説明

バイオチップを用いた診断装置、及び診断方法

【課題】 簡易な構成の装置を用いて、従来の繰り返し作業や従来のような作業時間を要さずにバイオ分子の検出が可能であり、更に、検出したバイオ分子のデータに基づいて、疾病の診断等も行なうことが可能なバイオチップを用いた診断装置、及びその診断方法を提供する。
【解決手段】 バイオチップを用いた診断装置であって、バイオチップの蛍光物質で標識或いは染色された1または2以上のプローブに、励起光を照射する励起光照射手段と、励起光に応答してプローブから発せられる蛍光を検出する蛍光検出手段と、蛍光に関連付けられた疾病データを記憶する疾病データ記憶手段と、検出した蛍光と疾病データとに基づいて、プローブごとに疾病の判定を行なう疾病判定手段と、疾病の判定結果を報知するための判定結果報知手段と、を含む診断装置、その診断方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップ上に備えられたプローブのハイブリダイゼーションを利用してバイオ分子の種類を特定し、疾病の感染の診断を行なう診断装置、及びその診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA、RNA、PNA等の人工核酸、タンパク質、ペプチド等のバイオ分子の種類を特定する方法として、バイオチップ上に固定されたプローブのハイブリダイゼーションを用いた検出方法が知られている。
【0003】
ここで、バイオチップとは、ガラス、シリコン、プラスチック等の基板上に、既知の配列を持つ基準バイオ分子をプローブとして固定したものである。検出に当たっては、このプローブに、蛍光物質を標識した標的バイオ分子を投与して、標的バイオ分子がプローブと結合(DNA、RNA、人工核酸の場合は相補結合、タンパク質の場合は親和結合)したか否かを判定する。具体的には、標的バイオ分子がプローブと結合した場合には、蛍光物質がプローブと一緒に固定されるので、光源からの励起光によって蛍光物質が励起され発光する。また、標的バイオ分子と結合しないプローブには、蛍光物質は存在しないので、励起光によって発光することはない。従って、この蛍光を検出することによって、標的バイオ分子がプローブと結合(ハイブリダイズ)したか否かを判定することができる。
【0004】
バイオチップによるハイブリダイゼーションを用いたバイオ分子の検出装置としては、励起光をバイオチップ上のプローブに照射する励起光源と、プローブから発生する蛍光の波長域の光だけを透過させるフィルタと、このフィルタを透過した蛍光を検出するCCD(Charge Coupled Device)等を用いた二次元光センサと、二次元光センサに基づいて画像データや読み取りデータを作成、表示する制御装置と、を備えた専用のバイオ分子の検出装置が知られている。
【0005】
また、ハイブリダイゼーションを用いたバイオ分子の検出装置に関しては、検出の際に生じる様々な課題を解決するため、特許文献1、2に示されるような発明も提案されている。特許文献1には、蛍光を検出するスキャナ装置に、更に、励起光で励起されるプローブの電荷を検出する電流計を備えることによって、ブローブを乾燥しなくともハイブリダイゼーションの検出が行なえる発明が開示されている。また、特許文献2には、光検出部をステップ状に移動させ、移動させて撮った各々の画像を結合させることによって、バイオチップの広い測定領域にわたって、明るい状態で画像測定を可能にする発明が開示されている。
【特許文献1】特開2002−181777号公報
【特許文献2】特開2004−191160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2に開示された発明は、プローブから発生する蛍光を検出する方法については、従来の方法と変わりはなく、一般的に、励起光によってプローブから発する蛍光は、励起光の波長よりも長波長側へシフトした波長を有するが、このシフト幅が小さいので、励起光の影響を受けずにプローブからの蛍光だけを検出するためには、光センサの前に蛍光の波長に合わせた専用のフィルタを設置する必要がある。
従って、検出装置は専用の高価な装置となり、また、測定する蛍光ごとにフィルタを取り替える必要があるので、バイオチップ全体の測定を完了するまでには、多くの作業工程と多くの作業時間を要することになる。
【0007】
また、ハイブリダイゼーションを用いたバイオ分子の検出装置に関しては、何れも、プローブから発する蛍光を読み取る装置は多数提案されているが、その蛍光のデータを用いて、更に診断等の判断処理をも行なうことのできる装置は提案されていない。
従って、例えば、バイオチップを用いて疾病の感染を診断するためには、あくまで、蛍光読取装置により検出された蛍光のデータに基づいて、医師等の人間が判断作業を行なう必要がある。
【0008】
従って、本発明の目的は、上述の課題を解決し、簡易な構成の装置を用いて、従来のような繰り返し作業や長い作業時間を要さずにバイオ分子の検出が可能であり、更に、検出したバイオ分子のデータに基づいて、疾病の診断等も行なうことが可能なバイオチップを用いた診断装置、及びその診断方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明のバイオチップを用いた診断装置の第1の実施態様として、バイオチップを用いた診断装置であって、前記バイオチップ上の蛍光物質で標識或いは染色された1または2以上のプローブに、励起光を照射する励起光照射手段と、前記励起光に応答して前記プローブから発せられる蛍光を検出する蛍光検出手段と、前記蛍光に関連付けられた疾病データを記憶する疾病データ記憶手段と、検出した前記蛍光と前記疾病データとに基づいて、前記プローブごとに疾病の判定を行なう疾病判定手段と、前記疾病の判定結果を報知するための判定結果報知手段と、を含む診断装置が考えられる。
【0010】
ここで、「バイオチップ」とは、基板上に、既知の配列を持つ基準バイオ分子を「プローブ」として固定したものであり、基板の材料としては、所定の強度を有すれば、ガラス、シリコン、プラスチックを始めとするあらゆる材料を用いることができる。また、プローブを標識或いは染色する「蛍光物質」としては、励起光の照射に応答して蛍光を発するものであれば、あらゆる物質を用いることが可能であり、例えば、量子ドットを用いることも可能である。
なお、「標識」とは、プローブに蛍光物質を共有結合することである。また、「染色」は、基準バイオ分子と標的バイオ分子がハイブリダイズした状態に対し、インターカレーター、グループバインダー等により、このハイブリダイズした態様のみを更に強固にして、検出効率を高めるために行われる方法である。
「励起光照射手段」により出射される「励起光」は、可視光には限られず、紫外線の領域や赤外線の領域を含むあらゆる波長の光が含まれる。また、励起光には、単一の波長を有する光も含まれるし、複数の波長の光が混合された光も含まれる。
【0011】
