説明

パターニング方法およびこれを用いたデバイスの製造方法

【課題】有機EL材料をはじめとした薄膜の特性を劣化させることなく、大型化かつ高精度の微細パターニングを可能とするパターニング方法、および、かかるパターニング方法を使用するデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に光熱変換層と区画パターンが形成され、前記区画パターン内に転写材料が横方向にk個、縦方向にl個(k、lはそれぞれ1以上の整数)配列されたドナー基板をデバイス基板と対向配置し、横方向にm個、縦方向にn個(k≧m≧1、l≧n≧1)の転写材料からなる領域よりも広い面積の光を光熱変換層に照射することで、前記転写材料をデバイス基板に一括して転写することを特徴とするパターニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子をはじめとし、有機TFTや光電変換素子、各種センサーなどのデバイスを構成する薄膜のパターニング方法、および、かかるパターニング方法を使用するデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが両極に挟まれた有機発光層内で再結合するものである。コダック社のC.W.Tangらによって有機EL素子が高輝度に発光することが示されて以来(非特許文献1参照)、薄型ディスプレイ、面型照明装置をターゲットの一つとして多くの研究機関で検討が行われてきた。
【0003】
この発光素子は、薄型でかつ低駆動電圧下での高輝度発光という他の薄型ディスプレイにない特色を有し、発光層に種々の有機材料を用いることにより、赤(R)、緑(G)、青(B)の三原色をはじめとした多様な発光色を得ることが可能であることから、カラーディスプレイとしての実用化が進んでいる。
【0004】
現在の有機ELディスプレイの典型的な構造の一つであるアクティブマトリクス型カラーディスプレイの構造を図1に示す。有機ELディスプレイとして、優れた特性を有するには、少なくとも発光層17R、17G、17Bが均一な発光を有し、発光強度が長時間変化しないことが要求される。
【0005】
そのためには、発光層の膜厚が均一であること、発光層を形成する有機材料の純度が極めて高純度であること、高純度で均一な膜厚の微細パターンを精度良く基板上に形成することが要求される。さらに、高性能有機EL素子を実現するためには多層構造が必要であり、典型的な膜厚が0.1μm以下である正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などを順に積層する必要がある。
【0006】
従来、薄膜の微細パターニングにはフォトリソ法、インクジェット法や印刷法などのウェットプロセスが用いられてきた。しかしながら、ウェットプロセスでは、先に形成した下地層の上にフォトレジストやインクなどを塗布した際に、極薄である下地層の形態変化や望ましくない混合などを完全に防止することが困難であり、使用できる材料が限定される。また、溶液から乾燥させることで形成した薄膜の画素内での膜厚均一性、および、基板内の画素間均一性を達成することが難しく、膜厚ムラに伴う電流集中や素子劣化が起きるために、ディスプレイとしての性能が低下するという問題があった。
【0007】
ウェットプロセスを用いないドライプロセスによるパターニング方法としてマスク蒸着法が検討されている。実際に実用化されている小型有機ELディスプレイの発光層は専ら本方式でパターニングされている。しかしながら、マスク蒸着法でパターニングに使用される蒸着マスクは、微細パターンを精度良く基板上に形成するためには、使用する金属板に精密なパターンを開ける必要があるために、大型化と精度の両立が困難であり、また、大型化するほど基板と蒸着マスクとの密着性が損なわれる傾向にあるために、大型有機ELディスプレイへの適用が難しかった。
【0008】
ドライプロセスで大型化を実現するために、あらかじめドナーフィルム上の有機EL材料をパターニングしておき、デバイス基板とドナーフィルム上の有機EL材料を密着させた状態で、ドナーフィルム全体を加熱することで有機EL材料を転写させる方法が開示されている(特許文献1参照)。さらに、区画パターン(隔壁)内にパターニングされた有機EL材料をデバイス基板に接しない配置で対向させ、ホットプレートによりドナー基板全体を加熱することで有機EL材料を蒸発させ、デバイス基板に堆積させる蒸着転写法が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、上記手法ではドナー基板全体が加熱されて熱膨張するために、ドナー基板上にパターニングされた有機EL材料のデバイス基板に対する相対位置が変位し、しかも大型化するほど変位量が大きくなるために高精度パターニングが難しいという問題があった。さらに、近距離で対向させたデバイス基板が輻射により加熱されたり、区画パターンがある場合には、区画パターンからの脱ガスの影響などを受けたりするために、デバイス性能が悪化するという問題があった。
【0009】
ドナー基板の熱膨張による変位を防ぐ方法として、ドナー基板上に光熱変換層を形成し、その上に有機EL材料を熱蒸着により全面成膜し、光熱変換層に高強度レーザーを部分照射することにより、光熱変換層のみを加熱、昇温して、全面に形成された、または区画パターンを用いずにR、G、Bを塗り分けた有機EL材料の一部分をデバイス基板にパターン転写する選択転写方式が開発されている(特許文献3〜4参照)。しかしながら、発生した熱は横方向にも拡散するので、レーザー照射範囲より広い領域の有機EL材料が転写され、その境界も明確ではない。これを防ぐためには、極めて短時間に高強度のレーザーを照射することが考えられる。しかしこの場合、有機EL材料が極めて短時間のうちに加熱されるため、最高到達温度を正確に制御することが難しい。そのため、有機EL材料が分解温度以上に達する確率が高くなり、結果としてデバイス性能が低下する問題があった。
【0010】
ドナー基板の熱膨張による変位を防ぐ別の方法として、ドナー基板に光熱変換層を形成せずに、ドナー基板上の有機EL材料をレーザーで直接加熱する直接加熱転写法が開示されている(特許文献5参照)。特許文献5では、さらにR、G、Bを区画パターンで塗り分けておくことによりパターニングの際の混色の可能性を小さくしている。しかしながら、有機EL材料の典型的な膜厚は25nmと非常に薄いために、レーザーが十分に吸収されずにデバイス基板まで到達し、デバイス基板上の下地層を加熱してしまう問題がある。十分な転写を行うには高強度のレーザーが必要となるが、区画パターンにレーザーが照射されると区画パターンが劣化するので、劣化防止のためには有機EL材料のみにレーザーが照射されるように高精度位置合わせが必要であり、大型化が困難である問題があった。
【非特許文献1】“Applied Physics Letters”、(米国)、 1987年、51巻、12号、913−915頁
【特許文献1】特開2002−260854号公報
【特許文献2】特開2000−195665号公報
【特許文献3】特許第3789991号公報
【特許文献4】特開2005−149823号公報
【特許文献5】特開2004−87143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のとおり、従来の転写法技術においては、所望のパターンサイズの有機EL材料を正確に転写するには、横方向への熱の伝導を極力防止する必要から、光転写において、高エネルギー光を短時間、画素ごとに照射することが不可欠であり、大型基板で、高い生産性を維持しながら、有機EL材料に損傷を与えることなく安定に微細パターニングを実現することは、困難であった。
【0012】
本発明はかかる問題を解決し、有機EL材料をはじめとした薄膜の特性を劣化させることなく、大型化かつ高精度の微細パターニングを高い生産性を維持しながら、可能とするパターニング方法、および、かかるパターニング方法を使用するデバイスの製造方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、脱ガスなどの悪影響を及ぼす可能性のある区画パターンを有するドナー基板を用いて光による転写法を利用しても、従来の問題点を解決できるよう鋭意研究することによりなされたものである。
