のステップST6)が異なる。この処理の詳細について図6を参照して説明する。
【0138】
図6の最初のステップST201では、走行出力Prと始動出力Psと要求空調出力Pcrとを合計した出力が、可能出力Po未満であるか否かを判定している。すなわち、ステップST201では「Po>Pr+Ps+Pcr」か否かを判定している。
【0139】
ステップST201で「Po>Pr+Ps+Pcr」であると判定された場合(ステップST201の判定結果がYESの場合)には、ステップST202に進む。ステップST202では、空調出力Pcを要求空調出力Pcrまで増加させ、空調出力Pcを蓄電装置2から空調装置5に出力する。ステップST202の処理が終了すると図6の制御処理を終了する。
【0140】
ステップST201で「Po>Pr+Ps+Pcr」ではないと判定された場合(ステップST201の判定結果がNOの場合)には、ステップST203に進む。ステップST203では、可能出力Poから走行出力Prと始動出力Psを合計した出力を引いた出力を空調出力Pcとして設定する。すなわち、ステップST203では「Pc=Po−(Pr+Ps)」としている。そしてこのように設定された空調出力Pcを蓄電装置2から空調装置5に出力する。
【0141】
次にステップST204に進み、上述したように電動機11の駆動力によりエンジン10を始動する。
【0142】
次に、ステップST205に進み、ステップST202と同様に、空調出力Pcを要求空調出力Pcrまで増加させ、この増加された空調出力Pcを蓄電装置2から空調装置5に出力する。
【0143】
図7は、図6に示されるような制御装置21の制御により、EV走行中に空調装置の作動を開始する場合の各出力の時間変化の一例を示す。この例では、図5のときと同様に、空調出力Pcを要求空調出力Pcrにした場合の総出力Paが、可能出力Poを超える場合、すなわち、
Po<Pr+Ps+Pcr
となる場合の例を示す。
【0144】
図7は、横軸が時間を示し、縦軸が出力を示す。図7(a)は走行出力Prの時間変化を示し、図7(b)は始動出力Psの時間変化を示し、図7(c)は空調出力Pcの時間変化を示し、図7(d)は可能出力Poと総出力Paとの時間変化を示す。
【0145】
時刻t10は、空調装置の作動が開始された時刻を示す。すなわち、図2のステップST3の判定結果がYESになった時刻を示す。時刻t10において、空調装置5の作動が開始され、図6のステップST201の判定結果がNOになり、ステップST203の処理によって、空調出力Pcが「Po−(Ps+Pr)」となる。そして、時刻t10において、ステップST204の処理により、エンジン10が始動される。
【0146】
時刻t11は、ステップST204の処理が終了、すなわち、エンジン10が始動した後を示す。そして、時刻t11において、ステップST205の処理により、空調出力Pcが要求空調出力Pcrまで増加される。時刻t11では、エンジンが始動した後のため、始動出力Psは0となる。これにより、時刻t11以降の総出力Paは「Pa=Pr+Pc」となり、空調出力Pcを要求空調出力Pcrまで増加させても、蓄電装置2の可能出力Poを超えることがなくなる。
【0147】
以上のように、第2実施形態のハイブリッド車両では、ステップST201の判定により、空調装置5への出力(空調出力)Pcを空調装置5の設定等に従って作動するために必要な出力(要求空調出力)Pcrまで増加させた場合に、蓄電装置2が出力可能な出力(可能出力)Poを超えてしまう場合には、第1実施形態のハイブリッド車両のように、徐々に空調出力Pcを増加させるのではなく、ステップST203の処理により、始動出力Psを蓄電装置2が出力可能な程度に、空調出力Pcを抑制する。これにより、エンジン10を確実に始動できる。更に、空調装置5を、可能な限り要求空調出力Pcrに近い状態で作動させることができるため、ユーザーが違和感を感じづらくなり、ユーザビリティに優れたハイブリッド車両を提供できる。
【0148】
また、第2実施形態のハイブリッド車両は、第1実施形態のハイブリッド車両と同様の構成については、同様の効果が得られる。
【0149】
なお、第1実施形態及び第2実施形態では、空調装置5の電源としては、駆動源としての電動機11の電源である蓄電装置2(所謂高圧バッテリ)と同じとしているが、これに限らない。例えば、蓄電装置2からカーオーディオやカーナビゲーション等の車載機器の電源としての所謂低圧バッテリ(12Vバッテリ)に対してDC−DC変換により電力を出力し、この低圧バッテリから空調装置5に出力するように構成してもよい。
【0150】
また、第1実施形態及び第2実施形態のハイブリッド車両の構成に限らない。例えば、ハイブリッド車両を図8に示されるように構成してもよい。図8に示されるハイブリッド車両は、内燃機関としてのエンジン110と、電動機111と、変速機312と、蓄電装置402と、空調装置405と、ファン406と、制御手段としての制御装置421を備える。当該ハイブリッド車両は、エンジン110と電動機111とを駆動源としている。
【0151】
蓄電装置402は、電動機111、空調装置405及びファン406に電力を出力するように電気的に接続されている。
【0152】
エンジン110の出力軸322と変速機312の入力軸342とが、断接手段としてのクラッチ450で断接可能に構成される。クラッチ450は、油圧作動型の乾式摩擦クラッチ又は湿式摩擦クラッチである。クラッチ450が接続されているとき、エンジン110の駆動力が入力軸342に伝達される。
【0153】
変速機312は、入力軸342に伝達された駆動力による回転速度、及び電動機111の駆動力による回転速度を設定された変速比により変速して、出力軸352を介して駆動輪(図示省略)に伝達する。この変速機312は、有段変速機、無断変速機を問わない。
【0154】
また、空調装置405は、第1実施形態又は第2実施形態と同様に、蓄電装置402を電源として、空調装置405内の電動コンプレッサ(図示省略)が作動する。
【0155】