「蛍光検出手段」には、「疾病データ」との対照が可能な態様で蛍光を検出することが可能であれば、あらゆる検出手段が含まれる。例えば、CCD等の2次元光センサを用いることも可能であるし、蛍光検出のための専用の装置だけではなく、モノクロ/カラースキャナやCCDカメラに代表される汎用画像読取装置を利用したものも含まれる。更に、蛍光を電気信号に変換して制御処理を行なうものだけでなく、科学フィルムのようなものを用いて蛍光を検出するものも含まれる。
【0012】
励起光の照射に応答して発する「蛍光」については、1種類の蛍光を用いることも可能であるし、複数の蛍光を用いることも可能である。また、単一の波長を有する蛍光を用いることもできるし、複数の波長の光が混合された蛍光を用いることもできる。
また、蛍光を発したプローブと疾病とを関連付ける方法としては、予め蛍光物質と疾病とを関連付けておいて、励起光の照射によって発する蛍光の色や波長を識別することによって、疾病を認識することも可能であるし、固定するプローブの位置と疾病とを関連付けでおいて、蛍光を発したプローブの位置を識別することによって、疾病を認識することも可能である。後者の場合には、1種類の蛍光物質で複数の疾病の識別が可能である。
【0013】
「疾病データ」は、蛍光検出手段により検出した蛍光に基づいて、所定の疾病を特定できるデータであれば、あらゆるデータが含まれる。また、この疾病データには、疾病の詳細な説明データや疾病の対処方法のデータを始めとする付随データを含むことも考えられる。
【0014】
「疾病判定手段」は、蛍光検出手段により検出された蛍光と疾病データとを対照して、疾病の判定を行なえるものであれば、あらゆるものが含まれる。この疾病判定手段では、専用の制御手段を用いることも可能であるし、パーソナルコンピュータに代表される汎用の制御装置の機能を用いることも考えられる。
【0015】
「判定結果報知手段」は、画像表示によって判定結果を報知するものであってもよいし、音声により報知するものであってもよいし、それらの組み合わせであってもよい。判定結果をユーザに報知可能なものであれば、その他のあらゆる手段が考えられる。
【0016】
診断装置に係る本実施態様では、ハイブリダイゼーションが行われたプローブからの蛍光を検出するだけでなく、更に、プローブに含まれるバイオ分子に関して、疾病の判定を行なうことも可能なので、従来では病院や医院に行って検査をする必要があった疾病の診断に関しても、ユーザが、家庭や公共施設等において、容易に、迅速に、低コストで診断結果を得ることができる。
【0017】
本発明のバイオチップを用いた診断装置のその他の実施態様として、前記プローブを標識或いは染色する前記蛍光物質として、異なる色の蛍光を発する2以上の蛍光物質を所定の割合で混合した蛍光物質を用い、検出した前記蛍光に含まれる前記異なる色の蛍光の割合に基づいて、前記疾病判定手段が疾病の判定を行なう診断装置が考えられる。
【0018】
本実施態様における「異なる色の蛍光」とは、蛍光検出手段により識別が可能な光であれば、単一の波長を有する光だけでなく、複数の波長や波長帯を有する混合光も含まれる。例えば、蛍光検出手段がフィルタ1を有する光センサ1と、フィルタ2を有する光センサ2を備えている場合に、フィルタ1を透過するがフィルタ2を透過しない光1と、フィルタ2を透過するがフィルタ1を透過しない光2とは、異なる色の光であり、光1や光2は単一の波長を有する光である必要はない。
【0019】
本実施態様では、例えば、2種類のフィルタを用いる場合であっても、各々のフィルタのみを通過する2色の蛍光物質を混合し、その混合比率を様々な割合に変化させることによって、識別可能な多数の蛍光物質を得ることができる。従って、従来では、蛍光物質の色に応じて、多数のフィルタを取り替える必要があったため、蛍光読み取りのための専用装置が必要であり、また、何度もフィルタを交換しながら、読み取り作業を繰り返す必要があったが、本実施形態では、汎用のカラースキャナ等も利用可能であり、低い製造コストの装置を用いて、フィルタの交換等を行なわずに、一度に蛍光の読み取り作業を行なうことができる。従って、診断装置の製造コストの低減、診断作業の簡素化、容易化、及び診断コスト低減を可能にする。
【0020】
本発明のバイオチップを用いた診断装置のその他の実施態様として、同一の標的バイオ分子の異なる構造部分と結合する2以上の前記プローブを用いて、検出した各々の前記プローブからの前記蛍光に基づいて、該標的バイオ分子に対する特異性を判定する診断装置が考えられる。
本実施態様により、一般的に判定が困難なバイオ分子の特定に関する特異性について、定量的に判定を行なうことができる。
【0021】
本発明のバイオチップを用いた診断装置のその他の実施態様として、前記蛍光検出手段によって検出されたデータに基づいて、1または2以上の前記バイオチップを含む所定の領域の画像を読み取る画像読取手段と、読み取った画像に基づいて画像の解析を行なう画像解析手段とを含み、前記バイオチップ上に、前記励起光に応答して発光する位置決めマーカが、前記プローブの位置に対して予め定められた位置に備えられ、
前記画像解析手段が、読み取った画像の前記位置決めマーカの位置に基づいて、前記プローブの位置を定め、前記疾病判定手段が、位置が定められた前記プローブから発せられる前記蛍光に基づいて前記疾病の判定を行なう診断装置が考えられる。
【0022】
本実施態様における「画像読取手段」は、蛍光検出手段によって検出されたデータに基づいて、バイオチップを含む所定領域の画像データを作成する制御手段であり、専用の制御手段を用いることも可能であるし、スキャナのような汎用の画像読取装置の機能を利用することも可能である。
「画像解析手段」は、画像読取手段により作成された所定領域の画像データを用いて、疾病判定手段が疾病の判定を行なうことが可能な態様の蛍光のデータを作成する制御手段であり、専用の制御手段を用いることも可能であるし、パーソナルコンピュータ等の汎用の制御装置の機能を利用することも可能である。
【0023】
「位置決めマーカ」としては、プローブを標識或いは染色する蛍光物質と同様の物質を含め、励起光に応答して発光するものであればあらゆるものが考えられる。また、画像解析手段が、位置決めマーカを識別する方法としては、バイオチップ上で予め定められた位置関係に、各位置決めマーカを配置することにより識別することも可能であるし、プローブとの識別を容易にするために、プローブを標識或いは染色する蛍光物質とは異なる色(単色または混合色)の蛍光物質を用いることも可能である。
【0024】
本実施態様では、予め画像データ上における各プローブの位置が認識できるので、一般に行なわれる画像処理を全て行なう必要はなく、従来に比べて、短時間に少ない制御処理で、各プローブの蛍光を識別することができる。また、制御装置も簡素化可能であり、データ送信を行なう場合にも、データ容量を低減することができる。
【0025】
