説明

パウダースラッシュ成形装置用型構造

【課題】主に、樹脂成形品をパウダースラッシュ成形型から容易且つ効率的に脱型させ得るようにする。
【解決手段】加熱されたパウダースラッシュ成形型2に樹脂パウダーを供給することにより、パウダースラッシュ成形型2に樹脂パウダーを溶融付着させて樹脂成形品3を成形可能とすると共に、冷却固化された樹脂成形品3をパウダースラッシュ成形型2から引き剥がすことにより、脱型を行わせ得るよう構成されたパウダースラッシュ成形装置用型構造であって、樹脂成形品3の不要部位8に対応するパウダースラッシュ成形型2の不要部位成形部分9に、樹脂成形品3を部分的に剥離させるための剥離用エア11を吹出可能な剥離用エア吹出部12を設けると共に、剥離用エア吹出部12に対して、剥離用エア11を供給可能なエア供給回路部13を設けるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パウダースラッシュ成形装置用型構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両には、車室内の前部にインストルメントパネルが設けられている。このようなインストルメントパネルには、パウダースラッシュ成形装置によって成形された樹脂成形品を使用したものが存在している。
【0003】
上記したパウダースラッシュ成形装置は、加熱されたパウダースラッシュ成形型に樹脂パウダーを供給することにより、パウダースラッシュ成形型に樹脂パウダーを溶融付着させて樹脂成形品を成形可能とすると共に、冷却固化された樹脂成形品をパウダースラッシュ成形型から引き剥がすことにより、脱型を行わせ得るように構成したものである。
【0004】
このようなパウダースラッシュ成形装置としては、従来、例えば、特許文献1〜特許文献4などが知られている。
【0005】
例えば、特許文献1のものでは、パウダースラッシュ成形型と樹脂成形品との間に高圧ガスを吹込み、樹脂成形品全体を風船のように膨らませることによって、脱型作業を容易化し得るようにしている。
【0006】
また、特許文献2のものでは、パウダースラッシュ成形型の製品面と同一面を持つ可動弁を設けて、可動弁にて高圧ガスの吹込口への樹脂パウダーやゾル(樹脂パウダーが溶融したものなど。以下同様)の侵入を防止させることによって、製品不良と脱型の容易化とを両立させるようにしている。
【0007】
そして、特許文献3のものでは、パウダースラッシュ成形型が各工程間を移動するようにした成形システムに対して、高圧ガスの吹込口への樹脂パウダーやゾルの侵入を防止させる機能を各工程の設備に持たせることにより、工程が変っても、パウダースラッシュ成形型と樹脂成形品との間に高圧ガスを吹込んで脱型作業の補助や自動化を行わせ得るようにしている。
【0008】
或いは、特許文献4のものでは、成形形状よりも一回り小さい受面を設けることによって、樹脂成形品の全面剥離を行わせ得るようにしている。
【特許文献1】実用新案公報平03−040575
【特許文献2】実開平05−09720号公報
【特許文献3】特開平11−268059号公報
【特許文献4】特開2000−301554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1のものには、全体を風船のように膨らませることによって、樹脂成形品に伸びが発生し、寸法変化(狂い)が生じる、という問題があった。
【0010】
また、特許文献2のものには、パウダースラッシュ成形型の構造が複雑になるため、パウダースラッシュ成形型の製作に時間とコストがかかる、という問題があった。
【0011】
更に、特許文献3のものには、脱型工程を自動化するために、必要となる設備が多くなると共に、設備コストが高くなる、という問題があった。
【0012】
或いは、特許文献4のものには、成形形状よりも一回り小さい受面を必要とするため、脱型工程でのコストが増える、という問題があった。
【0013】
また、上記した高圧ガスの温度については、上記した各特許文献では、特に考慮されていなかった。
【0014】
なお、上記した以外にも、本発明に至る過程で新たな問題やその他の問題などが生じることが考えられるが、そのようなものについては、本発明の中で説明することによって、この欄での記載に代えることができるものとする。但し、必要な場合には、この欄に流用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、加熱されたパウダースラッシュ成形型に樹脂パウダーを供給することにより、パウダースラッシュ成形型に樹脂パウダーを溶融付着させて樹脂成形品を成形可能とすると共に、冷却固化された樹脂成形品をパウダースラッシュ成形型から引き剥がすことにより、脱型を行わせ得るよう構成されたパウダースラッシュ成形装置用型構造において、樹脂成形品の不要部位に対応するパウダースラッシュ成形型の不要部位成形部分に、樹脂成形品を部分的に剥離させるための剥離用エアを吹出可能な剥離用エア吹出部を設けると共に、該剥離用エア吹出部に対して、剥離用エアを供給可能なエア供給回路部を設けたことを特徴としている。
【0016】
請求項2に記載された発明は、上記において、前記剥離用エア吹出部が、前記パウダースラッシュ成形型に対し、複数箇所設けられ、各箇所ごとに、前記エア供給回路部が独立して設けられたことを特徴としている。
【0017】
請求項3に記載された発明は、上記において、前記各エア供給回路部が、前記パウダースラッシュ成形型に対して、それぞれ着脱可能に構成されたことを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載された発明は、上記において、前記エア供給回路部が、剥離用エアの供給圧力を調整可能なレギュレータ部と、剥離用エアを供給または停止可能な電磁開閉弁と、一定時間供給後に剥離用エアを停止可能に構成されたタイマー部と、注入圧力が解放されたことを検出した時に剥離用エアを停止可能に構成された圧力センサー部とを備えたことを特徴としている。
【0019】
請求項5に記載された発明は、上記において、前記不要部位成形部分のうち、パウダースラッシュ成形型の中間部に位置するものに対して設けられる剥離用エア吹出部の空気穴を、パウダースラッシュ成形型の内方へ向けて剥離用エアを吹出し得るように構成したことを特徴としている。
【0020】
請求項6に記載された発明は、上記において、前記剥離用エア吹出部から吹出される剥離用エアを、脱型時の樹脂成形品の温度とほぼ等しい温度に加熱可能な剥離用エア加熱装置を設けたことを特徴としている。
