説明

バイオパターンセンシングによる複合有機物品質比較装置およびシステムおよび記録メディア

【課題】発酵物等の複合有機物の性状比較に有用な、複合有機物品質比較装置およびシステムを提供し、複合有機物の客観的な評価を通じて製品品質の安定・向上を実現する。
【解決手段】検出手段、記憶手段、呼出手段、演算手段、出力手段を具備する複合有機物品質比較装置およびシステムおよびその記録メディア、および入力手段、記憶手段、呼出手段、演算手段、出力手段を具備する複合有機物品質比較装置及びシステムおよびその記録メディア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は発酵物や複合組成有機物の性状比較に有用な、複合有機物品質比較装置およびシステムおよび記録メディアに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、発酵物等の複合組成有機物の性状を比較するための手段としては、臭い・粘度・色調等の感覚的な判別と、分析等による科学的・客観的方法に大別される。
【0003】
発酵物の評価を専ら経験や勘によって判断するといった旧来型の評価法は、限定的であり、情報の客観性(製法の数値的・統計的な確認)、普遍性(他場のデータとの比較やフィードバック)に乏しい。
【0004】
その一方で、物理的性状や化学組成、微生物等の分析結果による性状比較は客観的であるものの、複合組成有機物中には数多くの物質や微生物が共存しているため、特定のターゲットについての分析結果だけでは、発酵物の比較判別がつかない場合が多く、特に発酵途上の中間生成物については、その傾向が顕著である。
【0005】
このような点から発酵物等の比較評価は極めて困難であり、故に当該課題に関する国内特許は極めて少なく、特許公開2000−109386「有機廃棄物の堆肥化方法及び堆肥化物の評価方法」が見られる程度であったが、本発明の発明人らが本発明に先行して出願した、特許公開2004−208533「発酵物の品質評価システムおよび記録メディア」では、これまでの個々の物質ベース・微生物ベースといった定性方法としての分析の利用ではなく、分析結果における各物質・微生物をセンサーと見なし、その複合パターンによって発酵物等の分類・評価を行うといった革新的なシステムが考案され、発酵物評価の新たな方法論が示された。
【特許文献1】特開2000−109386号公報(第1頁〜11頁、図1〜図2)
【特許文献2】特開2004−208533号公報(第1頁〜13頁、図1〜図4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2記載の発明は、サンプル中の個々の構成要素微生物、若しくは化学物質の有無および定量値を得て、その結果としての数値データの集合パターンとして扱うものであるから、個々の要素の固定や識別、定量を行う操作が必要であってコスト高の原因となり、且つ、数値データの抽出目的対象に含まれないところの波形全体の細徴な差異を含有した比較解析が不可能である。
【0007】
そこで、本発明は上記欠陥に鑑み、之を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、検出手段、記憶手段、呼出手段、演算手段、出力手段を具備することを特徴とする、複合有機物サンプルの品質比較装置およびシステム、および入力手段、記憶手段、呼出手段、演算手段、出力手段を具備することを特徴とする、複合有機物サンプルの品質比較装置およびシステム、をそれぞれ提供する。
【0009】
本発明のプロセスによれば、サンプル直接もしくはサンプル抽出物の分析により検出さ
れた入力された一のバイオパターンセンシングデータをデータベースに格納し、同じくデータベース中に格納された、任意の他のバイオパターンセンシングデータとの類縁関係を演算する。これらの値を基にして評価対象複合組成有機物の類似性評価を行う。
【0010】
本発明による装置およびシステムのうち、バイオパターンセンシングデータの検出手段に係る部分は、専用の装置に加えて、例えば汎用分析装置における実用についても想定している。
【0011】
汎用分析装置としては、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)や、キャピラリー電気泳動装置、FT−IR(フーリエ変換赤外分光スペクトル分析)装置等が挙げられるが、これらの例示は他の分析方法によるバイオパターンセンシングデータの取得を妨げるものではない。
【0012】
本発明においては、その制御手段として一般的な汎用電子計算機装置(いわゆるパーソナルコンピュータ)を利用した汎用分析装置の実用についても想定している。
【0013】
このような汎用分析装置においては、分析条件・データ取得条件等を本発明に係るアプリケーション実行プログラム、もしくはプログラム動作用データによって分析装置に供することで、目的の分析に適合した分析を装置に実行させ、適切なデータを取得することが可能となる。
【0014】
本発明によるシステムのうち、入力手段、記憶手段、呼出手段、演算手段、出力手段は専用の装置に加え、一般的な汎用電子計算機装置(いわゆるパーソナルコンピュータ)における実用についても想定している。
この電子計算機装置は上述の汎用分析装置用の電子計算機装置と共用されることを妨げない。
【0015】
本発明の実行プログラムは記録メディアより、当該装置に接続された記録メディア読取装置を介して計算機装置に供することができる。また、本発明のシステムにおけるデータの入力・選択および評価結果の出力は、計算機装置に接続された、または計算機装置と一体型のモニターディスプレイの画面上で行われることを想定している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、例えば豚の生産管理・評価法において、豚糞性状に基づく生育管理を実施することが可能となる。
【0017】
