説明

バルブ部品組み付け用治具

【課題】簡単な構造及び操作により前記誤組み付けの問題を回避できるバルブ部品組み付け用治具を提供すること。
【解決手段】スプール穴4dの内径より小径で、正規のスプリング9の内径より大径の外径を有し、スプリング9の端面9aに当接する座面11cを有する棒状の治具本体11aと、該治具本体11aに前記座面11cの反対側に延びるように形成され、該治具本体11aに押し付け力を作用させる押圧部11bとを有し、前記治具本体11aの座面11cには、キー孔4eと連通可能のキー溝11dが形成され、前記治具本体11aの軸芯部には、前記正規のスプリング9より小径の非正規のスプリング19の外径より大径の逃げ孔11eが形成されている治具11。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車の油圧コントロールバルブの、バルブボディにバルブ部品を組み付ける場合に用いられる治具に関する。
【背景技術】
【0002】
前記自動車の油圧コントロールバルブとして、ブロック状のバルブボディに複数のスプール穴を形成し、該各スプール穴にスプール,スプリング等のバルブ部品を軸方向に進退可能に挿入した構造のものがある。
【0003】
前記油圧コントロールバルブでは、前記スプール及びスプリングを簡単な操作で前記スプール穴内に保持可能とする抜け止め構造が要請される。
【0004】
またバルブ部品の数が増加すると、例えば径の小さい非正規のスプリングをスプール穴内に組み付けてしまうといういわゆる「誤組み付け」の問題が生じるおそれがあり、この問題を回避できることが要請される。
【0005】
前記スプール及びスプリングの抜け止め構造として、従来、例えば特許文献1に開示されたものがある。この従来構造では、バルブボディをロアボディとアッパボディとで構成し、ロアボディに複数のスプール穴を形成し、該ロアボディの合わせ面からスプール穴に達するキー孔を設け、前記スプール及びスプリングを前記スプール穴内に挿入するとともに、スプリングを内方に押し込んだ状態で、キーを前記キー孔に挿入して該キーによりスプリングの端面を支持し、もってスプリングの抜け止めとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−157161号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献では、簡単な構造でスプリングの抜け止めを実現できる。しかし、仮に直径の小さい非正規のスプリングを誤ってスプール穴に挿入した場合でも、前記キーを挿入することにより、そのまま組み付けられてしまうため、前記誤組み付け防止の要請には応えられない。
【0008】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、簡単な構造及び操作により前記誤組み付けの問題を回避できるバルブ部品組み付け用治具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、バルブボディに形成されたスプール穴にスプール及びスプリングを挿入し、該スプリングを内方に押し込むとともに、前記バルブボディのスプール穴開口部近傍に形成され、前記スプール穴に達するキー孔にキーを挿入することにより前記スプリングを抜け止めするバルブ部品の組み付けにおいて前記スプリングを押し込む治具であって、前記スプール穴の内径より小径で、正規のスプリングの内径より大径の外径を有し、スプリングの端面に当接する座面を有する棒状の治具本体と、該治具本体に前記座面の反対側に延びるように形成され、該治具本体に押し付け力を作用させる押圧部とを有し、前記治具本体の座面には、前記キー孔と連通可能のキー溝が形成され、前記治具本体の軸芯部には、前記正規のスプリングより小径の非正規のスプリングの外径より大径の逃げ孔が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るバルブ部品組み付け用治具によれば、治具本体の座面で正規のスプリングを押し込むことにより、前記バルブボディのキー孔に治具本体のキー溝を一致させることができ、キー孔にキーを挿入することにより、スプリングの抜け止めを行うことができる。
【0011】
一方、前記治具本体で、前記正規のスプリングより小径の非正規のスプリングを押し込もうとすると、該非正規のスプリングの端部が前記逃げ孔内に入り込むので、前記キー孔にキー溝を一致させても、前記逃げ孔内に位置する前記非正規のスプリングの端部が邪魔になってキー孔にキーを挿入できない。その結果、作業者は、非正規のスプリングに気づき、誤組み付けを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例1による治具が使用される油圧コントロールバルブの回路図である。