【0021】
請求項7に記載された発明は、上記において、前記剥離用エア加熱装置が、剥離用エアの加熱温度を設定、調整可能な温度設定部を備えたことを特徴としている。
【0022】
請求項8に記載された発明は、上記において、脱型時の樹脂成形品の温度を検出する成形品温度センサーを備えると共に、前記剥離用エア加熱装置が、成形品温度センサーからの検出温度に基づいて剥離用エアの加熱温度を所定値に維持可能に構成されたことを特徴としている。
【0023】
なお、上記は、それぞれ、所要の作用効果を発揮するための必要最小限の構成であり、上記構成の詳細や、上記されていない構成については、それぞれ自由度を有しているのは勿論である。そして、上記構成の記載から読取ることが可能な事項については、特に具体的に記載されていない場合であっても、その範囲内に含まれるのは勿論である。また、上記以外の構成を追加した場合には、追加した構成による作用効果が加わることになるのは勿論である。
【発明の効果】
【0024】
請求項1の発明によれば、加熱されたパウダースラッシュ成形型に樹脂パウダーを供給することにより、パウダースラッシュ成形型に樹脂パウダーを溶融付着させて樹脂成形品を成形可能とすると共に、冷却固化された樹脂成形品をパウダースラッシュ成形型から引き剥がすことにより、脱型を行わせ得るよう構成されたパウダースラッシュ成形装置用型構造において、樹脂成形品の不要部位に対応するパウダースラッシュ成形型の不要部位成形部分に、樹脂成形品を部分的に剥離させるための剥離用エアを吹出可能な剥離用エア吹出部を設けると共に、該剥離用エア吹出部に対して、剥離用エアを供給可能なエア供給回路部を設けたことにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0025】
即ち、エア供給回路部からの剥離用エアを、剥離用エア吹出部から、樹脂成形品へ向けて吹出させることにより、パウダースラッシュ成形型から樹脂成形品を部分的に剥離させることができる。この際、剥離用エア吹出部が、樹脂成形品の不要部位に対応するパウダースラッシュ成形型の不要部位成形部分に設けられているので、樹脂成形品の必要部位に、伸びによる寸法変化などの影響を与えることがない。また、樹脂成形品全体を大量の剥離用エアで一気に剥離させるようにする場合に比べて、装置構成を簡略化すると共に、少ない剥離用エアでエネルギーロスなく効率的且つ確実に部分的に剥離させることができる。よって、樹脂成形品をパウダースラッシュ成形型から容易且つ効率的に脱型させることが可能となる。
【0026】
請求項2の発明によれば、上記構成により、以下のような作用効果を得ることができる。即ち、剥離用エア吹出部が、パウダースラッシュ成形型に対し、複数箇所設けられたことにより、パウダースラッシュ成形型に対する樹脂成形品の部分的な剥離を複数箇所で発生させることができるため、より容易に樹脂成形品をパウダースラッシュ成形型から脱型させることができるようになる。また、複数箇所の剥離用エア吹出部に対し、エア供給回路部を独立して設けることにより、各エア供給回路部を、その設置箇所に応じた最適な設定にすることができるようになる。また、エア供給回路部を独立して設けることにより、1箇所が剥離された時に、そこからエア圧が抜けて全体がそれ以上機能しなくなってしまうようなことが防止される。
【0027】
請求項3の発明によれば、上記構成により、以下のような作用効果を得ることができる。即ち、各エア供給回路部を、パウダースラッシュ成形型に対して、それぞれ着脱可能として、必要な時にのみエア供給回路部をパウダースラッシュ成形型に接続することにより、装置構成を簡略化して、成形時(粉付時など)におけるパウダースラッシュ成形型の動作を容易化することができる。また、加熱時にエア供給回路部を取外しておくことにより、パウダースラッシュ成形型の加熱質量を低減して、エネルギーロスを防止することができる。
【0028】
請求項4の発明によれば、上記構成により、以下のような作用効果を得ることができる。即ち、エア供給回路部に設けられたレギュレータ部によって、剥離用エアの供給圧力を調整することにより、供給圧力を自在に設定することができる。エア供給回路部に設けられた電磁開閉弁によって、剥離用エアの供給または停止を選択的に行わせることができる。エア供給回路部に設けられたタイマー部によって、剥離用エアの供給を一定時間供給後に自動的に停止させることにより、剥離用エアを必要な量だけ供給することができる。このタイマー部は、剥離用エアの供給時間を自在に設定することが可能である。エア供給回路部に設けられた圧力センサー部が、剥離用エアの注入圧力が解放されたことを検出した時にタイマー部による供給時間中であっても、剥離用エアの供給を自動的に停止させることができる。なお、剥離用エアの供給停止は、タイマー部および圧力センサー部が、電磁開閉弁に指令を送ることによって行われる。これらにより、各部位のそれぞれに対して、個別に実際に必要となった量だけ剥離用エアを吹出させて、樹脂成形品の部分的な剥離を全部の箇所に対してほぼ確実に行わせることが可能となる(個別対応、全箇所確実作動)。
【0029】
また、余分な剥離用エアを吹出させないようにすることにより、部分的に剥離された樹脂成形品の暴れを防止して、確実に樹脂成形品を手で掴んで引き剥がせるようになる。更に、余分な剥離用エアを吹出させないようにすることにより、パウダースラッシュ成形型の温度低下を防止して、パウダースラッシュ成形型に対する加熱時間の増大によるサイクルタイムの増加や、樹脂パウダーの溶融不良などを防止し、且つ、エネルギーロスを防止することができる。
【0030】
請求項5の発明によれば、上記構成により、以下のような作用効果を得ることができる。即ち、パウダースラッシュ成形型の中間部に位置する中間不要部位成形部分では、内方吹出用空気穴から、パウダースラッシュ成形型の内方(縁部から遠ざかる方向、中央部など)へ向けて剥離用エアが吹出されることとなる。これにより、縁部から遠い側に位置することによって剥離が難しくなりがちな部分を、剥離用エアにて強制的且つ確実に剥離させることができるようになる。これにより、樹脂成形品をパウダースラッシュ成形型からより一層容易且つ効率的に脱型させることが可能となる。
【0031】