本発明のバイオチップを用いた診断方法の第1の実施態様として、バイオチップを用いた診断方法であって、前記バイオチップ上の蛍光物質で標識或いは染色された1または2以上のプローブに励起光を照射する工程と、前記励起光に応答して前記プローブから発せられる蛍光を検出する工程と、検出した前記蛍光と前記蛍光に関連付けられた前記疾病データとに基づいて、前記プローブごとに疾病の判定を行なう工程と、前記疾病の判定結果を報知する工程と、を含む診断方法が考えられる。
【0026】
本発明のバイオチップを用いた診断方法のその他の実施態様として、前記プローブを標識或いは染色する蛍光物質が、異なる色の蛍光を発する2以上の蛍光物質を所定の割合で混合した蛍光物質であって、検出した前記蛍光に含まれる前記異なる色の蛍光の割合に基づいて疾病の判定を行なう診断方法が考えられる。
【0027】
本発明のバイオチップを用いた診断方法のその他の実施態様として、同一の標的バイオ分子の異なる構造部分と結合する2以上の前記プローブを用いて、検出した各々の前記プローブからの前記蛍光に基づいて、該標的バイオ分子に対する特異性を判判定する診断方法が考えられる。
【0028】
本発明のバイオチップを用いた診断方法のその他の実施態様として、前記バイオチップ上に、前記励起光に応答して発光する位置決めマーカが、前記プローブの位置に対して予め定められた位置に備えられ、1または2以上の前記バイオチップを含む所定の領域の画像を読み取る工程と、読み取った画像における前記位置決めマーカの位置に基づいて、前記プローブの位置を定める工程と、を更に含み、位置が定められた前記プローブの前記蛍光に基づいて、前記疾病の判定を行なう診断方法が考えられる。
【0029】
上述のような本発明の診断方法には、所定の診断装置を用いるだけではなく、例えば、電気通信回線等を用いて診断を行なう診断システムのような態様や、人が肉眼を用いて蛍光の色を判断し診断を行なうような態様も含まれる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の診断装置によれば、プローブからの蛍光を検出するだけでなく、更に、プローブに含まれるバイオ分子に関して、疾病の判定を行なうことも可能なので、ユーザは、容易に、迅速に、低コストで疾病の診断結果を得ることができる。
【0031】
また、蛍光物質として、異なる色の蛍光を発する2以上の蛍光物質を所定の割合で混合した蛍光物質を用いることによって、診断装置の製造コストの低減、診断作業の簡素化、容易化、及び診断コスト低減が可能である。
【0032】
また、バイオチップに位置決めマーカを設けることによって、従来に比べて、少ない制御処理で、短時間に各プローブの蛍光を識別することができる。
【0033】
更に、本発明の診断方法においては、所定の診断装置を用いるだけではなく、電気通信回線等を用いて診断を行なう診断システムや、人が肉眼を用いて蛍光の色を判断し、診断を行なうような診断方法にも適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明のバイオチップを用いた診断装置、及び診断方法の実施形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。
(診断装置全体の説明)
まず、図1に示す診断装置の概要図を用いて、本発明の診断装置の1つの実施形態の概要を説明する。図1(a)には、全ての処理を1台の装置で行なう一体型の診断装置の実施形態を示し、図1(b)には、蛍光の検出処理等を行なう読取部と、診断処理等を行なう制御部を別の装置で行なう分離型の診断装置の実施形態を示す。
【0035】
まず、図1(a)を用いて、一体型の診断装置の実施形態を説明する。診断装置1の上面に読み取りベッド12が備えられ、この読み取りベッド12の上に、バイオチップ2を載せて蛍光の読み取りを行なう。本実施形態では、複数のバイオチップ2を、読み取りベッド12に載せて、同時に蛍光を読み取ることが可能である。
ここで、バイオチップの実施例を図11に示す。図11のバイオチップ2では、プラスチックの基板上に、基準バイオ分子としてPNAをプローブとして固定している。診断に当たっては、ユーザの体液等から採取した標的バイオ分子を所定の蛍光物質で標識或いは染色し、この蛍光物質で標識或いは染色された標的バイオ分子と、プローブが固定されたプラスチック基板とを、ハイブリダイゼーション溶液に入れてハイブリダイズ処理を行なう。
【0036】
図11に示すように、バイオチップ2では、1枚のチップ上に、4個x5列=20個のプローブ3(プローブ番号J=1〜20)を固定できる。また、20個のプローブ3の外側には、位置決めマーカA〜Cとバーコードが設けられている。このバイオチップ2の詳細な説明については後述する。
本実施形態のように、バイオチップとしてPNAチップを採用することによって、プラスチック製の基板を用いることが容易となり、取り扱い中のバイオチップの破損による標的バイオ分子の感染のリスクを、低減することができる。また、PNAを用いることによって、常温で取り扱うことが可能なので、ユーザが容易に診断を行なうことができる。
【0037】
また、本実施形態では、量子ドットを用いた蛍光物質を用いている。量子ドットを用いた蛍光物質は、きわめて明るい蛍光を長時間発生し、また、励起光の波長と、励起光に反応して発する蛍光の波長の差(ストークスシフト或いは半値幅)が大きいという特徴を有する。
【0038】
ここで、図1(a)の説明に戻ると、診断装置1の内部には、励起光照射ランプ4と光センサ5を備えた移動キャッリジ8が、移動可能な状態で設置されている。移動キャリッジ8は、駆動モータ11(図3参照、図1には図示されていない)によって駆動される。
図1(a)の矢印に示すように、励起光照射ランプ4からバイオチップ2へ励起光が照射される。本実施形態では、波長シフトの大きく取れる量子ドットを適用した蛍光物質を用いるため、励起光として紫外線を用い、この励起光に応答して発する蛍光として可視光を用いることができるため、検出する蛍光が励起光の影響を受ける恐れがないので、全ての蛍光を1つの光源を用いて同時に検出することができる。従って、従来のように、励起光源側と蛍光検出側の両方でフィルタを交換して、繰り返し測定を行なう必要がない。
【0039】
励起光照射ランプ4は、読み取りベッド12の幅方向をカバーする長さを有し、キャリッジ8が読み取りベッド12の全長分だけ、矢印の方向に移動することによって、読み取りベッド12上に載せられた全てのバイオチップ2に、励起光を照射することができる。従って、バイオチップ2のプローブ3のうち、基準バイオ分子と標的バイオ分子が結合(ハイブリダイズ)したプローブについては、標識或いは染色された蛍光物質に対応した蛍光を発することになる。
【0040】
