説明

バランス型弾性表面波フィルタ

【課題】 通過帯域内の挿入損失及びVSWR特性に優れており、かつ大型化を招くことなく、不平衡信号端子側のインピーダンスと平衡信号端子側のインピーダンスの比を容易に1:2に設定することが可能であるバランス型弾性表面波フィルタを提供する。
【解決手段】 不平衡信号端子31に接続された第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11と、第1,第2の平衡信号端子32,33に接続された第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部21とが2段縦続接続されており、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11の中央の第2のIDT13の狭ピッチ電極指部の電極指の本数をN1、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部21の中央の第5のIDT23の狭ピッチ電極指部の電極指の本数をN2としたとき、N1>N2とされている、バランス型弾性表面波フィルタ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部が二段縦続接続された弾性表面波フィルタに関し、より詳細には、平衡−不平衡変換機能を有するバランス型弾性表面波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機の小型化等にともなって、帯域フィルタを含むRF段の小型化が強く求められている。そこで、近年、上記帯域フィルタとして、高周波に対応でき、かつ平衡−不平衡変換機能を有するバランス型弾性表面波フィルタが用いられてきている。
【0003】
上記平衡−不平衡変換機能を有するバランス型弾性表面波フィルタの出力端は、平衡入出力もしくは差動入出力を有するミキサーIC、すなわち平衡型ミキサーICに接続される。平衡型ミキサーICを用いた場合、ノイズの影響を低減することができ、かつ出力の安定化を図ることができる。従って、平衡型ミキサーICは、携帯電話機の特性を高めるために、広く用いられてきている。
【0004】
ところで、RF段に使用される弾性表面波フィルタのインピーダンスは、通常、50Ωである。これに対して、これまでの平衡型ミキサーICの入力インピーダンスは150〜200Ωが主流である。そこで、平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタでは、不平衡信号端子と平衡信号端子のインピーダンス比が約1:3〜1:4の範囲とされていることが多かった。
【0005】
上記のような平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタの一例が、下記の特許文献1に記載されている。図15は、特許文献1に記載のバランス型弾性表面波フィルタの電極構造を示す模式的平面図である。
【0006】
弾性表面波フィルタ501では、不平衡信号端子502に、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ511が接続されている。第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ511は、表面波伝搬方向に沿って配置されたIDT512〜514を有する。中央のIDT513が、不平衡信号端子502に接続されている。なお、IDT512〜514の設けられている領域の表面波伝搬方向両側には反射器515,516が配置されている。
【0007】
他方、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ511に、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ521が接続されている。縦結合共振子型弾性表面波フィルタ521は、表面波伝搬方向に配置されたIDT522〜524と、反射器525,526とを有する。ここでは、両側のIDT522,524が、信号線505,506により、IDT512,514にそれぞれ電気的に接続されている。また、中央のIDT523は、表面波伝搬方向に分割された第1のIDT部523aと、第2のIDT部523bとを有する。IDT部523a,523bが、それぞれ、第1,第2の平衡信号端子503,504に電気的に接続されている。
【0008】
弾性表面波フィルタ501では、上記のように第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部511及び第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部521が縦続接続されており、ここでは、平衡信号端子503,504側のインピーダンスは200Ωである旨が記載されている。すなわち、前述したインピーダンス比が1:4であるバランス型弾性表面波フィルタ501が開示されている。
【0009】