【0014】
すなわち、本発明は、基板上に光熱変換層と区画パターンが形成され、前記区画パターン内に転写材料が横方向にk個、縦方向にl個(k、lはそれぞれ1以上の整数)配列されたドナー基板をデバイス基板と対向配置し、横方向にm個、縦方向にn個(k≧m≧1、l≧n≧1)の転写材料からなる領域よりも広い面積の光を光熱変換層に照射することで、複数の転写材料をデバイス基板に一括して転写することを特徴とするパターニング方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、有機EL材料をはじめとした薄膜にダメージを与えず、大型化かつ高精度の微細パターニングを高い生産性を保持しながら可能とするという、著しい効果をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図2および図3は、本発明の薄膜パターニング方法の一例を示す断面図および平面図である。なお、本明細書中で使用する多くの図は、カラーディスプレイにおける多数の画素を構成するRGB副画素の最小単位を抜き出して説明している。また、理解を助けるために、横方向(基板面内方向)に比較して縦方向(基板垂直方向)の倍率を拡大している。
【0017】
図2において、ドナー基板30は、支持体31、光熱変換層33、区画パターン34、区画パターン内に存在する転写材料37(有機ELのRGB各発光材料の塗布膜)からなる。転写材料37R、37G、37Bは横にk個、縦にl個並んで副画素を形成している。有機EL素子(デバイス基板)10は、支持体11、その上に形成されたTFT(取出電極込み)12と平坦化膜13、絶縁層14、第一電極15、正孔輸送層16からなる。なお、これらは例示であるため、後述のように各基板の構成はこれらに限定されない。ドナー基板30の区画パターン34と、デバイス基板10の絶縁層14との位置を合わせた状態で、両基板は対向するように配置される。
【0018】
本発明のパターニング方法は、ドナー基板30の支持体31側から、転写材料37R、37G、37Bが横にm個、縦にn個(k≧m≧1、l≧n≧1)並んだ領域よりも面積の広い光を入射して光熱変換層33に吸収させる。そして、そこで発生する熱により、該横にm個、縦にn個並んだ転写材料37R、37G、37Bを同時に加熱・蒸発させ、それらをデバイス基板10の正孔輸送層16上に堆積させることで、発光層17R、17G、17Bをm×n個一括して転写、形成するものである。なお、照射条件によっては光熱変換層33での基板横方向への熱拡散の影響などにより、m×n個より広い領域の転写材料が転写されることもあり得る。
【0019】
このように、面積の広い光でm×n個の副画素を一括して照射することにより、高い生産性を確保できる。また、図4に示すような区画パターンと転写材料の境界における温度低下がないため、従来の転写方法で問題であった、境界に存在する転写材料をも十分に加熱して転写することができる。従って、転写薄膜の膜厚分布は従来より均一化されるので、デバイス性能への悪影響を防止できる。また、本発明においては用いる光の強度が小さいため、転写材料と区画パターンが同時に加熱されるように光を当てた場合であっても、区画パターンの剥離や区画パターンからの脱ガスなどに起因するデバイス性能への悪影響を最小限に抑制できる。
【0020】
ここで、本発明において用いる光の強度が小さい理由を説明する。ドナー基板にデバイス基板に対応する区画パターンを正確に描き、正確に描かれた区画パターン内に転写材料を準備し、該ドナー基板を位置合わせした状態で、デバイス基板と相対向して配置する。これによりドナー基板とデバイス基板の対応する各副画素の位置合わせが正確に可能となる。これにより横への熱の広がりによる、不純物汚染を考慮する必要がなくなり、これまで転写に使用されていた高エネルギー光の短時間照射ではなく、低エネルギー光を長時間照射して、転写材料をデバイス基板に転写することが可能となった。
【0021】
低エネルギー光の長時間照射という転写方法をとることにより、転写材料の分解温度より低い温度でゆっくりと転写材料を蒸発させることができる。そのため、材料の熱劣化を防止すると共に、区画材料からの不純物の混入を最小限に抑制できる。低エネルギー光では広い範囲の照射が可能となり、m×n個の副画素を一括転写することにより、高い生産性を確保できる。
【0022】
m×n個の副画素を一括転写した後は、そのまま光をドナー基板の縦方向または横方向にスキャンして残りの領域を転写しても良いし、最初のm×n個の副画素の一括転写後に、次のm×n個の副画素の領域を一括転写できるよう基板または光照射口を移動させ、一括転写を繰り返し行っても良い。このようにすることで、横にk個、縦にl個並んだ転写材料の全てを転写することができる。大型化した場合においては、基板を移動させることもできるし、光をスキャンするか、光照射口の移動による一括転写の繰り返しを行ってもよい。
【0023】
なお、k=mかつl=nの場合は、一度の光照射で全ての転写材料を転写できるため特に好ましい。
【0024】
さらに、本発明の好ましい形態の1つとして、区画パターンの厚さを転写材料より厚くする場合には、区画パターンのうち転写材料より厚い部分の温度はさらに上昇が抑えられ、区画パターンを通じての温度上昇によるデバイス基板の劣化は問題ないレベルに抑えることが出来る。
【0025】
弱い光を長時間照射することにより、光熱変換層はほぼ均一な温度に加熱され、RGB各発光層内の温度ムラは最小限に抑えられ、これにより転写される画素膜厚を均一に形成することが可能となる。さらにRGB各発光層は、異なる光吸収スペクトルを持ち、転写スピードが異なるが、発光層間の膜厚差を問題のないレベルに抑えることが出来る。
【0026】
区画パターンが存在することで、隣接する異なる転写材料同士が混合したり、その境界位置の揺らぎがある部分の転写を排除できるので、一括転写してもデバイス性能を損なうことがない。また、区画パターンはフォトリソグラフィ法などにより高精度にパターニングすることができるために、異なる転写材料の転写パターンの隙間を最小にすることができる。これは、より開口率を高めて耐久性に優れた有機ELディスプレイを作製できるという効果につながる。
【0027】
以下では、本発明をさらに詳細に説明する。
【0028】
(1)照射光
本発明では、材料や光照射条件を選べば、転写材料37が膜形状を保持した状態でデバイス基板20の支持体21に到達するアブレーションモードを使用することもできるが、材料へのダメージを低減する観点からは、転写材料37が1〜100単位の分子(原子)にほぐれた状態で蒸発し、転写される蒸着モードを使用する方が好ましい。
【0029】
図5(a)は、一括転写における単位画素部分の照射状況をモデル的に示す。転写材料37の全幅と区画パターン34とが同時に加熱されるように光を光熱変換層33に照射する。この配置によれば目的とする転写膜27のパターンを1回の転写で効率よく得ることができる。あるいは、1回目の光照射で転写材料37の膜厚の半分を転写し、2回目の光照射で残りの半分を転写することで、転写材料37への負荷をより低減することもできる。また、1回の光照射で転写材料37の膜厚の約半分をあるデバイス基板に転写し、残りの約半分については別のデバイス基板に転写するなど、1枚のドナー基板30を用いて2枚のデバイス基板20への転写を行うこともできる。各デバイス基板へ転写する転写材料の膜厚を調整すれば、1枚のドナー基板から3枚以上のデバイス基板への転写も可能である。
【0030】
この配置において、図5(b)に示すように、一括光照射における位置がδだけ変位したとても、転写材料37の全幅と光照射の最外周における区画パターン34の幅の一部とが同時に加熱されることに変わりないので、同様に均一な転写膜27を得ることができる。図4に示した従来法では、光照射位置がずれると転写膜27の均一性が極端に損なわれるものであった。大型化において基板の全領域に渡って光照射を高精度に位置合わせする難易度を考えると、本発明の方法では光照射装置の負担が著しく軽減される。