請求項6の発明によれば、上記構成により、以下のような作用効果を得ることができる。即ち、剥離用エア加熱装置によって、剥離用エア吹出部から吹出される剥離用エアを、脱型時の樹脂成形品の温度とほぼ等しい温度に加熱することができる。このように、剥離用エアを、脱型時の樹脂成形品の温度とほぼ等しい温度に加熱して剥離用エア吹出部から吹出させるようにすることにより、剥離用エアが当った部分と当らなかった部分とで、樹脂成形品の温度をほぼ等しく保たせることができる。以て、樹脂成形品に部分的な温度差が生じることによって、樹脂成形品の脱型時の剥離力に対する伸びが部分的に異なりこれによる想定外の寸法誤差等が発生する虞がある等の悪影響が生じるのを回避することが可能になる。また、剥離用エア吹出部から吹出される剥離用エアが、脱型時の樹脂成形品の温度とほぼ等しい温度に調整されることにより、パウダースラッシュ成形型の型温度が部分的に、必要以上に低下されてしまうこと、および、型温度の部分的な低下による熱的損失の発生を防止することができる。
【0032】
請求項7の発明によれば、上記構成により、以下のような作用効果を得ることができる。即ち、剥離用エア加熱装置に備えられた温度設定部によって、剥離用エアの加熱温度を、任意、簡単、且つ、自在に設定、調整することができる。これにより、成形条件または成形材料の違いや、成形中の状況の変化に応じた対応などを容易に行わせることができる。
【0033】
請求項8の発明によれば、上記構成により、以下のような作用効果を得ることができる。即ち、成形品温度センサーが、脱型時の樹脂成形品の温度を検出し、前記剥離用エア加熱装置が、成形品温度センサーからの検出温度に基づいて剥離用エアの加熱温度を所定値に維持する。これにより、自動的に正確な温度調整を行わせることなどが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は、主に、樹脂成形品をパウダースラッシュ成形型から容易且つ効率的に脱型させ得るようにすることを目的としている。
【0035】
以下、本発明を具体化した実施例について、図示例と共に説明する。
【0036】
なお、以下の実施例は、上記した背景技術や発明が解決しようとする課題などと密接な関係があるので、必要が生じた場合には、互いに、記載を流用したり、必要な修正を伴って流用したりすることができるものとする。
【実施例1】
【0037】
図1〜図5および図6、図7は、この発明の第1の実施例およびその変形例を示すものである。
【0038】
<構成> まず、構成について説明する。
【0039】
自動車などの車両には、車室内の前部にインストルメントパネルなどの樹脂部品が設けられている。このようなインストルメントパネルには、パウダースラッシュ成形装置によって成形された樹脂成形品を使用したものが存在している。
【0040】
上記したパウダースラッシュ成形装置1は、図1に示すような、加熱されたパウダースラッシュ成形型2に樹脂パウダーを供給することにより、パウダースラッシュ成形型2に樹脂パウダーを溶融付着させて樹脂成形品3を成形可能とすると共に、冷却固化された樹脂成形品3をパウダースラッシュ成形型2から引き剥がすことにより、脱型を行わせ得るように構成したものである。
【0041】
ここで、パウダースラッシュ成形装置1は、図示しない、パウダーボックスを備えている。このパウダーボックスは、内部に樹脂パウダーを収容可能な容器体である。そして、このパウダーボックスは、樹脂パウダーを装入可能な開口部を備えている。更に、パウダースラッシュ成形装置1は、パウダースラッシュ成形型2によって閉口されたパウダーボックスを回転可能な図示しない回転装置を備えている。
【0042】
一方、パウダースラッシュ成形型2は、片面(表面)に樹脂成形品3を成形可能な成形面5を有している。この成形面5は、樹脂成形品3の必要部位6に対応する必要部位成形部分7と、樹脂成形品3の不要部位8に対応する不要部位成形部分9とを備えている。樹脂成形品3は、上記した必要部位6と不要部位8とを備えている。なお、樹脂成形品3の必要部位6とは、樹脂成形品3が最終製品となった時に残される部分である。樹脂成形品3の不要部位8とは、樹脂成形品3が最終製品となった時に除去される部分である。不要部位8は、例えば、最終製品の周縁部に位置する製品周縁部分や、最終製品の中間部に位置する製品開口部分などに形成される。
【0043】
パウダースラッシュ成形型2は、成形面5を内側へ向けた状態で、パウダーボックスの開口部に取付けられる。パウダースラッシュ成形型2は、約250℃〜300℃に加熱される。パウダースラッシュ成形型2の加熱には、例えば、高温のオイルなどが用いられる。また、成形後に、パウダースラッシュ成形型2は、約50℃まで冷却され、樹脂成形品3は、ほぼ同温に冷却固化される。その後、冷却されたパウダースラッシュ成形型2から、手作業で樹脂成形品3が引き剥がされることになる。
【0044】
そして、以上のような基本構成に対し、この実施例のものでは、以下のような構成を備えるようにする。
【0045】
(1)樹脂成形品3の不要部位8に対応するパウダースラッシュ成形型2の不要部位成形部分9に、樹脂成形品3を部分的に剥離させるための剥離用エア11を吹出可能な剥離用エア吹出部12を設ける。そして、剥離用エア吹出部12に対して、剥離用エア11を供給可能なエア供給回路部13(エア供給回路部13については図2に示されているので、以下、図2も併せて参照のこと)を設ける。
【0046】
ここで、剥離用エア吹出部12は、パウダースラッシュ成形型2の上記部分に貫通形成された空気穴15と、パウダースラッシュ成形型2の他面(裏面)に空気穴15を覆うように設けられた空気室16とを備えている。この場合、各剥離用エア吹出部12の空気穴15は、小孔を複数設けたものとされている。但し、各剥離用エア吹出部12の空気穴15は、必要な場合には、大き目の孔を単数または少数設けたものなどとすることもできる。
【0047】
(2)この剥離用エア吹出部12は、パウダースラッシュ成形型2に対し、複数箇所設けられている。また、剥離用エア吹出部12は、各箇所ごとに、エア供給回路部13が独立して設けられている。
【0048】
この場合、例えば、剥離用エア吹出部12は、4系統設けられている。但し、これに限るものではなく、これ以上としても、これ以下としても良い。そして、この場合、両端部の2系統の剥離用エア吹出部12は、製品周縁部分に対して設けられ、中間部の2系統の剥離用エア吹出部12は、製品開口部分に対して設けられている。但し、これに限るものではなく、剥離用エア吹出部12は、必要な箇所に必要な個数設けるようにすれば良い。
【0049】
(3)そして、各エア供給回路部13は、パウダースラッシュ成形型2に対して、それぞれ着脱可能に構成されている。
【0050】
