説明

ハンダ成分の測定方法、およびハンダ成分の測定に使用する分析装置およびハンダ試料製作器

【課題】鉛フリーハンダが使用されるハンダ付け工程において、ハンダ濡れ性に影響する鉛フリーハンダ合金を構成する微量な銅の含有率を、ハンダ付け工程の現場で簡易な方法で精度良く同定する分析方法および分析装置を提供する。
【解決手段】組成既知の標準ハンダと組成未知の測定ハンダをそれぞれ糸状に加工し、標準ハンダ同士、および標準ハンダと測定ハンダの片端部を融着して作製した2組の熱電対を使用して、二つの組成の異なる金属をつなげて、両方の接点に温度差を与えると、金属の間に電圧が発生し、電流が流れる現象であるゼーベック効果を利用してハンダ中の銅の含有率を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛フリーハンダ合金を構成する各金属成分を、原理的で単純な熱起電力を測定することからなるハンダ成分の測定法、および該測定法に使用する分析装置および試料作製器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子産業の急速な発展の中で電子部品などの製造および組立に必用不可欠な金属同士の接合に用いられるハンダは、錫・鉛共晶ハンダが被着体への濡れ性、接合信頼性、ハンダ付け温度などで優れているために広く用いられてきたが世界的な環境保護の趨勢の中でハンダ合金を構成していた金属の一つである鉛が全面使用厳禁となり、鉛フリーハンダに移行している。鉛フリーハンダとしては種々の合金が提案されているが、錫・銀・銅合金および錫・銅合金が安定なハンダ材料として一般的に使用されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。鉛が除去されたことにより、ハンダの溶融点が錫・鉛共晶ハンダの183℃から210〜230℃に上昇すると共にハンダの最も大切な役割である被着体としての金属に対する濡れ性の低下に起因する接着力の低下が生じる。特に、銅の含有率がハンダ濡れ性に大きく影響する。それ故に、接着力の低下を防ぐためにはハンダ合金を構成する各金属の含有率の測定と管理が極めて重要となっている。
【0003】
鉛フリーハンダ合金を構成する成分の一つである銅は、含有率は少ないが溶融ハンダの被着体金属に対する濡れ性に大きな影響を与えるので、その含有率の測定と管理が必要になる。ハンダ合金の一般的な成分分析方法は日本工業規格JIS Z 3010に規定されており、分析成分ごとにハンダ合金試料を湿式分解によって前処理して分析試料を得た後、滴定法、吸光光度法、原子吸光などの分析法により、それぞれの元素を定量するものである。
【0004】
日本工業規格JIS Z 3010に規定された方法が分析操作に長時間を要し、迅速性に欠ける点を改善した方法として、ハンダ試料を無機酸とオキシカルボン酸で加熱溶解してプラズマ発光分析で複数元素を同時に定量する微少量ハンダ合金の迅速、高精度な分析方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
フローハンダ付けプロセスでのオンラインでのハンダ成分の分析法として、従来の様に溶融ハンダ槽が稼働している現場とは別の場所に設置された装置で分析するのではなく溶融ハンダ槽中のハンダを所定量だけ汲み出し、ハンダが溶融状態にある間に放熱プレート上で固化させた試料を用いて蛍光X線分析法によって溶融ハンダの組成の定量分析を、より迅速かつ簡便に分析する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
蛍光X線分析によるオンラインでのハンダ成分の分析法において、試料ハンダを汲み出す際の危険性や大がかりな装置の使用を回避した溶融ハンダのリアルタイムなハンダ成分元素の分析として溶融ハンダ槽中の溶融ハンダに組成既知の金属部材を挿入して溶解速度を検出し、溶解速度を基にして溶融ハンダ槽中のハンダ成分濃度を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献4)。
【0007】
鉛フリーハンダ中の鉛の含有率をオンラインで分析する方法として、ハンダの液相点および固相点が加熱と冷却することにより、相変化する温度曲線の特徴、要素を捉え、予め蓄積された履歴特性から検索して分析する方法などが提案されているが、何れの方法も検査工程が煩わしく、精度も低い。
【0008】
【特許文献1】特開2004−63509号公報
【特許文献2】特開2005−125360号公報
【特許文献2】特開平7−159395号公報
【特許文献3】特開2006−292688号公報
