説明

ハロゲノ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子およびその製造方法。

【課題】
ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子に容易に反応性のハロゲノ基を導入することができる新たな製造方法及びそれによって得られたハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の提供。
【解決手段】
アルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を、ハロゲン化スクシンイミド及び脂肪族アルコールと反応させることを特徴とするハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲノ基を含有する新規なポリオルガノシルセスキオキサン微粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオルガノシルセスキオキサン(以下、PSQと称することがある)は、ケイ素原子数に対する酸素原子数の比が1.5であるようなシリコーン系レジンの総称である。このようなPSQ化合物は、耐熱性、高硬度、耐摩耗性、電気絶縁性などに優れているため機能性シリコーン樹脂の素材として使用されている。
【0003】
一方でPSQ化合物は微粒子としてもそれ自体公知であり(例えば、特許文献1および特許文献2)、塗料、化粧品、紙などの改質用添加剤として応用が期待されている。PSQ微粒子は高密度に有機官能基を有するために機能性微粒子作成のための好適な素材であるが、PSQ微粒子の有機官能基はそのままの形で使われることが多く、化学修飾による機能化に関する方法の報告例はほとんどない。
【0004】
シロキサン系の微粒子の化学修飾としては、シランカップリング剤による機能化が一般的であるが、入手できるカップリング剤の有機官能基の種類は限られており、また複雑な分子構造を有するカップリング剤は概して高価であり、大量生産が難しい問題がある。
【0005】
一般に有機化学反応による機能化は炭素−ハロゲノ基を基点に行われるが、炭素−ハロゲノ基を有する重合性のシランモノマーは汎用ではなく、微粒子合成の出発原料として選ぶには適当でない。したがって、汎用の重合性のシランモノマーから合成された微粒子に、化学反応によりハロゲノ基を導入する必要がある。
【0006】
仮に化学反応によってハロゲノ基を粒子表面に導入できたとしても、PSQ微粒子は一度固化乾燥させると、新たに別の溶媒に再分散させることは困難であり、余剰の反応基質および副生する不要物質との分離が難しいという問題がある。また、強い酸や塩基を用いて反応を行うとケイ素−酸素結合の開裂を生じて、PSQ微粒子の形状変化や破壊を伴うことがある。
【特許文献1】国際公開:WO2006/07846 A1号公報
【特許文献2】特開2004−099630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子に容易に反応性のハロゲノ基を導入することができる新たな製造方法及びそれによって得られたハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の提供を目的とする。
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討を重ねた結果、前記目的を達成するため、アルケニル基を有するPSQ微粒子にハロゲン化スクシンイミド存在下で、ヒドロキシル基を有する有機化合物と化学反応させることで、反応性基であるハロゲノ基を有する新規なPSQ微粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、アルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を、ハロゲン化スクシンイミド及び脂肪族アルコールと反応させることを特徴とするハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法である(請求項1)。
また、本発明は、アルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサンが、微粒子状態を維持したままハロゲノ基が導入されることを特徴とする請求項1に記載のポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法である(請求項2)。
【0010】
更に本発明は、ハロゲン化スクシンイミドを含む脂肪族アルコール溶媒を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法である(請求項3)。
次に、本発明は、ハロゲン化スクシンイミドが、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド又はN−ヨードスクシンイミドから選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法である(請求項4)。
【0011】
次にまた、本発明は、アルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサンが、ビニル基、アリル基、プロペニル基又はブテニル基から選ばれるアルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサンであることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法である(請求項5)。