ここで、着脱可能となるようにするために、剥離用エア吹出部12は、空気室16からパウダースラッシュ成形型2の側面部分17などへ向けて延びるエア注入管路18と、このエア注入管路18の端部に設けられたエア注入カプラ19とを備えている(図1)。このエア注入カプラ19は、エア供給回路部13を着脱可能とするための連結部である。これに対し、エア供給回路部13は、エア注入カプラ19と対応する端部に、エア注入カプラ19に対して着脱可能な連結部を有している。エア注入カプラ19と、エア供給回路部13の端部とに設けられた連結部とは、ワンタッチで着脱が可能な、いわゆるワンタッチジョイントなどとするのが好ましい。この場合、エア注入カプラ19側の連結部が雌型、エア供給回路部13端部の連結部が雄型とされているが、逆であっても良い。即ち、エア注入カプラ19側の連結部を雄型とし、エア供給回路部13端部の連結部を雌型としても良い。
【0051】
(4)上記エア供給回路部13は、コンプレッサなどのエア供給源21からの剥離用エア11の供給圧力を調整可能なレギュレータ部22と、剥離用エア11を供給または停止可能な電磁開閉弁23と、一定時間供給後に剥離用エア11を停止可能に構成されたタイマー部24と、注入圧力が解放されたことを検出した時に剥離用エア11を停止可能に構成された圧力センサー部25とを備えている。
【0052】
ここで、各エア供給回路部13は、エア供給源21とエア注入カプラ19との間を結ぶエア供給管路26を備えており、レギュレータ部22と電磁開閉弁23と圧力センサー部25とは、エア供給管路26の途中に上流側から順に直列に設けられている。また、タイマー部24は、電磁開閉弁23に付設されている。そして、タイマー部24および圧力センサー部25は、電磁開閉弁23に指令を送るように構成されている。そして、エア供給管路26のエア供給源21とは反対側の端部が、上記した連結部とされている。
【0053】
(5)また、上記の変形例として、図6、図7に示すように、上記した不要部位成形部分9のうち、パウダースラッシュ成形型2の中間部に位置するもの(例えば、製品開口部分などに対応するもの。中間不要部位成形部分9’)に対して設けられる剥離用エア吹出部12の空気穴15を、パウダースラッシュ成形型2の内方(縁部から遠ざかる方向、中央部など)へ向けて剥離用エア11を吹出し得るように構成する(内方吹出用空気穴15’)。
【0054】
(5a)この場合、好ましくは、中間不要部位成形部分9’に、成形面5側へ僅かに隆起する山型の小隆起部31を設け、この小隆起部31の内方へ向いた斜面部分に内方吹出用空気穴15’を形成させるようにする。
【0055】
(5b)上記した小隆起部31は、成形時に、樹脂成形品3の形状に悪影響を及ぼすことがなく、また、脱型時に引掛りなどの不具合を起こすことのないような形状で、且つ、できるだけ小さなもの(または最小の)ものとなるようにする。小隆起部31は、例えば、肉厚が他の部分とほぼ同じになるような、ドーム形状のものにする。
【0056】
(5c)内方吹出用空気穴15’は、小隆起部31の内方へ向いた斜面部分に対して、面直、または、(可能な範囲で)面直に近い角度となるように形成する。
【0057】
なお、上記以外の構成については、上記した実施例のものと同じである。
【0058】
<作用> 次に、この実施例の作用について説明する。
【0059】
パウダースラッシュ成形装置1では、図1に示すような、加熱されたパウダースラッシュ成形型2に樹脂パウダーを供給することにより、パウダースラッシュ成形型2に樹脂パウダーを溶融付着させて樹脂成形品3を成形する。
【0060】
次に、パウダースラッシュ成形型2および樹脂成形品3が冷却固化されたら、冷却固化された樹脂成形品3をパウダースラッシュ成形型2から手作業で引き剥がすことにより、脱型を行わせるようにする。
【0061】
より具体的には、例えば、パウダースラッシュ成形型2を、高温のオイルなどを用いて約250℃〜300℃に加熱し(加熱工程)、加熱されたパウダースラッシュ成形型2を、成形面5を内側へ向けた状態にして、図示しないパウダーボックスの開口部に密着状態に接合する(型締工程)。この際、パウダーボックスには、所要量の樹脂パウダーが収容されている。この状態で、図示しない回転装置を用いて、パウダーボックスとパウダースラッシュ成形型2とを回転させる。すると、この回転に伴って、樹脂パウダーは流動され、加熱されたパウダースラッシュ成形型2の成形面5に接触することで、成形面5に溶融付着および堆積されることになる。このような回転を一定時間行うことにより、パウダースラッシュ成形型2の成形面5には、所定厚さの樹脂成形品3が形成されることになる(粉付工程)。そして、成形後に、パウダースラッシュ成形型2は、パウダーボックスから取外される(型開工程)と共に、約50℃まで冷却される(冷却工程)。この際、樹脂成形品3が、ほぼ同じ温度(約50℃)にまで冷却固化される。その後、冷却されたパウダースラッシュ成形型2から、手作業で樹脂成形品3が引き剥がされることになる(脱型工程)。なお、パウダースラッシュ成形型2は、上記した約50℃の余熱状態から、上記した加熱工程へと送られ、上記が繰返される。なお、上記した数値は、一般的なものであるが、成形条件や成形材料などによって異なることがある。
【0062】
一方、パウダースラッシュ成形型2から脱型された樹脂成形品3は、不要部位8を除去して必要部位6だけが残される。そして、必要部位6は、その後、ストックヤードなどへ搬送されるなどし、ストックヤードで時間をかけて常温域まで冷却されるなどすると共に、生産要求に従い、別の射出成形型へ入れて(インサートして)射出成形したり、発泡型へ入れて発泡成形したりすることにより、車両用のインストルメントパネルなどの樹脂部品などとされる。なお、不要部位8については、リサイクルされて有効活用が図られる。
【0063】
この実施例によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
【0064】
(1)加熱されたパウダースラッシュ成形型2に樹脂パウダーを供給することにより、パウダースラッシュ成形型2に樹脂パウダーを溶融付着させて樹脂成形品3を成形可能とすると共に、冷却固化された樹脂成形品3をパウダースラッシュ成形型2から引き剥がすことにより、脱型を行わせ得るよう構成されたパウダースラッシュ成形装置用型構造において、樹脂成形品3の不要部位8に対応するパウダースラッシュ成形型2の不要部位成形部分9に、樹脂成形品3を部分的に剥離させるための剥離用エア11を吹出可能な剥離用エア吹出部12を設けると共に、剥離用エア吹出部12に対して、剥離用エア11を供給可能なエア供給回路部13を設けたことにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0065】
