説明

バルブ機構及び基板収納容器

【課題】金属部品からイオン成分が溶出して基板の汚染等を招くのを抑制し、構成の簡素化を図ることのできるバルブ機構及び基板収納容器を提供する。
【解決手段】保持筒31と、保持筒31の部分的に開口した表面を被覆するフィルタ37と、保持筒31に内蔵される中蓋筒38と、保持筒31の開口裏面側に螺嵌される有底円筒形の固定筒44と、中蓋筒38と固定筒44の間に介在されて気体の流通を制御する弁体50とを備え、保持筒31と固定筒44を樹脂含有の成形材料により成形し、固定筒44の底部52に、気体流通用の通気口45を穿孔する。また、弁体50を、弾性材料により成形して保持筒31と固定筒44の螺嵌方向に伸縮可能にするとともに、弁体50の底部52を通気口45に接離可能に接触させ、弁体50を圧縮してその底部52を通気口45から離隔させることにより、保持筒31と固定筒44の間で気体をフィルタ37を介して流通させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気や不活性ガス等からなる気体の流動を制御するバルブ機構及び基板収納容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の基板収納容器は、図示しないが、例えばφ300mmの半導体ウェーハを整列収納するフロントオープンボックスタイプの容器本体と、この容器本体の開口した正面部を開閉する着脱自在の蓋体とを備えて構成されている(特許文献1参照)。
【0003】
容器本体の底部には複数の貫通孔がそれぞれ穿孔され、各貫通孔には、基板収納容器の内外を連通するバルブ機構が装着されており、このバルブ機構が容器本体から蓋体が取り外される際の真空吸着を防止したり、基板収納容器内の空気を不活性ガスに置換して半導体ウェーハの表面酸化等を防ぐよう機能する。バルブ機構は、通気口付きのハウジングと、このハウジングに内蔵されて空気や不活性ガスの流通を制御する弁体とを含む多数の部品から構成され、ハウジングの通気口に弁体が金属製のバネにより弾圧付勢される。
【0004】
このような基板収納容器は、半導体ウェーハの加工処理工程で搬送、保管されたり、工場間で輸送され、一定期間使用された後、洗浄・乾燥作業が施されることにより、繰り返し使用されている。
【特許文献1】特開2004‐146676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における基板収納容器は、以上のように構成され、バルブ機構に金属製のバネが使用されているので、繰り返しの洗浄に伴いバネが腐食して半導体ウェーハを汚染させたり、バネからイオン成分が溶出して半導体ウェーハの汚染を招くおそれがある。また、バルブ機構が多数の部品から構成されているので、組み立てに時間と手間を要するという問題もある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、金属部品からイオン成分が溶出して基板の汚染等を招くのを抑制し、構成の簡素化を図ることのできるバルブ機構及び基板収納容器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、略筒形の保持筒と、この保持筒の部分的に開口した表面を被覆するフィルタと、保持筒の開口裏面側に嵌め合わされる有底筒形の固定筒と、保持筒と固定筒との間に介在されて気体の流通を制御する弁体とを含むものであって、
保持筒と固定筒とをそれぞれ樹脂含有の成形材料により構成し、固定筒の底部に、気体流通用の通気口を設け、弁体を、弾性材料により形成して保持筒と固定筒との嵌め合わせ方向に伸縮可能とするとともに、この弁体の底部を固定筒の通気口に接離可能に接触させ、弁体を圧縮してその底部を固定筒の通気口から離隔(離れ隔てる)させることにより、保持筒と固定筒との間で気体をフィルタを介して流通させるようにしたことを特徴としている。
【0008】
なお、保持筒に、固定筒との間に弁体を挟む樹脂製の中蓋筒をシール部材を介して内蔵し、中蓋筒の表面を部分的に開口させ、保持筒と中蓋筒の部分的に開口した表面間にフィルタを介在することができる。
また、保持筒の内周面と中蓋筒の外周面のいずれか一方に凹部を、他方には凸部をそれぞれ形成し、これら凹部と凸部とを相互に干渉させるようにし、中蓋筒内に弁体の頂部を支持させることができる。
【0009】
また、保持筒と固定筒の少なくともいずれか一方に突起を設けることができる。