【0031】
図6は、一括して転写する、本発明の形態の断面を示す図である。上記の一括転写の例において、転写材料37R、37G、37Bが異なる蒸発温度(蒸気圧の温度依存性)を有する場合は、最高の蒸発温度をもつ転写材料に合わせて、1回の光照射で一括転写をしてもよい。逆に、例えば、転写材料37Rが最低の蒸発温度をもつ場合には、1回の光照射で転写材料37Rは全部、37G、37Bは一部を転写しておき、再度の光照射により37G、37Bの残りを転写してもよく、さらに、3回以上の転写に分けてもよい。転写時間を短縮できるので、同じ時間をかけて複数回の転写に分けることで、転写材料37へのダメージをより軽減することが可能になる。転写プロセスに割ける時間と転写材料へのダメージを考慮しながら、多様な転写条件から最適なものを選択することができる。
【0032】
また、上記一括転写には別の効果がある。面積の広い光を照射しても、光転写で問題となってきた横方向の熱拡散防止を考慮する必要がないので、1回の照射において、光を比較的長時間照射することが可能になる。これにより照射する光のエネルギーを弱くすることが可能となる。これにより、転写材料の最高到達温度の制御がより容易となり、転写時に転写材料にダメージを与えることなく高精度パターニングできるので、デバイス性能の低下を最小限に抑制できる。また、転写材料へのダメージが低減されることは、同時に区画パターンへのダメージも低減されることになり、区画パターンを有機材料で形成しても劣化が起こりにくくなる。そのため、ドナー基板を複数回に渡って再利用できる、パターニングに掛かるコストを低減できる。また、光を照射する位置を従来法ほど厳密に制御する必要がなくなることから、光を照射する装置の機構も簡素化できる。
【0033】
照射光の光源としては、照射強度の制御が容易で、照射光の形状制御に優れるレーザーを好ましい光源として例示できるが、赤外線ランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フラッシュランプなどの光源を利用することもできる。レーザーでは、半導体レーザー、ファイバーレーザー、YAGレーザー、アルゴンレーザー、窒素レーザー、エキシマレーザーなど公知のレーザーが利用できる。本発明における目的の1つは、転写材料へのダメージを低減することであるから、短時間に高強度の光が照射される間欠発振モード(パルス)レーザーより、連続発信モード(CW)レーザーの方が好ましい。
【0034】
照射光の波長は、照射雰囲気とドナー基板の支持体における吸収が小さく、かつ、光熱変換層において効率よく吸収されれば特に限定されない。従って、可視光領域だけでなく紫外光から赤外光まで利用できる。ドナー基板の好適な支持体の材料を考慮すると、好ましい波長領域として、300nm〜5μmを、更に好ましい波長領域として、380nm〜2μmを例示することができる。
【0035】
照射光の好ましい照射時間や、光熱変換層に与える好ましい入射強度は、ドナー基板の構成や転写材料の耐熱温度(分解開始温度)に依存するために、一概に示すことは難しい。基本的には、照射時間を長くして、転写材料の蒸発速度を小さくすると、転写材料温度を低くできるので、材料負荷を抑制できる。例として、転写時の転写材料の最高蒸発速度は2.5×10nm/s以下、入射強度が70W/mm以下、1回あたりの照射時間は0.2ms以上にすることが好ましい。これにより、転写材料温度を400℃未満に抑制することができ、材料によっては熱分解を起こさない可能性が生まれてくる。
【0036】
照射光の形状は上記で例示した矩形に限定されるものではない。線状、楕円形、正方形、多角形など転写条件に応じて最適な形状を選択できる。複数の光源から重ね合わせにより照射光を形成してもよいし、逆に、単一の光源から複数の照射光に分割することもできる。有機EL素子などにおいては、通常、画素は矩形に並んでいることから、照射光の形状も矩形であることが、ムラのない転写を行える観点から好ましい。
【0037】
また、図7(a)に示すように、ドナー基板30の転写領域38の全領域を覆う光を照射することもできる。この場合には、全転写材料を一括転写することができる。さらに、図7(b)に示すように、ドナー基板30の転写領域38を部分的に覆う光を照射し、次に未照射の部分を照射するステップ照射を使用してもよい。この場合も、照射光の前後の位置をオーバーラップさせてもよいので、光照射の位置合わせを大幅に軽減できる。
【0038】
図8は、光を一定時間照射した際の、転写材料(あるいは光熱変換層)の温度変化を示す概念図である。様々な条件によるので一概には言えないが、図8(a)のように、照射強度(パワー密度)が一定の条件では温度が徐々に上昇し、目標(蒸発温度)に達した後も上昇する傾向にある。この条件でも転写材料の厚さや耐熱性、照射時間によっては問題なく転写を実施できる。一方、転写材料へのダメージをより低減する好ましい照射方法として、図8(b)に示すように、温度が目標付近で一定となり、かつ、その期間が長くなるように、強度に分布をもたせた照射光を用いて、ある点における照射強度を時間的に変化させる例が挙げられる。転写材料へのダメージを低減できることは、同時に区画パターンへのダメージも低減できることを意味するので、例えば、区画パターンを感光性有機材料を利用して形成した場合でも、区画パターンが劣化せず、ドナー基板の再利用回数を増大できる。
【0039】
図9は、照射光の成形方法を示す斜視図である。図9(a)に示すように、光学マスク41によって円形の光束から矩形の照射光を切り出すことができる。光学マスク41の他にナイフエッジや光学干渉パターンなどを利用してもよい。図9(b)、(c)に示すように、レンズ42やミラー43により、光源44からの光を集光あるいは拡張することで照射光を成形することができる。また、上記の光学マスク41、レンズ42、ミラー43などを適宜組み合わせることで、任意の形状の照射光に成形することができる。
【0040】
(2)ドナー基板
本発明に用いられるドナー基板は光熱変換層の上に区画パターンを有する。従来、ドナー基板上に転写材料以外の異物である区画パターンを形成することは、区画パターン自体が剥離して転写されたり、区画パターンから転写材料に不純物が混入する恐れがあるために、本来は好ましくないものとされていた。まして、ドナー基板上に光熱変換層を設置して光を吸収させ、発生した熱により転写材料を転写させる蒸着転写法のように、転写材料が比較的高温に加熱される方式において、異物である区画パターンを積極的に加熱するように光を照射することは、デバイスの性能を悪化させる可能性が高いものとして、前例がなかった。
【0041】
しかし、本発明は、光熱変換層が設置されたドナー基板上において、あえて転写材料と同時に区画パターンを加熱するように光を照射することにより、初めて高精細なパターニングを可能としたものである。このようにできる理由は、前記の通り、用いる光の強度を小さくすることができるためである。そのため、転写材料と区画パターンが同時に加熱されるように光を当てた場合であっても、区画パターンの剥離や区画パターンからの脱ガスなどに起因するデバイス性能への悪影響を最小限に抑制できる。
【0042】
ドナー基板の支持体は、光の吸収率が小さく、その上に光熱変換層や区画パターン、転写材料を安定に形成できる材料であれば特に限定されない。条件によっては樹脂フィルムを使用することが可能であり、樹脂材料としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリアミド、ポリベンゾオキサゾール、エポキシ樹脂、ポリプロピレン、ポリオレフィン、アラミド樹脂、シリコーン樹脂などを例示できる。
【0043】