バイオチップ2上のプローブ3から発せられた蛍光は、図1(a)の矢印に示すように、光センサ5により検出される。この光センサ5は、CCD等の光検出素子が、読み取りベッド12の幅方向をカバーするようにN個ライン状に並べられている。このN個の光検出素子は、入射した蛍光の光エネルギを電気信号に変換することができ、この光センサ5に電気的に接続された制御装置6内の信号処理回路120(図3参照)によって、N個の順次電圧信号として出力され、その後の制御処理に用いられる。また、キャリッジ8が読み取りベッド12の全長分だけ矢印の方向に移動することによって、読み取りベッド12上に載せられた全てのバイオチップ2から発せられる蛍光を、このN個の光検出素子で検出することができる。
【0041】
本実施形態の光センサ5では、汎用のカラースキャナと同様に、青(B)緑(G)赤(R)のカラーフィルタを備えた3ラインの光検出素子ラインが備えられている。図2にライン状に備えられたN個の光検出素子のうちの一部の光検出素子(3カラー分)の構造を模式的に示す。図2に示すように、光検出素子の受光面側に青色の光だけを透過させる青色フィルタが備えられた光検出素子と、光検出素子の受光面側に緑色の光だけを透過させる緑色フィルタが備えられた光検出素子と、光検出素子の受光面側に赤色の光だけを透過させる赤色フィルタが備えられた光検出素子とが備えられている。これらのカラーフィルタは、汎用のカラースキャナに用いられるカラーフィルタと同様の分光透過率を有している。
【0042】
光センサ5により、プローブ2から発せられる蛍光に含まれる、青色、緑色、赤色の各々の光の強度を検出し、上述のように、制御装置6内の信号処理回路120(図3参照)から出力する電圧信号として制御処理に用いることができる。この蛍光の検出データに基づいて、各プローブに含まれるバイオ分子(病原性ウイルス、病原性細菌等を含む)を判定して診断処理を行なう。この診断処理のアウトプットデータである診断結果を、画像表示装置7に表示し、必要に応じて、プリンタにより印刷することができる。これらの診断の制御に関しては、後述する。
【0043】
次に、図1(b)に示す分離型の診断装置の実施形態を説明する。基本的な機器構成は、一体型の診断装置と同様であるが、上面に読み取りベッド12を備え、内部に励起光照射ランプ4と光センサ5を備えた移動キャッリジ8が、移動可能な状態で設置された読取部1Aと、読取部1Aからの検出データに基づいて、診断制御を行なう制御部1Bとに分離されているとことが相違点である。画像表示装置7やプリンタ9は、各々分離した装置で構成することもできるし、制御部1Bの一部として構成することもできる。
この分離型の診断装置では、例えば、汎用のカラースキャナの光源を励起光照射ランプに変更するだけで、読取部1Aとして用いることが可能であり、また、制御部1Bとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いることが可能である。
【0044】
以上のように、図1(a)、(b)に示すような本発明の診断装置では、従来のバイオチップの蛍光読取装置のように、波長バンド幅の小さい特殊なフィルタを多数備える必要がないので、診断装置の製造コストを低減できる。また、従来の読取装置では、標識した蛍光物質ごとにフィルタを交換して、検出作業を繰り返す必要があるが、本発明の診断装置では、1回の読み取りで全ての検出を行なうことが可能であり、また、複数のバイオチップの検出をも1度に行なうことができる。従って、蛍光の読み取りのための処理時間が大幅に短縮され、ユーザが容易に診断を行なえ、診断コストも低減できる。
更に、図1(b)に示す分離型の診断装置では、汎用のスキャナと汎用のバーソナルコンピュータを用いて構成することが可能であり、更に製造コストを低減することが期待できる。
【0045】
(制御装置の説明)
次に、診断のための制御処理を行なう制御装置6について、図3と図4を用いて、詳細に説明する。図3には、制御装置6の内容を示すブロック図を示し、図4には、診断制御に関する機能ブロック図を示す。
【0046】
<ブロック図の説明>
図3のブロック図には、図1(a)の一体型の診断装置に対応した制御装置を示しているが、図1(b)に示す分離型の診断装置も機器構成は同様である。制御装置6には、CPU101と、ROM(リードオンリメモリ)102と、RAM(ランダムアクセスメモリ)103を有する演算部104が備えられ、所定の演算処理を行なって、診断のための制御処理を行なう。
また、これらの装置は、インターフェイス回路110を介して、外部の機器からの信号を受信し、外部の機器へ信号を発信する。
【0047】
まず、外部の機器から制御装置6が受信する信号を説明すると、光センサ5で検出された青色、緑色、赤色の光の強度は、信号処理回路120で電圧信号に変換されて、インターフェイス回路110へ出力される。また、図1(a)、(b)には図示されていないが、操作機器10からの信号が、信号処理回路122を介して、インターフェイス回路110へ出力される。
【0048】
次に、制御装置6から外部の機器へ発信する信号を説明する。ユーザの操作に基づく操作機器10からの信号や、予め設定されたプログラムに基づいて、ランプ駆動回路124へ照射開始信号が送信されると、ランプ駆動回路124によって励起光照射ランプ4がオンとなり、励起光を照射する。また、モータ駆動回路126へ駆動開始信号を送信することによって、モータ駆動回路126によって駆動モータ11がオンとなり、励起光照射ランプ4や光センサ5が登載されたキャリッジ8を駆動することができる。
【0049】
また、上述の演算部104によって診断制御が行なわれて、所定の診断データが作成されたときには、表示駆動回路128へ画像表示開始信号を送信することによって、画像表示装置7に所定の画像を表示することができる。同様に、プリンタ駆動回路130へ印刷開始信号を送信することによって、プリンタ9で所定の診断結果を印刷することもできる。
【0050】
<機能ブロック図の説明>
次に、図4を用いて、本発明に係る診断制御の処理に関する機能ブロック図の説明を行なう。診断装置1を用いて診断を行なう順番で説明すると、まず、励起光照射ランプ4、ランプ駆動回路124を含む励起光照射手段310が、操作機器10からの信号、または、予め定められたプログラムによって送信された照射開始信号を受信すると、励起光照射ランプ4をオンにして励起光を照射する。次に、光センサ5、信号処理回路120を含む蛍光検出手段320が、照射された励起光に応答してバイオチップ2から発せられる蛍光を検出する。画像読取手段210は、この蛍光検出手段320が検出した信号に基づいて、読み取りベッド12全体の画像データを作成し、更に、この画像データに基づいて、画像解析手段220が、位置決めマーカA〜Cから発せられる蛍光を用いて、各バイオチップの位置と、バイオチップ上の各プローブの位置を認識し、各バイオチップの各プローブごとに、検出した蛍光データを作成する。
【0051】
次に、疾病判定手段240が、疾病データ記憶手段230(具体的には、RAM103の領域)に記憶された蛍光と疾病との関連表を読み出し、この蛍光と疾病との関連表と、画像解析手段220によって作成された各バイオチップの各プローブごとの検出蛍光データとを照らし合わせて、各プローブに含まれる疾病の判定処理を行なう。
