説明

ハウジング格納式フィルター手段付きフィルターシステム

反応器用の格納式フィルターシステムが、フィルターモジュールを格納するフィルターハウジングを備える。ハウジングは密封され、フィルターモジュールは反応器を減圧することなく取り外される。このことにより、反応器での製造を中断することなくフィルターのメンテナンスが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反応器において使用するフィルターシステムに関する。特に、本発明は、フィッシャー・トロプシュ反応などの発熱反応に用いられる反応器に適したフィルターシステムに関すると共に、この反応器とフィルターシステムを用いるプロセス中に一酸化炭素の水素化により生成できる炭化水素やこれらの炭化水素から誘導される燃料にも関する。
【背景技術】
【0002】
フィッシャー・トロプシュ法は炭化水素供給原料を液体及び/又は固体の炭化水素に変換するためにしばしば用いられる。第1段階で、供給原料(例えば天然ガス、随伴ガス、炭層メタン、残油(原油)留分及び/又は石炭)を水素と一酸化炭素との混合物(この混合物はしばしば合成ガスと称される)に変換する。第2段階では、この合成ガスを反応器に送り、そこで高温高圧で適当な触媒上で炭素原子数200まで、又は特定の環境下ではそれより多くの炭素原子数を含んだメタンから高分子量の分子までの範囲のパラフィン系化合物に変換する。
【0003】
フィッシャー・トロプシュ反応を行なわせるために多くの種類の反応器システムが開発されてきた。例えば、フィッシャー・トロプシュ反応器システムとして、固定床反応器(特に多管固定床反応器)、流動床反応器(エントレインド式(entrained)流動床反応器や固定流動床反応器など)、及びスラリー床反応器(三相スラリーバブル塔やエバレーテッド式(ebulated)床反応器)が挙げられる。
【0004】
フィッシャー・トロプシュ反応は高い発熱性であり温度に敏感なので、最適な動作条件と所望の炭化水素生成物の選択性とを維持するために注意深い温度制御が必要とされる。
【0005】
固定床反応器の熱伝達の特性は、流体の相対的に低い質量速度、小さな粒子サイズ及び低い熱容量ゆえに一般に劣る。しかしながら、もしガス速度を増すことにより熱伝達を改善しようとすると、より高度なCO変換は得ることができるが、反応器での圧力低下が過度になるので、工業的な実行が制限される。所望のCO変換と工業的に利益のでるガス処理量を得るために、実質的に半径方向の温度勾配が生じる状態になる。そのため、半径方向の過度な温度プロファイルを避けるため、フィッシャー・トロプシュ固定床反応器管は、5又は7cmより小さい直径を有すべきである。フィッシャー・トロプシュ固定床反応器における高活性触媒の望ましい使用により、状況はさらに悪くなる。熱伝達特性が悪いので、局所的なランナウェー(ホットスポット)が起こることで、触媒の局所的な失活が生じ得る。ランナウェー反応を防ぐためには、反応器内の最大温度を制限しなければならない。しかしながら、反応混合物内の温度勾配の存在は、多量の触媒が最適レベルには及ばないレベルで作用し得ることを意味している。
【0006】
固定床設計の全体性能を改善する手段としての液体リサイクルの使用も記載されている。このシステムは(固定床反応器システムの一部としての)「細流床」反応器とも称され、反応物のガスと液体の両方が(好ましくは触媒に対してアップフロー又はダウンフロー方向に)同時に導入される。流れる反応物のガス及び液体の存在により、CO変換と生成物の選択性とに関する反応器の性能が強化される。(任意の固定床の設計のみならず)細流床システムの制約は、高い質量速度での動作に伴う圧力低下である。固定床におけるガス充満の空隙率(典型的には0.50未満)や触媒粒子のサイズ及び形状ゆえに、過度の圧力低下なしに高い質量速度を得ることはできない。したがって、反応器の単位体積当たりの変換される質量処理量は、熱伝達率のために制限される。個々の触媒粒子のサイズを増す場合、(所与の圧力低下に対して)質量速度を大きくすることにより、熱伝達が改善されるが、一般に、高沸点生成物に対する選択性の喪失、及び触媒活性の増大に伴うメタン選択性の増大が、より高い熱伝達の工業上の動機付けを相殺する。
【0007】