更にまた、本発明は、ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の平均粒子径が5nm−5μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法である(請求項6)。
【0012】
そして、本発明は、脂肪族アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール又はグリセリンから選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法である(請求項7)。
【0013】
そしてまた本発明は、請求項1乃至請求項7の何れかに記載の方法によって製造されたハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子である(請求項8)。
更にまた本発明は、ハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子である(請求項9)。
更にまた本発明は、ハロヒドリン骨格を形成してなることを特徴とする請求項9に記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子である(請求項10)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、微粒子表面にハロゲノ基と反応に使用した脂肪族アルコールに由来するアルコキシ基が導入されることから、難燃性の付与とともに有機溶媒分散安定性を一段と向上させることが可能である。また反応性置換基(ハロゲノ基もしくは一部のアルコキシ基)が微粒子に導入されたことにより、この部位におけるさらなる化学修飾も可能であると考えられる。PSQ微粒子それ自身が、透明性、熱安定性、吸湿性、電気特性等に優れているため、有機部位のさらなる化学修飾によってより高性能なシロキサン材料となり、特にその利用価値が一段と高まる事が期待されるところである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、前記のとおり、アルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を、ハロゲン化スクシンイミド及び脂肪族アルコールと反応させることを特徴とする。
【0016】
本発明に用いるアルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子は、それ自体公知であり、例えば、本出願人の出願に係る国際公開WO2006/07846 A1に記載された製造方法によって得られる。
【0017】
本発明について、更に、具体的詳細に説明すると、本発明はハロゲノ基を含有する新規なポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法であって、
A. アルケニル基を有するPSQ微粒子をハロゲン化スクシンイミドを含む脂肪族アルコールに加えて、化学反応を行う工程、
B. 余剰の脂肪族アルコールおよび反応の際に副生する不要なスクシンイミドを除去する工程を含む。
【0018】
ハロゲン化スクシンイミドは簡便かつ安全なハロゲン化剤であり、例えばN−ブロモスクシンイミドを用いた場合では、下記一般式(1)に示すようにアルケンと反応しブロモヒドリン骨格を形成する。臭化物イオンの生成と、続くヒドロキシル基による迅速な攻撃はマルコフニコフ則に強く従う。
【0019】
【化1】

【0020】
一般式(1)において、不要なスクシンイミドが副生する。精製方法については、PSQ微粒子を分液操作によって有機相に抽出し、その際、スクシンイミドは水相に分配させる。したがって、スクシンイミドが水相に分配される溶媒の組み合わせで分液を行う。脂肪族アルコールは、有機相および水相のいずれにも分配される可能性があり、水相に分配される場合では高沸点化合物であっても問題ないが、有機相に分配される場合は低沸点化合物であることが望ましい。また脂肪族アルコールが存在するために有機相と水相が分かれにくい場合、分液する前にあらかじめ脂肪族アルコールを留去する必要がある。分液後は、有機相にはハロゲノ基が導入されたPSQ微粒子のみが存在することになる。
【0021】
このように本発明の方法は、極めて簡便にハロゲノ基をPSQ微粒子に導入でき、精製も容易である。また、非常に温和な条件で化学反応を行うことができるため、粒子の破壊や凝集および形状変化を引き起こさず、極めて有用な技術といえる。以下、本発明をより詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
アルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子
前記工程Aにおいて用いるPSQ微粒子は、例えば、一般式(2)
【0023】
【化2】

【0024】
(式中、mは正の整数、nは0又は正の整数である。ここで、RおよびRは、同一又は異なって、有機基を示すが、少なくとも一方はアルケニル基である。具体例として、ビニル基、アリル基、2−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基などが挙げられ、これらに限定されない。また、上記一般式(2)で表されるアルケニル基以外のRおよびRの有機基の具体例としては、アルキル基として、メチル、エチル、プロピル、ブチル、アリール基として、フェニル、ナフチルなどが挙げられ、これらに限定されない。)
で表わすことができる。
【0025】
上記一般式(2)で示されるPSQ微粒子について、構成するすべてのユニットが有機基を有する必要はない。つまりここで扱うPSQ微粒子は、有機官能基をもたないシランモノマーであるテトラエトキシシランもしくはテトラメトキシシランと共重合して作成した場合も含む。
【0026】