例えば具体的には、腸内菌相を直接反映していると考えられる排糞直後の家畜糞便をターゲットにして、本発明に基づいたサンプル間の類似性の数値的な解析を行うことで、生育品質に応じたグルーピングや、微生物資材の定着・効果の検証を客観的に行うことができる。
【0018】
これによってロット間・農場間の客観的な品質差の検討が手軽に行えるようになり、特に抗菌剤の廃止や生菌剤・発酵飼料の導入時の効果の検証のための強力な支援ツールとなり、これらを通じ、国内の養豚産業をより安全かつ高品質な方向へと導き、結果的に輸入肉に対する優位性を増大させることができる。
【0019】
本発明によれば、例えば発酵乳製品・酒類・漬物・味噌等の発酵食品や発酵飼料の品質評価や、リサイクルによる堆肥化過程やメタン発酵等のエネルギー転換系における発酵段階ごとの状態の確認が容易に可能となる。
【0020】
発酵物等の客観的な品質の確認や比較、適切な製造方法の評価、あるいは商材の新規開発・改良等を推進するためには、これまでブラックボックスとされてきたインプット(原材料)とアウトプット(製品)の中間に相当する発酵系におけるリアルタイムの変動をキャッチし、またその情報に対し的確に評価を行うシステムの確立が必要不可欠であると考えられる。
【0021】
本発明の方法の導入によって、例えば発酵途上の状態の分類・品質管理の数値化が可能となれば、発酵状態の経時変化等、日常の品質管理で生じる膨大なデータ管理が統一化・簡略化されると共に、品質の維持向上のための微細な運転条件の調整を、数値指標をもとにして、より正確に実施することができる。
【0022】
本発明の方法によれば、例えば、複合有機物の分解・発酵系の通常の運転条件下から採取したサンプルのバイオパターンセンシングデータを、発酵・分解時における温度、通気性、投入する基質の種類及び量的割合、基質投入および産物取出間隔、系内滞留時間、攪拌回数等の物理的分解・発酵条件の一部を調節し、運転を行った際のサンプルのバイオパターンセンシングデータと比較して、その品質を検証する利用法が挙げられる。
【0023】
本利用法により、例えば品質を維持したまま原材料の追加や変更が可能かどうかの検討や、処理時間の短縮による処理効率向上の検討など、分解・発酵系の運転条件の変更に伴う品質の検証を実施することができる。
【0024】
また、例えば既存の分解・発酵系の通常の運転条件下から採取したサンプルのバイオパターンセンシングデータを、試験用に開発された小規模試験発酵装置を同条件下で運転した際に採取したサンプルのバイオパターンセンシングデータと比較して、その再現性を検証することができる。
【0025】
本利用法により、試験発酵装置を用いた分解・発酵系の再現試験の信頼性を検証し、より精度の高い試験発酵装置の開発、および再現試験の実施条件の調整が可能となる。
【0026】
バイオパターンセンシングデータの類似性比較によって、分解・発酵系における特定の品質の維持管理を主な目的とした品質管理方法が提供されるが、さらに例えば系内の微生物種、系内物質の化学的な定性・定量値に関する各種データおよび発酵物の品質に関する各種データ等を、類似性データと共にサンプル毎に記憶・呼出可能なデータベース装置に一元的に保管する行程を追加することによって、バイオパターンセンシングデータおよび類似性データを発酵物の品質の「インデックス」として利用した、化学状態等のデータの管理・検索が可能となり、結果的に分解・発酵系における品質の向上を目的とした品質管理方法を提供可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、共通の方法によつて、あらゆるサンプル・分野、及び、多様な分析方法に対応できるように、複数のメリットを有する効果的なシステムを構築すると云う目的を検出手段、記憶手段、呼出手段、演算手段、出力手段を具備することを特徴とする、複合有機物サンプルの品質比較装置およびシステム、および入力手段、記憶手段、呼出手段、演算手段、出力手段を具備することを特徴とする、複合有機物サンプルの品質比較装置およびシステムをそれぞれ提供することにより実現した。
【実施例】
【0028】
以下、図面等に基づいて本発明の好適な実施例を詳細に説明する。図1に本発明の実施の形態を実行する、複合有機物品質比較装置およびシステム1のハードウェア構成図を示す。複合有機物品質比較装置およびシステム1は、分析装置3、電子計算機装置5、入力
装置7、記録メディア読取装置9、プログラム記録媒体11、モニターディスプレイ13、データベース15等から構成される。
【0029】
プログラム記録媒体11は、本発明の実施の形態に係るプログラムを格納したハードディスク、CD−ROM、DVD−ROM、MOディスク、フレキシブルディスク、メモリーカード等の記録メディアであり、記録メディア読取装置9で読み取り可能な形態で供される。
【0030】
データベース15は、サンプル識別データ31、およびバイオパターンセンシングデータ33、データ間類似度35、等を格納する。
【0031】
本発明の第一実施形態によれば、複合有機物中の一部の化学物質の組成を反映したバイオパターンセンシングデータはシステム及び装置に入力装置7を介して入力される。
【0032】
入力装置7は、主として本発明の装置及びシステム外での分析による結果データを本システム及び装置に導入する際に使用されるものである。入力されるバイオパターンセンシングデータとしては、例えばゲル電気泳動の泳動像、クロマトグラム、エレクトロフェログラム、融解曲線グラフ、分光スペクトル等が挙げられる。
【0033】
入力装置7としては、例えばスキャナー・デジタルカメラ等の画像入力装置や、分光光度計や各種計測機器等の、センサーからの電気的信号の入力装置、あるいは既に電子データ化された画像や波形について、これらの取り込みのための装置等がこれに該当する。
【0034】
本発明の第一実施形態によれば、例えばシステム外部の、独立した分析装置から得られたバイオパターンセンシングデータをシステムに入力して、複合有機物の類似性判定が行える利点を享受することができる。
