説明

バイオセンサー

【課題】特定物質の濃度を高感度に検出する、単純な構造のバイオセンサーを提供する。
【解決手段】液体試料中の基質または金属イオンを検出するバイオセンサーであって、基板11上に配置された一対の電極12と、一対の電極12間の基板11上に複数の微粒子13を配列形成してなる微粒子層14と、微粒子層14の表面に固定されるとともに基質に特異的に作用する酵素15と、一対の電極12に接続されるとともに、微粒子層14の電気伝導度を測定する測定器20とを備えたことを特徴とするバイオセンサー1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサーに関し、特に、酵素の触媒作用を利用して液体試料中の基質または金属イオンを検出するバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
系内の特定物質を検出するセンサーとしては、様々なタイプのものが開発されている。
【0003】
例えば、センサー部の化学構造の変化による電流の変化を測定することで検体分子を検出する化学センサーが開発されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0004】
この化学センサーは、ナノメートル単位の金属微粒子がリンカー分子によって相互結合されており、リンカー分子中に検体分子と可逆的に結合または配位する選択ユニットを備えている。そして、この選択ユニットに検体分子が結合または配位することによる電流値の変化により、上記検体分子を検出する。このような化学センサーは、ナノメートル単位の金属微粒子をセンサー部に用いるため、センサー部の小型化が可能である。
【0005】
一方、酵素の触媒作用を利用したバイオセンサーとして、イオン感応型電界効果トランジスタ(Ion Sensitive Field Effect Transistor(ISFET))のゲート部に酵素固定化膜を形成したバイオセンサーが開発されている(例えば、下記特許文献2参照)。
【0006】
このISFET型バイオセンサーは、特定の有機物が酵素固定化膜中で酵素の触媒作用により分解されたときに生ずる膜中の水素イオン濃度の変化をISFETで検出する。これにより、液体試料中の特定の有機物の濃度を測定するものである。このようなバイオセンサーは、半導体装置における微細加工技術を駆使して1チップ上に多種類のセンサーを集積させることができる、という利点がある。
【0007】
【特許文献1】特開2002−228616号公報
【特許文献2】特開平8−313478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載された化学センサーにおいては、金属微粒子間にリンカー分子が介在する分、金属微粒子間はある程度の距離を有して配列されており、リンカー分子中の選択ユニットに検体分子が可逆的に結合または配位しても、金属微粒子間の距離は維持される。このため、リンカー分子の構造変化により電気伝導度を大きく変化させることは難しく、検体分子を高感度に検出することが難しい、という問題がある。また、特許文献2に記載されたバイオセンサーにおいては、製造工程が煩雑であり、高コストである、という問題がある。
【0009】
本発明は、かかる問題点を改善するために提案されたものであり、特定物質を高感度に検出する単純な構造のバイオセンサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するために、本発明のバイオセンサーは、液体試料中の基質または金属イオンを検出するバイオセンサーであって、基板上に配置された一対の電極と、一対の電極間の基板上に複数の微粒子を配列形成してなる微粒子層と、微粒子層の表面に固定されるとともに基質に特異的に作用する酵素と、一対の電極に接続されるとともに、微粒子層の電気伝導度を測定する測定器とを備えたことを特徴としている。
【0011】
このようなバイオセンサーによれば、酵素が液体試料中の基質に特異的に作用することで、金属イオンが還元されて金属として微粒子の表面に析出する。このため、微粒子間の距離が短くなり、微粒子層の電気伝導度が増大する。これにより、背景技術で説明した金属微粒子間の距離が維持される化学センサーと比較して、液体試料中の基質または金属イオンが感度よく検出される。
【0012】