前記工程AのPSQ微粒子について、一般式(2)で示すRおよびRのすべてが必ずしもアルケニル基である必要はない。したがって、RおよびRにおいてアルケニル基以外の官能基を有するPSQ微粒子についても、一般式(1)の反応を阻害しなければ適用できる。
【0027】
ハロゲン化スクシンイミド存在下、アルケニル基を有するPSQ微粒子と反応する脂肪族アルコール(多価アルコールを含む)
脂肪族アルコールとしては、ハロゲン化スクシンイミド存在下、アルケニル基と反応する有機化合物であり、PSQ微粒子を凝集させる作用がなければ、特に制限されない。ただし、ヒドロキシル基を有しているが、一般式(1)の反応を阻害する官能基も同時に有する化合物は除かれる。脂肪族アルコールの具体例として、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0028】
脂肪族アルコールは、必ずしも一種類である必要はない。つまり、脂肪族アルコールを混合させて用いることもできる。すべてのケイ素がビニル基を有するPSQ微粒子において、エチレングリコール単独ではPSQ微粒子の凝集が生じるが、n−ブタノールと混合させることで分散可能となる。つまり、比較的疎水的な溶媒と混和させることで、エチレングリコールのような極性の高い化合物とも反応させることは可能である。
【0029】
ハロゲン化スクシンイミドとしては、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド又はN−ヨードスクシンイミド等を用いる。
【0030】
前記工程Aにおける反応溶媒
脂肪族アルコールを溶媒として用いてもよいが、融点が60℃以上であり、本反応条件で液体となり得ない場合は、アルケンとは反応せずかつハロゲン化スクシンイミドを溶解することができる溶媒、具体的には、テトラヒドロフラン(以下、THFと称することがある)、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称することがある)、ジメチルホルムアミド(以下、DMFと称することがある)、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,2−ジクロロエタン、tert−ブタノール等を用いる。
【0031】
前記工程Aにおける反応温度
前記工程Aは、一度0 ℃に冷却し、ハロゲン化スクシンイミドを少しずつ加えながら、最終的に反応温度は20〜60℃で、好ましくは30〜50℃で行う。
【0032】
前記工程Aにおけるハロゲン化スクシンイミドの添加量
前記工程Aにおけるハロゲン化スクシンイミドの添加量は、PSQ微粒子に含まれるアルケニル基の物質量と同程度で行う。PSQ微粒子へのハロゲノ基の導入量は、ハロゲン化スクシンイミドの添加量で制御可能である。すなわち、ハロゲン化スクシンイミドの添加量を少なくすればPSQ微粒子に導入されるハロゲノ基の量は少なくなり、ハロゲン化スクシンイミドの添加量を多くすればPSQ微粒子に多くのハロゲノ基が導入される。溶媒に対するハロゲン化スクシンイミドの重量濃度は特に制限されないが、好ましくは、0.01〜0.5重量%である。
【0033】
PSQ微粒子の大きさ(平均粒子径)に関しては特に制限されないが、反応溶媒への分散性が十分に確保されていればよい。通常、平均粒子径は5nm−5μmまで適用可能であるが、好ましくは、10nm−1μmである。
【0034】
前記工程Bにおける抽出溶媒(有機相)
前記工程Bで用いられる抽出溶媒は、水とは混和せず、PSQ微粒子との相溶性が高ければ特に制限されず、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類、メチルエチルケトン(以下、MEKと称することがある)、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと称することがある)等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジエチルエーテルやジイソプロピルエーテル等のエーテル類を用いることができる。
【0035】
前記工程Bにおける抽出溶媒(水相)
未反応のハロゲン化スクシンイミドは塩基性溶媒と混和させることで、完全にスクシンイミドに変換させる必要がある。この際に用いられる塩基は、微粒子を形成するシロキサン結合を開裂させない程度に弱く、好ましくは、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどの弱塩基である。また溶媒に対する塩基の重量濃度は、1−10%で適用可能であり、好ましくは3−5%である。
【0036】
このように、本発明のハロゲノ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法によれば、前記工程AおよびBのみで、PSQ微粒子にハロゲノ基を導入することができ、かつ副生する不要物も簡単な操作で除かれる。また、ハロゲン化スクシンイミドの添加量によってハロゲノ基の導入量の制御が可能である。本発明の製造方法は、以上のように工程が単純であり、優れた再現性・効率で、極めて簡便に製造できる。以上のことから、大規模生産も可能と考えられる。
【0037】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
ビニル基を有するPSQ微粒子の合成
合成例1:水分散液
蒸留水888.8gに1Nアンモニア水11.2g、硫酸ドデシルナトリウム(以下、SDSと称することがある)13.5gを加えた混合液に、ビニルトリメトキシシラン(以下、V−TMSと称することがある)100.0gを25℃で180分かけて滴下した後、同温度で攪拌を16時間行い、透明なポリビニルシルセスキオキサン微粒子水分散液1013gを得た。なお、SDSを除いた混合液(900g)に対するV−TMS(100.0g)の使用量は11.1重量%であり、SDSを除いた混合液(900g)に対するSDS(13.5g)の使用量は1.50重量%であり、SDSを除いた混合液(900g)におけるアンモニアの濃度は12.4mmol/Lである。