【0035】
本発明の第二実施形態によれば、複合有機物中の一部の化学物質の組成を反映したバイオパターンセンシングデータが分析装置3によって取得される。
【0036】
分析装置3としては、例えばサンプル中の有機物組成を反映したクロマトグラム・エレクトロフェログラム・融解曲線・分光スペクトル等のデータのいずれかを取得する機構を有するものが挙げられる。
【0037】
本発明の第二実施形態によれば、サンプルまたはサンプルの抽出物を装置に導入することで、複合有機物中の一部の化学物質の組成を反映したバイオパターンセンシングデータの取得から複合有機物の類似性判定までの一連の行程を一括して行える利点を享受することができる。
【0038】
本発明の第一実施形態で入力されたバイオパターンセンシングデータ、および第二実施形態で分析データとして拠出されたバイオパターンセンシングデータは共に、任意に呼出可能な形式でデータベース15に記録され、必要に応じて演算処理に供される。
【0039】
次に、複合有機物品質比較システム1によるバイオパターンセンシングデータの処理について説明する。
【0040】
図2に複合有機物品質比較システム1のシステム処理についてのフローチャートを示す。複合有機物品質比較システム1は、画像データ変換プロセス500と、発酵物選定・類似性演算プロセス501の一連の処理行程より構成される。
発酵物選定・類似性演算プロセス501では、評価対象となる複合有機物サンプルを複数
、データベース15に格納されたサンプル識別データ31に基づいて選択する(ステップ201)。
【0041】
続いてデータベース15に格納された、選択されたサンプル識別データ31に対応するバイオパターンセンシングデータ33が取得される(ステップ202)。
【0042】
続いてバイオパターンセンシングデータ間の類似性演算が実施され(ステップ203)、その結果がサンプル間毎に分類されてモニターディスプレイ13に出力される(ステップ204)とともにデータ間類似度35としてデータベース15に格納される。
【0043】
モニターディスプレイ13に出力される類似性演算結果およびデータベース15に格納されるデータ間類似度35は、例えば、1に近いほどデータ間の類似度が高いことを示す0以上1以下の数値、あるいは0に近いほどデータ間の類似度が高いことを示す0以上の数値によって、それぞれ示すことができる。
【0044】
バイオパターンセンシングデータとして、DNAの組成に関わる情報を利用する方法は、複合有機物を構成する複合微生物系そのものの動態を反映したデータを得ることができるという利点を有する。例えばDNAの組成に関わる情報を利用して未知の細菌群集の多様性を解析する方法として、16s-rRNA遺伝子の一部もしくは全領域をPCR(Polymerase Chain Reaction)増幅し、DGGE(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis)等の同一鎖長のDNAをゲル電気泳動で分離する方法によって評価を行う方法が挙げられる。
【0045】
発明者らの知見によれば、チーズ・漬物・発酵乳・糞便等の多分野の複合有機物について、16s-rRNA遺伝子のV3領域(236bp)をターゲットとしたプライマーを使用したPCR-DGGEが非常に良好な分離結果をもたらすことが明らかである。図3に本方法による泳動像を示す。
【0046】
本発明においてはバイオパターンセンシングデータとして、例えばゲルベースの電気泳動法のデータを利用することができる。
【0047】
ゲルベースの電気泳動法は、簡便な装置で実施できる反面、分析に時間を要し、さらに本発明のようなサンプル間の相同性を比較する場合、以下のような技術的な問題点を有する。
【0048】
第一はバンドの相同性の読みとり方法である。発明者らは画像上のバンドの一つひとつの相同性を目視による手作業で読みとっていたが、これは相当の労力を要し、またヒューマンエラーが避けられない作業であった。
【0049】
第二はゲルの不均一性である。ゲルの両端部のゆがみや縦方向の不均一な伸長が原因となり、バンド毎の一致判定は極めて難しい。
【0050】
第三は検出バンド数の多さである。発酵食品や糞便の場合、多い場合で50〜100程度のバンドが検出される。バンドの多様性自体は含まれる情報量が多いことを意味し、後の解析において有利であるが、同時にバンド間の距離が近接し、判定のエラーが起こりやすくなるという問題を孕んでいる。
【0051】
これらの問題点を払拭するため、データ変換プロセス500においては、例えば以下のような方法により、ゲル電気泳動の情報をレーン間の線形的演算による位置補正の後にバンドベースで抽出する手法を用いず、ゆがみを含むことを前提に、レーンの泳動軸方向の輝度情報を2次元、もしくは1次元のプロット情報として抽出する。これらの情報全体を
一連のデータとして捉え、類似性解析を行うことで、データに含まれる情報量の多さを活かし、かつ誤差の影響をより受けにくい、精度の高い解析を行うことが可能となる。
【0052】
図4は豚糞便サンプルからのDNA抽出物を、16s-rRNA遺伝子のV3領域(236bp)をターゲットとしたプライマーを使用したPCR-DGGE法に供した泳動像である。
【0053】
まず、サンプルに対応する泳動レーンを独立して抽出するために、ゲルの泳動軸方向(図4の縦方向)に平行な列に沿って画素値を検出し、これをゲルの泳動軸に対して垂直方向(図4の横方向)の両端間の全領域で順次行う。
【0054】
次いで列上の画素値情報について、横方向に向けて順次演算を実施する。演算の方法としては、例えばヒストグラム処理・最大値抽出・パワー演算・分散演算等の方法が挙げられる。ここではパワー演算による演算例を示す。
【0055】
パワーは画素値の2乗和であり、横位置iについて0<i<N、縦位置jについて0<j<Mとすると、列ピクセル毎のパワーは数1で表される。
【0056】
【数1】