【0052】
そして、判定結果報知手段250は、この判定結果に基づいた画像データを、画像表示手段330へ送信する。画像表示装置7、表示駆動回路128を含む画像表示手段330は、判定結果報知手段250から受信した画像データに基づいて、所定の診断画像を画像表示装置7に表示する。また、必要に応じて、診断結果をプリンタ9で印刷することも可能である。
なお、図3のブロック図に示す、操作機器10、プリンタ9、駆動モータ11に関する制御手段については、本機能ブロック図では記載を省略する。
【0053】
(バイオチップの説明)
次の本発明に係るバイオチップ2について、詳細な説明を行なう。
本実施形態のバイオチップ2は、プラスチック製の基板上に、PNAからなるプローブ番号J=1〜20のプローブ(以下、プローブ#J(J=1〜20)と称する)が固定されている。その配置は、図11に示すように、プローブ#1〜#4の列から#17から#20の列まで、4個x5列で配置されている。その外側のバイオチップ2のコーナー部の3箇所に、位置決めマーカA〜Cが設けられ、位置決めマーカAと位置決めマーカBの間に、各バイオチップ2を識別するためのバーコードが蛍光物質で記載されている。
【0054】
また、本実施形態における蛍光物質とその蛍光物質に対応する基準バイオ分子(疾病)との関係を、図8の蛍光−疾病対照表に示す。この表では、縦の欄に蛍光物質番号K=1〜21の蛍光物質(以下、蛍光物質#K(K=1〜21)と称する)が示され、各々の蛍光物質#1〜20には、疾病A〜疾病Tが対応し、蛍光物質#21には、位置決めマーカやバーコードが対応している。蛍光物質としては、量子ドットが用いられている。
【0055】
具体的には、例えば、疾病Aと同じ配列を有する基準バイオ分子が固定されたプローブには、ユーザの体液等から採取した標的バイオ分子に、蛍光物質#1を標識或いは染色したものを投与して、ハイブリダイゼーション処理を行なう。同様にして、疾病B〜疾病Tと同じ配列を有する基準バイオ分子が固定されたプローブには、ユーザの体液等から採取した標的バイオ分子に、それぞれ蛍光物質#2〜20を標識或いは染色したものを投与して、ハイブリダイゼーション処理を行なう。また、蛍光物質#21は、本実施形態では、位置決めマーカやバーコードをバイオチップの所定位置に設けるために用いられている。なお、下記に詳述するように、本実施形態では、疾病と対応する蛍光物質の種類が20であり、バイオチップに固定されたプローブの数も20なので、プローブ番号J(J=1〜20)と蛍光物質番号K(K=1〜20)を対応させているが、必ずしも両者を一致させる必要はない。
【0056】
標識或いは染色される蛍光物質#1〜20について説明すると、青色、緑色、赤色の3つの蛍光物質の単体、または、それらの蛍光物質を混合した蛍光物質である。これらの3つの蛍光物質とは、紫外線の照射により450nmの波長を有する青色の蛍光を発する青色蛍光物質、紫外線の照射により530nmの波長を有する緑色の蛍光を発する緑色蛍光物質、及び紫外線の照射により650nmの波長を有する赤色の蛍光を発する赤色蛍光物質の3色の蛍光物質である。青色、緑色、赤色の蛍光の波長は、本実施形態では、診断装置の光センサ5に設けられた青色、緑色、赤色のカラーフィルタのピーク波長と一致している。ただし、各色の光の波長とカラーフィルタのピーク波長とを、必ずしも一致させる必要はなく、ピーク波長と一致していなくとも、検出した各色の光強度の補正を行なうことによって、適切な分析処理を行なうことができる。従って、青色、緑色、赤色の光が、それぞれ青色、緑色、赤色のカラーフィルタのみを透過するような波長であれば、任意の波長の光を用いることができる。
【0057】
図8の蛍光−疾病対照表に示すように、例えば、蛍光物質#1では、疾病Aと同一の構造を有する基準バイオ分子が固定され、青色蛍光物質のみ(青100%、緑0%、赤0%)からなる蛍光物質#1が標識或いは染色されている。また、例えば、蛍光物質#5では、疾病Eと同一の構造を有する基準バイオ分子が固定され、青色蛍光物質60%、緑色蛍光物質20%、赤色蛍光物質20%で混合された蛍光物質#5が標識或いは染色されている。他のプローブでも同様に、本実施形態では、青、緑、赤の各色の蛍光物質の混合比を20%づつ変化させて計21種類の混合蛍光物質を形成している。ただし、本実施形態では、赤色蛍光物質のみ(青0%、緑0%、赤100%)の蛍光物質#21は、位置決めマーカA〜Cとバーコードのために用いられている。これにより、蛍光の色の識別によって、位置決めマーカやバーコードを容易に識別することができるようになっている。ただし、他のプローブと同じ色の蛍光を用いても、位置決めマーカやバーコードの配置(例えば、マーカ間の距離)等によって、識別することも可能である。
【0058】
次に、プローブに紫外線の励起光を照射したときに発する蛍光について、蛍光物質#5を例に取って説明する。もし、蛍光物質#5が標識或いは染色されたプローブの基準バイオ分子と標的バイオ分子が結合(ハイブリダイズ)する、つまり、ユーザの体液に疾病Eが含まれていれば、蛍光物質#5は励起光に励起されて蛍光を発する。この蛍光は、基本的には、各色(青、緑、赤)の蛍光物質の混合比率に対応した比率の蛍光を発することになる。具体的には、混合比率60%の青色蛍光物質から発する青色蛍光(青カラーフィルタを透過した光)の光強さの比率は、基準光強度LB(5)の値60%プラスマイナス変動幅DB(5)の値DB5であり、混合比率20%の緑色蛍光物質から発する緑色蛍光(緑カラーフィルタを透過した光)の光強さの比率は、基準光強度LG(5)の値20%プラスマイナス変動幅DG(5)の値DG5であり、混合比率20%の赤色蛍光物質から発する赤色蛍光(赤カラーフィルタを透過した光)の光強さの比率は、基準光強度LR(5)の値20%プラスマイナス変動幅DR(5)の値DR5である。
【0059】
これらの変動幅の値DB5、DG5、DR5は、予め繰り返し試験を行なうことによって、適切な値を設定することが可能である。プローブによっては、全体の蛍光の強さが異なる場合も考えられるが、蛍光の強さに変化を与えて、予め繰り返し試験を行なうことによって、あらゆる蛍光の強さにおける適切な変動幅の値DB5、DG5、DR5を設定することができる。また、本実施形態では、各色(青、緑,赤)の蛍光物質の混合比を20%づつ変動させているが、これらの蛍光の変動幅の値が20%に比べて十分に小さい場合には、混合比の変化を更に小さく(例えば、10%ずつ変化させる)ことも可能であり、この場合には、更に多くの混合色を用いることができる。
以上のように、蛍光物質から発する蛍光について、蛍光物質#5を例に取って説明したが、他のプローブにおいても、同様のやり方で、各色の蛍光物質の混合比に対応した蛍光の強さの比率を認識し、蛍光物質を識別することが可能である。
【0060】