また、固定筒の通気口の周縁部に、弁体の底部に接触するシール部材を取り付けることが可能である。
また、固定筒の通気口の周縁部と弁体の底部のいずれかに、シール部材を取り付けることが可能である。
また、弁体を有底筒形に形成してその周壁を断面略く字形に曲げ、この弁体の底部に樹脂製の保護層を積層することが可能である。
【0010】
また、固定筒の通気口の周縁部に、保持筒方向に伸びる筒形リブを設けてその先端を傾斜面とし、弁体を有底筒形に形成してその周壁の保持筒側をベローズとし、弁体の底部を、筒形リブの傾斜面に接触する先細りに形成することが可能である。
また、筒形リブの傾斜面に、熱可塑性エラストマーあるいはゴム組成物からなる弾性層を積層すると良い。
また、弁体の先細りの底部に、熱可塑性エラストマーあるいはゴム組成物からなる弾性層を積層すると良い。
【0011】
また、本発明においては上記課題を解決するため、基板を収納する容器本体と、この容器本体の開口部を開閉する着脱自在の蓋体とを備えたものであって、
容器本体と蓋体の少なくともいずれか一方に貫通孔を設け、この貫通孔に請求項1ないし8いずれかに記載のバルブ機構を嵌め付けたことを特徴としている。
【0012】
なお、容器本体を搭載する気体置換装置を含み、この気体置換装置には、バルブ機構の通気口を貫通して弁体を突き上げるピンを設けることができる。
また、容器本体の底部に貫通孔を穿孔し、この貫通孔を基板の容器本体底部に投影される投影領域の外側に位置させることができる。
また、貫通孔とバルブ機構との間にシール部材を介在し、バルブ機構の保持筒あるいは固定筒に、貫通孔の周縁部に引っかかるフランジを設けることができる。
【0013】
ここで、特許請求の範囲におけるフィルタは、単数複数を特に問うものではない。また、弁体は、固定筒の通気口を貫通する各種装置(例えば半導体加工装置、蓋体開閉装置、気体置換装置等)のピンや気体の外圧等により変位して圧縮することが好ましい。基板には、少なくともφ200mm、φ300mm、φ450mmの半導体ウェーハ、ガラス基板、マスクガラス等が含まれる。さらに、基板収納容器は、フロントオープンボックスタイプ、トップオープンボックスタイプ、ボトムオープンボックスタイプのいずれでも良い。
【0014】
本発明によれば、バルブ機構を構成する保持筒、中蓋筒、固定筒を樹脂含有の成形材料製とし、弁体を弾性材料から形成するので、イオン成分を溶出させるバネ等の金属部品を省略することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属部品からイオン成分が溶出して基板の汚染等を招くのを抑制し、しかも、バルブ機構の構成の簡素化を図ることができるという効果がある。
また、保持筒に、固定筒との間に弁体を挟む樹脂製の中蓋筒をシール部材を介して内蔵すれば、保持筒と中蓋筒との間から気体が漏れるのを防ぐことができる。また、中蓋筒の表面を部分的に開口させ、保持筒と中蓋筒の部分的に開口した表面間にフィルタを介在すれば、フィルタが脱落するのを規制することができる。
【0016】
また、保持筒の内周面と中蓋筒の外周面のいずれか一方に凹部を、他方には凸部をそれぞれ形成し、これら凹部と凸部とを相互に干渉させれば、簡易な構成で保持筒から中蓋筒が抜け落ちるのを防ぐことができる。また、中蓋筒内に弁体の頂部を支持させれば、バルブ機構の内部で弁体がふらつくのを抑制することが可能となる。
また、保持筒と固定筒の少なくともいずれか一方に突起を設ければ、この突起を使用することにより、固定筒の取り付け作業の不具合を防止したり、取り付け作業の作業性を向上させることが可能となる。
【0017】
また、固定筒の通気口の周縁部に、弁体の底部に接触するシール部材を取り付ければ、通気口と弁体の底部との間から気体が漏洩するのを防ぐことが可能となる。
また、弁体を有底筒形に形成してその周壁を断面略く字形に曲げれば、弁体の周壁の反発力により、固定筒の通気口に弁体の底部を確実に接触させることができる。また、弁体の底部に樹脂製の保護層を積層すれば、この保護層により、弁体底部の磨耗防止や変形防止が期待できる。
【0018】
また、固定筒の通気口の周縁部に、保持筒方向に伸びる筒形リブを設けてその先端を傾斜面とし、弁体を有底筒形に形成してその周壁の保持筒側をベローズとし、弁体の底部を、筒形リブの傾斜面に接触する先細りに形成すれば、バルブ機構の構成の多様化が期待できる。