化学的・熱的安定性、寸法安定性、機械的強度、透明性の面で、好ましい支持体としてガラス板を挙げることができる。ソーダライムガラス、無アルカリガラス、含鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラス、低膨張ガラス、石英ガラスなどから条件に応じて選択することができる。本発明の転写プロセスを真空中で実施する場合には、支持体からのガス放出が少ないことが要求されるので、ガラス板は特に好ましい支持体である。
【0044】
光熱変換層が高温に加熱されても、支持体自体の温度上昇(熱膨張)を許容範囲内に収める必要があるので、支持体の熱容量は光熱変換層のそれより十分大きいことが好ましい。従って、支持体の厚さは光熱変換層の厚さの10倍以上であることが好ましい。許容範囲は転写領域の大きさやパターニングの要求精度などに依存するために一概には示せないが、例えば、光熱変換層が室温から300℃上昇し、支持体の温度上昇を300℃の1/100である3℃以下に抑制したい場合には、支持体の厚さは光熱変換層の厚さの100倍以上であることが好ましく、支持体の温度上昇を300℃の1/300である1℃以下に抑制したい場合には、支持体の厚さは光熱変換層の厚さの300倍以上であることが更に好ましい。従って700μmのガラスを使用した場合は光熱変換層の厚みは2μm程度以下にする必要がある。このようにすることで、大型化しても熱膨張による寸法変位量を最小に抑えることが可能となり、高精度パターニングが可能になる。
【0045】
光熱変換層は、効率よく光を吸収して熱を発生し、発生した熱に対して安定である材料・構成であれば特に限定されない。カーボンブラックや黒鉛、チタンブラック、有機顔料、金属粒子などを樹脂に分散させた薄膜をも利用することができる。本発明では、光熱変換層が300℃程度に加熱されることがあるので、光熱変換層は耐熱性に優れた無機薄膜からなることが好ましく、光吸収や成膜性の面で、金属薄膜からなることが特に好ましい。金属材料としては、タングステン、タンタル、モリブデン、チタン、クロム、金、銀、銅、白金、鉄、亜鉛、アルミニウム、コバルト、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、ジルコニウム、シリコン、カーボンなどの単体や合金の薄膜、それらの積層薄膜を使用できる。
【0046】
光熱変換層の支持体側には必要に応じて反射防止層を形成することができる。さらに、支持体の光入射側の表面にも反射防止層を形成してもよい。これらの反射防止層は屈折率差を利用した光学干渉薄膜が好適に使用され、シリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタンなどの単体や混合薄膜、それらの積層薄膜を使用できる。
【0047】
光熱変換層の転写材料側には必要に応じて転写補助層を形成することができる。転写補助層の機能の一例は、加熱された光熱変換層の触媒効果により転写材料が劣化することを防止する機能であり、タングステンやタンタル、モリブデン、シリコンや酸化物・窒化物など不活性な無機薄膜を使用することができる。転写補助層の機能の別の一例は、転写材料を塗布法により成膜する際の表面改質機能であり、例示した不活性な無機薄膜の粗表面薄膜や金属酸化物の多孔質膜などを使用することができる。転写補助層の機能の別の一例は、転写材料の加熱均一化であり、例えば、図10(a)に示すように、比較的厚い転写材料37を均一に加熱するために、熱伝導性に優れた金属などの材料によりスパイク状の(もしくは多孔質状の)構造をもつ転写補助層39を形成し、その間隙に転写材料37を担持するように配置することができる。この機能を有する転写補助層は、図10(b)に示すように、光熱変換層37と一体化してもよい。
【0048】
光熱変換層は転写材料の蒸発に十分な熱を与える必要があるので、光熱変換層の熱容量は転写材料のそれより大きいことが好ましい。従って、光熱変換層の厚さは転写材料より厚いことが好ましく、転写材料の厚さの5倍以上であることが更に好ましい。数値としては0.02〜2μmが好ましく、さらに0.1〜1μmが更に好ましい。光熱変換層は光の90%以上、更に95%以上を吸収することが好ましいので、これらの条件を満たすように光熱変換層の厚さを設計することが好ましい。転写補助層は光熱変換層にて発生した熱を効率よく転写材料に伝える妨げにならないように、要求される機能を満たす範囲内で薄くなるように設計することが好ましい。
【0049】
光熱変換層は転写材料が存在する部分に形成されていれば、その平面形状は特に限定されないが、デバイス基板や区画材料に光照射されるのは、好ましくないので、光照射範囲より大きめに形成する必要がある。通常はドナー基板全面に形成される。
【0050】
光熱変換層や転写補助層の形成方法としては、スピンコートやスリットコート、真空蒸着、EB蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなど、材料に応じて公知技術を利用できる。パターニングする場合には公知のフォトリソ法やレーザーアブレーションなどを利用できる。
【0051】
区画パターンは、転写材料の境界を規定し、光熱変換層で発生した熱に対して安定である材料・構成であれば特に限定されない。無機物では酸化ケイ素や窒化ケイ素をはじめとする酸化物・窒化物、ガラス、セラミックスなどを、有機物ではポリビニル、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリスチレン、アクリル、ノボラック、シリコーンなどの樹脂を例として挙げることができる。プラズマテレビにおける隔壁をガラスペースト法により製造する公知技術を使用することもできる。区画パターンの熱導電性は特に限定されないが、区画パターンを介して対向するデバイス基板に熱が拡散するのを防ぐ観点から、有機物のように熱伝導率が小さい方が好ましく、さらに、パターニング特性と耐熱性の面でも優れた材料としては、ポリイミドとポリベンゾオキサゾールを好ましい材料として例示できる。
【0052】
区画パターンの成膜方法は特に限定されず、無機物を用いる場合には真空蒸着、EB蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、CVD、レーザーアブレーションなどの公知技術を、有機物を用いる場合には、スピンコート、スリットコート、ディップコートなどの公知技術を利用できる。区画パターンのパターニング方法は特に限定されず、公知のフォトリソ法が利用できる。フォトレジストを使用したエッチング(あるいはリフトオフ)法によって区画パターンをパターニングしてもよいし、例示した上記樹脂材料に感光性を付加させた材料を用いて、区画パターンを直接露光、現像することでパターニングすることもできる。さらに、全面形成した区画パターン層に型を押しつけるスタンプ法やインプリント法、樹脂材料を直接パターニング形成するインクジェット法やノズルジェット法、各種印刷法などを利用することもできる。
【0053】
区画パターンの形状としては、既に例示した格子状(マトリクス状)構造に限定されるのではなく、例えば、図3で例示したように、ドナー基板30上に3種類の転写材料37R、37G、37Bが形成されている場合には、区画パターン34の平面形状がy方向に伸びるストライプであってもよい。また、図11に示すように、転写材料37よりも幅の広い区画パターン34を形成することもできる。この場合は、3種類の転写材料37R、37G、37Bがそれぞれ形成された3枚のドナー基板30を用意して、1枚のデバイス基板にそれぞれを対向させて本発明により転写する工程を3回繰り返すことで、転写材料37R、37G、37Bを1枚のデバイス基板上にパターニングすることができる。転写材料37R、37G、37Bのピッチあるいは間隙を小さくする必要がある高精細パターニングにおいて有効な形状の一例である。
【0054】