他方、下記の特許文献2には、平衡−不平衡変換機能を有しない、弾性表面波フィルタが開示されている。図16に示すように、特許文献2に記載されている弾性表面波フィルタ601では、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ602と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ603とが縦続接続されている。入力端子604に第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部602が接続されており、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部603に、出力端子605が接続されている。
【0010】
特許文献2では、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部602における電極指交叉幅と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部603の電極指交叉幅とを異ならせることにより、入力インピーダンスが50Ωとされ、出力インピーダンスが150Ωとされている。すなわち、前述したインピーダンス比が1:3である二素子縦続接続型の弾性表面波フィルタが構成されている。
【特許文献1】特開平11−97966号公報
【特許文献2】特開平9−321574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年、上記弾性表面波フィルタの後段に接続される平衡型ミキサーICとして、入力インピーダンスが100Ωである平衡型ミキサーICが増加している。従って、RF段に用いられる弾性表面波フィルタにおいても、出力インピーダンスを低くすることが求められている。すなわち、入力側インピーダンスと出力側インピーダンスの比が約1:2である、平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタが要求されている。
【0012】
前述した特許文献2に記載の構成では、平衡−不平衡変換機能を有しない二素子縦続接続型の弾性表面波フィルタ601において、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部602における電極指交叉幅を広くし、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部603における電極指交叉幅を狭くすることにより、入出力インピーダンス比が1:3とされていた。しかしながら、このような構成では、縦続接続部においてインピーダンス不整合が生じがちとなり、通過帯域内の挿入損失が大きくなるという問題があった。
【0013】
また、前述した特許文献1に記載のバランス型弾性表面波フィルタ501では、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部521における中央のIDTである第5のIDT523がIDT部523a,523bに二分割されており、IDT部523a,523bが直列接続されていた。従って、平衡信号端子503,504のインピーダンスが高くならざるを得なかった。よって、上記のようにインピーダンス比が1:4とされている。このような構成において、特許文献2に記載のように電極指交叉幅を変化させることによりインピーダンス比を調整することも考えられる。しかしながら、電極指交叉幅を変化させる方法を採用し、入出力インピーダンス比を1:2にするには、平衡信号端子503,504に接続されるIDT523における電極指交叉幅を、不平衡信号端子502に接続されているIDT513の電極指交叉幅の2倍程度に大きくしなければならない。そのため、電極構造が大きくならざるを得ず、ひいては弾性表面波フィルタ501全体の寸法が大きくならざるを得ない。
【0014】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、通過帯域内の挿入損失の悪化を招くことなく、さらに素子サイズの増大を招くことなく、不平衡信号端子のインピーダンスと平衡信号端子とのインピーダンスの比が約1:2とされ得るバランス型弾性表面波フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、不平衡信号端子と、第1,第2の平衡信号端子とを有する平衡−不平衡変換機能を有するバランス型弾性表面波フィルタであって、圧電基板と、前記圧電基板上において表面波伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTを有し、前記不平衡信号端子に第2のIDTが接続されている第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部と、前記圧電基板上において表面波伝搬方向に沿って配置された第4〜第6のIDTを有し、前記第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部に縦続接続されており、前記第1,第2の平衡信号端子に第5のIDTが接続されている第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部とを備え、前記第2のIDT及び第5のIDTが、それぞれ、第1,第3のIDT及び第4,第6のIDTと隣り合っている側の端部から表面波伝搬方向において当該IDTの中央側に向かう一部の電極指の周期が、当該IDTの中央の電極指部分の周期よりも小さくされている狭ピッチ電極指部を有し、前記第2のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指の本数をN1、前記第5のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指の本数をN2としたときに、N1>N2とされていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る縦結合共振子型弾性表面波フィルタのある特定の局面では、前記第2のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指ピッチをP1、前記第5のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指ピッチをP2としたときに、P1>P2とされている。
【0017】
本発明に係るバランス型弾性表面波フィルタの他の特定の局面では、前記第1のIDTと、前記第4のIDTとを接続している第1の信号線と、前記第3のIDTと前記第6のIDTとを接続している第2の信号線とを有し、前記第1の信号線を伝送する電気信号の位相と、前記第2の信号線を伝送する電気信号の位相とが180°異なるように、前記第1〜第6のIDTが構成されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るバランス型弾性表面波フィルタでは、圧電基板上において、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部と、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部とが縦続接続されており、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部が不平衡信号端子に、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部が第1,第2の平衡信号端子に接続されている。従って、平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタが構成されている。そして、第2のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指の本数をN1、第5のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指の本数をN2としたときに、N1>N2とされているため、後述の実験例から明らかなように、挿入損失やVSWRの低下を招くことなく、不平衡信号端子に接続されている第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部のインピーダンスを大きく変化させるとことができ、不平衡信号端子側のインピーダンスと、第1,第2の平衡信号端子側のインピーダンスとの比であるインピーダンス比を大幅に変更することができ、該インピーダンス比が1:2であるバランス型弾性表面波フィルタを容易に提供することが可能となる。
【0019】
従って、本発明によれば、出力インピーダンスが100Ωである平衡型ミキサーICを後段に接続することができ、良好なフィルタ特性を有し、しかも平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波フィルタを提供することができる。よって、本発明を利用することにより、例えば携帯電話機のRF段の小型化を促進することが可能となる。
【0020】
第2のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指ピッチをP1、第5のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指ピッチをP2としたときに、P1>P2とされている場合には、通過帯域内の挿入損失及びVSWRをより一層低減することができ、フィルタ特性をより一層改善することができる。
【0021】
第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部の第1のIDTと、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部の第4のIDTとを接続している第1の信号線と、第3のIDTと、第6のIDTとを接続している第2の信号線とを有し、第1の信号線を伝送する電気信号の位相と、第2の信号線を位相する電気信号の位相が180°異なるように第1〜第6のIDTが構成されている場合には、位相平衡度及び振幅平衡度を高めることができる。
【0022】
なお、振幅平衡度及び位相平衡度とは、前記平衡−不平衡変換機能を有する弾性表面波装置を3ポートのデバイスと考え、例えば不平衡信号端子をポート1、各平衡信号端子のそれぞれをポート2、ポート3としたとき、
振幅平衡度=|A|、A=|20 log (S21)|−|20 log (S31)| …式(1)
位相平衡度=|B|、B=|∠S21−∠S31| …(2)