【0039】
合成例2:MEK分散液
合成例1で得られたポリビニルシルセスキオキサン微粒子水分散液300gを、1N硫酸水溶液でpH7に調整した後、メチルエチルケトン2000gを滴下しつつ、蒸留対象液中の水分が5%以下となるまで減圧蒸留を行うと、分散安定剤の不溶分が析出した。次に析出した分散安定剤を濾別することによって、透明なポリビニルシルセスキオキサン微粒子のMEK分散液67gを得た。この分散液中の微粒子の平均粒子径は22.2nm(動的光散乱法により算出)、水分1.7%、分散安定剤含量620ppm、固形分濃度19.4%であった。
ハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の合成
【0040】
有機官能基としてビニル基を有するPSQ微粒子を用いて行う化学反応を、略模擬式図で表わすと下記一般式(3)に示される。
【0041】
【化3】

【0042】
ナス型フラスコに合成例2で合成された固形分濃度19.4%MEK分散PSQ微粒子1.00g(微粒子の実質重量0.194g、粒子サイズ17.1nm(DLS測定により算出))およびn−ブタノール20.0mLを加えて、エバポレーターにてMEKのみを減圧留去した。
【0043】
続いて冷却しながら、N−ブロモスクシンイミド0.437g(ビニル基に対して当量)を加えて、反応温度を30〜50℃に保ちつつ、2時間攪拌を行った。
【0044】
5%炭酸水素ナトリウム水溶液150mLとトルエン150mLで分液を行うことで、PSQ微粒子を有機相に抽出し、以下トルエン相を5%炭酸水素ナトリウム水溶液150mLで2回洗浄することでスクシンイミドを完全に水相に移動させ、ブロモ基修飾PSQ微粒子のトルエン分散液を得た。(合成されたブロモ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子分散液を固化乾燥して収量を調べたところ、0.262g(白色固体)であった。)
【0045】
得られた白色固体の赤外吸収スペクトル測定を行った。図1に原料のビニル基を有するPSQ微粒子およびブロモ基修飾PSQ微粒子のスペクトルを示す。ブロモ基修飾PSQ微粒子では、原料のPSQ微粒子のピークに加えて、2880cm−1近傍に新しいピークが確認された。これは直鎖アルカンのC−H伸縮振動によるものであり、ブチル基の修飾を示している。また、ブロモ基修飾PSQ微粒子にスペクトルにおいてスクシンイミドに特異的な1700cm−1の吸収が観測されないことから、スクシンイミドは分液操作の際に十分に除かれていることが示された。
【0046】
得られた白色固体のハロゲンの元素分析測定を行った。測定にはヤナコ「有機ハロゲン硫黄分析システム HNS−15/HSU−20」を用いて、試料を燃焼分解してガス化した成分を捕獲吸収し、その成分をイオンクロマト法で検出測定した。測定結果として、ブロモ原子の重量割合は14.4%であり、ブロモ基がPSQ微粒子に確かに修飾されていることが示された。
【0047】
実施例1で得られたブロモ基修飾PSQ微粒子の13C固体NMR測定を行った。得られたスペクトルを図2に示す。125−140ppmに強く観測されるビニル基のピークとともに、14ppm近傍に末端アルキルのピークが鋭く観測されたことから、ブロモ基と同時にn-ブチル基が修飾されたことが示された。積分値からn-ブチル基の導入量を計算した結果、約9.1%導入されていることが示された。
【0048】
得られたブロモ基修飾PSQ微粒子のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)は67,500であり、分子量分布(MW/MN)1.21であった。一方で、原料のPSQ微粒子のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量(MW)は56,900であり、分子量分布(MW/MN)1.19であったことから、分子量の増量によりブロモ基の修飾と、分子量分布の維持により粒子の破壊や凝集および形状変化が引き起こされていないことが確認された。
【0049】
実施例1で得られたブロモ基修飾PSQ微粒子のさらなる評価を、高解像度透過型電子顕微鏡を用いて行った。
【0050】
電子顕微鏡計測のためのサンプルを、以下のように用意した。トルエン分散ブロモ基修飾PSQ微粒子を重量濃度約0.1mg/mLに調製し、炭素メッキした銅グリッドを先の溶液に漬け、そしてぺトリ皿に置き溶媒を徐々に蒸発させた。最後に、24時間の間、このサンプルを真空環境下に置いた。100kV加速、および15万倍率にて得られた透過型電子顕微鏡イメージの代表例を図3に示す。この結果によればブロモ基修飾PSQ微粒子の平均粒子径は約13nmであり、原料の微粒子とほぼ同程度であることが示された。また反応によって粒子の破壊や凝集および形状変化が引き起こされていないことが確認された。
【実施例2】
【0051】
ハロゲノ基のPSQ微粒子への導入率の制御の観点から、一般式(4)に示される化学反応において、N−ブロモスクシンイミドの仕込み量を変化させた場合における検討を行った。ナス型フラスコに、合成例2で合成された重量比19.4%MEK分散PSQ微粒子1.00gおよびn−ブタノール20.0mLを加えて、エバポレーターにてMEKのみを減圧留去した。続いて、N−ブロモスクシンイミド0.218g(ビニル基に対して0.5当量)もしくは0.087g(ビニル基に対して0.2当量)を加えて、反応温度を30〜50℃に保ちつつ、2時間攪拌を行った。
【0052】