区画パターンの厚さについては特に限定されない。例えば、図12に示すように、区画パターン34が転写材料37と同じ厚さ、あるいは薄いとしても、ドナー基板30とデバイス基板20との間隙を保持すれば、転写時に蒸発した転写材料がやや広がって堆積する程度なので、転写材料37R、37G、37B間の混合を起こさずに転写することができる。転写材料はデバイス基板に直接接しない方が好ましく、また、ドナー基板とデバイス基板との間隙は、1〜100μm、さらに2〜20μmの範囲に保つことが好ましいので、区画パターンは転写材料の厚さより厚く、1〜100μm、さらに2〜20μmの厚さであることが好ましい。このような厚さの区画パターンをデバイス基板に対向ざせることで、ドナー基板とデバイス基板との間隙を一定値に保つことが容易になり、また、蒸発した転写材料が他の区画へ侵入する可能性を低減できる。
【0055】
区画パターンの断面形状は、蒸発した転写材料がデバイス基板に均一に堆積することを容易にするために、順テーパー形状であることが好ましい。図2で例示したように、デバイス基板10の上に絶縁層14のようなパターンが存在する場合には区画パターン34の幅(特に上部の幅)よりも絶縁層14の幅(特に上部の幅)の方が広いことが好ましい。また、位置合わせの際には、区画パターン34の上部の幅の中に絶縁層14の上部の幅が収まるように配置することが好ましい。この場合には、区画パターン34が薄くても、絶縁層14を厚くすることで、ドナー基板30とデバイス基板10とを所望の間隙に保持することができる。区画パターンの典型的な幅は5〜50μm、ピッチは25〜300μmであるが、用途に応じて最適な値に設計すればよく、特に限定はされない。
【0056】
区画パターン内に転写材料を配置する際に、後述の塗布法を利用する場合には、溶液が他の区画へ混入したり、区画パターンの上面に乗りあげたりすることを防ぐために、区画パターン上面に撥液処理(表面エネルギー制御)を施すことができる。撥液処理としては、区画パターンを形成する樹脂材料へフッ素系材料などの撥液性材料を混合したり、さらに撥液性材料の高濃度領域を表面あるいは上面へ選択形成することができる。区画パターンを表面エネルギーの異なる材料の多層構造とすることもでき、また、区画パターン形成後に光照射やフッ素系材料含有ガスによるプラズマ処理を施すことで、表面エネルギー状態を制御するなど、公知技術を利用することができる。
【0057】
(3)転写材料
転写材料は、有機EL素子をはじめとし、有機TFTや光電変換素子、各種センサーなどのデバイスを構成する薄膜を形成する材料である。有機材料、金属を含む無機材料いずれでも、加熱された際に、蒸発、昇華、あるいはアブレーション昇華するか、あるいは、接着性変化や体積変化を利用して、ドナー基板からデバイス基板へと転写されればよい。また、転写材料が薄膜形成の前駆体であり、転写前あるいは転写中に熱や光によって薄膜形成材料に変換されて転写膜が形成されてもよい。
【0058】
転写材料の厚さは、それらの機能や転写回数により一概に示すことは難しい。例えば、フッ化リチウムなどのドナー材料(電子注入材料)の1回転写分の転写材料は、典型的な厚さは1nm以下である。また、電極材料の転写材料の膜厚は100nm以上になる場合もある。本発明の好適なパターニング薄膜である発光層の場合は、1回転写分の転写材料の厚さは10〜100nmが、さらに20〜50nmであることが好ましい。
【0059】
転写材料の形成方法は特に限定されず、真空蒸着やスパッタリングなどのドライプロセスを利用することもできるが、大型化に対応が容易な方法として、少なくとも転写材料と溶媒からなる溶液を区画パターン内に塗布し、前記溶媒を乾燥させた後に転写することが好ましい。塗布法としては、インクジェット、ノズル塗布、電界重合や電着、オフセットやフレキソ、平版、凸版、グラビア、スクリーンなどの各種印刷などを例示できる。特に、本発明では各区画パターン内に定量の転写材料を正確に形成することが重要であり、この観点から、インクジェットを特に好ましい方法として例示できる。
【0060】
区画パターンがないと、塗液から形成されるRGB有機EL材料層は互いに接することになり、その境界は一様ではなく、少なからず混合層が形成される。これを防ぐために、互いに接しないように隙間を空けて形成した場合には、境界領域の膜厚を中央と同一にすることが困難である。いずれの場合も、この境界領域はデバイスの性能低下を招くために転写することができないので、ドナー基板上の有機EL材料パターンよりも幅の狭い領域を選択的に転写する必要がある。従って、実際に使用可能な有機EL材料の幅が狭くなり、有機ELディスプレイを作製した際には、開口率の小さな(非発光領域の面積が大きな)画素となってしまう。また、境界領域を除いて転写しなければならない都合上、一括転写ができないので、R、G、Bを順次に光照射して、それぞれ独立に転写する必要があり、横方向への熱伝導を極力抑制する必要から、高強度光の短時間照射が不可欠で、転写材料の熱劣化が起こりやすい。このような問題を解決する観点から、区画パターンと塗液から形成された転写材料を有するドナー基板を用いて、低エネルギー光を長時間照射して一括転写する本発明の方法は、転写材料の熱劣化を最小限に抑制し、一括転写により、生産性を低下させない観点から、優れた転写方式といえる。照射時の位置合わせ精度も、図5(b)で説明したように、厳しい精度は要求されず、大型基板の転写方式として適している。
【0061】
転写材料と溶媒とからなる溶液を塗布法に適用する場合には、一般的には界面活性剤や分散剤などを添加することで溶液の粘度や表面張力、分散性などを調整してインク化することが多い。しかしながら、本発明では、それらの添加物が転写材料に残留物として存在すると、転写時にも転写膜内に取り込まれて、デバイス性能に悪影響を及ぼすことが懸念される。従って、乾燥後の転写材料の純度が95%以上、さらに98%以上となるように溶液を調製することが好ましい。
【0062】
溶媒としては、水、アルコール、炭化水素、芳香族化合物、複素環化合物、エステル、エーテル、ケトンなど公知の材料を使用することができる。本発明において好適に使用されるインクジェット法では、100℃以上、さらに150℃以上の比較的高沸点の溶媒が使用されること、さらに、有機EL材料の溶解性に優れていることから、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、γ−ブチルラクトン(γBL)、安息香酸エチルなどを好適な溶媒として例示できる。
【0063】
転写材料が溶解性と転写耐性、転写後のデバイス性能を全て満たす場合には、転写材料の原型を溶媒に溶解させることが好ましい。転写材料が溶解性に乏しい場合には、転写材料に、アルキル基などの溶媒に対する可溶性基を導入することで、可溶性を改良することができる。デバイス性能面で優れる転写材料の原型に可溶性基を導入した場合には、性能が低下することがある。その場合には、例えば転写時の熱において、この可溶性基を脱離させて原型材料をデバイス基板に堆積させることもできる。
【0064】
可溶性基を導入した転写材料を転写する際に、ガスの発生や転写膜への脱離物の混入を防止するためには、転写材料が塗布時に溶媒に対する可溶性基をもち、塗布後に熱または光によって可溶性基を変換または脱離させた後に、転写材料を転写することが好ましい。例えば、ベンゼン環を有する材料を例に挙げると、式(1)に示すように、可溶性基としてアセチル基をもつ材料に光を照射してメチル基に変換することができる。また、式(2)および式(3)に示すように、可溶性基としてエチレン基やジケト基などの分子内架橋構造を導入し、そこからエチレンや一酸化炭素を脱離するプロセスによって原型材料に復帰させることもできる。可溶性基の変換または脱離は乾燥前の溶液状態でも、乾燥後の固体状態でもよいが、プロセス安定性を考慮すると、乾燥後の固体状態で実施することが好ましい。転写材料の原型分子は非極性的であることが多いために、固体状態にて可溶性基を脱離する際に脱離物を転写材料内に残留させないためには、脱離物の分子量は小さく極性的(非極性的な原型分子に対して反発的)であることが好ましい。また、転写材料内に吸着されている酸素や水を脱離物と一緒に除去するためには、脱離物がこれらの分子と反応しやすいことが好ましい。これらの観点からは一酸化炭素を脱離するプロセスで可溶化基を変換または脱離することが特に好ましい。
【0065】