で定義する。なお、S21はポート1からポート2への伝達係数を、S31はポート1からポート3への伝達係数を示している。このような平衡度は、理想的には、弾性表面波装置のフィルタ特性における、通過帯域内で振幅平衡度が0dB、位相平衡度は180度とされている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0024】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るバランス型弾性表面波フィルタの電極構造を示す模式的平面図である。
【0025】
バランス型弾性表面波フィルタ1は、40±5°YカットX伝搬のLiTaO3基板からなる圧電基板2上に図示の電極を形成した構造を有する。すなわち、圧電基板2上において、第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11,21が構成されている。
【0026】
第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11は、表面波伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDT12〜14を有する。中央の第2のIDT13の一端が不平衡信号端子31に接続されている。他方、IDT12〜14の表面波伝搬方向両側には反射器15,16が配置されている。
【0027】
第1〜第3のIDT12〜14は、IDT同士が隣り合っている部分において狭ピッチ電極指部Nを有する。狭ピッチ電極指部Nとは、狭ピッチ電極指部N以外の電極指部の電極指ピッチよりも相対的に電極指ピッチが小さい電極指部をいうものとする。たとえば、IDT12を例にとると、IDT12のIDT13と隣り合っている側の端部から当該IDT12の中央に向かう一部の電極指のピッチが残りの電極指のピッチよりも狭くされている。この電極指ピッチが狭い複数本の電極指からなる部分が狭ピッチ電極指部Nである。
【0028】
なお、狭ピッチ電極指部Nを設けることにより、IDT同士が隣り合っている部分の不連続性を緩和することができる。
【0029】
また、中央のIDT13は、IDT12と隣り合っている側の端部に設けられた狭ピッチ電極指部Nと、IDT14と隣り合っている側の端部に設けられた狭ピッチ電極指部Nとを有する。すなわち、IDT13では、IDT12,14側の各端部からIDT13の中央側に向かう複数本の電極指の電極指ピッチが相対的にIDT13の中央に位置している電極指部の電極指ピッチよりも狭くされ、上記狭ピッチ電極指部N,Nが形成されている。IDT14においても、IDT12と同様に狭ピッチ電極指部Nが形成されている。
【0030】
第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部21は、表面波伝搬方向に沿って配置された第4〜第6のIDT22〜24を有する。IDT22〜24が設けられている領域の表面波伝搬方向両側に反射器25,26が配置されている。
【0031】
中央の第5のIDT23の一端が第1の平衡信号端子32に、他端が第2の平衡信号端子33に電気的に接続されている。
【0032】
IDT22〜24は、IDT12〜14と同様に、狭ピッチ電極指部Nを有する。すなわち、IDT22のIDT23側の端部、IDT23のIDT22側の端部及びIDT24側の端部、並びにIDT24のIDT23側の端部に、それぞれ、狭ピッチ電極指部Nが設けられている。
【0033】
第1のIDT12の一端が、第1の信号線34により第4のIDT22に電気的に接続されており、第3のIDT14の一端が、第2の信号線35により第6のIDT24に接続されている。
【0034】
本実施形態では、第2のIDT13の電極指の本数は偶数本とされている。また、第1のIDT12と第3のIDT14とは、IDT13の中心を通りかつ表面波伝搬方向と直交する仮想線に対して線対称に配置されている。従って、第1の信号線34を流れる電気信号の位相と、第2の信号線35を流れる電気信号の位相とは180°反転されている。
【0035】
なお、第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11,21を含む電極構造は、AlやAl合金などの適宜の金属により構成され得る。
【0036】
本実施形態の弾性表面波フィルタ1の特徴は、第2のIDT13の1つの狭ピッチ電極指部Nの電極指の本数N1が、第5のIDT23の1つの狭ピッチ電極指部Nの電極指の本数N2よりも大きくされていることにある。それによって、不平衡信号端子31側のインピーダンスと、平衡信号端子32,33側のインピーダンスの比であるインピーダンス比を、容易に調整でき、例えば1:2に設定することができる。これを具体的な実験例に基づき説明する。
【0037】
以下の実験例では、圧電基板2として40±5°YカットX伝搬のLiTaO3基板を用い、GSM850受信用弾性表面波フィルタを作製した。この弾性表面波フィルタの通過帯域は869〜894MHzである。そして、以下のようにして各電極を形成し、不平衡信号端子31側のインピーダンスを50Ω、平衡信号端子32,33側のインピーダンスを100Ωとした。
【0038】
IDT12〜14,22〜24における狭ピッチ電極指部N以外の電極指部の電極指ピッチで定まる波長をλIとする。
【0039】
電極指交叉幅:24.2λI。
【0040】