一般に、三相スラリーバブル塔反応器は、熱伝達特性の点で固定床設計に対して有利である。一般にこの反応器は、液体連続マトリックス中に下向きに流れるガスにより懸濁した小さい触媒粒子を混合する。複数の冷却管が三相スラリー反応器中に存在する。連続液体マトリックスの動きにより、高い工業生産性を達成するのに十分な熱伝達が可能となる。触媒粒子は液体連続相内を動くことで、発生した熱を触媒粒子から冷却面に効率的に伝達する一方で、反応器中の液体の多量の残存量が高い熱慣性を与え、熱のランナウェーを生じ得る急速な温度上昇を防止するのを助ける。
【0008】
三相スラリー反応器中のスラリーから液体、特にフィッシャー・トロプシュ反応で生成される液体の炭化水素反応生成物を分離するために、いくつかの方法が提案されている。
【0009】
欧州特許出願第609079号には、液体中に懸濁した触媒粒子のスラリー床を有するスラリーバブル塔が記載されている。濾過ゾーンはスラリー床中、特にスラリー床の上面の近くに位置している。一般に濾過ゾーンは複数のフィルター要素を備える。一般にフィルター要素は細長い円筒形の形態を有し、濾液収集ゾーンを包囲する円筒形の濾過材を備える。濾過によりケークが形成され、逆流により取り除かれる。
【0010】
欧州特許出願第592176号には、フィルターカートリッジを保持する管板から成る濾過ゾーンが記載されている。この管板がスラリー床の上面を決める。
【0011】
国際出願(PCT)第94/16807号にはスラリー床を取り囲んだ濾過ゾーンが記載されている。フィルター要素には非常に小さい平均圧力差が用いられるので、ケークの形成は観察されない。その明細書には6mbarの限界値が述べられている。
【0012】
英国特許出願第2281224号には、スラリー床を収容するよう構成された複数の反応管を含む反応器が開示されている。各々の上部は、炭化水素生成物スラリーを分離するフィルター要素と、スラリーからガスを分離する大径の頂部(しばしば開放ゾーンと称される)とを含む。
【0013】
米国特許第5,324,335号には、(担持されていない)鉄触媒を用いた炭化水素の製法が記載されている。反応容器中でのスラリー高さの連続的な増大を防ぐために、反応容器の外側に配置されたクロスフロー型フィルターを用いてスラリーから蝋を分離する。フィルターケークは、フィルターのシェル側にて濾過された蝋に不活性ガスで加圧してケークをスラリー流中にはじき出すことにより定期的に除去される。
【0014】
独国特許第3,245,318号には、反応器の外側ではあるがほぼ反応器の圧力にて実施されるクロスフロー濾過により、液体生成物の流れをスラリーから分離する方法が記載されている。フィルター要素への圧力を反転することによるフィルター材の定期的な逆流が必要である。
【0015】
米国特許第6,344,490号には、スラリー中に吊り下げられた1個以上のフィルターアセンブリを備えた三相スラリーバブル塔が記載されている。反応器とフィルターアセンブリは、反応器の上部の開口部を介して各アセンブリを取り外すことができるように構成される。その明細書から、取り外しは大気圧で行われることが明らかである。よって、米国特許第6,344,490号によるプロセスにおいて1個以上のフィルターを交換する必要がある場合には、プロセスを停止し、反応器を減圧し、そして(高温高圧にて)再起動する必要がある。大型の工業用スラリー反応器では、反応器を75〜100℃冷却し、減圧し、フィルターを交換し、再加圧し、そして75〜100℃加熱するのに数時間かかる。
【特許文献1】欧州特許出願第609079号
【特許文献2】欧州特許出願第592176号
【特許文献3】国際出願(PCT)第94/16807号
【特許文献4】英国特許出願第2281224号
【特許文献5】米国特許第5,324,335号
【特許文献6】独国特許第3,245,318号
【特許文献7】米国特許第6,344,490号
【特許文献8】欧州特許出願公開第0450859号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、反応器内で使用するためのフィルターシステムであって、該フィルターシステムは粒状物質と流体との混合物から流体を分離するフィルター手段を備え、反応器に連結するよう適合し且つフィルター手段を受け入れるよう適合したフィルターハウジングを備え、該フィルター手段はハウジング内に引っ込めることができるフィルターシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の利点は、プロセスを停止しインベントリを冷却すること、及び反応器を加圧し反応温度まで加熱することがもはや必要ないことである。適切には、反応温度を25〜75℃下げる、すなわち、反応を停止させるのにちょうど十分なだけ下げる。反応器に導入する合成ガスの量は、最大75%削減し得る。触媒粒子を懸濁液中に保持するために、10%以上、好ましくは約20%が通常は依然として反応器に導入される。残りの合成ガス流は、別のガス、例えば不活性ガスの窒素で、又はリサイクル流で置換できる。好ましくは反応器温度を25℃未満、好ましくは10℃未満低下させ、連続的な生産性と同じ生産性にて反応を継続させる。