ベンゼン環を有する材料としては、ベンゼン自体の他に、縮合多環化合物が挙げられる。縮合多環化合物としては、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ピレン、ペリレンなどの縮合多環炭化水素化合物の他、縮合多環複素化合物が挙げられる。もちろん、これらは置換されていても無置換であっても良い。これらの化合物の有する1または2以上のベンゼン環に対し、前記変換や脱離を行うことができる。
【0066】
【化1】

【0067】
(4)デバイス基板
デバイス基板の支持体は特に限定されず、ドナー基板で例示した材料を用いることができる。両者を対向させて転写材料を転写させる際に、温度変化による熱膨張の違いによりパターニング精度が悪化するのを防ぐためには、デバイス基板とドナー基板の支持体の熱膨張率の差は10ppm/℃以下であることが好ましく、またこれらの基板が同一材料からなることが更に好ましい。ドナー基板の特に好ましい支持体として例示したガラス板は、デバイス基板の特に好ましい支持体としても例示できる。なお、両者の厚さの違いは特に限定されない。
【0068】
デバイス基板は転写時には支持体のみから構成されていてもよいが、デバイスの構成に必要な構造物をあらかじめ支持体上に形成しておくほうが一般的である。例えば、図1に示した有機EL素子では、絶縁層14や正孔輸送層16までを従来技術によって形成しておき、それをデバイス基板として使用することができる。
【0069】
上記絶縁層のような構造物は必須ではないが、デバイス基板とドナー基板とを対向させる際に、ドナー基板の区画パターンがデバイス基板に形成済みの下地層に接触し、傷つけることを防止する観点から、デバイス基板にあらかじめ形成されているのが好ましい。絶縁層の形成には、ドナー基板の区画パターンとして例示した材料や成膜方法、パターニング方法を利用することができる。絶縁層の形状や厚さ、幅、ピッチについても、ドナー基板の区画パターンで例示した形状や数値を例示することができる。
【0070】
(5)転写プロセス
ドナー基板とデバイス基板とを真空中で対向させ、転写空間をそのまま真空に保持した状態で大気中に取り出し、転写を実施することができる。例えば、ドナー基板の区画パターンおよび/またはデバイス基板の絶縁層を利用して、これらに囲まれた領域を真空に保持することができる。この場合には、ドナー基板および/またはデバイス基板の周辺部に真空シール機能を設けてもよい。デバイス基板の下地層、例えば正孔輸送層が真空プロセスで形成され、発光層を本発明によってパターニングし、電子輸送層も真空プロセスで形成する場合は、ドナー基板とデバイス基板とを真空中で対向させ、真空中で転写を実行することが好ましい。この場合に、ドナー基板とデバイス基板とを真空中で高精度に位置合わせし、対向状態を維持する方法には、例えば、液晶ディスプレイの製造プロセスにおいて使用されている、液晶材料の真空滴下・貼り合わせ工程などの公知技術を利用することができる。また、転写雰囲気によらず、転写時にドナー基板を放熱あるいは冷却することもできるし、ドナー基板を再利用する場合には、ドナー基板をエンドレスベルトとして利用することも可能である。金属などの良導体で形成した光熱変換層を利用することで、ドナー基板を静電方式により容易に保持することができる。
【0071】
本発明においては蒸着モードの転写が好ましいために、1回の転写において単層の転写膜をパターニングすることが好ましい。しかしながら、剥離モードやアブレーションモードを利用することで、例えば、ドナー基板上に電子輸送層/発光層の積層構造を形成しておき、その積層状態を維持した状態でデバイス基板に転写することで、発光層/電子輸送層の転写膜を1回でパターニングすることもできる。
【0072】
転写雰囲気は大気圧でも減圧下でもよい。例えば、反応性転写の場合には、酸素などの活性ガスの存在下で転写を実施することもできる。本発明では転写材料の転写ダメージの低減が課題の1つであるので、窒素ガスなどの不活性ガス中、あるいは真空下であることが好ましい。圧力を適度に制御することで、転写時に膜厚ムラの均一化を促進することが可能である。転写材料へのダメージ低減や転写膜への不純物混入の低減、蒸発温度の低温化の観点では、真空下であることが特に好ましい。
【0073】
塗布法により形成した薄膜を有機EL素子の機能層として直接利用する従来法の問題の1つは膜厚ムラであった。本発明においても塗布法によって転写材料を形成した場合にも同等の膜厚ムラが発生しうるが、本発明における好ましい転写方式である蒸着モードでは、転写時に転写材料が分子(原子)レベルにほぐれた状態で蒸発した後に、デバイス基板に堆積するために、転写膜の膜厚ムラが軽減される方向にある。従って、例えば、塗布時には転写材料が顔料のように分子集合体からなる粒子であり、たとえ転写材料がドナー基板上において連続膜ではなくても、それを転写時に分子レベルにほぐして蒸発させ、堆積させることで、デバイス基板上においては膜厚均一性にすぐれた転写膜を得ることができる。
【0074】
特に本発明で採用する、低エネルギー、長時間の光照射では、転写材料の膜厚ムラによる蒸発速度の違いに起因する、デバイス基板での堆積膜厚ムラを軽減できる。
【0075】
次に、本発明のパターニング方法を用いてデバイスを製造する方法について説明する。本発明において、デバイスとは有機EL素子をはじめとし、有機TFTや光電変換素子、各種センサーなどをいう。有機TFTでは有機半導体層や絶縁層、ソース、ドレイン、ゲートの各種電極などを、有機太陽電池では電極などを、センサーではセンシング層や電極などを本発明によりパターニングすることができる。以下では、有機EL素子を例に挙げてその製造方法について説明する。
【0076】
図1は、有機EL素子10(ディスプレイ)の典型的な構造の例を示す断面図である。支持体11上にTFT12や平坦化層13などで構成されるアクティブマトリクス回路が構成されている。素子部分は、その上に形成された第一電極15/正孔輸送層16/発光層17/電子輸送層18/第二電極19である。第一電極の端部には、電極端における短絡発生を防止し、発光領域を規定する絶縁層14が形成される。素子構成はこの例に限定されるものではなく、例えば、第一電極と第二電極との間に正孔輸送機能と電子輸送機能とを合わせもつ発光層が一層だけ形成されていてもよく、正孔輸送層は正孔注入層と正孔輸送層との、電子輸送層は電子輸送層と電子注入層との複数層の積層構造であってもよく、発光層が電子輸送機能をもつ場合には電子輸送層が省略されてもよい。また、第一電極/電子輸送層/発光層/正孔輸送層/第二電極の順に積層されていてもよい。また、これらの層はいずれも単層であっても複数層であってもよい。なお、図示されていないが、第二電極の形成後に、公知技術あるいは本発明のパターニング方法を利用して、保護層の形成やカラーフィルターの形成、封止などが行われてもよい。
【0077】
カラーディスプレイでは少なくとも発光層がパターニングされる必要があり、発光層は本発明において好適にパターニングされる薄膜である。絶縁層や第一電極、TFTなどは公知のフォトリソ法によりパターニングされることが多いが、本発明によりパターニングしてもよい。また、正孔輸送層や電子輸送層、第二電極などの少なくとも一層をパターニングする必要がある場合には、本発明によりパターニングしてもよい。また、発光層のうちR、Gのみを本発明によりパターニングして、その上にBの発光層とR、Gの電子輸送層を兼ねる層を全面形成することもできる。
【0078】
図1に示した有機EL素子の作製例としては、第一電極15まではフォトリソ法を、絶縁層14は感光性ポリイミド前駆体材料を利用した公知技術によりパターニングし、その後、正孔輸送層16を真空蒸着法を利用した公知技術によって全面形成する。この正孔輸送層16を下地層として、その上に、図2に示した本発明により、発光層17R、17G、17Bをパターニングする。その上に、電子輸送層18、第二電極19を真空蒸着法などを利用した公知技術によって全面形成すれば、有機EL素子を完成することができる。
【0079】