また、本発明のバイオセンサーは、一対の電極間に微粒子を配列形成し、微粒子の表面に酵素が固定化されていることから、背景技術で説明したISFET型バイオセンサーと比較して、単純な構造となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイオセンサーによれば、液体試料中の基質または金属イオンが感度よく検出されるため、基質または金属イオンの検出濃度範囲を広げることができる。また、バイオセンサーとしての構造が単純であることから、小型化が可能である。また、構造が単純であることで製造工程も簡略化されるため、低コスト化も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
<バイオセンサー>
図1は、本実施形態のバイオセンサー1を示す構成図である。この図に示すバイオセンサー1は、液体試料中の基質または金属イオンの検出に用いられるものである。バイオセンサー1は、基板11上に設けられた一対の電極12間に複数の微粒子13を配列形成してなる微粒子層14と、この微粒子層14の表面に固定化された酵素15とを有するセンサー部10を備えている。
【0016】
基板11としては、酸化ケイ素系材料(SiOx、SiNyなど)、酸化アルミニウム、金属酸化物などの絶縁体、あるいは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルフェノール(PVP)、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン(PES)、などの有機高分子、あるいは雲母を用いる。半導体や金属表面に上記の絶縁体膜が形成されたものを用いてもよい。基板表面は平滑であるほうがよいが、微粒子層の電気伝導性に影響を与えない程度のラフネスがあっても構わない。
【0017】
上述した基板11上には、例えば金(Au)からなる一対の電極12が離間した状態で配置されている。電極12の材料としては、金(Au)以外に、白金、銀、パラジウム、アルミニウム、銅などの金属(これら金属の微粒子を含む導電性ペーストを含む)やまたはそれらによる合金、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホナート)(PEDOT/PSS)などの導電性高分子を用いることができる。
【0018】
上記一対の電極12間の基板11の表面には、後工程で形成する微粒子を1層分だけ固定するシラノール誘導体からなる接着層16が設けられている。なお、ここでは、接着層16を形成することとしたが、微粒子と基板11との親和性がよい場合には、特に接着層16を形成しなくてもよい。
【0019】
そして、基板11上には、この接着層16を介して保護膜17で覆われた状態の複数の微粒子13を配列形成してなる微粒子層14が設けられている。具体的には、微粒子13の構成材料と接着層16を構成するシラノール誘導体とが結合し、固定化されている。
【0020】
ここでは、微粒子13が例えば金(Au)で構成されており、球形であることとする。なお、ここでは、球形の微粒子13を用いることとするが、微粒子13の形状は特に限定されるものではなく、例えば四面体、立方体、直方体、円柱等であってもよい。また、ロッド状、シート状であってもよい。
【0021】
また、微粒子13を覆う保護膜17は、鎖状の絶縁性有機分子で構成されており、絶縁性有機分子としては、アルキルアミン等のアミン誘導体やアルカンチオール等のチオール誘導体が挙げられる。ここでは、例えばチオール誘導体により保護膜17が構成されており、チオール誘導体のチオール基が金からなる微粒子13と結合していることとする。ここで、保護膜17を構成するチオール誘導体の微粒子13と結合していない側の末端官能基は、後述する製造方法で詳細に説明するように、酵素と結合可能に構成されていることとする。なお、この保護膜17は他の種類の保護膜で置換することが可能であるため、はじめにアミン誘導体を保護膜17として微粒子層を形成させた後にチオール誘導体の保護膜17に置き換えてもよい。
【0022】
微粒子13の粒径は均一であることが好ましく、粒径が均一であることで、保護膜17で覆われた状態の微粒子13も均一な粒径で構成され、2次元的に規則的に配列される。この状態で、隣接する微粒子13間の保護膜17同士は接しており、微粒子13同士は所定の距離を有して配置されている。これにより、微粒子13間にはトンネル電流が発生する。そして、後述するセンシング方法で詳細に説明するように、本実施形態のバイオセンサー1では、微粒子13の表面に金属を析出させて微粒子13間の間隔が変化することによるトンネル電流の変化を測定する。トンネル電流は微粒子間の距離の減少に対して指数関数的に電流値が増加するため、液体試料中の基質または金属イオンが感度よく検出される。