【0018】
一般に、フィルター手段は、図1に示されるように典型的には反応器の上面、特に大型管状反応器の上部にある反応器の開口部を介して引っ込めることができる。一般にハウジングは取り外し可能にこの開口部に連結される。
【0019】
一般に、フィルター手段は、濾液をフィルター手段から反応器の外側の処理装置に送るため、フィルター手段から通じるエクスポート導管を備える。フィルター手段は、フィルター手段をハウジングに格納するのを容易にするため、ホイスト線用の管継手を適宜備えてもよいし、単にエクスポート導管を介して引っ込めてもよい。フィルター手段を反応器からハウジング内に引き込むように、ホイスト線又はエクスポート導管を作動させることもできる。
【0020】
一般に、ハウジングはフィルター手段をそこから取り外すための出口を備える。特定の態様では、ハウジングは上部又は側部の出口ポートを備えて、そこを通じてフィルターをハウジングから取り外すことができるか、又はもっと簡単な態様では、ハウジングを反応器から取り外すことができ、それにより、フィルターをハウジングに格納するのに用いる開口部を介してフィルターを取り外すことができる。適するハウジングは、細長い管又はパイプであり、好ましくは取り外し可能な閉鎖及び/又は密封装置を備える。
【0021】
好ましくは、ハウジングは、反応器とハウジングとの間の開口部を密封するためにバルブなどの少なくとも1つの密封装置を備え、それにより、フィルター手段が開口部を過ぎてハウジング内に引っ込められると、密封装置を作動させて開口部を密封してハウジングを反応器から隔離することができる。これにより、次に行われるフィルター手段のハウジングからの取り外し及びハウジングの減圧が、反応器を減圧することなく可能になる。
【0022】
一般に、フィルター手段は重力下で反応器の上面の開口部を通して降ろされる。使用中、フィルターは拡大したスラリー床の表面レベルより下方に配置されるのが好ましい。
【0023】
特定の態様では、フィルター手段はフィルター手段上に微粉が沈降するのを防止するキャップを備えることができ、一般にこれは、フィルター手段が有する水平な表面積を小さくするように、傾斜した上面を有するキャップを付与することにより実現される。実際には、キャップの上部に沈降した触媒の微粉が概ね滑り落ちてスラリー中に分散し、キャップ上に沈降しないように、急勾配の円錐形又は切頭円錐形のキャップが好ましい。このことにより、触媒の固体粒子がフィルター手段の上部に沈降する傾向が抑制され、これは、スラリーとフィルターキャップの上部に局所的に積み重なった触媒との間での制御されない発熱反応が生じる危険性を小さくする利点がある。
【0024】
別の態様によると、本発明は、フィルターを反応器から取り外す方法であって、開口部を介して前記反応器に連通したフィルターハウジングを設けるステップ、前記フィルターを反応器から前記開口部を通して前記フィルターハウジング内に引っ込めるステップ、及び反応器と前記ハウジングとの間の前記開口部を密封するステップを含む方法を提供する。
【0025】
一般に、反応器内の圧力の完全性を維持するために、フィルターは、開口部が密封された後にハウジングから取り外される。随意に、ハウジングは、反応器への開口部が開かれる前に反応器の内部圧力に一致するよう加圧して、引っ込めたフィルターを新しいフィルターと交換することができる。
【0026】
特に、複数のフィルターシステムが例えば2〜16個、特に4〜12個、1つの反応器内に存在し、全フィルターシステムの全体の濾過能力が製造の観点から必要とされる濾過能力よりも大きい場合には、反応を停止する必要なくフィルターを交換し得る。設置した超過濾過能力を考慮すると、1以上のフィルターを取り外して新しいフィルター及び/又は修理したフィルターと交換することができる。特に、工業用フィッシャー・トロプシュ反応器(この反応器は10.000〜20.000bll/日の製造能力を有する)の大きな生産性を考慮すると、合成ガスから炭化水素を製造し続けることができることは、反応器を停止し、反応器の減圧をし、その後に化学工程(CO水素化)を再開をしなければならないことに比べて明らかに有利である。
【0027】