また、筒形リブの傾斜面に、熱可塑性エラストマーあるいはゴム組成物からなる弾性層を積層すれば、この弾性層が弁体の底部に弾発的に接触するので、弁体の底部を損傷等から有効に保護することができる。
【0019】
また、貫通孔とバルブ機構との間にシール部材を介在すれば、これらの間の気密性確保が期待できる。さらに、バルブ機構の保持筒あるいは固定筒に、貫通孔の周縁部に引っかかるフランジを設ければ、貫通孔から保持筒又は固定筒が抜け落ちるのを簡易な構成で防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明に係る基板収納容器の好ましい実施形態を説明すると、本実施形態における基板収納容器は、図1ないし図6に示すように、半導体ウェーハを収納するフロントオープンボックスタイプの容器本体1と、この容器本体1の開口した正面部を開閉する蓋体20と、容器本体1に装着される複数のバルブ機構30とを備え、各バルブ機構30を、筒形の保持筒31と、この保持筒31の部分的に開口した表面を被覆するフィルタ37と、保持筒31に内蔵される中蓋筒38と、保持筒31の開口裏面側に螺嵌される固定筒44と、保持筒31の中蓋筒38と固定筒44との間に介在されて気体の流通を制御する弾性の弁体50とから構成するようにしている。
【0021】
各半導体ウェーハは、図示しないが、例えば薄く丸いφ300mmのシリコン製のウェーハからなり、このシリコン製のウェーハの周縁部に位置合わせや識別用のオリフラあるいは平面略半円形のノッチが選択的に形成される。このようなシリコン製の半導体ウェーハは、基板収納容器に収納されて工場間や工程間を搬送され、半導体チップ部品生産のために各種の処理や加工が施される。そして、各種の工程における処理や加工により、表面に回路パターンが形成され、最終的に裏面が半導体チップ部品の厚さに合わせてバックグラインドされた後、個片に切断されて半導体チップ部品が生産される。
【0022】
容器本体1は、図1に示すように、成形用の金型に所定の樹脂を含む成形材料が射出されることにより、25枚の半導体ウェーハを上下に並べて整列収納するフロントオープンボックスに射出成形され、開口した正面部に同形の蓋体20がエンドレスのガスケットを介し着脱自在に嵌合されており、図示しない半導体加工装置や気体置換装置に位置決めして搭載される。
【0023】
容器本体1の相対向する内部両側には、半導体ウェーハの周縁部両側を水平に支持する左右一対のティースが対設され、この一対のティースが容器本体1の上下方向に間隔をおいて複数配列される。また、容器本体1の内部背面には、半導体ウェーハの周縁部後端を上下方向に離隔させる任意のリヤリテーナが選択的に突設される。このリヤリテーナは、容器本体1の上下方向に間隔をおいて複数配列される隔壁棚を備え、振動や衝撃が作用した場合に、隣接する半導体ウェーハ同士が接触したり、ティースの間隔から半導体ウェーハが外れるのを防止するよう機能する。
【0024】
容器本体1の底部前方には図2、図4、図5に示すように、左右一対の貫通孔2がそれぞれ穿孔され、この一対の貫通孔2には、バルブ機構30がエンドレスのシール部材4を介しそれぞれ嵌合されており、一の貫通孔2のバルブ機構30が外部から基板収納容器の内部に不活性ガスを供給する給気用のバルブ機構として機能するとともに、他の貫通孔2のバルブ機構30が基板収納容器から外部に空気を排気する排気用のバルブ機構として機能する。
【0025】
一対の貫通孔2は、半導体ウェーハの容器本体1底面に投影される投影領域の外側にそれぞれ穿孔され、各貫通孔2の周縁部には、下方向に伸長する円筒形の保持リブ3が一体形成される。また、シール部材4としては、特に限定されるものではないが、例えばOリング等が使用される。
【0026】
容器本体1の底部には図2に示すように、略台形のボトムプレート5が取付具を介し一体的に装着され、このボトムプレート5には、複数の取付孔が穿孔されており、この複数の取付孔に着脱自在の識別パッド6が選択的に挿入されることにより、半導体加工装置や気体置換装置の検知センサに基板収納容器の種類等が検知される。
【0027】
ボトムプレート5の中央部には、半導体加工装置や気体置換装置上に容器本体1を固定するためのクランプ孔7が穿孔され、ボトムプレート5の前部両側と後部中央とには、半導体加工装置や気体置換装置の位置決めピンに容器本体1を位置決めする複数の位置決め具8がそれぞれ配設される。また、ボトムプレート5の前部両側には、容器本体1の一対の貫通孔2に対向する対向孔がそれぞれ穿孔され、各対向孔が貫通孔2のバルブ機構30を露出させるよう機能する。