【0023】
このため、微粒子13間の距離はトンネル電流が発生する程度であることが好ましく、トンネル電流が発生する範囲で距離が長い方が微粒子13の表面により多くの金属を析出させることができるため、基質の検出濃度範囲が広くなる。そして、微粒子13間の距離は、保護膜17の膜厚により制御可能である。また、微粒子13の粒径を小さくすることでセンサー部10の小型化が可能となり、検出に用いる試料も微量となるため好ましい。
【0024】
具体的には、保護膜17で覆われた状態の微粒子13は、粒子径が50nm程度以下のコロイド粒子であり、微粒子13の径は3nm〜50nm、保護膜17は0.5nm〜2nmの膜厚であることとする。
【0025】
なお、ここでは、微粒子13が保護膜17で覆われている例について説明したが、微粒子13は保護膜17で覆われていなくてもよい。この場合には、複数の微粒子13が間隔を有して配列形成されていてもよく、接触する状態で配列形成されていてもよい。隣接する微粒子13が接触する状態で配列形成される場合には、後述するセンシング工程において、金属が微粒子13の表面に析出されることで、微粒子13同士の接触面積が増加することによる微粒子層14の電気伝導度の変化を測定する。
【0026】
ただし、微粒子13が保護膜17で覆われていた方が、微粒子13の配列形成の際に微粒子13の凝集が抑制されるため、好ましい。また、複数の微粒子13が間隔を有して配置されている方が、微粒子層14のトンネル電流の変化で基質を検出するため、感度が高く、好ましい。
【0027】
そして、微粒子層14の表面には、酵素15が固定されている。ここで、酵素15は、測定する基質の種類に応じて選択されることとする。ここでは、後述するように、このバイオセンサー1によりエタノール(C25OH)からなる基質の濃度を測定することから、酵素15として、アルコール脱水素酵素(Alcohol Dehydrogenase(ADH))からなる酸化還元酵素を用いることとする。ここでは、保護膜17の末端官能基(カルボキシル基、アミノ基、スクシンイミジル基、水酸基)と酵素15のペプチド鎖に含まれるアミノ基、カルボキシル基、水酸基、チオール基などとが共有結合で結合されることとする。なお、ここでは、保護膜17と酵素15とが結合することとするが、微粒子13と酵素15とが直接結合していてもよい。この場合には、酵素15のペプチド鎖を構成するチオール基またはアミノ基等と微粒子13を構成する金とが直接結合されることとする。
【0028】
また、バイオセンサー1には、上記一対の電極12に接続されるとともに、上記微粒子層14の電気伝導度を測定する例えば電流計からなる測定器20が設けられている。ここでは、測定器20が電流計で構成されることとするが、測定器20は微粒子層17の電気伝導度を測定できればよく、例えば抵抗測定器等であってもよい。
【0029】
<バイオセンサーの製造方法>
このようなバイオセンサー1は、次のような方法により製造される。
【0030】
まず、酸化ケイ素材料からなる基板11上に金からなる一対の電極12をパターン形成する。電極12の形成は、用いる電極材料によって異なるが、化学的気相成長(Chemical Vapor Deposition(CVD))法、スクリーン印刷法、インクジェット法などを用いる。必要に応じてフォトリソグラフィー法、シャドウマスク法などと組み合わせてもよい。
【0031】
次いで、上記一対の電極12間の基板11の表面をシラノール誘導体の蒸気に接触させることで、接着層16を形成する。なお、シラノール誘導体の溶液に上記基板11を浸漬させて接着層16を形成してもよい。
【0032】
次いで、保護膜17で覆われた状態の金からなる微粒子13の分散液を用意し、この分散液に基板11を数分間から数時間浸漬した後、溶媒を蒸発させる。これにより、接着層16を構成するシラノール誘導体に金からなる微粒子13が結合して固定される。その後、洗浄処理を行うことで、接着層16に固定されていない余剰の微粒子13を除去する。これにより、基板11の接着層16の表面に、保護膜17で覆われた状態の微粒子13が、2次元的に配列形成された微粒子層14が形成される。この際、隣接する微粒子13間の保護膜17同士は接触した状態となる。
【0033】
保護膜17で覆われた状態の微粒子13を基板11上に配列形成する方法としては、上記のような浸漬法の他に、キャスト法、ラングミュア−ブロジェット(LB)法、またはスタンプ法などが挙げられる。
【0034】