ただし、本発明の診断装置、診断方法においては、基本となる各色の蛍光は青、緑、赤に限られず、光センサ5に設けられたフィルタの透過波長に応じて任意の色を定めることが可能である。また、フィルタの数に応じて、任意の種類の蛍光物質を用いることができる。また、蛍光物質の混合を行なわず、単色の蛍光物質を用いることも可能であり、例えば、そのプローブの位置によって、疾病を識別することも可能である。この場合には、光センサ5に特別なフィルタを設けないことも考えられる。
更に、本発明に係るバイオチップでは、蛍光物質として量子ドットを用いることによって、強い蛍光が得られるので、肉眼でこの蛍光を捕らえ、人の目による色の判断で、診断を行なうことも考えられる。また、蛍光を化学フィルムで撮って、その写真に基づいて色の判断を行なって診断を行なうことも考えられる。
【0061】
(診断制御処理の説明)
次に、本発明の診断装置による診断制御処理について、図5〜図7に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。
図5〜図7のフローチャートに示す制御処理においては、人の体液等から採取した標的バイオ分子と各プローブとの間でハイブリダイゼーション処理が行なわれたバイオチップ2が、本発明の診断装置1の読み取りベッド12に載せられ、診断装置1による診断制御処理が可能な状態になっている。ここで、バイオチップ2は、読み取りベッド12の所定の読み取り可能領域内であれば、任意の数のバイオチップ2を載せて、同時に蛍光の読み取りが可能である。また、バイオチップ2を載せる位置、向きも、任意の位置や向きに載せればよい。励起光を照射すると、各バイオチップ2に付けられた位置決めマーカA〜Cから、所定の色の蛍光(本実施形態では赤色)を発するので、その位置決めマーカの蛍光を検出することによって、各バイオチップ2の位置を認識することができる。上述のように、標的バイオ分子と基準バイオ分子が結合(ハイブリダイズ)したプローブ3、つまり、何らかの疾病に係るバイオ分子の存在するプローブ3が、励起光の照射に応答して所定の色の蛍光を発する。
【0062】
<メインルーチンの説明>
図5において、まず、励起光照射手段310に照射開始信号を送信して、励起光照射ランプ4をオンにして、励起光(本実施形態では紫外線)の照射を開始し、蛍光検出手段320に検出開始信号を送信して、光センサ5をオンにして、バイオチップのプローブからの蛍光の検出を可能な状態にする(ステップS10)。次に、駆動開始信号を送信して、駆動モータ11の回転を開始させ、励起光照射ランプ4や光センサ5が搭載されたキャリッジ8の移動を開始する(ステップS12)。キャリッジ8の移動に伴って、読み取りベッド12上の全てのバイオチップ2に励起光を照射し、基準バイオチップと標的バイオ分子とが結合(ハイブリダイズ)したプローブから発せられる蛍光と、位置決めマーカやバーコードから発せられる蛍光とを、光センサ5で検出する(ステップS14)。この光センサによる蛍光の検出は、上述のように、青色、緑色、赤色ごとに光の強さを検出する。そして、キャリッジ8が、読み取りベッド12の全長を移動してエンド位置に達すると、キャリッジ8を停止させ、励起光照射を停止させ、光センサ5による検出を停止させる。そして、キャリッジ8をもとのスタート位置へ戻す処理を行なう(ステップS16)。
【0063】
この各色(青、緑、赤)の光センサ5で検出した蛍光に基づいて、画像読取手段210が、画像ベッド12全体の画像データを作成する(ステップS18)。そして、この画像データに基づき、画像解析手段220が、ステップS20からステップS26の制御処理を行なう。
まず、赤色単色を発する蛍光を識別して、位置決めマーカとバーコードを認識する。そして、このバーコードから読み出される情報から、バイオチップ番号Iを識別し、位置決めマーカとバーコードの位置関係から、各々のバイオチップ番号Iのバイオチップ(以下、バイオチップ#Iと称する)と、そのバイオチップ#Iの位置決めマーカA〜Cの位置を認識する(ステップS20)。
【0064】
この位置決めマーカA〜Cの位置に基づいて、各バイオチップ#Iの各プローブ#1〜20の予想位置を演算することが可能である。演算した各プローブの予想位置データを利用して、各プローブ#Jの位置を認識することができる(ステップS22)。例えば、読み取りベッド12全体の画像データに基づいて、各画素単位(光センサの各光検出素子の単位)に、検出した蛍光の光の強度を識別する処理において、位置決めマーカA〜Cの位置から、明らかにプローブの存在しないと考えられる領域については、この識別処理を省略することも考えられるし、また、ある領域では、この処理を行なう画素を間引くことも考えられる。その場合には、識別の処理時間を大幅に短縮することができる。
【0065】
本実施形態のようにプローブの位置と固定する基準バイオ分子が一定に定められている場合には、仮に、全てのプローブが同じ色の蛍光物質で標識或いは染色されていたとしても、そのプローブの位置から、各々の基準バイオ分子を識別することが可能である。しかし、本実施形態では、間違って異なるプローブの位置に基準バイオ分子を固定してしまった場合においても、正しい診断が行われるようにするため、及び、任意のプローブに任意の基準バイオ分子を標識或いは染色する自由な処理にも対応できるようにするために、検出した蛍光の色を判別し、判別した色の違いよって基準バイオ分子を識別する処理を行なっている。この処理の詳細については、後述する。
【0066】
また、検出した位置決めマーカA〜Cとバーコードの情報から、読み取りを行ったバイオップ2の総数BCTOTALを認識し、RAM103に記憶する(ステップS24)。そして、各バイオチップ#Iの各プローブ#Jごとに、検出した蛍光の光強度を、青色の蛍光の検出光強度MLB(J)、緑色の蛍光の検出光強度MLG(J)、赤色の蛍光の検出光強度MLR(J)別にまとめて、検出蛍光データ表を作成する(ステップS26)。
【0067】
ここで、図9に、この検出蛍光データ表の実施例を示す。この実施例では、バイオチップ#1〜3に関して、同時に蛍光の読み取りを行なっている。各バイオチップについて、図9に示す表の縦の欄に、プローブ#1〜#20ごとの検出光強度が示され、同一のプローブ#Jに関して、左から順に、青色の検出光強度MLB(J)、緑色の検出光強度MLG(J)、赤色の検出光強度MLR(J)の値が示されている。また、表の欄中、NONEと示された欄は、蛍光が検出されなかったことを示している。
【0068】
バイオチップ#1では、プローブ#5、#12、#14、及び#18で蛍光を検出したことが示され、バイオチップ#2では、プローブ#2、#3、#17、及び#18で蛍光を検出したことが示され、バイオチップ#3では、プローブ#4、#8、及び#13で蛍光を検出したことが示されている。
【0069】
引き続いて、図6に示すステップS28に進み、疾病データ記憶手段230(具体的にはRAM103の領域)に記憶されている蛍光−疾病参照表を読み出す。上記で詳細な説明を行なったように、蛍光−疾病参照表の実施例を図8に示す。この表に基づいて、検出した蛍光の青色、緑色、赤色の光強度の割合から、疾病A〜疾病Tを定める診断判定処理を行なうことができる。