【0028】
容器本体1の天井の中央部には図1に示すように、着脱自在のロボティックハンドル9が装着され、このロボティックハンドル9がOHT(オーバーヘッドホイストトランスファー)と呼ばれる自動の搬送機に保持されることにより、基板収納容器が工程内外の搬送に供される。また、容器本体1の正面部の周縁は、外方向に膨出形成されて蓋体嵌合用のリム部10を形成し、このリム部10の内周面の上下両側には、蓋体20を係止する係止溝11がそれぞれ凹み形成される。
【0029】
蓋体20は、図1に示すように、容器本体1の正面部、換言すれば、リム部10内に着脱自在に嵌合され、施錠機構22を内蔵する筐体21と、この筐体21の開口した正面部(表面部)に装着されて被覆する表面カバー25とを備えて構成され、容器本体1に対して半導体加工装置の蓋体開閉装置により取り付け・取り外しされる。
【0030】
筐体21は、四隅部が丸く面取りされた正面視略矩形に成形され、裏面中央部には、複数の半導体ウェーハの周縁部前端を弾性片により弾発的に保持するフロントリテーナが装着される。この筐体21の裏面周縁部には、枠形の嵌合溝が切り欠かれ、この嵌合溝には、容器本体1のリム部10との間に介在する弾性のガスケットが嵌合される。このガスケットは、例えば耐熱性、難燃性、耐寒性、圧縮特性に優れるシリコーンゴム、フッ素ゴム、各種の熱可塑性エラストマー(例えば、オレフィン系等)等を成形材料として弾性変形可能な枠形に成形される。
【0031】
施錠機構22は、同図に示すように、筐体表面の両側部中央にそれぞれ回転可能に軸支されて外部から操作される一対の回転プレート23と、各回転プレート23に連結されて筐体21の上下内外方向にスライド可能な一対のスライドプレート24と、筐体21周壁の出没孔に出没可能に軸支されてスライドプレート24の先端部に連結支持され、容器本体1の係止溝11に嵌合して干渉する揺動可能な一対の係止爪とを備えて構成される。
【0032】
容器本体1、ボトムプレート5、蓋体20、及び施錠機構22を成形する成形材料の所定の樹脂としては、例えば力学的性質や耐熱性等に優れるポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、環状オレフィン樹脂等があげられる。これらの樹脂には、カーボン、カーボン繊維、金属繊維、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、帯電防止剤、難燃剤等が選択的に添加される。
【0033】
各バルブ機構30の保持筒31、中蓋筒38、及び固定筒44は、所定の樹脂を含む成形材料の射出により射出成形される。所定の樹脂としては、例えば力学的性質や耐熱性等に優れるポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド等があげられる。
【0034】
保持筒31は、図3ないし図6に示すように、容器本体1の貫通孔2に上方から嵌入される円筒形に形成され、開口した表面にフィルタ37を部分的に覆う格子形あるいは放射形の区画リブ32が一体形成されることにより、気体が流通可能なよう部分的に開口しており、容器本体1の貫通孔2との間にOリング等のシール部材4が介在される。この保持筒31は、内周面の開口裏面側に、中蓋筒38用の係合溝33が周方向に切り欠かれ、外周面の開口裏面側には、固定筒44と螺嵌する螺子山34が形成される。
【0035】
保持筒31の表面周縁部には、上方に伸長して容器本体内に位置する複数の位置規制突起35が周方向に所定の間隔をおいて配列形成され、この複数の位置規制突起35が金型から離型される際の回り止めとなったり、固定筒44の螺嵌時の逆回転防止に利用される。また、保持筒31の表面側周縁部には、半径外方向に突出するフランジ36が周設され、このフランジ36が貫通孔2の周縁部に係合して保持筒31の脱落を防止する。
【0036】
フィルタ37は、例えば四フッ化エチレン、ポリエステル繊維、フッ素樹脂からなる多孔質膜、ガラス繊維からなる分子ろ過フィルタ、活性炭素繊維等のろ過材に化学吸着剤を担持させたケミカルフィルタを使用して薄い円板形に形成される。このようなフィルタ37は、保持筒31と中蓋筒38との間に必要数が挟持され、気体を流通させてその中のパーティクルをろ過するよう機能する。複数のフィルタ37を使用する場合、同種のフィルタ37を使用しても良いし、異種のフィルタ37を使用しても良いが、異種のフィルタ37を組み合わせれば、気体中の有機汚染物等をもろ過することができる。