【0057】
この演算の結果を縦軸に列毎のパワー、横軸に横位置としてプロットしたものを図5に示す。これをハードスレッショルド処理に供することで、レーン毎に完全に情報を分離することができる。
【0058】
各レーンは横方向に幅を持っているため、例えば横方向の画素値の平均、中央値、最頻値等を求め、この値を縦軸に、また縦位置を横軸にプロットした2次元チャートを以降の発酵物選定・類似性演算プロセス501に供出することができる。チャートの一例を図6に示す。
【0059】
発酵物選定・類似性演算プロセス501における、サンプル間の類似性演算(ステップ203)を行う方法としては、例えば相互相関解析法やDP(動的プログラミング)マッチング法が挙げられる。ここではDPマッチング法による類似性演算の一例を示す。
【0060】
DPマッチング法は動的計算法(Dynamic programming)によるマッチング法で、非線形の時間を伸縮しながら相関(距離)を求める方法である。本法は主に音声や文字の認識等の領域で利用されている。
【0061】
DPマッチング法においては、入力パターンと標準パターンを対応付けし、入力パターンと標準パターンの距離が一番小さくなる最短経路を求め、その距離の総和で相関を表す。DPマッチングによる、2つの系列の対応付けに関する概念図を図7に示す。
【0062】
具体的には、例えば以下のような方法によって行われる。2つの時系列(特徴ベクトル系列)パターンA、Bを数2に示す
【0063】
【数2】