【0070】
次に、疾病判定手段240が、バイオチップIごとに、検出した各プローブJの蛍光の光強さと蛍光−疾病対照表を照らし合わせて、疾病判定処理を行なう。まず、バイオチップ番号Iの値として、1をインプットし(ステップS30)、プローブ番号Jの値として、1をインプットする(ステップS32)。そして、このバイオチップ#Iのプローブ#Jについて、蛍光が検出されているか否かを判断する(ステップS34)。この判断で、もし、蛍光を検出している(YES)と判別したときには、疾病判定サブルーチン(ステップS36)を行なって、ステップS38へ進む。この疾病判定サブルーチンの詳細は後述する。
【0071】
ステップS34の判断で、もし、蛍光を検出していない(NO、図8の表で青、緑、赤共にNONEと記載された場合)と判別したときには、疾病判定サブルーチンを行なわずに、ステップS38へ進む。ステップS38では、プローブ番号Jの値が、バイオチップのプローブ数(本実施形態では20)以上であるか否かを判断する。この判断で、もし、Jの値がバイオチップのプローブ数より小さい(NO)と判別したときには、Jの値に1を加えて(ステップS40)、ステップS34からステップS38の処理を繰り返す。
【0072】
ステップS38の判断で、もし、Jの値がバイオチップのプローブ数以上である(YES)と判別したときには、1つのバイオチップの全プローブの疾病判定処理が終了したので、ステップS42に進み、バイオチップ番号Iの値が、バイオチップ総数BCTOTAL(本実施形態では3)以上であるか否かを判断する。この判断で、もし、バイオチップ番号Iの値が、BCTOTALより小さい(NO)と判別したときには、バイオチップ番号Iの値に1を加えて(ステップS44)、次のバイオチップIについて、ステップS32からステップS42までの処理を繰り返す。ステップS42の判断で、もし、バイオチップ番号Iの値が、BCTOTAL以上である(YES)と判別してときには、ステップS46へ進む。
【0073】
<疾病判定サブルーチンの説明>
ここで、ステップS36に示す疾病判定サブルーチンについて、図7のフローチャートを用いて詳細な説明を行なう。
このサブルーチンでは、まず、蛍光物質番号Kの値として1をインプットする(ステップS100)。そして、検出した蛍光の各色(青、緑、赤)ごとの光強さMLB(J)、MLG(J)、MLR(J)と、蛍光物質#Kから発せられる蛍光の光強さとの比較を行なう。具体的には、まず、検出した蛍光の青色成分の光強さMLB(J)が、蛍光物質#Kの青色成分の基準光強度LB(K)− 変動幅DB(K)より大きく、基準光強度LB(K)+ 変動幅DB(K)より小さい、つまり、検出光強度MLB(J)が、基準光強度LB(K)プラスマイナス変動幅DB(K)の範囲内にあるか否かを判断する(ステップS102)。この判断で、もし、この範囲内にない(NO)と判別したときには、そのままステップS110へ進む。
【0074】
ステップS102の判断で、もし、MLB(J)がLB(K)プラスマイナスDB(K)の範囲内にある(YES)と判別したときには、次に、検出した蛍光の緑色成分の光強さMLG(J)が、蛍光物質#Kの緑色成分の基準光強度LG(K)−変動幅DG(K)より大きく、基準光強度LG(K)+変動幅DG(K)より小さい、つまり、検出光強度MLG(J)が基準光強度LG(K)プラスマイナス変動幅DG(K)の範囲内にあるか否かを判断する(ステップS104)。この判断で、もし、この範囲内にない(NO)と判別したときには、そのままステップS110へ進む。
【0075】
ステップS104の判断で、もし、MLG(J)がLG(K)プラスマイナスDG(K)の範囲内にある(YES)と判別したときには、次に、検出した蛍光の赤色成分の光強さMLR(J)が、蛍光物質#Kの赤色成分の基準光強度LR(K)−変動幅DR(K)より大きく、基準光強度LR(K)+変動幅DR(K)より小さい、つまり、検出光強度MLR(J)が基準光強度LR(K)プラスマイナス変動幅DR(K)の範囲内にあるか否かを判断する(ステップS106)。この判断で、もし、この範囲内にない(NO)と判別したときには、そのままステップS110へ進む。
【0076】
ステップS106の判断で、もし、MLR(J)がLR(K)プラスマイナスDR(K)の範囲内にある(YES)と判別したときには、青色、緑色、赤色の全光成分において、検出した蛍光の光強さが、基準光強度プラスマイナス変動幅の範囲内に入ることとなり、蛍光物質#Kが蛍光を発していると判定できる。従って、プローブ#Jには、蛍光物質#Kに対応した疾病のバイオ分子が存在すると判定し、このJの値、Kの値、及び対応する疾病名(例えば、蛍光物質#5であれば疾病E)をRAM103に記憶する(ステップS108)。
【0077】
そして、Kの値が蛍光物質の最大数である20以上であるか否かを判断する(ステップS110)。もし、この判断で、Kの値が20より小さい(NO)と判別したときには、Kの値に1を加え(ステップS112)、再び、ステップS102からステップS110の処理を繰り返す。ステップS110の判断で、もし、Kの値が20以上である(YES)と判別したときには、本サブルーチンを終了する。
【0078】
<メインルーチンの説明(再)>
再びメインルーチンの説明に戻り、疾病判定手段240によるステップS30からステップS44の疾病判定処理によって、全てのバイオチップ#Iの全てのプローブ#Jについて、検出した蛍光に基づく疾病判定を行なった後、バイオチップ#Iのプローブ#Jごとに、診断結果表を作成してRAM103に記憶する(ステップS46)。
【0079】
ここで、図10に、診断結果表の実施例を示す。この実施例は、バイオチップ#1に関するものである。バイオ分子が検出された疾病名が、プローブ番号Jとともに記載されている。また、必要に応じて、各疾病の説明や、治療方法等の説明を加えることも可能である。そして、判定結果報知手段250が、この診断結果表に対応した画像データを、画像表示手段330に送信して、所定の画像を画像表示装置7に表示する(ステップS48)。ユーザは、この画像によって、適切な診断結果を知ることができる。従って、本発明の診断装置によれば、病院や医院へ行って検査を受ける手間をかけずに、手軽に疾病の診断を受けることが可能となる。なお、この診断結果を画像表示装置に表示するだけでなく、プリンタ等に打ち出すことも可能である。
【0080】
(その他の実施形態)
<特異性を判定する実施形態>
上述の実施形態においては、1のバイオ分子に対して1のプローブを対応させているが、同一の標的バイオ分子に対して、異なる構造部分と結合する基準バイオ分子を有する複数のプローブを用いて、蛍光の検出を行なうことも考えられる。この実施形態では、検出した各々のプローブの蛍光に基づいて、標的バイオ分子に対する特異性を定量的に判定することができる。
【0081】