【0037】
中蓋筒38は、図4ないし図6に示すように、保持筒31内に下方から圧入される短い円筒形に形成され、開口した表面に、フィルタ37を支持する区画リブ39が格子形あるいは放射形等に一体形成されることにより、気体が流通可能なよう部分的に開口しており、保持筒31の内周面との間にOリング等のシール部材40が介在される。この中蓋筒38は、区画リブ39の裏面に弁体50用の支持溝41がリング形に形成され、外周面の端部には、リング形の係合爪42が周設されており、この先細りの係合爪42が保持筒31の係合溝33と係合することにより、保持筒31に脱落することなく固定される。
【0038】
固定筒44は、図3ないし図6に示すように、貫通孔2の保持リブ3に下方から嵌入して保持筒31の開口裏面側に螺嵌される有底円筒形に形成され、底部の中心には、気体流通用の丸い通気口45が穿孔されており、この通気口45内の周縁部には、弁体50に接触するOリング等のシール部材46が装着される。固定筒44の内周面には、保持筒31の螺子山34と着脱自在に螺合する螺子溝47が形成される。
【0039】
固定筒44の外部に臨む裏面周縁部には、下方に伸びる複数の突起48が周方向に所定の間隔をおいて配列形成され、この複数の突起48が金型から離型される際の回り止めとなったり、固定筒44の螺嵌時の滑り止めとして機能したり、半導体加工装置や気体置換装置との位置決め等に利用される。また、固定筒44の裏面側周縁部には、半径外方向に突出するフランジ49が周設され、このフランジ49が保持リブ3の周縁部に係合して固定筒44の位置ずれやがたつきを防止する。
【0040】
弁体50は、図4ないし図6に示すように、所定の弾性材料により周壁51が外方向に広がる断面略く字形の有底円筒形、換言すれば、中空の断面略算盤玉形に成形され、保持筒31と固定筒44との螺嵌方向(図4、図5、図6の上下方向)に伸縮可能とされており、平坦な底部52が固定筒44の通気口45にシール部材46を介し接離可能に接触する。この弁体50の弾性材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、環状オレフィン樹脂、ポリエステル系、ポリスチレン系、ポリオレフィン系の熱可塑性エラストマー、ポリウレタン、フッ素、NBR、EPDM等の各種ゴム材料が用いられる。
【0041】
弁体50は、頂部が中蓋筒38の支持溝41に下方から嵌入支持され、平坦な底部52には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂からなる円板形の保護層53が磨耗や変形を防止する観点から積層されており、この保護層53が通気口45のシール部材46に隙間なく密接する。保護層53は、例えば接着、熱溶着、コーティング等の技術により積層される。
【0042】
このような弁体50は、気体を流通させない場合には、屈曲した周壁51の弾性反発力により伸長して固定筒44の通気口45に接触・閉塞し、気体の流通を規制する(図4参照)。
これに対し、気体を流通させる場合には、気体置換装置の通気口45を貫通した給排ピン60の突き上げにより周壁51が圧縮されて固定筒44の通気口45から離隔し、固定筒44の通気口45を開放させることにより、保持筒31と固定筒44との間で気体をフィルタ37を介して流通させる(図5参照)。
【0043】
上記において、容器本体1にバルブ機構30を組み立てて装着する場合には、先ず、保持筒31にフィルタ37とシール部材40付きの中蓋筒38とを順次嵌入して保持筒31の係合溝33に中蓋筒38の係合爪42を係合させ、保持筒31と中蓋筒38の区画リブ32・39間にフィルタ37を適切に挟み、中蓋筒38の支持溝41に弁体50の頂部を嵌入支持させる。
【0044】
こうして中蓋筒38に弁体50を嵌入支持させたら、容器本体1の貫通孔2に保持筒31をシール部材4を介し容器本体1内から嵌入し、貫通孔2の保持リブ3内に固定筒44を嵌入して保持筒31の開口裏面側に固定筒44を螺嵌し、貫通孔2の周縁部に保持筒31のフランジ36を接触させるとともに、保持リブ3の周縁部に固定筒44のフランジ49を接触させれば、容器本体1にバルブ機構30を組み立てて強固に装着することができる。
【0045】