キャスト法では、保護膜17で覆われた微粒子13をトルエンやクロロフォルム等の溶媒に分散させた分散液を接着層16が形成された状態の基板11上に滴下し、徐々に溶媒を蒸発させる。この際、微粒子層14が一層だけ形成されるように、分散液の濃度を予め調整しておく。
【0035】
LB法では、静置した水面上に、保護膜17で覆われた微粒子13をトルエンやクロロフォルム等の溶媒に分散させた分散液を展開し、微粒子層14を形成する。次に水面下降法などにより、接着層16が形成された状態の基板11上に、上記微粒子層14を転写する。
【0036】
スタンプ法では、固体表面や水面にキャスト法やLB法で形成された微粒子層14を一度ポリジメチルシロキサンなどの表面に転写する。そして、転写された微粒子層14をスタンプのように接着分子16が形成された基板11上に押し付ける。
【0037】
上述したように、基板11上の一対の電極12間に、微粒子層14を形成した後、微粒子の保護膜17の末端官能基がカルボキシル基の場合はカルボジイミド化合物を含む溶液に、末端官能基がアミノ基の場合はグルタルアルデヒドを含む溶液に、基板11を浸漬させ保護膜17表面を活性化する。この状態の基板11を酵素15を含有する溶液に浸漬させることで、微粒子13を覆う保護膜17の表面で、保護膜17のカルボキシル基またはアミノ基と酵素15のアミノ基とが反応し、保護膜17と酵素15が結合され酵素15が固定化される。また、保護膜17の末端官能基がスクシンイミジル基の場合は、上記活性化の必要がないため、微粒子層14を形成後、酵素15を含有する溶液に浸漬させることで酵素15の固定化が可能である。
【0038】
<センシング方法>
次に、このバイオセンサー1を用いた液体試料中のセンシング方法について、液体試料中の基質の濃度の測定方法を例にとって説明する。
【0039】
まず、この測定のメカニズムについて図2を用いて説明する。測定に用いる液体試料には、例えばエタノールからなる基質Aが含まれている。基質Aは、図1を用いて説明したバイオセンサー1を構成するADHからなる酵素15の触媒作用により酸化してアセトアルデヒド(生成物A’)を生成する。
【0040】
この液体試料中に、補酵素(酸化体)Bと金属イオンMn+を添加する。
【0041】
補酵素(酸化体)Bは、上述した基質Aの酸化反応を促進するものであり、例えば、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドの酸化体(NAD+)からなる。このNAD+は、基質Aの酸化反応により還元されてNADHからなる補酵素(還元体)B’となる。なお、ここでは、補酵素(酸化体)Bとして、NAD+を添加することとするが、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸の酸化体(NADP+)を添加してもよい。
【0042】
なお、ここでは、バイオセンサー1の酵素15にADHを用い、エタノールからなる基質Aを検出する例について説明するが、上述した補酵素(酸化体)Bにより酸化反応が促進される基質Aと酵素15の組み合わせは、エタノールとADHに限定されるものではない。ここで基質Aと酵素15の組み合わせを表1に示す。
【表1】

【0043】
また、液体試料中に添加する金属イオンMn+としては、NADHからなる補酵素(還元体)B’により還元されて、金属Mとして析出されるものを用いる。ここで、基質Aの酸化反応の生成物であるアセトアルデヒドの酸化還元電位は−0.320V、補酵素の還元体であるNADHの酸化還元電位は−0.197Vであることから、これらの値よりも高い酸化還元電位を有する金属イオンMn+であれば、還元されて金属Mとして析出される。ただし、金属イオンMn+を現実的な速度で還元・析出し得る物質が上記補酵素(酸化体)Bのみであることが必要である。
【0044】
ここで、アセトアルデヒドおよびNADHよりも高い酸化還元電位を有する金属イオンMn+を上記表1に示す。この表に示すように、金属イオンMn+としては、金イオン(Au3+)、白金イオン(Pt2+)、パラジウムイオン(Pd2+)、銀イオン(Ag+)、銅イオン(1価)(Cu+)、銅イオン(2価)(Cu2+)、鉛イオン(Pb2+)、錫イオン(Sn2+)が挙げられる。ここでは、例えば金イオンからなる金属イオンMn+を例えば塩化金酸として液体試料中に添加する。ここで、液体試料中の金属イオンMn+以外の金属イオンは無視できる程度の量であることとする。
【0045】