即ち、図3に示すように、エア供給回路部13からの剥離用エア11を、剥離用エア吹出部12から、樹脂成形品3へ向けて吹出させることにより、図4に示すように、パウダースラッシュ成形型2から樹脂成形品3を部分的に剥離させることができる。この際、剥離用エア吹出部12が、樹脂成形品3の不要部位8に対応するパウダースラッシュ成形型2の不要部位成形部分9に設けられているので、樹脂成形品3の必要部位6に、伸びによる寸法変化などの影響を与えることがない。また、樹脂成形品3全体を大量の剥離用エア11で一気に剥離させるようにする場合に比べて、装置構成を簡略化すると共に、少ない剥離用エア11でエネルギーロスなく効率的且つ確実に部分的に剥離させることができる。よって、図5に示すように、樹脂成形品3をパウダースラッシュ成形型2から容易且つ効率的に脱型させることが可能となる。
【0066】
(2)また、樹脂成形品3の不要部位8に対応するパウダースラッシュ成形型2の不要部位成形部分9に、樹脂成形品3を部分的に剥離させるための剥離用エア11を吹出可能な剥離用エア吹出部12を設け、剥離用エア吹出部12に対して、剥離用エア11を供給可能なエア供給回路部13(エア供給回路部13については図2参照のこと)を設けたことにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0067】
即ち、剥離用エア吹出部12が、パウダースラッシュ成形型2に対し、複数箇所設けられたことにより、パウダースラッシュ成形型2に対する樹脂成形品3の部分的な剥離を複数箇所で発生させることができるため、より容易に樹脂成形品3をパウダースラッシュ成形型2から脱型させることができるようになる。また、複数箇所の剥離用エア吹出部12に対し、エア供給回路部13を独立して設けることにより、各エア供給回路部13を、その設置箇所に応じた最適な設定にすることができるようになる。また、エア供給回路部13を独立して設けることにより、1箇所が剥離された時に、そこからエア圧が抜けて全体がそれ以上機能しなくなってしまうようなことが防止される。
【0068】
(3)更に、各エア供給回路部13を、パウダースラッシュ成形型2に対して、それぞれ着脱可能に構成したことにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0069】
即ち、各エア供給回路部13を、パウダースラッシュ成形型2に対して、それぞれ着脱可能として、必要な時にのみエア供給回路部13をパウダースラッシュ成形型2に接続することにより、装置構成を簡略化して、成形時(粉付時など)におけるパウダースラッシュ成形型2の動作を容易化することができる。また、加熱時にエア供給回路部13を取外しておくことにより、パウダースラッシュ成形型2の加熱質量を低減して、エネルギーロスを防止することができる。
【0070】
(4)更に、上記エア供給回路部13が、コンプレッサなどのエア供給源21からの剥離用エア11の供給圧力を調整可能なレギュレータ部22と、剥離用エア11を供給または停止可能な電磁開閉弁23と、一定時間供給後に剥離用エア11を停止可能に構成されたタイマー部24と、注入圧力が解放されたことを検出した時に剥離用エア11を停止可能に構成された圧力センサー部25とを備えたことにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0071】
即ち、エア供給回路部13に設けられたレギュレータ部22によって、剥離用エア11の供給圧力を調整することにより、供給圧力を自在に設定することができる。エア供給回路部13に設けられた電磁開閉弁23によって、剥離用エア11の供給または停止を選択的に行わせることができる。エア供給回路部13に設けられたタイマー部24によって、剥離用エア11の供給を一定時間供給後に自動的に停止させることにより、剥離用エア11を必要な量だけ供給することができる。このタイマー部24は、剥離用エア11の供給時間を自在に設定することが可能である。エア供給回路部13に設けられた圧力センサー部25が、剥離用エア11の注入圧力が解放されたことを検出した時にタイマー部24による供給時間中であっても、剥離用エア11の供給を自動的に停止させることができる。なお、剥離用エア11の供給停止は、タイマー部24および圧力センサー部25が、電磁開閉弁23に指令を送ることによって行われる。これらにより、各部位のそれぞれに対して、個別に実際に必要となった量だけ剥離用エア11を吹出させて、樹脂成形品3の部分的な剥離を全部の箇所に対してほぼ確実に行わせることが可能となる(個別対応、全箇所確実作動)。
【0072】
また、余分な剥離用エア11を吹出させないようにすることにより、部分的に剥離された樹脂成形品3の暴れを防止して、図5に示すように、確実に樹脂成形品3を手で掴んで引き剥がせるようになる。更に、余分な剥離用エア11を吹出させないようにすることにより、パウダースラッシュ成形型2の温度低下を防止して、パウダースラッシュ成形型2に対する加熱時間の増大によるサイクルタイムの増加や、樹脂パウダーの溶融不良などを防止し、且つ、エネルギーロスを防止することができる。
【0073】
(5)また、上記の変形例として、図6、図7に示すように、上記した不要部位成形部分9のうち、パウダースラッシュ成形型2の中間部に位置するもの(例えば、製品開口部分などに対応するもの。中間不要部位成形部分9’)に対して設けられる空気穴15を、パウダースラッシュ成形型2の内方(縁部から遠ざかる方向、中央部など)へ向けて剥離用エア11を吹出し得るように構成した(内方吹出用空気穴15’)ことにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0074】
即ち、パウダースラッシュ成形型2の中間部に位置する中間不要部位成形部分9’では、内方吹出用空気穴15’から、パウダースラッシュ成形型2の内方(縁部から遠ざかる方向、中央部など)へ向けて剥離用エア11が吹出されることとなる。これにより、縁部から遠い側に位置することによって力が伝わり難く剥離し難くなりがちな部分を、剥離用エア11にて強制的且つ確実に剥離させることができるようになる。これにより、樹脂成形品3をパウダースラッシュ成形型2からより一層容易且つ効率的に脱型させることが可能となる。
【0075】