【0064】
数2に示すようなA、Bからなる平面を考えると、A、B両パターンの時間軸の対応付けは、この平面上の格子点c=(i[k],j[k]) の系列
【0065】
【数3】

【0066】
で表現可能である。このFを時間変換関数と呼ぶ。2つの特徴ベクトルaiとbjとのベクトル距離をd(c)=d(ik, jk) で表すと、Fに沿った距離の総和は数4で与えられる。
【0067】
【数4】

【0068】
ただし、距離としては、数5を用いる。
【0069】
【数5】

【0070】
数5の値が小さいほど、AとBの対応付けがよいことを示す。はFに関連した正の荷重関数である。ここで数4を次のような制限でFに関して最小化することを考える。
【0071】
単調性と連続性の条件:例えば/saN/という系列が/sNa/に変化したり、/sN/となるような歪みを許さない。
【0072】
【数6】

【0073】
境界条件:
【0074】
【数7】

【0075】
整合窓の条件:極端な伸縮を防ぐため、整合窓r を定数として、
【0076】
【数8】

【0077】
数4で、分母がFに依存しない定数になるようにを定めると式を簡略化することが容易である。簡略化によって、例えば荷重関数を、とに対し対称とした場合、数9のようになる。
【0078】
【数9】

【0079】
これにより、
【0080】
【数10】

【0081】
となるので、数4は
【0082】
【数11】

【0083】
と変換される。この2つの時系列パターンA、B間の距離D (A,B) を求めることは、最小化問題を解くことでできるが、Fのすべての可能性について総当たり的に調べることなく、効率的に解くことが可能である。
【0084】
数4において、距離D (A,B) の部分和g (i,j) を求める。終点を(il, jl) に固定したときの部分和gは、
【0085】
【数12】