金属イオンMn+として、金イオン(Au3+)を液体試料中に添加することで、微粒子13の表面には微粒子13の構成材料と同じ金(Au)が析出される。微粒子13の構成材料と同じ金属Mを析出する金属イオンMn+を用いることで、金属Mと微粒子13とで材質が異なることによる電気伝導度の差を考慮しなくてもよいため、好ましい。
【0046】
上述した補酵素(酸化体)Bと金属イオンMn+は、後述する基質Aの酸化反応を促進するのに十分な濃度で液体試料中に添加されることとする。
【0047】
次いで、補酵素(酸化体)Bと金属イオンMn+が添加された液体試料中の基質Aの濃度を測定する。この測定は、酵素15が触媒作用を発揮し得る温度で行うこととする。また、この際、液体試料中には酵素15の阻害剤が存在しないこととする。
【0048】
まず、図3(a)に示すように、バイオセンサー1(前記図1参照)のセンサー部分10を、図2を用いて説明した基質Aと補酵素(酸化体)Bと金属イオンMn+とを含む液体試料30に浸漬させる。具体的には、酵素15が固定された側を液体試料30側に向けて、少なくとも一対の電極12間に設けられた微粒子層14までを浸漬させる。この時点で、測定器20(前記図1参照)が示す電流値を初期値として記録する。ここで、液体試料30の量は、酵素15が液体試料30中の基質Aに対して十分に作用しうる量であることとする。ここでは、液体試料30中にセンサー部10を浸漬させることとしたが、酵素15上から液体試料30を滴下して測定を行ってもよい。
【0049】
センサー部10を液体試料30中に浸漬させることで、基質Aが酵素15に近づくと、下記反応式(1)で示されるように、エタノール(C25OH)とNAD+の酸化還元反応が生じ、アルデヒド(CH3CHO)、NADHおよび水素イオンが生成される。
【化1】

【0050】
そして、下記反応式(2)に示すように、NADHにより金イオン(Au3+)が還元されて金(Au)が生成する。
【化2】

【0051】
これにより、図3(b)に示すように、金からなる金属Mが、例えば微粒子13の表面に析出する。
【0052】
ここで、金属イオンMn+を還元し得る物質としては、基質Aであるエタノールと補酵素(還元体)B’であるNADHがある。しかし、エタノールによる金イオンの還元には超音波照射や還流処理によるエネルギーの付与が必要である。一方、NADHによる金イオンの還元には、エネルギーの付与がなくても金イオンを還元することができる(Angew.Chem.Int.Ed.vol.43,p.4519(2004))。したがって、エネルギーの付与を必要としない条件下において金の析出は、実質的にNADHによるものと考えられる。
【0053】
この金属Mの付着により微粒子13間の距離が減少し、微粒子層14のトンネル電流が増大する。そして、図1に示した測定器20により、このトンネル電流が一定値に落ち着いた時点での電流値を測定する。この電流値と上記初期値との比較により、析出した金属Mが定量される。この金属Mの量と上記反応式(1)、(2)から基質A(エタノール)の量は換算されるため、液体試料30中の基質Aの濃度が測定される。
【0054】
なお、微粒子13が保護膜17で密に覆われており、析出した金属Mが微粒子13の表面に到達し難い場合には、金属Mが保護膜17の表面に析出する場合もある。この場合であっても、微粒子層14の電流値の変化は測定可能である。
【0055】
なお、ここでは、析出した金属Mの量から基質Aの濃度を換算することとしたが、予め検出されると予測される基質Aの濃度の範囲内での検量線を作成しておき、この検量線と測定された電流値とを比較することで、液体試料30中の基質Aの濃度を測定してもよい。
【0056】
また、ここでは、液体試料30中の基質Aの濃度を測定する場合の例について説明したが、液体試料30中の金属イオンMn+を検出する場合であっても、同様のメカニズムにより検出可能である。この場合には、検出する金属イオンMn+の濃度に対して、図2を用いて説明した反応経路が十分に進む量の基質Aと補酵素(酸化体)Bを液体試料30中に添加する。そして、液体試料30にバイオセンサー1の微粒子層14までを浸漬させることで、上述した反応と同様のメカニズムにより金属Mが析出することによる微粒子層14のトンネル電流の変化を測定する。これにより、液体試料30中の金属イオンMn+が検出される。
【0057】
このようなバイオセンサー1によれば、微粒子13の表面への金属Mの析出による微粒子層14のトンネル電流の変化を測定することで、析出した金属Mが定量され、液体試料30中の基質Aが感度よく検出される。したがって、液体試料30中の基質Aの検出濃度範囲を広げることができる。
【0058】