(5a)特に、中間不要部位成形部分9’に、成形面5側へ僅かに隆起する山型の小隆起部31を設け、この小隆起部31の内方へ向いた斜面部分に内方吹出用空気穴15’を形成するようにした場合には、樹脂成形品3の不要部位8が小隆起部31の内方へ向いた斜面部分に沿って剥離されることとなるので、不要部位8の伸びをより少なくしつつ、より広く大きく剥離させることができるようになる。
【0076】
(5b)更に、上記した小隆起部31を、成形時に、樹脂成形品3の形状に悪影響を及ぼすことがなく、また、脱型時に引掛りなどの不具合を起こすことのないような形状で、且つ、できるだけ小さな(または最小の)ものとなるようにすることにより(不具合等非発生形状)、他の部分に影響を与えることなく小隆起部31を設けることができる。しかも、小隆起部31を、肉厚が他の部分とほぼ同じになるような、ドーム形状のものとすることにより、ドーム形状によって小隆起部31の強度を確保したり、パウダースラッシュ成形型2を部分的に補強したりすることができ、支障なく内方吹出用空気穴15’を形成することができるようになる。
【0077】
(5c)内方吹出用空気穴15’を、小隆起部31の内方へ向いた斜面部分に対して、面直、または、(可能な範囲で)面直に近い角度となるように形成することにより、内方吹出用空気穴15’を容易に加工成形することが可能となる。
【0078】
なお、内方吹出用空気穴15’は、パウダースラッシュ成形型2の平坦な部分に斜め孔として形成することも構造的には可能であり、このようにしても良い。但し、このようにした場合には、斜め孔の加工が難しくなると共に、パウダースラッシュ成形型2に、斜め孔による肉薄部分が生じ、肉薄部分の強度不足により、パウダースラッシュ成形型2に変形を生じたり、内方吹出用空気穴15’に孔潰れを引起こしたりする、などのおそれがある。
【0079】
これに対し、上記したように、内方吹出用空気穴15’を、小隆起部31の内方へ向いた斜面部分に対して、ほぼ面直に近い角度となるように形成することにより、パウダースラッシュ成形型2には、肉薄部分が生じないので、強度不足などもなく、パウダースラッシュ成形型2の変形や、内方吹出用空気穴15’の孔潰れなども防止されるようになるので、耐久性の確保、向上を図ることができる。
【0080】
なお、上記以外の作用効果については、上記した実施例のものと同じである。
【0081】
以上は、最も基本的な実施例およびその代表的な変形例であり、以下の実施例に対してもその全部または大部分がほぼそのまま通用する内容となっている。以下、他の実施例について説明する。
【実施例2】
【0082】
図8、図9および図10、図11は、この発明の第2の実施例およびその変形例を示すものである。
【0083】
なお、上記した実施例などと共通する内容については、上記の記載を以てこの欄での記載に替えるものとし、ここでは、主にその特徴部分などについてのみ記載する。但し、記載を省略した部分について、必要が生じた場合には、上記実施例の記載を流用したり、必要な修正を伴って流用したりすることができるものとする。また、以下に別の実施例などが有る場合についても、また同様とする。
【0084】
<構成> まず、構成について説明する。
【0085】
(6)上記図1〜図7と同様の構成に対し、図8に示すように、剥離用エア吹出部12から吹出される剥離用エア11を、脱型時の樹脂成形品3の温度とほぼ等しい温度に加熱可能な剥離用エア加熱装置41を設けるようにする。
【0086】
この場合、剥離用エア加熱装置41は、各エア供給回路部13に対してそれぞれ別個に設けられている。また、剥離用エア加熱装置41は、各エア供給管路26における、レギュレータ部22と電磁開閉弁23との間の部分に設けられている。これは、レギュレータ部22による剥離用エア11の供給圧力調整後で、電磁開閉弁23による剥離用エア11の供給、停止作動前に、剥離用エア11を加熱するのが、機能的にも、設置スペース的にも、最も便宜が良いことによる。
【0087】
(7)上記において、剥離用エア加熱装置41が、剥離用エア11の加熱温度を設定、調整可能な温度設定部45を備えるようにする。
【0088】
ここで、温度設定部45は、各剥離用エア加熱装置41ごとに設けて、個別に温度設定可能となるようにする。温度設定部45は、剥離用エア加熱装置41に対して一体的に設置された温度設定用スイッチ部46などとすることができる。或いは、温度設定部45は、剥離用エア加熱装置41の外部に設けられて、剥離用エア加熱装置41に対して離れた位置から有線または無線で温度設定信号47を出力または送信可能な温度設定用端末装置48(温度コントローラ)などとすることができる。
【0089】
剥離用エア11の温度設定は、例えば、図9に示すような、樹脂成形品3または近似的にパウダースラッシュ成形型2の温度変化を測定した結果に基づいて行わせるようにする。
【0090】
図9は、近似的にパウダースラッシュ成形型2の温度変化を測定した結果をまとめたグラフであり、1成形サイクルは、上記したように、余熱状態(区間G)から、加熱工程(区間A)、型締工程(点B)、粉付工程(区間C)、型開工程(点D)、冷却工程(区間E)、脱型工程(区間F)、余熱状態(区間G)で構成されている。ここで、粉付工程(区間C)では、開始直後に一時的に急激な温度低下が見られるが、樹脂パウダーの昇温に伴い、徐々に温度が回復して行く状況が認められる。
【0091】
そして、温度設定部45に入力する設定温度には、脱型工程(区間F)におけるパウダースラッシュ成形型2の温度を採用するようにする。この際、複数回測定した平均値や、許容範囲(悪影響を無視できる温度範囲)なども考慮することができる。例えば、複数回測定した平均値が55℃で、許容範囲が、±5℃であるとすると、各温度設定部45は、55℃±5℃の範囲で設定する。また、各温度設定部45で、それぞれ設定温度を変えることができる(個別設定)。例えば、上記した55℃±5℃の範囲で、各箇所それぞれに最適な値に設定する。
【0092】
(8)また、上記の変形例として、図10、図11に示すように、脱型時の樹脂成形品3の温度を検出する成形品温度センサー51を備えると共に、剥離用エア加熱装置41が、成形品温度センサー51からの検出温度52に基づいて剥離用エア11の加熱温度を所定値(例えば55℃±5℃等)に維持可能に構成されるようにする。
【0093】