【0086】
数12は動的計算法の定式化となっている。これを数6、数7、数8のFに関する制限を用いて書き換えると
【0087】
【数13】

【0088】
のように求めることができる。対称型DPマッチングにおいて、座標(i,j) に到達可能な経路を図8に示す。
【0089】
図4のバイオパターンセンシングデータから、上述の例示の方法で画像の抽出および変換を行い、各レーンのチャートについて、DPマッチング法と線形相互相関解析法によって類似性を求める演算を実施し、その結果を比較したデータの一部を表1および表2に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
表1においては、本来同一サンプルであるはずのレーン1と4の間の類似度がレーン2と3の間の類似度より低くなっている。これは泳動画像のゆがみ等が原因で、相互相関解析によるレーン相互間の、正しいサンプル自己−他者識別が妨げられたことを意味している。
【0093】
一方、表2においては、レーン1と4の間の類似度が表のデータ相互間で最小となっており、このデータに基づいて正しいサンプル自己−他者識別を行うことが可能である。
【0094】
図4のすべてのレーン間データについて、線形相互相関解析法とDPマッチング法を用いて類似性を演算し、サンプルの自己−他者識別が最も高い正答率となる判定境界値を設定し、自己−他者識別を行った場合の正答率を比較したチャートを図12に示す。
【0095】
図4の泳動像における泳動レーン数は20、用いたサンプル数は6種であり、各サンプルが3乃至4レーンで重複して泳動されている。
【0096】
結果として線形相互相関解析法においては3割程度であったサンプルの自己−他者認識の正答率が、DPマッチング法による相関解析においては90%程度にまで向上した。
【0097】
このように、本発明記載のDPマッチングによる演算の方法によれば、サンプル類似性評価の確度を飛躍的に向上させることができる。
【0098】
ゲル電気泳動以外の、分離の理論段数が高い分析法で遺伝的多系の検出を試みるという手法を、複合微生物系の研究に用いている例は未だほとんど報告されていないが、臨床研究においてはHPLCベースのDHPLC(Denaturing High Performance liquid Chromatography)法やキャピラリー電気泳動法ベースのCE-SSCP(Capillary electrophoretic single strand conformation polymorphism)法、TGCE(Temperature gradient capillary electrophoresis)法、DNA融解曲線分析法が近年用いられるようになってきた。
【0099】
図4のDGGE解析に使用したものと同じ豚糞便抽出サンプルの一部をDHPLC法によって分析したクロマトグラムを図9に、TGCE法によって分析したエレクトロフェログラムを図10に、DNA融解曲線分析法によって分析した融解分析曲線を図11にそれぞれ示す。
【0100】
これらの分析データはいずれも、前述したDGGE法による画像データの、データ変換プロセス500における処理結果の一例と同様、2次元チャートとして得ることができるので、以降の発酵物選定・類似性演算プロセス501において、直接、DGGE法による画像データからデータ変換プロセス500によって得られたチャートと同様の処理に供することができるという利点を有する。
【0101】
例えばFT−IR等のスペクトル解析によって得られた分光スペクトル曲線等の2次元チャートで供出される分析データは、いずれも発酵物選定・類似性演算プロセス501によって直接、処理可能であるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】複合有機物品質比較装置1のハードウェアー構成図。
【図2】複合有機物品質比較装置1の実施形態のシステム処理のフローチャート。
【図3】複合有機物(発酵乳製品)からのDNA抽出物について、16s-rRNA遺伝子のV3領域(236bp)をターゲットとしたプライマーを使用したPCR-DGGE泳動像。
【図4】豚糞便サンプルからのDNA抽出物を、16s-rRNA遺伝子のV3領域をターゲットとしたプライマーを使用したPCR-DGGE法に供した泳動像。
【図5】図4の画像について、縦軸に列毎のパワー、横軸に横位置としてプロットしたチャート。
【図6】分離された泳動レーンについて、横方向の画素値の平均値を縦軸に、また縦位置を横軸にプロットした2次元チャートの一例。
【図7】DPマッチングによる、2つの系列の対応付けに関する概念図。
【図8】対称型DPマッチングにおいて、座標(i,j) に到達可能な経路。
【図9】図4において使用したものと共通のサンプルを一部、DHPLC法によって分析したクロマトグラム。
【図10】図4において使用したものと共通のサンプルを一部、TGCE法によって分析したエレクトロフェログラム。
【図11】図4において使用したものと共通のサンプルを一部、DNA融解曲線分析法によって分析した融解分析曲線。