ファン406は、第1実施形態又は第2実施形態と同様に、蓄電装置402から電力が出力され、制御装置421の制御により、蓄電装置2を冷却するための送風を行う電動のファンである。
【0156】
制御装置421は、第1実施形態又は第2実施形態の制御装置21と同様に構成される。(エンジン110、電動機111、変速機312、蓄電装置402、空調装置405、ファン406等)の作動を制御する。また、制御装置421は、第1実施形態又は第2実施形態のような制御処理(図2、図4、図6)を実行する。
【0157】
当該ハイブリッド車両は、クラッチ450を断つ状態にし、電動機111が駆動力を出力することでEV走行ができる。また、EV走行時に、エンジン110を始動する場合には、クラッチ450を接続した状態にし、電動機111の駆動力をエンジン110に伝達することで、エンジン110を始動することができる。
【0158】
このように、ハイブリッド車両を構成した場合であっても、制御装置を、第1実施形態又は第2実施形態のハイブリッド車両の制御装置21と同様に構成することで、第1実施形態又は第2実施形態の奏する効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0159】
10…エンジン(内燃機関)、11…電動機、1…ハイブリッド車両(第1実施形態)、2…蓄電装置、21…制御装置(制御手段)、5…空調装置、6…ファン、51…第1クラッチ(断接手段)、52…第2クラッチ(断接手段)、Pr…走行出力、Ps…始動出力、Pc…空調出力、Pa…総出力、Po…可能出力、Pm…出力マージン(所定値)、301…ハイブリッド車両(第2実施形態)、421…制御装置、110…エンジン(内燃機関)、111…電動機、450…クラッチ(断接手段)、402…蓄電装置、405…空調装置、406…ファン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源として電動機と内燃機関とを有するハイブリッド車両であって、
前記電動機と前記内燃機関とを断接自在な断接手段と、
前記電動機の電源として機能する蓄電装置と、
前記蓄電装置を電源とする空調装置と、
前記内燃機関が停止中で、前記断接手段により前記電動機と前記内燃機関との接続が断たれ、前記電動機の駆動力により走行しているときに、前記空調装置の作動を開始する場合には、前記蓄電装置から前記空調装置への出力である空調出力を漸増させていき、当該車両を走行するために必要な出力である走行出力と、前記内燃機関を始動するために必要な出力である始動出力と、前記空調出力とを合計した総出力を、前記蓄電装置から出力可能な出力から引いた値が、所定値未満になったときに、前記断接手段を接続することで前記電動機の駆動力を前記内燃機関に伝達して前記内燃機関を始動する制御手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両において、前記所定値は、前記駆動源への要求駆動力の変動分に基づいて決定されることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
駆動源として電動機と内燃機関とを有するハイブリッド車両であって、
前記電動機と前記内燃機関とを断接自在な断接手段と、
前記電動機の電源として機能する蓄電装置と、
前記蓄電装置を電源とする空調装置と、
前記内燃機関が停止中で、前記断接手段により前記電動機と前記内燃機関との接続が断たれ、前記電動機の駆動力により走行しているときに、前記空調装置の作動を開始する場合には、当該車両を走行するために必要な出力である走行出力と、前記内燃機関を始動するために必要な出力である始動出力と、前記空調装置への出力である空調出力とを合計した総出力が、前記蓄電装置から出力可能な出力を超える場合には、前記走行出力と前記始動出力とを合計した出力を前記出力可能な出力から引いた出力を前記空調出力として前記蓄電装置から前記空調装置に出力し、前記断接手段を接続することで前記電動機の駆動力を前記内燃機関に伝達して前記内燃機関を始動する制御手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のハイブリッド車両において、前記制御手段は、前記駆動源への要求駆動力が増加して前記走行出力が増加したときに、前記総出力が、前記出力可能な出力を超えた場合には、前記空調出力を、前記出力可能な出力から前記走行出力と前記始動出力とを合計した出力を引いた値になるように変更することを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のハイブリッド車両において、
前記制御手段は、前記蓄電装置のSOCが所定のSOC以下であるときには、前記電動機の駆動力のみによる走行を中止して、前記内燃機関を始動して前記内燃機関の駆動力による走行、又は前記電動機の駆動力と前記内燃機関の駆動力による走行をするものであり、
前記電動機の駆動力のみにより走行しているときに、前記空調装置が作動している場合には、前記空調装置が作動していない場合に比べて、前記所定のSOCの値を増加させることを特徴とするハイブリッド車両。
【請求項6】
請求項5のいずれか1項に記載のハイブリッド車両において、
前記蓄電装置を電源とし、当該蓄電装置を冷却するファンを備え、
前記空調装置は、車室内を冷却する冷房機能を有し、
前記制御手段は、前記空調装置が前記冷房機能を作動しており、且つ前記蓄電装置のSOCが前記所定のSOC以下であるときには、前記蓄電装置から前記ファンへの出力を低下することを特徴とするハイブリッド車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−43478(P2013−43478A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180789(P2011−180789)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】