次に、気体置換装置に搭載した基板収納容器の空気を不活性ガスに置換し、基板収納容器内の湿度やクリーン度を一定に保つ場合には、気体置換装置の複数の給排ピン60をそれぞれ上昇させて給気用・排気用のバルブ機構30の通気口45に挿入し、給排ピン60により各バルブ機構30の弁体50を保護層53を介し突き上げて圧縮すれば良い。
【0046】
すると、図5に示すように、給気用バルブ機構30の通気口45から弁体50の底部52が離れて通気口45を開放するので、気体置換装置の不活性ガス(図5の矢印参照)が固定筒44の通気口45、中蓋筒38、フィルタ37、及び保持筒31を順次流通し、基板収納容器の内部に不活性ガスが供給されることとなる。
【0047】
こうして基板収納容器内に不活性ガスが供給され、充満して圧力が高まると、図6に示すように、基板収納容器内の空気(図6の矢印参照)が排気用のバルブ機構30の保持筒31、フィルタ37、中蓋筒38、固定筒44の通気口45を順次流通し、基板収納容器の外部に空気が排気される。この空気の排気により、基板収納容器の空気が不活性ガスに置換されるので、基板収納容器内の湿度やクリーン度を一定に保つことができる。
【0048】
上記構成によれば、バルブ機構30の保持筒31、中蓋筒38、及び固定筒44を樹脂製とするとともに、弁体50を弾性材料から形成するので、金属製のバネを使用する必要が全くない。したがって、基板収納容器の繰り返しの洗浄に伴い、バネが腐食して半導体ウェーハを汚染させたり、バネからイオン成分が溶出して半導体ウェーハの汚染を招くおそれが全くない。
【0049】
また、バルブ機構30を多数の部品から構成するのではなく、保持筒31、フィルタ37、中蓋筒38、固定筒44、及び弁体50から構成するので、部品点数の削減や構成の簡素化を図ることができ、バルブ機構30の組み立ての円滑化、迅速化、容易化等を図ることができる。また、同一のバルブ機構30を給気用としても、排気用としても活用することができるので、組立作業や部品管理が容易となり、給気用の貫通孔2にも、排気用の貫通孔2にも、バルブ機構30を誤ることなく確実に装着することができる。
【0050】
さらに、給排ピン60をバルブ機構30の弁体50に直接接触させるのではなく、底部52の保護層53に接触させるので、弁体50の底部52を直接接触に伴う衝撃から有効に保護することができ、弁体50の底部52の変形や損傷防止が大いに期待できる。
【0051】
次に、図7ないし図9は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、バルブ機構30の固定筒44における通気口45の周縁部に、保持筒31方向に伸長する円筒形の筒形リブ54を立設してその先端を傾斜面55とし、弁体50の底部52を筒形リブ54の傾斜面55に接触する先細りの円錐形に形成するようにしている。
【0052】
バルブ機構30は、上記実施形態と同様、給気用としても、排気用としても用いることができるが、排気用として利用される場合には、上下逆にして容器本体1の貫通孔2に装着される。すなわち、バルブ機構30が排気用のバルブ機構として利用される場合には、容器本体1の貫通孔2に固定筒44が嵌入され、貫通孔2の保持リブ3に保持筒31が下方から嵌入されることとなる。
【0053】
筒形リブ54の先端は断面略漏斗形に形成されることにより傾斜面55が形成されるが、この傾斜面55は、弁体50の円錐形を呈した底部52に隙間なく接触する角度で形成され、熱可塑性エラストマーあるいはゴム組成物からなる弾性層56が積層される。この弾性層56は、例えば貼着、インサート成形、熱可塑性エラストマーやゴム組成物の塗布乾燥により積層され、弁体50の底部52に弾発的に密接してこの底部52を損傷等から有効に保護するよう機能する。
【0054】
弁体50は、有底円筒形に形成され、周壁51の保持筒31側が伸縮可能な連続したベローズ57に屈曲形成される。この弁体50の内周面の頂部には凹部58が周方向に切り欠かれ、この凹部58が中蓋筒38のリブ裏面の支持爪59に嵌入支持される。
【0055】
上記において、気体置換装置に搭載した基板収納容器の空気を不活性ガスに置換し、基板収納容器内の湿度やクリーン度を一定に保つ場合には、気体置換装置から不活性ガス(図8の矢印参照)を給気用のバルブ機構30の通気口45に圧送すれば良い。すると、同図に示すように、固定筒44の筒形リブ54から弁体50の底部52がベローズ57の圧縮により自然に離れて通気口45や筒形リブ54を開放するので、気体置換装置の不活性ガスが固定筒44の通気口45、筒形リブ54、中蓋筒38、フィルタ37、及び保持筒31を順次流通し、基板収納容器の内部に不活性ガスが供給される。