5%炭酸水素ナトリウム水溶液150mLとトルエン150mLで分液を行うことで、PSQ微粒子を有機相に抽出し、以下トルエン相を5%炭酸水素ナトリウム水溶液150mLで2回洗浄することでスクシンイミドを完全に水相に移動させ、ブロモ基修飾PSQ微粒子のトルエン分散液を得た。(合成されたブロモ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子分散液を固化乾燥して収量を調べたところ、N−ブロモスクシンイミドがビニル基に対して0.5当量の場合では0.258gであり、N−ブロモスクシンイミドがビニル基に対して0.2当量の場合では0.207gであった。)
【0053】
得られた白色固体それぞれについてハロゲンの元素分析測定を行った。測定結果として、N−ブロモスクシンイミドがビニル基に対して0.5当量ではブロモ原子の重量割合は10.2%であり、N−ブロモスクシンイミドがビニル基に対して0.2当量の場合ではブロモ原子の重量割合は5.12%であった。従って、N−ブロモスクシンイミドの仕込み量を変化させることで、PSQ微粒子へのブロモ基の導入量を制御できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のハロゲノ基含有ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法によれば、微粒子表面にハロゲノ基と反応に使用した脂肪族アルコールに由来するアルコキシ基が導入されることから、難燃性の付与とともに有機溶媒分散安定性を一段と向上させることが可能である。また反応性置換基(ハロゲノ基もしくは一部のアルコキシ基)が微粒子に導入されたことにより、この部位におけるさらなる化学修飾も可能であると考えられる。PSQ微粒子それ自身が、透明性、熱安定性、吸湿性、電気特性等に優れているため、有機部位のさらなる化学修飾によってより高性能なシロキサン材料となり、特にその利用価値が一段と高まる事が期待されるところである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】原料のビニル基を有するPSQ微粒子およびブロモ基修飾PSQ微粒子の赤外吸収スペクトル図を示す。
【図2】実施例1で得られたブロモ基修飾PSQ微粒子の13C固体NMRスペクトル図を示す。
【図3】100kV加速および15万倍率にて得られた透過型電子顕微鏡イメージ図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子を、ハロゲン化スクシンイミド及び脂肪族アルコールと反応させることを特徴とするハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項2】
アルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサンが、微粒子状態を維持したままハロゲノ基が導入されることを特徴とする請求項1に記載のポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項3】
ハロゲン化スクシンイミドを含む脂肪族アルコール溶媒を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項2の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項4】
ハロゲン化スクシンイミドが、N−クロロスクシンイミド、N−ブロモスクシンイミド又はN−ヨードスクシンイミドから選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項5】
アルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサンが、ビニル基、アリル基、プロペニル基又はブテニル基から選ばれるアルケニル基を有するポリオルガノシルセスキオキサンであることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項6】
ポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の平均粒子径が5nm−5μmであることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項7】
脂肪族アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール又はグリセリンから選ばれることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れかに記載の方法によって製造されたハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子。
【請求項9】
ハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子。
【請求項10】
ハロヒドリン骨格を形成してなることを特徴とする請求項9に記載のハロゲノ基を含有するポリオルガノシルセスキオキサン微粒子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−167336(P2009−167336A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−9042(P2008−9042)
【出願日】平成20年1月18日(2008.1.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、都市エリア産学官連携促進事業(発展型)和歌山県北部エリア委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願。
【出願人】(391010895)小西化学工業株式会社 (19)
【出願人】(504145283)国立大学法人 和歌山大学 (62)
【Fターム(参考)】