好ましい態様では、フィルターの交換は、フィルターハウジングを圧力が反応器の圧力と同じになるまで加圧し、反応器を100℃まで適切には25〜75℃だけ冷却した後、ハウジングと反応器との間の開口部を開け、フィルターを反応器から開口部を通してフィルターハウジング内に引っ込め、反応器とハウジングとの間の開口部を密封した後、反応器を100℃まで適切には25〜75℃加熱し、プロセスを続行して行なう。好ましくは、反応器に導入されるガスの量は、50%、好ましくは75%削減する。合成ガスは部分的に又は完全に窒素と置換してもよい。
【0028】
別の好ましい態様では、フィルターの交換は、フィルターハウジングを圧力が反応器の圧力と同じになるまで加圧した後、ハウジングと反応器との間の開口部を開け、フィルターを反応器から開口部を通してフィルターハウジング内に引き込み、反応器とハウジングとの間の開口部を密封することで行なう。この態様では、炭化水素の合成プロセスは、フィルターの交換前と同じ温度及び圧力にて持続させる。適切には、反応は通常の製造速度の25%以上、より好ましくは通常の製造速度の50%以上の製造速度にて持続させる。
【0029】
ハウジングと反応器との間の開口部を閉じた後、ハウジングを減圧し、ハウジングを好ましくはハウジングの上部にて開き、そしてフィルターをハウジングから取り出すことで、フィルターをハウジングから取り外し得ることが分かる。
【0030】
上述したのと同じ方法ではあるが逆の順番にて、新しい又は修理したフィルターを反応器に導入できる。上記説明したのと同じ好ましい態様が、新しい又は修理したフィルターの導入にも当てはまる。ハウジングを加圧する前に、不活性ガス、例えば窒素でハウジングをフラッシする。加圧は、不活性ガス、例えば窒素及び/又は炭化水素合成の排ガスにより行なうことができる。
【0031】
以下、本発明は特定の態様に限定されるものではないが、図面に関してさらに詳細に本発明を説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
図1の反応器20は、反応物を送り込むチャンバーを形成する外側シェル21を有する。一般にこの態様の反応器は、例えばフィッシャー・トロプシュ型反応などの三相スラリー反応を行なわせるために用いられる。
【0033】
フィッシャー・トロプシュ反応は発熱性であるので、反応器20は、反応器シェル21内の冷却液パイプから成る循環システムを介して冷却液を供給し循環させるために、複数の冷却モジュール1を収容する。熱は、冷却液が該モジュールの循環システムを通過する際に、冷却モジュール1を取り囲むスラリーから冷却液に伝達される。適する冷却液は当業者には分かるであろうが、例えば水/水蒸気又は油をベースにした冷却液が挙げられる。
【0034】
液相反応物と固体の粒状触媒とが供給管(図示せず)から反応器チャンバー内に供給され、気相反応物が反応器の底部にて供給される。液相中にて気体の泡が上昇し、液相中にて固体粒状触媒と相互作用し反応生成物を形成し、この反応生成物が反応器から取り出される。一般に気相生成物はサイクロン(図示せず)により取り出され、反応器から気相で出てくる軽質蝋留分は冷却/凝縮により回収できる。高価値の長鎖炭化水素を含んだ液体蝋から主に構成されるより重質の留分は、更なる処理のために回収される前に濾過によりスラリーから分離させる。
【0035】
フィルターシステムは複数のフィルターモジュール30を備え、これらのフィルターモジュール30は、一般には密集して詰め込まれた冷却モジュール1(図2に概略的に図示)の周りに、好ましくは冷却モジュール1のアレーの周囲に配置される。図1の態様では8個のフィルターモジュール30が示されているが、使用するフィルターモジュールの数は状況によって変わり得る。典型的には2〜20個、好ましくは4〜10個のフィルターモジュール30が有利である。好ましい態様では、フィルターは垂直に組み付けて配置したフィルター対として用いられ、すなわち、一方のフィルターがもう一方のフィルターの真上に配置される。この状況では、相対的に小さなハウジングを使用できる。
【0036】
選択されるフィルターの種類は本発明には重要ではないが、この態様では、各フィルターモジュール30は、編み込まれたステンレス鋼製の金網材料から形成された一対のフィルター束31を備える。有効な構成は層を共に焼結することにより実現される「サンドイッチ」構造であり、その結果得られる材料が、OD40mmで長さ4mのフィルター管32に形成され、そのうち約50〜60個が各フィルター束31において中央のエクスポート導管33の周りに配置される。各フィルターモジュール30は、共通のエクスポート導管33に直列に又は並列に連結された1以上のフィルター束31を備えることができる。図面には1つのフィルターモジュール30が図示されている。