【図2】前記油圧コントロールバルブのバルブボディの一部断面平面図である。
【図3】前記治具の斜視図である。
【図4】前記治具による正規のスプリング組み付け状態を示す断面側面図である。
【図5】前記治具による非正規のスプリング組み付け状態を示す断面側面図である。
【図6】本発明の実施例2によるバルブ部品組み付け用治具の断面側面図である。
【図7】本発明の実施例3によるバルブ部品組み付け用治具の断面側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
図1ないし図5は、本発明の実施例1による自動車用油圧コントールバルブにおけるバルブ部品組み付け用治具を説明するため図である。
【0015】
図1は、自動車の無段変速装置に使用される油圧制御装置の、マニュアル弁1,ガレージシフト弁(切り替え弁)2及びアキュームレータ3部分の回路を示す。
【0016】
前記マニュアル弁1は、シフトレバーと機械的に連結された手動操作弁であり、手動操作によりP,R,N,D,S,Bの各レンジに切り替えられ、前記ガレージシフト弁2から供給される油圧を直結クラッチC1又は逆転ブレーキB1に導くものである。
【0017】
前記ガレージシフト弁2は、シフトレバーをNからD又はNからRに切り替えた時(ガレージシフト時)に、前記逆転ブレーキB1又は直結クラッチC1への供給圧を過渡制御できるように油路を切り替えるための切り替え弁である。
【0018】
前記アキュームレータ3は、前記ガレージシフト弁2のクラッチ制御圧の油圧脈動を吸収するためのものであり、以下、詳述するバルブ部品組み付け用の治具を用いてバルブボディに組み付けられる。
【0019】
図2において、4は前記油圧制御装置のバルブボディを構成するアッパボディを示している。前記バルブボディはブロック状の前記アッパボディ4と、これの合面4a上に結合されたロアボディ(図示せず)で構成されている。
【0020】
前記バルブボディは、前記油圧制御装置を構成する各種の弁を内蔵しているが、図2には、各種の弁のうち前記ガレージシフト弁2及び前記アキュームレータ3のみが図示されている。
【0021】
前記ガレージシフト弁2は、前記アッパボディ4に形成されたスプール穴4b内にスプリング5及びスプール6を挿入した構造のものである。前記スプール6は、これを内方に押し込んだ状態で、前記スプール穴4bの開口4b′近傍に形成されたキー孔4c内にキー7を挿入することにより抜け止めされている。
【0022】
また前記アキュームレータ3は、前記アッパボディ4に形成されたスプール穴4d内にスプール8及びスプリング9を挿入した構造のものである。前記スプリング9は、これを内方に押し込んだ状態で、前記スプール穴4dの開口4d′近傍に形成されたキー孔4e内にキー10を挿入することにより抜け止めされている。
【0023】
前記スプール8は、前記スプール穴4d内に摺動可能に嵌挿された本体部8aと、これより小径に一体形成されたガイド部8bとを有し、前記スプリング9の一方の端面9bは本体部8aとガイド部8bの段部に係止し、他方の端面9aは前記キー10に係止している。前記スプール8の本体部8aと前記スプール穴4dの閉塞された底部4fとで囲まれた空間が蓄圧室Aとなっている。
【0024】
図3は、前記アキュームレータ3のスプリング9を内方に押し込んでキー10を挿入する際に使用される治具11を示している。この治具11は、棒状の治具本体11aと、この治具本体11aより小径に一体形成された棒状の押圧部11bとを有する。
【0025】
前記治具本体11aの外径は、前記スプール穴4dの内径より僅かに小径で、かつ前記正規のスプリング9の内径より大径に設定されている。また前記治具本体11aの先端面は、前記スプリング9の端面9aに当接する座面11cとなっている。そして前記座面11cには、キー溝11dが径方向に貫通するように形成されている。
【0026】
さらにまた、前記治具本体11aの軸芯部には、逃げ孔11eが形成されている。この逃げ孔11eの内径は、前記正規のスプリング9の外径より小径で、非正規のスプリングの外径より大径に設定されている。
【0027】
前記アキュームレータ3の組み付け方法を説明する。図4に示すように、スプール穴4d内にスプール8を挿入し、続いてスプリング9を挿入する。そして前記治具11の座面11cをスプリング9の端面9aに当て、該スプリング9を内方に押し込み、治具11のキー溝11dをキー孔4eに一致させ、続いてキー孔4eにキー10を挿入し、治具11を抜き取る。これによりスプリング9の端面9aがキー10に当たり、スプリング9の抜け止めがなされる。なお、前記治具11でスプリング9押し込んだとき、スプリング9の端面9aは前記座面11cに押されて内方に位置しているので、キー10を挿入する際の邪魔になることはない。