弾性表面波フィルタ部11におけるIDTの電極指の本数:IDT12/IDT13/IDT14=28(4)/(8)38(8)/(4)28。
【0041】
ここで、28(4)は、第1のIDT12の狭ピッチ電極指部以外の電極指の本数が28であり、狭ピッチ電極指部Nの電極指の本数が4本であることを意味する。従って、(8)38(8)は、第2のIDT13において、一方の狭ピッチ電極指部Nの電極指の本数N1が8本であり、中央の狭ピッチ電極指部以外の電極指の本数が38であり、他方側の狭ピッチ電極指部Nの電極指の本数N1が8本であることを意味する。
【0042】
弾性表面波フィルタ部21のIDTの電極指の本数=IDT22/IDT23/IDT24=28(4)/(4)38(4)/(4)28。従って、N2=4である。
【0043】
反射器15,16,25,26の電極指の本数=30本。
【0044】
IDT及び反射器におけるメタライゼーションレシオ=0.70。
【0045】
電極膜厚=0.079λI。
【0046】
第2のIDT13における狭ピッチ電極指部の電極指ピッチP1=0.946λI、第5のIDT23の狭ピッチ電極指部の電極指ピッチP2=0.914λI。
【0047】
上記のようにして作製された本実施形態の弾性表面波フィルタ1の挿入損失−周波数特性を図2に示す。また、図3に、上記弾性表面波フィルタのVSWR特性を示す。なお、図3におけるS11は、不平衡信号端子31側のVSWR特性を、S22は平衡信号端子32,33側のVSWR特性を示す。以下、本明細書においては、S11が不平衡信号端子側の特性であり、S22が平衡信号端子側の特性であることを示す。
【0048】
図4(a)及び(b)は、本実施形態の弾性表面波フィルタ1の不平衡信号端子側及び平衡信号端子側における反射特性を示すスミスチャートである。
【0049】
本明細書において図示するスミスチャートの規格化インピーダンスは不平衡信号端子側の規格化インピーダンスを50Ω、平衡信号端子側の規格化インピーダンスを100Ωとしている。
【0050】
比較のために、電極指交叉幅を第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部で異ならせることによりインピーダンス比を調整した、第1の比較例を以下の要領で作製した。
【0051】
第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部の電極指交叉幅44.0λI、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部における電極指交叉幅:30.8λI。
【0052】
IDTの電極指の本数:第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部のいずれにおいても、3個のIDTの電極指の本数は28(4)/(4)38(44)/(4)28とした。
【0053】
反射器の電極指の本数:30本。
【0054】
メタライゼーションレシオ=0.70。
【0055】
但し、第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部の中央のIDTでは、メタライゼーションレシオ0.60とした。
【0056】
電極膜厚=0.079λI。
【0057】
他の構成については、上記実施形態と同様とし、第1の比較例の弾性表面波フィルタを得た。このようにして得た第1の弾性表面波フィルタの挿入損失−周波数特性を図5に、VSWR特性を図6に示す。また、図7(a)及び(b)は、第1の比較例の弾性表面波フィルタの不平衡信号端子側の反射特性及び平衡信号端子側の反射特性をそれぞれ示すスミスチャートである。
【0058】
さらに、不平衡信号端子側のインピーダンスと平衡信号端子側のインピーダンスを調整するために、図15に示した弾性表面波フィルタ501を以下の要領で作製し、第2の比較例の弾性表面波フィルタを得た。
【0059】
すなわち、図15に示した構成において、第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部511のIDT512〜514の電極指の本数:IDT512/IDT513/IDT514=26(5)/(3)44(3)/(5)26。
【0060】
第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部521のIDT522〜524の電極指の本数=IDT522/IDT523/IDT524=26(5)/(7)34(7)/(5)26。
【0061】
反射器の電極指の本数:30本。
【0062】
メタライゼーションレシオ=0.70。但し、IDT513のメタライゼーションレシオだけは0.60とした。
【0063】
電極膜厚=0.079λI。
【0064】
また、インピーダンスを整合させるために、第1,第2の平衡信号端子503,504間に47nHのインダクタンスを挿入した。
【0065】
図8は、第2の比較例の弾性表面波フィルタの挿入損失−周波数特性を、図9は、VSWR特性を示す。また、図10(a)及び(b)は、第2の比較例の弾性表面波フィルタにおける不平衡信号端子側の反射特性を及び平衡信号端子側の反射特性をそれぞれ示すスミスチャートである。
【0066】