発光層は単層でも複数層でもよく、各層の発光材料は単一材料でも複数材料の混合物であってもよい。発光効率、色純度、耐久性の観点から、発光層はホスト材料とドーパント材料との混合物の単層構造であることが好ましい。従って、発光層を成膜する転写材料はホスト材料とドーパント材料との混合物であることが好ましい。
【0080】
区画パターン内に転写材料を配置する際に、後述の塗布法を利用する場合には、ホスト材料とドーパント材料との混合溶液を塗布、乾燥させて転写材料を形成することができる。ホスト材料とドーパント材料との溶液を別に塗布してもよい。転写材料を形成した段階でホスト材料とドーパント材料とが均一に混合されていなくても、転写時に両者が均一に混合されればよい。また、転写時にホスト材料とドーパント材料との蒸発温度の違いを利用して、発光層中のドーパント材料の濃度を膜厚方向に変化させることもできる。
【0081】
発光材料としては、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(Alq)などのキノリノール錯体やベンゾチアゾリルフェノール亜鉛錯体などの各種金属錯体、ビススチリルアントラセン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ベンゾオキサゾール誘導体、カルバゾール誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ルブレン、キナクリドン誘導体、フェノキサゾン誘導体、ペリノン誘導体、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、クリセン誘導体、ピロメテン誘導体、リン光材料と呼ばれるイリジウム錯体系材料などの低分子材料や、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体などの高分子材料を例示することができる。特に、発光性能に優れ、本発明のパターニング方法に好適な材料としては、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ピレン誘導体、クリセン誘導体、ピロメテン誘導体、各種リン光材料を例示できる。
【0082】
正孔輸送層は単層でも複数層でもよく、各層は単一材料でも複数材料の混合物であってもよい。正孔注入層と呼ばれる層も正孔輸送層に含まれる。正孔輸送性(低駆動電圧)や耐久性の観点から、正孔輸送層には正孔輸送性を助長するアクセプタ材料が混合されていてもよい。従って、正孔輸送層を成膜する転写材料は単一材料からなっても複数材料の混合物からなってもよい。区画パターン内に転写材料を配置する際は、発光層と同様に、様々な手法にて形成することができる。
【0083】
電子輸送層は単層でも複数層でもよく、各層は単一材料でも複数材料の混合物であってもよい。正孔阻止層や電子注入層と呼ばれる層も電子輸送層に含まれる。電子輸送性(低駆動電圧)や耐久性の観点から、電子輸送層には電子輸送性を助長するドナー材料が混合されていてもよい。電子注入層と呼ばれる層は、このドナー材料として論じられることも多い。電子輸送層を成膜する転写材料は単一材料からなっても複数材料の混合物からなってもよい。区画パターン内に転写材料を配置する際は、発光層と同様に、様々な手法にて形成することができる。
【0084】
正孔輸送材料や電子輸送材料としては、特願2008−156282に開示した種々の材料を例示することができる。
【0085】
ドナー材料としては、リチウムやセシウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属、それらのキノリノール錯体などの各種金属錯体、フッ化リチウムや酸化セシウムなどのそれらの酸化物やフッ化物を例示することができる。電子輸送材料やドナー材料は各RGB発光層との組み合わせによる性能変化が起こりやすい材料の1つであり、本発明によりパターニングされる別の好ましい例として例示される。
【0086】
第一電極および第二電極は、発光層からの発光を取り出すために少なくとも一方が透明であることが好ましい。第一電極から光を取り出すボトムエミッションの場合には第一電極が、第二電極から光を取り出すトップエミッションの場合には第二電極が透明である。区画パターン内に転写材料を配置する際は、発光層と同様に、様々な手法にて形成することができる。また、転写の際に、例えば転写材料と酸素を反応させるなど、反応性転写を実施することもできる。透明電極材料およびもう一方の電極には、例えば、特開平11−214154号公報記載の如く、従来公知の材料を用いることができる。
【0087】
本発明における有機EL素子は、一般的に第二電極が共通電極として形成されるアクティブマトリクス型に限定されるものではなく、例えば、第一電極と第二電極とが互いに交差するストライプ状電極からなる単純マトリクス型や、予め定められた情報を表示するように表示部がパターニングされるセグメント型であってもよい。これらの用途としては、テレビ、パソコン、モニター、時計、温度計、オーディオ機器、自動車用表示パネルなどを例示することができる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0089】
実施例1
ドナー基板を以下のとおり作製した。支持体として38×46mmで厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板を用い、洗浄/UVオゾン処理後に、光熱変換層として厚さ1.0μmのチタン膜をスパッタリング法により全面形成した。次に、前記光熱変換層を上記と同様のUVオゾン処理した後に、上にポジ型ポリイミド系感光性コーティング剤(東レ株式会社製、DL−1000)をスピンコート塗布し、プリベーキング、UV露光した後に、現像液(東京応化製、NMD3)により露光部を溶解・除去した。このようにパターニングしたポリイミド前駆体膜をホットプレートで350℃、10分間ベーキングして、ポリイミド系の区画パターンを形成した。この区画パターンの高さは2μmで、断面は順テーパー形状であった。区画パターン内部には幅80μm、長さ280μmの光熱変換層を露出する開口部が、それぞれ100、300μmのピッチで配置されていた。この基板上の各区画に、インクジェット法で、Alqを1wt%、ジシアノメチレン誘導体(DCM)を0.03wt%含むNMP溶液からなる赤色溶液(R)、Alqを3wt%含むNMP溶液からなる緑色溶液(G)、ナフチルアントラセン誘導体を1wt%含むテトラヒドロナフタレン溶液からなる青色溶液(B)をRGBの繰り返しで塗布し、180℃で20分間乾燥させた。これにより、RGB3区画を一つの単位として、横方向に20単位×縦方向に20単位からなるRGBパターンを形成した。これらのパターンを顕微鏡で観察した結果、RGBの混色、区画パターンへの乗り上げ等は認められず、各区画に塗布されていた。区画内のR、G、Bの平均厚さはそれぞれ25、30、40nmであった。
【0090】
デバイス基板は以下のとおり作製した。ITO透明導電膜を140nm堆積させた、厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板(ジオマテック株式会社製、スパッタリング成膜品)を38×46mmに切断し、フォトリソ法によりITOを所望の形状にエッチングした。次に、ドナー基板と同様にパターニングされたポリイミド前駆体膜を、300℃、10分間ベーキングして、ポリイミド系の絶縁層を形成した。この絶縁層の高さは1.8μmで、断面は順テーパー形状であった。絶縁層のパターン内部には幅70μm、長さ270μmのITOを露出する開口部が、それぞれ100、300μmのピッチで配置されていた。この基板をUVオゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、正孔輸送層として、銅フタロシアニン(CuPc)を20nm、NPDを40nm、発光領域全面に蒸着により積層した。
【0091】