【0028】
一方、仮に、前記正規のスプリング9より小径の非正規のスプリング19(例えば前記ガレージシフト弁2のスプリング5が相当する)を誤ってスプール穴4d内に挿入した場合には、図5に示すように、前記治具11でスプリング19を内方に押し込もうとすると、スプリング19の端部19aが前記逃げ孔11e内に入り込み、治具11のキー溝11dをキー孔4eに一致させても、スプリング19の端部19aが邪魔になるため、キー孔4eにキー10を挿入することができず、作業者は、非正規のスプリング19を挿入したことに気づくこととなる。
【0029】
このように本実施例では、治具本体11aの座面11cで正規のスプリング9を押し込むことにより、バルブボディのキー孔4eに治具本体11aのキー溝11d一致させることができ、キー孔4eにキー10を挿入することにより、スプリング9の抜け止めを行うことができる。
【0030】
一方、前記治具本体11aで、前記正規のスプリング9より小径の非正規のスプリング19を押し込もうとすると、該非正規のスプリング19の端部19aが前記逃げ孔11e内に入り込むので、前記キー孔4cにキー溝11dを一致させても、前記逃げ孔11e内に位置する非正規のスプリング19の端部19aが邪魔になってキー孔4eにキー10を挿入できない。その結果、作業者は、非正規のスプリング19に気づき、誤組み付けを防止できる。
【実施例2】
【0031】
図6は本発明の実施例2による治具11を示す。本実施例2では、座面11c′は、テーパ状をなしており、該テーパ状の座面11c′の軸芯部に逃げ孔11eが形成されている。
【0032】
本実施例2では、正規のスプリングの場合は支障なく抜け止めを行うことができる。一方、小径の非正規のスプリング19については、これの軸線がスプール穴4dの軸線からずれた状態でスプール穴4d内に挿入されることが考えられる。このような場合、前記テーパ状の座面11c′によりスプリング19をスプール穴4dと同軸となるように導く、いわゆる調芯作用が得られ、非正規のスプリング19の端部19aを孔11e内に確実に誘導できる。その結果、より一層確実に、かつ簡単に誤組み付けを防止できる。
【実施例3】
【0033】
図7は、本発明の実施例3による治具11を示す。本実施例3では、逃げ孔11eが治具11の治具本体11aから押圧部11bまで貫通している。
【0034】
本実施例3では、逃げ孔11eが治具11全体を貫通しているので、非正規のスプリング19をスプール穴4d内に押し込もうとすると、端部19aが外方に露出するため該スプリング19を容易に抜き取ることができる。また逃げ孔11eが貫通しているので、底面を有する逃げ孔に比較して機械加工が容易であり、治具の製造コストを低減できる。
【0035】
なお、前記各実施例では押圧部11bが治具本体11aより小径の場合を説明したが、押圧部を治具本体と同一外径に形成しても良い。このようにした場合には、治具をパイプ材で構成できるので、治具の製造コストをより一層低減できる。
【符号の説明】
【0036】
4 アッパボディ(バルブボディ)
4d スプール穴
4d′ スプール穴開口部
4e キー孔
8 スプール
9 正規のスプリング
9a スプリングの端面
10 キー
11 治具
11a 治具本体
11b 押圧部
11c 座面
11d キー溝
11e 逃げ孔
19 非正規のスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブボディに形成されたスプール穴にスプール及びスプリングを挿入し、該スプリングを内方に押し込むとともに、前記バルブボディのスプール穴開口部近傍に形成され、前記スプール穴に達するキー孔にキーを挿入することにより前記スプリングを抜け止めするバルブ部品の組み付けにおいて前記スプリングを押し込むための治具であって、
前記スプール穴の内径より小径で、正規のスプリングの内径より大径の外径を有し、スプリングの端面に当接する座面を有する棒状の治具本体と、
該治具本体に前記座面の反対側に延びるように形成され、該治具本体に押し付け力を作用させる押圧部とを有し、
前記治具本体の座面には、前記キー孔と連通可能のキー溝が形成され、前記治具本体の軸芯部には、前記正規のスプリングより小径の非正規のスプリングの外径より大径の逃げ孔が形成されている
ことを特徴とするバルブ部品組み付け用治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−194548(P2011−194548A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67005(P2010−67005)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】