【特許文献4】特開2002−340884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電子部品の端子部材料としては、銅や鉄、あるいは42Alloyの様な鉄・ニッケル合金が用いられており、これらの端子部材料表面はハンダ濡れ性を改善する目的で錫・鉛などの組成のメッキが施される。それ故に、これらの端子部材料を鉛フリーハンダでハンダ付けする際に溶融ハンダ槽に部材料からの銅やメッキ層からの鉛が不純物として混入する可能性があり、溶融ハンダ槽中の銅や鉛の濃度が増加する可能性がある。一般的な鉛フリーハンダである錫・銀・銅合金で銅の含有量は0.5wt%以下であるが1wt%に達するとハンダ濡れ性に影響を与え、被着体としての電子部品などの金属に対する接着力が低下する。それ故に、蛍光X線分析や原子吸光などの大がかりな装置を使用せず、その上、迅速かつ簡便にハンダ成分を精度良く測定する分析法が待たれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、熱電気現象である極めて原理的で単純なゼーベック効果を利用したハンダ成分を現場サイドにおいて、オフラインで簡便に測定することが可能なハンダ成分の測定方法、およびハンダ成分の測定に使用する熱起電力を直流増幅器で増幅して熱起電力の差から成分の含有率を同定する分析装置および測定に使用する糸状ハンダを製作するためのハンダ試料製作器を提供することで課題を解決した。
【0011】
ゼーベック効果は、ペルチェ効果、トムソン効果の三つの熱電効果の一つで、二つの材料A,Bで作った電線を一点で繋げ、各々の電線の繋いでない方の端を一定温度Tに保ち、電線を繋いだ点の温度をTとすると、二つの端の間には熱起電力Vが生じる。これをゼーベック効果と呼び、発生する熱起電力Vは、
【0012】
【数1】

【0013】
の様に表される。この比例定数SABをゼーベック係数と呼び、二つの材料A,Bに固有の値である。本発明では、組成既知のハンダ同士の片端部を融着して構成された標準熱電対と、組成既知のハンダと組成未知のハンダの片端部を融着して構成した被測定熱電対からなる二組の熱電対を作製して温度センサーとし、発生する熱起電力の差を測定して組成未知のハンダ成分を同定するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、ハンダ付けプロセス中に被着体からの溶け出しで増加する可能性があり、特に、ハンダ濡れ性に影響を与えるハンダ成分中の銅含有率を簡易な方法で、オフラインで測定してハンダの使命である被着体への接着力の低下を防ぐ効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、1)ハンダ試料の熱起電力の測定からゼーベック効果を利用してハンダ組成を同定する測定方法、2)組成既知の鉛フリーハンダ同士の片端部を融着して構成した標準熱電対と、組成既知の鉛フリーハンダと組成未知の鉛フリーハンダの片端部を融着して構成した被測定熱電対が発生する微小な熱起電力の差を測定してハンダ成分を同定する分析装置、3)溶融ハンダ槽から成分を測定するハンダを汲み出して熱電対を作製するための糸状ハンダ作製器、からなる。
【0016】
本発明を図面で説明する。図1は本発明の測定方法を示す概念図で、装置の全体的な構成は、試料を入れる恒温槽1、ローパスフィルタ(No.1)2、増幅度が1000倍の増幅器3、ローパスフィルタ(No.2)4、増幅度が150倍の増幅器5、ローパスフィルタ(No.3)6、および起電力を読み取るDVMマルチメータ7からなる。aおよびbは、それぞれ組成既知のM705ハンダ(錫;96.5wt%、銀;3.0wt%、銅;0.5wt%)同士の糸状ハンダ、組成既知のM705ハンダおよび組成未知のハンダの糸状ハンダからなる熱電対で、3個のローパスフィルタ2,4,6でノイズを除去すると共に熱起電力の差を2つの熱起電力の差を増幅器3,5で15万倍に増幅して電圧をDVMマルチメータ7で読み取る。
【0017】
図2にM705ハンダからなる糸状ハンダの一端を溶融して作製した標準熱電対およびM705ハンダからなる糸状ハンダの端部と組成未知のハンダからなる糸状ハンダの端部を溶融して作製した被測定熱電対の二種類の熱電対が発生する微小な熱起電力の差(μV)を検出し、かつ、現場使用に適した安価な直流増幅器の構成を示す。熱電対のリード線a,bは、それぞれ個別の直流増幅器8,9で増幅される。直流増幅器8,9は1μV程度の起電力を150mV程度まで増幅する。一般に、1μV程度の電圧値を測定するためには高価な測定器が必要となるが、本発明では比較的安価に同等の機能を備えるために二つの熱電対の絶対値の測定を行わず、電圧の差を測定して表示する様にして低価格化に成功した。増幅された二種類の起電力を選択回路10,比較回路11,判定回路12の各回路を経て表示器13に電圧がmVの単位で表示される。
【0018】
図3に熱電対の作製に使用する測定試料の糸状ハンダの製作器を示す。溶融ハンダ槽から汲み出した溶融ハンダを加熱加工ブロック14で加熱された糸状ハンダ作製台15の上に流し、ヘラ16で均一にした後、冷却して糸状ハンダを取り出す。従来は大きな棒状ハンダから伸線機を使用して徐々に時間をかけて延伸し、糸状ハンダが作製されていたが図3の作製器を使用することによって、ハンダ付け作業の現場で熱起電力を測定する試料を容易に作製することを可能にした。
【実施例1】
【0019】