【図12】線形相互相関解析法とDPマッチング法を用いて類似性を演算し、自己−他者識別を行った場合の正答率を比較したチャート。
【符号の説明】
【0103】
1 複合有機物品質比較装置(システム)
3 分析装置
5 電子計算装置
7 入力装置
9 記録メディア読取装置
11 プログラム記録媒体
13 モニターディスプレイ
15 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の微生物およびその代謝産物によって構成される複合有機物サンプルにおいて、サンプル中の、もしくはサンプルから抽出された化学物質群を検出する、バイオパターンセンシングデータの検出手段と、
検出されたバイオパターンセンシングデータをサンプル毎に記憶する、記憶手段と、
記憶されたバイオパターンセンシングデータをサンプル毎に指定して呼出可能な、呼出手段と、
上記各手段により得られた二以上のサンプルの、バイオパターンセンシングデータを数学的・統計学的に解析し、当該データ間の類縁関係を数値化したデータ間類似度を算出する、演算手段と、
データ間類似度を出力する出力手段と、
を具備することを特徴とする、複合有機物サンプルの品質比較装置およびシステム。
【請求項2】
複数種の微生物およびその代謝産物によって構成される複合有機物サンプルにおいて、サンプル中に所在する微生物群の遺伝情報に由来するDNA分子群またはRNA分子群を塩基配列または塩基長の差異に基づいて検出する、バイオパターンセンシングデータの検出手段と、
入力されたバイオパターンセンシングデータをサンプル毎に記憶する、記憶手段と、
記憶されたバイオパターンセンシングデータをサンプル毎に指定して呼出可能な、呼出手段と、
上記各手段により得られた二以上のサンプルの、バイオパターンセンシングデータを数学的・統計的に解析し、当該データ間の類縁関係を数値化したデータ間類似度を算出する、演算手段と、
データ間類似度を出力する出力手段と、
を具備することを特徴とする、複合有機物サンプルの品質比較装置およびシステム。
【請求項3】
検出手段の一部として液体クロマトグラフ法を用いることによって、バイオパターンセンシングデータとしてクロマトグラムを得ることをその特徴とする、先行請求項記載の、複合有機物サンプルの品質比較装置及びシステム。
【請求項4】
検出手段の一部としてキャピラリー電気泳動法を用いることによって、バイオパターンセンシングデータとしてエレクトロフェログラムを得ることをその特徴とする、先行請求項記載の、複合有機物サンプルの品質比較装置及びシステム。
【請求項5】
検出手段の一部としてDNA融解曲線分析法を用いることによって、バイオパターンセンシングデータとしてDNA融解曲線を得ることをその特徴とする、先行請求項記載の、複合有機物サンプルの品質比較装置及びシステム。
【請求項6】
検出手段の一部として分光スペクトル解析を用いることによって、バイオパターンセンシングデータとして分光スペクトル曲線を得ることをその特徴とする、先行請求項記載の、複合有機物サンプルの品質比較装置及びシステム。
【請求項7】
複数種の微生物およびその代謝産物によって構成される複合有機物サンプルの分析によって得られたバイオパターンセンシングデータをシステムに入力する、入力手段と、
入力されたバイオパターンセンシングデータをサンプル毎に記憶する、記憶手段と、
記憶されたバイオパターンセンシングデータをサンプル毎に指定して呼出可能な、呼出手段と、
上記各手段により得られた二以上のサンプルの、バイオパターンセンシングデータを数学的・統計的に解析し、当該データ間の類縁関係を数値化したデータ間類似度を算出する、
演算手段と、
データ間類似度を出力する出力手段と、
を具備することを特徴とする、複合有機物サンプルの品質比較装置およびシステム。
【請求項8】
演算手段として、バイオパターンセンシングデータの動的プログラミングによるマッチング法を用いることによって、バイオパターンセンシングデータの類似性を算出することをその特徴とする、先行請求項記載の、複合有機物サンプルの品質比較装置及びシステム。
【請求項9】
コンピュータを、先行請求項にそれぞれ記載の品質比較装置及びシステムを構成する各手段として機能させるためのプログラムおよびデータを記録した、コンピュータもしくはコンピュータに接続された記録メディア読取装置によって読み取り可能な記録メディア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−330852(P2006−330852A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150071(P2005−150071)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(501176303)日環科学株式会社 (10)
【出願人】(000161998)京葉瓦斯株式会社 (46)
【Fターム(参考)】