図2〜図4と、図5〜図7とを比較すれば明らかなように、通過帯域である869〜894MHz帯において、第1の比較例の弾性表面波フィルタでは、最大挿入損失が1.82dBであり、VSWRの最大値は1.84であった。これに対して、上記実施形態の弾性表面波フィルタでは、挿入損失の最大値が1.60dBであり、VSWRの最大値は1.53であった。
【0067】
従って、第1の比較例に比べて、上記実施形態によれば、通過帯域内における最大挿入損失を約0.2dB小さくすることができ、VSWRも約0.3低減し得ることがわかる。これは、本実施形態では、第1の比較例とは異なり、縦続接続されているIDT同士の交叉幅が同じであるため、インピーダンスの不整合が生じていないことによる。より具体的には、IDT12の交叉幅と、IDT22の交叉幅が等しく、IDT14の交叉幅とIDT24の交叉幅が等しいため、インピーダンス不整合が生じていない。
【0068】
他方、図2〜図4と、図8〜図10とを比較すれば明らかなように、第2の比較例では、通過帯域内の最大挿入損失は1.85dB、VSWRの最大値は1.40であった。従って、VSWRの最大値については、第2の比較例は、上記実施形態よりも優れている。これは、インピーダンス整合を図るために、第1の比較例では、第1,第2の平衡信号端子503,504間に上述したインダクタンスを挿入しているためである。このインダクタンスを挿入しなかった場合には、第2の比較例における通過帯域内におけるVSWRの最大値は、上記実施形態よりも劣り、約2.00となる。
【0069】
また、通過帯域内の最大挿入損失は、上記実施形態によれば、第2の比較例の弾性表面波フィルタよりも0.25dB改善されることがわかる。これは、第2の比較例に比べて、上記実施形態では、交叉幅が小さいため、オーミック抵抗が小さくなったことによる。
【0070】
さらに、上記実施形態の弾性表面波フィルタ1における交叉幅に対し、第2の比較例における電極交叉幅は約2.4倍となっている。すなわち、第2の比較例では、交叉幅を大きくする必要があるため、圧電基板の面積を大きくしなければならず、ひいては弾性表面波フィルタ素子全体の寸法が大きくならざるを得ない。よって、上記実施形態では、第2の比較例に比べて素子サイズの小型化を図ることができ、かつ1枚のウエハから作製され得る弾性表面波フィルタ素子の数を多くし得る。よって生産性も高められる。
【0071】
上記のように、第1,第2の比較例の弾性表面波フィルタに比べ、本実施形態の弾性表面波フィルタ1によれば、通過帯域内の挿入損失及びVSWRを改善することができる。しかも、前述したように、狭ピッチ電極指部N1,N2を、N1>N2としたことにより、不平衡信号端子31と、平衡信号端子32,33とのインピーダンス比を容易に1:2とすることができる。
【0072】
弾性表面波フィルタ1のような弾性表面波フィルタでは、通常、入力インピーダンスは50Ωとして設計される。従って、上記N1,N2の数を調整することにより、通過帯域内のVSWRや最大挿入損失を悪化させることなく、平衡信号端子32,33におけるインピーダンスを容易に100Ωとすることができる。
【0073】
本実施形態において、通過帯域内の特性を損なうことなく、主として平衡信号端子32,33側のインピーダンスを含めるように、不平衡信号端子31側のインピーダンスと平衡信号端子32,33側のインピーダンスとを容易に変化させ得る理由は明確ではないが、図11〜図14を参照して実験的に説明する。
【0074】
まず、弾性表面波フィルタ1において、不平衡信号端子31と、平衡信号端子32,33のインピーダンスをいずれも50Ωとするように設計した第1の参考例の反射特性を図11(a)及び(b)に示す。図11のスミスチャートの規格化インピーダンスは、不平衡信号端子側と平衡信号端子側をいずれも50Ωにしている。このときの設計パラメータは以下の通りである。
【0075】
交叉幅:第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11,21のいずれにおいても44.0λI。
【0076】
IDTの電極指の本数:第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11,21のいずれにおいても、28(4)/(4)38(4)/(4)28。
【0077】
反射器の電極指の本数:30本。
【0078】
メタライゼーションレシオ:0.70。
【0079】
電極膜厚:0.079λI。
【0080】
上記のようにして設計された第1の参考例の弾性表面波フィルタの不平衡信号端子側のインピーダンスを50Ω、平衡信号端子側のインピーダンスを100Ωとして見た反射特性を図12(a)及び(b)に示す。当然のことながら、S22側、すなわち平衡信号端子側のインピーダンスは、整合点である100Ωから大きくずれる。
【0081】
次に、S22側のインピーダンスを100Ωに変化させるため、第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11,21の交叉幅を、いずれも44.0λIから24.2λIに変更するように、第1の参考例の弾性表面波フィルタを変形し、第2の参考例の弾性表面波フィルタを得た。この場合の反射特性を図13(a)及び(b)に示す。図13(a)及び(b)から明らかなように、S22側のインピーダンスが約100Ωとなるが、S11側のインピーダンスも約100Ωとなり、不平衡信号端子側のインピーダンスが整合点である50Ωから大きくずれてしまうことがわかる。