また、本発明のバイオセンサー1は、一対の電極12間に微粒子13を配列形成し、微粒子13の表面に酵素15が固定化された単純な構造である。したがって、小型化が可能であり、構造が単純であることで製造工程も簡略化されるため、低コスト化も可能である。
【0059】
なお、上記実施形態のバイオセンサー1では、微粒子13として金を用いることとしたが、微粒子13は金以外の銀、白金、銅、パラジウムなどの金属、硫化カドミウム、セレン化カドミウム、シリコンなどの半導体またはそれらの合金であってもよい。また、微粒子13は、酸化ケイ素(SiOx)、酸化アルミニウム、ポリスチレンなどの絶縁体であってもよい。または、これらの材料から構成されるコア・シェル型構造を有する微粒子13を用いることもできる。
【0060】
ただし、微粒子13を絶縁体で構成する場合には、例えば酵素15と反対の電荷を持った荷電高分子微粒子を微粒子13として用い、酵素15と静電相互作用によって固定化する。また、センシング方法においては、微粒子13が絶縁体であることから、ある程度の量の金属Mが微粒子13の表面に付着するまで電流値は0を示す。このため、所定の濃度以上の基質Aの検出に用いられる。
【0061】
なお、上述したバイオセンサー1では、保護膜17で覆われた状態の微粒子13を、基板11上の一対の電極12間に2次元的に配列形成して微粒子層14を形成する例について説明したが、微粒子層14は1次元的に、すなわち、一対の電極12間に保護膜17で覆われた状態の微粒子13が一列に配置された状態であってもよい。これにより、バイオセンサー1のさらなる小型化が可能となる。また、微粒子層14は複数積層されていてもよい。この場合には、金属Mが析出可能な微粒子13または保護膜17の表面積が広くなるため、基質Aの検出濃度範囲がさらに広くなる。微粒子層の複層化を行う場合は、微粒子層14が一層形成された基板11をアルキルジチオール分子が溶解した溶液に浸漬させ、微粒子層14の保護膜17の一部をアルキルジチオールで置換する。その後2層目の微粒子層をLB法などを用いて形成することで、チオール基と金属微粒子の結合が形成され固定化ができる。これを繰り返すことで、微粒子層をさらに積層することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係るバイオセンサーの実施の形態を説明するための断面構成図である。
【図2】本発明に係るバイオセンサーを用いた基質の濃度の測定方法における反応経路を説明するための図である。
【図3】本発明に係るバイオセンサーを用いた基質の濃度の測定方法を説明するための工程断面図である。
【符号の説明】
【0063】
1…バイオセンサー、11…基板、12…電極、13…微粒子、14…微粒子層、15…酵素、17…保護膜、A…基質、Mn+…金属イオン、M…金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中の基質または金属イオンを検出するバイオセンサーであって、
基板上に配置された一対の電極と、
前記一対の電極間の前記基板上に複数の微粒子を配列形成してなる微粒子層と、
前記微粒子層の表面に固定されるとともに前記基質に特異的に作用する酵素と、
前記一対の電極に接続されるとともに、前記微粒子層の電気伝導度を測定する測定器とを備えた
ことを特徴とするバイオセンサー。
【請求項2】
請求項1記載のバイオセンサーにおいて、
前記微粒子は保護膜で覆われている
ことを特徴とするバイオセンサー。
【請求項3】
請求項1記載のバイオセンサーにおいて、
前記金属イオンが添加された前記液体試料中の前記基質に前記酵素が作用することで、前記金属イオンが還元されて金属として前記微粒子の表面に析出することによる前記微粒子層の電気伝導度の変化により、前記基質を検出する
ことを特徴とするバイオセンサー。
【請求項4】
請求項1記載のバイオセンサーにおいて、
前記基質が添加された前記液体試料中の当該基質に前記酵素が作用することで、前記金属イオンが還元されて金属として前記微粒子の表面に析出することによる前記微粒子層の電気伝導度の変化により、前記金属イオンを検出する
ことを特徴とするバイオセンサー。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−10321(P2007−10321A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187632(P2005−187632)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】