【0037】
エクスポート導管33は、更なる処理のために、濾過された蝋生成物を反応器の出口を介して運び、また場合によっては反応器内に吊り下げられているときフィルターモジュールの重量を支持する。
【0038】
エクスポート導管33はそのまま反応器20の上面のフランジ付き開口部35を通過しフランジ付き開口部35に取り付けられたフィルターハウジング38を通過する。エクスポート導管33はそのままフィルターハウジング38の上部のアイリス・グランドを通過する。フィルターハウジング38はフランジ付き開口部の上に直接配置され、バルブ39を介してフランジに連結される。このバルブ39は、閉じて開口部を密封することができ、それによりフィルターハウジング38から反応器20を隔離できる。濾過されエクスポート導管33を通過する生成物は、別の処理装置Pに送られる。
【0039】
フィルターハウジング38はフィルターモジュール30よりわずかに長く幅広の長い円筒の形態を有し、次に行なうバルブ39の密封を妨害することなくハウジング38内に1つのフィルターモジュール30を受け入れることができる。
【0040】
運転中、フィルターモジュール30は、図1の右手に示されるように、開口部35の下方に吊るされ、反応器の上部においてエクスポート管路33から吊り下げられてスラリー中に浸される。通常運転中、触媒の層がフィルターモジュールの表面上に積み重なることで、きれいな蝋は触媒層の細孔を通って分離されるので、濾過プロセスが促進される。エクスポート導管33を通る蝋の流量は、フィルターモジュール30の両端間の圧力差を作り調整することにより制御される。適当な圧力差を用いて種々の流量にて連続的な濾過を実現できるが、当業者ならこの流量と圧力差はフィルターの種類、表面積、流体の粘度、及びシステムの他の種々の特徴に依存して変わり得ることが分かるであろう。
【0041】
この態様においてスラリーゾーンの上部にフィルターモジュール30を配置することで様々な利点が得られる。特に、スラリー中にて重力下で沈降する触媒粒子の傾向ゆえに、スラリーゾーンの上部での触媒の局所濃度は反応器の底部での局所濃度よりも小さい。このようにフィルターモジュール30の領域において粒状物質が少ないことにより、閉塞する傾向が抑えられ、それらの有効寿命が長くなる。加えて、フィルターモジュール30は、制御されていない反応がフィルターモジュール30に隣接して生じる危険性のある反応器スペースから冷却モジュールを離す。したがって、自然に小さくなっている触媒粒子の濃度により反応を限定し得るスラリーゾーンの領域にフィルターモジュール30を設置することは有益である。また、スラリーゾーンの上部にフィルターモジュール30を配置することにより、フィルターモジュール、及びエクスポート導管33又はホイスト装置の必要な長さが最小化されることで、切換中のフィルターモジュール30の取り扱いが容易になる。
【0042】
フィルターモジュール30が閉塞又は損傷したとき、又は濾過速度が落ちたとき、モジュール30の両端間の圧力差を逆転し蝋又は洗浄液を逆にフィルター中に吹き付けて閉塞物を除去することができる。これは通常の運転手順の一部として定期的に行なうことができ、当該モジュールの濾過特性を改善することができるが、ある時点で修理又は交換のためにフィルターモジュール30を反応器20から取り外す必要がある。
【0043】
図1の左手側に示されているように、フィルターモジュールを取り外す場合、反応器へのガス注入を適宜中断し、モジュール30の両端間の圧力差を解消又は低減し、そしてエクスポート導管33をフィルターハウジング38の上部のアイリス・グランドを通して引き出し、フィルターモジュール30を反応器20の上部の開口部を通してフィルターハウジング38中に格納する。この時点でフィルターハウジング38内の圧力は反応器内の圧力に等しくしてある。フィルターモジュール30がハウジング38内に完全に入ると、バルブ35を閉じて開口部を密封し、フィルターハウジング38を反応器20から隔離する。その時点でフィルターハウジング38を反応器の上部のフランジ付き開口部から完全に取り外すことができ、フィルターモジュール30をそれから取り外せる。別法として、ハウジング38を反応器に取り付けたままにし、フィルターモジュールをハウジング38の端壁又は側壁を通るポート(図示せず)から取り外すことができる。それから、損傷したフィルターモジュール30を修理し、そしてバルブ35は閉じたまま反応器20をハウジング38から隔離した状態で、交換又は修理したフィルターモジュール30をハウジング38内に配置することができる。交換したフィルターモジュール38がハウジング38内の所定の位置に置かれると、ハウジングをフランジに固定し、ハウジング38を反応器の圧力まで加圧し、バルブ38を再度開き、そして図1の右手側に示されるように交換フィルターモジュールをスラリーゾーン中に降ろすことができる。