ここで、成形品温度センサー51は、各剥離用エア加熱装置41ごとにパウダースラッシュ成形型2の対応する部分に設けて、個別に温度制御可能となるようにする。成形品温度センサー51には、パウダースラッシュ成形型2に埋設されて、樹脂成形品3または近似的にパウダースラッシュ成形型2の温度を検出するようにした接触式センサーなどを用いることができる。この成形品温度センサー51は、剥離用エア11が、樹脂成形品3に直接当る位置またはその近傍に設けられるようにする。例えば、成形品温度センサー51は、不要部位成形部分9の位置で、且つ、剥離用エア吹出部12近傍の位置に設けられるようにする。接触式の成形品温度センサー51は、パウダースラッシュ成形型2の上記した位置に形成したセンサー設置用凹部に対し、成形面5とほぼ面一な状態で、埋設させるようにする。
【0094】
また、成形品温度センサー51には、特に図示しないが、樹脂成形品3の温度を離れた位置から直接的に検出し得る非接触式センサーなどを用いることもできる。非接触式センサーには、サーモカメラなど各種のものが知られている。
【0095】
そして、成形品温度センサー51からの検出温度52は、各成形サイクルごとに、対応する剥離用エア加熱装置41へ送られるようにする。剥離用エア加熱装置41は、内部に温度制御装置を備えて、成形品温度センサー51からの検出温度52に基づいて、剥離用エア11の加熱温度を制御可能なコンピュータ制御方式のものなどとする。
【0096】
なお、成形品温度センサー51からの検出温度52は、脱型工程(区間F)における温度を採用する。脱型工程(区間F)となったことは、パウダースラッシュ成形装置1の図示しない制御装置から得ることができる。
【0097】
また、上記した以外に、剥離用エア加熱装置41は、温度設定部45からの温度設定信号47と、成形品温度センサー51からの検出温度52との両方を利用して、上記した温度制御を行い得るように構成することもできる。
【0098】
なお、上記した図9は、各成形品温度センサー51からの検出温度52をまとめたグラフとなっている。
【0099】
なお、上記以外の構成については、上記した各実施例のものなどと同じである。
【0100】
<作用>次に、この実施例の作用について説明する。
【0101】
この実施例では、剥離用エア11を、脱型時の樹脂成形品3の温度とほぼ等しい温度で剥離用エア吹出部12から吹出させることができるようになる。
【0102】
これにより、以下のような作用効果を得ることが可能となる。
【0103】
(6)剥離用エア吹出部12から吹出される剥離用エア11を、脱型時の樹脂成形品3の温度とほぼ等しい温度に加熱可能な剥離用エア加熱装置41を設けたことにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0104】
即ち、剥離用エア加熱装置41によって、剥離用エア吹出部12から吹出される剥離用エア11を、脱型時の樹脂成形品3の温度とほぼ等しい温度に加熱することができる。このように、剥離用エア11を、脱型時の樹脂成形品3の温度とほぼ等しい温度に加熱して剥離用エア吹出部12から吹出させるようにすることにより、剥離用エア11が当った部分と当らなかった部分とで、樹脂成形品3の温度をほぼ等しく保たせることができる。以て、樹脂成形品3に部分的な温度差が生じること、および、部分的な温度差によって悪影響が生じるのを回避することが可能になる。
【0105】
この際、剥離用エア11の温度が上記した温度よりも低いと、剥離用エア11が当った部分の温度が他の部分の温度よりも低くなり(低下し)、その部分の収縮量が他の部分の収縮量よりも大きくなって(即ち、部分的に縮んで、或いは、収縮量や収縮率にバラ付きが生じて)、狙い通りの寸法、形状が得られなくなるおそれがある。反対に、剥離用エア11の温度が上記した温度よりも高いと、剥離用エア11が当った部分の温度が他の部分の温度よりも高くなり(上昇し)、その部分が他の部分よりも柔らかくなって、容易に(部分的な)変形を起こしてしまうおそれがある。この実施例では、このような不具合を回避することができる。
【0106】
また、剥離用エア吹出部12から吹出される剥離用エア11が、脱型時の樹脂成形品3の温度とほぼ等しい温度に調整されることにより、パウダースラッシュ成形型2の型温度が部分的に、必要以上に低下されてしまうこと、および、型温度の部分的な低下による熱的損失の発生を防止することができる。
【0107】
更に、剥離用エア吹出部12から吹出される剥離用エア11が、脱型時の樹脂成形品3の温度とほぼ等しい温度に調整されることにより、火傷などの人的災害の発生を確実に防止することができる。
【0108】
加えて、剥離用エア加熱装置41を、各エア供給回路部13に対してそれぞれ設けるようにすることにより、各剥離用エア吹出部12に対して個別に温度調節を行わせることが可能となる。
【0109】
(7)上記において、剥離用エア加熱装置41が、剥離用エア11の加熱温度を設定、調整可能な温度設定部45を備えたことにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0110】
即ち、剥離用エア加熱装置41に備えられた温度設定部45によって、剥離用エア11の加熱温度を、任意、簡単、且つ、自在に設定、調整することができる。これにより、成形条件または成形材料の違いや、成形中の状況の変化に応じた対応などを容易に行わせることができる。
【0111】
また、温度設定部45を、各剥離用エア加熱装置41ごとに設けることにより、各剥離用エア吹出部12に対して個別に温度設定を行わせることが可能となる。
【0112】
なお、この場合の、温度設定部45による温度設定は、成形開始前に、成形条件や成形材料などに応じて予め行っておくようにする。
【0113】
(8)また、上記の変形例として、図10、図11に示すように、脱型時の樹脂成形品3の温度を検出する成形品温度センサー51を備えると共に、剥離用エア加熱装置41が、成形品温度センサー51からの検出温度52に基づいて剥離用エア11の加熱温度を所定値に維持可能に構成されるようにしたことにより、以下のような作用効果を得ることができる。
【0114】
即ち、成形品温度センサー51が、脱型時の樹脂成形品3の温度を検出し、剥離用エア加熱装置41が、成形品温度センサー51からの検出温度52に基づいて剥離用エア11の加熱温度を調整する。この場合には、例えば、前回の成形サイクルの検出温度52で温度調整を行うと共に、調整温度を今回の検出温度52に順次置き換えて行くようなものとする。これによって、より正確且つ精密な温度調整を自動的に行わせることなどが可能となる。
【0115】
また、成形品温度センサー51を、各剥離用エア加熱装置41ごとに設けることにより、各剥離用エア吹出部12に対して個別に温度制御を行わせることが可能となる。