<疾病にかかっている確率を判定する実施形態>
また、同一の基準バイオ分子を有する複数のプローブの蛍光を検出することによって、その蛍光するプローブの割合に応じて、バイオ分子が存在する、つまり疾病にかかっている確率を判断する実施形態も考えられる。また、1つのプローブに対して、蛍光物質が固定されている面積と蛍光を検出した画像(画素)の面積との比率によって、バイオ分子が存在する(疾病にかかっている)確率を判断する実施形態も考えられる。
【0082】
更に、本発明の診断装置及び診断方法は、上述の実施形態には限られず、その他様々な実施形態が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の診断装置の1つの実施形態を示す概要図であり、(a)は一体型の診断装置の実施形態を示し、(b)は分離型の診断装置の実施形態を示す。
【図2】図1に示す診断装置に備えられた光線さ5の構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の診断装置の制御装置の1つの実施形態を示すブロック図である。
【図4】本発明の診断制御処理に関する機能ブロック図である。
【図5】本発明の診断装置、診断方法の制御処理に関するメインルーチンを示すフローチャートである。
【図6】本発明の診断装置、診断方法の制御処理に関するメインルーチンを示すフローチャートである。
【図7】図6に示すフローチャートに示す疾病判定サブルーチンの詳細を示すフローチャートである。
【図8】本発明の診断装置、診断方法の制御処理に用いる蛍光−疾病対照表の実施例を示す表である。
【図9】本発明の診断装置、診断方法の制御処理に用いる検出蛍光データ表の実施例を示す表である。
【図10】本発明の診断装置、診断方法の制御処理に用いる診断結果表の実施例を示す表である。
【図11】本発明の診断装置、診断方法に用いるバイオチップの実施例を示す概要図である。
【符号の説明】
【0084】
1 診断装置
1A 読取部
1B 制御部
2 バイオチップ
3 プローブ
4 励起光照射ランプ
5 光センサ
6 制御装置
7 画像表示装置
8 キャリッジ
9 プリンタ
10 操作機器
11 駆動モータ
12 読み取りベッド
101 CPU
102 ROM
103 RAM
104 演算部
110 インターフェイス回路
120 信号処理回路
122 信号処理回路
124 ランプ駆動回路
126 モータ駆動回路
128 表示駆動回路
130 プリンタ駆動回路
200 制御手段
210 画像読取手段
220 画像解析手段
230 疾病データ記憶手段
240 疾病判定手段
250 判定結果報知手段
310 励起光照射手段
320 蛍光検出手段
330 画像表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオチップを用いた診断装置であって、
前記バイオチップ上の蛍光物質で標識或いは染色された1または2以上のプローブに、励起光を照射する励起光照射手段と、
前記励起光に応答して前記プローブから発せられる蛍光を検出する蛍光検出手段と、
前記蛍光に関連付けられた疾病データを記憶する疾病データ記憶手段と、
検出した前記蛍光と前記疾病データとに基づいて、前記プローブごとに疾病の判定を行なう疾病判定手段と、
前記疾病の判定結果を報知するための判定結果報知手段と、
を含むことを特徴とする診断装置。
【請求項2】
前記プローブを標識或いは染色する前記蛍光物質として、異なる色の蛍光を発する2以上の蛍光物質を所定の割合で混合した蛍光物質を用い、検出した前記蛍光に含まれる前記異なる色の蛍光の割合に基づいて、前記疾病判定手段が疾病の判定を行なうことを特徴とする請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
同一の標的バイオ分子の異なる構造部分と結合する2以上の前記プローブを用いて、検出した各々の前記プローブからの前記蛍光に基づいて、該標的バイオ分子に対する特異性を判定することを特徴とする請求項1または2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記蛍光検出手段により検出されたデータに基づいて、1または2以上の前記バイオチップを含む所定の領域の画像を読み取る画像読取手段と、
読み取った画像に基づいて画像の解析を行なう画像解析手段と、を含み、
前記バイオチップ上に、前記励起光に応答して発光する位置決めマーカが、前記プローブの位置に対して予め定められた位置に備えられ、
前記画像解析手段が、読み取った画像の前記位置決めマーカの位置に基づいて、前記プローブの位置を定め、
前記疾病判定手段が、位置が定められた前記プローブから発せられる前記蛍光に基づいて前記疾病の判定を行なうことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の診断装置。
【請求項5】
バイオチップを用いた診断方法であって、
前記バイオチップ上の蛍光物質で標識或いは染色された1または2以上のプローブに励起光を照射する工程と、
前記励起光に応答して前記プローブから発せられる蛍光を検出する工程と、
検出した前記蛍光と、前記蛍光に関連付けられた前記疾病データとに基づいて、前記プローブごとに疾病の判定を行なう工程と、
前記疾病の判定結果を報知する工程と、
を含むことを特徴とする診断方法。
【請求項6】
前記プローブを標識或いは染色する蛍光物質が、異なる色の蛍光を発する2以上の蛍光物質を所定の割合で混合した蛍光物質であって、検出した前記蛍光に含まれる前記異なる色の蛍光の割合に基づいて疾病の判定を行なうことを特徴とする請求項5に記載の診断方法。
【請求項7】
同一の標的バイオ分子の異なる構造部分と結合する2以上の前記プローブを用いて、検出した各々の前記プローブからの前記蛍光に基づいて、該標的バイオ分子に対する特異性を判定することを特徴とする請求項6に記載の診断方法。
【請求項8】
前記バイオチップ上に、前記励起光に応答して発光する位置決めマーカが、前記プローブの位置に対して予め定められた位置に備えられ、
1または2以上の前記バイオチップを含む所定の領域の画像を読み取る工程と、
読み取った画像における前記位置決めマーカの位置に基づいて、前記プローブの位置を定める工程と、
を更に含み、
位置が定められた前記プローブの前記蛍光に基づいて、前記疾病の判定を行なうことを特徴とする請求項5から7の何れか1項に記載の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−119065(P2006−119065A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309186(P2004−309186)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(503280961)株式会社クレディアジャパン (10)
【Fターム(参考)】