【0044】
これにより、反応器20を減圧又は冷却することなく、損傷又は閉塞したフィルターを修理又は交換するためにフィルターモジュールの切換ができる。ガス注入は一時的に停止するのが好ましく(ただし必須ではない)、また特定の状況では残りのフィルターを介して蝋の回収を続けることができる。よって、製造体制を妨害することなくフィルター交換の段階的プログラムを実施できる。
【0045】
特定の態様では、1つの開口部当たり1より多くのフィルターモジュール38に作用するため、複数のエクスポート導管が1つの開口部35を通過し得る。
【0046】
特定の状況では、一般には格納式フィルターモジュール30の下方のスラリーゾーン中の位置にて、固定フィルターを反応器中に組み入れることもできる。
【0047】
フィルター束31の頂部に触媒粒子が沈降する傾向を抑制するために、各モジュール30におけるフィルター束31は、一般に急勾配の円錐キャップ31cを備える。
【0048】
特定の状況では、エクスポート導管33を通って流れる生成物を外部濾過ループに迂回させ、それから処理装置Pに戻すことにより、予備の外部濾過システムを使用できる。
【0049】
本発明の範囲を逸脱することなく変更及び改良を組み入れることができる。例えば、触媒粒子の平均粒子サイズは、特にスラリーゾーン方式の種類に依存して広い限度内で変わり得る。一般的に、平均粒子サイズは1μm〜2mm、好ましくは1μm〜1mmの範囲とし得る。
【0050】
平均粒子サイズが100μmより大きく、粒子が機械的な装置によって懸濁中に保持されない場合には、一般にそのスラリーゾーン方式はエバレーティング(ebullating)床方式と言われる。好ましくは、エバレーティング床方式中の平均粒子サイズは、600μm未満、さらに好ましくは100〜400μmの範囲である。一般に粒子の粒子サイズが大きくなればなるほど、粒子がスラリーゾーンからフリーボードゾーンに脱出する可能性は小さくなることが分かる。よって、エバレーティング床方式が用いられる場合には、主に触媒粒子の微粉がフリーボードゾーンに脱出する。
【0051】
平均粒子サイズが100μm以下であり、粒子が機械的な装置によって懸濁中に保持されない場合には、一般にそのスラリーゾーン方式はスラリー相方式と言われる。好ましくは、スラリー相方式中の平均粒子サイズは5μmより大きく、さらに好ましくは10〜75μmの範囲にある。
【0052】
粒子が機械的な装置によって懸濁中に保持される場合には、一般にそのスラリーゾーン方式は撹拌タンク方式と言われる。基本的に上述した範囲内の任意の平均粒子サイズが適用できることが分かる。好ましくは、平均粒子サイズは1〜200μmの範囲内に維持される。
【0053】
スラリー中に存在する触媒粒子の濃度は、5〜45体積%、好ましくは10〜35体積%の範囲とし得る。例えば欧州特許出願公開第0450859号に記載のように、さらに他の粒子をスラリーに添加することが望ましいかもしれない。一般的にスラリー中の固体粒子の全濃度は、50体積%以下、好ましくは45体積%以下である。触媒分散を改善するために、1個以上の吸出し管を使用してもよい。
【0054】
適するスラリー液は当業者には公知である。一般的に、スラリー液の少なくとも一部は発熱反応の反応生成物である。好ましくは、スラリー液はほぼ完全に反応生成物である。
【0055】
発熱反応は、固体の触媒の存在下で起こされる反応であり、三相スラリー反応器内で起こさせることのできる反応である。一般的に、発熱反応の反応物の少なくとも1種はガス状である。発熱反応の例としては、水素化反応、ヒドロホルミル化、アルカノール合成、一酸化炭素を用いた芳香族ウレタンの製造、Kolbel-Engelhardt合成、ポリオレフィン合成、及びフィッシャー・トロプシュ合成が挙げられる。本発明の好ましい態様によると、発熱反応はフィッシャー・トロプシュ合成反応である。
【0056】
フィッシャー・トロプシュ合成は当業者にはよく知られており、水素と一酸化炭素とのガス状混合物を反応条件にてフィッシャー・トロプシュ触媒と接触させることにより該混合物から炭化水素を合成することを含む。