【0082】
そこで、上記第2の参考例において、S11側のインピーダンスを50Ωとするために、図1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11の中央の第2のIDT13の狭ピッチ電極指部Nの電極指の本数を4本から8本に変更し、第3の参考例の弾性表面波フィルタを得た。この第3の参考例の反射特性を図14(a)及び(b)に示す。図14(a)及び(b)から明らかなように、S22側のインピーダンスが整合点である100Ωとされ、他方S11側におけるインピーダンスが整合点である50Ωに近づいていることがわかる。そして、最終的に、上記狭ピッチ電極指部Nの電極指ピッチやIDT同士の隣り合う部分の間隔などの設計パラメータを調整することにより、前述した図4(a)及び(b)に示した反射特性が実現されている。
【0083】
上記のように、第1,第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部11,21が二段縦続接続されている平衡−不平衡変換機能を有するバランス型弾性表面波フィルタ1において、不平衡信号端子31に接続されているIDT13の狭ピッチ電極指部Nの電極指の本数N1を、平衡信号端子32,33に接続されているIDT23の狭ピッチ電極指部Nの電極指の本数N2よりも大きくすることにより、通過帯域内の挿入損失及びVSWRが改善され、しかも平衡信号端子側のインピーダンスを低めて不平衡信号端子と平衡信号端子32,33のインピーダンス比を約1:2とされ得る弾性表面波フィルタを提供し得ることがわかる。
【0084】
なお、上記実施形態では、上記インピーダンスを調整するために、狭ピッチ電極指部の電極指の本数N1,N2並びに狭ピッチ電極指部の電極指ピッチP1,P2を異ならせていたが、N1>N2とされればよく、P1>P2とする必要は必ずしもない。もっとも、P1>P2をも併用することにより、前述したように、通過帯域内のVSWR及び最大挿入損失をより一層改善することができ、好ましい。
【0085】
さらに、IDT毎にデューティ比を異ならせたり、電極指交叉幅を異ならせる方法などの他のインピーダンス調整方法をさらに併用してもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、第1の信号線34を伝送する電気信号の位相と、第2の信号線35を伝送する電気信号の位相とを180°異なるようにIDT12〜14,22〜24を構成したが、第1,第2の信号線を伝送する電気信号の位相が等しくなるように、第1〜第6のIDTを構成してもよい。もっとも、好ましくは、第1,第2の信号線34,35を伝送する電気信号の位相が約180°異なるように、第1〜第6のIDTを構成することが望ましく、その場合には、上記実施形態のように、振幅平衡度及び位相平衡度を高めることができる。
【0087】
なお、本実施形態では、圧電基板2として40±5°YカットX伝搬のLiTaO3基板を用いたが、圧電基板としては、64°〜72°YカットX伝搬のLiNbO3基板や41°YカットX伝搬のLiNbO3基板などの様々なカット角及び圧電単結晶からなる圧電基板を用いることができる。
【0088】
なお、図1では、IDT12の一端及びIDT22の一端はアース電位に接続されているように図示されている。このIDT12のアース電位に接続されている側の端部と、IDT22のアース電位に接続されている側の端部とを圧電基板上において配線により接続してもよい。同様に、IDT14,24のアース電位に接続される端部同士を、圧電基板2上において配線により接続するように構成してもよい。
【0089】
なお、上記実施形態において、必要に応じて、1ポート弾性表面波共振子を不平衡信号端子31と第2のIDT13の一端との間に挿入してもよい。また、第1の平衡信号端子32と第5のIDT23との間と、第2の平衡信号端子33と第5のIDT23との間とにそれぞれ1ポート弾性表面波共振子が挿入されてもよい。
【0090】
また、第1の縦結合弾性表面波フィルタ部11と第2の縦結合弾性表面波フィルタ部21との間に2つの1ポート弾性表面波共振子が挿入されてもよい。すなわち、第1のIDT12と第4のIDT22との間に第1の1ポート弾性表面波共振子が挿入され、第3のIDT14と第6のIDT24との間に第2の1ポート弾性表面波共振子が挿入されてもよい。
【0091】
さらに、第1の縦結合弾性表面波フィルタ部11と第2の縦結合弾性表面波フィルタ部21との間に2ポート弾性表面波共振子が挿入されてもよい。すなわち、第1のIDT12と第4のIDT22との間に2ポート弾性表面波共振子の第1のポートが接続され、第3のIDT14と第6のIDT24との間に2ポート弾性表面波共振子の第2のポートが接続されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るバランス型弾性表面波フィルタの電極構造を示す模式的平面図。
【図2】第1の実施形態の弾性表面波フィルタの挿入損失−周波数特性を示す図。
【図3】第1の実施形態の弾性表面波フィルタのVSWR特性を示す図。