【0056】
こうして基板収納容器内に不活性ガスが供給され、充満して圧力が高まると、図9に示すように、排気用のバルブ機構30の筒形リブ54から弁体50の底部52がベローズ57の圧縮により自然に離れて通気口45や筒形リブ54を開放するので、基板収納容器内の空気(図9の矢印参照)が固定筒44の通気口45、筒形リブ54、中蓋筒38、フィルタ37、及び保持筒31を順次流通し、基板収納容器の外部に空気が排気される。
【0057】
係る空気の排気により、基板収納容器の空気が不活性ガスに置換されるので、基板収納容器内の湿度やクリーン度を一定に保つことができる。その他の部分については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0058】
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、バルブ機構30の構成の多様化を図ることができる他、気体置換装置の給排ピン60を上昇させてバルブ機構30の弁体50を圧縮する必要がないので、気体置換装置の構成の著しい簡素化が期待できるのは明らかである。
【0059】
なお、上記実施形態では25枚の半導体ウェーハを上下に並べて収納する容器本体1を示したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、2、3枚の半導体ウェーハを上下に並べて収納する容器本体1でも良いし、25枚の半導体ウェーハをカセットを介し左右水平方向に並べて収納する容器本体1でも良い。
【0060】
また、上記実施形態では一対の貫通孔2にバルブ機構30をそれぞれ嵌合し、一の貫通孔2のバルブ機構30を給気用バルブとして機能させるとともに、他の貫通孔2のバルブ機構30を排気用バルブとして機能させたが、何らこれに限定されるものではない。例えば、複数(例えば4個や6個等)の貫通孔2にバルブ機構30をそれぞれ嵌合し、一部の貫通孔2のバルブ機構30を給気用として機能させ、残部の貫通孔2のバルブ機構30を排気用として機能させても良い。
【0061】
また、上記実施形態では容器本体1の貫通孔2にバルブ機構30をシール部材4を介して嵌合したが、容器本体1とボトムプレート5とに、対向する貫通孔2をそれぞれ穿孔し、これらの貫通孔2にバルブ機構30をシール部材4を介して嵌合しても良い。また、蓋体20に貫通孔2を穿孔し、この貫通孔2にバルブ機構30をシール部材4を介して嵌合しても良い。
【0062】
また、シール部材4・40・46は、例えばフッ素ゴム、NBRゴム、ウレタンゴム、EPDMゴム、シリコーンゴム等の材料を用いて形成することができる。また、これらの材料からなる芯部材の表面にフッ素シリコーンをコーティングして形成することもできる。また、筒形リブ54の先端に別体のリング等を取り付け、このリングに傾斜面55を形成することも可能である。また、弁体50の底部52を、先細りの円錐台形に形成しても良いし、湾曲膨出部を備えた先細りに形成することも可能である。
【0063】
また、第1の実施形態においては、通気口45のシール部材46に弁体50の保護層53を密接させたが、何らこれに限定されるものではなく、例えば保護層53を省略し、通気口45のシール部材46に弁体50の底部52を直接密接させてシールすることもできる。また、弁体50の底部52にシール部材46を取り付けても良い。さらに、第2の実施形態においては、筒形リブ54の傾斜面55に弾性層56を積層したが、これに限定されるものではなく、弁体50の底部52の傾斜面に弾性層56を設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係るバルブ機構及び基板収納容器の実施形態を模式的に示す全体斜視説明図である。
【図2】本発明に係るバルブ機構及び基板収納容器の実施形態を模式的に示す底面説明図である。
【図3】本発明に係るバルブ機構の実施形態を模式的に示す斜視説明図である。
【図4】本発明に係るバルブ機構及び基板収納容器の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図5】本発明に係るバルブ機構及び基板収納容器の実施形態におけるバルブ機構を給気用のバルブ機構として使用する状態を模式的に示す断面説明図である。