銅の含有率が0.5wt%のM705ハンダからなる糸状ハンダ同士の一端を融着して作製した標準熱電対と、M705ハンダの糸状ハンダの端部と銅の含有率が0.5wt%のハンダからなる糸状ハンダの一端を融着して作製した被測定熱電対を常温から約20℃の間隙で200℃までの各温度で熱起電力を図2に示した装置に接続して熱起電力を測定した結果を図4に示す。図は2回の測定結果を重ねて示している。図4から明らかな様に、銅の含有率が0.5wt%の試料ではM705ハンダと銅の含有率が等しいために熱起電力は測定温度に関係なく、±mV以下の値を示し、誤差範囲にある。
【実施例2】
【0020】
実施例1と同様の実験を、銅の含有率が0.8wt%のハンダで行った結果を図5に示す。図は4回の測定で得られた結果を重ねて示されている。図5から、ハンダ融点である210〜230℃よりも10〜30℃低い200℃で約0.35Vの電圧を示し、更に、熱起電力に温度依存性があることが認められる。
【実施例3】
【0021】
実施例1と同様の実験を、銅の含有率が0.7wt%〜1.0wt%のハンダを使用して熱起電力を測定し、各含有率での200℃における熱起電力を求めた結果を図6に示す。この結果から、熱起電力の値を閾値として溶融槽中のハンダの銅含有率を同定することが可能となる。即ち、銅含有率が1.0wt%では熱起電力は0.6〜0.7V、銅含有率が8wt%では0.3〜0.4V、銅含有率が0.7wt%では0.03〜0.05Vとなるので、仮に熱起電力の閾値を0.03Vと設定すればハンダ中の銅含有率を0.7wt%以下に設定することが可能になり、溶融槽の鉛フリーハンダの銅含有率を戻すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、従来の錫・鉛共晶ハンダに代えて錫・銀・銅合金などの鉛フリーハンダを使用する上で、ハンダ濡れ性に影響する銅成分のハンダ付けプロセス中の増加量を知るための測定に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ハンダ成分分析装置の概念図である。
【図2】ハンダ熱電対の起電力用の低ノイズ、高増幅の直流増幅器の構成図である。
【図3】糸状ハンダの製作器である。
【図4】標準熱電対と銅含有率0.5wt%のハンダの熱電対による熱起電力の測定値である。
【図5】標準熱電対と銅含有率0.8wt%のハンダの熱電対による熱起電力の測定値である。
【図6】銅含有率と200℃での熱起電力との関係を示す。
【符号の説明】
【0024】
1 恒温槽
2 ローパスフィルタNo.1
3 増幅度1000倍の増幅器
4 ローパスフィルタNo.2
5 増幅度150倍の増幅器
6 ローパスフィルタNo.3
7 DVMマルチメータ
8 フィルタを含んだ直流増幅器No.1
9 フィルタを含んだ直流増幅器No.2
10 2種類の熱電対の起電力を選択する回路
11 2種類の熱電対の起電力の値を比較する回路
12 2種類の熱電対の起電力を比較した値を判定する回路
13 判定結果を表示する回路と表示器
14 加熱加工ブロック
15 糸状ハンダ製作台
16 ヘラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの組成の異なる金属をつなげて、両方の接点に温度差を与えると、金属間に電圧が発生し、電流が流れる現象であるゼーベック効果を応用した方法であって、組成既知のハンダ同士の片端部を融着して構成された標準熱電対と、組成既知のハンダと組成未知のハンダの片端部を融着して構成した被測定熱電対からなる二組の熱電対を温度センサーとして回路を形成し、ハンダの融点よりも約10℃から約30℃低い温度で発生する微小な熱起電力を測定して熱起電力の差から組成未知のハンダ成分の組成比率を同定することを特徴とするハンダ成分の測定法。
【請求項2】
前記の組成既知および組成未知のハンダは、鉛フリーハンダであることを特徴とする請求項1に記載のハンダ成分の測定法。
【請求項3】
組成既知の鉛フリーハンダ同士により構成された熱電対(標準熱電対)と、組成既知の鉛フリーハンダと組成未知の鉛フリーハンダにより構成された熱電対(被測定熱電対)の二組の熱電対が発生する微小な熱起電力(μV)の差を検出して組成未知の鉛フリーハンダ成分を同定することを特徴とする請求項2に記載の鉛フリーハンダ成分同定に使用する分析装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載のハンダ成分の測定法および分析装置に関し、ハンダ付け作業の現場サイドで、溶融ハンダ槽から成分を測定する溶融状態の鉛フリーハンダを汲み取り、直ちに熱電対の作製に必要な糸状の測定用試料に加工製作することを特徴とするハンダ試料製作器。
【請求項5】
鉛フリーハンダに含まれる銅の含有率を熱起電力の測定から求めることを特徴とする請求項1および請求項3に記載のハンダ成分の測定法および分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−170406(P2008−170406A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−27318(P2007−27318)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(592158202)株式会社レスカ (10)
【Fターム(参考)】