【図4】(a)及び(b)は、第1の実施形態の弾性表面波フィルタ部の不平衡信号端子側及び平衡信号端子側の各反射特性を示すスミスチャート。
【図5】第1の比較例の弾性表面波フィルタの挿入損失−周波数特性を示す図。
【図6】第1の比較例の弾性表面波フィルタのVSWR特性を示す図。
【図7】(a)及び(b)は、第1の比較例の弾性表面波フィルタ部の不平衡信号端子側及び平衡信号端子側の各反射特性を示すスミスチャート。
【図8】第2の比較例の弾性表面波フィルタの挿入損失−周波数特性を示す図。
【図9】第2の比較例の弾性表面波フィルタのVSWR特性を示す図。
【図10】(a)及び(b)は、第2の 比較例の弾性表面波フィルタ部の不平衡信号端子側及び平衡信号端子側の各反射特性を示すスミスチャート。
【図11】(a)及び(b)は、第1の参考例の弾性表面波フィルタ部の不平衡信号端子側及び平衡信号端子側の各反射特性を示すスミスチャート。図11のスミスチャートの規格化インピーダンスは、不平衡信号端子側と平衡信号端子側をいずれも50Ωにしている。
【図12】(a)及び(b)は、第1の参考例の弾性表面波フィルタ部の不平衡信号端子側及び平衡信号端子側の各反射特性を示すスミスチャート。
【図13】(a)及び(b)は、第2の参考例の弾性表面波フィルタ部の不平衡信号端子側及び平衡信号端子側の各反射特性を示すスミスチャート。
【図14】(a)及び(b)は、第3の参考例の弾性表面波フィルタ部の不平衡信号端子側及び平衡信号端子側の各反射特性を示すスミスチャート。
【図15】従来の弾性表面波フィルタの電極構造の一例を示す模式的平面図。
【図16】従来の弾性表面波フィルタの電極構造の他の例を示す模式的平面図。
【符号の説明】
【0093】
1…弾性表面波フィルタ
2…圧電基板
11…第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部
12〜14…第1〜第3のIDT
15,16…反射器
21…第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部
22〜24…第4〜第6のIDT
25,26…反射器
31…不平衡信号端子
32,33…第1,第2の平衡信号端子
34,35…第1,第2の信号線
N…狭ピッチ電極指部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不平衡信号端子と、第1,第2の平衡信号端子とを有する平衡−不平衡変換機能を有するバランス型弾性表面波フィルタであって、
圧電基板と、
前記圧電基板上において表面波伝搬方向に沿って配置された第1〜第3のIDTを有し、前記不平衡信号端子に第2のIDTが接続されている第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部と、
前記圧電基板上において表面波伝搬方向に沿って配置された第4〜第6のIDTを有し、前記第1の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部に縦続接続されており、前記第1,第2の平衡信号端子に第5のIDTが接続されている第2の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部とを備え、
前記第2のIDT及び第5のIDTが、それぞれ、第1,第3のIDT及び第4,第6のIDTと隣り合っている側の端部から表面波伝搬方向において当該IDTの中央側に向かう一部の電極指の周期が、当該IDTの中央の電極指部分の周期よりも小さくされている狭ピッチ電極指部を有し、
前記第2のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指の本数をN1、前記第5のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指の本数をN2としたときに、N1>N2とされていることを特徴とする、バランス型弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
前記第2のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指ピッチをP1、前記第5のIDTの狭ピッチ電極指部の電極指ピッチをP2としたときに、P1>P2とされていることを特徴とする、請求項1に記載のバランス型弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
前記第1のIDTと、前記第4のIDTとを接続している第1の信号線と、前記第3のIDTと前記第6のIDTとを接続している第2の信号線とを有し、前記第1の信号線を伝送する電気信号の位相と、前記第2の信号線を伝送する電気信号の位相とが180°異なるように、前記第1〜第6のIDTが構成されている、請求項1または2に記載のバランス型弾性表面波フィルタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−86710(P2006−86710A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−268323(P2004−268323)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】