【0057】
フィッシャー・トロプシュ合成の生成物は、メタンから重質パラフィン系蝋までの範囲とし得る。好ましくは、メタンの製造を最小にし、製造される炭化水素のかなりの部分が炭素原子5以上の炭素鎖長を有する。好ましくは、C+炭化水素の量は、全生成物の60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上、さらにいっそう好ましくは80重量%以上、最も好ましくは85重量%以上である。
【0058】
フィッシャー・トロプシュ触媒は当該技術において公知であり、一般的に第VIII族の金属成分、好ましくはコバルト、鉄及び/又はルテニウム、さらに好ましくはコバルトが挙げられる。一般的に、触媒は触媒の担体を含む。好ましくは、触媒担体は多孔性の無機耐火性酸化物などの多孔性であり、さらに好ましくはアルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア又はそれらの混合物である。
【0059】
担体上に存在する触媒活性金属の最適な量は、特に特定の触媒活性金属に依存する。一般的に、触媒中に存在するコバルトの量は、担体物質の100重量部当たり1〜100重量部、好ましくは担体物質の100重量部当たり10〜50重量部の範囲とし得る。
【0060】
触媒活性金属が、1種以上の金属助触媒又は共触媒と共に触媒中に存在してもよい。助触媒は、関連する特定の助触媒に依存して、金属又は金属酸化物として存在し得る。適する助触媒としては、周期表の第IIA、IIIB、IVB、VB、VIB及び/又はVIIB族の金属の酸化物、ランタニド系元素及び/又はアクチニド系元素の酸化物が挙げられる。好ましくは、触媒は周期表第IVB、VB及び/又はVIIB族の元素の少なくとも1種、特にチタニウム、ジルコニウム、マンガン及び/又はバナジウムを含む。金属酸化物の助触媒の代わりとして、又は金属酸化物の助触媒に加えて、触媒は周期表第VIIB及び/又はVIII族から選択された金属助触媒を含んでもよい。好ましい金属助触媒としては、レニウム、白金及びパラジウムが挙げられる。
【0061】
最も適切な触媒は、触媒活性金属としてコバルトを、助触媒としてジルコニウムを含む。別の最も適切な触媒は、触媒活性金属としてコバルトを、助触媒としてマンガン及び/又はバナジウムを含む。
【0062】
助触媒は、もし触媒中に存在するならば、一般的には担体物質の100重量部当たり0.1〜60重量部の量が存在する。しかしながら、助触媒の最適な量は助触媒として作用する夫々の元素について変わり得ることが分かる。触媒が触媒活性金属としてコバルトを含み、助触媒としてマンガン及び/又はバナジウムを含む場合には、コバルト:(マンガン+バナジウム)の原子比は少なくとも12:1とするのが有利である。
【0063】
好ましくは、フィッシャー・トロプシュ合成は、125〜350℃、さらに好ましくは175〜275℃、最も好ましくは200〜260℃の範囲の温度で行なう。好ましくは、圧力の範囲は、5〜150絶対バール、さらに好ましくは5〜80絶対バールである。
【0064】
一般的に水素と一酸化炭素(合成ガス)は、0.4〜2.5の範囲のモル比にて三相スラリー反応器に供給される。好ましくは、一酸化炭素に対する水素のモル比は、1.0〜2.5の範囲内である。
【0065】
ガスの毎時の空間速度は広範囲に変わり得るが、一般的には1500〜10000Nl/l/h、好ましくは2500〜7500Nl/l/hの範囲内である。
【0066】
好ましくは、フィッシャー・トロプシュ合成は、スラリー相方式又はエバレーティング床方式において実行され、その際、触媒粒子は上方向の表面上のガス及び/又は液体速度により懸濁中に保持される。
【0067】
当業者ならば特定の反応器の構成及び反応方式に最も適する条件を選ぶことができることが分かる。
【0068】
好ましくは、合成ガスの表面上のガス速度の範囲は、0.5〜50cm/秒、さらに好ましくは5〜35cm/秒である。
【0069】
一般的には、液体の製造を含めて表面上の液体速度は、0.001〜4.00cm/秒の範囲内に維持される。好ましい範囲は、運転の好ましいモードに依存し得ることが分かる。
【0070】
好ましい態様によると、表面上の液体速度は0.005〜1.0cm/秒の範囲内に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】フィルターシステムを有する反応器の一般的な構成の側面図である。