【0116】
更に、剥離用エア加熱装置41を、温度設定部45からの温度設定信号47と、成形品温度センサー51からの検出温度52との両方を利用して、上記した温度制御を行い得るようなものとすることにより、例えば、温度設定部45からの温度設定信号47に基づいて粗調節を行い、成形品温度センサー51からの検出温度52に基づいて微調節を行わせるようにすることができるので、一層正確且つ精密な温度調整を自動的に行わせることなどが可能となる。
【0117】
なお、上記以外の作用効果については、上記した各実施例のものなどと同じである。
【0118】
以上、この発明の実施例を図面により詳述してきたが、実施例はこの発明の例示にしか過ぎないものであるため、この発明は実施例の構成にのみ限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があってもこの発明に含まれることは勿論である。また、例えば、各実施例に複数の構成が含まれている場合には、特に記載がなくとも、これらの構成の可能な組合せが含まれることは勿論である。また、複数の実施例や変形例が示されている場合には、特に記載がなくとも、これらに跨がった構成の組合せのうちの可能なものが含まれることは勿論である。また、図面に描かれている構成については、特に記載がなくとも、含まれることは勿論である。更に、「等」の用語がある場合には、同等のものを含むという意味で用いられている。また、「ほぼ」「約」「程度」などの用語がある場合には、常識的に認められる範囲や精度のものを含むという意味で用いられている。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の第1の実施例にかかるパウダースラッシュ成形装置用型構造の側面図である。
【図2】図1のエア供給回路部の系統図である。
【図3】図1の作動図である。
【図4】図3に続く作動図である。
【図5】図4に続く作動図である。
【図6】図1の変形例にかかるパウダースラッシュ成形装置用型構造の側面図である。
【図7】図6の部分拡大図である。
【図8】本発明の第2の実施例にかかるエア供給回路部の系統図である。
【図9】縦軸を温度とし、横軸を時間として、パウダースラッシュ成形型の温度変化を測定した結果をまとめたグラフである。
【図10】図8の変形例にかかるエア供給回路部の系統図である。
【図11】図10の成形品温度センサの設置状況を示す図1と同様のパウダースラッシュ成形装置用型構造の側面図である(図3〜図6と対応する作動図については添付を省略している)。
【符号の説明】
【0120】
2 パウダースラッシュ成形型
3 樹脂成形品
8 不要部位
9 不要部位成形部分
9’ 中間不要部位成形部分
11 剥離用エア
12 剥離用エア吹出部
13 エア供給回路部
15 空気穴
15’ 内方吹出用空気穴
22 レギュレータ部
23 電磁開閉弁
24 タイマー部
25 圧力センサー部
41 剥離用エア加熱装置
45 温度設定部
51 成形品温度センサー
52 検出温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されたパウダースラッシュ成形型に樹脂パウダーを供給することにより、パウダースラッシュ成形型に樹脂パウダーを溶融付着させて樹脂成形品を成形可能とすると共に、冷却固化された樹脂成形品をパウダースラッシュ成形型から引き剥がすことにより、脱型を行わせ得るよう構成されたパウダースラッシュ成形装置用型構造において、
樹脂成形品の不要部位に対応するパウダースラッシュ成形型の不要部位成形部分に、樹脂成形品を部分的に剥離させるための剥離用エアを吹出可能な剥離用エア吹出部を設けると共に、
該剥離用エア吹出部に対して、剥離用エアを供給可能なエア供給回路部を設けたことを特徴とするパウダースラッシュ成形装置用型構造。
【請求項2】
前記剥離用エア吹出部が、前記パウダースラッシュ成形型に対し、複数箇所設けられ、各箇所ごとに、前記エア供給回路部が独立して設けられたことを特徴とする請求項1記載のパウダースラッシュ成形装置用型構造。
【請求項3】
前記各エア供給回路部が、前記パウダースラッシュ成形型に対して、それぞれ着脱可能に構成されたことを特徴とする請求項1または請求項2記載のパウダースラッシュ成形装置用型構造。
【請求項4】
前記エア供給回路部が、剥離用エアの供給圧力を調整可能なレギュレータ部と、剥離用エアを供給または停止可能な電磁開閉弁と、一定時間供給後に剥離用エアを停止可能に構成されたタイマー部と、注入圧力が解放されたことを検出した時に剥離用エアを停止可能に構成された圧力センサー部とを備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のパウダースラッシュ成形装置用型構造。
【請求項5】
前記不要部位成形部分のうち、パウダースラッシュ成形型の中間部に位置するものに対して設けられる剥離用エア吹出部の空気穴を、パウダースラッシュ成形型の内方へ向けて剥離用エアを吹出し得るように構成したことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載のパウダースラッシュ成形装置用型構造。
【請求項6】
前記剥離用エア吹出部から吹出される剥離用エアを、脱型時の樹脂成形品の温度とほぼ等しい温度に加熱可能な剥離用エア加熱装置を設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載のパウダースラッシュ成形装置用型構造。
【請求項7】
前記剥離用エア加熱装置が、剥離用エアの加熱温度を設定、調整可能な温度設定部を備えたことを特徴とする請求項6記載のパウダースラッシュ成形装置用型構造。
【請求項8】
脱型時の樹脂成形品の温度を検出する成形品温度センサーを備えると共に、前記剥離用エア加熱装置が、成形品温度センサーからの検出温度に基づいて剥離用エアの加熱温度を所定値に維持可能に構成されたことを特徴とする請求項6または請求項7記載のパウダースラッシュ成形装置用型構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−226913(P2009−226913A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211519(P2008−211519)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】