【図6】本発明に係るバルブ機構及び基板収納容器の実施形態におけるバルブ機構を排気用のバルブ機構として使用する状態を模式的に示す断面説明図である。
【図7】本発明に係るバルブ機構及び基板収納容器の第2の実施形態を模式的に示す断面説明図である。
【図8】本発明に係るバルブ機構及び基板収納容器の第2の実施形態におけるバルブ機構を給気用のバルブ機構として使用する状態を模式的に示す断面説明図である。
【図9】本発明に係るバルブ機構及び基板収納容器の第2の実施形態におけるバルブ機構を排気用のバルブ機構として使用する状態を模式的に示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0065】
1 容器本体
2 貫通孔
3 保持リブ
4 シール部材
20 蓋体
30 バルブ機構
31 保持筒
32 区画リブ
33 係合溝(凹部)
34 螺子山
35 位置規制突起(突起)
36 フランジ
37 フィルタ
38 中蓋筒
39 区画リブ
40 シール部材
41 支持溝
42 係合爪(凸部)
44 固定筒
45 通気口
46 シール部材
47 螺子溝
48 突起
49 フランジ
50 弁体
51 周壁
52 底部
53 保護層
54 筒形リブ
55 傾斜面
56 弾性層
57 ベローズ
59 支持爪
60 給排ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略筒形の保持筒と、この保持筒の部分的に開口した表面を被覆するフィルタと、保持筒の開口裏面側に嵌め合わされる有底筒形の固定筒と、保持筒と固定筒との間に介在されて気体の流通を制御する弁体とを含むバルブ機構であって、
保持筒と固定筒とをそれぞれ樹脂含有の成形材料により構成し、固定筒の底部に、気体流通用の通気口を設け、弁体を、弾性材料により形成して保持筒と固定筒との嵌め合わせ方向に伸縮可能とするとともに、この弁体の底部を固定筒の通気口に接離可能に接触させ、弁体を圧縮してその底部を固定筒の通気口から離隔させることにより、保持筒と固定筒との間で気体をフィルタを介して流通させるようにしたことを特徴とするバルブ機構。
【請求項2】
保持筒に、固定筒との間に弁体を挟む樹脂製の中蓋筒をシール部材を介して内蔵し、中蓋筒の表面を部分的に開口させ、保持筒と中蓋筒の部分的に開口した表面間にフィルタを介在した請求項1記載のバルブ機構。
【請求項3】
保持筒の内周面と中蓋筒の外周面のいずれか一方に凹部を、他方には凸部をそれぞれ形成し、これら凹部と凸部とを相互に干渉させるようにし、中蓋筒内に弁体の頂部を支持させるようにした請求項2記載のバルブ機構。
【請求項4】
保持筒と固定筒の少なくともいずれか一方に突起を設けた請求項1、2、又は3記載のバルブ機構。
【請求項5】
固定筒の通気口の周縁部に、弁体の底部に接触するシール部材を取り付けた請求項1ないし4いずれかに記載のバルブ機構。
【請求項6】
弁体を有底筒形に形成してその周壁を断面略く字形に曲げ、この弁体の底部に樹脂製の保護層を積層した請求項1ないし5いずれかに記載のバルブ機構。
【請求項7】
固定筒の通気口の周縁部に、保持筒方向に伸びる筒形リブを設けてその先端を傾斜面とし、弁体を有底筒形に形成してその周壁の保持筒側をベローズとし、弁体の底部を、筒形リブの傾斜面に接触する先細りに形成した請求項1ないし4いずれかに記載のバルブ機構。
【請求項8】
筒形リブの傾斜面に、熱可塑性エラストマーあるいはゴム組成物からなる弾性層を積層した請求項7記載のバルブ機構。
【請求項9】
基板を収納する容器本体と、この容器本体の開口部を開閉する着脱自在の蓋体とを備えた基板収納容器であって、
容器本体と蓋体の少なくともいずれか一方に貫通孔を設け、この貫通孔に請求項1ないし8いずれかに記載のバルブ機構を嵌め付けたことを特徴とする基板収納容器。
【請求項10】
貫通孔とバルブ機構との間にシール部材を介在し、バルブ機構の保持筒あるいは固定筒に、貫通孔の周縁部に引っかかるフランジを設けた請求項9記載の基板収納容器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−277687(P2009−277687A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124631(P2008−124631)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】