次に、前記ドナー基板の区画パターンと前記デバイス基板の絶縁層との位置を合わせて対向させ、3×10−4Pa以下の真空中で保持した後に、大気中に取り出した。絶縁層と区画パターンとで区画される転写空間は真空に保持されていた。この状態で、転写材料の横方向に2単位、縦方向に1単位が同時に加熱されるように、ドナー基板のガラス基板側から中心波長1064nmのレーザー(光源:ファイバーレーザー)を照射し、RGBの転写材料を、デバイス基板の下地層である正孔輸送層上に転写した。レーザー強度は約33W/mm、照射時間は1msであり、発光領域全面が転写されるように繰り返し照射を実施した。
【0092】
RGBの転写後のデバイス基板を、再び真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が3×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、電子輸送層として下記に示すE−1を25nm、発光領域全面に蒸着した。次に、ドナー材料(電子注入層)としてフッ化リチウムを0.5nm、さらに、第二電極としてアルミニウムを100nm蒸着して5mm角の発光領域をもつ有機EL素子を作製した。本素子に5Vの電圧をかけて点灯した結果、均一な発光が認められ、発光強度の時間変化を測定した結果、従来の蒸着法で形成した素子と遜色ない輝度保持率を有することが確認できた。
【0093】
【化2】

【0094】
比較例1
転写材料のみが加熱されるようにレーザーを光熱変換層に照射することで、RGBの転写材料を個別に転写したこと以外は実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。しかしながら、画素の4辺の端部において、発光層が中央部よりも薄い部分が形成され、その部分に電流が集中して相対的に明るく発光する現象が認められた。この部分の発光挙動は不安定であり、短時間のうちに短絡を起こしたため、発光効率や輝度半減寿命の測定には至らなかった。
【0095】
参考例1〜4
レーザーの照射時間と強度を変化させた際の、加熱温度や熱拡散を計算した。モデル材料には式1で近似される蒸発速度特性をもつピレン誘導体(分解開始温度370℃、厚さ25nm)を、ドナー基板の支持体にはガラス板を、光熱変換層には厚さ1μmのクロム膜を仮定した。ガラス板を通して縦50μm、幅150〜280μmのレーザーをクロムに入射させて、吸収により発生した熱による温度上昇と熱拡散を計算により求めた。レーザーの入射強度は時間に対してガウシアン分布で変化するものとし、ガウシアン分布(t,σ)において、2t=照射時間とし、ピーク値を入射強度とした。これらの条件を基にシミュレーションソフト(ABACUS)を用いて、以下のようなシミュレーションを行った。
【0096】
まず、蒸発速度と照射時間の積が一定(50nm)となるような各参考例の条件で、式1を変形した式2によりクロム表面の最高到達温度を求めた。次に、シミュレーションにより該最高温度までの到達時間と、そのときのレーザーの入射強度を見積もった。そして、その強度におけるレーザーによる熱拡散分布から、以下で定義される1%蒸発拡散幅と基板27℃加熱深さを求めた。結果は表1にまとめた。
【0097】
1%蒸発拡散幅:入射レーザーの幅方向において、モデル材料の想定蒸発速度が想定最高蒸発速度の半分となる点を基準点とし、該基準点から、基準点におけるモデル材料の総蒸発量1%の蒸発が起きる点までの距離とする。すなわち、1%蒸発拡散幅が大きいほど、転写させようとする幅のより遠くまで熱拡散が起こっていることになる。
【0098】
基板27℃加熱深さ:最高温度到達時間において基板の温度がレーザー照射前の温度より27℃以上上昇する深さとする。
【0099】
蒸発速度P=Ae−B/T (nm/s) 式1
温度T =B/ln(A/P) (K) 式2
A:定数=5.0×1016 B:定数=16866
【0100】
【表1】

【0101】
照射時間が0.1ms以下であるときは、最高到達温度がモデル材料の分解開始温度の370℃を超えており、材料の分解が起こることが予想される。照射時間が0.2msかそれより長くなると、最高到達温度がモデル材料の分解開始温度以下に近づくので、材料への負荷が低減される。この時、1%蒸発拡散幅は区画パターン幅の30μmを超えるが、本発明では隣の区画には、隣の画素に対応する転写材料が存在するために、そこで蒸発が起きても構わない。照射時間を10msにした場合には、最高到達温度が更に低下して、材料への負荷は心配ないレベルであるが、光熱変換層が接するガラス板への加熱が進む。ガラス板の典型的な厚さは0.7mmであり、その20%の深さ(140μm)が30℃以上に加熱されると、ガラス板の望ましくない反りや寸法変化を誘発する恐れが懸念され始めることから、照射時間は概略20ms以下に留めた方がよいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明により発光層がパターニングされた有機EL素子の一例を示す断面図。
【図2】本発明による有機EL素子の発光層パターニング方法の一例を示す断面図。
【図3】図2における光照射方法の一例を示す平面図。
【図4】従来の光照射配置における問題点を説明する断面図。
【図5】本発明によるパターニング方法の一例を示す断面図。
【図6】本発明による一括転写のパターニング方法の一例を示す断面図。
【図7】本発明における光照射方法の別の一例を示す斜視図。
【図8】本発明における光の強度と転写材料温度の時間変化を説明する概念図。
【図9】本発明における照射光の成形方法の一例を示す斜視図。
【図10】本発明における転写補助層の一例を説明する断面図。
【図11】本発明における区画パターンの別の一例を示す。
【図12】本発明によるパターニング方法の別の一例を示す断面図。
【符号の説明】
【0103】
10 有機EL素子(デバイス基板)
11 支持体
12 TFT(取り出し電極含む)
13 平坦化層
14 絶縁層
15 第一電極
16 正孔輸送層
17 発光層
18 電子輸送層
19 第二電極
20 デバイス基板
21 支持体
27 転写膜
30 ドナー基板
31 支持体
33 光熱変換層
34 区画パターン
37 転写材料
38 転写領域
39 転写補助層
41 光学マスク
42 レンズ
43 ミラー
44 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に光熱変換層と区画パターンが形成され、前記区画パターン内に転写材料が横方向にk個、縦方向にl個(k、lはそれぞれ1以上の整数)配列されたドナー基板をデバイス基板と対向配置し、横方向にm個、縦方向にn個(k≧m≧1、l≧n≧1)の転写材料からなる領域よりも広い面積の光を光熱変換層に照射することで、複数の転写材料をデバイス基板に一括して転写することを特徴とするパターニング方法。
【請求項2】
2種類以上の異なる転写材料が存在するドナー基板を用いることを特徴とする請求項1記載のパターニング方法。
【請求項3】
少なくとも転写材料と溶媒からなる溶液を区画パターン内に塗布し、前記溶媒を乾燥させた後に前記転写材料を転写することを特徴とする請求項1または2記載のパターニング方法。
【請求項4】
少なくとも1つの転写材料が塗布時に溶媒に対する可溶性基をもち、塗布後に熱または光によって前記可溶性基を変換または脱離させた後に前記転写材料を転写することを特徴とする請求項3記載のパターニング方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の方法により、デバイスを構成する層の少なくとも1層をパターニングすることを特徴とするデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−61823(P2010−61823A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223144(P2008−223144)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】