【図2】図1の反応器の平面図であり、図1の反応器のパイプの周りのフィルターの配置を示す。
【図3】図1の反応器のフィルターシステムの側面図である。
【図4】フィルターモジュールの詳細を示す側面図である。
【図5】フィルターモジュールの断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1…冷却モジュール
20…反応器
21…外側シェル
30…フィルターモジュール
31…フィルター束
33…エクスポート導管
35…開口部
38…フィルターハウジング
39…バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器内で使用するためのフィルターシステムであって、該フィルターシステムは粒状物質と流体との混合物から流体を分離するフィルター手段を備え、反応器に連結するよう適合し且つフィルター手段を受け入れるよう適合したフィルターハウジングを備え、該フィルター手段はハウジング内に引っ込めることができるフィルターシステム。
【請求項2】
前記フィルター手段は反応器の開口部を通って引っ込めることができる、請求項1に記載のフィルターシステム。
【請求項3】
前記ハウジングが一般に取り外し可能に前記開口部に連結される、請求項1又は請求項2に記載のフィルターシステム。
【請求項4】
前記フィルター手段が濾液を該フィルター手段から供給するエクスポート導管を備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフィルターシステム。
【請求項5】
前記フィルター手段が前記エクスポート導管によりハウジング内に引っ込められる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルターシステム。
【請求項6】
前記ハウジングが前記フィルター手段を該ハウジングから取り出すための出口を備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載のフィルターシステム。
【請求項7】
前記ハウジングが該ハウジングを反応器から隔離するための少なくとも1つの密封装置を備える、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルターシステム。
【請求項8】
前記フィルター手段が該フィルター手段上に微粉が沈降するのを阻止するよう適合したキャップを備えた請求項1〜7のいずれか一項に記載のフィルターシステムであり、好ましくは該キャップが傾斜した上面を有するフィルターシステム。
【請求項9】
フィルターを反応器から取り外す方法であって、開口部を介して前記反応器に連通したフィルターハウジングを設けるステップ、前記フィルターを反応器から前記開口部を通して前記フィルターハウジング内に引っ込めるステップ、及び反応器と前記ハウジングとの間の前記開口部を密封するステップを含む方法。
【請求項10】
前記開口部を密封した後に前記フィルターを前記ハウジングから取り外す、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
反応器への前記開口部を開く前に前記ハウジングを反応器の内部圧力に一致するよう加圧する、請求項9又は請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のフィルターシステムを1個以上備えた反応器。
【請求項13】
反応器内での炭化水素の製造方法であって、一酸化炭素と水素を触媒、好ましくは担持されたコバルト触媒の存在下で液体炭化水素の存在下にて反応させ、そして生成した液体炭化水素を請求項1〜9のいずれか一項又は複数項に記載のフィルターシステムにより反応器から取り出した後、随意に該方法で得られた炭化水素の水素化処理を行い、該水素化処理は特に水素化、水素化異性化及び/又は水素化分解であり、所望ならその後に蒸留を行なう製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−527794(P2007−527794A)
【公表日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502334(P2007−502334)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/051002
【国際公開番号】WO2005/084791
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】